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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―佐伯克哉と御堂孝典が再会し、一連の騒ぎが起こった末に
結ばれてから早くも半年が経過しようとしていた。
 
 秋の終わりの頃に再会してから…気づけば、新緑が青々と茂り
ポカポカと暖かい春へと季節は移り変わっていた。
 その期間の間に、佐伯克哉はMGNを退社して…新しい会社を
設立し、その共同経営者として御堂に誘いをかけていた。
 それから…無我夢中で、二人とも働き尽くめの日々を送っていた。
 だが、その多忙な日々が…長く離れてすれ違っていた二人を
強く結びつけてくれたのもまた、事実だった。
 
 そして…GWを間際に控えたある日、二人は長期連休明けから
動き出す新しい企画の最終確認を会議室にて行っていた。
 まだ新しいピカピカと輝く机の上には、これからの仕事に必要な
資料や企画書が綺麗に纏められた状態でびっしりと並んでいた。

 二人は新しい報告をすると同時に、関連資料を手に取り合って
確認していき…それの繰り返しをすでに二時間近く行っていた。
 これから動かす企画は、この会社が今まで扱ったことがあるものの
中では最大の規模になる。
 だから克哉も御堂も真剣な表情で、討論しあい…今後の方針は
これで良いか、企画書や書類に…間違いがないかどうかを真剣に
確認し合っていた。

「…現状でそちらに報告する事は、以上だ。…とりあえず、これで
問題はなさそうだな」


「あぁ、そのようだな。…随分と資料集めや、下請けの準備をするのに
手間取ったが…これでGW明けには正式に企画を動かせそうだ。
君の手腕は、流石だな…佐伯」

「…まあな、これくらいの事をこなすのは当然だろう? それにこの
件の全ての準備が整ったのは…あんたが協力してくれたのも大きい。
 本当に俺は頼もしいパートナーを得たものだな…孝典」

 そんなに広くない会議室で、長時間顔を突き合わせて検討を続けていた後で
克哉が優しい顔をしながら、真正面からこちらを褒めてくるものだから

御堂は不意を突かれたような気持ちになって、あっという間に真っ赤になっていた。


「なっ…! 会社の中では、下の名前で呼ぶなと何度も言っているだろう…!」

 つい、照れくさくて…相手から目を逸らしてソッポを向いていく。
 そんな恋人の姿が可愛くて、つい克哉は…喉の奥で笑いをかみ殺しながら
そっと御堂の方へと手を伸ばしていった。
 克哉の指先は、恋人を慈しむように穏やかに頬を撫ぜていった。
 …それだけで、心臓の鼓動が跳ね上がる思いをしたので…つい、
恥ずかしくなって御堂は全力で振り払おうと、頭を振っていった。

「…っ! 佐伯、止め…!」

「…俺が入る時、キチンとこの部屋には鍵を掛けてる。あんたが大声を
出さない限りは…外の連中に不審がられる事はないぞ…?」

「…って、就業時間に何を考えているんだ! 今は藤田を始め…私達の下には
色んな人間が働いているんだぞ! 仕事時間中にそんな…」

「…俺はただ、お前に触れたいと思っているだけだが? 別に…今、ここで
お前を抱くとは一言も言っていないだろう・・・? 確認を終えてほっと出来たから
あんたを愛でたい気分になっただけだ? それがそんなに…文句を言われなければ
ならない事なのか…?」

 唐突に、克哉が殊勝な態度でそんな事をいうものだから…御堂は言葉に
詰まるしかなかった。
 これで「あんたを抱きたい」と、二人で会社を興したばかりの頃のような
発言をしたのなら全力で拒んで、この手を跳ね除けることが出来る。

「ぐっ…! それは…その…。コホン、触れ合うだけなら…良い。
だが、それ以上のことをしたら…怒るぞ。判ったな…」

 少し憮然とした表情を浮かべながら…御堂なりの妥協案を出していく。
 それを聞いて…克哉は嬉しそうに、そっと微笑んでいった。

「あぁ…判った」

 そのまま、ゆっくりと腕を引かれて…椅子ごと克哉の方に引き寄せられて
正面から抱きすくめられていく。
 顔は見えなかったが、触れられる指先から…じんわりと、暖かなものが
滲み始めていく。
 それが気恥ずかしくて、御堂はつい…窓の方に視線を移して、克哉から
気持ちを逸らそうと必死になっていた。

(…佐伯にこんな風に優しくされると…未だに、照れくさくて仕方なくなるな…)

 ふと、窓の外を眺めていくと…外の天気は随分と良かった。
 恐らく日向ぼっことか散歩をしたら、とても気持ち良いだろうと思える
陽気であった。
 …彼と再会したばかりの頃は、風が冷たくなり始めた時期だ。
 佐伯克哉との思い出は、苦くて痛みを伴うばかりだった。
 なのに忘れられなくて、惹かれてしまっている自分が信じられなくて
それでも彼を追いかけ続けていたあの時期をふと思い出して

フっと不思議に思ってしまった。


(まさか…君とこうして共に春の訪れを迎えて、こんなに暖かい一時を
過ごせるようになるとはな…。あの時期は、考えた事もなかった…)

 再会したばかりの、自分から逃げ続けている姿から。
 手に届くと思った瞬間にもう一人の彼に切り替わって…奇妙な体験を
したその時には、こんな風な時間を過ごせる間柄になるとはまったく
考えた事もなかった。
 
 そのまま克哉に、慈しまれるように顎から首筋のラインを
撫ぜられて…その手がゆっくりと降下していく。
 そして怪しく、胸の突起を生地の上から刺激されていくとハッと
なって慌てて相手の手の甲をつねっていった。

「こらっ! ちょっと待って! 君はどこを弄っているんだ…!」

「あんたと俺の仲だ。今更だろ…!」

 油断大敵。
 やはりこの男に対して、こんな風に無防備に気を許すとロクな事がない。
 プチ、っと額に青筋を浮かべていきながら…御堂は叫んでいった。

「少しぐらい時と場所を選べ! このバカっ!」

 反射的にそう叫んで、手近にあった分厚い資料の本でバシッっと
その頭叩いていった。

 バシィィィィン!

 克哉の頭に丸めた資料の本が見事にクリーンヒットして、小気味が
良い音が立っていく。
 そして克哉はそのまま、反動でパタリ…と机の上に突っ伏していった。


「…し、しまった。つい反射的にやってしまった…」

 相手のあまりにお約束な行動パターンに、ついこんな反応をしてしまったが
克哉はそれで見事なぐらいに動かなかくなってしまった。

「佐伯…?」

 一瞬で立ち上がらず、そのまま克哉が机に突っ伏したままの状態が
続いていたので…御堂が心配そうに声を掛けていくと。

「プッ…アハハハ…っ!」

 いきなり、克哉の声のトーンが…ガラリ、と変わっていった。
 すでにこの半年、低く掠れた方の声にすっかりと耳が慣れていた為に…
彼が、かつてはこんな声も出していたのだと…その事実を半ば、忘れて
しまっていたので…御堂は驚愕していた。

「佐伯、一体…どうしたんだ…?」

 御堂が瞠目しながら問いかけていくと…克哉はゆっくりと…顔を
上げていく。
 ごく自然な動作で、眼鏡を外したその表情は…御堂にとって
とても懐かしいもので…。

「…貴方が、幸せそうで安心しました…」

 ひどく穏やかで優しい声音で、そう呟かれて…すぐに、御堂はそれが
もう一人の克哉である事を理解していった。

「き、君は…」

 こうして、『彼』の方の意識と会話するのは…半年振り、だった。
 日常の中でも、一緒にいる間…ほんの一瞬だけ、克哉の表情がガラリと
変わる瞬間はあった。
 けれどそれはいつも瞬きするほどの僅かな時間。
 目が合って少しの時間、微笑み合う程度しかなかった。
 だからいきなり、彼の方の意識と遭遇して…御堂は動揺していたが…
彼は一言だけ、こう告げて儚く笑っていった。

―本当に、良かった

 自分達がこうして今も一緒にいる事を。
 寄り添い、共に一つの目標に向かっている事を本当に心から嬉しそうに
笑うから、だから自然と御堂も微笑んでしまっていた。

(あぁ、君はいつも…私達を見守ってくれているんだな…)

 そのことを実感して、柔らかく二人は微笑み合う。
 それが、彼の願いでもあると…すでに克哉から聞かされていたから。
 あの自分達が結ばれた日以降、想いを確認し合ってから暫く
経ってから彼は確かにいった。

―もう一人の『オレ』がもし、出てくることがあったら…その時は
微笑んでやってくれ。それがあいつの願いでもあるから…

 もう一人の克哉の存在の殆どが、今生きている克哉に統合される
間際に願った事は、そんなささやかな事だった。
 克哉の傍に御堂がいてくれる事。
 そして、幸せそうでいれば自分は何もいらない。
 ただ、笑っていてくれれば良いと彼はそう願ったと聞かされた。
 だから御堂は、微笑んでいく。
 それはとても穏やかな気持ちで、いつも克哉の傍にいるとドキドキ
ハラハラして落ち着かないのとまったく対極の心境だった。

 ただ、相手を求めて焦がれるだけではない。
 静かに相手の幸福を願い、遠くから見守る「愛の形」もある。
 もう一人の克哉が選んだのは、それだったのだ。
 貴方達二人を「此処」で見守ると…そう、その微笑が伝えてくれている。
 それが…御堂の心に、安らぎを齎して、そうして…彼の意識が
まるで夢幻であったかのように儚く消えていった。

 ―そうして、緩やかにいつもの克哉の顔へと戻っていく。

 その変化は、とても不思議だけど自然で…以前に遭遇した時よりも
すんなりと受け入れている自分がいた。

「んっ…? 御堂…?」

 眼鏡を外して、目を伏せながら手探りで愛用の眼鏡を探している
克哉はちょっとだけ隙がある感じで可愛らしく感じられた。

「君の眼鏡は、ここだ…」

 さっきまでのちょっとした怒りなど、もう今の一時で吹き飛んでしまって
いたので…穏やかに微笑みながら、御堂は彼に眼鏡を掛けていってやる。

「ん…すまないな」

「いや、別に良い…気にしなくても、な…」

 珍しく素直な態度を取る相手に、自然と微笑んでしまう。
 『彼』が出た直後の克哉は、いつも少しだけ柔らかい雰囲気になる。
 いつもの克哉が張り詰めて、気を引き締めたくなるような空気を纏って
いるのに対して…ふわりと、優しくなれるような雰囲気へと変わる。
 最初の頃は彼のその変貌振りに戸惑い、驚かされる事が多かったが
今は御堂は動じることなく…あっさりと受け入れるようになった。

(どんな君でも、私が愛した…佐伯克哉という人間の一面だからな…)

「…あんた、凄く優しく微笑んでいるな。もしかして…今、俺がボーと
している間に…あいつが出ていたのか…?」

「あぁ、その通りだ。久しぶりに彼が現れたから…軽く微笑み合って
いた所だ…」

 そう素直に答えていってやると、克哉は憮然としたような表情を
浮かべていく。
 どうやら少し拗ねているようであった。

「…チッ、正直言うと妬けるな。あんたは滅多に俺に対してそんな
優しい顔など浮かべてくれない癖に…」

「…それだったら、私がそんな優しい表情を浮かべたくなるような
言動や行動を取るように心掛けたまえ。ま、君のような意地の悪い
男にそんな事を要求するだけ間違っているという自覚はあるがな…」

「…まったく、あんたも随分というようになったな。ま…俺に対して
正直に腹を割って話してくれるようになった分だけ嬉しいがな…」

 そうして、克哉が心から嬉しそうに笑う。
 それはもう一人の彼に比べたらやはりシニカルなものであったけれど
けれど…かつて、こちらに対して酷い行為を繰り返したいた頃の彼からは
考えられない姿でもあった。

(…幸せ、だな…)

 その顔を見て、正直にそう思えた。
 かつて、手を伸ばして「克哉」という存在がすり抜けていってしまった
頃からは想像も出来ない一時を過ごしている。

「あぁ、君は今は公私ともに私の大切なパートナーなのだからな。
言いたい事を抑えたり、取り繕っても今更どうしようもないだろう?」

 そして、さもそれを当たり前のように口にする自分自身が一番
大きく変わったのだろう…と御堂は感じた。
 目の前の存在を失うぐらいなら、全てを受け入れた方がずっと
マシだと思ったから。
 奇妙な体験で距離を置くよりも、全てを受容する方を選んだ。
 だから今、自分達は…こうして一緒にいられるのだろうと思った。
 御堂はその瞬間、花が綻ぶように幸せそうに笑っていく。
 それに導かれるように…克哉は、そっと御堂の方に手を伸ばして
静かにその体躯を改めて引き寄せていった。

「孝典…」

 下の名前の方で呼ばれても、今度は彼を諌めなかった。
 今はそちらの方で、呼んで欲しいと御堂自身も望んでいたからだ。
 異なる極同士の磁石が引き合うように…ごく自然に、二人は再び
近づいていく。
 そして、柔らかく唇を重ねて…その幸福感に、酔った。
 一瞬だけ、思わず見惚れるぐらいに…強く、綺麗に克哉が笑っていった。
 自信に満ち溢れた、顔。
 それに頼もしささえ覚えていきながら…柔らかく御堂は微笑んで
応えていった。

 相手の全てを受け入れる。
 それは、異なる環境で育ち生きてきた人間同士にとっては簡単に
出来るものではない。
 プライドや意地、そして様々な要素が邪魔をして…人間というのは
好きあっていたとしても、相手の存在に反発したり衝突してしまう事の
方が遥かに多いのだから。

 けれど、自分と違う考えや行動パターン。
 生い立ちや価値観、そして嗜好や何を好み、何を嫌うかは…人に
よって千差万別で。
 「違う」のと「異なる」のが当たり前で、自分とまったく同じ人間など
この世の誰一人として存在しないのだ。
 「同じ」である事を強要したら、人は孤独に生きる他なくなる。
 だから、相手が自分とどれだけ異なる一面を持っていたとしても
その考えを尊重し、受け入れる事は…寄り添う上でとても大切なのだ―

「克哉…」
 その存在を心から愛おしむように…御堂がその名前を呼んでいく。
 克哉もまた、静かに微笑み…そっと抱き合っていった。

 もうじき、時間だ。
 もう少ししたら…流石にこの会議室の外に出て、自分の部下達に
今後の方針をキチンと伝えなければならない。
 これから、自分達がやらなければならない事は山ほどある。
 この先にも困難や、辛いことは沢山待ち受けているだろう。

 ―それでも、大切な人間と共に歩んでいけるなら乗り越えていける

 そう確信しながら、御堂は一時…その腕の中の暖かさに身を委ねていった。

 ―もう少しだけ…

 御堂はそう願いながら、柔らかいキスと抱擁を受け入れていく。

 窓の外は晴れやかな晴天。
 そのまぶしさを自覚した時、御堂には何となく…もう一人の克哉が、
自分達の「今」を祝福してくれているような…そんな気配を静かに
感じ取っていったのだった―




 
 

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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