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『夜街遊戯』
―プロトファイバーの一件が片付いてから、佐伯克哉は
平穏な日常を取り戻していた。
Mr.Rから例の眼鏡を受け取った日から三ヶ月間は今までの
自分からしたら激動の日々の連続だったが…定められていた
期間が過ぎてあの眼鏡を返してからは、ゆっくりとそれまでの
日常に克哉は戻っていた。
本日は陽気もうららかなもので、こんなに日差しが穏やかな日なら…
散歩したり、公園で日向ぼっこをしても良いと思えるくらいだ。
柔らかい陽光に照らし出された街並みを眺めていきながら、
佐伯克哉はしみじみと感じていった。
(…平和だなぁ)
八課のオフィス内で、ふとキーボードでの打ち込み作業を中断して、
窓の外に広がる青空を眺めながら、克哉はしみじみと実感していた。
本多と協力してバイアーズと契約を結んで、プロトファイバーの新しい
販売経路を開拓した一件のおかげでキクチ社内での営業八課の評判は
格段にはね上がっていた。
そのおかげでここ数ヵ月間は仕事上は順風万風。
以前に比べてあらゆる仕事がやりやすくなっていて…何の不満も
感じる事はなかった。
八課内の空気も活気に満ちていて実に明るい。
いずれはどうせリストラされる身分なのだから…と諦めムードが
漂っていた頃に比べれば見違える程の変わりようだった。
それなのに何かが足りないような…そんな気持ちが常に消えなかった。
「…何だろう。現状にそんな不満を抱いてない筈なのに、どうして
こんなに空虚な気持ちになっているんだろう…」
そんなのは我が儘で贅沢だという自覚はある。
だがあの慌ただしかった日々と比較したら今はあまりに平和すぎて。
そのせいで克哉の胸には「退屈」という病魔が深く巣食うようになっていた。
―刺激が欲しい
あの時のような毎日が充足していて飽きる暇がない程の何かが欲しい。
そう望んだ時、克哉の中で真っ先に浮かんだのは例の不思議な力を
持った眼鏡と、もう一人の自分の存在だった。
克哉と同じ顔をしている筈なのにその表情は自信に
満ち溢れた理想の自分の事を…。
(…っ!何であいつの事なんて考えているんだよ!俺はこの手で
眼鏡を返す事を選択したんじゃないか…!何を今更…)
いや、違う。
自分はあの眼鏡自体には執着はない。
以前と比べて自分は随分と自信を持てるようになっていた。
だから自信がない自分を変えたい…そういう動機では克哉は
眼鏡を欲していなかった。
ただ、何故かもう一人の自分に会いたいと荒唐無稽な事を願っていた。
(バカバカしいよな…オレ達は同じ人間同士なのにアイツと
会いたいと思うなんてさ…)
どうしてこんな事を思うのか克哉自身にも不思議だった。
その瞬間、脳裏をよぎったのは真っ赤な天幕で覆われた部屋での記憶。
あの部屋での奇妙な邂逅を思い出し瞬く間に克哉の頬は真紅に染まった。
(…わわっ!仕事中にオレはなんて事を考えているんだよっ!)
だが、一度再生された記憶は容易に消えてはくれない。
あの夜の濃厚な快楽を思い出してゾクン、と背筋から甘いうずきが走り抜けていった。
「…あっ」
―あの強烈な刺激が欲しい。もう一人の自分にメチャクチャにされて、
思う存分貫かれて。もうダメ、とこちらが泣き叫ぶまで犯して…
「うわっ…」
唐突に己の中から溢れ出してきた欲望と本音に顔を赤くしたまま、
とっさに口元を押さえ込んでいく。
その様子はまさに挙動不審。端から見て怪しい人にしか
見えないだろうっていう態度であった。
(…けど、もう自分の気持ちに嘘はつけないな…)
自分はすでにこの平穏で退屈な日々に飽々してしまっている。
恐らく何もしないでいればこの日々は変わらずに続いていくだろう。
今の克哉にとってそれは何故か耐えがたいもののように感じられた。
せめて何か一つぐらいは変えてみたかった。
―帰りに久しぶりにあの公園に寄ってみようか…
ごく自然にそんな考えが浮かんだ。
何故かそれは凄い名案のようにさえ感じられた。
―それから克哉は修業時間までどこかソワソワしながら過ごしたのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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