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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
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―そして彼が知りたかった真実を知る為の旅路は、ようやく終わりを
迎えていった

『これにて、夢は全て終わりです…。貴方が知りたくて堪らなかった
真実を知る事が出来た感想はどうですか…? 五十嵐様…」

「………」

 男は、何も言えなかった。
 ただ苦い顔をしてソファの上で俯いているだけだった。
 全てを知った今、男の胸に広がるのは深い後悔だけだった。
 
(俺は…太一が愛していた人間を、そして太一を深く想っていた人間を
この手に、掛けてしまった…)

 相手の中に、太一への想いが存在していた事を知った今となっては
複雑な想いしかなかった。
 だが、起こってしまった事は変えられない。
 そんな男の心を見透かしたように…Mr.Rが声を掛けてくる。

『振りかえってどれだけ過去を悔んでも…すでに起こってしまった事に
関しては修正が効きません。特に人の生死に関わる事は…。
貴方が佐伯克哉さんを殺してしまった事は紛れもない事実です…。
それを噛みしめた上で、一生…ご子息には嘘を突き通される事を
お勧め致します。貴方が、あの人を殺してしまった…その真実だけは…』

「…出来るかどうか、判らんな…」

『…判らないではなく、それぐらいは貫かれたらどうですか…。
私は、貴方が懺悔して楽になる事を許しませんから…。貴方は職業柄、
人を殺す事に対しての痛みが常人に対して酷く鈍いみたいですけどね。
ですが…自分の息子の最愛の人間を、親のエゴで殺してしまったのならば…
せめてその痛みを一生引き受けるぐらいはされたらどうですか…?
全てを知った上で、それでもあの人を…貴方は…その他大勢と一緒に
忘却の彼方に追いやると…そう仰るのでしょうか…?』

 その瞬間、Rの目が冷酷に輝いていった。
 鋭く抉るような眼差しに男の心は恐れを抱いた。

「…これが、俺の…罰か…」

『えぇ、そうです…。消えない痛みを背負う事…。もし取り返しのつかない
事を犯してしまったならその念だけは忘れてはなりませんから…。
 そして貴方がその事実を太一さんに告白すれば、親子の仲は
断絶すらしかねませんから…。それは太一さんの幸福からは
もっとも外れた事。ですから…その嘘だけは貫いて下さい。
いつまでも仲の良い親子として…ね…』

 それは残酷な言葉だった。
 一生、男に胸の痛みを抱えて生きろという悪魔のような存在は、
その癖…見惚れるぐらいに美しい笑顔を浮かべていきながら
そう告げていった。
 
「…それが、償いか…。太一の幸福を最後に願った男に対して…
俺が、出来る…」

『えぇ、その通りです。ようやく理解して頂けたようですね…。ああ、
もうじき夜が明けます…。そろそろ現実にもどられた方が宜しい
時間帯ですね。…あちらに、出口に続く扉がございます。お帰りに
なるようでしたらどうぞ。…もう当店の扉は、貴方に開かれる事は
ありませんがね…』

「ああ…そうさせて貰うよ…邪魔、したな…」

 そうして優美な仕草で、相手に帰宅するように勧めていく。
 男はその言葉に抗う事なく、肩を大きく落としていきながら…
ソファから立ちあがっていった。
 生気の全てを奪い取られてしまったような、そんな虚ろな眼差しを
しながら…それでも自分の足で、一歩一歩確実に進んでいく。
 太一の父親は、振り返らない。
 男もまた、すでにこの男性に対して興味を失ったようだった。
 そして無情にも閉ざされていく扉を見届けていきながら…Rは
愉快そうに微笑んでいった。

『お元気で…五十嵐様。貴方がどうか、その嘘を一生貫きとおされる
事を私は心より祈らせて頂きます…』

 そうして男が消えていった扉に、彼が背を向けた瞬間…店の
奥から声が聞こえてくる。
 自分の主たる男性の声だった。

『…ああ、お目覚めになられたのですね…今、参ります…。
少々お待ち下さい…!』

 そうしてRは…主である男性の寝所へと向かっていった。
 豪奢な細工が随所に施されている豪奢なキングサイズのベッドの上に
一人の男性が横たわっている。

『お目覚めですか…我が主…』

「ああ…今、起きた。…水を一杯、頼む…」

『はい、すぐにお持ち致します…』

 そうして男は素早く枕元の水差しから一杯汲んでいって、主に手渡していった。
 その主たる存在こそ、自分の望む域の寸前まで覚醒した『佐伯克哉』だった。
 だが…これは、先程太一の父親に見せた時間軸と世界の彼ではない。
 あの世界においては佐伯克哉は両方とも消えてしまっているのは事実だ。
 このクラブRは、色んな可能性の…様々な時間軸に繋がっている。
 今、目の前にいる彼は…鬼畜王としての素質に覚醒して、限りなく…
Rが望んでいる状態にまで近づいている眼鏡を掛けた方の克哉だった。
 そして地下室には、彼の愛玩奴隷になっているもう一人の克哉もまた
存在している。

(ああ…貴方達はどの世界においても…様々な顔と、予想もつかない
未来を紡いで下さっている…。どれ一つとして同じ結末を辿る事なく
まるで万華鏡のように鮮やかに、色んな未来を生み出して下さる…。
だから、私は貴方達の行く末を見届けるのが愉しくて仕方がないんですよ…)

 例え死んでしまっても。
 他の誰かと幸せになろうとも…。
 彼らは本当に様々な未来を見せてくれるから、だからRは彼らを
見守る事を止めない。
 たくさんの可能性の中に、彼が望む域まで覚醒しきった克哉に出会える
その日まで…。
 この店の中にも、様々な克哉が現れては消えていく。
 彼のようにとどまり、君臨する者もいれば…一度はここに収まる事を
決めてから、結果的に出ていく克哉も存在する。
 けれどどんな形であれ、Rは佐伯克哉に異常に固執している。
 だからあの世界では虫けらのように殺されてしまった事が許せなくて
あのような気まぐれを起こしたが…殺した男に一生消えない罪悪感を
抱かせるのに成功したから、今のRの表情は愉快そうだった。

「妙に…今朝は機嫌が良いようだな、何かあったのか…?」

『いいえ、大した事ではありませんよ…。さあ、貴方の為にとびっきりの
朝食を用意致しますよ…我が主…』

 そうして、たった今まで起こっていた事など全て忘却の彼方に
追いやりながら…己の主人の為に腕を振るい始める。

―それでも片隅で、あの世界の佐伯克哉が望んだ五十嵐太一の
幸福がどうか持続しますようにと…少しの間だけ願っていきながら、
彼は思考を切り替えて主の為に今日も奔走していくのだった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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