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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
                    10  
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―眼鏡を掛けた佐伯克哉はそのまま実家まで直行していくと
鍵を使って中に入っていった。
 夕方に一度寄るともう一人の自分は予め連絡していたようだが…
まだ正午を迎えたばかりの時間帯では、誰もいなかった。
 佐伯家は両親と、子供一人のみの家庭だ。
 父は今でも夕方まで勤めに出ているだろうし…母も日中は買い物や
自分の所用をこなしたりでそんなに暇ではないのだろう。
 今の彼にとってはそれがむしろ好都合だった訳だが。
 
(誰もいないというのならば…幸いだ。早くアルバムを
見つけだして焼いてしまおう…)
 
 そうして克哉は一戸建ての家の中の…倉庫代わりに使われている
空き室へと向かっていった。
 克哉の母は整理整頓はしっかりとやってくれるタイプであったおかげで
15分も探索すればあっという間に目的の物は発見出来た。
 アルバムらしき物を見つけては、パラパラと捲って中を確認していく。
 
(本当なら全てのアルバムなど焼き捨ててしまいたいがな…流石に両親の
思い出まで焼き払う訳にはいかない。消去するのは俺の小学校時代に
まつわるもの限定で良い…。不本意だが、その為には中を見て
識別しておかないとな…)
 
 見つけたら速攻で焼き捨てるつもりだったアルバムも、ここに
訪れるまでの間に若干、冷静さが戻って来てしまっていた。
 だから自分の忌まわしい過去に繋がるものに関しては焼却するという
意志は変わっていないが、親たちの思い出まで焼く訳にはいかないという
判断ぐらいは戻っていた。
 そうして十数冊に及ぶアルバムの一枚、一枚を眺めていく。
 何冊か見ている内に年季の入ったものは大抵…自分の親のものか
、克哉が赤ん坊から幼稚園に通っていた頃のものだと判って
来て省くようになっていった。
 だが、特に自分の幼少期の頃の写真が圧倒的多数を占めている
事実に気づいて、眼鏡は舌打ちしたくなった。
 
(まさかこんなにも…俺の子供の頃の写真が数多く残っているとはな…)
 
 佐伯の両親にとって、克哉は最初で最後の子供だ。
 本当はもう一人欲しいと散々母がぼやいていた時期があったが
子供とは一種の天からの授かり物である。
 どれだけ欲しいと願っても一人も出来ない可能性だってあるし、
逆に望んでいなくても妊娠して、中絶をせざる得ない事だってある。
 佐伯の両親は一人息子である克哉が生まれたばかりの頃…本当に
愛してくれていたのだろう。
 両親に囲まれて、もしくは父親か母親が抱きかかえたりして撮影された
写真が多かった。
 過去など全て消してしまおう、とさっき強く決意したばかりなのに…
不覚にも早くも揺らぎ始める。
 
「くそっ…何を、感傷に引きずられているんだ…俺は…」
 
 澤村紀次、自分の幼なじみ。
 小学校に入るか入らないかの頃から彼とは多くの時間を共有してきた。
 たった一人の親友だと信じて疑わなかった。
 だからこそ少年時代の克哉にとって彼の裏切りというその傷は拭いがたく…
彼と一緒に過ごした頃など二度と思い出したくなかった。
 だが、写真という形で…親に紛れもなく愛情を注がれた証が残っている。
 沢山のアルバムがその事実を物語っている。
 
―それに、中学以降の『オレ』が写っている写真も…それ以前の
ものとは随分と違っている…
 
 そしてその中には、もう一人の自分になってからの…中学や
高校時代の頃の写真も二冊だけ残されていた。
 中学時代の三年間と、高校時代の三年間に区切られたそれでも
ページが満たされ切っていないアルバム。
 幼少期に比べれば、殆ど残されていないに等しかった。
 そして中学を境に…佐伯克哉の、いや…もう一人の自分の瞳はまるで
死んだ魚の目というか、ガラス玉か何かのように生気がなかった。
 直前の小学校時代の写真と見比べても、明らかに表情や
目の力に差があった。
 両親はこの違いにきっと気づいていたのだろう。
 親が撮影したと思われるものは殆どなくて…アルバムに
掲載されているのは大半が、課外授業や修学旅行など学校の行事で
撮影されて…自分で選んだものだけ購入する形式で撮られたものばかりだった。
 それでさえも、風景だけのものが数多くあって…学生時代の克哉が
一緒に写っているものは少ない。
 両親もそうなった息子を無理に撮影しようとしなかったのだろう。
 その事実がアルバムの数となって…明らかに目に見える形で現れていた。
 振り返り、客観的になる事でようやくその事実に気づいていく。
 
「これ、は…」
 
 ずっと気づかなかった。
 自分はあの日から逃げ続けていたから。
 この身体の奥底に潜んで、眠る道を選択していたから気づきたくもない
事実を、突きつけられるような想いがした。
 今、あれだけ御堂の側で輝き…生き生きとしているもう一人の自分が、
こんな顔をしてずっと過ごしていたとは信じられなかった。
 いや、自分は知っていた。だが殆ど眠っていたから知覚していなかった。
 
「…何を、しているんだ…俺は。過去に囚われてるなんて無駄なのに。
あいつにこれを見られる前に、早くこんな物は、処分しないといけないのに…」
 
 一枚、一枚見ている内に…耐えがたい程の痛みが湧き上がってくる。
 澤村と一緒に、笑いながら写っているものが数え切れないぐらいあった。
 こんな物、いらない筈なのに…どうして躊躇う気持ちがあるのだろう。
 
(破り捨てろ。もしくは纏めて火に掛けろ。こんな風に胸が痛くなるだけの
思い出も、過去も…何もいらない…)
 
 そうして全てを振り切るように、眼鏡は腰を上げて…澤村と自分との
写真が多く収められているアルバムを、庭にでも持っていくか…焼却炉の
ある場所まで持っていって焼いてしまおうと考えていく。
 
―本当にそれで良いの? どんな過去でも…それはお前が
生きてきた軌跡なんだよ…?
 
「っ…!」
 
 その瞬間、不意にもう一人の自分の声が聞こえた。
 
ーどれだけ忌まわしいものでも、消し去りたい思い出でも…それが
今のお前を、いや…『オレ達』を構成するのに欠かせないものなんじゃ、
ないのか…? それを本当に消し去って後悔しないのかよ…?
 
「うるさい、黙れ…!」
 
 頭の中に響いていくもう一人の克哉の声に、低く唸るような声で答えていく。
 だが、その声は決して消えてくれない。
 むしろ大きくなって眼鏡の頭の中に響いていった。
 
ー良いや、黙らないし譲るつもりはない! いい加減に認めろよ!
 失敗したらそれに関係する事柄を全部消し去ってなかった事にするなんて、
立派な事でもなんでもない!はっきり言ってやる。そんなのは子供のする真似だ…!
 
「お前に、何が判る! 何も知らない癖に…! あの痛みを苦しみも…!」
 
―なら、オレに教えろよ! 何も知らない癖にとオレを詰るというなら…オレに
その記憶を、体験を教えてくれよ!知らなきゃ、理解しようがない!
 
「黙れ、お前の理解などオレは欲していない! 戯れ言を言うなっ!」
 
 頭の中に響くもう一人の自分の声に対して、大声で口に出して答えている様は、
端から見たら異様だし、狂人じみた光景だろう。
 だが、お互いに引く様子はない。
 頭の中でそれぞれの意識が対立しあう。
 まさに火花を散らしているという表現が相応しい状態だった。
 克哉は本気の怒りを込めていきながら、少し溜めの時間を使って
きっぱりと告げていく。
 
―オレは誰よりも真剣だよ、『俺』…! ねえ、聞こえているのかよ!
 
「…っ! うるさい、もう何もしゃべるな! 俺に語りかけるなぁ!」
 
 その声が聞こえた瞬間、眼鏡は耐えきれず…手に持っていたアルバムを
地面に派手に叩きつけて、ライターを片手に持って写真を焼却しようとした。
 そして小学校低学年の頃に、運動会で澤村と一緒に笑いあっている所を
撮った一枚に火をつけていく。
 端の方にオレンジ色の炎が近づけて少し経つと…ゆっくりと火が
燃え移って大きくなっていく。
 あっと言う間に炎が大きく広がり、すぐに持っていられなくなる。
 
「あっ…」
 
 フローリングの床の上に、燃え上がっている写真が落ちていく。
 だが、眼鏡は呆然とその様を見つめる事しか出来なかった。近くには
多数のアルバムが点在して、燃え広がるかも知れない。
 だがたった一枚の写真を燃やしただけなのに、心の中に鈍い痛みが走っていく。
 
「何で、俺は…こんな、に…」
 
 忌まわしい過去を示すものを一枚、消しただけだ。
 笑顔を浮かべあっていた自分達の過去の一幕を撮影したものが
跡形もなく炎に飲み込まれていく。
 
―早く消すんだ! アルバムだけじゃなく…この家自体が
このままじゃ焼けてしまうぞ!
 
 もう一人の自分の悲鳴が頭の中に響いていく。
 だが、身体は動かない!
 
―自分の家まで、他のアルバムまで無くすつもりかよ! 自分を
構成している全ての過去を消し去る気なのか!
 
 本気の怒りを込めた、克哉の絶叫が頭の中で反響していく。
そんな事は言われなくたって判っている。
早く動かなければと警鐘が鳴り続けているのに、彼のそんな意思に
反して満足に身体は動いてくれない。
まるで金縛りに遭ってしまったかのように、満足に身体は動かない。
 
「判って…い、る…」
 
  憤りながら、脂汗を浮かべながら眼鏡は呟く。
  その顔は酷く苦しげだった。急速に胸の鼓動が忙しくなり、まるで
不整脈の発作を起こしてしまったかのように不規則で忙しない。
写真の中の澤村の笑顔が燃えて消えようとした瞬間、思い出したくない
光景がフラッシュバックをして脳裏に再生されていく。
 
―其れは泣いて顔をクシャクシャにしている、あの日の澤村の顔だった
脳裏に焼きついて、消えることがなかった記憶。

   自分はまったく知らないまま…相手にあれだけの苦痛を無自覚に
与えていた記憶が、こちらに向けられていた笑顔がいつしか演技に
過ぎなくなっていたことを突きつけられた日の事が…在りし日の無邪気で
心からの笑顔を浮かべている彼の写真が、消失するのをキッカケに思い出してしまう。
   相手を信頼して、ずっと一緒に歩んでいくのだと信じ切っていた頃の
自分の姿が…今見れば痛々しいぐらいだった。
  その痛みが彼の心を蝕んでいく。
  ジワジワジワと広がり、侵食されていくようだった。
  長年、胸に秘め続けていたことでそれは猛毒へと変わり…今の彼の
行動を自由を奪ってしまっていた。
 
―もう良い! オレが出る! このままじゃ全てが消えてしまう!
 
  頭の中にもう一人の魂の叫びが聞こえていく。
  その瞬間に、スっと何かが遠くなるような…そんな気分になった。
   同時に…ブレーカーが落ちたみたいに、眼鏡の意識は唐突に
途切れていったのだった―
 
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
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 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―母校の小学校の裏で、Mr.Rに強制的に例の銀縁眼鏡を掛けさせられて、
佐伯克哉は意識を奪われていった。
 そして暫くしてその場に立っていたのは…いつもの穏やかな雰囲気を
纏っている方の彼ではなく…鋭い眼差しを浮かべている、ここ二年ぐらいは
深い意識の底に潜んでいた方の人格が表に出てしまっていた。
 一年ぶりに見る、懐かしい姿にMr.Rは心底満足そうな笑みを浮かべて
彼に語りかけていった。
 
―お久しぶりですね、我が主…
 
 心から陶然となりながら、Mr.Rは眼鏡を掛けて表に出た
意識の方へ声を掛けていった。
 男のいう通り、一年ぶりぐらいに表に出たせいで…最初、これが
自分の身体という気がしなかった。
 
「お前、か…確かに、久しぶりだな…」
 
―私は貴方がこのまま完全に消えてしまうのではないかと…
気が気じゃありませんでした…
 
「…ふん、お前はまだ諦めていなかったのか? 俺はお前の望むような者に
なるつもりなど毛頭ない。いい加減、諦めろ…」
 
―いいえ、貴方という存在の意識がこうしてある限り…貴方が私の望む『王』と
して覚醒する可能性は決してゼロではありません。貴方の意識が…あちらの
克哉さんに完全に呑まれて消えてしまうまでは、私は簡単に諦めるつもりは
ありませんよ…
 
「チッ…好きにしろ…」
 
 そうして、眼鏡を掛けた佐伯克哉は15年ぶりに母校の土を踏んでいく。
 脳裏をよぎるのは、今となっては苦い思い出ばかりだ。
 小学校の高学年を迎えるまでは、自分の周りにはいつだって
多くの人間がいた。
 それが掌を返したように、孤立をするようになったのは小学校5年になった
辺りからだろうか。
 
(陰湿で、卑怯な奴らだったな…あいつら、全員…)
 
 この場にいるだけで溢れてくる、今の彼にとっては屈辱以外の
何物でもない過去。
 今の自分なら、当時与えられた痛みを…苦しみを、決して警察に
捕まるようなヘマはしないで相手に返すことが出来る。
 
(あの当時、この学校に俺と一緒に通っていたあのくだらない奴らは…
今でも大半は、この周辺に住んでいるのか…?)
 
 もう一人の自分のように、彼にはこの地に郷愁の念などまったく感じられない。 
 生きている限り、決して立ち寄りたくなかった忌まわしい場所だった。
 
「…まったく、あのバカが。どうして勝手にこんな場所に一人でやって
来ているんだ…」
 
 苦々しくそう吐き捨てていくと、彼は踏を返してその場を立ち去ろうとした。
 そんな眼鏡の背中に向かって、男が語り掛けてくる。
 
―おやおや、どこに行かれるのですか…? せっかくこうして貴方と私が
初めて出会った場所に…一緒にいるというのに…
 
「…そんなのは俺の勝手だろう。くだらないものを処分してくるだけだ…」
 
―くだらないもの…? あぁ、もう一人の貴方が見ようとしていた貴方の
昔のアルバムですか…?
 
「あぁ、コイツになってからの物までは処分する気はないが…俺が生きていた頃の
はもういらない。あの男に纏わる全てのものは…もう、俺は必要としない…」
 
―本当にそれで後悔しないのですか? その行為は…貴方の生きていた証を
消し去るのと同じ事ですよ…?
 
「…コイツに、あの屈辱的な体験を知られるぐらいなら…そんなものは、
俺はいらない…」
 
 静かに、だがはっきりとした意志を込めて眼鏡は言い切っていった。
 誰の理解も、情も必要としていない…そういったものを全てを
拒絶している態度だった。
 
―嗚呼、貴方は本当にどこまでも孤高の存在ですね。誰からも理解されず、
それを貴方自身も必要としていない。残念ですね…そういった点は確実に、
『王』となる資質を満たしているというのに…
 
「ふん、どれだけお前が望もうと…お前の手に俺が堕ちることはない。
残念だったな…」
 
―えぇ、貴方のような方に無理強いは逆効果ですから。なら私は気持ちが
変わられるまで気長に待ちますよ。私にとってはそれこそ…時間など
無限にあるに等しいですから…
 
「……勝手にしろ」
 
 そうして眼鏡を掛けた克哉は、黒衣の男から背を向けてその場を立ち去っていく。
 
―まずは、実家に戻ってアルバムを燃やそう…
 
 そうして、もう一人の克哉が彼を知ろうとしている事に繋がる物は
全て処分をしておこう。
 人間の記憶は一日に起こった事を意識している範囲では5~10%程度しか
残さないで大半のものは整理される。
 表層意識に残る記憶と、残らない記憶の判別方法の一つに
『今、自分にとって必要な情報かどうか否か』で無意識の内に選別している。
 大半の記憶はそうやって静かに沈んで、ひっそりと奥の方にしまわれていくが…
必要になった時には、その糸口を頼りに引き出される仕組みになっている。
 彼ら二人は、それぞれの領分で…自分が体験した事を記憶しているが、
同じ肉体を共有しているせいで…眼鏡がどれだけ拒んでも、その記憶を
思い出すのに必要なキッカケに触れれば…彼の方にも一部、記憶が流れてしまうのだ。
 眼鏡の方が内側で同じものを見れば、記憶の連鎖反応は発生する。
 その際に…実に不本意だが、同じものをもう一人の自分も見てしまうのだ。
 だから、それを拒否するにはすでに方法は一つしか残されていなかった。
 
―忌まわしい過去に繋がる全ての物を、自分が表に出ている内に消去してしまおう…
 
 消し去りたい過去。
 誰にも掻き回されたくも、触れられたくない記憶。
 それを自分に許可なく知ろうとする者がいるとしたら…例え『オレ』で
あっても容赦する気はなかった。
 自分の汚点を暴こうとする行為は決して許さない。
 それぐらいなら、そんなものは全て無くしてしまった方がよほどマシだった。
 
(俺の弱みを…暴かれたくないものを哀れみや同情で知ろうとするのは…
屈辱だ。それくらいなら、全てを消す…)
 
 幼かった頃、あの男…澤村紀次に繋がる全てを今度こそ変な未練など
一切残さずに消し去ろう。
 そう強い決意を込めて男は、忌々しい思い出ばかりが道溢れるこの地を
後にしようとしていった。
 彼の怒りに満ちた背中を見送っていきながら、黒衣の男は
満足そうに微笑んでいく。
 
―そう、それで宜しいのですよ…貴方こそ孤高である事が相応しい…。
貴方にとって思い出したくもない過去を暴こうとするものに正当な怒りを。
そうやって純粋に憤る貴方は本当に…美しいですよ、我が君を…
 
 だが、陶然と微笑む男に向かって…眼鏡は決して振り返らない。
 そのまま全てを振り切るように真っ直ぐに前を見据えて…彼は
その場を立ち去っていく。
 その背中からは誰からの理解を拒む、頑なな拒絶の色が
色濃く滲んでいたのだった―
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
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故郷の町に久しぶりに足を向けて、少しでももう一人の自分の
事を理解したい…その為に中学に入学する以前のことを知りたいと
思い立ち、母校の敷地に15年ぶりに足を踏み入れた克哉を
待ち構えていたのは…謎多き人物であるMr.Rだった。
 
―まさか貴方が、ここに再び来るとはね…予想外でした…
 
 男はいつもと違って…妖しい笑顔ではなく、今日に限っては
どこか不快そうな表情でそう呟いていった。
 それにいつもと瞳も大きく異なっているような気がした。
 今…目の前に立っている男の瞳は冷酷で、感情が殆ど
ないように見受けられた。
 そのおかげで黙って対峙するだけで相当に消耗してしまう。
 だが、それでも克哉は怯むことなく…相手を真摯な瞳で
見つめながら、問いかけていった。
 
「…そんなに、オレが此処に来るのはいけない事だったんですか…?」
 
―えぇ、貴方がもう一人のご自分の存在を守りたいというのならば此処は
いわば…あの方にとっても鬼門。禁断の地に等しい場所です。
ですから…これ以上、余計なことはほじくり返さずこの場から
立ち去ってください…。これは警告です…
 
 いつになく厳しい口調で、男はそう伝えてくる。
 だが、克哉も簡単には引く訳にいかなかった。 
 こうしてこの男が現れたということは、ここに克哉が知りたい事の
糸口が確実にあるのだと教えてくれているようなものだ。
 
(Mr.Rがわざわざここに現れたという事は…逆にここが核心に近いことを
示しているんだ。やっぱり…中学以前の出来事を思い出す為に必要な
パーツは、ここに絶対にあるんだ…
 
 だが確信を深めた瞬間…割れるような頭の痛みを克哉は感じていった。
 
「うっ…ああっ…!」
 
 割れるような頭の痛みが急速に克哉に襲い掛かってくる。思わず
呻き声を上げながら、その場に膝をついていっった。
 
―ほら、見なさい。それはもう一人の貴方が…拒絶している証です。貴方に
これ以上、自分の傷を抉られるような真似を決して…あの方は望んでいないのですよ…
 
「…そ、んな事…言われたって、イヤだ…。ここで、引きたくなんて…ない…ん、だ…」
 
―強情な方ですね。そんな痛みが伴うぐらいにもう一人の貴方はこの地で
起こった出来事を…その体験を貴方だけではない。誰であろうとも…
知られたくないんですよ。その気持ちを貴方は理解出来ないのですか…?
 
「……あいつが、オレに過去を知られたくないと思っている事ぐらいは
…判っている…」
 
―なら引き返しなさい。誰にだって立ち入ってもらいたくない領域というのは
存在します。今の貴方の行為は…あの方の領分を侵す行為に他なりません。
貴方がこれ以上…意地を張るというのならば…私も黙っていませんよ…?
 
「何を、すると言うんですか…?」
 
 いつになく威圧的な口調と態度で、こちらを脅しかけてくるMr.Rを前にして、
克哉は背筋に冷たい汗が伝うのを感じていた。
 けれどこっちだって簡単に引く訳にはいかない。
 そう腹を決めて相手を睨みつけていると…不意に黒衣の男は懐から…
あの、銀縁眼鏡を取り出していった。
 その瞬間、克哉の瞳は見開かれていく。
 
「…っ! その、眼鏡は…!」
 
―はい、そうです。これはもう一人の貴方を…隠された本性を、私の大切な
あの方を解放する為のキーアイテムです。貴方が私の言葉に従わないと
いうのなら、不本意ですが…実力行使をするしかありませんね…
 
 その瞬間、男の酷薄な笑みを目の当たりにして…克哉はゾッとなった。
 コツコツ、と硬質な靴音を立てながらゆっくりと男は近寄ってくる。
 途端に、一つの情景が脳裏に浮かび上がってくる。
 
―桜の下で、15年前に佐伯克哉は間違いなくこの男に出会っている
 
 その記憶のパーツを、克哉は手に入れていく。
 だが、それは全てを思い出す為の鍵の一つを手に入れただけに過ぎなかった。
 克哉は全力で逃げようとした。
 だが、蛇に睨まれた蛙のようにすでに満足に身体を動かす事は出来なかった。
 今までも怪しい男だとは思っていた。
 だが、ここまでこの存在に対して本能的な恐怖を覚えたことがなかった。
 
(今のMr.R…本当に、怖い…!)
 
 両足がまるで地面に縫いつけられてしまったかのように
満足に動かない。
 この男の前から逃げたい、この場を立ち去りたいと強く願っても最早…
身体の自由が利かなくなっていた。
 そして男は克哉のすぐ目の前に立ち、思わず見惚れるぐらいに綺麗な笑みを
浮かべていき…そして。
 
―チェックメイトですね。これ以上、この地で貴方をのさばらせる訳には
いきませんから…
 
 そうして克哉の両耳に、冷たい眼鏡が掛けられていく。
 一年ぶりに意識が遠くなるような感覚を味わう。
 必死になって克哉は抗おうとしたが、それも無意味な努力に終わっていく。
 
(駄目だ、オレはまだ…全てを、手に入れてないのに…)
 
 そうして気力を振り絞って持ちこたえようとしていった。だがそれは無駄だと
嘲笑うように、脳裏に一つの声が響きわたっていく。
 
―無駄な足掻きは止める事だな…
 
(あいつの、「俺」の、声が…聞こえる…)
 
 ゆっくりと自分の内側から、もう一人の自分の意識がせり上がってくるのが判った。
 冷たく、傲慢な響きを伴った彼の声を…克哉は久しぶりに耳にした。
 だが、あの眼鏡を掛けられてしまった克哉には抵抗する術がない。
 自分は結局、この力には勝てないのだろうか…?
 
「悔、し…い…」
 
 恐らく、克哉が求めているものまで後一歩の所まで近づいていた筈なのだ。
 その寸前で押し止められて、克哉は心底口惜しかった。
 己の無力さに、泣きたくなった。
 唇を強く噛みしめて意識を引き留めようと試みていくがそれも徒労に終わっていく。
 そして頬に一筋の涙をそっと伝らせながら…克哉は意識をゆっくりと
手放していったのだった―
 

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
                    10  
         11  12  13  

―克哉はそうして、桜の満開の時期を迎えるまで]
中学以前の自分を知る旅に出た

 それは帰省という言葉に言い換えることが出来る小さなものであったが…
大学に進学して一人暮らしをして以来…克哉は親にせがまれない
限りは殆ど実家に帰ろうとしていなかった。
 だが自分が知りたいものを得る為には卒業して以来、一度も足を
踏み入れることがなかった小学校に、そして実家にあるアルバムを
見る必要があると克哉は思った。
 御堂にワガママを言ってこの週末は一日、休みを貰った。
  この旅路に御堂は仕事の関係で付き合えなかった。
 桜の咲くく時期、三月末は殆どの企業では決算期だ。
 その時期に休みを一日、強引にもぎ取った関係で御堂の現在の
スケジュールは過密を極めている。
 本来なら、克哉を一日休ませる処ではない。
 それこそ睡眠を惜しんで働かなければ片づかないぐらいの量の
仕事が御堂に今、のし掛かっている。
 だが、それでも愛しい人は…自分が必要だと思うなら早く
足を向けると良い、と言ってくれた。
 最初は克哉も恐縮して断り続けたが…御堂の意志が堅い事を
悟ると、謹んで彼からの好意を受ける事にしたのだ。

(実家に…生まれ故郷に戻ったからといって確実に思い出せる保証
なんてどこにもないけどな…。それでも、オレはお前のことを少しでも
知りたいんだ…)

 久しぶりに故郷の地を、その入り口である駅を出て彼の胸を去来するのは
ある種の不安であり、懐かしさでもあった。
 克也自身にはこの周辺の記憶は中学から高校を卒業するまでの
六年間分しかない。
 それでも実家に向かう途中の光景を眺めている内に郷愁の念が
ジワジワと湧いてくる。
 それ以前の彼にとってはそんな想いも煩わしいものでしかなかったが…
今は少しだけ違って感じられた。

「ここがオレ達の故郷なんだな…」

 そう、今まで自覚していなかった。
 ここは克哉と、もう一人の自分のふるさとである事を。 実家の周辺の
町並みを、そして小学校へと続く通学路を歩いているだけで心がざわめき始める。


―そっちに行くな…

 そして脳裏に時々、もう一人の自分の声が響いていく。
 だが克哉はその声を振り切って足を進めていった。
 東京都内でも、この周辺でも住宅街に限っていえばそこまで大きく
違いがある訳ではない。
 白金みたいな高級住宅街であるなら話は別だが、そうでない限りは
関東圏内である限りは大きく変わる訳ではなかった。
 簡素で平凡な町並み。
 どこにでもありふれている光景。
 だが、今の克哉にはそれがひどく懐かしかった。
 思い出せない筈なのに、克哉は小学校までの道のりを迷わず歩くことが出来た。

「小学校はこっちにある筈だ…」

 そう、記憶を失っていても六年間、通い続けた道だ。
 無意識の状態でも身体はしっかりと覚えていた。
 そして克哉は、最初の目的地にたどり着く。
 普段着の格好のまま…一個人として、母校でもあるう彼の地を―

「ここが、オレが卒業した学校…か…」

 しみじみと実感しながら、校庭と校舎を眺めていく。
 真っ白い校舎は大きくそびえ立ち、校庭の広さもそこそこあった。
 どこにでもあるような、特に大きな特色が感じられる訳でもない学校。
 だが、体育館の周りにすでに蕾をつけ始めた桜の木が密集して
植えられている事が、目を惹いていく。
 その風景を見た瞬間、まるで堰を切ったように頭の中に幾つもの
光景が浮かび上がっていく。

「あっ…ああっ…!」

 桜の木を見た瞬間、閉ざされていた記憶の扉が急に開け放たれていった。
 
―泣いちゃダメだよ。あんな奴らの言う事…君がこれ以上気にする事
はないんだ。あんなくだらない奴の為に傷つく必要はないよ…

ーうん、気にしないよ。俺には…君がいてくれるから。君さえ俺の傍に
いてくれれば…他の奴なんて、いなくたって良いんだ…

 克哉はその時、幻を見た。
 体育館の裏側で、寄り添うように立っている二人の少年の残像を。
 傷ついた少年を、もう一人の少年が宥めていた。
 一人はきっと、あの男性で…必死に泣きたい気持ちを
抑え込んでいる方はきっと…。

―これ以上、踏み込んでくるな…。お前が、それを知ろうとするな。
こんなのは屈辱以外の何物でもない…!

 少年たちのやりとりが脳裏に浮かび上がると同時に、もう一人の
自分の声が鮮明に響き渡った。
 そう、此処こそが始まりの場所に間違いなかった。
 克哉が思い出せなかったあの男性と、もう一人の自分との苦い記憶が
つきまとう場所に違いないのだ…。

―お前は知らなくて、良いんだ…その為に、俺はお前を…

「…ゴメン。きっとこれはお前の領分を侵す行為だって自覚はある…。
けど、それでもオレは知りたいんだ…」

 まだ午前中であるせいか、広い校庭には人影はない。
 けれど目を閉じれば子供たちの喧噪が聞こえてくるようだった。
 大勢の生徒たちがはしゃぎ回る中で…一人でポツンと立っている少年がいる。
 寂しそうで、今にも泣き出しそうなのに…必死になってそれを
堪えている姿が実際に見えるようだった。

ー止めろ、見るな…! そんな情けない姿を暴くなっ…!

 もう一人の自分が頭の中でうるさいぐらいに訴えかけていく。
 けれど克哉は引かなかった。

「………」

 無言のまま、懐かしい筈の風景を眺める。
 だがもう一人の自分が叫べば叫ぶだけ、克哉の胸には懐かしいという
気持ち以上に…苦いものが広がっていく。

「嗚呼…だから思い出せなかったのか…」

 もう一人の自分の抵抗が強ければ強いだけ、それだけ彼は辛くて
屈辱的な記憶をずっと抱え続けてきた証なのだ。
 誰にも語ることなく、理解を求めることもなく…ずっと独りぼっちで
克哉の中で13年も眠り続けて、今でも心の中に潜み続けている。
 けれどいつまでも辛い記憶を一人で抱えている必要などない。
 いい加減、その恨みも憎しみも悲しみも…全てを流して良い筈なのだ。
 
―もう、憎しみを洗い流して良い頃だろう…「俺」…?

 そう問いかけて、克哉は重く閉ざされていた記憶の扉を強引に
開いていこうとした。
 克哉の足はゆっくりと体育館の裏の方へと向かい始めていく。
 きっとあの近くに立てば、何があったのか思い出すキッカケになるだろうと
一種の確信を持って進んでいく。
 だがその手前で、彼の足を阻むように背後から一人の男の声が耳に届いた。

ーやれやれ、困りましたね…貴方がしようとしている事は…あの方の心を
滅ぼす事に等しい行為だという自覚がまったくないんですね…

 不意に、聞き覚えのある声が聞こえていった。
 これは心の中ではなく、現実に聴覚で捉えているものだ。

「っ…! Mr.R…?」

ーお久しぶりですね、佐伯克哉さん…まさか、こんな場所で貴方と
再会する事になるとは…

 いつだってMr.Rが目の前に現れる時には胡散臭い微笑みが称えられていた。
 だが、今…克哉の目の前にいる彼はいつになく不機嫌そうな表情を浮かべていた。
 彼のこんな顔を、克哉は初めてみた。
 同時に確信を深めていく。

―ここには確かに、何かがあるのだと…

 そうして克哉はキュっと唇を噛みしめていきながら
黒衣の男と対峙していく。
 その瞬間、つかの間だけ…あの運命の日の百花繚乱の桜の情景が…
克哉の脳裏に鮮明に浮かんで…すぐに消えていったのだった―

  
 

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想  
                   10  
         11

  かつて親友と思いながら、今は完全に存在ごと忘れてしまった男と
再会した夜…克哉はどこかおかしかった。
 そんな彼を少しでも励ましたいと願って、御堂はその身体をソファの上に
押し倒して、強い力で抱きしめていく。
 息が詰まりそうなぐらいに強い包容だった。

「孝典、さん…?」

「克哉、不安というのなら…幾らでも私に縋りついても構わない…」

「…はい」

 きっと御堂は、今の克哉の言いようのない不安をきっと感じ取って
くれているのだろう。
 自分の足下すらおぼつかないような、あやふやな状態を。この漠然とした
恐怖感に気づいてくれている。
 今の克哉の中ではまだ上手く整理がついていなくて、相手に筋道立てて
説明したりは出来そうにない。
 だからこそ、ただ無条件で抱きしめられることが克哉には嬉しかった。

ー私は君の味方だ…

 例え理由を話さなくても、話せなくても克哉を支える為の腕は
ここにあるのだと…静かに示してくれている。
 たったそれだけの事が今は泣く程、嬉しかった。
 紫紺の、真摯な瞳がこちらに真っ直ぐに向けられる。
 この双眸に見つめられるだけで…恋人関係になってすでにもう十分に
経っているというのに毎回、電流が走り抜けていくような気がする。
 御堂はいつだって、はっきりと自分の意志を二対の目に映していく。
 克哉はその強さに、畏れと同時に…頼もしさを覚えていた。
  こんな素晴らしい人が、自分なんかを選んでくれたのは本当に
奇跡だといつも思ってしまう。
 御堂の身体が次第に熱を帯びていく。
 その熱さのつられるように、こちらの身体も高まって…心が
浮き足立っていくようだった。

「克哉、抱くぞ…私以外の男のことはもう考えるな…」

「はい…」

 御堂はこちらを見据えていきながら、はっきりとした意志を
込めて告げていく。
 克哉もまた、静かに頷いていくと唇が重ねられていった。
  すでに何度、こうしてキスをしたのか数えられないぐらいに交わしている。
 なのに、未だに御堂とこうしているとドキドキする。
 全然飽きたりする暇がない。
 ヌルヌルした舌先がこちらの口内に差し入れられて、あっと言う間に
舌を絡め取られていく。
 甘く吸い上げられてしまったら、到底抗えそうにない。
 早くも腰が疼いて、どうかなりそうだった。

「あっ…はっ…」

 上着とネクタイを剥ぎ取られて、手荒く服のボタンを外されていく。
 酷く心臓がドキドキして落ち着かなくなった。

「はっ…んんっ」

「もう、君の此処は反応しているみたいだな…相変わらず敏感な身体だ…」

「ふっ…は…言わないで、下さい…!」

 今までにどれくらい御堂に抱かれているか数え切れないぐらいなのに、
未だにこの人に言葉で責められると羞恥がこみ上げて来る。
 頼りない棟の粒を両手で責められて、鎖骨の周辺に所有の証を刻み
つけられるだけで己の欲望に飲まれてしまいそうになってしまう。

「ふっ…ぁ…胸ばかり…攻め、ないで…」

「嗚呼、君は淫乱だからん。まだ始まったばかりなのに…此処の刺激だけでは
物足りなくなってしまっているのか…?」

「だから、孝典…さん…。言わないで…」

 克哉は泣きそうな顔を浮かべていきながら、御堂に訴え掛けていく。
 だが、普段の彼が悩んだり悲しんだりする事で泣く事は御堂は酷く厭うのに、
こういう状況下においてはむしろ自分の恋人は積極的にこちらを泣かせようとしていく。
 堅くしこった胸の突起を押し潰すように愛撫されるだけで腰に重く響いて
堪らなくなってしまうのに、それに強弱をつけてこねられたり爪を軽く立てられる
刺激まで加えられてしまってはもうダメだ。
 きっとソファから起き上がったら満足に立ち上がれない状態に
なってしまっているだろう。

「ん…ああっ…や、孝典…さん。胸だけ、そんなに…責め、ないで…」

 スーツズボンの下では、こちらの欲望はすでに痛いぐらいに
堅く張り詰めてしまっている。
 もう焦れったくて、早くペニスに強烈な刺激を与えて欲しいのに
いつまで経っても触れてもらえなくて気が狂いそうだった。
 強請るように克哉が腰を何度も捩らせていくが、御堂は一向に
愛撫する場所を変える様子はなかった。
 
「早く、触れて下さい…気が狂って、しまいそう…です…」


「ククッ、これぐらいで君が狂っていたら…君はとっくに正気では
ないだろう…。これぐらいで根を上げるなど情けないぞ…克哉…」

「んんっ…はぁ…」

 こんなに性器も穴も、疼き切って仕方ないのに全然欲しいものが
与えられなくて克哉は悶え続けていった。
 御堂はこちらを抱く時、この瞬間を確かに楽しんでいた。
  克哉が腕の中で、涙を流すぐらいに追いつめられて…快楽の涙を流す瞬間を…。

(孝典さんは、本当に…こういう時は、意地悪だ…。普段は
優しくて、いつだって俺を気遣ってくれるのに…)

 だが、自分は御堂のそういう意地悪な部分もひっくるめて
好きになってしまっているのだからどうしようもない。

「お願い、早く…貴方が、欲しいんです…」

 更に延々と胸ばかり責め立てられて、克哉はついに
懇願するように御堂に訴え掛けていった。
 これ以上じらされたら、耐えられない。
 相手の首筋にギュっと強くしがみついていきながら訴え掛けていく。

「…まったく、君は本当にこういう時は堪え性がないな…。そこまで淫らな
身体をしているとは本当に驚いてしまうな…」

「意地、悪…んあっ!」

 けれど克哉が快楽の涙で瞳を潤ませて訴え掛けていくと…ようやく
待ち望んでいた箇所に御堂の指が絡められていった。
 それだけで克哉は歓喜の声を上げていき、大きく全身を震わせていった。

「嗚呼…!」

 御堂に触れられた頃には克哉のその部分はすっかりと
濡れそぼって、男の手を汚していった。
 鈴口を責められる度に先走りが厭らしく伝っていってグッチャヌチャと
^淫猥な水音を立てていた。

「ほう、もうこんなに濡らしているとはな…そんなに私に触れられるのを
期待していたのか…?」

「はい…さっきからずっと…貴方に、そうされたくて…おかしく、
なりそう…でした…!」

 克哉が髪を振り乱していきながらそう口にすると、御堂は満足そうな
笑みを浮かべていく。
 こうして快楽に従順になって、自分の腕の下で喘ぐ克哉はハッと息を
飲むぐらいに艶っぽかった。
 
「ほら…克哉、聞こえているか…? 君の厭らしい穴からはこんなに
汁が溢れて私の指を濡らしているぞ…?」

「やっ…お願い、だから…言わない、で…」

「何がイヤなんだ? もっと激しく扱いて…気持ち良くして欲しい癖に…」

「んんっ…ぅ…はっ…」

 もうどんな反論も、今は睦言に近くなってしまう。
 克哉のペニスはすでに御堂の手の中ではちきれんばかりになっていて、
ピクピクと小刻みに痙攣を繰り返していた。

「孝典、さっ…ん…!も、う…!」

「嗚呼、イクと良い。…君のその顔…見ていて、やる…
から…」

「はっ…あああっ…!」

 そうして強く扱き上げられて、克哉は耐えきれずに一際大きな声を
挙げて達していった。
 目の奥で花火が散るような、頭が真っ白になるような感覚が走り抜けていく。
 そうして、克哉は愛しい恋人の手の中に白濁を吐き出して
荒い呼吸を突いていくと…。

「克哉、抱くぞ…」

「あ…はぁ…!」

 御堂に低く掠れた声でそう宣言されると同時に、絶頂の余韻に
浸る間もなく…御堂の熱い塊が克哉の中に侵入してきたのだったー

 

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
                  10

―御堂は、克哉を強く抱きしめていきながら…複雑な思いに
駆られていた。
 明らかに、赤いフレームの眼鏡を掛けた男と出会ってからの
克哉の様子はおかしかった。
 中学以前の記憶がない、という言葉も…あれだけこちらに悪意を
見せている男の事を覚えていないとか、不可解極まりなかった。
 だが、彼がおかしくなってしまっているのならば…少しでも
手助けしたいと思っているその気持ちだけは偽りがなかった。

 だが、御堂の胸の中に宿るのは…本城との一件だった。
 …あの時期、御堂は…本城への怒りと憎しみを心の底に
押し殺しながら生きていた。
 本当ならば、大切な克哉をあんな目に遭わせた本城を許すことが
出来なかったし…他の友人たちのように、堕ちてしまったかつての友を
心の底で案じたり、手助けしようという気持ちにもなれなかった。
 だから、克哉とも…友人たちと顔を合わせることもどこかで辛く
思っていた時期。
 二人きりでリビングでゆったり過ごして会話をしていた時…
本城の話題が軽く上った時、克哉は穏やかな顔を浮かべながら
こう口にしたのをふと、思い出した。

―オレはあの人を、憎みません…。確かにあの人に大きな怪我を
負わされてしまったけれど…こうしてオレは生きていますから。
幸いにも、後遺症も何も残らなかった。それなら…今は袂を分かって
しまったとは言え…オレは、貴方のかつての友人を憎んだり
恨んだりしたくないんです…

 あの本城の暴走で大怪我を追って、退院した直後…二人きりで
過ごしていた時に、そっと克哉が静かな声でそう呟いたことがあった。
 御堂はその一言に、驚いた。
 けれど…克哉の表情はとても透明で、それが酷く印象的だった。
 
―例え私のかつての友人であったとしても、今の私にとって…
君以上に大切な存在なんかいない! その君を傷つけた彼を私は…
心の底から、許せそうにない…

 大学時代の他の友人たちが、麻薬漬けになった本城を案じている事を
知っていた。
 克哉も、許そうとしていることを察していた。
 だから…御堂は、必死になって気にしないようにしていた。
 だが、かつての旧友を案じる気持ちよりも克哉を傷つけた怒りの方が
その時期の御堂は勝ってしまっていた。

―忘れて下さい御堂さん。オレはこうして…今、貴方の傍にいます。
本当にあの人の過ちでオレを失ってしまったというのならば…貴方が復讐に
身を焦がしても何も言えません。けど…オレはこうして貴方の傍にいる。
貴方の目の前にいるんです…!

 そうして、食い入るように真摯な眼差しを向けた後…克哉は酷く魅惑的な
笑みを浮かべて、次の瞬間…御堂の心を酷く驚かせる一言を吐いた。

―憎しみなど捨てて下さい。オレは…貴方が、どんな感情であれ…オレ以外の
人間に、強い感情を抱いていることの方が耐えられませんから…!

 その一言を聞いた時、御堂は驚きを隠せなかった。
 何を言われたか把握出来ない、鳩が豆鉄砲を食らったようなマヌケな
顔を自分は浮かべていたのだろう。

―同時に、貴方が…その憎しみを抱くことで四柳さん達とすれ違って
しまうことも嫌なんです。…孝典さん、オレはこうして…五体満足の姿で
貴方の目の前にいる。だから、もう引きずらないで下さい。
 憎しみを抱き続ければ…本来あるべき形が歪められてしまうから。
 心の中に重いものを抱き続けなければならないから!
 人は誰でも間違います。本城さんは弱くなって…その過ちを犯して
しまっただけです。皆が、貴方のように強い訳ではない。
 間違えないで生きれる程…強い人なんて、世の中に殆ど存在いません。
 誰だって間違える時はあります。魔が差してしまう時だってあります。
 …だから、オレを傷つけたことであの人を憎んでいるというのならば…
どうかその恨みを流して下さい…!

―それが君の、望みなのか…?

―はい

 力強く、克哉はそう言い切った。
 自分を傷つけたものを許せと、その為に他の男に憎しみとは言え強い感情を
向けてくれるなという…その正直さに、つい笑いが込み上げて来た。
 御堂はそのやりとりの後、一頻り笑い続けた。
 そうして…心から、こう思った。

―君には、本当に私は一生…敵わないな…
 
 あの男と出会って、おかしくなった克哉を胸に抱きながら…御堂はあの日の
やりとりを鮮明に思い出していた。
 あの日、憎しみを胸に抱えて歪になりそうだった自分を…克哉は必死になって
救おうとしてくれた。

『自分以外の男に、憎しみでも強い感情を抱かないで欲しい』

 そんな風に、愛しくて堪らない存在に言われてしまったら…惚れた男として
聞き遂げない訳にはいかない。
 おかしくて、おかしくて…そう笑っている内に、確かに自分の心の底に溜まって
いた猛毒のような感情は確かに流れていくのをあの日…感じていた。
 あの日、また自分は彼に救われたと思った。
 その事を思い出したから…今度は、自分が彼の心を汲み取って…少しでも
楽にしてやりたいと思った。
 あの男の事を思い出せない、貴方を知らないと言った時の克哉の
苦しそうな顔が脳裏に蘇っていく。

(あの男を思い出せないことであんなに君が辛そうな顔をするのなら…桜を
一緒に見に行くぐらいの事は幾らでもしよう…)

 それが本当に、彼を救うことになるか判らないけれど…少しでも
御堂は克哉を助けたかった。
 その想いにだけは偽りはなかった。
 お互いに無言で、ただ…抱き合っていく。
 こちらが本城との一件を思い出している間…彼の方には果たして
どんな気持ちが湧き上がっているのだろう。
 あの男の事を考えて、今も不安を覚えているのだろうか…とふと思った時、
心の中にチリリとした想いが宿っていった。

(私も大概、嫉妬深いな…)

 けれど…克哉の方に意識が戻った時…こうして抱き合っている最中に
これ以上…他の誰かの事を考えて欲しくないと、思い始めていく。
 だから御堂は甘く掠れた声で…そっと相手の耳元で囁いていった。

「克哉…」

 そうして、愛しい人間に呼びかけると同時に…御堂はそっと、その晩…
克哉の身体をソファの上に組み敷いていったのだった―

 
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
                

―心の世界で、もう一人の自分と対面した時…最後に見た
彼の切ない表情が克哉の心に焼き付いていった

「泣かないで…『俺』…」

 夢から醒める直前、克哉は無意識の内にそう呟いていく。
 どうしてあんなに悲しそうな、辛そうにしているのか理由を知りたかった。
 中学生より以前の事が殆ど思い出せなくても、今まで克哉は生きていくのに
まったく支障などなかった。
 だから思い出せなくても特に困らなかったし…その必要性も感じなかった。

(…けど、どうしてお前は…あんなに辛そうな顔を、しているんだ…?)

 桜が舞い散る中で見た、もう一人の自分の姿が…克哉の中に潜む
何かを引きずり出していく。
 だが思考をめぐらせ始めた途端に、御堂に肩を大きく揺さぶられて顔を
覗き込まれていく。
 恋人の端正な顔立ちがグイっと迫って来て、克哉は一瞬…心臓が止まりそうに
なってしまった。
 

「克哉…大丈夫か? ずっとうなされていたみたいだが…」

 心配そうな顔をして御堂が覗き込んでくる。
 夢の世界と、現実の境目があいまいになって…今、自分がどこにいるのか
判らなくなってくる。

「御堂、さん…?」

「…起きたか、克哉…?」

「えぇ…大丈夫です…」

 と答えたにも関わらず、御堂はこちらの身体をきつく抱きしめ続けていた。
 そういえばさっき、あの男性の事を思い出す糸口を掴むために…連想を
してみろと促された筈だった。
 その直後に自分は意識を失い、夢の世界に意識を引き込まれていた訳だが
御堂からしたら…気が気じゃなかっただろう。

「…克哉、無理強いさせて…すまなかった。そんなに…君にとって…
あの男との間にあったのは辛い事だったんだろうな…」

「…いえ、違うんです。…その、やっぱりあの人の事に関しては…
オレは何も思い出せないんです…」

「…ここまでやっても何も思い出せないのか…? それじゃあ…まるで
記憶喪失みたいだな。現実にそんなことがそうあるとは思えないが…」

「記憶、喪失…?」

 その一言がヤケに心に引っ掛かった。
 …そう、中学校以前の記憶がない。
 それは突き詰めていけば…それ以前の記憶が、今の自分の中から
欠損しているという事で。
 忘れているというよりも、ここまでしても何も思い出せないというのならば
其れは…もしかしたら、記憶喪失と呼ばれるものなのかも知れなかった。

―そう、貴方という存在は…全てを忘れた上で成り立っている

 不意にMr.Rの声が脳裏に鮮明に響き渡っていく。
 其れに克哉は目を見開いてしまい…更に眼前にいる御堂は
言葉を失っていく。

「今、何て…?」

「…克哉?」

―貴方は、あの方の願いによって生み出されたペルソナ。
耐え難い苦痛と葛藤を忘れて…眠る為に、その間…あの方の
心を守る為に私が作り出した…仮初の心に過ぎません…

「っ…!嘘、だ…」

 あまりに衝撃的な言葉をぶつけられて、目の前にいる筈の
御堂の叫びが再び克哉には届かなくなった。
 仮初、という言葉が彼の胸に深く突き刺さっていく。

―貴方は、ペルソナ。あの方が眠っている間にその肉体を
守る為の番人に過ぎない筈でした。…そして、全てのキッカケと
なったのが…貴方が先程、出会った人なのですよ。
 …彼の事を思い出したいのならば、満開の桜が咲き誇る時期に…
私と去年、再会した公園に来て下さいませ。
 その時、貴方が生まれるキッカケとなった出来事を…
思い出す手助けをして差し上げましょう…

 Mr・Rの声はどこまでも甘く、ねっとりと頭の中に響き渡る。

「…本当に、それで…オレは思い出せるんですか…? 満開の
桜の咲いている、中央公園に行けば…良い、んですか…?」

―えぇ、貴方にその勇気があれば…私は貴方の重く閉ざされた
記憶の扉を開く手助けをさせて頂きましょう。
 貴方の人格が生まれたキッカケを、あの方が貴方に隠そうと必死に
なっていたその出来事を…教えて差し上げましょう…

「判り、ました…行きます…桜が、咲き誇る時期に…必ず…!」

 其れは、Mr.Rの声が聞こえていない御堂からすれば…克哉が
独り言をぶつぶつ言っているだけに過ぎない情景だった。
 けれどしっかりした意思を持って克哉が答えると同時に、謎の男は
穏やかに微笑んで…ゆっくりとその気配を消していく。
 そうしてようやく…愛しい人が心配そうにこちらを眺めている
その現実に気づいていった。

「…克哉? さっきから君はどうしたんだ…? 気を失ったり…
独り言を延々と呟いていたり。どう見ても…今の君は…おかしいぞ?」

 恋人関係になって一年以上が経過しているが、その間…
克哉がここまで奇妙な反応を繰り返しているのは…関係が
安定してから暫くなかったので、御堂は大きく狼狽していた。

「…御免なさい。孝典さんに…心配を掛けさせてしまいましたね…。
けど、大丈夫です。貴方が言ったように…どうやら、桜がキーワードに
なっているようですから…。来週か再来週ぐらいには桜が満開の頃を
迎えますから…その時期が来ればきっとあの人の事を思い出す
糸口を掴めると思いますから…」

 克哉はとっさに…夢の中で逢ったもう一人の自分のことや
鮮明に脳裏に響き渡ったMr.Rの事を話すべきかどうか
大きく迷った。
 だが…現実主義である御堂に話しても、きっと信じては
貰えないだろうと判断して…要点だけ、相手に伝えていく。
 御堂が目の前にいたというのに、意識が浚われ続けていた自分を
見て相手は果たしてどう思っていたのだろうか?
 そのことに猛烈に不安を感じつつも、本当の事をありのままに
話せないでいる自分に苛立っていった。

(…仕事上の事とかそういうことだったら孝典さんに幾らでも気兼ねせずに
話したり相談出来る。けど…『俺』の事や、Mr.Rの事はあまりに非現実
過ぎて、御堂さんに話しても信じてもらえるかどうか判らない…)

 その事にチクチクと後ろめたさを感じつつも、詳しく話すことが
出来ないでいた。
 きっとこれでは納得して貰えない。言及されることは必死だろうと
覚悟の上でそう克哉は言ったのだが…御堂は暫く考えた後、
思ってもみなかった発言を口にしていった。

「…満開の桜を見れば、思い出すというのか…。なら、それに
私も同行しよう…」

「えっ…?」

 怪訝そうな顔をして、信じて貰えない。
 その反応が絶対返ってくると予想していただけに…御堂のこの
一言は予想外だった。
 慌てて相手の顔を見ていくと、眉間にシワが寄っていて非常に
納得していないというか…苦虫を噛み潰したよな微妙な表情を
浮かべていた。

「…本当にそれで思い出せるのかどうか、信じがたい気持ちが
あるが…桜の事で連想させた途端にさっき意識を失ったことを
思えば…君の中に、桜が深く関わっていることは事実だろう。
 …また、失神をしたら大変だからな。…君を支えられるように
私も同行する。満開の頃に、どうにかスケジュールを調整して
出掛けることにしよう…」

「えっ…? えっ…?」

 御堂の口から、考えてもいなかった言葉ばかりが零れて
克哉は動揺を隠せなくなっていく。
 だが…深い溜息を吐きながら、御堂はそっと呟いていった。

「…私には、あの男の事で…今の君は凄く不安定になって
いるように思う。不可解な行動や言動が見えるが…迷っていたり
悩んでいる時の人間はそんなものだ。…君が弱っているなら
私は手助けしたい。…ただそれだけの事だ。他意はない」

「あっ…はい! ありがとうございます…孝典、さん…」

 御堂が、ぶっきらぼうに頬を染めながらそう告げてくるのを聞いて
克哉はびっくりしながらも…礼を告げていく。
 そう告げた瞬間…克哉は、痛いぐらいの力を込めて…
御堂の腕の中に抱き込まれていったのだった―

 
 
 
 

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
              



 御堂に問いただされて、言われた通りに連想した途端に
克哉の意識はゆっくりと落ちていった。
 まるでブレーカーが落ちたかのように、唐突に身体と意識の
連結が解かれていく。
 克哉が覚えているのは、其処までだった。
 彼が目を開けると…其処には満開の桜が舞い散っていた。

「こ、こは…?」

 それは幻想の桜。
 克哉の記憶の中にある、一つの情景だった。
 だが…それを目の当たりにした瞬間…言いようのない不安が
胸の中に巣食い始めていった。

「…一体此処はどこなんだ…。御堂、さんは…?」

 さっきまで自分は、御堂のマンションで一緒に過ごしていた筈なのに
どうしてこんな処にいるのだろうか?
 そう疑問を感じて、満開の淡い花弁をつけている桜の木の大群の中を
彷徨い歩いていく。
 見る者の心を捕えるぐらいに美しい光景だった。
 なのに、妖しいぐらいに綺麗すぎて…却って克哉には怖かった。

―心配するな。此処は俺達の真相意識だ…。お前の肉体は変わらず
御堂の部屋の中にある…

「えっ…まさか、『俺』…なのか!」

 声がした方角を振り返っていくと、其処にはもう一人の自分が立っている。
 ダーク系の色合いのスーツに赤いネクタイ、自分が好んで身につける
組み合わせを身に纏いながら…桜が舞い散る中、静かに立っていた。

―この場所でこうしてお前と対話するのは、一体どれくらいぶりだろうな…。
いや、お前とこうして対峙して言葉を交わすこと自体が久しぶりか…。
相変わらずのマヌケ面だな、『オレ』…

「むっ…! 何だよ、その言い草! 久しぶりに顔を合わせたというのに
随分な言いようだな…!」

 相手はまったく変わっていない。
 その捻くれた言い回しなど、やはりこいつはこういう奴なのだと
実感していく。
  しかしこちらが不機嫌そうな表情を浮かべても相手はまったく
動揺した様子を見せない。
 むしろ愉快そうに、傲慢な顔を称えているだけだ。

―事実を口にして何が悪い。だが…わざわざこうしてお前を
呼んでやったんだ。無駄な時間を費やすつもりはない。
…お前に言いたい事はただ一つだ。二度と、澤村には関わるな。
それをお前に伝えたかった…

「澤村…? それ、一体誰だ…?」

 まったく聞き覚えのない人物の名前を出されて、困惑している。
 そう…結構長い時間、先程マンション前で待ち伏せしていた
人物と会話したけれど、その間に一回も相手の名前が出たことはなかった。
 だから克哉の中で、その苗字は何にも繋がらない。

―チッ、お前はあいつを忘れているのを前提の上に成り立っているんだったな。
仕方ない…説明してやろう。…お前がさっき、マンションの前に待ち伏せを
していたあの男だ…。あいつの苗字が澤村だ…

「…っ! お前は、あの人の名前を知っているのか…! なら、教えてくれ!
一体あの人は何なんだ…! お前と、どんな関わりがあったんだ?」

―余計な事をお前に話すつもりはない。俺が言いたいのはあの男には
二度と関わるな、その忠告だけだ。
 あの男は深入りすれば、絶対にお前に災いを齎すだけだ。
 そして俺は…澤村が視界に入るだけで不快だ。だから何を言われても
何も反応せず、相手にするな。良いな…

「ちょっと待てよ! 言いたいことを一方的に言って…こちらには何も
教えてくれないのかよ! 相変わらずお前…勝手な奴だよな!
 オレはまったくあの人のことを思い出せないんだ! お前の関係者だって
いうならせめて触りぐらいは教えておいてくれよ!」

 克哉は必死になって、目の前に立つもう一人の自分に向かって
訴えかけていく。
 だが、眼鏡はどこまでも冷たい眼差しを浮かべながら冷然と
言い放っていった。

―お前には関係ない

 まるで、克哉と自分は関わりのない存在だと断言するかのように
冷たく告げていく。
 その言葉に、紛れもなく先程の男は…もう一人の自分の方に関わりが
ある事を確信していく。
 だが、どれだけ睨んでも…相手は揺らぐ気配すら見せない。
 その瞬間、桜の花の芳香が…周囲に一層濃くなっていく。
 風に乗って辺りに舞い散る花弁の量が一気に増えて…もう一人の自分の
姿を遠いものへ変えていった。

「待てよ! 『俺』…! お願いだから、教えてくれよ! お前とあの人との
間に…一体何があったっていうんだよ!」

 もう一人の自分の輪郭が、姿が霧のようなものに紛れてゆっくりと
儚いものへと変わっていく。
 そんな相手を繫ぎとめるように必死になって手を伸ばしていったけれど
克哉の差し伸べた指先は…虚しく空を切るのみだった。
 
―さっきも言った。…お前には、関係ない 
 
 そして何もかもを切り捨てるように、眼鏡は口にしていく。
 その顔は何かを堪えているようで、苦しそうだった。

(どうして…お前はそんな顔を浮かべているんだよ…! どうして
オレに何も教えてくれないんだよ!)

 今までの克哉にとって、もう一人の自分は脅威であり…不安や
恐怖を与えるだけの存在だった。
 だが、彼の苦しそうな顔を見て…初めて、理解したいとか…少しでも
助けになりたいという気持ちが生まれ始めていく。
 
「ど、うして…何も、教えてくれないんだよ!」

 癇癪を起こした子供のように克哉は叫んで告げていくが…相手の
態度は変わらないままだった。
 縋るような目を向けて、それでも克哉が手を伸ばし続けるが…決して
相手に届くことはない。
 そうしている間に一時の夢は覚めていく。
 どれだけ相手を、この幻想を留めようと克哉が努力をしても
まるで水を掬ってもそのままならいずれ指先から零れ落ちてなくなって
しまうように…消え去っていくのみだった。

―お前は、知らなくて良い…その為に、俺は…お前を…

「えっ…」

 その時、克哉は初めて…もう一人の自分の泣きそうなぐらいに
切ない顔を目撃した。
 見た途端に胸が締め付けられて、こちらまで悲しくなって
しまいそうだった。

(一体、あの人とお前との間に…何があったっていうんだ…?)

 夢が醒める。
 けれどその中で、克哉は初めて…もう一人の自分のことを知りたいと
理解したいと思うようになった。

『克哉、しっかりしろ!』

 そしてその瞬間…ようやく、克哉に向かって声を掛け続けていた
御堂の必死な声が…彼の耳に届いたのだった―

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
            

 ―見も知らぬ男性を振り切って、御堂は強引に克哉を自宅に
連れて行ったが…その瞳は、ガラス玉のようなままだった。
 とりあえずリビングのソファの上に座らせて…お互いにスーツの上着
だけは脱いでいったが…腰を掛けている克哉は四肢をダラリとさせていて
呆然としているようだった。
 ネクタイを解いていきながら、まるで人形のように生気を失った恋人を
眺めて御堂は困惑の表情を浮かべていく。

―ごめんなさい…

 必死になって、壊れたスピーカーのように相手への謝罪の言葉を
繰り返していた克哉の姿を見て痛ましいと思うと同時に、大きな
疑念が膨れ上がっていく。

(本当に君は…あの男を知らないのか?)

 あの男は、克哉と何かしらの因縁がありそうだった。
 言動と雰囲気からして、それを十分に察することは出来た。
 だが、克哉は知らないと…相手を思い出せないという言動を
繰り返して涙まで浮かべている。
 その様子はあまりに悲痛で、傍らで見ている御堂ですら
これ以上は見ていられないという心境に陥った。
 だから…あの男から引き離す意味で、強引に連れて返った訳だが
同時に…これで良かったのか? という思いも胸の中に生じていく。

「…克哉、聞こえているか?」

 出来るだけ穏やかな声を作って、克哉に声を掛けていく。
 だが、相手は殆ど反応を見せない。

「…今、君の傍にいるのは私だ。聞こえているのなら…何か返事を
してみせてくれ…」

「あっ…」

 真っ直ぐに強い視線で相手の瞳を覗き込み、頬を撫ぜながらそう
問いかけてやっと…僅かな反応が返ってくる。
 真摯な声で御堂が問いかけ、呼びかけていった。
 …そうしている間に、克哉の瞳に生気が戻っていく。
 先程までは夢幻を彷徨っていた眼差しが焦点が宿っていくのを見て
少しだけ御堂は安堵していった。

「…克哉、もう一度聞く。あの男は…誰だ…?」

「…御免なさい。孝典さんに…隠し事はしたくないのに、どうしても…
オレ、思い出せないんです…」

 まるで怯えた子供のように、弱々しく訴えかける。
 その度に胸の中に疑念と、憤りが生まれていく。
 あの男の正体を知りたいという猛烈な欲求と、こんな参っている風の
克哉に問い質してはダメだという両方の思いが胸の中に
宿って葛藤していく。

(…ここで強く出ても、きっと回答は出ないな…。それで判ると
いうのなら幾らでも強気に出れるのだが…)

 辛うじて、胸の中のモヤモヤを抑えて…克哉の身体をそっと
抱きしめていく。
 暫く優しく背中を撫ぜていくと、少し相手の緊張も解れていったようだ。
 最初は硬かった克哉の身体も…その動作を繰り返している内に
少しずつ柔らかくなっていく。

「…克哉。無理に思い出さなくて良い。だが…何か糸口ぐらいは
思い出せないだろうか…? あの男本人のことは思い出せなくても…
あの男を思い出すことで、連想出来る何かはないか…?」

「あの人を思い出して、連想する…事、ですか…?」

 そう、人間の記憶というのは案外繋がっている。
 関連する事柄や、イメージ…キーワードの類を思い出すことによって
普段は沈められていた記憶が浮かび上がってくるものだ。
 御堂はあの男の事を思い出せないなら、代わりに思い浮かぶものを
辿ってみるのも良いのではないか。
 そう判断して、提案を持ちかけていった。

「あぁ…そうだ。克哉…連想することを辿って、思い出していくというのは
案外有効な筈だ。人間の記憶というのは繋がっている。連想出来る
事柄を思い出すことで芋づる式に昔の事を思い出せるかも知れない…」

「…判りました、ちょっと連想してみます…」

 そうして、先程まで話していた男性を鮮明に脳裏に思い描いていく。
 克哉はその途端に奇妙な感覚を覚えていった。

(…何でだろう。まったく記憶に残っていない人の筈なのに…思い浮かべると
心の中に強く引っ掛かる…)

 あの男性の事を思い浮かべると、心の中が大きくざわめいて…
激しく警鐘が鳴り響いていく。
 思い出すな、と…それ以上は考えるなと無意識が訴えかけていく。
 それはまるで心の奥底にある禁断の扉とも、パンドラの箱とも
称することが出来るのかも知れない。

―それ以上、思い出すな…

(えっ…? 俺…?)

 不意に鮮明に、久しく聞くことがなかったもう一人の自分の声が
脳裏に響き渡る。
 だが、その注意を無視して…克哉はただ、記憶を思い出すことだけに
専念していく。
 その瞬間、頭が真っ白になるのを感じていった。

「っ!!」

「克哉っ…?」

 克哉の目が唐突に大きく見開いていって、御堂は驚愕の
声を漏らしていく。
 だが、克哉の意識は一瞬で…開かれた記憶の扉から覗いた
イメージの中に浚われていく。
 目にも鮮やかな桜の花の大群。
 百花繚乱と形容するに相応しいそのイメージが頭と意識を支配していき、
克哉はその光景に囚われていく。

「桜、だ…」

 そう、消え入りそうな声で呟くと同時に…克哉は澤村紀次に再会した夜、
御堂の目の前で…突然意識を失って、ソファから転げ落ち…床の上に
倒れこんでいったのだった― 
※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
          

―人はどうして、誰かを憎むのか
  嫉妬して蹴落とそうとするのか
  貶めて、相手を傷つけようとするのか
  それらの感情には、相手に対して何らかの強い思いを
 抱いていなければ成立しない
 関心でも羨望でも好意でも愛情でも、それらの感情が
 何らかの要因で変貌を遂げ、それが相手を傷つけたり
 痛めつけたり孤立をさせたいという暗い欲望へと変質する

 だが、憎しみや嫉妬を抱く場合…その前に抱いているのは相手への
関心や好意である場合が多い。
 離れていく相手に、自分を刻み付ける為に犯した罪。
 しかしそれを行った上でその対象が自分のことを忘れていたら、
その心から自分の存在を消し去ってしまっていたら…
加害者は果たして、何を想うのだろうか…?

『ごめんなさい、ごめんなさい…』

 男が…澤村紀次が衝撃を受けて呆然としている間も、
佐伯克哉は相手を思い出せないことを謝罪し続けていく。
 しかし、彼が悲痛な顔を浮かべながらこちらに謝っていく度に
溢れるのは苦々しい思いだけだった。

(中学に入る以前の記憶がない…? それは、僕と過ごしてきた
時間の全てが存在しないって事じゃないか…)

 記憶喪失、という単語は物語やドラマの世界では良く存在する。
 だが現実にあるものとは、澤村は認識していなかった。
 しかも憎らしくて仕方ない存在が、そんな殊勝なものを患って…
こちらのした事を全て忘れているなど想定外以外の何物でもなかった。

―ざまあみろ、僕は君に勝ったんだ…!

 卒業式の日、彼の前から立ち去った時…澤村は彼の泣き顔を見て
心が痛むと同時に、スっとするような開放感を味わった。
 どれだけ焦がれても、彼の心を…自分が求める意味では得られない。
 強く願ったとしても、彼を勉強でも運動でも勝ることは出来ない。
 その嫉妬心と失望から、最高学年に上がったときから澤村は周囲の
人間を操って、佐伯克哉がクラス内から孤立するように策を巡らせていった。
 猛烈なカタルシスと罪悪感、相反する感情を同時に抱いたおかげで…
十年以上顔を合わせた事もないのに、澤村にとって…佐伯克哉は
特別な存在で在り続けた。

―僕が君を忘れないように、君も絶対に僕を忘れることはないんだ…

 当然のようにそう想っていた。
 なのに現実はまったく逆だった。
 あの決別の日から十数年。
 自分の中にずっと色濃く存在していた相手は、自分の事など一切
思い出すことなく日々を過ごしていたのだと…その事実を突きつけられて
愕然とするしかなかった。
 ショックのあまり、その場に膝を突いてしまいそうだった。

「う、そだ…」

 澤村はあまりに残酷な現実を認めたくなくて、知らず呟いていく。
 お前が、こっちを忘れる筈なんて有得ないんだ。
 
―自分はどんな形でも相手に忘れて欲しくないから罪を犯したのに…

 なのに、その相手の心の中から…自分の存在が完全に抹消を
されてしまっていたのならば、自分の価値は何だというのだろうか?

「いつまで、そんな演技を続けているんだよぉ! 佐伯克哉!
君は決して、僕を忘れる筈がないんだ! ずっと僕は小さな頃から君の
傍らにいた! 親友として…一番の理解者として! そんな人間を
忘れるぐらい、君は薄情な人間だったのかよ!」

 思わず、力いっぱい叫んでしまっていた。
 言っていて自分で空々しく思えてしまう。
 その『親友』と信じて疑わなかった相手を、裏で裏切っていたのは
紛れもなく自分だった。
 冷静に考えれば、あんな行動をした自分が…彼の親友と胸を張って
言える訳がない。
 無意識の領域ではその事実に気づいていたが、認めたくない気持ちの方が
勝って感情の制御が利かなくなった。
 だが、その時…澤村は見た。
 
―僅かな時間だけ、こちらを射殺す勢いで睨み付けるその眼光に…

「っ!」

 懇願していた筈の男が、一瞬だけあまりに怜悧で鋭い視線をこちらに
浴びせていった。
 冷たく凍てつくような眼差し。
 其れが澤村の心を抉っていった。

「…君、は…?」

 訳が判らなくなった。
 混乱して、彼の言葉や態度の何が嘘で、何が本当なのか判別がつかなくなる。
 困惑した顔を浮かべて暫く立ち尽くしていると…傍観を決め込んでいた
御堂がやっと動き出して、強引に克哉の腕を掴んでいった。

「…もう夜も遅い。君の戯言にこれ以上…私も佐伯君も付き合わされるのは
遠慮したい。今日はそろそろ引き下がってもらえないだろうか…?」

「はっ…?」

 そう声を掛けられて、ようやく…澤村は其処にもう一人、男がいた事実を
思い出していく。
 だがその反応がイマイチ鈍かったせいで、御堂は躊躇いなく克哉の腕を
掴んでマンションの方に向かっていった。

「待って! まだ僕と克哉君の話は全然終わって…」

「黙れ…。いきなり人の家の前に待ち伏せして、不可解な言動を繰り返している
相手にこれ以上付き合う気はない。お引取り願おうか…」

「くっ…!」

 その時の御堂の目はどこまでも鋭くて、視線だけでこちらを痛めつけて
傷つけてしまえそうなくらいだった。
 澤村はその眼差しに言葉を奪われ、立ち尽くしていく。

「行くぞ、克哉…」

 そう告げて、御堂は問答無用で…克哉の腕を引いて自室へと
戻っていった。
 だが、その時…克哉はまるで壊れた人形のように、空ろな眼差しを称えて
涙を流し…今、このときを…現実を見ていないような、実に危うい眼差しを
浮かべていた―
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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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