忍者ブログ
鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
[69]  [70]  [71]  [72]  [73]  [74]  [75]  [76]  [77]  [78]  [79
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 こんにちは、現在、絶賛…原稿執筆中の香坂です。
  本日20時半の時点で、無事に本文の打ち込み&編集が
終わりました。
 …ワード文書の1P40文字×36行の設定で…23P分
ぐらいのボリュームになりました。
 これを二段組で編集して…中身の総P数が20Pの
本となります。はい…。
 タイトルは『聖痕』 眼鏡×御堂もので…鬼畜眼鏡RのEDNO.2
『絶妙のタイミング』のその後を妄想して作ったお話です!

 値段は200円ですので、良ければ当日手に取ってやって
下さると嬉しいです。
 明日、東5ホール…ね58bの処にコソっといますので…。
 足を伸ばして、買いに来てくれる人がいると良いなぁ(超弱気)

 そして表紙ですが、本文が予定よりも若干手間取ったので
ちょいとフルカラーは厳しそうです。
 とりあえず今から色々と頑張りますが、単色刷りのものに
なるかも知れません…。
 とりあえず、コピー機でガシャガシャ本文印刷している間
(2~3時間程度)の間に、足掻いて見ますけどね・・・(汗)

 ただ、相当に進行状況は一杯一杯なんで…本日は
明日発行の眼鏡×御堂本の冒頭部分をサンプルにアップ
させてもらう形にさせて貰います。
 
 とりあえず…冒頭の1~5Pまでの掲載となります。
 タイトルは、現時点では…正式に決定しておりません。
 幾つか候補があるんですが、どれが良いのか決めかねているので
タイトルは未定で。決まったらちょっと手直しして記述しておきます。

 興味ある方だけ、「つづきはこちら」をクリックして
読んでやって下さいませ。では…また修羅場の海を漂って参ります~。
 明日、笑って会場行けるように頑張りま~す!

 
PR
 こんにちは香坂です。
 昨日から絶賛修羅場中に入っております!
 …ぶっちゃけ、進行状況は芳しくないですが…ここで
諦めたら本気でアカンと思うので、ちょっとジタバタと
足掻いてみます!

 とりあえずスパコミのスペースの位置と…新刊情報を
伝えさせて頂きます!(遅いよ!)

 5 / 3 東5ホール ねー58b 

 になります。別ジャンルでの参加ですが…鬼畜眼鏡の皆さんが
「ねの列」に今回集中している配置なので、端っこの方にこっそりと
参加という形になります。
 …本当はMAPに登録したかったですが今回はMAPに登録するのが
スパコミに申し込んだ時と同じカットで、という条件やったのと…
別ジャンル参加でも本人が参加しているならともかく、別ジャンルの友人の
処に置かせてもらうという形なので…友人のカットを、その中に載せるのは
どうだろう…と思ってしまったので、今回はサイトに告知するだけに
留めておきます。

 …まあ、今回…鬼畜眼鏡の友人と一緒にサークル取って参加する
予定でしたが…相手様にサークルを取るの任せたら、スパコミの締切が
2月の真ん中という早い時期だったのをその人知らなかったんで(汗)
 こっちもしっかり伝え損ねていたので…その事に気づいたら、申し込みの
締切時期はとっくに過ぎていて。
 それで自分でスペースを取り損ねたという非常にマヌケな理由で…
このような変則的な参加となりました。
 それでもせっかくのプチオンリーなので、片隅でも良いから参加して
新刊を出したい!  その想いで…別ジャンルの友達にお願いして
当日の新刊のみ置いてくれるようにお願いしての参加となりました。

 …まあ、人間失敗して大きくなるもんだ。
 過ぎたことを責めてもしゃあないしね(笑) という感じで…こっちはその件は
受け止めております。
 自分側にも…相手に任せる時に、任せきりにして…確認を怠ったたり、きっちりと
締切期日が近いっていうのを伝えてなかったという非がありますしね。
それでも別ジャンル参加という形でも出ようと思ったのはやっぱりメインジャンルの
オンリーイベント系は出れるなら出たい! という気持ちからでございます。

 当日の新刊はRネタ反映の、メガミド話です。
 メガミドルートのもう一つのグッドエンド、ええ…例の彼がうっかり乱入して…と
いう感じで終わったあのEDの、その後の二人…という感じで書きます。
 結構ラブラブで甘ったるい感じなので…良ければ手に取って頂ければと
思います。
 今回はコピー本になりますので、30~40部前後持っていきます。
 価格は200~300円。
 まだ執筆中なのではっきりとしたP数はまだ出ていないですが…表紙コミで
24P以内なら200円。28P以上になったら300円という値段設定となります。
 とりあえずイベントのギリギリまで頑張って新刊を机の上に並べたいと思って
いるので良ければ訪ねてやって下さいませ。

 …出来るだけ今回のイベントは、あまり出歩かないでスペース内に
いる予定ですから。
 その友人も東京に久しぶりに来たのなら出歩きたいと思いますし。
 今回は積極的に11時以降は売り子をやる予定であります。
 それでは今回はこの辺で。
 
 スパコミ当日のインフォメーションでした!!
 4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 【咎人の夢 過去ログ】          


 意識を失っている間…御堂はずっと奇妙な浮遊感を感じ続けていた。
 グラグラと大きく揺らされたり、急に高く浮き上がったり…まるで無重力の
世界にいるような、そんな感覚を覚えていく。
 意識は辛うじて覚醒しているのに…身体が自分の思う通りに動かせない、
そんなじれったい状態がどれぐらい続いているのか…判らなかった。

―ここならば、貴方は平穏を得られるでしょう。…数日はそれでもざわめきが
生まれるでしょうが…それを過ぎれば、きっと貴方は元通りの日常に
近いものを送ることが出来るでしょう…。健闘を祈ります…

 最後に、はっきりと先程の謎の男の声が頭の中に聞こえて…
御堂は、十数分か深い眠りに落ちていき…。

 ―その後に御堂がはっきりと意識を覚醒させたら、気づいたら自分の
執務室のイスの上に座っている格好になっていた

「…ここ、は…?」

 頭がはっきりせず…ガンガンする。
 …いつ、自分はこの部屋に移動していたのか御堂にはまったく思い出せない。
 大手企業の部長、というポストに相応しい広くて立派な執務室のディスクに座ったまま
いつの間にか自分はうたた寝でもしていたのだろうか。

「夢、だったのか…?」

 御堂の脳裏に、目覚める直前の異様過ぎる光景が蘇る。
 あまりにおぞましく、恐ろしい内容だった気がした。しかも…自分が殺人者に
なった事に怯えて、あんな風に動揺して弱気になるなど…有り得ない筈だった。
 殺人など、あまりに愚かで…得るものが何もない行為だ。
 誰だって怒りや憎悪が高じれば、目の前の相手を殺したいと思う気持ちを抱く
事ぐらいあるだろう。
 しかしそれを実行に移せば、その人間が持っていた地位も信頼も功績も全てが
塵芥と化してしまう。それだけ…世間というのは、殺人という罪を犯してしまった
人間には厳しいものだ。
 どれぐらいの時間、眠っていたのか判らない。
 けれどその短い時間の間に…二つの悪夢を自分は見ていた気がする。

 一つ目の夢は…自分が手を汚して、佐伯克哉を殺す夢。
 二つ目はどうやら…その罪を覚えて、遠まわしに周囲の人間に疑われて
必死になって表面上を取り繕っている何とも情けないものだった。

(…久しぶりに夢を見たと思ったら、あんなロクでもない内容とはな…。どうせ見るなら
少しぐらい愉快だったり、実になりそうなものを見れば良いものを…)

 夢の中の自分は、罪を犯して悩み続けていた。
 そして捉え処のない状況に必要以上に過敏になっていて、愚かしい事ばかりを
繰り返していたように思う。
 あんな自分が…自分だとは思いたくなかった。何となく苛立っていくと、ふと…
学生時代の国語の授業内に出てきたある詩の事を思い出した。

(そういえば昔…こんな詩があったな。胡蝶の夢という奴だ…受験勉強の
最中に記憶したものだが、確かこんな内容だったな…)

 御堂が思い出した内容は、以下のようなものだった。
 「荘周が夢を見て蝶になり、一羽の蝶として大いに楽しんだ所で夢が覚めた。
果たして荘周が夢を見て蝶になったのか、または蝶が夢を見て荘周になっているのか…。
 どちらの姿が真実で、どちらの姿が虚像なのか。片方の姿は…もう片方が見ている
夢幻に過ぎないのか」

 …大体要約すれば、こんな内容の詩だった。
 あの殺人を犯した自分からすれば、今の御堂は夢に過ぎず。
 今の御堂からしたら、あの怯えている自分もまた夢に過ぎない。
 こうしている自分たちのどちらが…本当であり、嘘であるかは…そんなものは
夢を見ている最中には、決して判らないことであった。

(馬鹿馬鹿しい…私は、佐伯克哉を疎ましいとか目ざわりだとは感じているが…
彼の為に今まで築き上げた全てを引き換えにしてまで…殺したいと思う程ではない。
何故…あのような夢を見たんだ…?)

 そう思いながら、御堂は本日のスケジュール表を開いて確認していく。

 【本日の午後二時、佐伯克哉訪問予定】

 本日の午後二時の欄に、その予定が記されていた。
 その報告を受けた後は、製品開発室で新商品の開発状況がどこまで
進められているのか、中間報告を確認しに行く予定だった。
 時計の針は午後一時五十分を指している。
 後、十分程で約束の時間だ…と思った瞬間、私室の扉が勢いよく開け放たれていった。

「御堂部長! 佐伯さんがいらっしゃいました!」

 すぐに部屋の中に飛び込んで来たのは…自分の部下であり、可愛がっている
存在でもある藤田だ。
 明るくて人の良い性格で好感が持てる人物なのだが…そのおかげで
人の裏を読んだり、色々と裏から手を回したりするような事は不得意な人種だ。
 その代わり、その人の良さが…その欠点を補って余りあるくらいだし…仕事も
出来る方なので、今…若手の部下の中では御堂がもっとも目に掛けている
存在でもあった。
 さっき見た夢の中では、悲痛そうな顔をして何かを訴えていたような…
そんな記憶があった。
 そして夢の中の自分は、藤田の前を居心地悪そうに後にしていったが…到底、
今の自分たちにはそのような気まずさは存在しなかった。

「そうか…。若干、予定時間よりも早いが…この部屋に通してくれ。前倒しで
スケジュールを消化する事にする」

「はい、判りました。それでは佐伯さんを呼んで来ますね!」

 明るく、元気そうにそう返事して…藤田は脱兎の勢いで部屋の外へと
姿を消していった。
 いつも通りの日常。特に変わったことなど何もない。
 そう感じて、御堂は佐伯克哉が来るのを待ち構えていった。
 
―その瞬間、何故か…自分の脳裏に鮮明に、あの謎めいた黒衣の男が
言った数々の言葉が思い出されていく

 御堂はそれを認めたくなくて、必死になって頭を振り続けた。
 夢ごときで惑わされるなど、とても自分らしくない…そう思った。

―貴方の罪は誰にも裁かれず…

「…私は、罪など犯していない。今…佐伯克哉が約束の時間通りに
目の前に現れようとしているのが…何よりの証、だ…」

 何度も、黒い染みのように湧き上がってくる不安を振り切るように…
自分に言い聞かせるように呟いていく。
 その瞬間、扉が開け放たれて一人の男が藤田に連れられている状態で
部屋の中に入って来た。

「御堂部長、プロトファイバーの営業に関して…何点か確認したい事が
ありますので伺わせて頂きました。貴重な時間を割いて下さってどうも
ありがとうございます」

 そして、今まで向けられた中で一番丁寧な口調で…眼鏡を掛けた
傲慢な男が頭を下げていく。

「…?」

 何故だか、その瞬間…奇妙な違和感を覚えた。
 しかしそれを上手く説明することなど出来ない。
 御堂が言葉を失って考え込んでいくと…藤田と佐伯は、怪訝そうな
表情を浮かべていく。

「御堂部長…?」

 藤田が少し驚いた口調で呼びかけていくと、すぐに気を取り直していく。

「嗚呼、すまない。少し考え事をしてしまった…。佐伯君、君からの話を
これから伺わせて貰おう…」

 そうして、思考を切り替えて…仕事の方に意識を集中していく。
 その間、御堂は…必死になって、先程見た…あの奇妙な白昼夢の事を
頭の中から追い払っていったのであった。
 
 4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 【咎人の夢 過去ログ】        

その日の昼食は、色んな事があったせいか…あまり味が感じられなかった。

 先程、駐車場で藤田と二人で会話した際…上手く取り繕うことは出来たが
やはり会話内容が気になってしまって、料理に集中することがその日は
出来なくなってしまった。
 せっかくお気に入りのレストランに昼食を食べに行ったが全然、今日は
その美味を楽しむことが出来なかった。

 やはりあれは現実だったのか、と思う気持ちが御堂の感覚を麻痺
させてしまっていた。
 味覚がいつもよりも鈍くなってしまっているのも、その弊害のせいだ。

 それでも食欲が完全に失せてしまっている訳ではないので、義務感で
どうにか出て来た食事を腹に収めて、二時の約束に間に合うように

店を出ていった。
 運転に集中している間彼は色んな事に考えを巡らせていた。

しかし、あの夢が現実であった場合二つばかり、気にかかる部分がある。
 どうして目撃者がいたにも関わらず、今朝の時点で佐伯の死体が見つけて
事件となっていないのと佐伯から、メールが来た事が引っかかるな

 今朝、目覚めた時から心の中に棘のように何かが引っかかり続けている。
 今までの人生の中で、ここまで煩悶した事などなかったかも知れない。
 いっそあれが現実だったと、もっとはっきりした証拠を突きつけられた方が
遥かにマシだと思った。 
 何もかもがすっきりしない。はっきりしない。そんな曖昧な状態のままではこちらとて
どんな行動をすれば良いのか、指針すらはっきりしなかった。
 一番、御堂を苛立たせているのは記憶の空白部分の事だ。
 
(イライラする一体、私の身に何が起こっているんだ?)

 日常という歯車の全てが狂って、まるで自分一人だけが別世界に迷い込んで
しまっているようだ。
 どうにか運転に集中して、渋滞になっている箇所を抜けて都内の道路を
愛車に乗って走り抜けていく。
 本日は非常に良い天気で、秋の中頃にしては過ごしやすく良い陽気だった。
 なのに御堂の心は、全然晴れやかではない。心の中が厚い雲で覆われて
しまっているかのようだった。
 出発前の藤田や、例の女性社員達の態度が何もかもが気が重かった。
 午前中は自分の私室から一歩も出ずに執務室にこもっていたから
気づかなかったが、あのような噂が一日で駆け抜け、あんな好奇や疑惑に
満ちた眼差しで周りの人間に見られたらと思うと、心が重かった。

しかし、佐伯が生きているのなら、何故あんな、目撃衝撃が存在
しているのだ?」

 最大の謎は、それだった。
 あの夢が事実だった場合、やはり佐伯克哉が自分の目の前に現れる筈がないのだ。
 出かける寸前、遠目だったが御堂は彼の姿を確認している。
 見間違えでは、絶対なかった。それは確信を持って言えた。
 訳が判らない。今朝から得ている情報の全てが、片方を事実と据えると他の
情報が、もう片方の事実を打ち消している。そんな感じだった。
 結局、色々考えたが結論は出ず、ようやくMGNの駐車場に戻ってくる。 
 約束の時間まで、後わずかだった。

―車を降りた途端に、足が鉛のように重く感じられる

 さっきの悲しそうな藤田の表情が、怯えた女性社員の表情が脳裏から
離れてくれない。
 こんなモヤモヤした気持を抱えながら、働かなくてはならないのか。
 仕事上で大きな失敗を犯してしまった時だって、こんな気持ちになんて
一度もなった事がなかったのに。

(私はこれから…あんな目を多くの人間に向けられながら、働かなくては
ならないのか…?)

 その事に、一瞬怯みそうになった。
 だが…すぐに考え直して、ロビーまで足を進めていく。

「…何を弱気になっているんだ。そんな下らない噂ごときで怯えるなど…
私らしくない…」

 そうして自嘲気味に、笑みを浮かべていった。
 …性質の悪い噂を流されているのだと思えば良い。現時点では確証はないのだ。
 それなら…流されてぐらついているだけ愚かだ。
 そう考えなおして、目の前のことに取り掛かろうと思った。
 少しぐらいの不安要素にイチイチ怯えたり、怯んだりして振り回されていたら…
多くの人間を率いるべき立場、要職に就く資格などないのだ。

「…くっ! こんな事に惑わされている暇などない! 私には部長としてやらなければ
いけない事や…果たさなくてはならない責任があるのだ! いつまでも噂ごときに
怯えていて何になるんだ!」

 そして、負の感情全てを振り切るように駐車場で…己を鼓舞する為に
叫んでいく。
 それから険しい表情を浮かべていきながら…風を切るように御堂は
玄関を潜っていった。

―その瞬間、御堂は自分が異世界に迷い込んでしまったような錯覚を覚えていく

 一瞬、中に入った途端に社内が薄暗くになっていることに違和感を覚えていく。
 今は昼間で、昼間にロビーの電灯が落とされるなど…地震か何かでライフラインが
断たれでもしない限りは有り得ないことだった。

(どうして…こんなにロビーが薄暗いんだ…?)

 明るい場所から、いきなり藍色の闇に覆われた場所に切り替わったものだから
全然、中の様子が伺えなかった。
 ロビーに何か、黒いものが大量に倒れている。それが何なのか…とっさに
御堂は認識するのを把握していった。
 ただ、その黒い影は大量にひしめきあいながら…広大な空間を埋め尽くして
小高く積み上げられていた。
 ソレが何か、御堂の心は正しく認識するのを拒否していた。

「…一体、何が起こって…いるんだ…?」

 今日一日だけで、何度自分はこの言葉を口にしているのだろうか?

―お待ちしておりました…御堂孝典様…

 ふいに、誰かに呼びかけられた。
 その声が聞こえた瞬間…部屋の中心、その声の主らしき存在だけが
闇の中に浮かび上がり…静かな存在感を讃えていく。
 空気は、まるで凍りついているかのように冷たく冴え渡り…その中心には
黒衣のコートを着た…長い金髪の男が佇んでいた。
 それでやっと、御堂は積み上げられているものの正体を始めて知った。
 空気の全てが凍り、MGNの多くの社員が其処に倒れ込んでいたのだ。
 ロビー全体を埋め尽くすぐらいの、多くの人間で床が埋め尽くされている。
 そして…其処には噎せ返るような蟲惑的な香りが充満していた。
 悲鳴が咄嗟に喉の奥から迸りそうになった。
 だが、あまりの事に驚きすぎてしまって…まともに言葉が紡げなくなった。
 
「こ、これは一体…何だのだ! どうして…こんな、事が…!」

 照明が落とされているせいか…薄暗い空間の中では倒れている
人間の肌が、蝋のように血の気が感じられなくなっていた。
 まるで死体の山が、自分の勤めている会社の玄関に積み重ねられて
いるような異常すぎる光景。

―落ち着いて下さいませ。御堂様。これらの余興は全て…貴方の為だけに
行われていることなのですから…。私がこうしてこの場にいるのも…ここに沢山の
貴方の罪を知る人間が倒れているのも…その為ですから…

 御堂が動揺していると、男は悠然と微笑みながら…彼に向かって
恭しく会釈して、挨拶を述べていく。

「…どうして、私の名を…貴様のような者が知っているんだ!」

 御堂は今までに一度だって、こんな奇妙な人物と面識を持った
記憶などなかった。
 しかし男はこちらの事などすでに既知であるかのように…親しげな
笑みを口元に湛えていく。

―そんな瑣末なことなど、どうでも宜しいでしょう…? しかし貴方の御帰りが
こんなに早くなってしまうことは予想外でしたね…。ちょっとした事件を起こして
ギリギリになるようにしたつもりでしたが…。あれしきの事では、やはり予定を
変えることはなかった…という事なんでしょうね。
 まあ…それでこそ、あの方が執着している程の逸材の証明…といった
処でしょうね…

「…貴様は、何を…言って…?」

 男の発言は、固有名詞をはっきりと述べていないので…はっきりした
事はイチイチ判らなかった。
 だが、ちょっとした事件…というのは、何となく…昼食を摂りに出かける前に
起こった一連の出来事ではないか…とそう思った。
 それぐらいしか、思い至るものがなかったからだ。

―そんな事はどうでも宜しいでしょう? 肝心なのは…今、私がこうして…
貴方の為に骨を折って差し上げているという事ですよ。この場に倒れている
人間を見て下さい。あまりに沢山の人がここにいるでしょう…?
 どうやら貴方が不用意に、「目撃者」などを作ってくれたおかげで…貴方の
記憶を奪い、ちょっとした小細工をする程度では…事は治まってくれそうに
なかった。ですから…この場に、関係者の全てを集めて…暗示を掛けさせて
頂いたのですよ…。これは、昨晩の貴方の罪を…断片でも噂という形で
知ってしまったものや、関係者の集まり。
 さあ、見て下さい。貴方はこれだけの人間に影響を与えてしまうだけの
大きな事件を起こしてしまったんですよ…。

「…待て、貴様は何を言っているんだ…?」

 黒衣の男はまるで芝居の台詞を口にするかのように…滑らかに、歌うように
言葉を紡ぎ続ける。
 それは…まるで役者が大仰な演技をしているような、そんな風景だった。
 だが共演者である御堂は、男のペースに…話についていく事が出来ない。
 満足に働かない頭で、疑問を口上に上らせる程度だった。
 多くの人間が累々と積み重なっている中心で…男は嗤う。
 美しくも、妖しい顔だった。
 それに恐怖と戦慄を覚えていきながら…目の前で男の独壇場は続いていった。

―ですが、これから…私は貴方の為に彼らの記憶の全てを奪いましょう。
 そしてもう一度、新たな舞台を一から用意することに致しましょう。
 目覚めれば、昨晩の貴方の罪は『なかった』事と扱われます。
 その罪は二度と咎められることなく、裁かれることなく…貴方とあの方の
意識の深層にだけ、そのカケラが残される程度となる。
 貴方の罪は誰にも裁かれず、罰を受けることもないでしょう。
 だから…抱えていきなさい。普通の生活へと戻り、その日常を存分に
満喫なさって下さい…。それが、あの人の望みですからね…」

「待て! だから…貴様は一体、さっきから何を言い続けているんだ!
全然話が見えないし、何を指しているのか…あの方だのあの人が誰を
指しているのかもこっちには全然見えない! お前は、何を言いたい!
そして…何を、するつもりなんだ! 関係者全員の記憶を奪うなんて…
そんな非現実な事を、実際に出来る訳が…!」

―出来ますよ、私なら…それなりの代価を支払ってさえ下されば…
それぐらいの事なら、幾らでもね…。
 それよりも遥かに凄いことだって…行えますよ。この世界にはいくつもの
可能性や未来が存在します。其処に干渉して…貴方が予想も出来ない
とんでもない仕掛けを施すことだってね…私には、出来ますよ…

「っ…!」

 そう男が言い切った瞬間、御堂は背筋に悪寒が走った。
 あまりに官能的で、美しい笑みだった。
 けれど御堂はその顔に…悪魔の影を見た。そう…人ならざるものに感じる
本能的な恐怖そのものだった。
 恐ろしさの余り、冷や汗が背中全体を伝っていったのだ。
 その瞬間、誰かが廊下の方から現れていった。

「誰、だ…!」

 しかし、現在…ロビーの電灯は落とされてしまっていて…それが誰なのか
御堂には判別がつかなかった。
 だがそのシルエットから、自分と同じぐらいの体格の男性である事だけは
薄らと察していった。
 その人物は離れた位置から、自分とこの謎の男の方を眺めているようだ。
 御堂が、謎の人物の正体を見極めようとその方角に視線が釘付けになって
いる数十秒ほどの時間の間に、気づけば黒衣の男との間合いは一気に詰められて
しまっていた。

「っ…しまった!」

 さっきまで恐怖のあまりに、御堂は警戒心がバリバリだった。
 だが、そのおかげで…Mr.Rの前で、隙を晒さないで済んだのだ。
 しかし突然の闖入者に意識を奪われてしまっている間に、隙を作ってしまった
せいで…男は御堂の頭を、横からガシっと握っていく。
 ミシミシ、と音が立ちそうなぐらいに強く握られて痛みを感じていく。

「くっ…ぅ…!」

 苦悶の声をとっさに漏らしていくが…Rの手は緩む気配を見せなかった。

―さて、少々無駄なおしゃべりが過ぎましたね…そろそろ、こちらの仕事も
全て完了させて頂きます…おやすみなさいませ、御堂孝典様…。
次に目覚める頃には、あの人が望んだ通り…貴方の周りには…罪を犯す前と
変わらぬ、平穏な日常が戻って来ている事でしょう…

「待、てっ…! やめろ…!」

 その言葉で、この男が自分に記憶操作だの…暗示だのを掛けるつもりである
事を察して御堂は必死にもがいていく。
 しかし…そんな抵抗すら、結局は無駄なことでしかなかった。
 握られている箇所から、何かが広がっていく。
 そうしている間に、頭の中が真っ白になって何かが奪われていくような…
そんな感覚を覚えていった。

「やめ、ろっ! やめろー!」

 御堂は大声で叫んでいく。
 だが、全ては無駄なことに過ぎなかった。
 自分の中から、色んなものがこの男の手で奪われてしまう。
 それを阻むことは、今の彼では出来なかった。
 そしてようやくRの手が緩んだ頃には、御堂の身体はその場に崩れ落ちて
しまっていた。
 御堂はそのまま夢現に…こんな声を聞いた。

―ねえ、そんなに怖い顔をされていないで…少しは手伝って下さいませんか…?

 男は、誰かに語り掛けていた。
 だが今の御堂にはそれが誰なのか…予想もつかない。
 懸命に意識を留めようと足掻いたが、まるで波に攫われていくかのように…
意識が遠のき、深い眠りに落ちていってしまう…。

―無念、だ…

 御堂は最後の足掻きとばかりに、自分の意識を繋ぎとめようとしたが…
全ては無駄なことだった。
 そうして…彼は、自分と同じようにその場に倒れる沢山の人間の姿を眼の端で
眺めていきながら…ゆっくりと、その意識を手放していったのだった―

 

 ※4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO2…「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 【過去ログ】

  咎人の夢      


 御堂は午前中、ずっと精力的に仕事をこなし続けた。
 集中して仕事に当たり続けたおかげで、ここ暫く貯め込んでしまっていた
大半の業務がそのおかげで片付いた。
 ふっと気づいた頃には、すでに午後12時半を指そうとしていた。

(そろそろ…昼食を食べに出た方が良いかも知れないな…)

 御堂の一日は非常に多忙だ。
 昼食の時間はいつも不規則で、午後二時や三時近くになるのも珍しい
事ではなかった。
 ディスクの上を一通り片付けて、御堂は私室を簡単に戸締りしていくと
駐車場へと向かっていった。
 廊下を歩いている最中、何か社内の空気がいつもと違っているように
感じられた。

(…何か、変だな…。いつもと何かが違う気がする…)

 周囲の人間の視線の種類が、気のせいかいつもと違っているように
感じられてしまった。
 いつもの御堂を見る目は、羨望と嫉妬の入り混じったものである事が多い。
 だが…今日のは…。

(…気のせいだな。あんな夢を見たから…神経過敏になっているんだ…)

 とすぐ思い直し、いつもと変わらぬ態度で歩き続ける。
 エレベーターが混んでいたので、階段の方を使おうとそちら側に回る
道の途中…ばったり、部下の藤田に遭遇した。
 向こうもこちらに気づいたらしい。パッと明るい笑顔を向けてくれた。
 屈託ない笑顔を向けながら、こちらに近づいてくる彼を見ると…
普段は厳しく冷たいと称されることが多い御堂も、知らずに軽い笑みを
浮かべて挨拶を返していた。

「あ、御堂部長こんにちは。部長もこれから昼食ですか?」

「ああ藤田君か。うむ…馴染みの店にこれから行こうと思っていてな。
これから車で出る処だ」

「あっ…それなら良ければご一緒させて頂いて宜しいですか?」

「…それは構わないが、時間は大丈夫か? 私はこれから昼食時間に
入る訳だが…君は12時丁度から入ったのであれば車で移動しても
少々…遅くなってしまうと思うのだが」

 その事を指摘した途端、藤田の顔色が若干曇っていった。
 御堂の言う通りだったからだ。
 部長職に就いている御堂は毎日の昼食の時間はやや不規則気味だ。
 社内にいる一般社員は12時から12時50分までは昼食時間に充てられている
訳だが…現在の時刻は12時30分程度。
 車で移動しても、12時から休憩に入った藤田が社内に時間内に戻ってくるのは
厳しいと言えた。

「そ、そうですね。たまには部長と昼食をご一緒させて貰えたら嬉しいかな、と
思ってつい口にしてしまいましたけど…僕の方の休憩は、確かにもうじき
終わってしまいますね。非常に残念ですけど」

「…またの機会にしておこう。君は本日はずっと社内での勤務になるのだろうか?」

「はい、本日は外回りの予定とかありませんので…。あ、それなら駐車場までご一緒
させて下さい。ちょっとお話したい事があるので…」

 お話したい事があるので…と、藤田が口にした瞬間…彼の顔が一瞬、引きつった
ような…そんな気がした。

「嗚呼、構わない。其処まで一緒に行くとしよう」

 御堂自身も、少しその反応を怪訝に思いながらも深く考えないようにした。
 そうして藤田と一緒にエレベーターに乗り込んで、一階のロビーの周辺を
通り抜けていく。
 藤田とは、その間…他愛無い世間話をしながら、足を進めていた。
 その時…御堂は奇妙な違和感を覚えていった。

(…やはりここでも、違和感を感じるな…)

 御堂は若くして部長職に就いたエリートですし、本人も大変な美丈夫だ。
 威風堂々とした態度で社内を歩けば…嫌でも人目を引く存在だった。
 だから人気の多い処を歩けば、多くの人間の視線に晒されるのは慣れた事だった。
 しかし…今、自分に向けられている視線は…好奇と、疑心に満ちた何か嫌な
ものを感じる視線だった。
 若い女性社員達が集まって、何かをヒソヒソと噂しあっている。
 其処に目を向けた瞬間の、彼女たちの反応は明らかにおかしかった。
 特に一人の女性社員は、ヒッ! と怯えたような声を上げて後ずさりを
始めていった。

「なっ…?」

 その反応に、御堂自身も驚きを隠せなかった。
 確かにここ最近、仕事は不調気味であったが…殆ど接点のない女性社員に
こんな態度を取られる謂われはない。

「部長! 早く行きましょう!」

「藤田、君…?」

 御堂がその反応に、戸惑いを感じていると…不意に強く、藤田に腕を
引かれていった。
 彼は生真面目で明るく、常識ある青年である。
 しかし…その時の藤田には有無を言わさぬ迫力があった。
 彼がこのような顔を見せるとは思っていなかっただけに御堂は驚きを
隠せなかった。
 そのまま…玄関を早足で抜けて、本社ビルの付近にある駐車場の
スペースまで歩いていく。
 大会社とは言えど、駐車場の敷地はあまり広くはない。 
 要職に就いている人間の分ぐらいしか確保出来ていないのが現状だ。
 そのおかげでこの時間帯、駐車場に足を踏み入れている人間はいない。
 周囲に誰もいないことを確認すると…ロビーから押し黙ったままの藤田は
ようやく口を開いていった。

「…御堂部長、あの一つ…確認させて貰って宜しいですか」

「あぁ…何だろうか」

 そう問いかけた藤田の顔は、今まで見た事がないくらいに険しいものだった。
 何となく、不穏なものを感じて身構えていくと…相手の口から、予想外の
質問が漏れていった。 

「…部長、昨晩…この近所の大きな公園になんて、行っていません…よね…?」

「な、に…?」

 唐突に聞かれた質問の内容に、御堂は眼を見開いていく。 
 昨夜見た悪夢のせいか、心臓が張り裂けそうになる。

―ドクン、ドクン、ドックン…

 まるで胸の周辺が、別の生き物になってしまったかのように大きな
脈動を繰り返して、コントロールが効かなくなる。
 どうして、藤田がこんな事を聞いてきたのか判らなかった。
 しかし…そう尋ねて来る年下の青年は、縋るような眼差しを向けながら…
こちらを見つめてくる。

「…すみません、唐突な質問でしたよね。けど…どうしても今朝から女子社員の間に
流れる噂が…本当に気になってしまって。厚かましく昼食を一緒したかったのも…
ここまで部長をお供したのも、その噂の真偽を確かめたかったからなんです…。
大変…言いづらい話なんですが昨晩…大きな公園で、うちの女性社員の一人が…
部長が、誰かを刺した現場を見たって…そんな話が流れているんです…」

「な、んだと…?」

「けど、それだとおかしいんですよ! だって…それで俺は気になって午前中に
公園に足を向けてみたんですけど…確かにそういう通報があったから警察は
来たらしいんですけど…それらしき死体とか、怪我人とかは出ていないらしくて。
 御堂部長に似た誰かと見間違えたのか、単なるその女性社員の狂言なのか
どっちかは判りませんし…事件も、実際に起こっていないみたいですし…。
僕には、何が何だか…判らなくて。けど、僕にとって部長はとても尊敬出来る
存在です。だから…どうしても、部長の口からそんなくだらない噂を否定して
欲しくなってしまって…」

「ちょっと待て…。そんな話が…社内に、流れているのか…?」

「えぇ、くだらない話だと思いますけどね。けど…理性的な部長が、人目につく
場所で…しかも会社からそんなに離れていない場所で、人殺しなんてする
筈がないじゃないですか! それに昨日…部長は、夜遅くまで私室に籠って
仕事をこなしていた筈です。僕にはそう言っていたでしょう…?」

 藤田の目には、御堂を信じたいという想いが溢れていた。
 だが…あまりの内容に、御堂は蒼白になってしまっていた。
 公園で起こった事件と、自分が夢と信じていた内容が…あまりに被り
過ぎていたからだ。

(これは、どういう事なんだ…?)

 あれは悪夢に過ぎない、と…御堂自身は思っていた。
 実際にさっき、その被害者である佐伯克哉からメールが一通…送信されていた。
 それで安心していたのに、それが…全て覆されてしまった。
 女性社員に、目撃されていたという事実が御堂に衝撃を与えていく。
 しかし…今の御堂には、藤田を安心させるような事は嘘でしか言えない。
 御堂自身にも昨晩の記憶が抜け落ちてしまっているからだ。
 何も言えないで、言葉を噤んでしまっている御堂を…藤田は強張った顔を
浮かべていく。

「…部長、どうして…何も、言って下さらないんですか…? 普段の部長なら…
すぐにそんな話は馬鹿げていると言って、すぐに否定して下さるでしょう…?」

「嗚呼、そうだな…あまりに馬鹿げた話だったので、唖然として言葉を失って
しまっていただけだ…。反応が遅くなってすまない」

 だが御堂は内心の不安の一切を隠して、どうにか取り繕いながらそう答えていく。
 
「そ、そうですよね。僕だってこの話を耳にした時は…驚きの余りに、言葉を
失いかけましたから! やっぱり…事件なんて起こっていないし、部長は
そんな馬鹿な真似をする筈がありませんから! けど…本当に性質の悪い
噂ですよね!」

「あ、ああ…そうだな…」

 しかし、そう相槌を打ちながらも…御堂は先程の、怯えきった眼差しを向けた
女性社員の事が脳裏から消えなかった。
 彼女の人となりまでは良く知らない。けれど…あまり派手な印象はない真面目そうな
20代中頃ぐらいの女性だった。
 軽薄な印象はなく、適当な噂をでっちあげそうなタイプにはとても見えない。
 反応から見て、その話の発端人は…彼女で間違いなさそうだった。
 だが…何かが釈然としない。
 一体、自分の周りで昨夜、何が起こったのか本気で御堂は判りかねていると…。

「っ…!」

 御堂は、その場に固まった。
 本社の玄関付近に信じられないものを見たからだ。
 
「さ、えき…?」

 そう、藤田とそんなやりとりをしている最中…御堂は偶然にも、これから
玄関に向かおうとしている…佐伯克哉の姿を、視界に捉えて…目撃して
しまった。
 その瞬間、御堂はその場に立ちつくしていく。

―そう、あれは悪夢に過ぎない筈だ。本当に自分が殺人を犯していたのならば…
佐伯克哉が翌日に、こんな風に目の前に現れることも…朝にメールを
こちらに送信してくる筈がないのだから…

 そう思い直し、どうにか体制を整えていく。

「…話は以上だ。君の想いは有難いが…そろそろ昼食を取りに行かないと
この後のスケジュールが押してしまうからな…。君もそろそろ、休憩時間が
終わる頃だろう。…くだらない噂が流れても、あまり動揺しないようにな…」

「はい、部長。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました!」

 そうして藤田はどこか憂い気な笑みを浮かべていきながら、それでも元気良く
挨拶してその場から立ち去っていく。
 残された御堂は、軽く自分の愛車に身体を凭れさせながら…。

「一体どこまでが夢で…どこまでが現実だったんだ…あの、夢の光景は…」

 奇妙に現実と符号が一致することが多い夢に、漠然とした恐怖と不安を覚えながらも
気を取り直して…御堂は裏道を使い、馴染みのレストランへと車を走らせて
いったのだった―
 

 ちょっと読み手の方に要望があったのと…自分自身でも
その意見を聞いて、確かに過去作品の詳細とか説明不足だな~と
思いましたので、まず過去に連載した作品が収められている
「連載作品倉庫」のページだけ、作品に簡単な説明文を添えさせて
頂きました。

 …香坂の話、別の人が絡んでくる話が多いので・・・人によっては
見たいCP以外の要素が混じるのは地雷な場合もあるよな~と
その意見聞いて確かに思ったので直してみた。
 時間見て、一話完結の部屋と…サイトトップの奴も直していくので
ちょっと時間下さいませ。
 
 …書いてから結構時間経っていると、詳細忘れている話あるし…
先を読む楽しみ奪わないで、内容説明するのって結構難しいので
3分の1しか出来ませんでした。ああああ~!
 自分自身が、別に読む分には大抵のCPが大丈夫で地雷があんまり
ないので・・・そこら辺の配慮足りなかったな~と納得したから
ちょっと作業してみました。
 全部、説明添えるまでは少々お待ち下さい。では…。
 ※4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO2…「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 【過去ログ】

  咎人の夢    

―御堂孝典は32年間の今までの人生の中で、出社するのにここまで緊張した
事は一度だってなかった

 今朝見た夢の光景が、果たして現実だったのかそうでないのか。
 その疑問が出勤している間も、頭から離れてくれなかった。
 真偽を確かめる為に早めに出勤したは良いが…自分の私室に入っても
いつもと違って全然気持ちが落ち着かなかった。
 本来の出勤時間よりも随分と早く着いてしまったので社内は全体的に随分と
静かな感じであった。
 こうして…人気のないオフィスで一人で仕事をしていると、リズムを
崩す前のことがゆっくりと思い出して…佐伯克哉という男と出会ってからの
自分の不調っぷりが嘘のように感じられた。

 胸の中に漠然とした不安感はあるが…若くして部長職に就いた御堂は
元来、精神的には相当にタフな人間だ。
 このぐらいの事で自分のペースを乱したり、仕事が出来ないなどと…
甘ったれた事をいうつもりはなかった。

(…私はどうして、あの男に出会ってから…あんなにも自分のペースを
崩してしまっていたのだろうか…?)

 その事実が、釈然としなくなるぐらい…今の御堂は普通に仕事を進めていた。
 其処からは不調となる原因がまったく感じ取れない。
 色んな事に違和感を覚えてはいたが…とりあえず頭と手は動かし続けた。
 自分の私室に来て、何もしないで悩んでいるぐらいなら…最近山積みと
なっていた未処理の業務を少しでも片付けた方が建設的だった。
 冷静になって改めて見てみると、膨大な量の…自分が貯め込んでいた
仕事の量に眩暈すらしてくる。
 だが…近日中に片付ければどうにかなるものもいくつかあったので…
まず期限が差し迫っているものから片付け始めていった。
 どれもかなりギリギリだ。
 モノによっては今朝、他の人間が出勤してきたら早急に動かなければ
間に合わないものすらあった。
 自分自身でも、これだけの業務を溜め込んでしまっていたことに半ば
呆れたくなった。

―また小さく、違和感を覚えていく

 これだけの仕事を、手につかなくなるぐらいの何かが…あの男と
自分の間にあったというのだろうか?
 しかし…やはり、思い出せない。

―忘れて、下さい…

 祈るような誰かの声。思い出そうとする度に、その一言だけが
鮮明に蘇って、それ以上の記憶を思い出すことが不可能となっていた。

(…今朝から聞こえる、この声は…一体誰のもの、なんだ…?)

 やはりその声の主の存在が御堂にとっては思い出せなかった。
 また少し考えて、思い出すように努めていくが…やはり声だけでは
はっきりと思い出せなかった。

「…私らしくないな。どうして…こんな声の事がこんなに…気になるんだろうか…?」

 自嘲っぽく笑いながら…ふと手が止まりがちになっていたが…気を取り直して
作業に集中していく。
 パソコンでメールの処理している間に、ふと…アドレス帳のページを
クリックしていくと…連絡先に「佐伯克哉」と書かれてるのに気づいた。
 もし、即急に…あれが事実だったのかどうかを確認するならば、ここに
記載されている携帯番号に連絡すれば…今すぐにでも判ることがあった。

―彼が普通に電話を取れば、あれは自分に悪夢に過ぎなかったという
結論となり、証明にもなる

 腹部を深々とナイフで刺されながら、普通に出勤出来る人間など
存在する筈がないのだ。
 怪我の程度によっては刃傷沙汰が起こっても、何食わぬ顔で出勤が
出来るかも知れない。
 だが…あれは、絶対に取りつくろうことが出来ないレベルでの怪我だ。
 逆に、いつまで経っても誰も出なければ…あの夢は事実であった可能性が
極めて高かった。
 それに…今朝、この部屋に向かう途中で一つ…気になる噂をすでに
耳にしていた。

―この近隣の公園で、警察が出動して集まって来ているという内容だった

 どのような事件が起こったのか…小耳に挟んだ程度なので、現時点では
不明だが…その小さな噂が、御堂の決心を鈍らせてしまっている。
 MGN本社からそう遠くない位置にある公園は、結構な敷地面積を誇っていて
片隅の方ではホームレスが夜、毎日ではないが寝る場所を求めて訪れたり
酔っ払いなどが潰れて、警察の厄介になるような出来事がたまにであるが…
起こったりしている場所でもあった。
 以前にも酔っ払いとホームレスが大きな衝突をした際に、警察の人間が
何人か出動してきた事があったが…今朝はどれぐらいの人数が訪れているのか
現時点では御堂は情報を持っていなかった。

(もし…あれが現実だった場合、佐伯の死体が見つかって…それで
警察が来ている可能性も存在するな…)
 
 そう思うと、やはり…自分から連絡する踏ん切りまでつかなかった。
 こうやって自分の私室で部屋をしていると、やはりあの出来事は悪夢で
あって欲しかった…という想いの方が大きくなっていく。
 もし、どんな事情があるとは言え罪を犯してしまったというのならば…
こんな風に逃げるようなことばかり考えているのは褒められた行動では
ないのかも知れない。
 けれど…彼を殺すに至った動機すら、今の御堂は思い出せない。
 それで佐伯克哉を手に掛けたといっても…自分自身ですら
納得行かないし、釈然としなかった。
 頭の中に、そんな考えがグルグルしつつも…御堂は始業時間前に
精力的にこなしていった。
 一通り片付けた頃には、部屋の外…廊下の方から、人が行き交い
始めている気配のようなものを感じていった。

「そろそろ…始業時間か…」

 そう呟いた瞬間、御堂のPCの方に一通のメールが届いた。
 その送信者名を見た瞬間…心臓が止まるかと思った。

―佐伯克哉

 確かにそう表示されていたのだ。

「佐伯から、メールが…?」

 御堂は、メールが来ただけでも驚きを隠せなかった。
 しかし気を取り直して…慌ててそのメールを開いていく。
 其処にはそっけなく、一文だけの短いメッセージだけが
記されていた。
 
―午後から打ち合わせの為、そちらに伺います。こちらの希望としては
14時ぐらいが好ましいのですが、御堂部長の方の都合の方は宜しいでしょうか?

 たったそれだけの内容。
 あの男らしい、簡潔で…必要なことだけしか記されていないメールだった。
 だが…その短い一文を見ただけで、張り詰めたものが緩んでいくのを
感じていった。

(あれは…やっぱり、夢だったのか…?)

 もしあの夢が事実なら、こんなメールなど決して届く筈がないのだ。
 送信時刻をチャックしてみたが…どうやら彼も早朝出社をしているらしい。
 ほぼリアルタイムで、キクチ本社のPCから送信されたもののようだった。
 このメルアドは…彼の会社内でのメルアドであったと記憶しているから…
ほぼ間違いがないだろう。

(…それに、第三者が彼のPCを使って…こんなメールを送るメリットが
果たしてどこにあるんだ…?)

 だからこのメールを送ったのは佐伯克哉当人にまず間違いないだろうと
思えたが、まだ彼本人を実際に見ていないから…確証は持てないでいる。
 しかし…それだけでも、出社前に比べて御堂の気持ちは随分と
楽になっていった。

(そうだ…あれは、夢だったんだ…。そうでなければ…どうして…)

 御堂はこの日ばかりは、一刻も早く…いけすかない相手であるが
佐伯克哉がこちらを訪ねてくるのを心待ちにしていた。

―彼が自分の前に立てば、全ての懸念は夢に過ぎなかったと
証明されるからだ…

 今まで御堂は、佐伯克哉がMGNに訪れるのを快く思った
事は一度もなかった。
 だが…この日だけは、あの凄惨な悪夢の記憶を打ち消したいと思う
気持ちが…初めて、彼の来訪を心待ちにさせる結果を招いて
いたのであった―

 4月24日早朝に、最後に入金報告をして下さった方の
荷物を発送させて頂きました。
 これにて、3月分の通販に関して無事に終了報告を
させて頂きます。
 ご利用して下さった方、どうもありがとうございました。

 近日中(五月上旬中)に、こちらからのささやかなお礼のSSのURLを
添えたメールを送信させて頂きます。
 若干、その件は遅れてしまっていて申し訳ございません。
 が…GW中は、時間が取れますと思いますのでその期間に
執筆させて頂きます。

 一応、五月三に…無料配布本か、コピー本になるか判らないですが
こっそりと友人のスペースの処に、鬼畜眼鏡の新刊のみを委託させて貰う
形で参加する予定です。
 それでヒーヒー言っている状況なので、こっちは若干遅れてしまいました。
(ぶっちゃけ…三月末から、軽いスランプ入っていたので…連載一本
受け持つのが精一杯だったので…)

 とりあえず新連載の方は、第一話の凄惨な出来事は果たして夢だったのか、
現実だったのか…? という事を軸にした、サスペンス方式の話です。
 眼鏡×御堂ルートに克哉も絡んでくるという話ですが、以前に書いたリセットとか、
星屑の祈り、とはまた違った雰囲気の話となると思います。
 …これのカテゴリー、何にしようか…とちょっと本気で迷ったんですが、一応…
眼鏡×御堂×克哉にしておきました。

あまり甘い話ではありません。それを了承の上で…それでも付き合ってあげよう!と
思う心優しい方だけ読んでやって下さい。
 この作品は、ミステリーとかサスペンスに付きものの『謎』をメインにして
構成する形式のを、ちょっとチャレンジしてみるか…という試みでやってみた話です。
 新しい試みなので、成功するかどうかはちょっと不明。
 けど同じことを繰り返すより…ちょっと挑戦してみるか、という感じで手がけたものなので
良ければどうぞ。

 後、不定期連載をいつまでも放っておくのもすっきりしないので、一週間から十日に
一回ぐらい…「残雪」の方を少しでも掲載して、進めていくつもりです。
 その件に関しても了承して頂ければ幸いです。
 では今回はこれにて…。
 
 ※4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO2…「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 【過去ログ】

  咎人の夢  


  ―御堂孝典が次に目覚めた場所は、自分のマンションの寝室の
ベッドの上だった

「っ…!」

 何かから逃れるように、弾かれたように身を起こしていく。
 悪夢を見ていたのだろうか…全身から、冷や汗が滝のように伝い落ちて
動悸が激しかった。
 ドックンドックン…とまるで別の生き物のように心臓が荒く脈動しているのが
自覚できた。

「…あれは、夢、だったのか…?」

 先程までの凄惨な光景が脳裏に浮かんでくる。
 佐伯克哉を待ち伏せして、そして…手に掛けて嗤(わら)い続けていた
あの出来事は、とても夢とは思えなかった。
 相手の肉に、ナイフを突き刺した生々しい感触すら、しっかりと覚えているのに…
何故かそれらが、何もなかったかのように…自分はいつの間にか、ベッドの上で
いつものように眠っていた。

「ちょっと待て…私はいつ、自宅に…昨夜、戻って来たんだ…?」

 昨晩の記憶が、曖昧になっていた。
 身体の状態はさっぱりしていた。いつの間にかパジャマにも着替えている。
 しかしいつシャワーを浴びて着替えたのかまったく覚えがなかった。
 いや…夜だけではない。昨日一日の記憶が、綺麗に抜け落ちて空白に
なってしまっている。
 …違う、何かが欠落してしまっている。
 自分の中で、大きく占められていた何かが…消えてしまっている。
 奇妙な違和感が拭えなかった。
 そもそも…自分はどうして、佐伯克哉をあんな風に殺す夢を見たのか…
彼には思い出せなかった。

 それは動機の欠落。
 人を殺すには、何らかの要因がなければ基本的には無理だ。
 殺人を好む性質の人間でない限りは、普通の人間は同じ人間を殺すことに
嫌悪感を覚えていく。
 それに殺人者に課せられたペナルティは、それ以後の人生をフイにする程
重く厳しいものだ。
 だから人間は…一般的な常識を持っている人間ならば、殺人という禁を
犯す場合は…それに至るだけの憎しみなり、動機なりがなければ実行にまでは
移さない。 
 だが、どれだけ自分の心に問いかけても…その根本となるものが
見つからなかった。
 そのせいでさっきの場面の陰惨さを思い出しても…本当に単なる夢に
過ぎなかったのではないか…という想いの方が徐々に勝っていった。 

「…それに、どうして私が…佐伯を殺す、夢を…? 確かに彼は気に入らないし…
腹立つ言動が多いが、殺すまで…は、行かない筈…なのに…」

 そう、今の御堂は紛れもなくそう思っていた。
 あの夢を見ても、どうして…自分はそんなものを見たのか納得がいかない。
 そんな心境になっていた。
 確かにこの一か月、あの男に自分の仕事のリズムを乱されていた。
 そのせいで…自分らしからぬ失態を幾つも犯してしまって、大隅専務に厳重な
注意すら受けてしまった。
 だが…それはいわば、自分の至らなさと…あの男に対して必要以上に敵愾心を
燃やしてしまったからこそ招いた愚だった。 
 肩で大きく息をしてから、どうにか深呼吸をして…どうにか落ち着いていく。

「…いつになく、酷い目覚めだな…。それに私は、夢など滅多に見ない性質
なのに…久しぶりに見たと思ったら、これか…」

 苦笑しながら、御堂はベッドの上から…壁に掛けてある時計を眺めていった。
 朝、五時十五分。いつもの起床時間よりも若干早いぐらいの時間帯だ。 
 通常、4~5時間寝れば睡眠は充分だ。
 大体いつもならば、午前一時か二時前後まで起きていて…それから朝五時半から
六時ぐらいに起きるのがいつもの御堂のペースだった。
 昨日、何時に寝たのか…その記憶すら思い出せない。

「…私は、昨日…本当に何をやっていたんだ…?」

 確かに自分はワインを愛飲していて…一週間に何度も嗜んでいる。
 しかし、記憶を失うぐらいに多量に飲むことなどない筈だ。
 アルコールの類を過剰に摂取すれば一時的な記憶の混乱及び、喪失を
招くということは知識として御堂も知っている。
 だが…身体のコンディションは最悪ではあったが、これは二日酔いによる
症状ではないということは…流石の御堂でもすぐに判った。

(なら…あの夢は現実だったのか…?)

 だとすると、一つ…絶対的におかしい事がある。
 あの夢が現実だった場合…自分はMGNからそう遠くない距離にある公園で
倒れたことになる。
 そして…途中で目覚めることなく、この時間まで眠り続けていたのならば…
一体、誰が自分をこの部屋まで運んだのだ、という話になる。
 御堂が住んでいるマンションはセキュリティが万全に整えられた、
完全オートロック式となっている。
 カードキーのない人間は、絶対に立ち入ることが出来ない。
 意識を失った御堂をここまで抱えて、そして立ち去るなんて真似をすれば…
絶対に不審がられることは確実だ。
 しかも…あの夢が現実だった場合は…。

―御堂は、佐伯の返り血を浴びて血塗れであった筈だ

 そんな状態の御堂を連れ帰り、着替えさせて立ち去った存在がいると…
そう仮定しない限りは、この状況はありえない。
 とっさに自分の匂いを嗅いでいくと…自分が愛用しているフレグランスの
香りが軽く鼻孔を突いていった。
 それ以外の臭いは、存在しない。
 あの光景は、現実だったのか…それとも自分の悪夢に過ぎなかったのか。
 まず…それが問題だった。

(…幾ら考えても、答えは出ないな…)

 あれが現実なら、佐伯克哉は一体どうなったのだろうか…?
 恐らく、無事では済まない。
 腹部にあそこまで深くナイフを突き刺したのなら…あれは確実に
致命傷レベルとなる。
 素早く病院に搬送して、手当をしたとしても…生存出来る可能性は
極めて低いと言わざるを得なかった。
 現時点では、あれが現実だったのか…夢だったのか、解答を得ることが
出来なかった。
 しかし…あれが実際にあった事ならば、確実に…今朝か、昼ぐらいまでには
佐伯克哉の死体が公園で発見される筈だ。
 そうなれば…自分は仕事上での関係者になる。 
 あの一件の事が露見すれば…。

(…? あの一件とは、何だ…?)

 途中まで考えて、自分でも疑問に思ったことがあった。
 何かが、やはり自分の中から抜け落ちている。
 あの男に纏わる…重要なことが、思い出せない。

「何だ…この、何とも言えない…すっきりしない気持ちは…。私は、何を
忘れてしまって…いるんだ…?」

 御堂は、本気で頭を抱えたくなってしまった。
 思い出せなくなっているものが、これだけ多ければ不安に思っても
何の不思議でもない。
 しかし…今、自分は確かに佐伯克哉にとっては仕事上で深く関わっている
立場にあるのは事実だった。
 見方によっては…過剰すぎるノルマを割り当てて、理不尽な行為をした
親会社の人間…と見られるかも知れない。
 だが、その場合なら…佐伯克哉がこちらを、なら話が通るが…こちらから
彼を殺す動機には結びつかない。
 そう考えて…どうにか、思考を切り替えていく。
 まずは出社してみなければ始まらない。
 そう考えた瞬間…ふいに、何かが頭の中を過ぎっていった。

―貴方は……の、事なんか、忘れて……幸せに…なって、下さい…

 それは聞き覚えのある声で、言われた一言だった。
 今にも泣きそうな、悲痛な声で…誰かが、告げていた。
 だが…この言葉をいつ言われたのか、まったく記憶にない。
 けれど知らない声ではない。確実に何度か聞き覚えがある声である
ということは確信していた。
 …最後にこの声音を耳にしたのは、一体いつだったのだろうか。
 そういえばもう随分と長く…聞いていないようにすら感じられた。

(今の、声は…?)

 ごく最近に、聞いた気がするが…だが、それも思い出せない。
 自分を構成する為の『記憶』というピースが幾つも抜け落ちてしまっている
その事実は、御堂の心を大きく掻き毟っていった。
 だが、まずは…会社に向かわなければ始まらない。
 心の中は酷くモヤモヤして落ち着かなかったが…一旦頭を切り替えていく。
 身体を起こして、身仕度を整え始めていった。

―彼はまだ知らない。自分がいつの間にか大きな舞台に上げられてしまっている事に。

 そして無自覚なまま…誰かが紡ぎ出した脚本をなぞりあげていく。
 しかし彼は…舞台も、脚本もどちらも自覚しないまま…いつもと変わらぬ日常が
送れると信じて…出勤する為の準備を整え始めていった。

―御堂にとって今までの人生の中で、これから会社に向かうということが…
ここまで不安に駆られてしまったことは初めてのことだった…
 

 ※本日から新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO2…「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。

―それは月がとても綺麗な夜に起こったことだった

 目の前には、血まみれになった青年が倒れていた。
 たった…今、自分がこの手で刺した。
 何度も、何度も心の底からの恨みを込めながら相手の身体に凶器を突き刺した。
 手には相手の血液がべったりと付いている。
 返り血を大量に浴びて…彼自身も、陰惨な様子になった。

「あ…ははははははっ!」

 そして彼は、狂ったように笑い続けた。
 まるで糸が切れた人形のように、全ての感覚が麻痺して遠くなって
しまっている。
 感情の制御がすでに出来ない。
 自分の意思と関係なく、大きな笑い声は零れ続けて…公園中に木霊
していくようだった。
 今の御堂には、周囲に気を配る余裕すらなかった。

 いや…もうとっくの昔に、自分はおかしくなってしまっているのだろう。
 この男と出会ってから、何もかもが壊れてしまった。
 大学に出てからの十年間の間に、自分が必死になって築き上げた全ての
ものが…この男一人のおかげで、全て失ってしまった。
 全てが水泡に帰して、無になろうとしていた。
 …自分が努力し続けて、やっと手に入れることが出来た大企業での部長という
地位ですら…もうじき、この男の手に渡ろうとしている。
 その事実を、偶然…知ってしまった彼は…ついに堪え切れず、この男を
手に掛けてしまった。

「ざまあみろ…! 佐伯…! お前が、悪いんだ…! お前が、私から…
全てを、奪うから…ははははははははっ…!」

 自分の心の奥から、どす黒いものが溢れてくるのが判った。
 誰かをここまで憎いと思ったのは、生まれて初めてだった。
 その衝動のままに行動して、とてつもなく爽快な気持ちと…人を初めて
殺めてしまったという罪悪感と、やり切れなさで頭の中はゴチャゴチャだった。
 夜の空気は冷たく、冴えわたるようで…現場となった公園を、月明かりが
煌々と照らし出している。
 殺人を犯した者が、現場でこんな風に大声で狂ったように笑い続けているなど…
早く捕まえてくれ、と言っているようなものだ。
 こんな愚かしい行動、普段の彼ならば…絶対にしない。
 けれど…まるで性質の悪い麻薬に犯されてしまったかのように、まともな
思考回路が破壊されてしまっている。
 おかしくて、おかしくて堪らなかった。
 自分の感傷が、制御出来なくて…どうしようもなくなっていた。

「み、どう…」

 苦しい息を吐きながら、男がこちらの名を呼んだ。
 何故かその瞬間…胸が引き絞られるようだった。

「…まだ、息が…あった、のか…?」

 自分は相手の腹部を刺した筈だ。
 心臓を一撃、とは行かなかったが…複数の箇所を刺したことで
致命傷を与えている筈だったのだ。
 なのに…それでもまだ、相手が存命して…こちらの名前を呼ぶことが出来るなど
思ってもみなかったので、御堂は瞠目していく。

「み、どう…」

 しかし相手の瞳は、いつものように自信に充ち溢れたものではなく…
酷く儚い色を湛えていた。
 ギラギラと輝いていた宝石が、まるでガラス玉になってしまったようだ。
 その力のない瞳が、フイに…彼を正気に戻していく。

「あっ…」

「み、どう…」

 何度も、何度も壊れた機械のように…相手はこちらの名前を呼び続けていく。
 その度に、何とも言えない感情が湧き上がっていった。
 憎くて憎くて、仕方のない男だった。
 先日のとても大切なプレゼンの時に…尻の中にバイブを入れろなどと言って…
こちらの事など、一切慮ることなく…その強度を上げ続けた。
 そのせいで大勢の前でとんでもない失態を演じることとなり、其処から
多くの歯車が狂い始めた。
 部長職を失う一歩手前まで追い詰められたのは…この男がそんな風に
こちらの心を踏みにじり、脅迫行為を続けたからだ。

(ど、うして…お前に名前を、呼ばれて…こん、な…)

 憎い筈だったのに、それ以外の感情が湧き上がってくるのを感じて…
御堂自身が、混乱を隠せなかった。
 どうして、何故…自分は、こんな事で惑っているのだろうか。
 すがるように男が、こちらに手を伸ばしてくる。
 その手が血まみれなのは、口元から一筋の血が伝い落ちているのは…
自分がこの手に掛けてしまったから。

「す、まない…」

「っ…!」

 ふいに、男が…そんな風に自分に謝罪の言葉を吐いたのを聞いて、
御堂は眼を見開いていく。
 どうして…この後に及んで、自分に謝ったりするのだ。
 あんな風にこちらを辱めるような行為を続けた酷い男。
 なのに…そんな風に、謝られたら、どうすれば良いのか判らなくなる。

「今、更…謝られても、私は…君のした、事を…許せない!」

「だ、ろうな…」

 しかし、相手の謝罪の言葉を跳ねつけるように…御堂は必死になって
訴えかけていく。
 今までは御堂は…一方的な被害者という立場だった。
 しかし…この夜から、二人とも、咎人となった。

 佐伯克哉は…御堂孝典を何度も凌辱し、その光景をビデオカメラで撮影して
彼を脅迫し続けて追い詰めた。
 そして御堂は…その事に耐えきれず、ついに殺人という行為で…彼を
手に掛けて、殺めてしまった。
 
 どちらも、大罪だった。
 しかし…罪の重さを言えば、やはり殺人の方が遥かに重いだろう。
 相手の命の灯が、どんどん弱くなっているのを感じる。
 公園の舗装された道は、血の海を作り…毒々しいまでに、赤で染まって
しまっていた。
 途端に、目を背けたくなってしまった。
 だが…御堂は、どうしても…目の前の相手に釘付けになってしまった。

―自分が、彼を殺してしまった…

 まだ辛うじて息はあるが、この出血量から見ても…大急ぎで病院に
搬送しても、彼はもう助からないことは明白だった。
 後、十分もすれば…彼の命は確実に途絶えるだろう。
 そうなれば…言い逃れは出来ない。
 御堂に待っているのは殺人者という烙印。
 捕まれば…これから先、十数年は拘束されるか…下手をすれば
死刑となるだろう。
 情状酌量を求めるとすれば、あの凌辱された事実を警察に
話さなければならない。
 だから…自分の刑は軽減されることは絶対にない。
 …その事を誰かに話すぐらいなら、素直に罪を被った方がマシだからだ。

「だ、ろう…な…なら、受け取れ…俺の、ポケットに…ある、から…」

「な…にを…?」

 相手の声は、あまりに掠れていて…聞き取りづらかった。
 けれど…苦しそうでも、彼は必死になってその言葉を綴っていった。

「お前の…ビデオ、の…録、画…だ…」

「っ…!」

 その言葉を聞いた時、信じられなかった。
 だが男は…微かに笑いながら…身体を必死になって捩って…
御堂が、取りやすいように僅かに…右側のポケットを露出させていった。
 最後に気まぐれに見せた、相手からの情。
 それが憎くて仕方なかった相手を…別の存在に変えていってしまうのが
信じられなかった。

「そ、んなの…嘘、だ…」

「早く…。それを、受け…取った、ら…、逃げ…ろ…」

「なっ…!」

 更に信じられない気持ちになった。
 だが、男は…儚い表情を浮かべながら、見つめていく。
 
「どうして…この後に、及んで…そんな事を言うんだ…!」

 とっさに御堂は叫んでしまっていた。
 今まであれだけ酷い男であり続けた癖に…最後の瞬間にこんな
事をいうなど、反則以外の何物でもなかった。
 憎いだけの相手なら、殺したって胸の痛みなど何も覚えないで済むと
いうのに…どうして、今更…こんな温情を見せるのか、逆に恨みたくなった。
 御堂にとって、そのビデオの録画は…絶対に他者の目になど触れられたくない
代物だった。
 あれがどんな形でも、誰かに見られてしまったら…御堂にとっては
身の破滅を招きかねない。
 だからこそ脅迫の材料に使われてしまったのだ。
 それを男は、自分が刺されて…命を失うその寸前に、返そうとしていたのだ。
 何故、そんな真似をするのか…御堂には分らなかった。
 だが、その行為によって麻痺していた心が…痛みを訴え始めていく。

―それでようやく、御堂は自分が強い後悔をしている事を自覚してしまった

 鼓動が、呼吸が乱れ始める。
 心臓が壊れてしまって、そのまま破裂しそうなぐらいだった。
 それでも、御堂は相手の元に近づいて…そのテープを回収しようとした。
 その時、意識がふいに遠のくのを感じていった。

「っ…!?」

 突然、ブレーカーが落ちてしまったかのように…身体の自由が
効かなくなって、意識がブラックアウトしていく。
 前触れなど、まったくなかった。
 けれど抗いがたいぐらいに…闇が、唐突に襲いかかって御堂の
意識を呑みこんでいく。
 だから御堂は、受け取れと指示されたビデオの録画を…

 バタン!

 そうして…彼は、意識を昏倒させてその場に倒れ込んでしまった。
 だからこの夜に…この後、どのような事が起こったのか、 彼は一切の
情報を得ることが出来なかった。
 この惨状を知る存在の祈りも、堕落へ誘う悪魔の囁きも…すでに深い
闇に落ちてしまった彼には知るべくもなかった。

―やれやれ…面倒くさい事になってしまったものですね・・・

 そして、御堂と佐伯が倒れているその現場に…もう一人の第三者が
立って呆れたような声を漏らしていった。

―その後、何が起こったのか…御堂は知ることがないまま…夜明けまで
深い眠りの中へと浸り続けていったのだった―
 

カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[03/16 ほのぼな]
[02/25 みかん]
[11/11 らんか]
[08/09 mgn]
[08/09 mgn]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

 当ブログサイトへのリンク方法


URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/

リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ * [PR]