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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―その後、克哉が黒髪の青年に連れていかれた店は
落ち着いた雰囲気の漂うショットバーだった。
 扉を一歩潜れば、控え目な照明に照らし出された店の
内装が視界に入った。
 それなりの人数を収容できる規模のバーのようだ。
 十数人程度は座れそうな長さのカウンターの向こうには
目にも鮮やかなボトルや硝子瓶が綺麗に陳列している。
 テーブル席の方も四人掛けが八組分程度、用意されているようだった。
 店の片隅にはビリヤード台やダーツ道具の一式が置かれていて、
それなりの人数の客で賑わっている。
 店内には古い時代のジャズを中心に流されているらしく
落ち着いた雰囲気が漂っていた。
悪くない感じの店ではあった。
 …ただ普通と一つ違う所があるとすれば…。
 
(…見事なくらい男しかいないな…)
 
 克哉とてショットバーくらいは行った事があるがここまで
男性客しかいない状態は見た事がなかった。
 ここが改めて男の園、新宿二丁目にあるバーである事を思い知る。
 
「…ここが俺の行き着けの店だよ。取り扱っている酒の種類も
豊富で、雰囲気も良いからね…」
 
「はい…落ち着いた感じの店ですね。騒がしすぎない
所が凄く良いですね」
 
 克哉が率直な感想を述べていくと青年は破顔していった。
 
「だろ? だから俺も良くここには顔出すんだ。あ…
カウンター席で良いかな?」
 
「あ、はい。構いません…」
 
 青年が慣れた足取りでスツールに腰掛けていくと
克哉もそれに倣った。
 彼が選んだ位置はカウンターのほぼ中心。
 こちらから店全体が見渡せる代わりに、変に目立つ行動を取れば
店中の人間の視線を集めてしまいそうな場所だった。
 
(何か妙にジロジロ見られているような気がする…)
 
 街の入り口付近にいた時も無数の人間の眼差しを感じたが、
この店に入ってから注がれているものは先程のものに比べると
少し性質か異なっているように感じられた。
…例えて言うならさっきまでのが自分達のテリトリーに見知らぬ
人間が入り込んで来たので見ているという感じだったのに対して、
今は…まるで何かを確かめようとしている執拗な眼差しだった。
 そう、一言で言うならすでに自分達は注目を集めてしまっているみたいだった。
 
(…何でこんなに見られているんだ?)
 
 克哉がこの界隈を一人で歩いたのは今日が初めての筈だ。
 見知らぬ人間達にこんな目で見られる云われはない…そう
反発を覚えかけた時、ハッと気付いた。
 余りに自分とは印象も性格も違うので失念していたが、克哉の
探し人はもう一人の自分だ。
…他者の目から見たら同じ顔が二つ並んでいる事になる。
 
(…もしあいつがこの店に現れた事があったら?)
 
 もう一人の自分に見覚えがあるのならば…こんな眼差しになっても
不思議はないんじゃないか? そこまで考えが至ると同時に、隣に座っていた
青年に肘で突っつかれていた。
 
「ほら、何ボーとしているんだよ兄さん! 早く飲み物くらい注文しないと
バーテンさんが困っちゃうよ?」
 
「…あっ! その…すみません。バーボンをロックでお願いします」
 
「…へぇ、それって確かウイスキーの名前だよね。お兄さん、
酒は強い方なんだ?」
 
「あっ…はい。蒸留酒系の辛口の味わいが気に入っているので。
そちらは何をオーダーしたんですか?」
 
「俺が頼んだ物? んーと、アメリカン・レモネードだよ。俺はそんなに
酒に強い方じゃないから専らアルコール度数が低いカクテル系ばかり注
文しちまうけどね。そちらみたく格好良くウイスキーをロックで…とはいかない訳」
 
「…そんな! 格好良い訳じゃ…!」
 
「ん~少なくともそちらのチョイスの方がこういう雰囲気の店には
合っていると思うけどね。
…そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はユキだ…。
あんたの事はどう呼べば良いかな?」
 
どう考えてもフルネームではない名乗りあげに克哉は困惑した。
 
(今のどう聞いても名前だけか通称という感じだったな…。これが
夜の街特有のルールなのかな…)
 
 営業する人間の常識的な名乗りあげは名刺交換 をしながら
お互いの所属する会社名なり、部署なりと一緒に名字と肩書き…
」もしくはフルネームで名乗るのが普通だ。
 学生時代ならいざ知らず、こんなに短くあっさりとした自己紹介を
されたのは久しぶりだった為…克哉は軽く面食らっていた。
 
(…この場合、オレも通称や名字だけ名乗る形にした方が良いのかな…?)
 意図を伺うように克哉は目の前の青年を見遣っていくと…
彼は好きなように名乗れば良いという態度を取っているような気がした。
 
「ユキ、さん…ですね。オレは…カツヤです。その…ここまで連れて
来て下さってありがとうございます」
 
克哉が恭しく頭を下げていくと何故か青年はバツが悪そうな顔になっていた。
 
「…あ~そんな風に丁寧に頭を下げられると何か調子狂うなぁ…。
そんな素直に出られると…何か、その…」
 
「…どうしたんですか?」
 
 その態度に克哉が怪訝そうな表情を浮かべていくと、
青年は苦笑していく。
 それでもふと見えた克哉の顔が可愛らしく映ったので、フッと青年が
真摯な眼差しを浮かべていくと…。
 
ザワッ…。
 
周囲の空気が瞬く間に一変していく。
 
「な、何ですか…?」
 
 男の態度が変わり始めたのには気付かなかった克哉も、場の空気が
変化した事はすぐに察したようだ。
 店中の人間の眼差しがたった今、入ってきたばかりの一人の男に注がれていた。
…そして克哉は、その顔を見て言葉を失っていく。
 
「…やっぱり」
 
確信に満ちた口調で克哉は呟いていく。
 
―その視線の先には克哉とまったく同じ顔をした、もう一人の自分が立っていたのだった…。
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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