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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
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  彼らの物語の観察者である太一の父は、ずっと謎であった場面を
見届ける事でガクっと崩れ落ちそうになった。
 だが、それでも…まだ、許される事なく…もう一つの場面を最後に
見せられていく。

―後、もう一つ…この場面を持って、二人の佐伯克哉さんと五十嵐太一さんの
道筋を追う旅は終わります…

 きっとそれが、男にとっては苦痛を与える場面である事を承知の上で…
Mr.Rは死にゆく者の心の世界で起こった出来事をそっと見せていった。
 男はそれを黙って受け入れていく。
 まるでそれが…息子の最愛の人間を、親としてのエゴで手に掛けて
しまった贖罪であるかのように…。
 そして、ゆっくりと命の灯が絶えようとしている…佐伯克哉の意識へと
再びシンクロしていった。

                      *
 
 ―死の瞬間を迎えたその時…彼の世界は、少しずつ暗闇に
閉ざされようとしていた

(俺は…このまま、死ぬのか…)

 身体の感覚は、当に全て失われてしまっていた。
 あれ程強烈に感じていた痛みも苦しみも、すでに肉体を失って
しまったからだろうか。もう彼は痛覚という形で感じる事もなかった。
 Mr.Rに手を差し伸べられた時に…己の命を存命させるよりも、もう一人の自分に
太一を会わせる事の方を優先して、その決断をした時から緩やかに深い地の底に
落ちてるような、水の中に浮かんでいるような奇妙な感覚を覚えていた。
 どうして最後の最後に、そんな気まぐれを起こしたのか自分自身でも
理解出来ないまま…たた、男は何もない空間に自分の意識が浮遊
しているのを感じていた。
 あの世、というものがある事を眼鏡は信じていなかった。
 死ねば人間は其処で終わりだ、と思っている。
 だからこそ死後の世界に期待など持っていないし…それにきっと自分が
行く事になるのは地獄の方だと判り切っていたからだ。

(あいつと太一は…少しでも話せたのか…?)

 Mr.Rに最後の願いを告げた瞬間、眼鏡の意識ともう一人の克哉の意識の
力関係は逆転して…彼の方の意識が今度は内側に取りこまれる事になった。
 そのせいで、外では何が起こったのか良く判らなかった。
 黒衣の男の力を持ってしても…与えられる時間はごく僅かだとも
最初から言われていた。
 だが、それでも…もう一人の自分がずっと後生大事に持っていたあの石を
太一に渡すぐらいは出来たのだと信じたかった。

―うん、渡せたよ…『俺』…

「っ…!」

 だが、眼鏡がそう考えた瞬間…はっきりともう一人の自分の声が
聞こえていった。
 思わず驚愕の顔を浮かべていくと…ゆっくりと白い光と共に暗闇の中へと
克哉の意識が舞い降りて来た。
 暗闇に閉ざされていた瞬間に淡く優しい光が満ちていく。
 そんな中で…克哉は穏やかに微笑んで、眼鏡の意識と対峙していった。

「…どうして、お前が…ここに…」

「…オレとお前は一蓮托生だから…。もうじき、死ぬのなら…最後に、お前とも
少しは話しておきたい…と思っちゃダメかな…」

「…どうしてそんな事を考えた? 俺はお前と太一の関係をグチャグチャに
したようなものだぞ…?」

「けど、最後にこうして話す機会を…オレの想いを叶えるチャンスを
与えてくれたのも確かだろう…? ありがとう…これで悔いはなくなったよ…」

 あまりに克哉が穏やかに笑うので、眼鏡の胸の中が大きくざわめき
始めていく。
 心の世界でこうして向かい合いながら会話をするのは、どれくらいぶりの
話なのだろうか。
 同じ身体を共有していながら…意思の疎通をする事がなかった二人は…
人生の終わりの間際、精神世界にて対峙していく。

「…お前は、俺が憎くないのか…? お前から肉体の主導権を奪ったのは
間違いなく俺なんだぞ…?」

「ううん…元々の発端は、オレが…あの一件から目を逸らす為に逃避するのを
望んだからだし。オレの弱さが招いた事だから…。お前とオレは同じ人間
なんだから、お前が間違いを犯したら…オレの罪でもあるのだと。
其処から逃げようとしたのが…そもそものオレの過ちだったんだよ。
それで主導権を奪われたのなら…自業自得。オレ自身が責任を
取る事を放棄したから…こうなってしまったんだから…」

「ああ、確かにそうだが…だが…」

「…それでも、お前はあの石を捨てないでくれた。そして…オレの意識を
消そうとしなかった。そして…あの石を渡す機会まで与えてくれた。
オレにとってはもうそれだけで充分…感謝しているから。
だから人生の最後に、罪の意識を抱えて…一人さびしく消えていこうと
しないでよ…『俺』…」

「っ…! お前、は…」

 そうして克哉は、眼鏡を掛けた方の意識を抱きかかえていった。
 その瞬間に、相手が胸に抱え続けていた孤独や痛みがものすごい勢いで
克哉の中に伝わってくる。
 そんな彼の心を癒すように、克哉は強い力で相手を抱きしめていく。

―もうじきオレ達は消えてしまうんだ…。なら人生の最後に恨みや憎しみを
抱くのは止めたいんだ…。自分自身を憎んでも…空しいだけだから。
お前と、オレは…同じ人間なんだし。やっとその事を…最後になって
受け入れられたよ…

 そうして克哉はどこまでも達観したような笑みを浮かべていった。
 その言葉に…思わず泣きそうになる。
 だが、図星だった。
 眼鏡は…最後に自分が救われる事など、一切期待していなかった。
 誰にも泣かれる事なく、孤独な死を迎える事になっても…それは因果応報、
自分がした事に対しての当然の報いだと思っていたから。
 だから今、差し伸べられている救いの手が信じられなかった。
 感覚も何もかもが失われつつある中、克哉の温かさだけはしっかりと
感じられて、眼鏡は…がっくりと項垂れていった。
 
「お前は…馬鹿だ。どうして…俺を、許そうとする…」

「誰かを恨んで最後を迎えたくないんだ…。せめて、この優しい気持ちを…最後に
太一と話して、取り戻したこの温かい気持ちをしっかりと抱きながら…
オレは、死にたいから…。それに今になって、お前がどれだけの痛みを
抱えて傍にいたのか…理解、出来るから。だから…もう、自分を責めないで欲しい。
オレは、最後に…お前に感謝を伝えた上で、息絶えたいから…」

「ちっ…どこまで、お人よしなんだ…お前は…!」

「…お前だって、充分お人好しだよ。だって…オレと太一を会わせる機会を
作る為に、自分が助かる可能性をつぶしてしまったんだから…」

 そう憎まれ口を叩いていくが、克哉は意地っ張りなもう一人の自分を強く
抱きしめていった。
 今なら理解出来る。
 どれだけ言葉に出さなくても、眼鏡もまた…太一を想っていたのだと。
 最後に願った事が、自分の命を助ける事よりも…太一と克哉を会わせる事を
優先したのがその証だ。
 行動に、人の想いは確かに現れるから。 
 それが今になって理解出来たからこそ、克哉は全ての怒りも憎しみも
流して…許す形で、終焉を迎える事を願ったのだ。
 だから克哉はそんな自分を抱きしめる。
 孤独なまま、お互いに死の瞬間を迎えない為に…。

(やっとオレ…お前という存在を受け入れる事が出来るな…。お前を、
オレの一部でもあるお前を否定していたから…こうなってしまった気が
するから…。本当に最後になってしまったけれど…どうにか、お前の
事を受け入れる事が出来て…本当に良かった…)

 自分たちは一人ではない。
 だから、一緒に天に召されよう。
 穏やかな心を持ったまま…終わりを迎えよう。
 
 そうして克哉は赦しの笑みを浮かべていきながら強く強く…
もう一人の自分を抱きしめていく。

―チッ…仕方ないな。付き合ってやろう…

―うん、ありがとう…『俺』…

 そうして相手がそんな憎まれ口を叩いたのを聞いたのを最後に…
 二人の意識は共に闇の中へと落ちていく。
 そして本当に終焉の時を迎えたその時、初めて二人の意識が強く
重なりあった。
 最後に、二人は祈っていった。

―『どうか、太一…幸せにな…』

 眼鏡はようやく…己が赦された事によって素直に、心の奥底で
愛していた存在のこれから先の幸福を祈る事が出来た。
 そんな彼を、まるで天使か何かのように慈愛に満ちた眼差しで
克哉が見つめていく。

―やっと、素直になれたね…『俺』…

―ああ、そうだな…

 そうして白い光に包まれていきながら…二人は眠るように目を閉じていった。
 自分たちの存在が、希薄になるのを感じていく。
 それを彼らは抗う事なく受け入れて…死の瞬間を迎えていった。
 その時、二人の心は驚くぐらいに…安らかなものだった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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