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見ているのと同じ頃…太一は窓際で、ギターを片手に作曲を始めていた。
窓を全開にして開け放つと、心地よい風が時折…勢い良く吹き抜けていく。
父の喫茶店を手伝っていた頃から、愛用していた長袖の緑のシャツと
オレンジの半袖のシャツ、そしてジーンズという格好に着替えて、太一は
一心不乱で縁側で作曲を続けていた。
一時間程、楽譜にペンを走らせて…一定の長さを書き終えると、もう
片方の手で持っているギターを掻き鳴らして実際に音を合わせていくと
いう作業を繰り返している内に、大体1~2分程度の長さのメロディは
仕上がっていた。
順調なペースで、満足行く仕上がりのものが組み上がっている。
それに満足そうな笑みを浮かべていきながら…太一はそっと
空を仰いでいった。
「…少し、一休みするかな…」
時計を見ると、すでに一時間以上が経過していた事に少し驚いていく。
太一自身としてはもっと短く感じられていたからだ。
何かに没頭している最中は得てして、体感時間というのは短く
感じられるものだ。
太一は今やっている小節を完成させていくと…それを一区切りにして
大きく伸びをしていった。
「ん~順調、順調。例のタイアップ曲に並ぶぐらい…良いメロディがこんなに
サラサラと浮かび上がってくるのは久しぶりだから…やっぱり気持ち良いよな~」
太一は音楽の道を志している事実が示す通り、根っからのアーティストである。
だから、納得行く出来のものが自分の中に生まれて…それを紡ぎ出せた時、
大変な幸福感と快楽を感じる事が出来る性分だ。
帰国して以来、連日…分刻みのスケジュールをこなしていて…正直、
気持ちが荒み気味になっていたので…久しぶりに解放されきった気持ちを
感じていた。
コロン、と縁側に両足を掛ける感じで後ろに倒れて…床に寝っ転がるような
体制で…流れ行く雲と、晴れ渡る青空を眺めていく。
そんな済んだ空の大きなキャンバスの上に、一瞬だけ…柔らかく微笑んでいる
克哉の残像が見えた気がした。
この空の下のどこかに…克哉がいる。
そう確信出来ると、今…この瞬間に離れていたって繋がっているような
気がした。
その安心感を感じる反面、フッと…2年半ぐらい前の出来事が
脳裏を過ぎっていった。
(…そういえば、アメリカにいた頃…克哉さんが本格的に姿を消して
しまった時期があったよな…。まだ、俺の向こうでのバンドが軌道に乗る
前のことで…お互いに、環境の違う所で生活している事に煮詰まっていた頃で…)
それは振り返れば、たった二日間という短い克哉の家出だった。
けれど…あの時ほど、太一にとって血の気が引いた二日間は…
この三年間では存在しなかった。
渡米してから、三ヶ月目から半年に掛けての三ヶ月間は…まだ太一も
バンドのメンバー全員と出会っておらず、克哉の方も…言葉の壁を感じて
日常やマネージャー作業をやるにおいて…英語の発音の微妙なニュアンスや
発声の違いで、誤解や行き違いを多発してしまっていた頃だったからだ。
それで、当時…一件の大きなチャンスを逃してしまった。
(…あんまり思い出したくない、苦い思い出だよな…。今でも、俺は克哉
さんに比べたらガキだし…みっともない所もまだまだ沢山あるけれど…
あの時の俺ほど、自分の事しか見えていない時もなかったよな…)
それは、太一にとって…心底後悔している過去でもあった。
最初の時期は、拠点となる場所も定まっておらず…1~2ヶ月過ぎても
手応えがないと太一はさっさと新しい場所に引っ越す事をやって
しまっていた。
それが今思うと…克哉にとっては大きなストレスになっていたのだ。
沢山の自分と違う人種が蠢く世界で、言葉の壁がある外国で暮らすだけでも
相当なものがあったのに…それで、慣れた頃に新しい街に越されたりしたもの
だから…大変に辛かったのだろう。
あの時期の克哉ほど、見ていて危なっかしくなるような…そんな気持ちに
なったことはなかった。
―克哉さん、克哉さん! 帰って来てくれよっ!
克哉が飛び出して、その後姿を見失って。
その時ほど、治安があまり良くない街に安易に越してしまった自分を
呪った瞬間はなかった。
大人しくて、優しい克哉が…荒れ果てた街中のどこにいて、どんな奴と
一緒に過ごしているのか…嫌な想像ばかりが溢れかえった時はなかった。
結局、克哉は…ソコソコの値段のビジネスホテルで二泊ほどして…頭が
冷えて落ち着いた頃に帰って来たのだが、その時まで…胸が掻き毟られる
ような二日間を、太一は過ごしたのだ。
―克哉さんが、帰って来てくれて…本当に、良かった…!
その当時の記憶を思い出して、思わず…涙ぐみそうになった。
大切な人を、自分のちっちゃなプライドとか、意地とかで追い詰めて…
何か事件に巻き込まれてしまっているんじゃないか、危ない目に遭って
いるんじゃないかと…思い詰めた二日間は、とても辛かったけれど。
同時に、太一にとっては自分を深く見つめる時間になった。
あの時ほど、ただ…元気な姿で克哉が傍にいてくれることだけで
自分はとても幸せだったのだという事実に気づかされた瞬間はなかった。
好きな人が自分の傍らで笑ってくれている。
そんなささいな事でも、とても幸福なのだ。
それに気づいてからは…太一は小さいプライドや、意地を捨てていった。
…そして、どうやったらこの異国の地で、克哉が楽に生きられるかと
必死に考えた結果、少しぐらい上手く行かなくても安易に引っ越したり
しないで…それからは、暫く一箇所に落ち着いて粘り強く其処で頑張る
ようになった。
引っ越す度にメンバーを簡単に入れ替えるような真似はせず、
其処で知り合った人間とじっくりと音楽を作り上げていった。
それから、ようやく…バンドは軌道に乗っていったのだ。
(…それに比べれば、今は幸せだよな…)
しみじみと、太一は…今の幸福を噛み締めていった。
ただ…胸の中を、克哉のことだけで満たしていく。
同性だとか、年上だとか…もう、関係ない。
自分にとっては克哉は大切で、あの人も同じように感じてくれている。
好きな人に、同じように想って貰えること。
こちらの気持ちを真っ直ぐに、全身で受け止めてもらっている事。
その喜びの方が…遥かに勝っているから、障害など太一にとっては
何の関係もなかった。
―晴天の青空
この空のおかげで、離れていても…今はあの人としっかり繋がっているような
そんな気持ちになれていた。
青い空には、必ずワンセットのように太陽がついているから。
それは…克哉がこの一言を、自分に良く言ってくれているからかも知れなかった。
―太一は、オレにとって…太陽のような存在だから
そう、はにかみながら…何度も、何度も伝えてくれていた事が太一にとっては
大きな自信に繋がっていた。
だから、自分にとっても…克哉は青空のような存在だと微笑みながら
伝えていった。
そうやって三年間、言葉によって信頼を静かに積み上げていった。
だから…少しぐらい離れていたって、繋がっているのだと実感出来る。
全然、心細くなど感じなかった。
「…だって、もう…克哉さんは俺の心の中にしっかりと織り込まれて…
存在して、息づいているからね…」
そう、瞳を細めて微かに笑っていくと…胸を押さえて、そう呟いていく。
一人だからこそ…愛しい人の面影が、鮮明に脳裏に浮かべられる。
その気持ちが、新たなる旋律を生み出し…彼の中で奏でられていった。
「…良し、休憩終わり…! 絶対に克哉さんが帰って来るまでには…完成させて
びっくりさせるぞ…!」
そう呟いた太一の表情は悪戯を企んだ子供のように生き生きとしていた。
そのまま…ギターを再び、片手に持って…心の赴くままに綺麗な
メロディを紡ぎ上げていく。
―太一のその姿は、心底…楽しそうであった―
ここ三日間ぐらい、凄く頭悩ましたり考えていたり…遅々として
進まなかったり、若干難産気味でしたが、やっと本文6P…納得行く
出来で書けました。
三回目でやっと、納得行く冒頭滑り出しになったよ…。
その他にも…以前に人様に「書く」と約束した話を3~4P書いて
色々と細々とした作業やって過ごしていたらあっという間に
一日終わりました。
書き下ろしの一本目、克克の挙式編に当たる話は去年辺りから
暖めてあった話なので、手を抜きたくないので。
…それをオフ本(新婚本)で掲載するとは当時は思ってもみなかった
けどね。今年の暮れ辺りにこそっとアップする予定だった話でした。
某方に、実は先にキリリクとして挿絵に当たるイラストを描いて貰って
あるぐらい…自分的に大切というか、絶対に書きたいと思っている
話なので、全力です。
おかげで凄い、いつもに比べて執筆速度が遅いです。あう~(汗)
すみません、そんな訳で今夜は近況のみで失礼します。
明日の朝はキチンと何か一本投下させて頂きますね。
それではおやすみなさいませv
―本日は本当にポカポカとした陽気で気持ちが良かった。
小さな公園を何週もグルグルと回っていたが…同じ場所を歩き続けて
いるのに飽きてきたので、そのまま克哉は東京の街中を歩き始めていった。
勢いで電車に乗り込んで、東京駅の周辺で降りた。
そこから十~十五分ぐらい歩いた位置にある公園で休んでいたけれど…
銀座・新橋方面へとゆっくりと歩き始めていく。
(この辺りを歩き回るのも久しぶりだよな…)
キクチに在籍していた頃は、銀座方面はたまに接待関係で
立ち寄ることがあった。
今となってはそんな事も、懐かしい思い出の一つだった。
東京から銀座に続く道を歩いていくと…公園で時間を潰している内に
午前十時をいつの間にか迎えていたらしい。
シャッターが下りていた数多くの店舗が開いて、街全体が起き始めていく。
東京は一晩中、ネオンが輝いている所が多く…深夜まで営業している
店も多い。
だが、昼間をメインに営業している店舗も多いので…夜の銀座とは
また違った顔が覗き始めていく。
(懐かしいな…東京駅付近にあったブックセンターとかで…専門書とか
仕事で使うような関係資料も求めた事もあったっけ…)
取引先の本社が、この付近に結構あったので…八課にいた頃は
たまに駅付近にある八階建ての大きなブックセンターで購入する
事も多かった。
こんな風に、東京の街を一人で歩き回るなんて…太一と駆け落ちして
以降はずっとなかったから…懐かしい気持ちでいっぱいだった。
(営業していた頃の俺は…こうして太一と駆け落ちして…音楽の
マネージャー業をやっている自分なんて、想像した事もなかったな…)
街を歩いている内に、一瞬だけ…サラリーマンをやっていた頃の自分の
姿が思い浮かんでいく。
自信がなくて、オドオドしてて…いつも弱腰だった頃の自分。
真面目さだけが唯一の取り得だった。
逆を言えばそれしか自分にとって誇れるものはなかった。
そんな自分の昔の姿が一瞬だけ、幻として見えて…あまりに懐かしくて
克哉はフっと自然と笑みを浮かべてしまっていた。
(あの頃は…今、思えば…息をしている事も辛かったよな。周りの目ばかり
気にして…強気に出る事もなくて。人と衝突したり意見がぶつかったりすると、争ったり
自己主張するのが怖くて自分が折れてばかりで…その癖、それをいつまでも
吹っ切れないで胸に抱えていたりとかな…)
そんな自分を懐かしく思えるのは、太一と過ごしたアメリカでの三年間が
あるからだろうか。
太一と過ごして、初めて…ケンカしながらでも、いやむしろ本心を言って
人とぶつかりあう事の本当の意味を知ることが出来た。
人と争うのが怖くて意見を殺してばかりいた頃の自分には、それは本当に
一種のカルチャーショックに近かった。
太一だけではない。アメリカという国で生きている人達は…第一線で
活躍している人は人と争うこと、ぶつかる事になっても…真摯に、真っ直ぐに
己の気持ちを他者にぶつけて、「自分を理解してもらう」努力を怠らなかった。
そんな世界で生きて…適度に自分の願いや意思を伝える事が出来るように
なった克哉にとっては…そんな過去の自分すらも、何故か愛おしく感じた。
「はは、何だろう。かつての自分を思い出す場所を歩いていると…
この三年間でどれだけオレは太一に変えられたんだろうって…
そんな事ばかり、気づかされるよな…」
駆け落ちしてからずっと、克哉の傍にはいつだって太一がいた。
当然、別々の意思を持つ良い大人同士なのだから…時には離れて
行動する時間だって沢山あった。
けれど、フっと気づいた時…まるで空気か何かのようにごく自然に
当たり前のように存在していたのは太一だけだった。
アメリカの方で太一のバンドが売れ始めた頃辺りは…たまに出来る
オフの時間は、殆ど恋人として過ごすことに費やしていた。
―克哉さん
そう、彼に呼ばれた気がして…フっと克哉は空を見上げた。
本当に自分は、重症だなと思った。
今朝、家を飛び出してから…こうやって一人で過ごしている間も…
自分の頭の中を占めているのは太一の事ばかりで。
「…はは、参ったな。こうやって恥ずかしくなって家を飛び出して…
久しぶりにゆっくりと一人の時間を過ごしているのに…考えているのは
太一の事ばっか何だよな…オレは…」
日が高くなった事でどこか肌寒かった空気がゆっくりと
暖められていく。
フワフワ、ポカポカとしている外気は…まるで、太一に背後から
そっと抱きしめられているような錯覚を覚えていく。
―克哉さん、寒い? それなら俺が暖めてあげるよ
そういって、背後から抱きしめてくれた事。
寒い日に、そっとこちらの手を優しく擦り上げてくれた事。
さりげなく上着を掛けてくれたり、暖かい飲み物をくれたり…
そんな他愛無い、温もりをくれた行為ばかりを思い出していく。
「気持ち良い…」
自然と、そんな言葉が出た。
セックスの時の快楽とはまた違う、心地よさ。
慌しい日常で疲れている心と身体に、ゆっくりと暖かなものが充電されて
いくような…そんな心持ちだった。
空に浮かぶのは眩い太陽。
十月だというのに目を焼くぐらいに鮮烈に輝く様子を…そっと手をかざして
いきながら、仰ぎ見ていく。
太陽がこんな風に輝く日は、離れていても…太一の事ばかり思い出す。
その事実が、普段傍にいる時には実感出来ない「何か」を克哉に
気づかせてくれた。
「あぁ…判った。これ…だったんだ。オレが見つけたかったものって…」
それは、言葉にするととても陳腐になってしまう。
けれど、離れて時を過ごしていても…常に相手と繋がっているという
確信を持てる。
目には見えないもの、触れる事で確かめることが出来ないもの。
…言葉に直すなら信頼とか、絆とか…そう呼ばれるものが、気づかない
間に…いつの間にか自分達の間に生まれて、紡がれていた事を…
そっと実感していく。
やっと気づくことが出来て…克哉は晴れやかな顔を浮かべていった。
「ふふ、太一には本当に敵わないよな…。いつの間にか、傍にいる事が
当たり前になっていて…。知らない内に、価値観とか色んなものが
変えられてしまって…革命を起こされたようなものだよな…」
五十嵐太一は、それまでの佐伯克哉を大きく変えた存在だった。
自信がなくて、うだつが上がらなかった頃の自分を認めてくれていた。
肯定して励まして、いつだってあの明るい笑顔で照らしていた。
これも…言葉にするとクサくなるが…「太一はオレの太陽だ」と
言うのが一番相応しかった。
多分、そんな事を口にしたら…きっと太一も照れるだろうけど。
そんな事を逡巡しながら…街道を歩き続けている内に大きなデパートに
辿り着いていく。
その店頭のディスプレイに、MGNの新商品…タイアップに使われて
大ヒットを治めた例の一曲が…流れていく。
ドキン
それについ目を釘付けにされて…足を止めていく。
画面の中の太一は、普段の気さくで明るい雰囲気とは打って
変わって…切なく真摯な表情を浮かべていった。
太一の唇から、甘くて優しいあのメロディが紡がれていく。
ドキン、ドキン…
少しずつ、脈拍が上がっていくのが判る。
いつも…間近で見すぎていたから気づかなかった。
太一が観客や視聴者にこんな顔を向けながら…歌っている事を。
それにチリリと嫉妬に似た気持ちを抱いたが、逆に自分は他のファンや
関係者が見れない…「恋人として」の太一の顔を独占している。
―離れていても、太一はラブソングに乗せて…克哉への愛を
しっかりと伝えてくれている
男同士という事も、最早これだけ好きあっているのなら関係ないじゃない?
そうはっきりと言うように…太一は、克哉への想いを隠さない。
それがあまりに堂々としすぎてあっけらかんと言い放つので…周囲の人間は
冗談程度に受け止めて、深く突っ込まれることはなかったけれど。
けれどその態度が、克哉を安心させていてくれたのもまた事実だった。
(何か…こうやって街中で、太一の歌が流れていると…嫌でも、太一の事ばかり
考えちゃうよな…。そうだ、このデパートで…太一が喜びそうなものを何か
探して…買っていこうかな…)
普段、一緒に行動する事が多いので…なかなか、太一に黙って何かを買って
びっくりさせる…という事が出来なかった。
スーパーで食材の買出しに行く時は一人のことが多いのだが…さすがに
其処では「プレゼント」出来るようなものを探すのは不向きだった。
目の前には随分と大きなデパートが立ち並んでいる。
本館8階、別館6階…どちらも地下はB2階まである、見ているだけで
圧巻されそうな立派なデパートを前にして…少しウキウキした気持ちに
なっていく。
「せっかくだから…この機会を生かそうかな。アメリカにいた頃も
今も…バンドが軌道に乗ってからは忙しくて、ゆっくりとプレゼントを
買いに行く暇すらなかったしな…」
離れて過ごすなら、その時間を生かそうと思った。
そう考えた克哉の心の中にはいつの間にか…あんなに意地悪い一言を
耳元で囁いてこちらを恥ずかしがらせてくれた太一への怒りやモヤモヤした
ものは…すっかりと抜け落ちていたのだった―
―現在、拠点にしているマンスリーマンションで五十嵐太一が
二度寝の後に身体を起こした時にはすでに佐伯克哉の姿はなかった。
家全体を探して確認してもやはり発見出来なかった事で、太一は
大きく溜め息をついていった。
「…はぁ、やっぱり克哉さんの姿はない、か…」
久しぶりに身体を重ねて、やっぱり自分の恋人は可愛いと…
心底思ったからこそ、ついいじめたい心境になってあんな過激な
発言を囁いてしまった訳だが、少々やりすぎてしまったようだ。
すでに時刻は正午近くを指そうとしている。
自分が二度寝から目覚めた頃には克哉も冷静になって戻って
来てくれているのではないか…と、そんな淡い期待もあったが
現実はそんなに甘くはなかったようだ。
「あ~あ…せっかく久しぶりの…克哉さんと一緒の連休だった
のにな…。初日からこれじゃ、台無しだよな…」
特にMGNの新商品のタイアップに使用された曲は爆発的な
大ヒットしたおかげで…帰国してからは太一が率いるバンドは
多忙を極めていた。
まさに移動中すらも睡眠に当てなければならない日々で。
最愛の克哉とまともに愛し合う時間すら取れない状態が
延々と続いていたのだ。
それで日本国内での太一達のバンドの仕事を仲介している
人物に直訴してやっとこの連休をもぎ取る事に成功したのに…。
(なのに…その初日に克哉さんと軽いケンカして、出て行かれ
ちゃうなんて凄い俺…不幸だよな…)
ガックリとうなだれながらふと…窓の向こうの景色を眺めて
いくと、外は晴天だった。
十月の半ばだというのに太陽がポカポカと地上を照らして
くれていて、散歩や外出をすれば気持ち良いこと
間違いなしの天候だった。
「…うわー、克哉さんがいれば一緒に外に行こうよ!
…って誘うのにな…。まったく…もう三年以上、俺と付き合っている
割には未だに反応がウブなんだよな…」
気付けば陽光に引き寄せられるかのように、リビングの窓際に立ち…
ガラガラと軽く音を立てながらガラス戸を開けていく。
その瞬間、秋風がそっと太一の方に向かって吹き抜けていく。
彼はそれを心地よさそうに受けていきながら…恋人のことばかり
考えてどこか幸せそうに微笑みを浮かべていった。
「ははっ…俺、克哉さんにはマジで敵わないかも…。こんな時でも、
こんな良い天気の日に…一緒に出掛けたら楽しいだろうなって
想像するだけで幸せな気持ちになってる自分がいるし…」
まあ、そんな気持ちになるのも…今回のケンカの内容がそんなに
深刻なものではないからだろう。
こちらに腹を立てて出ていった訳ではなく…恥ずかしくて
いたたまれないから飛び出していった事ぐらい分かっている。
…駆け落ち同然でアメリカに渡って同棲を始めたばかりの頃は
それぞれの生い立ちから来ている考え方の違いなどで何度も
衝突を繰り返していた。
正直、その度にもう自分達は終わりかも…と不安がよぎった事は
何度もあった。
けれど何回、言い争いをしても擦れ違おうとも太一は見込みが
ある限りは克哉の手を絶対に離すものかと食い付いていた。
その結果―自分達は三年経過した後でもこうして一緒にいるのだ。
(…今更、こんな事ぐらいで俺達が駄目になる訳ないしね…)
今は克哉に対して、それだけ自信が持てるからこそ…あまり
太一は動じていなかった。
けれど、心の中にぽっかりと空洞が出来てしまったような部分が
あるのも確かで。
心の中は克哉のことでいっぱいなのに、当の本人がいない。
両思いで、三年も一緒に自分達はいるというのに…今の心境は
まるであの人に片思いしていた頃のような気持ちだった。
(何か懐かしいな…。パン咥えて走っている克哉さんのことが
気になった日から…毎日、毎日考えたっけ。
あの人、いつかロイドに来てくれないのかな~。どんな人
なのかな、話したらきっと楽しいだろうな…とか、毎日…知り合う前は
考えていたっけ…)
ふと、出会う前に喫茶店ロイドの前の道路を掃除している自分を
思い出した。
朝早くに外に出る度、無意識に克哉の姿を探していた日々。
あの頃はその気持ちが恋の始まりだったと自覚する事はなかった。
―空を見ると、どうしてかあの人に纏わる思い出ばかりが喚起される
その気持ちはどこか甘酸っぱくて、くすぐったい感じがした。
まるで青少年のような、そんな無垢な気持ちを…未だにあの人に
対してだけは抱いている自分に、つい笑いたくなった。
「はは…傍にいるのがいつの間にか、当たり前になっていたから…
忘れていたな。例えその人が常に傍にいなくったって…ただ、考えて
想うだけでも…充分、満たされた気持ちになれるって事を…」
心が、克哉のことだけで満ちる。
それは心地よくて…思わずトランスしたくなるぐらいの気持ちよさだった。
そうしている内に、その気持ちをどこかに残しておきたい。
太一はそんな心境になった。
自分の心の中から、それが一つのメロディと歌詞になって吹き出してくる。
―空と爽やかな風に包まれながら生まれ出でる想い
それを自覚した瞬間、太一の中に…子供のような発想が生じていく。
考えている内に、次第に楽しくなって…悪戯っ子のような表情を
浮かべ始めていく。
「…この空を見ながら、作曲っていうのも悪くないかもな…」
それはまるで、何かを企んでいるような意味深な微笑み。
けど、その発想を思いついた太一は心から愉快そうだった。
せっかくの連休を、あの人と一緒に過ごせないのは寂しいし勿体ないけれど
それをどうせなら生かそう、と前向きな気持ちになっていく。
―晴れ渡る空が見れる日なら、こんなに鮮明に貴方を思い出せる。
なら、それに浸りながら一日を過ごすのも悪くないと。
そう考えて…太一は、窓を開いた状態で机の上から、楽譜とペンを持ってきて
縁側でそのメロディを書き残し始めたのだった―
履歴書をせっせと書いていた為に更新する時間が
取れなかったYO! な状態になっていました。
まあ、気合入れて履歴書作成&面接したおかげで
就職活動一番目で、早速内定取りました。
今勤めているアルミ工場が21日に終わったら…
三連休挟んですぐに、食品工場勤めます。
普通女性の応募者は計量とかパック詰めの方に回されるん
ですが…それだと働く時間が短くて。
それだと生活厳しいんですよ! 以前の職場で30~40キロの
氷とか持ち運んだり、一匹3~5キロぐらいあるカンパチやハマチを
真冬に氷水に手を突っ込んで動き回ったりしていた経験あるので、
重い物持つ仕事も平気です!
男の中に混じって、怒鳴られたり厳しくバシバシやられても
簡単に逃げ出さない根性だけはあります!
と言い張って、普通男性が担当する仕事の方をやりたい! と
言い張ったら…計量、パック詰めも経験あるし、重い物も持てるなら…
という感じで、男性側の待遇で入ることになりました。
…ちょっと、女性で力仕事もこれだけ堂々とやります! と言い張った
応募者は初めてなので驚きました…とか面接担当の人に言われましたが
その熱意のおかげで、20分ほどですぐに内定決まりました。
いや、女性の方だと時給100円安い上に働く時間が2時間短いので…
それだと極貧生活まっしぐらになるので。
なら、いざとなれば…200~300キロぐらいの物なら押して動かせる
馬力あるなら、男性の仕事やっても問題ないだろうと…(汗)
もう一件の方は片道1時間40~50分の代わりに軽作業でも高給で
代わりに夜遅くに帰ってくるのが必死な工場団地だったのですよ。
駅からバス乗ったら40分ぐらいの位置だったので通うの大変だよな~と
いうのと…面接官が難しい顔をして「沢山応募が来てしまって、現在の時点では
即決で返事が出来ない」と言われたので。
「他の場所ですでに内定決まっているので今回は辞退します。また機会が
ありましたら宜しくお願いします」
とニコリと笑いながら、潔く立ち去りました。
…行くのに凄い時間掛かって三分で終わった面接っていうのも、ある意味
凄いですが。(しかも本人から辞退)
まあ、川崎駅周辺のバス周遊の機会が出来たと思えば良いかとさっさと
割り切って帰って来ました。
川崎駅周辺の本屋で、欲しかった本とか探していた本を結構発掘出来たので
収穫は充分ありましたし。
つ~訳で本日、新しい職場決まりました。
給金高くても競争率も高くて、受かるかどうか判らない場所に固執して
せっかくの縁を台無しにするよりも。
多少安くても、こちらにすぐ来て欲しいと求めてくれている場所に行った
方がこの場合は良いだろうと判断して、迷わないことにしました。
それに小説を書くって運動不足になりがちだし。
仕事で身体使った方が私の場合は良いだろうと思いましたしね。
正月に向けて、これから繁盛期を迎える模様。
恐らくそういった理由で体力の限界だと思ったら時々休ませて
頂きます。
まあ、冬コミ原稿も変更してやりますが…まあ、やるっきゃないかと
頑張ることにしますわ。
今日の分のアップはまた日付変更間際になります。
ご了承下さい(ペコリ)
以前にC様に捧げさせて頂いた誕生日祝いの話の
第一話です。
ここ暫くは家の関係でバタバタして止まっていましたが幾分
回復してきたのでこちらも近日中に完結させます。
C様、もう少しだけお待ち下さいませ(私信)
―ほんっと、信じられない! 太一のバカァ!
…数時間前の、自分の叫びを思い出していきながら…
佐伯克哉は、都内の小さな噴水のある公園の敷地内に
立ち寄って、ベンチに座りながら空を眺めていた。
10月の中旬に入って、空気はひんやりとし始めていたが
太陽が出ている間はやはりポカポカと暖かく…ただ、目を瞑って
日向ぼっこをしているだけでも気持ちが良かった。
(良い天気だなぁ…)
しみじみと思いながら、佐伯克哉は…そっと、手を上に組み上げて
座った状態で大きく伸びをしていった。
克哉は着慣れたシンプルなデザインのパーカーにジーンズという
簡素な服装をしていた。
太一と一緒に駆け落ち同然にアメリカに渡ってから三年。
向こうで成功して、それなりに名が知られるようになった頃…連絡を
続けていた本多の紹介で、MGNの新商品のタイアップ曲に太一の
新曲が登用される事になった。
克哉と太一はそれをキッカケに帰国して現在は日本を拠点にして
活動をしていた。
CMに使われたタイアップ曲は、太一が全力を注いで作った力作で
あった為に大変な評判を呼び、あっという間に日本国内においても太一の
バンドは名が知られるようになった。
それから実に多忙な日々を送って…何ヶ月ぶりかに二人でゆっくりと
何日か過ごせる休暇をようやく設定出来たのだ。
そして本日は…久しぶりに恋人同士として甘い一時を過ごせる幸福な三日間の
始まりであった筈なのに…。
「あ~あ…勢いで飛び出してしまったけれど…これから先、本当に
どうしようかな…」
しょんぼりと肩を落としていきながら…少し切なそうな表情を浮かべて
克哉は空を眺めていった。
空には眩いばかりの太陽が燦然と輝いている。
お日様を見ていると、どうしても太一の事ばかり考えてしまう自分は
本当に重症だと思った。
「太一の、バカ…あんな事を、エッチした翌朝に耳元で囁かれたら恥ずかしくて
顔を見ていられなくなって当たり前じゃないか…」
つい、無意識の内に右耳を押さえながら克哉は顔を真っ赤にしていく。
―…克哉さん、あのね………
一瞬、さっき囁かれた言葉が鮮明に脳裏に蘇って、火が点きそうな勢いで
瞬く間に耳まで朱に染まっていった。
そう、その言葉が余りに恥ずかしくて…照れくさくて、こそばゆくて仕方なくて
それで、それを隠す為に太一に向かってバカバカ言って、軽い喧嘩をしてしまって
飛び出してしまったのだ。
(せっかく…二人で一緒に休める連休が取れた初日に…何をやっている
んだろうな…オレって…)
現在、東京都内を拠点に活動しているので東京郊外のマンスリーマンションを
借りて二人は暮らしていた。
それで先に飛び出して来たのは自分の方の癖に、太一はちゃんとした
朝食を食べただろうかとか気にしてしまっていた。
「…太一、ちゃんと今朝作っておいたワカメとネギの味噌汁に気づいて
飲んでくれたかな…。放っておくと、太一ってコンビニ食とかカップラーメンで
過ごしちゃうからな…」
恋人としても、太一のバンドをマネージメントしている人間として…
どうしても相手の体調や健康が気になってしまうので、ついそんな心配を
してしまっていた。
太一のコンビニ好きは海外で三年過ごした上でも相変わらず…いや、むしろ
日本を離れていた分だけちょっとグレードアップしてしまっている部分があった。
だから暇を見て移動中にコンビニに行きたがるし、目を盗んで抜け出して
知らない内に新しいレトルト食品やカップラーメン、お弁当類の類が
増えている事は数え切れないくらいあった。
(…って、喧嘩して出て来たばかりなのに、どうして太一の体調の心配とか
しちゃっているんだよ…オレは…)
そんな事を真剣に考えている自分に気づいて、つい突っ込みたくなりながら…
ホウっと息を吐いて空を眺めていく。
克哉の中で、太一のイメージはいつだって太陽だ。
ポカポカと暖かく、こちらの身も心も暖めてくれる。
彼にとって、今…自分の大切な恋人となった年下の青年は、そんな存在だった。
「本当に、太一は…オレの事を全身で好きだって言ってくれる…想いをちゃんと
口に出して伝えてくれるのは凄く嬉しいけど、ね。あんまりにもストレートすぎて、
真っ直ぐすぎて…やっぱりたまに、困惑しちゃうな…」
苦笑を浮かべながら、三年間一緒にいて…今まで太一がこちらに与えて
くれた沢山の宝石のような言葉を思い出していく。
それを思い出した後、鮮明に相手の笑顔を思い出して…幻の中の太一が
しっかりと告げていく。
―克哉さん、大好き!
あまりに屈託なく、そう告げてくる太一の顔を思い出して…知らず微笑んで
しまっている自分がいる。
せっかくのオフの日に、こうして離れて過ごしているのは不毛なもかも
知れない。
けれど…まだ、太一の下に帰る気になれなかった。
(…まだ気持ちがモヤモヤして、すっきりしていないな…)
太陽を眺めて、つい恋人の事ばかり考えてしまっている癖に…同時に
形容しがたい感情がジワリ…と広がっていった。
そう、それは言葉に出せない違和感に近かった。
こんなささいな事で、太一のことを嫌いになんてなる訳がない。
今までの人生の中で彼ほど、自分を好きだと言ってくれた人間はいなかった。
必要としてくれた存在はなかった。
けれど…帰国して日本国内で正式に音楽活動を始めてからは余りに
多忙な日々が続いていてて…こんな風に一人で物思いに耽る暇すら
なかった事に気づいた。
そのことに気づいて、克哉は己の胸に手を当ててそっと考え始めていく。
―何か忙しい日々の合間に、取りこぼしてしまった想いがある…
太陽を見てて、その事におぼろげながら気づいていく。
その答えを知りたくて、もう少しだけここにいたい気持ちになった。
(もうちょっとだけ…こうして、日向ぼっこをしていようかな…)
恐らく、あんな書き置き一枚残して黙ってアパートを出て来た自分を
太一は必死になって探しているかも知れない。
けれど、もう少しだけ…一人になって、しっかりと見つめてみたかった。
こんなモヤモヤした気持ちを抱えたままでいるよりも、すっきりとした気持ちと
笑顔で戻りたいと思ったから。
そう考えて、空を眺め続けている克哉に向かって爽やかな風が静かに
吹いていった。
―忙しい日々に埋もれた、自分の想いをカケラを見つけ出したかった
そう思ったから、克哉はそっと吹き抜けていく秋風を素直に受けていきながら
目を伏せていく。
顔を上げていくと見事な秋晴れの空が広がっていたのだった―
今回の冬コミ、何と幸いな事に受かっていました!
当方のスペースは…以下の通りです。
12月28日(一日目) 東3ホール ア-09aです!
うっうっ…夏コミ、スプレーオンリーと連続して落ちて、せめて
冬コミだけは…! と祈っていたら今回は通じたよ!
5月のプチオンリー以来、自分のサークルで参加するのは
久しぶりなので本気で嬉しいですv
(何かサークル参加してないのに無料配布本出したりはしてたけど…)
えっと当日の新刊予定は以下の通りです。
これで落としたら私、笑いものなので自分の逃げ道を断つ意味で
今の時点から掲載しておきます。
一冊目 「克克新婚本」
オフで80~120Pぐらいの厚さの本になる予定。
サイトに掲載中の「克克新婚本シリーズ」の1~12(10~12は
今月中に書き上げる予定)までの再録と…挙式編、初夜編
そして…最初の三ヶ月が過ぎた後の一区切りの話の三本を
書き下ろした話です。(全部で15話収録予定)
ページ数が非常に幅あるのは、現時点では全部書き上がって
ないからまだ予定立たないだけです。
見通しついたらまた正式なP数を掲載します(ペコリ)
表紙&挿絵は「最果て」のおしげさんです!
いっつも表紙どうしよう! と苦しげながらに描いていたので
今回引き受けて下さってマジで嬉しいです!!
快く引き受けてくれてありがと~!! 感謝しているわ!
って私が一番テンション上がっていますが、おしげさんの表紙に
ハァハァな挿絵が何枚かセットで付いて来ますv
「挿絵はおしげさんが描きたい場面を好きなように選んで良いよ~」
という相手任せの指定なので、どの場面を選んで来るのか
今から私も楽しみです♪
後、口絵に「バッドエンド補完計画」の木口薄荷様
(以前に挙式編に当たる話をキリリクで描いて頂いていたので…)
「眼鏡依存症」の如月様。
「地球の星屑」の気有様、そしておしげさんが以前に進呈してくれた
「いってらっしゃい」のカラーの計4枚が追加されます。
凄い豪華なゲストがつきました…(ガタフルガタフル)
快く掲載許可&依頼引き受けて下さった皆様に心から
感謝致します(なむ~)
二冊目は…W克哉&澤村本
これも表紙はおしげさんの予定。
余力あれば…おしげさんの熱いコメントページとか、イラストPが
つくかも知れない感じで。
依頼の電話中、おしげさんが「私って漫画はちょっと苦手なんですが
一枚絵や表紙を描くのは結構好きなんです~」みたいな発言があったので
んじゃ二冊目は表紙だけお願い出来る? と頼んでOK貰いました。
二冊目の候補は色々あったんですが…一個目の候補は何かノリ気じゃ
なかったみたいなので、そういえばおしげさん澤村好きだったよな~。
私も以前からトラウマ君のせめて容姿と名前ぐらい判ったら書いてみたい
話(キチメガR関係なく、一作目で判っている情報の範囲で)があったよな~と
漠然に思ったんで提案してみたら…。
さっきと違っておしげさんの食いつき方が段違いでした!
…ん~表紙描いて貰うなら、テンション上がる話の方が絶対に
良いよなと思ったのでこちらを選択しました。
こちらは克克新婚本と違って、P数は24~36Pぐらい。
まずは一冊目の方をお互い最優先にしよう! と意見が一致したので
これはオフ本では間に合わないと判断したら、コピーになる可能性が
あります。
オフ本の場合だと400~500円前後。コピーだと200~300円程度の
値段で販売する予定です。
内容はキチメガRと被らないように、御克ルートで…夢の中に澤村が
現れて、ノマが危機一髪な状態に陥るのでその寸前で眼鏡が現れて…と
いう流れの、微エロ&切ない系の話にする予定。
勝手な脚色&本編のキャラからは発生しようのない捏造は私自身があまり
好きでないので…澤村が出ては来ますが、1作目をベースにして執筆を
する感じになると思います。
後は余力あれば、無料配布か…前ジャンルの知り合いの為に王レベの
新刊を一冊ぐらい片隅に置こうかしら~という感じです。
(遠方の知り合いが来るって連絡が来たので)
まあ…二冊は新刊出せるようにこれから頑張りますv
また、色々と詳細が決まりましたら随時…お伝えしていきます。
それではv
達したばかりの身体は敏感になっているが…同時に脱力しているので
泡風呂の中に沈められていくと、まるで空に浮かんでいるような
奇妙な気分がした。
(フワフワの泡が、何か雲っぽく感じられるな…)
湯船に放り込まれた後、すぐにもう一人の自分が入ってきて
背後から抱きすくめられるような格好になっていく。
そしてそのまま…一緒に湯に浸かっていた。
眼鏡が優しく、克哉の髪を梳いていきながら生え際や米神に
小さくキスを落としていく。
…そういう、微細な刺激が妙に心地よく感じられた。
「ん…何か、気持ち良い…」
湯船の中で身を寄せ合うのも不思議な感じだ。
肌が吸い付いているような、ツルリと滑っているような…そんな
奇妙な感覚を互いに身体を軽く動かす度に感じていく。
それでも…少し温いぐらいのお湯は、熱く貪りあった身体には
むしろ丁度良くて。
無意識の内に…縋るものを求めるように、後ろにいるもう一人の
自分の指先を求めて…そっと握っていく。
「…気分は、どうだ…?」
「うっ…ん…悪くないよ…。むしろ、フワフワして…良い、気持ち…」
「そうか…」
背後で、眼鏡がフっと笑ったような気配を感じた。
その後、ふわりと柔らかい沈黙が二人の間に落ちていった。
時々、身体が揺れあうので…その度にチャプチャプ、という水音だけが
辺りに響いていくが…せいぜいそれくらいで。
お互いに無言のまま、指を這わせて…さりげなく相手の身体を
触りあったりしていた。
ミルクの香りが充満するバスルームで…こんな風にゆったりした
一時を過ごすと、こんなに満たされた気分になるなんて…予想も
していなかった。
相変わらず、もう一人の自分は身勝手でこちらのペースなんて
お構いなしの酷い奴だけど、こうやって抱き合った後に優しくして
くれる一時は、かなり好きだった。
(結婚前は…いつもヤルだけヤッたらすぐにこいつは消えてしまって
いたからな…)
一人で終わった後に残されるその度に、切なくて。
こんな寂しい気持ちを味わい続けるなら…いっそ、もう出て来るなよ!と
思った時期もあった。
抱かれる度に、自分の中ではこいつの存在が大きくなっていって。
そんなの究極のナルシストじゃないか…と、自分で信じられなかった。
(あぁ…でも、この一ヶ月は…毎晩抱かれて身体的に辛い部分はあるけど…
毎日が、幸せだよな…)
いつコイツが現れるか判らず、焦燥していた時期を思えば…今は
毎日、一緒に過ごせて。
抱かれた後も、こいつの寝顔をたまに見れる日まである。
いつも終わったら消えてしまう…そんな切ない日々を過ごしていた時を
思えば、一緒にいられる事。
それ自体が…とても、幸せな事なのではないだろうか…?
湯船に浸かって、リラックスした状態だからこそ…何となく克哉は
その事実に気づいていった。
さりげなく、こちらの身体をそっと背後から抱きしめるように…相手の
両腕が、克哉の胸の辺りで交差していく。
その手に何気なく、克哉は己の手を乗せていった。
式を挙げたのに、自分達の指先には…その証である指輪は存在しない。
いや、あの夜は確かにあった。
儀式の最中に…指輪を交換したのは、確かに覚えていたから。
けれど、激しく抱かれて意識が朦朧として…この新居で目覚めた時には
すでに無くて…。
(あの夜の記憶は…かなり曖昧、だよな…しかも、新居で目覚めた時には
ほぼ丸一日が過ぎていて、夜で…その…)
その初夜の記憶まで思い出して、克哉はカアっと赤くなった。
今思えば…この一ヶ月は抱かれてばかりだった。
克哉はそれに気づいて、だんだんこうして相手の腕の中にいる事が
いたたまれない気持ちになっていった。
「なあ…さっきの指輪の話、信じて良いのか…?」
蒸し返すのは、しつこいと思われるかも知れない。
そう思ったが、それでも聞き返さずにはいられなかった。
克哉がそう問いかけた瞬間、いきなり顎を掴まれて…苦しい
体制で、強引に口付けられていく。
あまりの激しさに、つい息苦しくなって呼吸困難に陥りそうな
ぐらいだった。
だが、その熱烈なキスが…何よりもはっきりと、眼鏡の意思を
伝えてくれていた。
―俺を信じろ
と、態度ではっきりと示してくれているような、そんな気がした。
「はっ…ぁ…」
「…不安は、治まったか…?」
「うん、大分…」
ぐったりとなりながら、もう一人の自分の身体の上に凭れかかっていく。
こうやって…身を寄せ合って、一緒にいるのがとても気持ちよかった。
「…まったく、お前は…こちらに尋ねるばかりで、全然…俺が言って欲しいと
望んでいる事は口にしないな…?」
「えっ…どういう、事…?」
「…お前は、指輪がなくて不安を感じているみたいだが…俺だって、お前の方から
まったく「好き」とか「愛している」とか…口にしてくれなかったら、少しぐらいは
不安を感じると…思ったことはないのか…?」
「っ…! そ、それは…」
眼鏡に指摘されて、ハっと気づいていく。
そういえば…この一ヶ月、毎晩のように抱かれていたから…失念していたけど
毎日、肌を重ねていても…お互いに、そういう類の言葉は口にしていなかった
のは確かだった。
「…俺は、そんな事で不安を感じるぐらいなら…お前にもう少し『好き』と
いう言葉ぐらいは言って欲しいがな…」
「ご、御免…」
「謝るぐらいなら、今言ったらどうだ? 俺はいつだって…お前からの
その一言を待ち望んでいるんだぞ…?」
そんな事を言われながら、背後から手を伸ばされて…顎から首筋に
掛けてゆっくりとくすぐられていく。
その感覚に肌が粟立っていくような心持ちになっていく。
暖かいお湯の中のせいかいつもよりもフワ~と気持ちが、解れていく。
だから普段は羞恥と意地が邪魔をして、なかなか言えないでいた言葉が
すんなりと口を突いた。
「…お前の事、好き…だよ…」
凄く躊躇いがちではあったが、気恥ずかしそうに克哉が呟いていく。
それだけで耳まで真っ赤に染まっていった。
その様子に気づいて…再び、眼鏡が笑っていった。
「よく言えたな…俺も、お前を好きだぞ…」
「ん、判っている…」
そうして、再び唇を重ね合う。
言葉を交し合った後でのキスは、快感もひとしおで…つい、腰をモジモジと
させていくと…自分の臀部辺りで、相手のモノもはっきりと息づいているのに
気づいていった。
「っ…!」
「それじゃあ、お互いの想いを確認しあうとするか…」
「ちょ、ちょっと待って! まだ、さっきの疲れがあるんだけど!」
「関係ない。それとも…お前がそんな可愛いことを言った直後に、俺に我慢を
しろと言うつもりなのか…?」
「だから、何でそんなにお前…いつも盛れるんだよ! 一日に何回も何回も
抱かれたら、オレだって身体が持たな…んんっ!」
腕の中で克哉がジタバタ暴れていくと、それを押さえつけるように
強引に眼鏡がそのうるさい口を塞いでいった。
そのまま…スルリと、相手のモノが自分の中に割り入ってくると…最早
克哉は観念するしかなくなっていく。
―こいつは本当に…! けど…それだけ、求めてくれているって事…なの、かな…?
怒る気持ちと、求められて嬉しい気持ちが半々になっていく。
フっと瞼を開けて、相手の顔を見つめていくと…眼鏡の、アイスブルーの瞳が
優しい色を湛えているのに気づいて…抵抗を止めていった。
(こんな目で見つめられたら…断わりきれない、よな…)
それを認めるのは悔しかったけれど。
自分も、その眼差しを自覚した瞬間…もう一度相手が、欲しくなってしまった。
だから…ようやく克哉は抵抗を止めて、その首に腕を回していった。
濃厚なミルクの香りに包まれながら、再び二人は熱い一時を過ごしていく。
この日々がいつまで続くかは…今は判らない。
けれど、会えなくて気が狂いそうな夜を思えば…今は確かに、克哉は
幸せで満たされた日々を送っていた。
その幸せを噛み締めて、再び…情熱に身を委ねていく。
相手の熱さを身の奥で感じながら、克哉は再び…狂乱の中へと
愛しい人間の手で落とされていったのだった―
結ばれてから早くも半年が経過しようとしていた。
秋の終わりの頃に再会してから…気づけば、新緑が青々と茂り
ポカポカと暖かい春へと季節は移り変わっていた。
その期間の間に、佐伯克哉はMGNを退社して…新しい会社を
設立し、その共同経営者として御堂に誘いをかけていた。
それから…無我夢中で、二人とも働き尽くめの日々を送っていた。
だが、その多忙な日々が…長く離れてすれ違っていた二人を
強く結びつけてくれたのもまた、事実だった。
そして…GWを間際に控えたある日、二人は長期連休明けから
動き出す新しい企画の最終確認を会議室にて行っていた。
まだ新しいピカピカと輝く机の上には、これからの仕事に必要な
資料や企画書が綺麗に纏められた状態でびっしりと並んでいた。
二人は新しい報告をすると同時に、関連資料を手に取り合って
確認していき…それの繰り返しをすでに二時間近く行っていた。
これから動かす企画は、この会社が今まで扱ったことがあるものの
中では最大の規模になる。
だから克哉も御堂も真剣な表情で、討論しあい…今後の方針は
これで良いか、企画書や書類に…間違いがないかどうかを真剣に
確認し合っていた。
「…現状でそちらに報告する事は、以上だ。…とりあえず、これで…
問題はなさそうだな」
「あぁ、そのようだな。…随分と資料集めや、下請けの準備をするのに
手間取ったが…これでGW明けには正式に企画を動かせそうだ。
…君の手腕は、流石だな…佐伯」
「…まあな、これくらいの事をこなすのは当然だろう? それにこの
件の全ての準備が整ったのは…あんたが協力してくれたのも大きい。
本当に俺は頼もしいパートナーを得たものだな…孝典」
そんなに広くない会議室で、長時間顔を突き合わせて検討を続けていた後で…
克哉が優しい顔をしながら、真正面からこちらを褒めてくるものだから…
御堂は不意を突かれたような気持ちになって、あっという間に真っ赤になっていた。
「なっ…! 会社の中では、下の名前で呼ぶなと何度も言っているだろう…!」
つい、照れくさくて…相手から目を逸らしてソッポを向いていく。
そんな恋人の姿が可愛くて、つい克哉は…喉の奥で笑いをかみ殺しながら
そっと御堂の方へと手を伸ばしていった。
克哉の指先は、恋人を慈しむように穏やかに頬を撫ぜていった。
…それだけで、心臓の鼓動が跳ね上がる思いをしたので…つい、
恥ずかしくなって御堂は全力で振り払おうと、頭を振っていった。
「…っ! 佐伯、止め…!」
「…俺が入る時、キチンとこの部屋には鍵を掛けてる。あんたが大声を
出さない限りは…外の連中に不審がられる事はないぞ…?」
「…って、就業時間に何を考えているんだ! 今は藤田を始め…私達の下には
色んな人間が働いているんだぞ! 仕事時間中にそんな…」
「…俺はただ、お前に触れたいと思っているだけだが? 別に…今、ここで
お前を抱くとは一言も言っていないだろう・・・? 確認を終えてほっと出来たから
あんたを愛でたい気分になっただけだ? それがそんなに…文句を言われなければ
ならない事なのか…?」
唐突に、克哉が殊勝な態度でそんな事をいうものだから…御堂は言葉に
詰まるしかなかった。
これで「あんたを抱きたい」と、二人で会社を興したばかりの頃のような
発言をしたのなら全力で拒んで、この手を跳ね除けることが出来る。
「ぐっ…! それは…その…。コホン、触れ合うだけなら…良い。
だが、それ以上のことをしたら…怒るぞ。判ったな…」
少し憮然とした表情を浮かべながら…御堂なりの妥協案を出していく。
それを聞いて…克哉は嬉しそうに、そっと微笑んでいった。
「あぁ…判った」
そのまま、ゆっくりと腕を引かれて…椅子ごと克哉の方に引き寄せられて
正面から抱きすくめられていく。
顔は見えなかったが、触れられる指先から…じんわりと、暖かなものが
滲み始めていく。
それが気恥ずかしくて、御堂はつい…窓の方に視線を移して、克哉から
気持ちを逸らそうと必死になっていた。
(…佐伯にこんな風に優しくされると…未だに、照れくさくて仕方なくなるな…)
ふと、窓の外を眺めていくと…外の天気は随分と良かった。
恐らく日向ぼっことか散歩をしたら、とても気持ち良いだろうと思える
陽気であった。
…彼と再会したばかりの頃は、風が冷たくなり始めた時期だ。
佐伯克哉との思い出は、苦くて痛みを伴うばかりだった。
なのに忘れられなくて、惹かれてしまっている自分が信じられなくて…
それでも彼を追いかけ続けていたあの時期をふと思い出して…
フっと不思議に思ってしまった。
(まさか…君とこうして共に春の訪れを迎えて、こんなに暖かい一時を
過ごせるようになるとはな…。あの時期は、考えた事もなかった…)
再会したばかりの、自分から逃げ続けている姿から。
手に届くと思った瞬間にもう一人の彼に切り替わって…奇妙な体験を
したその時には、こんな風な時間を過ごせる間柄になるとはまったく
考えた事もなかった。
そのまま克哉に、慈しまれるように顎から首筋のラインを
撫ぜられて…その手がゆっくりと降下していく。
そして怪しく、胸の突起を生地の上から刺激されていくとハッと
なって慌てて相手の手の甲をつねっていった。
「こらっ! ちょっと待って! 君はどこを弄っているんだ…!」
「あんたと俺の仲だ。今更だろ…!」
油断大敵。
やはりこの男に対して、こんな風に無防備に気を許すとロクな事がない。
プチ、っと額に青筋を浮かべていきながら…御堂は叫んでいった。
「少しぐらい時と場所を選べ! このバカっ!」
反射的にそう叫んで、手近にあった分厚い資料の本でバシッっと
その頭叩いていった。
バシィィィィン!
克哉の頭に丸めた資料の本が見事にクリーンヒットして、小気味が
良い音が立っていく。
そして克哉はそのまま、反動でパタリ…と机の上に突っ伏していった。
「…し、しまった。つい反射的にやってしまった…」
相手のあまりにお約束な行動パターンに、ついこんな反応をしてしまったが
克哉はそれで見事なぐらいに動かなかくなってしまった。
「佐伯…?」
一瞬で立ち上がらず、そのまま克哉が机に突っ伏したままの状態が
続いていたので…御堂が心配そうに声を掛けていくと。
「プッ…アハハハ…っ!」
いきなり、克哉の声のトーンが…ガラリ、と変わっていった。
すでにこの半年、低く掠れた方の声にすっかりと耳が慣れていた為に…
彼が、かつてはこんな声も出していたのだと…その事実を半ば、忘れて
しまっていたので…御堂は驚愕していた。
「佐伯、一体…どうしたんだ…?」
御堂が瞠目しながら問いかけていくと…克哉はゆっくりと…顔を
上げていく。
ごく自然な動作で、眼鏡を外したその表情は…御堂にとって
とても懐かしいもので…。
「…貴方が、幸せそうで安心しました…」
ひどく穏やかで優しい声音で、そう呟かれて…すぐに、御堂はそれが
もう一人の克哉である事を理解していった。
「き、君は…」
こうして、『彼』の方の意識と会話するのは…半年振り、だった。
日常の中でも、一緒にいる間…ほんの一瞬だけ、克哉の表情がガラリと
変わる瞬間はあった。
けれどそれはいつも瞬きするほどの僅かな時間。
目が合って少しの時間、微笑み合う程度しかなかった。
だからいきなり、彼の方の意識と遭遇して…御堂は動揺していたが…
彼は一言だけ、こう告げて儚く笑っていった。
―本当に、良かった
自分達がこうして今も一緒にいる事を。
寄り添い、共に一つの目標に向かっている事を本当に心から嬉しそうに
笑うから、だから自然と御堂も微笑んでしまっていた。
(あぁ、君はいつも…私達を見守ってくれているんだな…)
そのことを実感して、柔らかく二人は微笑み合う。
それが、彼の願いでもあると…すでに克哉から聞かされていたから。
あの自分達が結ばれた日以降、想いを確認し合ってから暫く
経ってから彼は確かにいった。
―もう一人の『オレ』がもし、出てくることがあったら…その時は
微笑んでやってくれ。それがあいつの願いでもあるから…
もう一人の克哉の存在の殆どが、今生きている克哉に統合される
間際に願った事は、そんなささやかな事だった。
克哉の傍に御堂がいてくれる事。
そして、幸せそうでいれば自分は何もいらない。
ただ、笑っていてくれれば良いと彼はそう願ったと聞かされた。
だから御堂は、微笑んでいく。
それはとても穏やかな気持ちで、いつも克哉の傍にいるとドキドキ
ハラハラして落ち着かないのとまったく対極の心境だった。
ただ、相手を求めて焦がれるだけではない。
静かに相手の幸福を願い、遠くから見守る「愛の形」もある。
もう一人の克哉が選んだのは、それだったのだ。
貴方達二人を「此処」で見守ると…そう、その微笑が伝えてくれている。
それが…御堂の心に、安らぎを齎して、そうして…彼の意識が
まるで夢幻であったかのように儚く消えていった。
―そうして、緩やかにいつもの克哉の顔へと戻っていく。
その変化は、とても不思議だけど自然で…以前に遭遇した時よりも
すんなりと受け入れている自分がいた。
「んっ…? 御堂…?」
眼鏡を外して、目を伏せながら手探りで愛用の眼鏡を探している
克哉はちょっとだけ隙がある感じで可愛らしく感じられた。
「君の眼鏡は、ここだ…」
さっきまでのちょっとした怒りなど、もう今の一時で吹き飛んでしまって
いたので…穏やかに微笑みながら、御堂は彼に眼鏡を掛けていってやる。
「ん…すまないな」
「いや、別に良い…気にしなくても、な…」
珍しく素直な態度を取る相手に、自然と微笑んでしまう。
『彼』が出た直後の克哉は、いつも少しだけ柔らかい雰囲気になる。
いつもの克哉が張り詰めて、気を引き締めたくなるような空気を纏って
いるのに対して…ふわりと、優しくなれるような雰囲気へと変わる。
最初の頃は彼のその変貌振りに戸惑い、驚かされる事が多かったが
今は御堂は動じることなく…あっさりと受け入れるようになった。
(どんな君でも、私が愛した…佐伯克哉という人間の一面だからな…)
「…あんた、凄く優しく微笑んでいるな。もしかして…今、俺がボーと
している間に…あいつが出ていたのか…?」
「あぁ、その通りだ。久しぶりに彼が現れたから…軽く微笑み合って
いた所だ…」
そう素直に答えていってやると、克哉は憮然としたような表情を
浮かべていく。
どうやら少し拗ねているようであった。
「…チッ、正直言うと妬けるな。あんたは滅多に俺に対してそんな
優しい顔など浮かべてくれない癖に…」
「…それだったら、私がそんな優しい表情を浮かべたくなるような
言動や行動を取るように心掛けたまえ。ま、君のような意地の悪い
男にそんな事を要求するだけ間違っているという自覚はあるがな…」
「…まったく、あんたも随分というようになったな。ま…俺に対して
正直に腹を割って話してくれるようになった分だけ嬉しいがな…」
そうして、克哉が心から嬉しそうに笑う。
それはもう一人の彼に比べたらやはりシニカルなものであったけれど
けれど…かつて、こちらに対して酷い行為を繰り返したいた頃の彼からは
考えられない姿でもあった。
(…幸せ、だな…)
その顔を見て、正直にそう思えた。
かつて、手を伸ばして「克哉」という存在がすり抜けていってしまった
頃からは想像も出来ない一時を過ごしている。
「あぁ、君は今は公私ともに私の大切なパートナーなのだからな。
言いたい事を抑えたり、取り繕っても今更どうしようもないだろう?」
そして、さもそれを当たり前のように口にする自分自身が一番
大きく変わったのだろう…と御堂は感じた。
目の前の存在を失うぐらいなら、全てを受け入れた方がずっと
マシだと思ったから。
奇妙な体験で距離を置くよりも、全てを受容する方を選んだ。
だから今、自分達は…こうして一緒にいられるのだろうと思った。
御堂はその瞬間、花が綻ぶように幸せそうに笑っていく。
それに導かれるように…克哉は、そっと御堂の方に手を伸ばして
静かにその体躯を改めて引き寄せていった。
「孝典…」
下の名前の方で呼ばれても、今度は彼を諌めなかった。
今はそちらの方で、呼んで欲しいと御堂自身も望んでいたからだ。
異なる極同士の磁石が引き合うように…ごく自然に、二人は再び
近づいていく。
そして、柔らかく唇を重ねて…その幸福感に、酔った。
一瞬だけ、思わず見惚れるぐらいに…強く、綺麗に克哉が笑っていった。
自信に満ち溢れた、顔。
それに頼もしささえ覚えていきながら…柔らかく御堂は微笑んで
応えていった。
相手の全てを受け入れる。
それは、異なる環境で育ち生きてきた人間同士にとっては簡単に
出来るものではない。
プライドや意地、そして様々な要素が邪魔をして…人間というのは
好きあっていたとしても、相手の存在に反発したり衝突してしまう事の
方が遥かに多いのだから。
けれど、自分と違う考えや行動パターン。
生い立ちや価値観、そして嗜好や何を好み、何を嫌うかは…人に
よって千差万別で。
「違う」のと「異なる」のが当たり前で、自分とまったく同じ人間など
この世の誰一人として存在しないのだ。
「同じ」である事を強要したら、人は孤独に生きる他なくなる。
だから、相手が自分とどれだけ異なる一面を持っていたとしても
その考えを尊重し、受け入れる事は…寄り添う上でとても大切なのだ―
「克哉…」
克哉もまた、静かに微笑み…そっと抱き合っていった。
もうじき、時間だ。
もう少ししたら…流石にこの会議室の外に出て、自分の部下達に
今後の方針をキチンと伝えなければならない。
これから、自分達がやらなければならない事は山ほどある。
この先にも困難や、辛いことは沢山待ち受けているだろう。
―それでも、大切な人間と共に歩んでいけるなら乗り越えていける
そう確信しながら、御堂は一時…その腕の中の暖かさに身を委ねていった。
―もう少しだけ…
御堂はそう願いながら、柔らかいキスと抱擁を受け入れていく。
窓の外は晴れやかな晴天。
そのまぶしさを自覚した時、御堂には何となく…もう一人の克哉が、
自分達の「今」を祝福してくれているような…そんな気配を静かに
感じ取っていったのだった―
だった為に朝から、22時くらいまで法事と、うちを訪ねてきた
親しい間柄の親戚の方の対応に追われていました。
…その為に日中はPC触れなかったわYO! という
事でこれからやります。
…で、今晩から明日の朝に掛けてリセットの最終話を
書く事にしました。
それで…水曜日以降はすぐに次の連載行かないで
書きかけになっている物(克克お風呂編や某方に
捧げる予定の太克とか)とか、あちこちで書くと
約束したけど十月気力落ちてて書けなかった~と
いう物を今週は順次、片付けていきます。
という訳で暫く、何が出るのか判らない「何が出るかな?」
状態になります。
覚悟の上で訪ねてやって下さい。
(苦手なCPとかある方は要注意っす!)
それが大体終わったな~という頃(来週の半ばくらい)
に掛けて御克の甘いの始めようかな~と。
当面の予定はそんな感じです。
一先ず、溜まっている事を片付けてすっきりさせて
精神的に身軽になった方が良いと。
それともう一つ、連載休む日は…5月から溜まっている
拍手返信を片付けていく方針にしようかと。
週4~5回更新にしていくなら、その休む日に返信に
割り振っても良いだろと…ふと、思ったんで今後はそういう
形でこれも改善していこうかと思います。
後、もう一つ。
一周年企画の結果報告です!(ドンドンパフパフ~!)
えっと…今回のリクエスト内容は以下の六つでした。
・眼鏡×御堂の甘々
・御克×克哉の甘々
・眼鏡×本多のじゃれあい
・御堂×克哉←眼鏡の3P ノマハーレム悪女ED
・甘く切ないエロ有り克克もの
・始まりの扉の後日談
ん~と…まあ、今回はこの六つの中で二つくらい。
12月から3月くらいまでの期間を見ておけば連載で消化
出来るかな~という感じでアミダくじしたんですよ。
で、普段書いたことがないものでもこれは新しい路線を開拓出来るから
何当たっても書く気でやったんですが…。
何故二つとも克克当てるんだ私は…(汗)
今回の結果は、一番が「甘く切ないエロ有り克克もの」で…
二番が「始まりの扉」の後日談でした。
…という訳でリクエストして下さった方、当選です。
企画に応募して下さってありがとうございましたv
…まあ、何か今日うっかり頭の中で3Pものが浮かんだから
ノマが悪女風にならないまでも…近い内に、ノマが御堂さんと
眼鏡に一緒に攻められて…という話は、書くかも知れんけど。
(ど~考えても昨日の某チャットの影響だよな…(汗))
という訳で一周年を機に若干今までと運営方針を
今後は変えていく予定です。
まあ…疎かにしていた事を休む代わりに埋めていこう。
そういう風に考えることにしました。
一年間、ほぼ毎日書くっていうのは…正直言うと、その前に2~3年ぐらい
小説を書きたくても書けない…極度のスランプ状態になっていたから
その反動で…という部分があるのですよ。
書けなかった期間が長かったから、去年…ある件をキッカケに
書こう! と決心してその枷が取れた時に無我夢中で駆け抜けて
しまった…というのが、毎日更新していた理由なのですよ。
…一年間でこれだけの量を書いたには、実は生まれて始めてです。
というか、自分がぶっちゃけ…こんな無茶やれる奴とは始めた
当初はまったく予想していませんでした。
こんなの3~4ヶ月が限度だろ、と本人が思っていたぐらいですから
…ぶっちゃけ一年迎えて一番驚いているの私だったりします。
…応援してくれている人いなきゃ、多分ここまでやっていません。
重ね重ね、不義理を噛ましまくっているにも関わらず、閲覧して下さっている
方々にお礼を申し上げます(ペコリ)
それでは、今回は主に方針転換の報告でした。
ここまで読んで下さってどうもありがとうございましたv
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。