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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※これも某所で御題を引いて書き上げた作品です。
「王子さまのキス」というテーマです。
11月1日分の「鬼哭の夜」と対になっているので
良かったら合わせてお読みになって下さいませ(ペコリ)

―今日もまた、男は一つの強い祈りを込めて愛しい人間に
口付けていく。
 それはまるで…童話の中の眠り姫の呪いを解いた口付けのように、
神聖で…心からの愛情が込められたものであった―

 今朝もまた、同じ朝が訪れていく。
 傍らに寝ていた御堂の頬を愛しげに撫ぜながら…暫く佐伯克哉は、
その身体を軽く抱きすくめていった。

(今朝も…駄目、だったか…?)

 その事実に溜息を吐いていきながら…男は窓の外に広がる、
明け方の空をそっと眺めていった。
 …どれぐらい長い期間、人形のように物を言わなくなった御堂の傍に
自分はいたのだろう。
 …何度、己の犯した過ちを悔いて涙を流した夜があったのだろうか…?

(…もう、そんな事も遠く感じられるぐらいに永く…俺はあんたの傍にいるよな…)

 しみじみとそんな事を考えながら、米神にキスを落としていった。
 かつて、御堂孝典という人間が欲しくて…その欲に囚われて鬼となった
男は、懺悔の涙を沢山流した事で…別人のように、穏やかな人間になっていた。
 
 最初の頃は…その後悔で、胸を掻き毟られそうな痛みを時折覚えて苦しかった。
 何度も何度も、それで人知れず涙を流し続けていた。
 静かに伝う泪はゆっくりと男の心を洗い流し…いつしか、廃人寸前になった
御堂の面倒を看る克哉の表情はどこか達観したものになっていった。

 どんな姿になっても…今は心を閉ざして、何の感情を表さなくなっても…
御堂孝典はまだ、生きている。
 その事に微かな希望を抱きながら…克哉は、御堂のマンションで寝食を
共にして…献身的に、その面倒を看続けていた。

 それで…春、夏、秋、冬…と全ての季節が一回は巡り…通り過ぎていった。
 
 年月が過ぎると共に…例えどんな姿でも、これは自分が心から愛した
人間なのだと…そう納得して、いつか戻ってきてくれる日を静かに待ち続けた。

―あんたは、必ず…戻って来てくれる筈だ

 それは眠り姫の目覚めを待ち続ける王子のような心境だった。
 現実は御伽噺のように上手くいくわけではない。
 そんな事は判りきっていた。
 だが、克哉は希望を捨てなかった。
 たった一度のキスで駄目なら…何回でも、何十回でも何百回でも…
己の想いを伝えていこうと思った。
 
「…本当に後、どれぐらい…この行為を繰り返せば、あんたは
目覚めてくれるんだろうな…」

 自分でも、こんな事に願いを託すのはバカらしくて…甘い考えだと
わかっている。
 だが、嘆き悲しみ…後悔している時、例の銀縁眼鏡をくれたあの男が
現れて…確かにこう言ったのだ。

―本当に愛する人間を追い詰め、人形のようにしてしまわれた事を
貴方は心から悔いていらっしゃるようですね…。
 それなら、愛情の篭った口付けを…この人の負った心の傷が
癒えるまで何度も落とし続けて下さい。
 それは気が遠くなるほどの時間を要するかも知れませんが…
その日まで貴方が決して諦めずに、この方に一途な愛情を
向けられるのでしたら…奇跡、というのも起こるやも知れませんね…

 そう、告げて…夜の闇にMr.Rが消えた翌日から…この儀式は
続けられている。

 ―もう一度、あんたの声が聞きたい。

 その願いを込めて…もう一度だけ、愛しげに御堂の頬を撫ぜた後…
唇に優しく、優しく口付けた。

 ピクリ…

 その瞬間、御堂の身体が…いつもと違って、反応したような気が…した。

「…御堂?」

 その僅かな反応に、目ざとく気づいていくと…あの日から初めて、
御堂が自らの意思で…身体を動かしていく姿が目に入った。

「…ここ、は…?」

 御堂が、途方に暮れた表情を浮かべながら…ゆっくりと
身体を起こしていく。
 それは…永き眠りに就いていた愛しい人がようやく目覚めてくれた瞬間だった。

(本当に…通じた、のか…?)

 その喜びに震えながら、二人はようやく…目が合っていく。
 双方の瞳には…お互いに、戸惑っているような…優しいようなそんな色が
浮かんでいた。

「…ずっと、君は…私の傍にいたのか…?」

 確認するように、御堂は問いかけてくる。
 その…声を聞けるだけでも、嬉しかった。
 心底、喜びに震えながら…掠れた声で、克哉は頷いて答えていく。

「あぁ…そうだ、ずっと…あんたの傍にいた…」

「…そう、か…」

 それ以上、何を答えて良いのかお互いに判らなかった。
 無言のまま…それでも、磁石が引き合うように…ごく自然に
身を寄せ合っていく。
 その目がぶつかりあうと同時に…顔もそっと近づいていって…静かに、
吐息が重なり合う。
 御堂の胸には、驚くぐらい怒りがなかった。
 …けれど、愛情を込められたキスをどれくらいこの男が自分に向けて
くれていたのかすでに知っているから。
 だから目覚めることにした。
 その愛を受け入れる事を…決めたのだ。

 もう、怒りも憎しみも…どうでも良くなるぐらいに…この男が、
自分を想い…愛してくれた事実を、知ってしまったから…。

 ―ただいま

 だから、御堂はそれだけ告げていった。

―おかえり…御堂…

 克哉もまた、それだけ返していく。
 それはまるで…王子様のキスを受けて、眠り姫が死の淵から
蘇ったかのような場面。
 愛という真実を得て…御堂は再び、目覚めていく。
 彼の心からの祈りを受けて…静かに、そして…輝くような笑みを浮かべて。

 ―祝福するように、窓の向こうには晴れ渡るような青空が広がっていた―

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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