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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―鮮やかな桜の夢を見た
 夜の闇の中に圧倒的な存在感を放って舞い散る桜吹雪の中
 自分は誰かの人影を見た気がした
 どこまでも強気な笑みを浮かべながら男は哂う
 その顔を見て、自分がどう感じたのか…克哉にはどうしても思いだせなかった
 けれど、それは己を解放してくれた
 どこまでも深く暗い、絶望の夢から―

 何度ももう一人の自分に感じさせられ、喘がされている内に意識を
失っていて…目覚めた時にはすでに空は白く染まっていた。
 爽やかな朝日が部屋の窓から差し込んできているが、克哉の気持ちは
まったく晴れていなかった。
 
 ここ一年くらいの記憶の喪失。
 四肢に刻み込まれた黒い痣。
 満足に動かなくなってしまった身体と
 ここがどこなのかも判らない状況。
 そしてもう一人の自分が傍にいる現実。

 心に影を落とす要因が多すぎて、どうすれば良いのか判らなくなってしまう。
 今の彼に出来る事は…ただベッドに横になりながら、ほんの僅かに身体を
動かすことくらいだ。

「くっ…そっ…! 自分で身体を起こす、事さえ…まともに出来ない…なんて…っ!」

 もう一人の自分は先に起きたらしく…室内には今、克哉一人しかいなかった。
 簡素で余分な物が置かれていない整然とした部屋の中。
 まるでモデルルームで公開されている場所のようだ。
 人の温もりを感じさせる調度品の類が殆どない。それが今の不安に満ちている
克哉の心を余計にささくれさせていた。
 ベッドの上で焦燥を感じている内に…ガチャ、と開閉音を立てながら扉が開かれていく。
 その手には…湯気を立てている料理が二つ並べられているお盆がしっかりと
乗っかっていた。

「…起きたか。昨晩は良く眠れたか…?」

「…まあ、多少は。けど…寝起きは最悪だけれどね…」

 昨日の、何度も好き勝手にされたわだかまりがあるせいか…克哉はつい憮然とした
表情で受け答えてしまう。
 だが元々、意地悪な性分をしている男である。眼鏡の方はそんな彼の態度にまったく
動揺する気配も見せずに悠然と微笑みながら近づいてくる。

「…飯は食えそうか? 一応…タマネギとネギを細かく刻んだものを入れた卵粥を
持ってきてやった。食えるなら…胃に入れておけ」

「えっ…?」

 相手の言葉につい驚いてしまう。

「…お前が、作ってきてくれたの?」

「…この一ヶ月…意識がまともになかったお前に食事を与え続けたのは俺なんだがな。
そんなに俺が飯を作った事が意外か?」

「う、ん…正直言うと。お前がそんなに甲斐甲斐しくこちらの面倒を見てくれていたなんて、
今でもちょっと信じられない、かも…」

 半ば戸惑いながら正直な感想を口にしていくと、ジロっとこちらをねめつけていきながら
スプーンを構え始めていく。

「ほら、口を開けろ。火傷しない温度に覚ましてやるから…」

「えっ…けど、自分で…」

 食べるから、と言い掛けてすぐに言葉を詰まらせていく。
 今の克哉はどうにか…頭と口だけは自分の意思で不自由なく動かせるようになって
いたが…相変わらず手先の類は反応が鈍いままだった。
 まあ、それでも昨日…目覚めた直後の指先一本満足に動かせない状況よりかは
幾許か改善されていたが、それでも食事を一人で食べるのは厳しい状況だった。

「…出来ると思っているのか?」

「…うっ…確かに。…判った…」

 相手に呆れられたように言われて、身を小さくしながら頷くしかなかった。
 そうしている間に相手は一口分の粥をスプーンに掬い取ってフーフーと息を
吹きかけて覚ましていく。

(うわっ…何か目の前でやられると恥ずかしいかも…)

 昨晩、眼鏡から深いキスを落とされていた状況で目覚めたものだから…
余計に意識してしまう。

「ほら…これくらいで大丈夫だろう。食えるか?」

「んっ…多分、平気だと…思う」

 そうして、相手が差し出して来たスプーンを素直に口に含んでいくと…口の中
いっぱいに豊かな味わいが広がっていった。
 コンソメの素をベースにしたその卵粥は、ホッとするぐらいに優しい味わいで
食べると不思議とほっとした。

「…美味しい」

「そうか。まあ…俺が作ったんだから、当然だな…」

 素直にその言葉が漏れていく。
 それを聞いて…眼鏡が珍しく優しい表情を浮かべていった。
 まさに克哉にとって、その顔は不意打ち以外の何物でもない。
 予想もしていなかったものをいきなり見せ付けられてガラにもなく困惑する。

(うわっ…)

 予想外の顔を見てしまって、克哉は少し照れてしまった。
 コイツもこんな顔も出来るんだな…という単純な驚きであった。

「ほら…食えるなら食っておけ。意識が戻ったのなら…後は体力が物を言うように
なるからな。ある程度は食べなければ…回復も遅くなるぞ」

「た、確かに…オレだって、いつまでもこのままの状態は嫌だしな…」

 そういって、この場に限って言えば…気恥ずかしさは多少あったが、大人しく
相手に従って運ばれてくる粥を口にしていった。
 これじゃあまるで…ヒナに餌を与えている光景みたいだ。
 そんな事を頭の隅で考えながら、チラリと…相手の顔を時折見遣っていく。

(…何か、反則に近いよな…)

 今、この時だけ…眼鏡の顔はどこか柔らかくて、優しくて。
 そんな顔をされてしまったら、どうしても突っぱねられない。
 それでも…長らく意識を失って、セックスという激しい運動をいきなり強要された
肉体は今、単純にエネルギーを欲していた。
 夢中になって、それを口に頬張り…モグモグと咀嚼していく。
 思いがけず、穏やかな時間が流れていく。

 ただ、その時間も…これから告げられる現状の重さの前ではあまりに儚く
吹けば吹き飛びそうなささやかなものに過ぎなかった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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