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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※相当に連載に間が空いてしまってすみません。
 ようやく続き書けるPC環境整いました。
 やっと連載再開です。

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
        


―まったく見覚えのない男性と再会して、その男と口付けを
事故とはいえ交わしてしまった現場を愛しい人に見られた
 
 そんな状況で、御堂からの「あの男は誰だ?」という
問いかけに「知らない」としか本当に答えられなかった。
 だが、その瞬間…御堂の眼差しはまるで氷のように
冷たく冴え渡り、こちらをまっすぐに射抜いていく。
 すぐ傍に問題の男が立っていたが、今の克哉には
御堂しか見えなかった。

「あっ…」

 瞬間、背筋が凍るような恐怖を覚えて…克哉は小さく
呟いていく。
 だが、どれだけこちらが怯えて困惑した表情を浮かべようが
今の御堂は容赦をしてくれる様子はなかった。

「…今の君の発言は、聞き捨てならないな…? あの男を
知らないとは、到底信じられないな…」

「…けど、本当…何です! オレは、この人の事を
まったく…思い出せない。名前すら、どこで会ったのかすら
判らないんです…!」

 泣きそうな顔をしながら、本当のことを伝えていく。
 だが、御堂の顔は一層冷酷になっていくだけだった。
 そんな言い逃れを許さない、と訴えかけるような
鋭い眼差しだった。
 大好きで堪らない人に、そんな目で睨み付けられたら
それだけで心臓が凍り付いてしまいそうだった。
 だが、御堂は真偽をはっきりさせるまでこちらを
解放してくれそうになかった。
 
「…ねえ、そんなくだらない演技をいつまで君は続ける
つもりなんだい?」

 そうして、暫く御堂と克哉のやりとりを傍観していた
男から冷たい声が零れていく。
 相手の目には、今の御堂と同じく…凍てつくような
冷たさが感じられた。
 二人の人間から冷たく見つめられて…克哉は居たたまれない
気分に陥っていった。
 けれど、本当に知らないし…思い出せないのだ。

「ごめん、なさい…」

 二人に懇願するように、克哉は謝罪の言葉を
紡ぎ出していく。
 判らない、幾ら頭の中を探っても…この男性が誰なのか
まったく引っ掛からない。

「本当に、オレは…貴方のことを、思い出せないんです…」

 その一言を、涙を浮かべながら告げた瞬間…男性の
表情にも変化が訪れた。
 演技ではないと、言い逃れではないと…克哉の
泣き顔を見て悟ってしまったらしい。

「…嘘だろ。君が、僕を忘れる筈がない…。幾ら小学校の
卒業を機に会わなかったとしても…僕らは、小さい頃から
ずっと一緒にいた筈…なんだから…。
 君は僕を、親友だと…信じていた筈だろう? なのに…
どうして…?」

 彼もまた、呆然となりながら呟いていく。
 小さな頃から一緒だったなら、何年もずっと一緒
だったなら十数年が経とうが確かに簡単に忘れる
筈がなかった。

「…ごめんなさい。信じて貰えないかも知れないけれど…
オレには…中学に入学する以前の…記憶が、まったく
ないんです…」

「っ!」

「…はっ?」

 その一言を告白した瞬間、御堂は驚愕のあまりに
目を見開いていって…男は信じられないという風に
唖然としていた。
 
「はっ…! 何をでたらめを…そんな事、信じられないよ。
君が…僕を忘れるなんて、しかもその理由が記憶喪失だ
なんてね…。嘘を言うのも、いい加減にしたらどうだい?」

「嘘じゃないんです! オレは…本当に…中学に
入る以前のことは霧が掛かったようになって…
殆ど思い出せないんです…」

 泣きながら、克哉は再び訴えていく。
 その顔を見た瞬間…男は、全てを認めたくないと
こちらに訴えかけるような複雑な表情をしていった。

「…信じたく、ない。けど…僕が知る彼なら…そんな
顔を絶対に、人前に…晒す訳がない。あいつは、いや…
僕の知る佐伯克哉という人間は傲慢で、人の心の痛み
とかまったく判らなくて、自分が出来ることをひけらかして
出来ない奴の気持ちを理解しようともしない…自信家だった。
 特に、あんな真似をした僕に…そんな弱気な顔を晒す
訳が、ないんだ…」

「…?」

 御堂は、相手が語った内容に何か引っ掛かるような
ものを感じたようだった。
 そう…男が語った人物像は、今の克哉にはまったく
当てはまらない。
 だが…眼鏡を掛けて別人のようになった彼の特徴に
被る気がして…怪訝そうに眉を寄せていた。
 だが、今の克哉には…御堂の微妙な表情の変化に
聡く気づくだけの心の余裕は失われてしまっていた。

「人違い、だったというのか…? それとも、記憶喪失って
いうのが本当なのか…? なら、僕を親友だと言って信じて
疑わないでいたあいつは、もう…何処にもいないのか…?」

 男の表情にはショックの色が濃く出ていた。
 呆然となりながら、信じられないという顔を浮かべていく。
 その顔にチクっと胸が痛んだが…嘘をついて「貴方を知っている」とか
「思い出した」とかは言えなかった。
 事実、克哉はこの段階でもこの男性の名前が「澤村紀次」で
小学校に入る前からの幼馴染みである事実を思い出してもいない。
 否、彼の中にこの人物に関しての記憶が存在している筈が
ないのだ。
 今の佐伯克哉の存在は、「この男を忘れて苦痛を失くす為に」
作り出されたものなのだから…。

「ごめん、なさい…」

 克哉は、そうとしたこの男性に伝えられない。
 泣きながら、心からの謝罪を込めて告げていく。
 その顔に…相手の男は打ちのめされて、毒気を抜かれた
ような表情をしていく。

「…本当に、何処にも…いないのか。僕が叩きのめしてやりたいと…
屈服させたいと思っていた…あの傲慢で、自信に満ち溢れていた…
佐伯、克哉は…」

 男もまた、泣きそうな顔を浮かべていた。
 そんな二人の様子を、御堂はただ黙って見届けていた。
 暫くの沈黙が落ちていく。
 それでも、克哉の唇からはまるで壊れたスピーカーのように…。

『ごめんなさい』

 の言葉だけが紡がれて…男は、まるで糸が切れた人形の
ようになりながら…呆然と、それ以上何もいえない様子でその場を
立ち去っていったのだった-―

 

 

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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想       


 ―車に乗って帰宅する途中、克哉は先日あった出来事を
思い出していた

 恋人関係になってから、頻繁に乗るようになった御堂の車の中。
 運転に集中している御堂は、無言のまま…ただ、前方だけを
見据えていく。
 張り詰めた緊張感を感じさせる車内の空気で、先日起こったことが
それだけ御堂に怒りを与えてしまったことを克哉に伝えていく。

(御堂さん…怒っているな。無理もないな…よりにもよって自分のマンションの
入口で…目の前で、オレが他の人間にキスされているのを見たのは…
御堂さんにとって、二回目なんだからな…)

 一度目の相手は、本城だった。
 そして…二週間前、悔しいことに二度目が起こった。
 その相手こそ…先程、思い出した少年の成長した人物に違いなかった。
 忘れもしない二週間前、御堂は駐車場に車を置いてくると言って…
マンションの前に克哉を下ろしていった。
 御堂の車が目の前から消えたその時、見覚えのない男に声を掛けられた。
 赤いフレームの眼鏡に、上質なスーツに身を包んだ気障ったらしい雰囲気を
纏う…克哉と年齢が変わらないぐらいの男性だった。

「克哉君、久しぶりだね」

 その男は、初対面の筈なのにまるで既知であるかのように馴れ馴れしい口調で
声を掛けてきた。
 びっくりしたのは克哉の方だ。
 一体この男は誰なのか、まったく思いいたらなかった。
 精一杯の疑問符を頭の中に浮かべながら振り返って声がした方を向き直って
いくがやっぱり誰なのか判らない。
 
「……?」

 ニコニコと笑みを浮かべながら男は一気に距離を詰めていく。
 だが、思い出せない。
 一体これがどこの誰で、いつ知り合った人間なのか克哉の記憶の中には
まったく存在していなかったのだ。

「ねえ、どうしたの? 僕だよ…君とかつて親友だった…ここまで言えば
思い出せるだろう? 何をそんなに驚いた顔を浮かべているんだい? 克哉君…?」

「あの…どうして、オレの名前を知っているんですか?」

「へっ?」

「…貴方はオレの事を、どこで知ったんでしょうか…? 申し訳ないんですが…
どうしても、思い出せなくて…」

 克哉は心底、申し訳なさそうな顔を浮かべて謝っていく。
 本当に、心当たりがなかったからだ。

「…何を、そんな冗談を…」

 ヒク、と口元をひきつらせながら…目の前で男性が信じられないという
顔を浮かべていく。
 だが、必死に頭の中を探っていっても…克哉の中にこの男性に繋がる
情報はまったく引き出せないままだった。

「御免なさい、本当に…オレは、貴方の事を思い出せません! せめて…
どこで会ったのか教えて貰えませんか?」

 克哉はこの時、自分の事を知ってそうな気配を感じさせている相手の事を
まったく思い出せない罪悪感の方が先走って…どうして、自分たちのマンションの
前に立っていたのか、車から降りた瞬間に声を掛けてきたのかまで
全然思い至っていなかった。

「ねえ、君…それを本気で言っているのかい?」

「はい…」

 神妙な態度で、克哉がそう答えていくと…いきなり顎を掴まれた。
 瞬間…目線だけでこちらを殺せるんじゃないか、というぐらいに鋭い
眼光に晒されていく。

「…っ!」

「…もう一度聞く。君は本当に…僕の事を思い出せないと、そんなとんでもない
世迷い事をいうつもりかい!」

 男は、明らかに激昂していた。
 その剣幕に押されて、克哉は言葉を失っていく。
 本気で、信じられないという顔を浮かべながら本気で男は憤っていた。
 瞬間、男は頭突きをする勢いでこちらに顔を寄せてきた。
 こちらの目を見て、真偽を確かめようとする…そんな態度だった。
 だが、勢いが余って…相手の唇とこちらの唇が、ほぼ同じぐらいの体格同士で
あったせいでぶつかってしまった。

―それは一瞬だけの事故のような口づけだった

 だが、運が悪いことに…その瞬間をよりにもよって克哉は御堂に見られて
しまったのだ。

「貴様っ! 其処で何をしているっ!」

 その場に御堂の怒号が響き渡っていく。

「た、孝典さん…」

 とんでもない場面を目撃されてしまって、克哉の顔が恐怖で引きつっていく。
 今のは事故だ、こちらはあんな事をされることなど望んでいなかった。
 なのに本城の時のように…その現場を、運悪く御堂に目撃されるなど
一体どんな悪夢なのだろうかと思った。

「…別に何をしていないですよ。ただ…彼が、かつて親友だった僕の事を知らないと
強情にも言い張るので・・・勢いあまって顔を近づけて目を見つめてやろうと思った
だけの話だから・・・」

「そ、そうです…今のは、事故で…」

「ほう? 事故ね・・・なら聞こう。克哉…この男は一体誰だ? その説明を
まずは君の口から聞かせて貰おうじゃないか…?」

 御堂は、こちらを射すくめるような瞳で睨みつけてきた。
 ここまで怒りを露わにしている御堂と対峙するのは相当に久しぶりで
見ているだけで背中に冷たい汗が伝っていくようだった。
 だが、米神がドクドクドクと荒く脈打つぐらいに緊張して震えていようと…
どうしても思い出せないものは、言い様がない。

「克哉、言え。この男は…君にとって一体なんだ!」

 克哉の回想の中で…御堂が鮮烈に吠えて問いかけてくる。
 だが…次の場面を思い出した時、克哉は胃がキュっとちぢんで痛むような
想いをしていった。
 言いたかった、自分の潔白を御堂に説明したかった。
 だが…その時点の克哉は。

「ごめんなさい…オレ、まったく思い出せない、んです…」

 と、泣きながら…愛しい人の前で懇願するように呟く事しか出来ず…
冷たい疑惑の瞳を、御堂から向けられるしかなかったのだった―

 
 
 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想     

―頬から一粒の涙が地面に落ちた時、愛しい人の声が聞こえた。
  それは白昼夢の世界から、克哉を一時連れ戻していく

「克哉…泣いて、いるのか…?」

「えっ…ぁ…孝典、さん…?」

 心の中の情景では、昼だったので…とっさに自分でも気持の切り替えが
出来ないで、マヌケな声を挙げてしまっていた。
 妖しいまでに美しい、夜の桜の木の下で…二人で手を繋ぎながら…
桜に纏わる記憶を取り戻そうと、こうして訪れたことを思い出す。

「…何かを、思い出せたのか…?」

「はい…」

「そうか。…それは君にとって、辛い記憶…だったのか…?」

 克哉が静かに涙を流しているからだろう。
 案じるように御堂が問いかけてくる。
 
(…どう、答えれば良いんだろう…?)

 その質問に、克哉はどう答えれば良いのか正直迷ってしまった。
 …確かに小学生の時の自分にとっては辛い記憶だった。
 だが…この体験は、もう一人の自分のものだ。
 こうして思い出した今も『自分』の記憶であるという実感や手応えが薄く
映像か何かを客観的に、第三者視点で見ているような感覚が拭えない。

―そうして迷っている瞬間、克哉の脳裏に鮮明に一つの情景が蘇る

 自分の教科書を隠されて、教室で涙を堪えながら耐えている『俺』と…
そんな彼に、親切そうな顔をして気遣う言葉を掛ける…少年。

(偽善者…そんな顔をして、あいつを…騙し続けていたのかよ…!)

 見えた場面は、本当にささやかなで短いものだった。
 だが…孤立させられたり、影で嫌がらせを食らい続ける事は辛いのだ。
 自分一人が、周囲から浮き上がっているような想いをさせられる。
 周りから受け入れられていない事を実感させられる。
 彼は、そんな想いに…小学校の最後の一年、ずっと我慢して堪えていたのだ。
 それでも殆ど休まずに来ていたのは、彼にとってその場が親友に会えたり
同じ時間を共有することが出来たからだ。

―その負けずに堪えられていた理由となっていた存在が、その彼の不遇の
原因を作っていたら…迷ってしまって当然なのだ…

 思い出せば、出すだけ…克哉は悔しくなる。
 どうしてお前は、信じる相手を間違えてしまったのだろうと…。
 そんなに傷つかなくて、良いのに。
 お前は…お前のままでいて、良かったのに…! と叫んだ瞬間…
脳裏に鮮明に一人の男の声が響いた。

―本当に、そう思っているんですか…? 貴方がこの体験を否定するという事は…
自分の生まれた意義を疑うのにも等しいんですよ…?
 
 愛しい人を前にしながら、再び過去の記憶に意識が囚われた瞬間…鮮明に
Mr.Rの声が脳裏に響いていった。
 
「あっ…!」

「克、哉…?」

 克哉が弾かれたように顔を上げると、視界には桜の花びらが風に
舞い散る光景と…心配そうにこちらを見つめている御堂の顔が在った。
 現実と、幻想の狭間を心が彷徨い続けていた。

「…今、声が…?」

「…何の声が聞こえたというんだ…?」

「……いえ、何でも…無いです…」

 言うか、言うべきか迷ったが…きっと全てを説明したら凄く長くなって
しまうと判断して…克哉は口を噤んで、俯いていった。
 思い出せたのは断片的なものばかりで…正直、克哉の中でどれも整理が
ついていなかった。
 その段階で語れば、無用に相手を混乱させてしまう気がした。

(自分の中で整理されていないことは…安易に口に出さない方が良い…)

「…さっきからやはり、君の様子がおかしいな。…成程、君の桜が怖いという
事情は…私が思っているよりも、ずっと根が深いようだ…」

「…すみ、ません…」

「…いや、気にすることはない。…そんな事を言ったら、私は本城の時に…
散々、心の整理をする為に君に付き合って貰った…。だから、今度は純粋に
私が君の過去の整理に付き合う番だ…と思っている…」

「…ありがとう、ございます…」

「…それに、あの男が誰なのか…知りたいしな…。思い出せた、のか…?」

 そう問いかけた御堂の顔が、怜悧に冴え渡って…克哉は背筋がヒヤリとした。
 二週間前、桜の蕾が出来かけの頃…自分たちの前に現れた一人の男。
 その男の存在が、この二週間…ようやく関係が安定してきたと思われた
自分たちの間を、大きく揺さぶっていたのだ。
 
「は、はい…やっと、思い出せました…」

「そうか。やっと…『あんな人の事なんて、オレは知りません…』以外の言葉を
君の口から…聞けたな。それだけでも、進展したか…」

 さっきまで優しかった御堂が、その男の話題が上った瞬間…別人のように
冷たい顔を覗かせていく。
 そう、小学校の自分を追い詰めたあの少年こそ…二週間前に自分たちの前に
現われて大きな波紋を呼んだ、例の男性の正体に間違いないと克哉は今は
確信していた。
 だが、御堂の声は…感情を押し殺しているせいで、酷く冷たい。
 愛しい人の口から、そんな声が出ているのが…その原因を作っているのが
紛れもない自分であることが、改めて克哉の心を締め付けてくる。

「…あの、御免なさい…。本当に、小学校の時の…遠い記憶なんて、
思い出せなかったから…」

「…謝る必要はない。それで…もう、十分思い出せたのか…?」

「はい…」

「なら、そろそろ私たちの家に帰ろう…。花冷えという言葉もある…。
この時期の夜は、酷く冷えるからな…」

「あ、はい…」

 そうして、克哉が頷いた瞬間…御堂の顔が寄せられて…フワリ、と唇を
重ねられていく。
 瞬間、誰に見られているか判らないという気持ちがあるせいか…ただキスを
されただけなのに、頬が真っ赤に染まっていった。

「た、孝典…さん!」

 動揺したように克哉が耳まで赤くしながら…とっさに相手の身体を
押しのけていくと…御堂は愉快そうな笑みを浮かべていた。

「…何だ? 今さらキスぐらいでそんなに照れているのか…?」

「と、当然です…! 幾ら夜で人気がないと言っても…誰に、見られているか…
判らないんです、から…!」

「…私は君との関係を必要以上に、今となっては隠すつもりはない。
見られたならそれでも構わないがな…」

「た、孝典さん!」

「ふふ…君のそんな顔を見ているのも一興だが、いい加減帰るぞ。ほら…
ついて来るんだ…」

「は、はい…判り、ました…」

 そうして御堂の言葉に煽られて、羞恥を覚えていくと…そんな克哉を御堂は
心底愉快そうに見つめていき、そして…力強く克哉の腕を引いて…公園の
駐車場まで足を向けていった。
 意地悪で、厳しくて…その癖、二人でいる時は甘美な時を与えてくれる恋人。
 先程、そんな愛しい存在が与えてくれた一瞬のキスは…まるで桜の花びらが
唇に触れたかのように、淡く…そして優しいものであった―
 
 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想   

 ―走馬灯のように、一人の少年の記憶が蘇る
  咲き乱れ、噎せ返るような花の匂いと色彩に包まれながら―

  佐伯克哉の心は、更に遠い過去に心を馳せていく。
  現実では桜を眺めながら、その瞳の向こうには過ぎ去りし場面を
必死に自分の中から探り出そうとしていた。

―俺の存在が、あいつをあんなに追い詰めてしまった…

 誰にも言えない叫び。
 
―俺のせいで、あんなに………を、傷つけて、しまっていた…

 12歳の自分は、泣いている。
 心の中で…誰にも悟られないように。
 突きつけられた現実はあまりに彼にとっては無常過ぎて。

―俺が俺でいることが、そんなに…お前を苦しめて、いたのかよ…

 自分自身を否定される痛みに、彼は苛まれていた。
 それは精神を深く傷つける猛毒のように…まだ未成熟な心を切り裂いて
急速に蝕んでいく。

―なあ、どうすれば良かったんだ…? 出来ることを出来ると言って…それを
こなす事が、大切な人間を苦しめる事なら…俺は何も望まず、力も見せない、
自己主張もしない…そんな情けない生き方をすれば、良かったのかよ…。
 そうすれば、お前を…傷つけないで、済んだのかよ!!

 そして、少年の幻影は叫ぶ。
 現実の彼は叫んでいなかった。ただその痛みと苦しみを一人で抱えて
耐え続けていた。
 克哉が見ているのは…彼の心の中。
 決して偽ることの出来ない彼の本心の声だった。

(俺…は、こんなに…泣いて、いたんだね…)

 これは、もう一人の自分の嘆きだ。
 自分が自分で在ること。
 それで大切な人間を傷つけてしまった事に対して、どうすれば良いのか
彼は判らなくなってしまった。
 その迷いが…恐らく、全ての根源。

(嗚呼…だから、オレは生まれたんだね…)

 きっと、彼は自信に充ち溢れていた。
 その輝きが多くの人間を魅了すると同時に…反発を生んで、そして
結果的に小学校時代の最後を…孤立して、そして影で裏切られて過ごすと
いうやりきれない結果を招いてしまった。
 嫉妬という感情は難しい。
 優れた能力や才能を発揮する人間に向けられるのは称賛だけではない。
 嫉妬やひがみ、そして赤裸々な悪意等を向けられることは世の常だ。
 それでも…一番近しい人間に裏切られさえしなければ、彼はここまで
迷うことはなかっただろう。 
 それでも胸を張って…自分を信じることが出来ただろう。
 だが、裏切られた相手は…彼にとってただ一人「親友」と認めて無条件で
受け入れていた人間だった。
 そんな相手から裏切られた、影で嘲笑われて…自分の孤立させていた
事実を聞かされて、どうして傷つけないでいられるのだろう。
 何故、今までの自分を疑わずにいられるのだろうか…?

(だから、お前は迷った。その迷いが…オレを、生んだんだ…)

 克哉は、桜が怖かった理由を…その幻影を見て、思い出していく。
 心の中で泣き続けていた12歳の自分。
 今までは遠くて知ることが出来なかった、胸の奥に秘められていた記憶に
触れたことで…彼は、自分の心が生まれた理由を、知った。

―誰も傷つけないで生きたい…。自分を殺して、誰の嫉妬も買わないように
追い詰めないように…無能で、何も言わないで…ただ、生きているだけの
そんな人間に、なりたい…

 其れは生きているとは決して言わない。
 誰かの顔色を伺って、本心を押し殺してただ曖昧に笑っているだけの
人生何かまったく意味がないことを…大切な人が出来た今の克哉ならば
間違っているとはっきり断言出来る。
 だが、大切な存在に裏切られたばかりの彼は…灯台の明かりという
目標もなしに当てもなく後悔することになった船のようなものだ。
 何も見いだせなかったからこそ、間違った考えに…思い込みに
取りつかれてしまった。

―誰も傷つけない為に、自分を殺し続けるのは間違っているんだよ…

 そう、12歳の頃の自分に告げる。
 だが…彼には、今の克哉の訴えは届かない。
 其れは凍った過去の情景。
 生々しく今も息づき、胸の中で痛み続けているその出来事は…
今の克哉が生まれた、根源でもある。
 この出来事がなかったら、自分はきっと存在していなかった。
 一つの心が二つに分かれて、それぞれ別の人生を歩むこととなった
キッカケは…大切な存在に裏切られるという、人生最初の挫折を
味わうことになったからだ。

―それくらい、きっと彼にとって親友は大切だったのだ…

 だが、御堂という本当に大切な人が出来たからこそ克哉は想う。
 …そんな風にお前に嫉妬して、影で裏切り続けるような…
傷つけるような行動をとる存在がお前にとって本当に大切なのか?
 表面はニコニコと笑って、人を操ったり…影で悪口を言って嘲笑う
ような真似をする人間の為に、傷つく必要があるのか?
 本当に大切なら、そんな事は人間は決してしない。
 
―お前は見誤ってしまっただけだよ。本当に信用するべき人か…
そうじゃないのか。その判断する術を、この時のお前は知らなかっただけなんだ…。
 だから、どうか自分を否定しないで…『俺』…

 小さい自分に向かって、必死に心の中で想っていく。
 手を伸ばしても届かないのは判っている。
 過去に縛られている小さな自分に、大人になった克哉の声は容易に
届くことはない。
 けれど泣いている少年を、克哉は抱き締めたかった。
 そして…訴えてやりたかった。

―君がそんなに、自分を否定する必要なんてないんだよ…

 自分を痛めつける悪意ある誰かの為に、どうかそこまで自分を追い詰めないで
欲しかった。
 そう願い…克哉は、小さな自分を…もう一人の『俺』を見て、小さく涙を
浮かべていく。
 けれど無情にも…少年には届かない。

「…泣かない、で…」

 克哉は、知らず…現実でも、そう力なく呟いていた。
 その事を歯痒く思いつつ…過去に想いを馳せていた佐伯克哉の頬には…
静かに透明な涙が伝って、地面に落ちていったのだった―
 
 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 

 
―佐伯克哉は、いつの間にか…桜の日の回想に意識を飛ばしていた。

 目の前で少年の泣き顔が克哉の脳裏に浮かんで、いつの間にか
その状景に完全に引き込まれてしまっていた。
 直前まで手を繋いでいた筈の御堂の手の温もりすら忘れかけるぐらい
克哉は…過去の記憶に同調し…囚われてしまっている。
 青み掛かった髪をした、整った顔立ちの少年。
 年齢は、小学校高学年から中学に入ったばかりだろうか。
 ブレザーに身を包み、立っている姿には気品めいたものも感じられたが…
その顔が涙に濡れていたせいで、酷く幼い印象も受けてしまった。

『君は誰だい?』

 克哉は静かに問いかける。
 だが、相手は答えない。
 ただ…悲しそうにこちらを見つめて、涙を流している。
 凄く苦しそうに、顔を顰めながら…無理やり、歪んだ笑顔を
浮かべている。

『どうして、君はそんな顔を浮かべているんだよ…』

 少年が叫ぶように訴え掛ける。
 だが、彼の言葉は聞こえない。
 まるで口パクのように、唇だけは形作っているけれど…克哉の耳には
届かなかった。

『ねえ、何で泣いているの…?』

 克哉には、その少年が泣いている理由を思い出せない。
 けれどそう問いかけても、解答は戻って来なかった。
 満開の桜の下に立つ少年。
 これがきっと…自分が桜を恐れている原因となった出来事である事は
判っている。
 しかし…彼の顔だけを見ても答えは出ない。

『ねえ、君が誰なのか…教えてくれよ。オレはどうして…君の名前すら
思い出せないんだ…?』

 克哉は、その少年の顔をいくら見ても何も感じない。
 ただ泣き顔は酷く悲痛で…見知らぬ相手であっても胸を引き絞られるような
そんな想いを感じる。だから見ていて辛い。
 しかし克哉がその相手に抱く感情は、逆を言えば…その悲しみと疑問だけしか
存在していなかった。
 個人的な情や、感情等は思い出す事が出来ない。

 淡いピンクの桜の花。
 ただ、世界がその色だけで染め上げられているぐらいに咲き誇っていた日。
 その日は、一体…何があったのか?

(思い出すんだ…そもそも、この日は一体…何の日、何だ…? それにオレは
何を手に持って、着て…立っていたんだ…?)

 少年の顔を幾ら見ても思い出せないなら、他の事を思い出そうと思って…
その時点になってようやく自分の事を振り返った。
 手に持っているのは黒い革製の筒。
 恐らく中には卒業証書が入っているに違いなかった。
 …良く卒業式の日に校長や教頭から手渡される定番のものだ。

「卒業証書…?という事は…これは、小学校の卒業の日…なのか?」

 そういえば、自分は中学に入ってからの記憶しか殆ど思い出せなかった。
 中学は自宅のある位置からすれば随分遠くの方の学校に通っていたし
小学校時代の友人は誰一人、其処には入っていなかった。
 だから自分を知る人間が…それ以前の友人が一人もいなくても当然だと
当時は思っていたし、元々人に関わる気がなかったから…寂しいとも思わなかった。

―だが、それは何故だったんだろう…?

(よく考えたら…それは、おかしいことなんだ…。大人になった
今なら…判る、けれど…)

 けれど中学生だった当時は、一切気づかなかった。
 其れが極めて不自然な状況である事を。
 そもそも、どうして遠くの中学をわざわざ選んだのか…その理由すら知らないまま
当然のようにその学校に通い続けていた。

(そうだ、オレは…何も、知らなかったんだ…。疑問にすら、思わなかった…)

 大人になり、様々な経験を経た佐伯克哉が…過去を振り返ることにより、
当時は気づけなかった疑問と謎に、ようやく思い至っていく。

(君を知らなくて…当然、何だ…。オレは…君と、接した事がないんだから…)

 ようやく、その事実を認めていく。
 だから彼の泣き顔を見ても…自分は、懐かしさも感慨も何も覚えない。
 あの少年が大人になったであろう青年と顔を合わせた時も、この茶番の
ような出来事を実行に移すキッカケになったことが起こっても…やはり
自分の中に何も引っ掛からなかったのは、当然だったのだ。

―やっと判った。…ピースが埋まったよ…それがどうして、なのか…

 そうして、白昼夢。
 目覚めながら浸る夢の世界。過去の情景の中で…克哉は
得心したように呟いていく。

―彼は、お前に関わる存在だった。だから・・・だろう…? 『俺』…?

 そう呟いた瞬間、強風が吹いていった。
 息もつけないぐらいに勢い良く…強烈な勢いで吹き抜けていって…
桜の花が鮮やかに吹雪いていった。

―その時、克哉の目の前に…12歳の姿をした…もう一人の自分が
酷く醒めた目をして…其処に立っていたのだった―

 

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HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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