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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―自由を奪われてからずっと、窓の向こうの月を眺めていた
  紺碧の闇の中に浮かぶ銀盤はまるで鏡のようだった
  絶望的な状況下。
  自分が何を言おうが、行動しようが変わることがない現状。
  それでも自分の気持ちだけはずっと変わらなかった
  だからこそ、彼は耐え切れずに己を閉ざしてしまった
  幾ら身体を重ねても、訴え続けても…相手がこちらの全てを
  跳ね除けてしまうのならば
  自分達が一緒にいる意味は果たしてあったのだろうか…?

  運ばれてきた食事を全て平らげていくと…克哉は刺々しく尖っていた
自分の心が解れていくような感じがした。
 流れた時間は予想外に穏やかなもので、それが少しだけ彼の気持ちを
落ち着かせていった。

「ご馳走様…その、美味しかった。ありがとう…」

「どう致しまして。とりあえず…お前の口に合ったみたいで良かった。
まあ…俺とお前の食べ物の好みはほぼ一緒だからな。
 俺が旨いと感じる物は大抵、お前も同じな筈だ…」

「うん、それは認める。実際に…凄く美味しかったし…」

 そう、今…食べさせて貰った卵粥の塩加減とかそういうのは絶妙で
確かに自分の味の好みにマッチしていた。
 だからこそ病み上がりの身体でも深皿一杯分くらい食べられてしまった。
 けれど食事介助が終わってしまうと、途端に身の置き場がなくなっていくような
気がした。
 何かする事があれば、その間は無言でも間が持つが…何もしない状態で
眼鏡と二人きりで向き合っていくのは心理的にキツイものがあった。

(あんまり沈黙が続くと…何かまた、エッチな事でもされてしまう気がするし…)

 こちらは殆ど身体を動かせない状況であるのに、意識が覚醒した早々…
いきなり何度も好き放題に犯されたのは昨晩の話である。
 だから…あの優しい目をしてくれていた時だけはちょっとだけ安心出来たが
克哉にとっては依然、もう一人の自分は要注意人物扱いだった。
 
(何か話して、間を持たせた方が良いよな…世間話をしている程度だったら
いきなり襲われたりもしないだろうし…)

 もう一人の自分にせめてそれくらいの理性を求めていきながら、克哉は
口を開いていった。

「あの…お前が一ヶ月、オレの面倒を見てくれていたのって…本当の事、なんだよな?
それなら…その、ありがとう。オレは、昨日までちっとも判っていなかったけれど…」

「別に礼を言われるほどの事ではない。お前が野たれ死んだりしたら…俺達は
一蓮托生だからな。お前の死は=俺の死でもある。だから面倒を見ていただけに
過ぎない。そんなに礼を言われるまでもない…」

「えっ…そう、なの…?」

 一蓮托生、その単語を聞いた時にドキリとした。
 しかし言われてみればその通りである。
 彼が自分自身であるというのなら、克哉が死ねば眼鏡も一緒にというのは
自然な話だ。だが…彼はそう言われるまで、今までその事実を自覚した事は
一度もないままだった。
 
「…それよりも、今夜はお前も結構食べていたみたいだな。…今まで、
お前の意識がないままの時はなかなか自力で嚥下もしてくれなかったから、
口移しで仕方なく飲み物や食べ物の類を飲み込ませなければいけない時も
多かったからな。
 一ヶ月の内に…そこまでお前の体重が戻って良かった。…俺がお前を回収しに
行った時はもっとやつれていて、まるで干からびたミイラのようだったからな…」

「えぇ! そ、そうなの…? 本当にオレ、ミイラみたいになっていたのか…?」 

「ミイラは言いすぎかも知れんが、そうだな。最初の頃は…お前は水も食料も
殆ど受け付けない状況に陥っていた。
 あれは無意識の自殺行為にしか見えなかったぞ。どれだけ無理矢理、飲食物を
吐き出そうとするお前に苦戦させられた事か…」

「えっ…え~と…」

 自分がそんな状況になってしまっていた事が信じられなかった。
 だが、そんな陰惨な状態になっていた時期の記憶はまったくない。

(一体何が起こっていたんだ…?)

 空白の一年、その間に何があったのか…。
 昨晩見た断片的なイメージだけはおぼろげにあったけれど…それ以上の
情報はまったく引き出せなかった。

(…思い出せるのは、月に向かって必死に手を伸ばしている自分と…夜桜が
綺麗に舞っていた中に…あいつが強気に微笑んでいた事。それとどこかに…
閉じ込められて、酷く絶望を感じているシーン…だけだ…)

 それだけでは果たしてどんな物語が背後に存在しているのか、まったく
克哉の中で繋がらなかった。
 例えていうなら100ピースで構成されているジグソーパズルを、たった3ピースで
絵柄を当ててみろと言っているようなものだ。

「…ねえ、聞かせて貰っても良いかな…。オレ、正直言うと…この一年の記憶が
どうしても思い出せなくて。一体どうしてそんな…食べ物も水も全て拒否して、
身体も満足に動かせない状況に陥ったのか、まったく判らないんだ…。
お前が知っている範囲で構わない。良かったら…教えて、貰えないか…?」

「っ…! な、んだと…?」

 率直に聞き返したのと同時に、眼鏡の顔色が一瞬にして変わっていく。
 信じられない、そんな色合いが瞳に浮かんでいた。

「…それは、本当か? じゃあ…アイツの事も、お前は全然覚えていないと…
そう、言うのか?」

「…お前が言っているアイツって誰の、事だよ…?」

「…佐伯克哉を絶望の淵に追い落とした男の事だ。本当に…覚えて、
いないのか…?」

 もう一度、念を押すようにもう一人の自分が尋ね返していく。
 だがどれだけ思考を巡らせても、該当する人物はまったく浮かんで来ない。
 
(オレをこんな状況に追い込んだ男って…一体、誰だよ…! どうして…
まったく思い出せないんだ…?)

 そう言われた瞬間、ハっとなった。
 自分の四肢に刻み込まれた黒い痣。そしてアチコチに散らされた赤い痕跡。
 繰り返し繰り返し、肌に刻み込まれてしまったそれらの痕跡がどうして自分の
身体に残っているのか、その事に思い至った時…恐怖がドっとこみ上げてきた。

(どうして、オレにそんな事をした相手を…オレは全然、思い出せないんだよ…!
これってもしかして、部分的な記憶喪失って奴なのかよ…!)

 良く映画やドラマなどで、何か大きな事件や事故に巻き込まれて主人公が
記憶喪失になる事など、ある意味ありがちな設定で存在している。
 だが自分が実際にその立場になると、ここまで不安な気持ちになるなんて
思ってもみなかった。

「…ゴメン、まったく思い出せない。一体誰なんだよ…そいつ。名前は…
お前は知って、いるのか…?」

「当然だ。お前から全てを奪った上に、監禁までした男だからな。俺の方は
絶対にそいつを忘れる事はない…」

「全て、を…?」

 そこまで壮絶な目に、自分は遭っていたというのか。
 コクン、と神妙な顔をしながらもう一人の自分が頷いていく。
 こちらが呆然としていると…眼鏡はいきなり、鋭い眼差しをこちらに
向けていった。

「…一つ言っておく。お前の身体や記憶がどんな状況なのか俺には今ひとつ
把握は出来ていないが…直すなら、一日も早く直せ。ここは別荘地だから
七月の上旬くらいまではせいぜい周囲には…管理を任されている人間くらい
しかいないが、夏休み間際になったら大勢の人間が避暑しにこの付近まで
やって来る。そうなったら隠れていられなくなるからな…。
そんなに悠長な事はしていられないぞ…何せ…」

「な、何だよ…何が、言いたいんだよ…?」

 フッと酷薄な色合いに変化していく相手の瞳につい目を奪われていきながら
克哉はベッドに仰向けになったまま眼鏡を見上げていく。
 いきなり、先程までの暖かな空気は霧散して…緊迫した空気が生まれていく。

「お前は命を狙われているからな…だから、そのままの状態では襲われたら
即効でジ・エンドだ。だから…奴らに見つかるまでの期間、死ぬ物狂いで自分の
身体をリハビリして回復させていけ。じゃなければ…お前の命は確実に
なくなるだろう…」

「う、そ…だろ…」

 いきなり告げられた残酷な内容に、唇を震わせながら瞠目していく。
 だが眼鏡の表情は真剣そのもので、それを笑い飛ばして聞かなかった事に
する事すら厳しかった。

「…幾ら俺でも、こんな性質の悪い内容を冗談にするほど悪趣味ではない。事実だ…」

「そ、うだよね…けど、まさか…そん、な…」

「現状を受け入れろ。…お前が生きる気があるんだったら、俺が一応…傍に
いて守ってやる。不本意だがな…お前が死ねば、俺も一緒に消えるんだ。
だから…お前が諦めない限りは、俺は全力でお前を助けよう。
俺は死ぬのは…御免だからな…」

「えっ…ほ、んとに…?」

 思ってもみなかった事を相手から言われて、信じられないとばかりに
驚愕の表情を浮かべていった。
 だが、同時に嬉しかった。
 こんな指先一つ満足に動かせない状況で心細い中、助けようと言って
貰えることがこんなにも心強くなるなんて、今まで…知らなかったから。

「…判った、オレ…全力で、身体を回復させる。死にたくないし、オレだって
自分がどんな状況に巻き込まれているのか知らないままで命を狙われて
いるなんて、沢山だ…! だから、諦めるもんか…! だから力を、
貸してくれ…『俺』…!」

 心細くて不安で支配されそうになっている中、黙って殺されることなど
御免だった。
 それに何より、彼は言ったではないか。
 彼と自分は一蓮托生、だと。

 それを聞いた以上、抗わなければいけないと思った。
 だから強気な瞳を浮かべながら大声で高らかに…克哉は告げていく。
 そんな彼を、眼鏡は満足そうに見つめてくれていた。

 そうして…彼らの奇妙な共同生活は幕を開けたのだった―



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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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