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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
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―自分が確実に相手を殺したのと同じ日に、太一が佐伯克哉と
再会していた事実に男は驚愕した

 その衝撃のせいで、意識は一時的に弾き飛ばされて…強制的に
赤い天幕で覆われた部屋へと引き戻されていく。

「これ、は…! 一体、何なんだ…! 何で、こんな、事が…!」

 男は、この出来事が起こった日に間違いなく佐伯克哉を車で
跳ね飛ばして殺した。
 雪の日にスリップしたように見せかけて。
 車一台を駄目にするぐらいのスピードを掛けて、跳ね飛ばした。
 そして…虫の息だった相手を、自分が愛用している針を使用して
完全に息の根を止めた。
 間違いない筈だった、それは自分を含めてあの日手を貸してくれた
五十嵐組の全員が確認している事だった。

『…答えは簡単ですよ。佐伯克哉さんは…いや、眼鏡を掛けた方の
克哉さんはご自分の心を、もう一人の克哉さんに与えた。
それで力を取り戻した心を…一時的に私の力で、太一さんにも
見えるぐらいに存在をはっきりさせていった。俗にいう幽霊という
奴ですよ。聞いてしまえば単純でしょう…?』

「幽霊、だと…そんなのが存在する訳が…」

『いいえ、存在しますよ。厳密に言えば思念体のようなものですね…。
こちらの眼鏡をかけていない克哉さんが最後に太一さんとどうしても
伝えたいと、渡したいと思っていたからこそ…こうして、僅かな時間だけでも
あの人は実体を持って存在出来た。
 時間にすればそれは30分にも満たない事。ですが…本当の想いが
其処に在れば…一人の人間を救うには充分ですから…』

 ソファに深く腰を掛けたままの太一の父親の髪をそっと撫ぜながら…
いつものように歌うように言葉を紡いでいく。
 だがその顔には苦いものが滲んでいるようにも、穏やかに淡々と
微笑んでいるようにも見える曖昧な顔を浮かべていた。

「…こんな、事が…本当に…」

『起こったからこそ、太一さんはお守りの中に大切にしまっている品を
この日、受け取る事が出来たんです…。あの中に入っているものが
太一さんを再生させ、再び立ちあがらせた。
 五十嵐組の貴方の厄介な養父と真っ向から対峙して…堅気の道を
歩みながら夢を追いかける事を選択した今の太一さんの基盤は…この日に
作られた訳です…』

「…太一は、其処まで想っていたというのか…佐伯、克哉を…」

『ええ、両方の克哉さんもまた…太一さんを愛しておりました…』

「っ…!」

 その一言に、男の肩は大きく震えていった。
 驚きの余り、目が見開かれていった。

「あいつも…眼鏡を掛けた方も太一を想っていたというのかっ…!」

『その通りですよ…。そしてこの状況は、眼鏡を掛けた方の克哉さんが
最後に願ったから起きたんですよ…。貴方は良心に押しつぶされるのが嫌で
無意識に聞くことを拒否した…あの人の最後の願いは、「太一に最後に…
少しでも良いからもう一人の『オレ』に会わせてやってくれ…」でした。
そういう不器用な愛もまた…世の中には存在するんですよ…』

 それは、佐伯克哉を葬り去ってしまった太一の父からすれば…良心の
疼きを覚えずにはいられない事実だった。
 憎いだけの男だったなら、心なんて一切痛まなかった。
 だが、あいつの方も…太一に酷い事ばかりを強いていた男も言葉に
出さなくても、奴もまた息子を想っていたというのなら…自分がした事は…。
 事実を知れば知るだけ、耐えがたい苦痛を与えていた。

(いや、太一にとってそれだけ大事だった存在を俺は自分の独断で
殺してしまったんだ…。これくらいの胸の痛みぐらいは受けるのが筋だな…)

 どれだけ後悔しても、時は戻すことが出来ない。
 起こってしまった事をなかった事にもなかった事にも出来ない。
 真実の裏側を知る、というのは特に加害者にとっては耐え難い痛みを伴う。
 しかし…それでも、男は見届けるのを選択した。
 息子と、憎い筈の男との間に起こった事実を…。

『…眼鏡を掛けた太一さんは最初はご自分の気持ちを否定していました。
もう一人の自分の影響に過ぎない、俺には関係ないと思っていた。
けれど…太一さんと過ごしている内に、土壌に水が染み込むように少しずつ
想うようになっていたんですよ。けれど…太一さんが求めているのはあくまで
もう一人の自分で、自分は邪魔者としか扱われていない現実があの人の
心を頑なにして、決してその事実を認めようとなさいませんでした…。
けれど、太一さんへの想いを…そしてもう一人の自分の気持ちを良く知って
いたからこそ…あの品を、肌身離さず持ち歩いて守っていたんですよ…』

「そう、だったのか…」

 その頃には太一の父親の表情は精彩を欠いて…やつれたものに変わっていた。
 力なく項垂れ、事実を重く噛みしめていく。
 
(お前が、憎いだけの男なら良かったのに…)

 表に出さないで秘められていた想い。
 そして土壇場で、太一の為に…自分が助かる道よりも、ほんの僅かな時間でも
太一ともう一人の自分に会えるように願ったその姿に知らず涙が浮かんでいた。
 これまでの経緯を辿って見ていたが…とても表面的にはあの男が太一を
愛しているようには決して見えなかった。

「不器用な、愛か…本当に、その通りだな…」

 けれど人生の最後で相手の事を優先して思い遣る事は決して
簡単な事ではない。
 それでも彼は、自分の人生の終わりに…其れを行ったのだ。

『貴方がしてしまった事は…過去はもう変えられません。克哉さんの命は
永遠に失われて、その身体もまた貴方が処分をしてしまった。
そうなったら私の力を持ってしてもよみがえらせるのは不可能ですから…。
ですから、せめて…最後まで見届けて下さい。お二人の…いや、この三人が
辿ったその物語の結末を…』

 その言葉はまるで子守唄のように柔らかく、優しいものだった。
 そうして…太一の父の目元に白い手袋で覆われた指先がゆっくりと
宛がわれて、瞼を閉じさせられていった。
 瞬間に、急速な眠りが訪れていった。

―さあ、続きをご覧になって下さい…

 意識が朦朧(もうろう)としてくる中…太一の父の意識は再び深い闇の
中へと突き落とされていく。
 そして…物語の最後の幕はゆっくりと開かれていったのだった―



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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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