鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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本日どうにか別ジャンルの新刊仕上げました。
…何か8~10P以内で収めて短く纏める予定の筈が気づいたらいつもと
同じ分量になっていまして…結局22Pくらいなりました。
(二段組で編集して17Pくらいに製本ではなりましたが…)
四日間で11P打っていたから、本日の午前中で残り半分書き上げたというか…
それで表紙もカラーで仕上げて3時間くらいで仕上げたり、色々と準備したら…
気づいたら起きてから12時間程経過していました。
とりあえず表紙の打ち出し終わって、本文部分は全部印刷終わって紙折りも
終了しているので充分完成圏内に入りました。
後は遊び紙を30部分折って、表紙をコンビニで印刷して製本作業に入れば
終わりっす!(ガッツポーズ)
飲み物しか朝から飲まないで、夕食で初めて固形物食べました…。
人間以外にやれば出来ますね。
…いや、こんなのは修羅場前しかぶっちゃけやりたくないですがね(苦笑)
一先ず、明日は友人達と合流する前に漫画喫茶を見つけて書く時間を取れるか
どうか現段階では判らないのでこれから一話分書いておきます。
28日、29日は書けたら書く…という扱いになります。ご了承下さい。
んじゃこれから書いてきます。
今夜の分は21時から22時の間くらいにアップする形になると思います。
では大阪、行ってきま~す…が、思いっきり大雨が降り注ぐ中に突っ込む形に
なりそうです。後、今回初めて…天使の里にも行って来ます。
いや…私はスーパードルフィー持っていないんですが、今回一緒に泊まる
メンバーの内5人中3人がドールオーナーで…この三人が是非行きたい!
と言っているので付き合う流れになったというか…。
一旦どんな処なんだろう、と今からドキドキです。
んじゃ大阪まで行って来ます。無事に帰って来れる事を祈って…。
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―その日は結局、微妙な雰囲気が夜まで続いていた。
早朝に聞いた話が尾を引いていたのか、克哉は眼鏡に対してどんな態度を
取れば良いのか判らなくなってしまったのが最大の理由だった。
いや、妙にそのせいで意識をしたから…と言う方が正しいだろう。
聞いた内容に対して、整理が全然出来ないのと考察しようにも現在の
彼の覚えている範囲では少なすぎるからだ。
(結局今日は…日中に一度も手を出されなかったな…)
夕食を終えて、今…自分に宛がわれている部屋に戻っていくと
克哉はゴロン、とベッドの上に横になっていく。
…何かここ二週間は、隙あればチョッカイを出されて、抱かれ続けて
いたから妙な気持ちだった。
ただ、自分も何か引っ掛かる想いがあるから…変に手を出されても
素直に応じられなかったと思う。
目覚めてからずっと、なし崩し的に抱かれ続けていて。
特に最初の数日間に関しては、こちらは自分の意思で身体を動かす
事が殆ど出来なかったから抵抗しようがなかった。
その内に…慣れてしまったから、あいつが触れても「またか…」と思う程度で
以前のように、ただ…こいつが愉しみたいから抱いているのだと。
散々言っているように、面倒を看ることに対しての対価を求めていると…
克哉はそれ以上の事は考えていなかった。
(…あいつが、オレの為に銃の訓練までしているなんて…予想も
していなかった…)
何でそんな物騒な事になってしまっているのだろう。
その理由がまったく判らなくて、正直…怖くなる。
記憶の存在しない期間、自分がどんな事に巻き込まれていたのか。
せめて背景だけでも知る事が出来たならもう少し心理的にマシだろう。
だが、まったく糸口も掴めない状況では悪戯に不安が育っていくだけだ。
「…どうしよう…」
ギュっと自分の身体を抱き締めていきながら呟いていく。
窓の向こうには漆黒の闇が広がっていて、降り始めた雨音がザーザーと
響き渡って室内にも届いていた。
時期的に雷雨にもなるかも知れない…そんな事を考えている間に、部屋の
扉が勢い良く開け放たれていく。
ノックも必要ないだろう。
今、このやたらと広い金持ちが建てた別荘らしき建物の中には…自分達
二人しか存在していないのだから。
バァン!
扉が壁に思いっきり叩きつけられて、轟音が響いていった。
それに一瞬、身を竦ませていると…あっという間に眼鏡は間合いを詰めて
こちらのベッドの上まで歩み寄る。
問答無用で圧し掛かられて、シーツの上にこちらの身体を縫い付けられて
いくと…強引に唇を塞がれていった。
「ちょっと、待てよ…いきな、り…むぐっ…!」
両手首を強い力で掴まれて、反撃を封じられていきながら…性急な動作で
相手の舌先がこちらの口腔を犯し始めていった。
グチュグチャ…と厭らしい音を立てながら、荒々しく歯列や頬肉の内側、
そして顎の上の部分までも執拗に擦り上げられながら…舌を絡め取られていく。
息が詰まりそうになるくらい、ねっとりとした濃厚なキスだった。
「はっ…んんっ…。ちょっと、待って…苦し、…あっ!」
こちらも白いYシャツとライトブラウンのスーツズボンを纏っているだけの
格好だったが、あっという間にボタンを外されて胸元を晒す羽目に陥って
しまっていた。
乱暴な指先が、こちらの突起を容赦なく弄り上げていくと…両手は自由に
なっている筈なのに、一気に身体中から力が抜けていってしまう。
深い口付けだけですでに硬く張り詰めてしまっている其処を、クリクリと
指先で押し潰されていく。
やや強めの刺激ですらもすっかりと反応して、妖しい快感と疼きが
身の奥で渦巻き始めていった。
「や、だ…ヤメ、ろよ…! お前は…いつも、強引…過ぎるってば…! んぁ…!」
相手の唇が、こちらの首筋に強く吸い付いてくると鋭い悲鳴が漏れていく。
反射的に相手の袖をぎゅっと握って、その感覚に耐えていくが…すぐに
はっとなって押しのける仕草へと変えていった。
「…黙っていろ。お前は…大人しく俺に抱かれていれば良い…」
「な、んだよ…それっ! 何で…そんな、事…」
と反論しようとして相手の顔を見上げた瞬間…克哉はそれ以上の言葉を
続ける事が出来なかった。
眼鏡の顔が、どこか苦しそうに歪んでいたからだ。
(何だよ、どうしてコイツ…こんなに苦しそうで、切ない表情をしているんだ…?)
いつもの通り、愉しげな笑みを浮かべてこちらを弄るような…そんな顔を
浮かべていたのならば、自分は拒んで見せただろう。
さっき一瞬だけ思い出した声の主。それが記憶に引っ掛かっていたから。
それだけで…これ以上、安易にもう一人の自分と身体の関係を続けるべきじゃない。
そういう想いが生まれ始めていた中で…この顔は、反則に近かった。
今にも泣きそうな危うい様子だった。
「どう、して…?」
知らず、そんな呟きが漏れていく。
そんな顔をされたら…突っぱねられない。
そうしている間に、背中がしなるくらい…強い力で掻き抱かれていった。
「あっ…」
それはまるで、全身で縋られているような…そんな抱擁だった。
強く、強く…痛いぐらいにしがみ付かれて。
無言のまま、もう一度唇を重ねられていく。
強く吸い上げられて、呼吸すら満足に出来なくなってしまいそうな激しく
濃厚なキスだった。
その勢いに、眩暈すらする。
あまりにその口付けが情熱的過ぎて。
「んんっ…あっ…ふっ…」
ようやく唇を解放された時には、銀糸が互いの口元から伝っていて
今のキスが執拗なものであった事を示していく。
それでも…どうにか苦れようと相手の身体を押し返そうとしていくと…。
「逃げるな…」
それはどこか、懇願しているような声音だった。
「どこにも、行くな…」
命令しているような口調。
けれどこの声もどこか、悲しげだった。
(どうして…こんな声、しているんだよ…)
混乱していく。
訳が判らなくなる。
もう一人の自分の、思いがけない姿を見てしまって…克哉は呆然と
するしかなかった。
窓の外から聞こえる雨の音が一層大きなものへと変わっていく。
その瞬間、ピカッ! と辺りに閃光が走っていって…周囲を鮮明に浮かび
上がらせていった。
その瞬間、周囲に雷鳴が響き渡って…爆音が聞こえた。
同時に落ちる、照明。
瞬く間に世界は闇に満たされ、視界が利かなくなった。
「うわっ…!」
暗転した世界の中、改めてもう一人の自分に組み敷かれていく。
その時にはすでに克哉には、抵抗することは出来なくなってしまっていた―
早朝に聞いた話が尾を引いていたのか、克哉は眼鏡に対してどんな態度を
取れば良いのか判らなくなってしまったのが最大の理由だった。
いや、妙にそのせいで意識をしたから…と言う方が正しいだろう。
聞いた内容に対して、整理が全然出来ないのと考察しようにも現在の
彼の覚えている範囲では少なすぎるからだ。
(結局今日は…日中に一度も手を出されなかったな…)
夕食を終えて、今…自分に宛がわれている部屋に戻っていくと
克哉はゴロン、とベッドの上に横になっていく。
…何かここ二週間は、隙あればチョッカイを出されて、抱かれ続けて
いたから妙な気持ちだった。
ただ、自分も何か引っ掛かる想いがあるから…変に手を出されても
素直に応じられなかったと思う。
目覚めてからずっと、なし崩し的に抱かれ続けていて。
特に最初の数日間に関しては、こちらは自分の意思で身体を動かす
事が殆ど出来なかったから抵抗しようがなかった。
その内に…慣れてしまったから、あいつが触れても「またか…」と思う程度で
以前のように、ただ…こいつが愉しみたいから抱いているのだと。
散々言っているように、面倒を看ることに対しての対価を求めていると…
克哉はそれ以上の事は考えていなかった。
(…あいつが、オレの為に銃の訓練までしているなんて…予想も
していなかった…)
何でそんな物騒な事になってしまっているのだろう。
その理由がまったく判らなくて、正直…怖くなる。
記憶の存在しない期間、自分がどんな事に巻き込まれていたのか。
せめて背景だけでも知る事が出来たならもう少し心理的にマシだろう。
だが、まったく糸口も掴めない状況では悪戯に不安が育っていくだけだ。
「…どうしよう…」
ギュっと自分の身体を抱き締めていきながら呟いていく。
窓の向こうには漆黒の闇が広がっていて、降り始めた雨音がザーザーと
響き渡って室内にも届いていた。
時期的に雷雨にもなるかも知れない…そんな事を考えている間に、部屋の
扉が勢い良く開け放たれていく。
ノックも必要ないだろう。
今、このやたらと広い金持ちが建てた別荘らしき建物の中には…自分達
二人しか存在していないのだから。
バァン!
扉が壁に思いっきり叩きつけられて、轟音が響いていった。
それに一瞬、身を竦ませていると…あっという間に眼鏡は間合いを詰めて
こちらのベッドの上まで歩み寄る。
問答無用で圧し掛かられて、シーツの上にこちらの身体を縫い付けられて
いくと…強引に唇を塞がれていった。
「ちょっと、待てよ…いきな、り…むぐっ…!」
両手首を強い力で掴まれて、反撃を封じられていきながら…性急な動作で
相手の舌先がこちらの口腔を犯し始めていった。
グチュグチャ…と厭らしい音を立てながら、荒々しく歯列や頬肉の内側、
そして顎の上の部分までも執拗に擦り上げられながら…舌を絡め取られていく。
息が詰まりそうになるくらい、ねっとりとした濃厚なキスだった。
「はっ…んんっ…。ちょっと、待って…苦し、…あっ!」
こちらも白いYシャツとライトブラウンのスーツズボンを纏っているだけの
格好だったが、あっという間にボタンを外されて胸元を晒す羽目に陥って
しまっていた。
乱暴な指先が、こちらの突起を容赦なく弄り上げていくと…両手は自由に
なっている筈なのに、一気に身体中から力が抜けていってしまう。
深い口付けだけですでに硬く張り詰めてしまっている其処を、クリクリと
指先で押し潰されていく。
やや強めの刺激ですらもすっかりと反応して、妖しい快感と疼きが
身の奥で渦巻き始めていった。
「や、だ…ヤメ、ろよ…! お前は…いつも、強引…過ぎるってば…! んぁ…!」
相手の唇が、こちらの首筋に強く吸い付いてくると鋭い悲鳴が漏れていく。
反射的に相手の袖をぎゅっと握って、その感覚に耐えていくが…すぐに
はっとなって押しのける仕草へと変えていった。
「…黙っていろ。お前は…大人しく俺に抱かれていれば良い…」
「な、んだよ…それっ! 何で…そんな、事…」
と反論しようとして相手の顔を見上げた瞬間…克哉はそれ以上の言葉を
続ける事が出来なかった。
眼鏡の顔が、どこか苦しそうに歪んでいたからだ。
(何だよ、どうしてコイツ…こんなに苦しそうで、切ない表情をしているんだ…?)
いつもの通り、愉しげな笑みを浮かべてこちらを弄るような…そんな顔を
浮かべていたのならば、自分は拒んで見せただろう。
さっき一瞬だけ思い出した声の主。それが記憶に引っ掛かっていたから。
それだけで…これ以上、安易にもう一人の自分と身体の関係を続けるべきじゃない。
そういう想いが生まれ始めていた中で…この顔は、反則に近かった。
今にも泣きそうな危うい様子だった。
「どう、して…?」
知らず、そんな呟きが漏れていく。
そんな顔をされたら…突っぱねられない。
そうしている間に、背中がしなるくらい…強い力で掻き抱かれていった。
「あっ…」
それはまるで、全身で縋られているような…そんな抱擁だった。
強く、強く…痛いぐらいにしがみ付かれて。
無言のまま、もう一度唇を重ねられていく。
強く吸い上げられて、呼吸すら満足に出来なくなってしまいそうな激しく
濃厚なキスだった。
その勢いに、眩暈すらする。
あまりにその口付けが情熱的過ぎて。
「んんっ…あっ…ふっ…」
ようやく唇を解放された時には、銀糸が互いの口元から伝っていて
今のキスが執拗なものであった事を示していく。
それでも…どうにか苦れようと相手の身体を押し返そうとしていくと…。
「逃げるな…」
それはどこか、懇願しているような声音だった。
「どこにも、行くな…」
命令しているような口調。
けれどこの声もどこか、悲しげだった。
(どうして…こんな声、しているんだよ…)
混乱していく。
訳が判らなくなる。
もう一人の自分の、思いがけない姿を見てしまって…克哉は呆然と
するしかなかった。
窓の外から聞こえる雨の音が一層大きなものへと変わっていく。
その瞬間、ピカッ! と辺りに閃光が走っていって…周囲を鮮明に浮かび
上がらせていった。
その瞬間、周囲に雷鳴が響き渡って…爆音が聞こえた。
同時に落ちる、照明。
瞬く間に世界は闇に満たされ、視界が利かなくなった。
「うわっ…!」
暗転した世界の中、改めてもう一人の自分に組み敷かれていく。
その時にはすでに克哉には、抵抗することは出来なくなってしまっていた―
地下室のその扉を僅かに開いた瞬間、爆音が響き渡った。
バァン!!
耳をつんざくような轟音に、とっさに克哉は鼓膜を守ろうと両手で
耳を塞いでいく。
予想もしていなかったものに突然遭遇して…半ばパニック
あまりに驚いたおかげで、悲鳴すら出なかった。
その場に硬直していきながら…微かな隙間から中の様子を
眺めていくと…その奥には射撃場が広がっていた。
(な、何でこんな処に…射撃場なんてあるんだ…?)
それを射撃場、と一目で判ったのは…古い外国の映画とか、刑事ドラマ
とかでそういう場面を何度か見た事があったからだ。
奥に設置されている一定時間で、50m程先に的がランダムでスライドしていく
システムのもののようだった。
当然、普通の家の中に設置されている訳がない施設である。
特に日本の場合、警察とか軍隊以外で拳銃を扱う場合は必ず許可が
必要であるし…訓練所も携帯を許可されているアメリカなどと違って
一般的な代物ではない。
バァン! バァン!
克哉が固まっている間にも、爆音は続いていき…全部で7~8発は
小気味良く続いた処で一旦、止まっていく。
(終わった…のか…?)
驚きながら、ようやく両手を耳から外していくと…そうっと中の様子を
改めて伺っていく。
「えっ…?」
信じられない光景を見て、克哉は硬直していく。
ヒアリングプロテクターと言われる耳を守るヘッドフォンのような器具を
装備している眼鏡の傍らには鮮やかな金髪の、黒衣の男が立っていた。
(な、何でMr.Rが…ここに…?)
Mr.Rは拍手をしながら…ゆっくりともう一人の自分の傍に近づいて
いくと…何やら親しげな様子で会話しているようだった。
当然、部屋の奥にいる二人のやりとりが…克哉に全て聞き取れる
訳がない。
それでも…断片だけでも聞き取りたくて、必死に耳を澄ましていった。
(あの二人は一体…何を話しているんだ…?)
頭の中がグルグルしていく。
いきなり目覚めた途端にもう一人の自分が存在していて、この二週間を
共に過ごし続けて。
どんな事を話しているのか、その部分は聞けなかった。
そうしている間に…いきなり、もう一人の自分は怒ったようにMr.Rを
振りほどいて、突き放していった。
その途端、射撃場内いっぱいに響き渡るように高らかに…黒衣の
男は言葉を紡いでいった。
おかげで、克哉もこれ以後の会話は…全て聞き取る事が出来た。
―ふふ、何をそんなに怒っておられるのです? そんなに…御自分の手で
克哉さんの記憶を奪う薬を与え続けたことに後悔なさっているんですか?
―黙れ。何でそんな結論になる!
―嗚呼…貴方の怒った顔も実に魅力的ですね。けれどその憤りこそ…私が
指摘したことが事実であると物語っていますよ。
あの薬は…説明した通り、「心の蘇生薬」です。心をズタズタにした記憶を
一時的に封じることによって、目覚めさせることが出来る。
ですが…まだ完成品とはとても言えない代物で、その為に…関連した
記憶を一切奪い取ってしまう。まあ…投与を止めればいずれは思い出して
いくでしょうが…それは果たして、どれくらい先の話になるのでしょうか…?
その間、貴方は克哉さんの中に…ご自分を刻もうとしているのでしょう?
だから毎夜、いや…一日の内に何度も何度も、繰り返し…あの人を
抱いているんじゃないんですか…?
―戯言を。ただ単に退屈しのぎに…気まぐれで抱いているだけだ。
それ以上ふざけた口を叩くなら、一発…これを喰らっていくか?
そういって、一発だけまだ弾が残っているベレッタ M92の銃先を
相手の方に向けて威嚇していく。
当然、しっかりと安全装置を掛け直しているから出来る脅しなのだが…
Mr.Rの方もそれはお見通しみたいで、まったく怯む様子を見せなかった。
―ほう? その割には…五十嵐様が刻み続けた所有の証に上書きを
していくように…克哉さんに痕を刻み続けている理由に説明が
つきませんけどね? …くくっ、本当に貴方は御自分の気持ちに
正直ではない方ですね…。必死になって守ろうと、こうやって毎日の
介護の他に拳銃の訓練を欠かさないくらいに想っておられる癖に…
その気持ちを決して、克哉さんに伝えようとなさらないのですから…。
―何を。ただ単にあいつに死なれれば、俺も消えざるを得ないから
仕方なく守っているだけの話だ。お前の勝手な憶測で…戯言を
ほざくな。それ以上…そんな内容ばかり聞かせるというのなら、
俺は向こうに行くぞ。
―おやおや、やはり連れない御方のようですね。そして…簡単に
己の心中を私に語ったりしてくれないようだ。…まあ、良いでしょう。
本日はそろそろ退散させて頂きますよ。拳銃や的の方のメンテナンスも
我が店の優秀なスタッフにでも依頼してやらせておきますから
貴方はお好きなだけ訓練に打ち込んでいて構いません。
食料の方の調達も、定期的にやらせて頂きますから…。
―どうしてお前は、そんなに俺達に入れ込むんだ? この屋敷を
好きなように使って良いとこちらに提供してきたり、資金援助を
したり。この一ヵ月半だけでもかなりの額が飛んでいるにも
関わらずに…そんな真似をしでかす理由は一体何だ?
―貴方達が、私にとって魅力的な存在ですから。非常に不安定で…
同時に見ていて飽きる事がないですから。
特に五十嵐様と貴方の争いを見るのは…とても楽しそうですからね。
その芝居を見る為の舞台を整える為の資金援助…とでも解釈しておいて
下さい。それを見届ける為なら…私は多少のお金など、全然
惜しくはないんですよ…。
そうして、男は踵を返して…入り口の方へと向かっていく。
(ヤバイ…このままここにいたら、見つかってしまう…!)
あまりに衝撃的な内容ばかりを聞かされて、その場から動けないままに
なっていた克哉は…黒衣の男が動くと同時に正気に戻り…慌てて
その場から駆け出していく。
何を、どうすれば良いのか判らなくなってしまった。
(な、何なんだよ…今の、会話…! 心の蘇生薬とか、拳銃の訓練とか
あいつがオレを好きなように抱く理由とか…お金を出してくれているのは
Mr.Rだったとか…信じられない内容、ばかりで…)
何も情報がなかった状態から、一気にパンクしそうな量の内容を
唐突に知ってしまって、克哉はどうすれば良いのか判らなくなって
しまった。
動揺の余りに心臓がバクバクして、そのまま壊れそうだった。
だが克哉は懸命に、ガクガクと震えてしまいそうな足を動かして地下室から
一階を繋ぐ階段を駆け上っていった。
(一体…この空白の一年で、オレの身に何が起こっていたんだ…。
命を狙われているとか、何とか…。どうすれば、良いんだよ…!)
その瞬間、鮮やかな映像が浮かんでいく。
―克哉さん
誰かの呼び声が、頭の中に再生されていく。
「だ、れ…なんだ…?」
それはとても優しい声。温かみのある呼ばれ方だった。
思い出した瞬間…胸が締め付けられたように痛んでいく。
「あ…れ…?」
それが誰だか、判らなかった。
けれど…知らない内に、克哉は涙を流していく。
ポロリ…ポロリ、とまるで涙腺が壊れてしまったかのように。
「何で、オレ…泣いて…?」
階段を昇りきった地点で、呆然と立ち尽くし…克哉はただ…
涙を零し続ける。
何故、こんな状態になっているのか…まだ、薬の呪縛が強くて肝心の
記憶を思い出せない克哉にはまったく判らなかった―
バァン!!
耳をつんざくような轟音に、とっさに克哉は鼓膜を守ろうと両手で
耳を塞いでいく。
予想もしていなかったものに突然遭遇して…半ばパニック
あまりに驚いたおかげで、悲鳴すら出なかった。
その場に硬直していきながら…微かな隙間から中の様子を
眺めていくと…その奥には射撃場が広がっていた。
(な、何でこんな処に…射撃場なんてあるんだ…?)
それを射撃場、と一目で判ったのは…古い外国の映画とか、刑事ドラマ
とかでそういう場面を何度か見た事があったからだ。
奥に設置されている一定時間で、50m程先に的がランダムでスライドしていく
システムのもののようだった。
当然、普通の家の中に設置されている訳がない施設である。
特に日本の場合、警察とか軍隊以外で拳銃を扱う場合は必ず許可が
必要であるし…訓練所も携帯を許可されているアメリカなどと違って
一般的な代物ではない。
バァン! バァン!
克哉が固まっている間にも、爆音は続いていき…全部で7~8発は
小気味良く続いた処で一旦、止まっていく。
(終わった…のか…?)
驚きながら、ようやく両手を耳から外していくと…そうっと中の様子を
改めて伺っていく。
「えっ…?」
信じられない光景を見て、克哉は硬直していく。
ヒアリングプロテクターと言われる耳を守るヘッドフォンのような器具を
装備している眼鏡の傍らには鮮やかな金髪の、黒衣の男が立っていた。
(な、何でMr.Rが…ここに…?)
Mr.Rは拍手をしながら…ゆっくりともう一人の自分の傍に近づいて
いくと…何やら親しげな様子で会話しているようだった。
当然、部屋の奥にいる二人のやりとりが…克哉に全て聞き取れる
訳がない。
それでも…断片だけでも聞き取りたくて、必死に耳を澄ましていった。
(あの二人は一体…何を話しているんだ…?)
頭の中がグルグルしていく。
いきなり目覚めた途端にもう一人の自分が存在していて、この二週間を
共に過ごし続けて。
どんな事を話しているのか、その部分は聞けなかった。
そうしている間に…いきなり、もう一人の自分は怒ったようにMr.Rを
振りほどいて、突き放していった。
その途端、射撃場内いっぱいに響き渡るように高らかに…黒衣の
男は言葉を紡いでいった。
おかげで、克哉もこれ以後の会話は…全て聞き取る事が出来た。
―ふふ、何をそんなに怒っておられるのです? そんなに…御自分の手で
克哉さんの記憶を奪う薬を与え続けたことに後悔なさっているんですか?
―黙れ。何でそんな結論になる!
―嗚呼…貴方の怒った顔も実に魅力的ですね。けれどその憤りこそ…私が
指摘したことが事実であると物語っていますよ。
あの薬は…説明した通り、「心の蘇生薬」です。心をズタズタにした記憶を
一時的に封じることによって、目覚めさせることが出来る。
ですが…まだ完成品とはとても言えない代物で、その為に…関連した
記憶を一切奪い取ってしまう。まあ…投与を止めればいずれは思い出して
いくでしょうが…それは果たして、どれくらい先の話になるのでしょうか…?
その間、貴方は克哉さんの中に…ご自分を刻もうとしているのでしょう?
だから毎夜、いや…一日の内に何度も何度も、繰り返し…あの人を
抱いているんじゃないんですか…?
―戯言を。ただ単に退屈しのぎに…気まぐれで抱いているだけだ。
それ以上ふざけた口を叩くなら、一発…これを喰らっていくか?
そういって、一発だけまだ弾が残っているベレッタ M92の銃先を
相手の方に向けて威嚇していく。
当然、しっかりと安全装置を掛け直しているから出来る脅しなのだが…
Mr.Rの方もそれはお見通しみたいで、まったく怯む様子を見せなかった。
―ほう? その割には…五十嵐様が刻み続けた所有の証に上書きを
していくように…克哉さんに痕を刻み続けている理由に説明が
つきませんけどね? …くくっ、本当に貴方は御自分の気持ちに
正直ではない方ですね…。必死になって守ろうと、こうやって毎日の
介護の他に拳銃の訓練を欠かさないくらいに想っておられる癖に…
その気持ちを決して、克哉さんに伝えようとなさらないのですから…。
―何を。ただ単にあいつに死なれれば、俺も消えざるを得ないから
仕方なく守っているだけの話だ。お前の勝手な憶測で…戯言を
ほざくな。それ以上…そんな内容ばかり聞かせるというのなら、
俺は向こうに行くぞ。
―おやおや、やはり連れない御方のようですね。そして…簡単に
己の心中を私に語ったりしてくれないようだ。…まあ、良いでしょう。
本日はそろそろ退散させて頂きますよ。拳銃や的の方のメンテナンスも
我が店の優秀なスタッフにでも依頼してやらせておきますから
貴方はお好きなだけ訓練に打ち込んでいて構いません。
食料の方の調達も、定期的にやらせて頂きますから…。
―どうしてお前は、そんなに俺達に入れ込むんだ? この屋敷を
好きなように使って良いとこちらに提供してきたり、資金援助を
したり。この一ヵ月半だけでもかなりの額が飛んでいるにも
関わらずに…そんな真似をしでかす理由は一体何だ?
―貴方達が、私にとって魅力的な存在ですから。非常に不安定で…
同時に見ていて飽きる事がないですから。
特に五十嵐様と貴方の争いを見るのは…とても楽しそうですからね。
その芝居を見る為の舞台を整える為の資金援助…とでも解釈しておいて
下さい。それを見届ける為なら…私は多少のお金など、全然
惜しくはないんですよ…。
そうして、男は踵を返して…入り口の方へと向かっていく。
(ヤバイ…このままここにいたら、見つかってしまう…!)
あまりに衝撃的な内容ばかりを聞かされて、その場から動けないままに
なっていた克哉は…黒衣の男が動くと同時に正気に戻り…慌てて
その場から駆け出していく。
何を、どうすれば良いのか判らなくなってしまった。
(な、何なんだよ…今の、会話…! 心の蘇生薬とか、拳銃の訓練とか
あいつがオレを好きなように抱く理由とか…お金を出してくれているのは
Mr.Rだったとか…信じられない内容、ばかりで…)
何も情報がなかった状態から、一気にパンクしそうな量の内容を
唐突に知ってしまって、克哉はどうすれば良いのか判らなくなって
しまった。
動揺の余りに心臓がバクバクして、そのまま壊れそうだった。
だが克哉は懸命に、ガクガクと震えてしまいそうな足を動かして地下室から
一階を繋ぐ階段を駆け上っていった。
(一体…この空白の一年で、オレの身に何が起こっていたんだ…。
命を狙われているとか、何とか…。どうすれば、良いんだよ…!)
その瞬間、鮮やかな映像が浮かんでいく。
―克哉さん
誰かの呼び声が、頭の中に再生されていく。
「だ、れ…なんだ…?」
それはとても優しい声。温かみのある呼ばれ方だった。
思い出した瞬間…胸が締め付けられたように痛んでいく。
「あ…れ…?」
それが誰だか、判らなかった。
けれど…知らない内に、克哉は涙を流していく。
ポロリ…ポロリ、とまるで涙腺が壊れてしまったかのように。
「何で、オレ…泣いて…?」
階段を昇りきった地点で、呆然と立ち尽くし…克哉はただ…
涙を零し続ける。
何故、こんな状態になっているのか…まだ、薬の呪縛が強くて肝心の
記憶を思い出せない克哉にはまったく判らなかった―
コメントで直し方を教えて下さった御二方、ありがとうございました。
…ぶっちゃけ、直りました。
という訳で明日からは普通に連載やります。
今日は…もう今回、携帯で原稿やるか…と腹くくって携帯電話
と睨めっこして打ち込んでいたもので…。
一日で4P分くらいそっちで打ちました。
…それと夜遅くまで一冊目の本の製本作業をやっていたので
本日ヘロヘロです。
大人しく今夜は早めに休んでおきます。
連載の続きは、明日ちゃんと掲載出来るように頑張ります(ペコリ)
…けど変なキーを押した記憶まったくないんですが…。
普通に打っている間にいきなりこんなエラーが出たのと最近、
PCが深刻なエラーから回復しました…とか表示されるの多かったから
慌ててしまったけど…。
取り乱している心境が思いっきり出し巻くってしまってすみません
でした。…そして親切に教えて下さって感謝しています。
それでは報告でした。では…(そそくさ~)
…ぶっちゃけ、直りました。
という訳で明日からは普通に連載やります。
今日は…もう今回、携帯で原稿やるか…と腹くくって携帯電話
と睨めっこして打ち込んでいたもので…。
一日で4P分くらいそっちで打ちました。
…それと夜遅くまで一冊目の本の製本作業をやっていたので
本日ヘロヘロです。
大人しく今夜は早めに休んでおきます。
連載の続きは、明日ちゃんと掲載出来るように頑張ります(ペコリ)
…けど変なキーを押した記憶まったくないんですが…。
普通に打っている間にいきなりこんなエラーが出たのと最近、
PCが深刻なエラーから回復しました…とか表示されるの多かったから
慌ててしまったけど…。
取り乱している心境が思いっきり出し巻くってしまってすみません
でした。…そして親切に教えて下さって感謝しています。
それでは報告でした。では…(そそくさ~)
(※ この記事は兄のPCを一時的に借りて書いております)
本日早朝、香坂が出勤する間際に、いきなり文字入力が
おかしくなって普通に打てなくなりました。
帰宅してから色々と弄ってみた所、どうもキーボードが
誤作動を起こしたみたいです。
どんな状況かというと、例えば「愛してる」と打ち込むと
「あ5s5てr3」 と表示されるぐらいメッチャクチャです。
ぶっちゃけ家族のPCとか、ハードディスクを使えば多少は
執筆時間を取れますが…少なくとも明日の更新は一回お休み
させて頂きます。
まだ別ジャンルの新刊原稿と、御克アンソロジーの原稿が
完成していませんので(汗)
別ジャンルの新刊は、携帯で打ち込む形にして4~8Pの無料配布と
いう形に切り替えればどうにかなると思います。
1~2日の内にリカバリィ掛けるなり、新しいノートパソコンを購入して
対応します
一先ず明日の掲載分だけはお休みさせて頂きます。
ご了承下さい(ペコリ)
…何か凄いどうしようってトラブルなんですが、御克アンソロジー…
原稿の送り方の所を見直したら、メールでデーター送信可能と
書かれていたので少し余裕は出来ましたし。
一度やると決めたら、出来るだけこなしていくように頑張ります。
連載等、しばらくは少々不定期になってしまいますが…イベント終われば
じきに落ち着いていくので気長に見守ってやって下さい。
それでは失礼します。ではでは…v
本日早朝、香坂が出勤する間際に、いきなり文字入力が
おかしくなって普通に打てなくなりました。
帰宅してから色々と弄ってみた所、どうもキーボードが
誤作動を起こしたみたいです。
どんな状況かというと、例えば「愛してる」と打ち込むと
「あ5s5てr3」 と表示されるぐらいメッチャクチャです。
ぶっちゃけ家族のPCとか、ハードディスクを使えば多少は
執筆時間を取れますが…少なくとも明日の更新は一回お休み
させて頂きます。
まだ別ジャンルの新刊原稿と、御克アンソロジーの原稿が
完成していませんので(汗)
別ジャンルの新刊は、携帯で打ち込む形にして4~8Pの無料配布と
いう形に切り替えればどうにかなると思います。
1~2日の内にリカバリィ掛けるなり、新しいノートパソコンを購入して
対応します
一先ず明日の掲載分だけはお休みさせて頂きます。
ご了承下さい(ペコリ)
…何か凄いどうしようってトラブルなんですが、御克アンソロジー…
原稿の送り方の所を見直したら、メールでデーター送信可能と
書かれていたので少し余裕は出来ましたし。
一度やると決めたら、出来るだけこなしていくように頑張ります。
連載等、しばらくは少々不定期になってしまいますが…イベント終われば
じきに落ち着いていくので気長に見守ってやって下さい。
それでは失礼します。ではでは…v
―優しいメロディが聞こえていた
誰かが奏でている綺麗なバラード
この曲どうかな? と照れ臭そうに青年が笑う
自分はそれを…とても良いよ、と答えながら
静かに耳を傾けている
とても、幸せな夢だった―
―はっ…!
明け方にその夢を見て、荒く息を吐きながら克哉の意識は覚醒していった。
「また、あの夢だ…」
もう一人の自分と一緒に暮らすようになってから早くも二週間が経過していた。
今朝見た夢は、今週に入った辺りから明け方頃にチラリ…と見る事が多かった。
(何だろう…あの夢。とても大切なものだった気がするんだけど…)
欠けてしまった記憶のカケラ。
その中でも今のピースは、重要な役割を果たしている。
克哉はそう確信していたが…おぼろげ過ぎて、はっきりと判らないのがもどかしかった。
彼の顔が、思い出せない。
(何でオレは…思い出せないんだ? 断片的には色んな夢を見ているのに…)
幾ら思考を巡らせても、今はそれを引き出す糸口が余りに少なすぎるのだろう。
今朝もすっきりしない気持ちを抱えていきながら、ベッドから身を起こしていった。
もう一人の自分から衝撃的な内容を告げられた日から丸二週間、今朝は15日目の
始めに当たっていた。
「幾ら尋ねても、あいつはまったく答えてくれないしな…。何でこんな状況に陥っているのか
知っているなら…教えてくれても、良いのに…」
だが、彼は肝心な所はいつもはぐらかして真相にはまったく触れようともしない。
こちらが詰め寄ると、のらりくらりとかわして…気づいたらセックスに持ち込まれてしまって
いるのが大体のパターンだ。
その時の事を思い出してしまって、克哉はバっと赤くなっていく。
幾度となく繰り返された生々しい情事の記憶が蘇って…とても平静ではいられなく
なってしまった。
(思いっきり朝から反応しているしな…)
チラリ、と布団の下で盛り上がっている部分を眺めて…はあ、と溜息をついていく。
自分とて健全な成人男子である。
朝勃ちくらい健康なら当たり前にある生理現象である事は理解しているが…
ふと、あいつに抱かれた記憶が過ぎるとつい切なくなってしまう。
ふいに…あいつに身体全体を弄られている時の情景が頭の中で再生されて、
あっという間に居たたまれなくなってしまった。
「くそ…何で、あいつは…こんなにオレを、抱くんだろ…?」
苦々しげに呟きながら、鈍い身体をどうにか起こしていった。
克哉の身体は、14日間の厳しいリハビリの末…かなり回復していた。
すでに日常の動作なら全然問題なくなっていた。
だが、未だに指先の感覚はどこか遠く…指先を動かしながら集中しなくてはならない
細かい作業まではまだ出来なかった。
それでも初日は、食事介助をして貰わなければご飯も食べれなかったことを思えば
劇的な進歩であった。
「お腹空いたな…ご飯の用意、してあるかな…」
時計の針をチラリ、と眺めるとまだ朝五時半だった。
通例ならば、朝食の時間は7時くらいだ。
意外ともう一人の自分は時間を守る性分らしく…毎朝の朝食の時間が大きく
変動するような事は一度もなかった。
待っていれば…七時には確実に朝食にありつける。
それは判っていたが、一度空腹を自覚していくと…強烈に何かを食べたい
欲求が生まれていった。
「キッチン内の冷蔵庫の中に…何かすぐつまめそうなものがあるかな…?」
そんな事を考えながら、克哉は…ゆっくりとベッドから起き上がって台所の
方へと向かっていく。
この二週間、こんなに朝早い時間帯に彼が目覚めたのは初めてだった。
毎晩のように抱かれていたので…これくらいの時刻はいつも泥のように
眠っていたからだ。
だが、今朝はたまたま…疲れているから、とあいつが気まぐれを起こしたから
昨晩は抱かれないで済んだと…それで早く起きれただけの話である。
「…一体、どこにいるんだろ…? 『俺』…もう食堂でご飯でも作っているのかな…?」
そんな事を考えながら克哉は扉の方へ、よちよちした足取りで向かって…部屋の
外へと出ていった。
真っ直ぐに食堂の方へと向かい…彼の姿を探していくが、どこにも彼の姿は
なかった。
気になって他の部屋もざっと覗いていくが、その姿はやはり見えないままだ。
(どこに向かったんだろう…?)
自分達が今、身を寄せている別荘はかなりの大きさを誇っていて…克哉自身も
まだ全ての部屋を確認出来ていなかった。
身体も随分と動くようになった事だし…そろそろ、彼を探すがてら探索を始めても
良いかもしれない。
そう考えて、克哉はこの別荘の探検を始めていった。
―そして探し始めてから15分後。
彼は、地下室で思っても見なかった光景に出くわしたのだった―
誰かが奏でている綺麗なバラード
この曲どうかな? と照れ臭そうに青年が笑う
自分はそれを…とても良いよ、と答えながら
静かに耳を傾けている
とても、幸せな夢だった―
―はっ…!
明け方にその夢を見て、荒く息を吐きながら克哉の意識は覚醒していった。
「また、あの夢だ…」
もう一人の自分と一緒に暮らすようになってから早くも二週間が経過していた。
今朝見た夢は、今週に入った辺りから明け方頃にチラリ…と見る事が多かった。
(何だろう…あの夢。とても大切なものだった気がするんだけど…)
欠けてしまった記憶のカケラ。
その中でも今のピースは、重要な役割を果たしている。
克哉はそう確信していたが…おぼろげ過ぎて、はっきりと判らないのがもどかしかった。
彼の顔が、思い出せない。
(何でオレは…思い出せないんだ? 断片的には色んな夢を見ているのに…)
幾ら思考を巡らせても、今はそれを引き出す糸口が余りに少なすぎるのだろう。
今朝もすっきりしない気持ちを抱えていきながら、ベッドから身を起こしていった。
もう一人の自分から衝撃的な内容を告げられた日から丸二週間、今朝は15日目の
始めに当たっていた。
「幾ら尋ねても、あいつはまったく答えてくれないしな…。何でこんな状況に陥っているのか
知っているなら…教えてくれても、良いのに…」
だが、彼は肝心な所はいつもはぐらかして真相にはまったく触れようともしない。
こちらが詰め寄ると、のらりくらりとかわして…気づいたらセックスに持ち込まれてしまって
いるのが大体のパターンだ。
その時の事を思い出してしまって、克哉はバっと赤くなっていく。
幾度となく繰り返された生々しい情事の記憶が蘇って…とても平静ではいられなく
なってしまった。
(思いっきり朝から反応しているしな…)
チラリ、と布団の下で盛り上がっている部分を眺めて…はあ、と溜息をついていく。
自分とて健全な成人男子である。
朝勃ちくらい健康なら当たり前にある生理現象である事は理解しているが…
ふと、あいつに抱かれた記憶が過ぎるとつい切なくなってしまう。
ふいに…あいつに身体全体を弄られている時の情景が頭の中で再生されて、
あっという間に居たたまれなくなってしまった。
「くそ…何で、あいつは…こんなにオレを、抱くんだろ…?」
苦々しげに呟きながら、鈍い身体をどうにか起こしていった。
克哉の身体は、14日間の厳しいリハビリの末…かなり回復していた。
すでに日常の動作なら全然問題なくなっていた。
だが、未だに指先の感覚はどこか遠く…指先を動かしながら集中しなくてはならない
細かい作業まではまだ出来なかった。
それでも初日は、食事介助をして貰わなければご飯も食べれなかったことを思えば
劇的な進歩であった。
「お腹空いたな…ご飯の用意、してあるかな…」
時計の針をチラリ、と眺めるとまだ朝五時半だった。
通例ならば、朝食の時間は7時くらいだ。
意外ともう一人の自分は時間を守る性分らしく…毎朝の朝食の時間が大きく
変動するような事は一度もなかった。
待っていれば…七時には確実に朝食にありつける。
それは判っていたが、一度空腹を自覚していくと…強烈に何かを食べたい
欲求が生まれていった。
「キッチン内の冷蔵庫の中に…何かすぐつまめそうなものがあるかな…?」
そんな事を考えながら、克哉は…ゆっくりとベッドから起き上がって台所の
方へと向かっていく。
この二週間、こんなに朝早い時間帯に彼が目覚めたのは初めてだった。
毎晩のように抱かれていたので…これくらいの時刻はいつも泥のように
眠っていたからだ。
だが、今朝はたまたま…疲れているから、とあいつが気まぐれを起こしたから
昨晩は抱かれないで済んだと…それで早く起きれただけの話である。
「…一体、どこにいるんだろ…? 『俺』…もう食堂でご飯でも作っているのかな…?」
そんな事を考えながら克哉は扉の方へ、よちよちした足取りで向かって…部屋の
外へと出ていった。
真っ直ぐに食堂の方へと向かい…彼の姿を探していくが、どこにも彼の姿は
なかった。
気になって他の部屋もざっと覗いていくが、その姿はやはり見えないままだ。
(どこに向かったんだろう…?)
自分達が今、身を寄せている別荘はかなりの大きさを誇っていて…克哉自身も
まだ全ての部屋を確認出来ていなかった。
身体も随分と動くようになった事だし…そろそろ、彼を探すがてら探索を始めても
良いかもしれない。
そう考えて、克哉はこの別荘の探検を始めていった。
―そして探し始めてから15分後。
彼は、地下室で思っても見なかった光景に出くわしたのだった―
―自由を奪われてからずっと、窓の向こうの月を眺めていた
紺碧の闇の中に浮かぶ銀盤はまるで鏡のようだった
絶望的な状況下。
自分が何を言おうが、行動しようが変わることがない現状。
それでも自分の気持ちだけはずっと変わらなかった
だからこそ、彼は耐え切れずに己を閉ざしてしまった
幾ら身体を重ねても、訴え続けても…相手がこちらの全てを
跳ね除けてしまうのならば
自分達が一緒にいる意味は果たしてあったのだろうか…?
運ばれてきた食事を全て平らげていくと…克哉は刺々しく尖っていた
自分の心が解れていくような感じがした。
流れた時間は予想外に穏やかなもので、それが少しだけ彼の気持ちを
落ち着かせていった。
「ご馳走様…その、美味しかった。ありがとう…」
「どう致しまして。とりあえず…お前の口に合ったみたいで良かった。
まあ…俺とお前の食べ物の好みはほぼ一緒だからな。
俺が旨いと感じる物は大抵、お前も同じな筈だ…」
「うん、それは認める。実際に…凄く美味しかったし…」
そう、今…食べさせて貰った卵粥の塩加減とかそういうのは絶妙で
確かに自分の味の好みにマッチしていた。
だからこそ病み上がりの身体でも深皿一杯分くらい食べられてしまった。
けれど食事介助が終わってしまうと、途端に身の置き場がなくなっていくような
気がした。
何かする事があれば、その間は無言でも間が持つが…何もしない状態で
眼鏡と二人きりで向き合っていくのは心理的にキツイものがあった。
(あんまり沈黙が続くと…何かまた、エッチな事でもされてしまう気がするし…)
こちらは殆ど身体を動かせない状況であるのに、意識が覚醒した早々…
いきなり何度も好き放題に犯されたのは昨晩の話である。
だから…あの優しい目をしてくれていた時だけはちょっとだけ安心出来たが
克哉にとっては依然、もう一人の自分は要注意人物扱いだった。
(何か話して、間を持たせた方が良いよな…世間話をしている程度だったら
いきなり襲われたりもしないだろうし…)
もう一人の自分にせめてそれくらいの理性を求めていきながら、克哉は
口を開いていった。
「あの…お前が一ヶ月、オレの面倒を見てくれていたのって…本当の事、なんだよな?
それなら…その、ありがとう。オレは、昨日までちっとも判っていなかったけれど…」
「別に礼を言われるほどの事ではない。お前が野たれ死んだりしたら…俺達は
一蓮托生だからな。お前の死は=俺の死でもある。だから面倒を見ていただけに
過ぎない。そんなに礼を言われるまでもない…」
「えっ…そう、なの…?」
一蓮托生、その単語を聞いた時にドキリとした。
しかし言われてみればその通りである。
彼が自分自身であるというのなら、克哉が死ねば眼鏡も一緒にというのは
自然な話だ。だが…彼はそう言われるまで、今までその事実を自覚した事は
一度もないままだった。
「…それよりも、今夜はお前も結構食べていたみたいだな。…今まで、
お前の意識がないままの時はなかなか自力で嚥下もしてくれなかったから、
口移しで仕方なく飲み物や食べ物の類を飲み込ませなければいけない時も
多かったからな。
一ヶ月の内に…そこまでお前の体重が戻って良かった。…俺がお前を回収しに
行った時はもっとやつれていて、まるで干からびたミイラのようだったからな…」
「えぇ! そ、そうなの…? 本当にオレ、ミイラみたいになっていたのか…?」
「ミイラは言いすぎかも知れんが、そうだな。最初の頃は…お前は水も食料も
殆ど受け付けない状況に陥っていた。
あれは無意識の自殺行為にしか見えなかったぞ。どれだけ無理矢理、飲食物を
吐き出そうとするお前に苦戦させられた事か…」
「えっ…え~と…」
自分がそんな状況になってしまっていた事が信じられなかった。
だが、そんな陰惨な状態になっていた時期の記憶はまったくない。
(一体何が起こっていたんだ…?)
空白の一年、その間に何があったのか…。
昨晩見た断片的なイメージだけはおぼろげにあったけれど…それ以上の
情報はまったく引き出せなかった。
(…思い出せるのは、月に向かって必死に手を伸ばしている自分と…夜桜が
綺麗に舞っていた中に…あいつが強気に微笑んでいた事。それとどこかに…
閉じ込められて、酷く絶望を感じているシーン…だけだ…)
それだけでは果たしてどんな物語が背後に存在しているのか、まったく
克哉の中で繋がらなかった。
例えていうなら100ピースで構成されているジグソーパズルを、たった3ピースで
絵柄を当ててみろと言っているようなものだ。
「…ねえ、聞かせて貰っても良いかな…。オレ、正直言うと…この一年の記憶が
どうしても思い出せなくて。一体どうしてそんな…食べ物も水も全て拒否して、
身体も満足に動かせない状況に陥ったのか、まったく判らないんだ…。
お前が知っている範囲で構わない。良かったら…教えて、貰えないか…?」
「っ…! な、んだと…?」
率直に聞き返したのと同時に、眼鏡の顔色が一瞬にして変わっていく。
信じられない、そんな色合いが瞳に浮かんでいた。
「…それは、本当か? じゃあ…アイツの事も、お前は全然覚えていないと…
そう、言うのか?」
「…お前が言っているアイツって誰の、事だよ…?」
「…佐伯克哉を絶望の淵に追い落とした男の事だ。本当に…覚えて、
いないのか…?」
もう一度、念を押すようにもう一人の自分が尋ね返していく。
だがどれだけ思考を巡らせても、該当する人物はまったく浮かんで来ない。
(オレをこんな状況に追い込んだ男って…一体、誰だよ…! どうして…
まったく思い出せないんだ…?)
そう言われた瞬間、ハっとなった。
自分の四肢に刻み込まれた黒い痣。そしてアチコチに散らされた赤い痕跡。
繰り返し繰り返し、肌に刻み込まれてしまったそれらの痕跡がどうして自分の
身体に残っているのか、その事に思い至った時…恐怖がドっとこみ上げてきた。
(どうして、オレにそんな事をした相手を…オレは全然、思い出せないんだよ…!
これってもしかして、部分的な記憶喪失って奴なのかよ…!)
良く映画やドラマなどで、何か大きな事件や事故に巻き込まれて主人公が
記憶喪失になる事など、ある意味ありがちな設定で存在している。
だが自分が実際にその立場になると、ここまで不安な気持ちになるなんて
思ってもみなかった。
「…ゴメン、まったく思い出せない。一体誰なんだよ…そいつ。名前は…
お前は知って、いるのか…?」
「当然だ。お前から全てを奪った上に、監禁までした男だからな。俺の方は
絶対にそいつを忘れる事はない…」
「全て、を…?」
そこまで壮絶な目に、自分は遭っていたというのか。
コクン、と神妙な顔をしながらもう一人の自分が頷いていく。
こちらが呆然としていると…眼鏡はいきなり、鋭い眼差しをこちらに
向けていった。
「…一つ言っておく。お前の身体や記憶がどんな状況なのか俺には今ひとつ
把握は出来ていないが…直すなら、一日も早く直せ。ここは別荘地だから
七月の上旬くらいまではせいぜい周囲には…管理を任されている人間くらい
しかいないが、夏休み間際になったら大勢の人間が避暑しにこの付近まで
やって来る。そうなったら隠れていられなくなるからな…。
そんなに悠長な事はしていられないぞ…何せ…」
「な、何だよ…何が、言いたいんだよ…?」
フッと酷薄な色合いに変化していく相手の瞳につい目を奪われていきながら
克哉はベッドに仰向けになったまま眼鏡を見上げていく。
いきなり、先程までの暖かな空気は霧散して…緊迫した空気が生まれていく。
「お前は命を狙われているからな…だから、そのままの状態では襲われたら
即効でジ・エンドだ。だから…奴らに見つかるまでの期間、死ぬ物狂いで自分の
身体をリハビリして回復させていけ。じゃなければ…お前の命は確実に
なくなるだろう…」
「う、そ…だろ…」
いきなり告げられた残酷な内容に、唇を震わせながら瞠目していく。
だが眼鏡の表情は真剣そのもので、それを笑い飛ばして聞かなかった事に
する事すら厳しかった。
「…幾ら俺でも、こんな性質の悪い内容を冗談にするほど悪趣味ではない。事実だ…」
「そ、うだよね…けど、まさか…そん、な…」
「現状を受け入れろ。…お前が生きる気があるんだったら、俺が一応…傍に
いて守ってやる。不本意だがな…お前が死ねば、俺も一緒に消えるんだ。
だから…お前が諦めない限りは、俺は全力でお前を助けよう。
俺は死ぬのは…御免だからな…」
「えっ…ほ、んとに…?」
思ってもみなかった事を相手から言われて、信じられないとばかりに
驚愕の表情を浮かべていった。
だが、同時に嬉しかった。
こんな指先一つ満足に動かせない状況で心細い中、助けようと言って
貰えることがこんなにも心強くなるなんて、今まで…知らなかったから。
「…判った、オレ…全力で、身体を回復させる。死にたくないし、オレだって
自分がどんな状況に巻き込まれているのか知らないままで命を狙われて
いるなんて、沢山だ…! だから、諦めるもんか…! だから力を、
貸してくれ…『俺』…!」
心細くて不安で支配されそうになっている中、黙って殺されることなど
御免だった。
それに何より、彼は言ったではないか。
彼と自分は一蓮托生、だと。
それを聞いた以上、抗わなければいけないと思った。
だから強気な瞳を浮かべながら大声で高らかに…克哉は告げていく。
そんな彼を、眼鏡は満足そうに見つめてくれていた。
そうして…彼らの奇妙な共同生活は幕を開けたのだった―
紺碧の闇の中に浮かぶ銀盤はまるで鏡のようだった
絶望的な状況下。
自分が何を言おうが、行動しようが変わることがない現状。
それでも自分の気持ちだけはずっと変わらなかった
だからこそ、彼は耐え切れずに己を閉ざしてしまった
幾ら身体を重ねても、訴え続けても…相手がこちらの全てを
跳ね除けてしまうのならば
自分達が一緒にいる意味は果たしてあったのだろうか…?
運ばれてきた食事を全て平らげていくと…克哉は刺々しく尖っていた
自分の心が解れていくような感じがした。
流れた時間は予想外に穏やかなもので、それが少しだけ彼の気持ちを
落ち着かせていった。
「ご馳走様…その、美味しかった。ありがとう…」
「どう致しまして。とりあえず…お前の口に合ったみたいで良かった。
まあ…俺とお前の食べ物の好みはほぼ一緒だからな。
俺が旨いと感じる物は大抵、お前も同じな筈だ…」
「うん、それは認める。実際に…凄く美味しかったし…」
そう、今…食べさせて貰った卵粥の塩加減とかそういうのは絶妙で
確かに自分の味の好みにマッチしていた。
だからこそ病み上がりの身体でも深皿一杯分くらい食べられてしまった。
けれど食事介助が終わってしまうと、途端に身の置き場がなくなっていくような
気がした。
何かする事があれば、その間は無言でも間が持つが…何もしない状態で
眼鏡と二人きりで向き合っていくのは心理的にキツイものがあった。
(あんまり沈黙が続くと…何かまた、エッチな事でもされてしまう気がするし…)
こちらは殆ど身体を動かせない状況であるのに、意識が覚醒した早々…
いきなり何度も好き放題に犯されたのは昨晩の話である。
だから…あの優しい目をしてくれていた時だけはちょっとだけ安心出来たが
克哉にとっては依然、もう一人の自分は要注意人物扱いだった。
(何か話して、間を持たせた方が良いよな…世間話をしている程度だったら
いきなり襲われたりもしないだろうし…)
もう一人の自分にせめてそれくらいの理性を求めていきながら、克哉は
口を開いていった。
「あの…お前が一ヶ月、オレの面倒を見てくれていたのって…本当の事、なんだよな?
それなら…その、ありがとう。オレは、昨日までちっとも判っていなかったけれど…」
「別に礼を言われるほどの事ではない。お前が野たれ死んだりしたら…俺達は
一蓮托生だからな。お前の死は=俺の死でもある。だから面倒を見ていただけに
過ぎない。そんなに礼を言われるまでもない…」
「えっ…そう、なの…?」
一蓮托生、その単語を聞いた時にドキリとした。
しかし言われてみればその通りである。
彼が自分自身であるというのなら、克哉が死ねば眼鏡も一緒にというのは
自然な話だ。だが…彼はそう言われるまで、今までその事実を自覚した事は
一度もないままだった。
「…それよりも、今夜はお前も結構食べていたみたいだな。…今まで、
お前の意識がないままの時はなかなか自力で嚥下もしてくれなかったから、
口移しで仕方なく飲み物や食べ物の類を飲み込ませなければいけない時も
多かったからな。
一ヶ月の内に…そこまでお前の体重が戻って良かった。…俺がお前を回収しに
行った時はもっとやつれていて、まるで干からびたミイラのようだったからな…」
「えぇ! そ、そうなの…? 本当にオレ、ミイラみたいになっていたのか…?」
「ミイラは言いすぎかも知れんが、そうだな。最初の頃は…お前は水も食料も
殆ど受け付けない状況に陥っていた。
あれは無意識の自殺行為にしか見えなかったぞ。どれだけ無理矢理、飲食物を
吐き出そうとするお前に苦戦させられた事か…」
「えっ…え~と…」
自分がそんな状況になってしまっていた事が信じられなかった。
だが、そんな陰惨な状態になっていた時期の記憶はまったくない。
(一体何が起こっていたんだ…?)
空白の一年、その間に何があったのか…。
昨晩見た断片的なイメージだけはおぼろげにあったけれど…それ以上の
情報はまったく引き出せなかった。
(…思い出せるのは、月に向かって必死に手を伸ばしている自分と…夜桜が
綺麗に舞っていた中に…あいつが強気に微笑んでいた事。それとどこかに…
閉じ込められて、酷く絶望を感じているシーン…だけだ…)
それだけでは果たしてどんな物語が背後に存在しているのか、まったく
克哉の中で繋がらなかった。
例えていうなら100ピースで構成されているジグソーパズルを、たった3ピースで
絵柄を当ててみろと言っているようなものだ。
「…ねえ、聞かせて貰っても良いかな…。オレ、正直言うと…この一年の記憶が
どうしても思い出せなくて。一体どうしてそんな…食べ物も水も全て拒否して、
身体も満足に動かせない状況に陥ったのか、まったく判らないんだ…。
お前が知っている範囲で構わない。良かったら…教えて、貰えないか…?」
「っ…! な、んだと…?」
率直に聞き返したのと同時に、眼鏡の顔色が一瞬にして変わっていく。
信じられない、そんな色合いが瞳に浮かんでいた。
「…それは、本当か? じゃあ…アイツの事も、お前は全然覚えていないと…
そう、言うのか?」
「…お前が言っているアイツって誰の、事だよ…?」
「…佐伯克哉を絶望の淵に追い落とした男の事だ。本当に…覚えて、
いないのか…?」
もう一度、念を押すようにもう一人の自分が尋ね返していく。
だがどれだけ思考を巡らせても、該当する人物はまったく浮かんで来ない。
(オレをこんな状況に追い込んだ男って…一体、誰だよ…! どうして…
まったく思い出せないんだ…?)
そう言われた瞬間、ハっとなった。
自分の四肢に刻み込まれた黒い痣。そしてアチコチに散らされた赤い痕跡。
繰り返し繰り返し、肌に刻み込まれてしまったそれらの痕跡がどうして自分の
身体に残っているのか、その事に思い至った時…恐怖がドっとこみ上げてきた。
(どうして、オレにそんな事をした相手を…オレは全然、思い出せないんだよ…!
これってもしかして、部分的な記憶喪失って奴なのかよ…!)
良く映画やドラマなどで、何か大きな事件や事故に巻き込まれて主人公が
記憶喪失になる事など、ある意味ありがちな設定で存在している。
だが自分が実際にその立場になると、ここまで不安な気持ちになるなんて
思ってもみなかった。
「…ゴメン、まったく思い出せない。一体誰なんだよ…そいつ。名前は…
お前は知って、いるのか…?」
「当然だ。お前から全てを奪った上に、監禁までした男だからな。俺の方は
絶対にそいつを忘れる事はない…」
「全て、を…?」
そこまで壮絶な目に、自分は遭っていたというのか。
コクン、と神妙な顔をしながらもう一人の自分が頷いていく。
こちらが呆然としていると…眼鏡はいきなり、鋭い眼差しをこちらに
向けていった。
「…一つ言っておく。お前の身体や記憶がどんな状況なのか俺には今ひとつ
把握は出来ていないが…直すなら、一日も早く直せ。ここは別荘地だから
七月の上旬くらいまではせいぜい周囲には…管理を任されている人間くらい
しかいないが、夏休み間際になったら大勢の人間が避暑しにこの付近まで
やって来る。そうなったら隠れていられなくなるからな…。
そんなに悠長な事はしていられないぞ…何せ…」
「な、何だよ…何が、言いたいんだよ…?」
フッと酷薄な色合いに変化していく相手の瞳につい目を奪われていきながら
克哉はベッドに仰向けになったまま眼鏡を見上げていく。
いきなり、先程までの暖かな空気は霧散して…緊迫した空気が生まれていく。
「お前は命を狙われているからな…だから、そのままの状態では襲われたら
即効でジ・エンドだ。だから…奴らに見つかるまでの期間、死ぬ物狂いで自分の
身体をリハビリして回復させていけ。じゃなければ…お前の命は確実に
なくなるだろう…」
「う、そ…だろ…」
いきなり告げられた残酷な内容に、唇を震わせながら瞠目していく。
だが眼鏡の表情は真剣そのもので、それを笑い飛ばして聞かなかった事に
する事すら厳しかった。
「…幾ら俺でも、こんな性質の悪い内容を冗談にするほど悪趣味ではない。事実だ…」
「そ、うだよね…けど、まさか…そん、な…」
「現状を受け入れろ。…お前が生きる気があるんだったら、俺が一応…傍に
いて守ってやる。不本意だがな…お前が死ねば、俺も一緒に消えるんだ。
だから…お前が諦めない限りは、俺は全力でお前を助けよう。
俺は死ぬのは…御免だからな…」
「えっ…ほ、んとに…?」
思ってもみなかった事を相手から言われて、信じられないとばかりに
驚愕の表情を浮かべていった。
だが、同時に嬉しかった。
こんな指先一つ満足に動かせない状況で心細い中、助けようと言って
貰えることがこんなにも心強くなるなんて、今まで…知らなかったから。
「…判った、オレ…全力で、身体を回復させる。死にたくないし、オレだって
自分がどんな状況に巻き込まれているのか知らないままで命を狙われて
いるなんて、沢山だ…! だから、諦めるもんか…! だから力を、
貸してくれ…『俺』…!」
心細くて不安で支配されそうになっている中、黙って殺されることなど
御免だった。
それに何より、彼は言ったではないか。
彼と自分は一蓮托生、だと。
それを聞いた以上、抗わなければいけないと思った。
だから強気な瞳を浮かべながら大声で高らかに…克哉は告げていく。
そんな彼を、眼鏡は満足そうに見つめてくれていた。
そうして…彼らの奇妙な共同生活は幕を開けたのだった―
本日は連載、一回お休みです。(明日中に続きはちゃんと書きます)
代わりに日頃お世話になっているむいさんの誕生日お祝いSSを
書かせて頂きます。
どのCPの連載を書いていても、いつも感想をチョコチョコ寄越して下さって
有り難うございました。
特に2~4月くらいは自信喪失が酷かったので非常に励みになったので
ささやかですが、その時のお礼です。
良ければ受け取ってやって下さい(ペコリ)
…いや、本当は連載とお祝いSSを両方書ければ良いんだろうけど
ぶっちゃけそこまで現在余裕がありませんので(ル~ルル~)
メガミドの『花』をテーマにしたちょっとほのぼのチックなお話です。
最後に…むいさん、お誕生日おめでとう~!
…一日遅れの掲載になってしまってすみません~(ペコペコ)
『紫陽花』
六月の週末の夜の事だった。
御堂孝典は山のように積んであった仕事をようやく片付け終えると…ほう、と
安堵の溜息を漏らしていった。
休日の前日という事もあって、忙しくても皆…残業のせいで遅くなるのは
嫌みたいで、本日…オフィスに残っている人間はすでに彼一人だけになっていた。
(やっと終わったな…)
本日は一日中、雨がシトシトと降っていた為にデスクワークを中心に
業務をこなしていたが、最近…上昇企業の一つとして数えられるようになってきた
アクワイヤ・アソシエーションはそれこそやるべきこと、こなしていかなければ
ならない仕事は山積みになっていた。
「まだ、雨が降っているな…」
しみじみと呟きながら、椅子の上で大きく背伸びしていく。
打ち込み作業等は午前中に片付けたので、午後からは一日…必要な書類に
目を通したり、確認作業をし続けていた。
おかげで身体のアチコチが硬く、この後に約束さえなければそのまま…
スポーツジムの方にでも赴きたいくらいだった。
腕時計を見て確していくと、すでに20時を軽く過ぎていた。
御堂の雇い主兼恋人でもある佐伯克哉が…自分が担当していた仕事を片付けると
さっさとこのオフィスの上にある住居へ戻っていったのが19時になった直後の事だ。
一時間程前に立ち去っていった恋人の事を思い出すと、ふう…と溜息を突きながら
机から立ち上がっていった。
「さて…そろそろ向かうか。モタモタしていると…佐伯は恐らくスネるだろうしな…」
軽く微笑みながら、自分の恋人が上の階で待っていてくれている姿を想像していって
知らず御堂は微笑んでしまう。
…そう、克哉は仕事をしている時は冷徹で自他ともに厳しくて有能な男の癖に
私人として自分と一緒に過ごしている時は、案外単純な事でスネたり…やたらと
御堂と一緒に過ごす時間が他の雑事によって削れてしまうのを嫌がる部分があった。
(まったく、あいつにも困ったものだな…)
と考えつつも、つい笑ってしまう。
自室で、こちらの事を考えながら克哉がどのように過ごしていたのか…想像を
巡らせると少しだけ楽しかった。
「さて、と…そろそろ行こう」
そうして御堂は、自分のディスクの上を片付け始めていく。
その様子はどこか、ウキウキして楽しげだった―
*
エレベーターに乗り込んで、彼の住居があるフロアに降り立っていくと…合鍵を
使って中に入っていった。
以前はインターフォンを押して克哉本人に開けて貰っていたが…彼がいつかに
「あんたと俺は他人じゃないんだから、自由に入っても構わないんだが?」という
発言を受けてから、自然とこうやって中に入るように代わっていった。
実際、そうやって入るようになってから…克哉は克哉で、自分が来るまでの
時間をマイペースに過ごしながら待ってくれている事を知ったので、出来るだけ
自分が来る直前まで彼に自由に過ごして貰いたいので…御堂自身もこうやって
出入りする事に今では躊躇いがなかった。
扉を潜って中に入っていくと…丁度良い室温と湿度に保たれた空気に
フワリ、と包み込まれていく。
どうやら温度は弄らず、空調で除湿だけしているらしい。
ジトジトした感じがあまりせず、サラリとした空気に包まれていくと何となく
心地良さでホッとしていった。
廊下を歩いていくと、丁度バスルームの方から水音が聞こえてくる。
(シャワーを浴びていたのか…)
それに気づいた時に、やっぱりインターフォンを押さなくて良かったと思えた。
元々、自分も彼もシャワー党なので入浴時間は大体10~15分で終わってしまう。
その短い時間を邪魔せずに済んで良かった…としみじみ思いながら御堂は
リビングの方へと向かっていった。
其処で彼が上がってくるまで待っていよう。そう考えて向かっていくと…。
「はあっ…?」
少しだけ意外な物を発見して、つい驚きの声が漏れてしまった。
部屋の真ん中。ソファの前の大理石で作られた膝丈くらいのシンプルなデザインの
机の上に…花瓶が置かれていた。
其処には目にも鮮やかな紫掛かった藍色の紫陽花の花が生けられていた。
うっすらと露に濡れたそれは強い存在感を放っていて、思わず見惚れるくらいに
鮮烈な美しさを放っていた。
別に部屋の真ん中に花があるくらい、普通なら驚くことではないのかも知れないが
佐伯克哉という人間はよく言えば合理的。悪く言えば無駄なものはすっぱりと切り捨てる
ような性格の持ち主だった。
それはこの部屋の内装にも良く現れていて…すでにここに引っ越してから半年は
経過しているというのに相変わらずこの部屋の中は無駄な物は殆どなかった。
無機質な内装、整然とした雰囲気を讃えた室内。
まるでモデルルームのように綺麗に片付かれた室内に、花という暖かなものは
酷くその空間から浮き上がっているように感じられた。
「…佐伯の部屋の中に、花が飾られているなんて珍しいな…」
オフィスには、部下の中に女性がいるおかげでアチコチに花が飾られているのだが
克哉の部屋に今まで、花の類が生けられていた事などまったくなかった。
彼自身がそういう事に気を配るような性分でない事は…見ていれば充分過ぎるくらい
判るので本当にこれは意外だった。
つい珍しくて…ジロジロと紫陽花の方を見てしまう。
花と克哉、実にミスマッチな組み合わせだ。
それなのに…知らない内に釘付けになってしまっていた。
(そういえば…最近、こうやって花なんて眺めている余裕なかったな…)
二人で会社を興してからというもの、軌道に乗ってからは毎日が忙しくて、
同時に充実もしていたから…久しく花を眺めてゆっくりすることなどなかった
ように思う。
今の会社もMGN時代も、受付や職場内に女性社員達が気を利かせてくれて
いるのか…目の端に花は常に存在していた。
だが、それをじっくりと見ていた事など殆どなかったことに気づいていく。
(…綺麗な藍色だな…)
ジイっと眺めていると、ふいに紫陽花がガサゴソ動いている。
一瞬、ビクっとなってしまったが…いきなり藍色のガクと丸いノコギリのような
ギザギザの葉っぱの隙間から…一匹の小さなカタツムリが姿を現していった。
「カ、カタツムリ…っ?」
一瞬、何でこんなのが…という思いもあったが、それは本当に小さな個体で…
可愛らしい印象があった。
紫陽花の上を一生懸命這いずり回っている様はけなげというか、妙に
見ていて和む光景だ。
「妙に風情があるな…」
これが大きな奴だったら、グロテスクに感じられたかも知れないが…子どもの
カタツムリなら軟体生物特有の触覚や、ヌメヌメした姿もあまり気にならない。
机に肘をついて…何気なくその光景を眺めていくと、ふいに背後から
抱き締められていった。
「なっ…!」
突然の事態に、一瞬身構えていくと首筋に柔らかい感触を覚えていった。
自分にこんな真似をしでかす男はこの世に一人しか存在しない。
御堂の恋人である、佐伯克哉の仕業であった。
「…孝典、すっかり紫陽花に魅入っていたみたいだな。背後が隙だらけ
だったぞ…?」
シャワーから上がったばかりのせいか、克哉は上半身にYシャツを羽織った
だけのラフな格好をしていた。
フワリ、と湯上りの良い香りが漂ってきて妙に意識をしてしまう。
振り返ると、色素の薄い髪にはまだ雫が滴っていて…普段よりも彼を
艶っぽい印象にしていた。
「だ、だからって人の不意を突かなくっても良いだろうが…! まったく、君と
いう男はどこまで意地が悪いんだ…。驚いただろうが…!」
「そういうな…。ぼんやりと紫陽花と戯れていたあんたが可愛らしくてな。
つい悪戯したくなってしまった…」
そんな事をサラリと言ってのける恋人を問答無用で睨みつけていく。
御堂の気丈な態度に、克哉は満足げに微笑んでいきながら…頬にキスを
落としていった。
「ふん…」
片目を伏せながら、それでも特に抵抗せずにそのキスだけは受けていく。
そうしている間に優しく髪を梳かれてしまって、少々戸惑っていった。
…少し癪だが、こうされているのはひどく心地良かったから―
「…何故、紫陽花なんて置いてあったんだ。君が花の類を…部屋の中に
飾っているのなど初めての事だったから少し驚いてしまった…」
「…俺にも良く判らない。ただ…あんたの分の夕食も作ろうとスーパーに
赴いた帰りに、この紫陽花が歩道に投げ捨てられていてな。
何か小さなカタツムリが必死になってその上を這いずり回っている姿を
見ていたら、何故か放っておけない気分になって持って帰って来てしまった…」
「…克哉。お前もしかして…何か悪いものでも食べたのか? 何と言うか…
普通の人から見たら美談なのだが、君がそれをやると…正直言うと
イメージに合わな過ぎて、どう返答すれば良いのか判らなくなるんだが…」
「…悪かったな」
明らかに克哉が憮然とした表情を浮かべていくと、少し悪かったかなという
気分になったのか…御堂がためらいがちに瞳を細めてくる。
…そう、自分でも全然らしくない行動を取ってしまったと思う。
だが、その光景に遭遇した時…もう一人の自分が「家に連れて帰ってあげようよ…」
とやたらとうるさかったのだ。
普段は自分の中で眠っていて大人しくしているのだが…何かの拍子に向こうと
意識が繋がる時があるらしく、今日たまたまそれが起こっただけの話だ。
「悪くない…むしろ、逆に君にもそういう人間らしい暖かい心があったんだな、と
少々感心しただけだ…」
そう言いながら、御堂が悪戯っぽく笑ってみせる。
普段気難しい表情ばかりしている彼が、こんな顔を見せることなど滅多にない
レアな事であった。
さっきの紫陽花を眺めていて隙だらけになっているのも…珍しい姿だった。
「ほう? そんなに俺は冷たい心の持ち主であるというのか…?」
「あぁ、かつてはな…。だが今は随分暖かくなったものだな…と思っているぞ?」
そういって彼は楽しげに笑っていった。
今日はいつになく、御堂の表情が豊かなように感じられた。
その変化につい目を奪われていきながら…自分もカーペットの上に膝を突いていって
御堂の唇にそっとキスを落としていく。
何度かついばんでいくように、唇を重ね続けていくと…首筋に御堂の腕が
絡まって互いに抱き合う体制になっていった。
「んっ…」
こちらの腕の中で、御堂が甘い声を漏らしながら身を委ねていく。
相手の無防備な姿に、つい顔が綻んでいくような想いがした。
「…孝典。このまま触れ合うのと…夕食と、どちらが先が良い…?」
ほんの少しだけ唇を離していきながら、口元に吐息が感じられる距離で
そっと尋ねていく。
「…この体制では、聞くまでもないと思うがな…?」
強気に微笑みながら、ペロリ…と相手の口元をそっと舐め上げていく。
独特に甘い感覚に、軽い酩酊感すら覚えていった。
「そうだな…確かに、質問するまでもなかったな…」
ククっと笑いながらさりげなくソファの上に誘導していって、その腰を
抱いていく。
克哉の掌が気づけば、こちらの背中を優しく撫ぜ擦っていた。
その快い感覚に、御堂はうっとりしそうになってしまった。
静かにソファの上に横たえられて、克哉に組み敷かれていく。
今夜の彼の顔は、どこか柔らかかった。
恐らくこちらの顔も、普段よりも綻んでいる事だろう。
特に抵抗することもなく大人しく身を委ねていくと…そっと静かに
目元にキスを落としていった。
「…何か、今夜の君は凄く優しい…な…」
「そうだな。俺も少しだけ、そう思う…。普段なら愛しいあんたが目の前にいれば
苛めてどこまでも啼かせたいという欲求に駆られるが、今夜は何故か…凄く
優しくしたい気持ちになっている…」
そんな自分に少し驚きながらも、もう一つ…御堂の唇にキスしていく。
恋人らしい、甘ったるい戯れの時間だった。
もしかしたら…それは、小さな花の効能なのかも知れなかった。
花や自然は、人の心を和ませると良く言われる。
慌しい日々を送っている中、小さな生き物や自然の美は…人の心を潤して
余裕を齎してくれるものだ。
「…珍しいな。そんなに優しい気持ちになっている君など、ついぞ…遭遇した事が
ないから、凄く見てみたいな…」
促すように、相手の頬を御堂の方からも静かに撫ぜていく。
重なる部位から相手の温みをしっかりと感じ取って…お互いにクスクス笑っていく。
空腹感は確かにあったけれど、それよりも遥かに強い気持ちで…相手が欲しくて
堪らなくなっていた。
「あぁ、俺も珍しいと思う。今夜のあんたは…貴重なものが見られると思うぞ…」
「そうか…それは、楽しみだ…」
そういって相手の重みがしっかりと身体の上に感じながら…深い口付けを
交し合った。
何となく今夜は、室内の雰囲気もどこか柔らかくて穏やかなものだった。
その空気に包み込まれていきながら、御堂はそっと克哉の腕に身を
委ねていく。
「克哉…」
愛しげに、自分をこれから抱いていく恋人の名を囁きながら…しっかりと
その首に抱きついていく。
視界には、フイに…鮮やかな藍の紫陽花の花が飛び込んできた。
(…こんなに穏やかな君を見る事が出来るなら、花を飾るというのも…
たまには悪くないかもな…)
確かに苛められるように抱かれている時、自分は確かに深く感じているけれど
今日みたいに忙殺された日は…こうやって優しくされた方が嬉しいのだ。
そんなのを克哉に求めても無駄だ、と当の昔に諦めていたからこそ…今夜は
凄く嬉しかった。
だから少しだけ、こちらも素直になっていく。
普段は男としての矜持が邪魔していて…なかなか口に出来ない言葉を…
そっと唇を食んでいってから、そっと呟いていった。
「…好き、だ…」
そういいながら、ギュウっと強くしがみついていくと…相手の方からも
強く抱きすくめられていく。
「あぁ…俺、もだ…」
そう、切り替えされてじんわりと幸福感が広がっていく。
凄く幸せな気持ちだった。
そしてその夜…御堂は胸の奥があったかくなるのを感じながら
克哉から与えられる感覚を、全身で享受していったのだった―
代わりに日頃お世話になっているむいさんの誕生日お祝いSSを
書かせて頂きます。
どのCPの連載を書いていても、いつも感想をチョコチョコ寄越して下さって
有り難うございました。
特に2~4月くらいは自信喪失が酷かったので非常に励みになったので
ささやかですが、その時のお礼です。
良ければ受け取ってやって下さい(ペコリ)
…いや、本当は連載とお祝いSSを両方書ければ良いんだろうけど
ぶっちゃけそこまで現在余裕がありませんので(ル~ルル~)
メガミドの『花』をテーマにしたちょっとほのぼのチックなお話です。
最後に…むいさん、お誕生日おめでとう~!
…一日遅れの掲載になってしまってすみません~(ペコペコ)
『紫陽花』
六月の週末の夜の事だった。
御堂孝典は山のように積んであった仕事をようやく片付け終えると…ほう、と
安堵の溜息を漏らしていった。
休日の前日という事もあって、忙しくても皆…残業のせいで遅くなるのは
嫌みたいで、本日…オフィスに残っている人間はすでに彼一人だけになっていた。
(やっと終わったな…)
本日は一日中、雨がシトシトと降っていた為にデスクワークを中心に
業務をこなしていたが、最近…上昇企業の一つとして数えられるようになってきた
アクワイヤ・アソシエーションはそれこそやるべきこと、こなしていかなければ
ならない仕事は山積みになっていた。
「まだ、雨が降っているな…」
しみじみと呟きながら、椅子の上で大きく背伸びしていく。
打ち込み作業等は午前中に片付けたので、午後からは一日…必要な書類に
目を通したり、確認作業をし続けていた。
おかげで身体のアチコチが硬く、この後に約束さえなければそのまま…
スポーツジムの方にでも赴きたいくらいだった。
腕時計を見て確していくと、すでに20時を軽く過ぎていた。
御堂の雇い主兼恋人でもある佐伯克哉が…自分が担当していた仕事を片付けると
さっさとこのオフィスの上にある住居へ戻っていったのが19時になった直後の事だ。
一時間程前に立ち去っていった恋人の事を思い出すと、ふう…と溜息を突きながら
机から立ち上がっていった。
「さて…そろそろ向かうか。モタモタしていると…佐伯は恐らくスネるだろうしな…」
軽く微笑みながら、自分の恋人が上の階で待っていてくれている姿を想像していって
知らず御堂は微笑んでしまう。
…そう、克哉は仕事をしている時は冷徹で自他ともに厳しくて有能な男の癖に
私人として自分と一緒に過ごしている時は、案外単純な事でスネたり…やたらと
御堂と一緒に過ごす時間が他の雑事によって削れてしまうのを嫌がる部分があった。
(まったく、あいつにも困ったものだな…)
と考えつつも、つい笑ってしまう。
自室で、こちらの事を考えながら克哉がどのように過ごしていたのか…想像を
巡らせると少しだけ楽しかった。
「さて、と…そろそろ行こう」
そうして御堂は、自分のディスクの上を片付け始めていく。
その様子はどこか、ウキウキして楽しげだった―
*
エレベーターに乗り込んで、彼の住居があるフロアに降り立っていくと…合鍵を
使って中に入っていった。
以前はインターフォンを押して克哉本人に開けて貰っていたが…彼がいつかに
「あんたと俺は他人じゃないんだから、自由に入っても構わないんだが?」という
発言を受けてから、自然とこうやって中に入るように代わっていった。
実際、そうやって入るようになってから…克哉は克哉で、自分が来るまでの
時間をマイペースに過ごしながら待ってくれている事を知ったので、出来るだけ
自分が来る直前まで彼に自由に過ごして貰いたいので…御堂自身もこうやって
出入りする事に今では躊躇いがなかった。
扉を潜って中に入っていくと…丁度良い室温と湿度に保たれた空気に
フワリ、と包み込まれていく。
どうやら温度は弄らず、空調で除湿だけしているらしい。
ジトジトした感じがあまりせず、サラリとした空気に包まれていくと何となく
心地良さでホッとしていった。
廊下を歩いていくと、丁度バスルームの方から水音が聞こえてくる。
(シャワーを浴びていたのか…)
それに気づいた時に、やっぱりインターフォンを押さなくて良かったと思えた。
元々、自分も彼もシャワー党なので入浴時間は大体10~15分で終わってしまう。
その短い時間を邪魔せずに済んで良かった…としみじみ思いながら御堂は
リビングの方へと向かっていった。
其処で彼が上がってくるまで待っていよう。そう考えて向かっていくと…。
「はあっ…?」
少しだけ意外な物を発見して、つい驚きの声が漏れてしまった。
部屋の真ん中。ソファの前の大理石で作られた膝丈くらいのシンプルなデザインの
机の上に…花瓶が置かれていた。
其処には目にも鮮やかな紫掛かった藍色の紫陽花の花が生けられていた。
うっすらと露に濡れたそれは強い存在感を放っていて、思わず見惚れるくらいに
鮮烈な美しさを放っていた。
別に部屋の真ん中に花があるくらい、普通なら驚くことではないのかも知れないが
佐伯克哉という人間はよく言えば合理的。悪く言えば無駄なものはすっぱりと切り捨てる
ような性格の持ち主だった。
それはこの部屋の内装にも良く現れていて…すでにここに引っ越してから半年は
経過しているというのに相変わらずこの部屋の中は無駄な物は殆どなかった。
無機質な内装、整然とした雰囲気を讃えた室内。
まるでモデルルームのように綺麗に片付かれた室内に、花という暖かなものは
酷くその空間から浮き上がっているように感じられた。
「…佐伯の部屋の中に、花が飾られているなんて珍しいな…」
オフィスには、部下の中に女性がいるおかげでアチコチに花が飾られているのだが
克哉の部屋に今まで、花の類が生けられていた事などまったくなかった。
彼自身がそういう事に気を配るような性分でない事は…見ていれば充分過ぎるくらい
判るので本当にこれは意外だった。
つい珍しくて…ジロジロと紫陽花の方を見てしまう。
花と克哉、実にミスマッチな組み合わせだ。
それなのに…知らない内に釘付けになってしまっていた。
(そういえば…最近、こうやって花なんて眺めている余裕なかったな…)
二人で会社を興してからというもの、軌道に乗ってからは毎日が忙しくて、
同時に充実もしていたから…久しく花を眺めてゆっくりすることなどなかった
ように思う。
今の会社もMGN時代も、受付や職場内に女性社員達が気を利かせてくれて
いるのか…目の端に花は常に存在していた。
だが、それをじっくりと見ていた事など殆どなかったことに気づいていく。
(…綺麗な藍色だな…)
ジイっと眺めていると、ふいに紫陽花がガサゴソ動いている。
一瞬、ビクっとなってしまったが…いきなり藍色のガクと丸いノコギリのような
ギザギザの葉っぱの隙間から…一匹の小さなカタツムリが姿を現していった。
「カ、カタツムリ…っ?」
一瞬、何でこんなのが…という思いもあったが、それは本当に小さな個体で…
可愛らしい印象があった。
紫陽花の上を一生懸命這いずり回っている様はけなげというか、妙に
見ていて和む光景だ。
「妙に風情があるな…」
これが大きな奴だったら、グロテスクに感じられたかも知れないが…子どもの
カタツムリなら軟体生物特有の触覚や、ヌメヌメした姿もあまり気にならない。
机に肘をついて…何気なくその光景を眺めていくと、ふいに背後から
抱き締められていった。
「なっ…!」
突然の事態に、一瞬身構えていくと首筋に柔らかい感触を覚えていった。
自分にこんな真似をしでかす男はこの世に一人しか存在しない。
御堂の恋人である、佐伯克哉の仕業であった。
「…孝典、すっかり紫陽花に魅入っていたみたいだな。背後が隙だらけ
だったぞ…?」
シャワーから上がったばかりのせいか、克哉は上半身にYシャツを羽織った
だけのラフな格好をしていた。
フワリ、と湯上りの良い香りが漂ってきて妙に意識をしてしまう。
振り返ると、色素の薄い髪にはまだ雫が滴っていて…普段よりも彼を
艶っぽい印象にしていた。
「だ、だからって人の不意を突かなくっても良いだろうが…! まったく、君と
いう男はどこまで意地が悪いんだ…。驚いただろうが…!」
「そういうな…。ぼんやりと紫陽花と戯れていたあんたが可愛らしくてな。
つい悪戯したくなってしまった…」
そんな事をサラリと言ってのける恋人を問答無用で睨みつけていく。
御堂の気丈な態度に、克哉は満足げに微笑んでいきながら…頬にキスを
落としていった。
「ふん…」
片目を伏せながら、それでも特に抵抗せずにそのキスだけは受けていく。
そうしている間に優しく髪を梳かれてしまって、少々戸惑っていった。
…少し癪だが、こうされているのはひどく心地良かったから―
「…何故、紫陽花なんて置いてあったんだ。君が花の類を…部屋の中に
飾っているのなど初めての事だったから少し驚いてしまった…」
「…俺にも良く判らない。ただ…あんたの分の夕食も作ろうとスーパーに
赴いた帰りに、この紫陽花が歩道に投げ捨てられていてな。
何か小さなカタツムリが必死になってその上を這いずり回っている姿を
見ていたら、何故か放っておけない気分になって持って帰って来てしまった…」
「…克哉。お前もしかして…何か悪いものでも食べたのか? 何と言うか…
普通の人から見たら美談なのだが、君がそれをやると…正直言うと
イメージに合わな過ぎて、どう返答すれば良いのか判らなくなるんだが…」
「…悪かったな」
明らかに克哉が憮然とした表情を浮かべていくと、少し悪かったかなという
気分になったのか…御堂がためらいがちに瞳を細めてくる。
…そう、自分でも全然らしくない行動を取ってしまったと思う。
だが、その光景に遭遇した時…もう一人の自分が「家に連れて帰ってあげようよ…」
とやたらとうるさかったのだ。
普段は自分の中で眠っていて大人しくしているのだが…何かの拍子に向こうと
意識が繋がる時があるらしく、今日たまたまそれが起こっただけの話だ。
「悪くない…むしろ、逆に君にもそういう人間らしい暖かい心があったんだな、と
少々感心しただけだ…」
そう言いながら、御堂が悪戯っぽく笑ってみせる。
普段気難しい表情ばかりしている彼が、こんな顔を見せることなど滅多にない
レアな事であった。
さっきの紫陽花を眺めていて隙だらけになっているのも…珍しい姿だった。
「ほう? そんなに俺は冷たい心の持ち主であるというのか…?」
「あぁ、かつてはな…。だが今は随分暖かくなったものだな…と思っているぞ?」
そういって彼は楽しげに笑っていった。
今日はいつになく、御堂の表情が豊かなように感じられた。
その変化につい目を奪われていきながら…自分もカーペットの上に膝を突いていって
御堂の唇にそっとキスを落としていく。
何度かついばんでいくように、唇を重ね続けていくと…首筋に御堂の腕が
絡まって互いに抱き合う体制になっていった。
「んっ…」
こちらの腕の中で、御堂が甘い声を漏らしながら身を委ねていく。
相手の無防備な姿に、つい顔が綻んでいくような想いがした。
「…孝典。このまま触れ合うのと…夕食と、どちらが先が良い…?」
ほんの少しだけ唇を離していきながら、口元に吐息が感じられる距離で
そっと尋ねていく。
「…この体制では、聞くまでもないと思うがな…?」
強気に微笑みながら、ペロリ…と相手の口元をそっと舐め上げていく。
独特に甘い感覚に、軽い酩酊感すら覚えていった。
「そうだな…確かに、質問するまでもなかったな…」
ククっと笑いながらさりげなくソファの上に誘導していって、その腰を
抱いていく。
克哉の掌が気づけば、こちらの背中を優しく撫ぜ擦っていた。
その快い感覚に、御堂はうっとりしそうになってしまった。
静かにソファの上に横たえられて、克哉に組み敷かれていく。
今夜の彼の顔は、どこか柔らかかった。
恐らくこちらの顔も、普段よりも綻んでいる事だろう。
特に抵抗することもなく大人しく身を委ねていくと…そっと静かに
目元にキスを落としていった。
「…何か、今夜の君は凄く優しい…な…」
「そうだな。俺も少しだけ、そう思う…。普段なら愛しいあんたが目の前にいれば
苛めてどこまでも啼かせたいという欲求に駆られるが、今夜は何故か…凄く
優しくしたい気持ちになっている…」
そんな自分に少し驚きながらも、もう一つ…御堂の唇にキスしていく。
恋人らしい、甘ったるい戯れの時間だった。
もしかしたら…それは、小さな花の効能なのかも知れなかった。
花や自然は、人の心を和ませると良く言われる。
慌しい日々を送っている中、小さな生き物や自然の美は…人の心を潤して
余裕を齎してくれるものだ。
「…珍しいな。そんなに優しい気持ちになっている君など、ついぞ…遭遇した事が
ないから、凄く見てみたいな…」
促すように、相手の頬を御堂の方からも静かに撫ぜていく。
重なる部位から相手の温みをしっかりと感じ取って…お互いにクスクス笑っていく。
空腹感は確かにあったけれど、それよりも遥かに強い気持ちで…相手が欲しくて
堪らなくなっていた。
「あぁ、俺も珍しいと思う。今夜のあんたは…貴重なものが見られると思うぞ…」
「そうか…それは、楽しみだ…」
そういって相手の重みがしっかりと身体の上に感じながら…深い口付けを
交し合った。
何となく今夜は、室内の雰囲気もどこか柔らかくて穏やかなものだった。
その空気に包み込まれていきながら、御堂はそっと克哉の腕に身を
委ねていく。
「克哉…」
愛しげに、自分をこれから抱いていく恋人の名を囁きながら…しっかりと
その首に抱きついていく。
視界には、フイに…鮮やかな藍の紫陽花の花が飛び込んできた。
(…こんなに穏やかな君を見る事が出来るなら、花を飾るというのも…
たまには悪くないかもな…)
確かに苛められるように抱かれている時、自分は確かに深く感じているけれど
今日みたいに忙殺された日は…こうやって優しくされた方が嬉しいのだ。
そんなのを克哉に求めても無駄だ、と当の昔に諦めていたからこそ…今夜は
凄く嬉しかった。
だから少しだけ、こちらも素直になっていく。
普段は男としての矜持が邪魔していて…なかなか口に出来ない言葉を…
そっと唇を食んでいってから、そっと呟いていった。
「…好き、だ…」
そういいながら、ギュウっと強くしがみついていくと…相手の方からも
強く抱きすくめられていく。
「あぁ…俺、もだ…」
そう、切り替えされてじんわりと幸福感が広がっていく。
凄く幸せな気持ちだった。
そしてその夜…御堂は胸の奥があったかくなるのを感じながら
克哉から与えられる感覚を、全身で享受していったのだった―
―鮮やかな桜の夢を見た
夜の闇の中に圧倒的な存在感を放って舞い散る桜吹雪の中
自分は誰かの人影を見た気がした
どこまでも強気な笑みを浮かべながら男は哂う
その顔を見て、自分がどう感じたのか…克哉にはどうしても思いだせなかった
けれど、それは己を解放してくれた
どこまでも深く暗い、絶望の夢から―
何度ももう一人の自分に感じさせられ、喘がされている内に意識を
失っていて…目覚めた時にはすでに空は白く染まっていた。
爽やかな朝日が部屋の窓から差し込んできているが、克哉の気持ちは
まったく晴れていなかった。
ここ一年くらいの記憶の喪失。
四肢に刻み込まれた黒い痣。
満足に動かなくなってしまった身体と
ここがどこなのかも判らない状況。
そしてもう一人の自分が傍にいる現実。
心に影を落とす要因が多すぎて、どうすれば良いのか判らなくなってしまう。
今の彼に出来る事は…ただベッドに横になりながら、ほんの僅かに身体を
動かすことくらいだ。
「くっ…そっ…! 自分で身体を起こす、事さえ…まともに出来ない…なんて…っ!」
もう一人の自分は先に起きたらしく…室内には今、克哉一人しかいなかった。
簡素で余分な物が置かれていない整然とした部屋の中。
まるでモデルルームで公開されている場所のようだ。
人の温もりを感じさせる調度品の類が殆どない。それが今の不安に満ちている
克哉の心を余計にささくれさせていた。
ベッドの上で焦燥を感じている内に…ガチャ、と開閉音を立てながら扉が開かれていく。
その手には…湯気を立てている料理が二つ並べられているお盆がしっかりと
乗っかっていた。
「…起きたか。昨晩は良く眠れたか…?」
「…まあ、多少は。けど…寝起きは最悪だけれどね…」
昨日の、何度も好き勝手にされたわだかまりがあるせいか…克哉はつい憮然とした
表情で受け答えてしまう。
だが元々、意地悪な性分をしている男である。眼鏡の方はそんな彼の態度にまったく
動揺する気配も見せずに悠然と微笑みながら近づいてくる。
「…飯は食えそうか? 一応…タマネギとネギを細かく刻んだものを入れた卵粥を
持ってきてやった。食えるなら…胃に入れておけ」
「えっ…?」
相手の言葉につい驚いてしまう。
「…お前が、作ってきてくれたの?」
「…この一ヶ月…意識がまともになかったお前に食事を与え続けたのは俺なんだがな。
そんなに俺が飯を作った事が意外か?」
「う、ん…正直言うと。お前がそんなに甲斐甲斐しくこちらの面倒を見てくれていたなんて、
今でもちょっと信じられない、かも…」
半ば戸惑いながら正直な感想を口にしていくと、ジロっとこちらをねめつけていきながら
スプーンを構え始めていく。
「ほら、口を開けろ。火傷しない温度に覚ましてやるから…」
「えっ…けど、自分で…」
食べるから、と言い掛けてすぐに言葉を詰まらせていく。
今の克哉はどうにか…頭と口だけは自分の意思で不自由なく動かせるようになって
いたが…相変わらず手先の類は反応が鈍いままだった。
まあ、それでも昨日…目覚めた直後の指先一本満足に動かせない状況よりかは
幾許か改善されていたが、それでも食事を一人で食べるのは厳しい状況だった。
「…出来ると思っているのか?」
「…うっ…確かに。…判った…」
相手に呆れられたように言われて、身を小さくしながら頷くしかなかった。
そうしている間に相手は一口分の粥をスプーンに掬い取ってフーフーと息を
吹きかけて覚ましていく。
(うわっ…何か目の前でやられると恥ずかしいかも…)
昨晩、眼鏡から深いキスを落とされていた状況で目覚めたものだから…
余計に意識してしまう。
「ほら…これくらいで大丈夫だろう。食えるか?」
「んっ…多分、平気だと…思う」
そうして、相手が差し出して来たスプーンを素直に口に含んでいくと…口の中
いっぱいに豊かな味わいが広がっていった。
コンソメの素をベースにしたその卵粥は、ホッとするぐらいに優しい味わいで
食べると不思議とほっとした。
「…美味しい」
「そうか。まあ…俺が作ったんだから、当然だな…」
素直にその言葉が漏れていく。
それを聞いて…眼鏡が珍しく優しい表情を浮かべていった。
まさに克哉にとって、その顔は不意打ち以外の何物でもない。
予想もしていなかったものをいきなり見せ付けられてガラにもなく困惑する。
(うわっ…)
予想外の顔を見てしまって、克哉は少し照れてしまった。
コイツもこんな顔も出来るんだな…という単純な驚きであった。
「ほら…食えるなら食っておけ。意識が戻ったのなら…後は体力が物を言うように
なるからな。ある程度は食べなければ…回復も遅くなるぞ」
「た、確かに…オレだって、いつまでもこのままの状態は嫌だしな…」
そういって、この場に限って言えば…気恥ずかしさは多少あったが、大人しく
相手に従って運ばれてくる粥を口にしていった。
これじゃあまるで…ヒナに餌を与えている光景みたいだ。
そんな事を頭の隅で考えながら、チラリと…相手の顔を時折見遣っていく。
(…何か、反則に近いよな…)
今、この時だけ…眼鏡の顔はどこか柔らかくて、優しくて。
そんな顔をされてしまったら、どうしても突っぱねられない。
それでも…長らく意識を失って、セックスという激しい運動をいきなり強要された
肉体は今、単純にエネルギーを欲していた。
夢中になって、それを口に頬張り…モグモグと咀嚼していく。
思いがけず、穏やかな時間が流れていく。
ただ、その時間も…これから告げられる現状の重さの前ではあまりに儚く
吹けば吹き飛びそうなささやかなものに過ぎなかった―
夜の闇の中に圧倒的な存在感を放って舞い散る桜吹雪の中
自分は誰かの人影を見た気がした
どこまでも強気な笑みを浮かべながら男は哂う
その顔を見て、自分がどう感じたのか…克哉にはどうしても思いだせなかった
けれど、それは己を解放してくれた
どこまでも深く暗い、絶望の夢から―
何度ももう一人の自分に感じさせられ、喘がされている内に意識を
失っていて…目覚めた時にはすでに空は白く染まっていた。
爽やかな朝日が部屋の窓から差し込んできているが、克哉の気持ちは
まったく晴れていなかった。
ここ一年くらいの記憶の喪失。
四肢に刻み込まれた黒い痣。
満足に動かなくなってしまった身体と
ここがどこなのかも判らない状況。
そしてもう一人の自分が傍にいる現実。
心に影を落とす要因が多すぎて、どうすれば良いのか判らなくなってしまう。
今の彼に出来る事は…ただベッドに横になりながら、ほんの僅かに身体を
動かすことくらいだ。
「くっ…そっ…! 自分で身体を起こす、事さえ…まともに出来ない…なんて…っ!」
もう一人の自分は先に起きたらしく…室内には今、克哉一人しかいなかった。
簡素で余分な物が置かれていない整然とした部屋の中。
まるでモデルルームで公開されている場所のようだ。
人の温もりを感じさせる調度品の類が殆どない。それが今の不安に満ちている
克哉の心を余計にささくれさせていた。
ベッドの上で焦燥を感じている内に…ガチャ、と開閉音を立てながら扉が開かれていく。
その手には…湯気を立てている料理が二つ並べられているお盆がしっかりと
乗っかっていた。
「…起きたか。昨晩は良く眠れたか…?」
「…まあ、多少は。けど…寝起きは最悪だけれどね…」
昨日の、何度も好き勝手にされたわだかまりがあるせいか…克哉はつい憮然とした
表情で受け答えてしまう。
だが元々、意地悪な性分をしている男である。眼鏡の方はそんな彼の態度にまったく
動揺する気配も見せずに悠然と微笑みながら近づいてくる。
「…飯は食えそうか? 一応…タマネギとネギを細かく刻んだものを入れた卵粥を
持ってきてやった。食えるなら…胃に入れておけ」
「えっ…?」
相手の言葉につい驚いてしまう。
「…お前が、作ってきてくれたの?」
「…この一ヶ月…意識がまともになかったお前に食事を与え続けたのは俺なんだがな。
そんなに俺が飯を作った事が意外か?」
「う、ん…正直言うと。お前がそんなに甲斐甲斐しくこちらの面倒を見てくれていたなんて、
今でもちょっと信じられない、かも…」
半ば戸惑いながら正直な感想を口にしていくと、ジロっとこちらをねめつけていきながら
スプーンを構え始めていく。
「ほら、口を開けろ。火傷しない温度に覚ましてやるから…」
「えっ…けど、自分で…」
食べるから、と言い掛けてすぐに言葉を詰まらせていく。
今の克哉はどうにか…頭と口だけは自分の意思で不自由なく動かせるようになって
いたが…相変わらず手先の類は反応が鈍いままだった。
まあ、それでも昨日…目覚めた直後の指先一本満足に動かせない状況よりかは
幾許か改善されていたが、それでも食事を一人で食べるのは厳しい状況だった。
「…出来ると思っているのか?」
「…うっ…確かに。…判った…」
相手に呆れられたように言われて、身を小さくしながら頷くしかなかった。
そうしている間に相手は一口分の粥をスプーンに掬い取ってフーフーと息を
吹きかけて覚ましていく。
(うわっ…何か目の前でやられると恥ずかしいかも…)
昨晩、眼鏡から深いキスを落とされていた状況で目覚めたものだから…
余計に意識してしまう。
「ほら…これくらいで大丈夫だろう。食えるか?」
「んっ…多分、平気だと…思う」
そうして、相手が差し出して来たスプーンを素直に口に含んでいくと…口の中
いっぱいに豊かな味わいが広がっていった。
コンソメの素をベースにしたその卵粥は、ホッとするぐらいに優しい味わいで
食べると不思議とほっとした。
「…美味しい」
「そうか。まあ…俺が作ったんだから、当然だな…」
素直にその言葉が漏れていく。
それを聞いて…眼鏡が珍しく優しい表情を浮かべていった。
まさに克哉にとって、その顔は不意打ち以外の何物でもない。
予想もしていなかったものをいきなり見せ付けられてガラにもなく困惑する。
(うわっ…)
予想外の顔を見てしまって、克哉は少し照れてしまった。
コイツもこんな顔も出来るんだな…という単純な驚きであった。
「ほら…食えるなら食っておけ。意識が戻ったのなら…後は体力が物を言うように
なるからな。ある程度は食べなければ…回復も遅くなるぞ」
「た、確かに…オレだって、いつまでもこのままの状態は嫌だしな…」
そういって、この場に限って言えば…気恥ずかしさは多少あったが、大人しく
相手に従って運ばれてくる粥を口にしていった。
これじゃあまるで…ヒナに餌を与えている光景みたいだ。
そんな事を頭の隅で考えながら、チラリと…相手の顔を時折見遣っていく。
(…何か、反則に近いよな…)
今、この時だけ…眼鏡の顔はどこか柔らかくて、優しくて。
そんな顔をされてしまったら、どうしても突っぱねられない。
それでも…長らく意識を失って、セックスという激しい運動をいきなり強要された
肉体は今、単純にエネルギーを欲していた。
夢中になって、それを口に頬張り…モグモグと咀嚼していく。
思いがけず、穏やかな時間が流れていく。
ただ、その時間も…これから告げられる現状の重さの前ではあまりに儚く
吹けば吹き飛びそうなささやかなものに過ぎなかった―
相手が歩み寄ってくればくるだけ、克哉の緊張は高まっていく。
自然と顔が強張ってしまうが…相手の方は、平然とした表情を浮かべ
続けていた。
こちらが硬直している間に、あっという間に相手はこちらの横たわっている
ベッドの傍らまで歩み寄ってギシ、と軋み音を立てながら乗り上げていった。
「…そのままじゃ、ベトベトして気持ち悪いだろう。とりあえず清めて
さっぱりとさせてやるよ…」
「いい、自分で…やる、から…」
「その状態で出来るのか? ついさっきまで…意識もはっきりとしていなかった
人間が?」
嘲るように彼は言い放つと、洗面器を傍らのサイドテーブルの上に置いて…
浸してあったハンドタオルを絞っていった。
水滴がポタポタと容器の中に落ちていく様をぼんやりと眺めていくと…
やや熱めのタオルがこちらの胸元に宛がわれていく。
「あつっ…」
「心配するな。じきに肌に馴染んでいく…」
「…な、んか…お前。言い方が、妙に…やらしい、あっ…んっ…」
もう一人の自分の手が首筋から鎖骨周辺、そして胸板全体を擦り上げて
いく過程で胸の突起も何度も掠めていく。
さっきまで散々感じさせられた身体は、そんな微細な刺激でさえも…克哉の
意思に反して、つい反応してしまう。
「…さっきまで、散々俺の下で喘いでいた人間が言う言葉じゃないな…?
なあ、『オレ』…」
「むっ…ぐっ…」
楽しげに微笑みながら、タオルを片手に再び唇を塞がれていく。
ねっとりとこちらの口腔全体を犯してくるような濃厚なキスに、自然と
身体全体が震えていってしまう。
クチャリ…ピチュ…
相手の舌が執拗に蠢き回る度に、脳裏に淫靡な水音が響き渡ってしまい
それだけで居たたまれなくなっていく。
そうしている間に、タオルはあっという間に冷めていき冷たい感覚が肌の
上を滑っていくのを感じていった。
「ん、くすぐったい…」
「我慢しろ。お前を風呂に入れるのは結構、重労働だからな…。昨日入れた
ばかりで今日も多大な労力を使いたくない…」
「えっ…昨日、入れたばかり…?」
その言葉に違和感を覚えた。
それにその前の「お前を風呂に入れるのは…」という言葉は、以前にもこいつが
自分を風呂に入れたことがあると、その事実を示している。
…という事は、こいつは自分が意識がまともにない状態でも面倒を見てくれて
いたというのだろうか?
そう考えると、こちらもこの手を邪険に振り払う事が出来なくなってしまう。
「そうだ…もう初夏だからな。自分とまったく同じ体格をした人間を他の奴の
補助もなしに入浴させていたんだぞ。一言くらいは…俺にお礼を言ったって
バチは当たらないと思うがな…」
そういって楽しそうに笑いながら、男の手は徐々に下の方に降りていく。
こちらが放った残滓がさっき飛び散った腹部を丹念に拭き上げていくと
もう一回、お湯の中にタオルを浸されて今度は四肢に手が伸びていった。
腕や足先そのものを拭かれてもそこまで大きな反応はしないが、問題と
なるのは指先やその指間、もしくは腕や足の付け根といった部位に
手を伸ばされた時だった。
「ふっ…こら、そこばっかり…」
「脇とか、そういう処の方が汗が沢山分泌されて汚れがちなんだぞ? お前は
後で臭いたいのか…?」
「そ、う…言われるとこっちも反論しづらいけれど…あっ…だからってあんまり、
其処ばかり拭く、なよ…ひゃ…」
脇の下などまともにくすぐられるとつい笑ってしまいそうなくらいに、とんでも
なくくすぐったい感覚に襲われていく。
けれどどうにか身体全体を震わす程度に留めてその感覚に耐えていくと…
ついに相手の手は下肢の中心に伸びていった。
「さて、と…そろそろ肝心の部位に行かせて貰おうかな…。ここを拭かなかったら
お前だってさっぱりとしないだろうしな…」
そうして、浴衣をやや性急に脱がせられると、強引に足を開かされていった。
普段なら絶対に布地で覆われて人前では隠されている部位が余すところなく
眼鏡の眼前に晒されていく。
相手の視線が、妙に熱い気がする。
見られている…そう感じるだけで、身体の奥が妙に疼くというか…再び火照って
いくような奇妙な感覚が走り抜けていった。
「其処は…自分で、やる…から…。見ない、で…」
「バカを言うな。一ヶ月程…お前の面倒を黙って見続けてやったんだ。これくらいの
楽しみは持たせて貰わなければ割りに合わないだろ…?」
「い、一ヶ月だって…っ!?」
その発言に心底驚いていくと、男は悠然と微笑みながら肯定していく。
「あぁ…確かに一ヶ月だ。何の反応もなく、自分から何もしようとしなかったお前の
面倒を一人で看続けるのは結構、骨だったぞ…?」
「そ、んな…」
それが本当ならば、こちらもむげに相手の手を振り払う訳にはいかなかった。
そうしている間に…眼鏡のタオルが、こちらの性器を拭い始めていく。
相手の整った指先がこちらの性器をみっしりと摘みながら、先端部分や竿…
そして袋の部分を丁寧に拭っていく。
ただ、拭かれて綺麗にされているだけの事だ。
それなのにどうして…相手が弱い所にタオルを滑らせていくだけで、こんなに
鋭い快感に耐えなくてはいけないのだろう?
「んっ…バカ、そこばかり…弄る、なよ…また、汚れる、から…」
うっすらと涙目になりながら相手に懇願していくが…こちらはまだ満足に
身体を動かせない身だ。
押しのける事も出来ずに、その感覚に翻弄されるしかなくなった。
「…お前は、本当にいやらしいな…。こちらは善意で拭いてやっているだけ
なのに…もう硬くなって反応し始めているぞ…」
「どこ、が…善意、だよ…。それだったらそんな場所に、ここまで…時間を
掛けないで、さっさと…やれ、よ…んぁ…!」
そうしている間に、先端の鈴口の部分を指先でくじられて…執拗に指の腹で
攻め立てられていく。
「…そんな生意気な口を利く割には、ここはこんなに濡らしているじゃないか…?
つくづく正直ではないみたいだな…お前は…?」
「やっ…だ…! バカ、触るなよぉ…また、おかしく、なる…」
枕に顔をこすり付けて哀願するように見つめていくが、そんなのはこの男の
嗜虐心を刺激するだけに過ぎない。
当然、眼鏡は止めてやるつもりはない。
むしろもっと相手を追い詰めてやろうと…もう一方の指をティッシュをその真下に
宛がった状態で、相手の内部へと再び割り込ませていった。
「ひゃう…!」
「…さっき、俺のを何度も受け止めたんだから…此処も掻き出してやらないとな。
後で腹を下すぞ…」
的確な指の動きで内部に放たれた精液を掻き出していく際、こちらの脆弱な
場所も何度も刺激されていく。
どうして、こちらの意思と裏腹に身体はここまで反応してしまうのか。
その事実に歯噛みしたくなりながら…克哉は喘ぐしかない。
「や、だ…こんな、の…」
ジワ、と泣きそうになりながら…頭(かぶり)を振っていくが…相手はまったく
容赦してくれそうになかった。
「こんなに俺の指を食んで…しょうがないな。ここまで反応したら、辛いだろう…?
俺の指先だけで、イカせてやるよ…」
「えっ…うっ…はっ…! バカ、もう…やめ、ろぉ…!」
瞬く間に、男の指がこちらを追い上げていく武器に代わっていく。
片手で性器を弄り上げながら、内部を何度も指先を出し入れして往復していくと
その度に克哉の脊髄から、ゾクゾクゾク…とした強烈な快感が走り抜けていく。
さっき何度もこの男の手で達したばかりなのに、また身体は反応して貪欲に
快楽を追い求め始める。
相手が刻むリズムに合わせて、腰が蠢き始める。
知らず…こちらも深い悦楽を求めるように、腰が揺れ続けた。
「止めてなど欲しくない癖に…お前の穴はずっと、欲しい欲しいと…俺の指を
締め付け続けているぞ…?」
「そ、んな…んんっ…!」
そうして、再び唇を深く塞がれる。
もう…限界だった。
相手の指先が動く度に淫らな水音が響き続ける。
男の手は的確で、こちらが抗う間もなく…強烈な感覚を引きずり出していった。
「やっ…はっ…も、う…ダメ、ダメ…だか、ら…ひゃあっ…!」
必死になってシーツの上でもがき続けたが、そんな抵抗もすでに意味を成さない。
そして…再び、克哉は相手の手の中で果ててぐったりとしていく。
「イッたか…。口ではイヤイヤ、言っていた割に…随分とノリノリだったじゃないか…?」
「っ…!」
卑猥だが、事実を突かれてしまって…あまりの羞恥に、克哉の顔は耳先まで
真っ赤に染まっていった。
―そんなこちらの様子を、男は面白そうに瞳を細めながら見下ろしていたのだった―
自然と顔が強張ってしまうが…相手の方は、平然とした表情を浮かべ
続けていた。
こちらが硬直している間に、あっという間に相手はこちらの横たわっている
ベッドの傍らまで歩み寄ってギシ、と軋み音を立てながら乗り上げていった。
「…そのままじゃ、ベトベトして気持ち悪いだろう。とりあえず清めて
さっぱりとさせてやるよ…」
「いい、自分で…やる、から…」
「その状態で出来るのか? ついさっきまで…意識もはっきりとしていなかった
人間が?」
嘲るように彼は言い放つと、洗面器を傍らのサイドテーブルの上に置いて…
浸してあったハンドタオルを絞っていった。
水滴がポタポタと容器の中に落ちていく様をぼんやりと眺めていくと…
やや熱めのタオルがこちらの胸元に宛がわれていく。
「あつっ…」
「心配するな。じきに肌に馴染んでいく…」
「…な、んか…お前。言い方が、妙に…やらしい、あっ…んっ…」
もう一人の自分の手が首筋から鎖骨周辺、そして胸板全体を擦り上げて
いく過程で胸の突起も何度も掠めていく。
さっきまで散々感じさせられた身体は、そんな微細な刺激でさえも…克哉の
意思に反して、つい反応してしまう。
「…さっきまで、散々俺の下で喘いでいた人間が言う言葉じゃないな…?
なあ、『オレ』…」
「むっ…ぐっ…」
楽しげに微笑みながら、タオルを片手に再び唇を塞がれていく。
ねっとりとこちらの口腔全体を犯してくるような濃厚なキスに、自然と
身体全体が震えていってしまう。
クチャリ…ピチュ…
相手の舌が執拗に蠢き回る度に、脳裏に淫靡な水音が響き渡ってしまい
それだけで居たたまれなくなっていく。
そうしている間に、タオルはあっという間に冷めていき冷たい感覚が肌の
上を滑っていくのを感じていった。
「ん、くすぐったい…」
「我慢しろ。お前を風呂に入れるのは結構、重労働だからな…。昨日入れた
ばかりで今日も多大な労力を使いたくない…」
「えっ…昨日、入れたばかり…?」
その言葉に違和感を覚えた。
それにその前の「お前を風呂に入れるのは…」という言葉は、以前にもこいつが
自分を風呂に入れたことがあると、その事実を示している。
…という事は、こいつは自分が意識がまともにない状態でも面倒を見てくれて
いたというのだろうか?
そう考えると、こちらもこの手を邪険に振り払う事が出来なくなってしまう。
「そうだ…もう初夏だからな。自分とまったく同じ体格をした人間を他の奴の
補助もなしに入浴させていたんだぞ。一言くらいは…俺にお礼を言ったって
バチは当たらないと思うがな…」
そういって楽しそうに笑いながら、男の手は徐々に下の方に降りていく。
こちらが放った残滓がさっき飛び散った腹部を丹念に拭き上げていくと
もう一回、お湯の中にタオルを浸されて今度は四肢に手が伸びていった。
腕や足先そのものを拭かれてもそこまで大きな反応はしないが、問題と
なるのは指先やその指間、もしくは腕や足の付け根といった部位に
手を伸ばされた時だった。
「ふっ…こら、そこばっかり…」
「脇とか、そういう処の方が汗が沢山分泌されて汚れがちなんだぞ? お前は
後で臭いたいのか…?」
「そ、う…言われるとこっちも反論しづらいけれど…あっ…だからってあんまり、
其処ばかり拭く、なよ…ひゃ…」
脇の下などまともにくすぐられるとつい笑ってしまいそうなくらいに、とんでも
なくくすぐったい感覚に襲われていく。
けれどどうにか身体全体を震わす程度に留めてその感覚に耐えていくと…
ついに相手の手は下肢の中心に伸びていった。
「さて、と…そろそろ肝心の部位に行かせて貰おうかな…。ここを拭かなかったら
お前だってさっぱりとしないだろうしな…」
そうして、浴衣をやや性急に脱がせられると、強引に足を開かされていった。
普段なら絶対に布地で覆われて人前では隠されている部位が余すところなく
眼鏡の眼前に晒されていく。
相手の視線が、妙に熱い気がする。
見られている…そう感じるだけで、身体の奥が妙に疼くというか…再び火照って
いくような奇妙な感覚が走り抜けていった。
「其処は…自分で、やる…から…。見ない、で…」
「バカを言うな。一ヶ月程…お前の面倒を黙って見続けてやったんだ。これくらいの
楽しみは持たせて貰わなければ割りに合わないだろ…?」
「い、一ヶ月だって…っ!?」
その発言に心底驚いていくと、男は悠然と微笑みながら肯定していく。
「あぁ…確かに一ヶ月だ。何の反応もなく、自分から何もしようとしなかったお前の
面倒を一人で看続けるのは結構、骨だったぞ…?」
「そ、んな…」
それが本当ならば、こちらもむげに相手の手を振り払う訳にはいかなかった。
そうしている間に…眼鏡のタオルが、こちらの性器を拭い始めていく。
相手の整った指先がこちらの性器をみっしりと摘みながら、先端部分や竿…
そして袋の部分を丁寧に拭っていく。
ただ、拭かれて綺麗にされているだけの事だ。
それなのにどうして…相手が弱い所にタオルを滑らせていくだけで、こんなに
鋭い快感に耐えなくてはいけないのだろう?
「んっ…バカ、そこばかり…弄る、なよ…また、汚れる、から…」
うっすらと涙目になりながら相手に懇願していくが…こちらはまだ満足に
身体を動かせない身だ。
押しのける事も出来ずに、その感覚に翻弄されるしかなくなった。
「…お前は、本当にいやらしいな…。こちらは善意で拭いてやっているだけ
なのに…もう硬くなって反応し始めているぞ…」
「どこ、が…善意、だよ…。それだったらそんな場所に、ここまで…時間を
掛けないで、さっさと…やれ、よ…んぁ…!」
そうしている間に、先端の鈴口の部分を指先でくじられて…執拗に指の腹で
攻め立てられていく。
「…そんな生意気な口を利く割には、ここはこんなに濡らしているじゃないか…?
つくづく正直ではないみたいだな…お前は…?」
「やっ…だ…! バカ、触るなよぉ…また、おかしく、なる…」
枕に顔をこすり付けて哀願するように見つめていくが、そんなのはこの男の
嗜虐心を刺激するだけに過ぎない。
当然、眼鏡は止めてやるつもりはない。
むしろもっと相手を追い詰めてやろうと…もう一方の指をティッシュをその真下に
宛がった状態で、相手の内部へと再び割り込ませていった。
「ひゃう…!」
「…さっき、俺のを何度も受け止めたんだから…此処も掻き出してやらないとな。
後で腹を下すぞ…」
的確な指の動きで内部に放たれた精液を掻き出していく際、こちらの脆弱な
場所も何度も刺激されていく。
どうして、こちらの意思と裏腹に身体はここまで反応してしまうのか。
その事実に歯噛みしたくなりながら…克哉は喘ぐしかない。
「や、だ…こんな、の…」
ジワ、と泣きそうになりながら…頭(かぶり)を振っていくが…相手はまったく
容赦してくれそうになかった。
「こんなに俺の指を食んで…しょうがないな。ここまで反応したら、辛いだろう…?
俺の指先だけで、イカせてやるよ…」
「えっ…うっ…はっ…! バカ、もう…やめ、ろぉ…!」
瞬く間に、男の指がこちらを追い上げていく武器に代わっていく。
片手で性器を弄り上げながら、内部を何度も指先を出し入れして往復していくと
その度に克哉の脊髄から、ゾクゾクゾク…とした強烈な快感が走り抜けていく。
さっき何度もこの男の手で達したばかりなのに、また身体は反応して貪欲に
快楽を追い求め始める。
相手が刻むリズムに合わせて、腰が蠢き始める。
知らず…こちらも深い悦楽を求めるように、腰が揺れ続けた。
「止めてなど欲しくない癖に…お前の穴はずっと、欲しい欲しいと…俺の指を
締め付け続けているぞ…?」
「そ、んな…んんっ…!」
そうして、再び唇を深く塞がれる。
もう…限界だった。
相手の指先が動く度に淫らな水音が響き続ける。
男の手は的確で、こちらが抗う間もなく…強烈な感覚を引きずり出していった。
「やっ…はっ…も、う…ダメ、ダメ…だか、ら…ひゃあっ…!」
必死になってシーツの上でもがき続けたが、そんな抵抗もすでに意味を成さない。
そして…再び、克哉は相手の手の中で果ててぐったりとしていく。
「イッたか…。口ではイヤイヤ、言っていた割に…随分とノリノリだったじゃないか…?」
「っ…!」
卑猥だが、事実を突かれてしまって…あまりの羞恥に、克哉の顔は耳先まで
真っ赤に染まっていった。
―そんなこちらの様子を、男は面白そうに瞳を細めながら見下ろしていたのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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