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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
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―克哉はこの瞬間を、ずっと夢見ていた

 もう一人の自分に肉体の主導権を奪われてからはずっと、心の奥底で
眠り続けていた。
 眼鏡の意識を通じて微かに伝えられる否定の言葉と、自分だけを強く
求められる事に対して心を痛め続けていたせいで会う事は叶わなかったけれど
ようやく会いたくて堪らなかった、話したくて仕方なかった太一と対峙する事が
出来て克哉の瞳はうっすらと潤んでいた。

(けど、ここで泣き崩れている時間はないんだ…。オレに最後に与えられた
時間は少ない…。けれどこれは最後にあいつが与えてくれた機会なんだ。
これだけは、どうしても太一に…)

 そうして太一に強い力で抱きしめられている間、克哉は一方の腕で相手の
身体に抱きついていって、もう片方の手で白いコートのポケットを確認
するように探っていった。
 その中には小さいが、しっかりと堅い手触りがするのを感じられて
克哉は安堵の息を漏らしていった。

「…克哉、さん…やっと、会えた…」

「うん…オレもずっと、太一とこうして話したかった…。もう一度だけでも良いから…」

「…はは、両想いだね俺達。だから強くん念じていたから叶ったんだね…。
克哉さんの身体、暖かいね…」

「うん、そうだね…太一の身体も凄く温かいよ…」

 太一の手が、克哉を確認するように優しく頬を撫ぜていった。
 それだけの事に涙が出そうになるくらいに切なくなる。
 この瞬間をどれくらい待ちわびた事だろう。
 どれだけ会いたくて、焦がれる夜を過ごした事だろう。
 お互いの胸の中に万感の想いが広がり、喜びが満ちていく。

「はは、こうして抱きしめているだけで…俺、すっごい幸せだ…。克哉さんに
会える事って、こんなにも嬉しい事だったんだ…」

 太一の胸の中には、もう一人の克哉の意識に阻まれてこちらの克哉に
会うことが出来なかった期間の辛い想いがジワリ、と滲んでいるようだった。
 だが暗闇が長ければ長い程、時が満ちて機会が巡ってくれば望みが
叶えられた時の望みもまた大きなものとなるのだ。
 白い雪がフワフワと舞い散る中、二人はただ…抱き合っていく。 
 たったそれだけの事が心に染みいるぐらいに幸福で、涙が出そうだった。
 どれくらい克哉は太一の事を好きだったのか。
 太一はどれだけ、克哉を愛していたのか…お互いに噛みしめていた。

(こうして抱きしめらているだけで…涙が出そうになる…)

 もうじき、自分という存在は消えてしまう。
 だからこそ最後の瞬間まで…大好きな人とこうして会えて抱擁しあうことが出来た
この時を忘れないように強く念じていく。
 太一の匂いと体温、こうして頬や背中を擦られている感触…それらを自分の
魂に刻みつけるように。

「ねえ、オレ…ずっと太一に渡したいものがあったんだ…」

「えっ…何? 克哉さん…俺に贈り物をしてくれるの…?」

「…うん、太一が以前に…オレがプロトファイバーの営業が上手く行かなくて
凄く悩んでいた時に…サンストーンを贈ってくれただろ? お守りだって
言ってくれて…。それが嬉しかったから…お返しがしたくて、こっそりと
コレを買っていたんだ…。太一がオレにしてくれたように、機会があったら
渡そうと思っていたから…」

「えっ…マジ? 克哉さんが俺の為に何か買ってくれていた訳?
うっわ、すげぇ嬉しい…! 何々、是非渡してよ! 克哉さんの気持ちが
込められている品なら、何でも嬉しいよ!」

 その事実を明かした瞬間、太陽のように太一が笑う。
 この笑顔が本当に好きだった。
 見ているだけで心が満ちて、幸せな気持ちなれた。
 白い雪が降って空が曇天の雲に覆われている状況でも…其処だけ陽光が
輝いているようにすら感じられた。

「うん…なら、これを受け取って欲しい…。安月給のオレには、こんな小さな物を
買うのが精いっぱいだったけど…」

 そうしてさっきポケットを探って確認していた品を取り出していく。
 それはキラキラと輝く雪の結晶のようだった。
 目を焼くのではないかと思うぐらいに鮮烈に光っている、見事なカッティングが
刻まれているその石を見て太一は言葉を失っていく。

「克哉さん…これって、まさか…」

「うん…安物だけど、本物のダイヤモンド…。オレの給料なんてたかが知れているから
こんなに小さな物しか買えなかったけれど…クオリティもカラーもそれなりにある
結構良い品だよ…」

 雪が舞い散る中、そうして取り出された石は本当に雪の結晶が形に
なったもののように思えた。

「克哉さん、それって奮発しすぎだよ…。ダイヤなんて贈られたら…
俺が贈ったサンストーンとマジで釣り合わないから。こんなに高い品を
用意されてもちょっと申し訳ない気分になっちゃうだけだからさ…」

「ん、けど…オレはどうしても太一にこれを贈りたかったんだ…。
太一がサンストーンに想いを込めてくれたように…オレも同じくらいの
願いを込めておきたかったから…」

「…このダイヤが、克哉さんの想いなの…? ダイヤの石言葉って
一体なんだっけ…?」

 元々そんなに石言葉の類に詳しくない太一はピンと来ないらしくしきりに
首をかしげている。
 だが克哉は微かに首を横に振って、否定していく。

「…オレが贈りたいのは石言葉じゃなくて、ダイヤモンドという石
そのものの在り方についてだよ…。宝石全般についてと言い換えて
良いものかも知れないけれど…」

「ダイヤや、宝石の在り方…?」

「うん…太一にお返しがしたくて、同じくらいに気持ちが込められている物を
贈りたくてあれから少し宝石について勉強したんだよ。宝石ってさ、原石の
ままじゃ輝けなくて…見つけ出して研磨して、綺麗にカッティングとか
してあげないと綺麗に輝かないんだって。特にダイヤモンドは…地球上で
一番硬いから、ダイヤでしかカット出来なくて…こんな風に綺麗に輝く為には
ダイヤ同士が傷つけあわないと…いけないんだってさ…」

「…何かそういう言い方をされると、凄い壮絶に聞こえるね…。輝くって
事はさ…」

「うん、太一は夢を必死に追いかけているだろ…? その過程で絶対に傷ついたり
打ちのめされたりそういう事もあると思うんだ…。けれど、傷つけば傷つくだけ…
こんな風に研磨されて、輝ける筈だよ。だから…いつか夢が叶って、太一自身が
キラキラとこのダイヤモンドのように輝ける存在になってほしい…大成して欲しいと
いう願いを込めて…オレは、この石を贈るよ…」

「克哉、さん…俺、マジで…嬉しい。其処まで俺の事を考えて…くれていたんだ…」

 太一は泣きそうになる。
 そうして…克哉から小さなダイヤモンドを受け取っていく。
 これは太一にとって一生の宝物だった。
 克哉にとっても、自分の精いっぱいの想いを込めた品だった。
 最後にこれだけはどうしても太一に手渡ししたかった、その事だけを想って
克哉はもう一人の自分の意識に主導権を奪われてからも生き続けていた。
 けれど…これで何も思い残すことはない。
 そう思った瞬間、ふいに…自分の身体が霞んでいくのを感じていった。

―最後の時は、刻々と迫って来ているのを感じていた…

 自分は、もう消えるのだと。
 奇跡の時間は…もう終わり間際を迎えているのだと実感して、克哉は
太一の眼を真っすぐ見つめていった。
 突然、身体が薄く透けるようになった克哉の変化に太一は怪訝そうな
顔を浮かべていく。

「克哉、さん…?」

「太一…もう、オレには時間が残されてないみたい…。なら、最後に一度だけ
キスしたい。しっかりとその瞬間を…心に刻めるように…」

「…っ! 何を言っているんだよ! まだ克哉さんは俺と一緒にいてくれるんだろ!
やっとこうして会う事が出来たのに…いなくなるなんて、そんなの嫌だよ…!」

「ゴメン、もう…無理、なんだ…。今の俺は幽霊とか、生霊とかそういうのに近いから…。
これ以上は太一の傍に、いられない…みたい…」

「克哉さんっ…!」

 そんな会話をしている間に、克哉の身体はどんどん透明になっていく。
 無駄な事を話している時間はないと…その時に悟り、太一はグイと克哉を
引き寄せて唇を重ねていく。
 たった一度だけの愛しい人との口づけは、ただ唇を重ねているだけでも
二人の心を幸福で満たしていった。
 しっかりとこの時を心に刻みつけるように静かに目を伏せていく。
 白い雪がフワフワと舞い降りる中、銀世界の中でこうしてキスをしている様は
幻想的で、何かのワンシーンのようだった。

(ありがとう…)

 心の中で、克哉はそう太一に伝えていく。
 そして長い口づけが終わって、顔を離した瞬間に克哉はとびっきりの
笑顔を向けていく。
 儚くも美しい、幸福で満ちた表情を最後に残し…克哉は雪の中、
ゆっくりと大気に溶けるように姿を消していく。
 
「克哉、さん…」

 太一は、泣いていた。
 そうして…愛しい人が雪の中に消えていく様を眺めていく。
 その間…克哉は言葉もなく微笑み続け、最後に一言だけ想いを込めて
こう残していった。

―最後にありがとう太一…大好きだよ…

 そうして、佐伯克哉は永遠に…太一の前から消えていった。
 まるで夢か幻の中の出来事であったかのように…その場に足跡ひとつ残さず、
克哉という存在はその場から消えうせた。

「また、会えるよね…。もう一回ぐらい…俺が精いっぱい生きて、三途の川を
渡る事になった時ぐらい、は…。それに幽霊じゃなくて、生霊だったなら…
どっかで生きている筈だよね…。どちらでも良いから、もう一回ぐらい…
絶対に、会おうね…克哉さん…」

 そうして太一はその場に膝をついて号泣していく。
 愛しさで胸が詰まりそうになりながら、強く強く手の中に贈られた物を
握りしめていく。
 そう、佐伯克哉という存在が消えてしまってもそこに想いは残る。
 その白く輝く石…克哉からの気持ちはまるで…永遠に光り続ける
雪の結晶のように、キラキラと太一の手の中に残り続けていたのだった。

―まるでこの雪の日の、唯一消えないで存在し続ける結晶のように…




 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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