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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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オムニバス作品集(CPランダム。テーマは「メッセージ」で共通しています」

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。

 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                   4(完)
  本多×松浦    光に託して         

―唐突に部屋の明かりが消されて真っ暗になり、松浦はかなり
身構えてしまっていた。
 
 本多の自室で、いきなり明かり一つない状況に陥ってしまい…
妙に緊張してしまっている自分がいた。
 何故、突然本多は部屋の明かりを落としてしまったのか
その意図を察する事が出来ない分だけ不安はジワリと広がっていき
闇の中で彼は困惑した表情を浮かべていった。

(あいつは一体…何を考えているんだ?)

 これはただ単に、呆れて帰ろうとするこちらの足を止める為
だけの行動なのだろうか?
 だとしたら確かに効果はあったと言えた。
 実際、何年振りかに来た部屋で明かりが消されてしまったら…
すんなりと玄関の方に向かうにはそれなりの時間が掛かってしまう
事になるだろう。

「…玄関は、どっちの方だ…?」

 思わずそう呟いた瞬間、ガシッ! と手首を掴まれていく。

「いつっ…!」

「そこか、宏明…なあ、まだ…帰るなよ…。まだ本題は終わってないから…
せめて、それが終わるまで…な?」

「…用っていうのは、一体何だ? くだらない事だったら…帰るぞ」

「くだらなくねえよ…。俺なりには結構真剣なんだからな…」

 その時の本多の声は思いがけず低くて、どこか真摯なものが
含まれている事を感じ取っていった。
 少なくとも声の調子からふざけている様子はないと察すると…
松浦もまた相手を邪険にはし辛くなった。

「…こっち、来てくれよ…」

「…判った、もう少しだけ付き合ってやろう…」

「…ん、サンキュ…」

 そして、真っ暗闇の中で…本多に手を引かれた状態のままで
ゆっくりと連れて行かれていく。
 少しするとガチャ、と扉が開く音が聞こえた時…何となく位置的に
此処は本多の寝室ではないかと察していった。
 こう視界が効かない状態では方角も何も全く判らないが、部屋の
構造的にさっきまでいたトレーニング道具各種が置かれている部屋から
扉があって続いているのは寝室だったのは辛うじて覚えているからだ。

(こいつは寝室に…何で俺を連れていこうとしているんだ…?)

 何となく其処に色めいたものを感じてしまって、松浦はガラになく
落ち付かなくなっていった。
 まさか、こっちに何か仕掛けるつもりなのだろうか…? と思うと、
ベッドの上にさりげなく腰を掛けさせられる。

「…ちょっと其処に座って待っていてくれよ。準備してくるから…」

「っ…! 準備って、何をするつもりだ…」

「…心配するなよ。そんな変な事じゃねえから…。一応そのつもりだったから
直ぐに終わるからよ。ちょっとだって失礼するぜ…」

「おい、待て…本多! お前、一体何を…!」

 と問いかけるが、いきなり本多から手を離されて一気に相手の存在が
遠くなり始めていく。
 こうなると…良く構造を知っている人間とそうでない人間との差は明らかに
歴然となっていった。
 手さぐりで周囲の状況を探ろうとするが…サラリとしたシーツの手触りと
ベッドのスプリングぐらいしか感じられない。
 ある程度手を伸ばしてもベッド以外の物の存在が感じられない処から…
自分が腰を掛けているのが寝具の中央付近であるぐらいしか情報を
得る事は叶わなかった。
 そうしている間に少し離れた位置から、本多がガサゴソと何かを
探っている音だけが響いていく。
 そしていきなり…パチン、と鮮烈な明かりが灯されていった。

「うわっ! 何だ…!」

「やっとスイッチが見つかったぜ…。なあ、宏明…モールス信号って
覚えているか? お前が昔…合宿に行く時にいざって時の為にそれぐらいは
頭に入れておけって…一覧表を手渡した事がある奴?」

「…モールス信号? ああ…ちゃんと覚えている。もう何年も使って
いないからうろ覚えになっている部分があるけどな…。あの部にはお前と
同じようにあまり考えずに動いて、たまに大変な事を引き起こす単細胞な
奴が多かったからな…。海や山に合宿する時、それぐらい覚えておかないと
当時は安心出来なかったからな…」

「そうそう、お前って昔から心配性っつーか…俺らの中では珍しく色んな
事まで気を回して、あれこれ予め準備しておく奴だったもんな…。俺も当時は
面倒くさがってなかなか覚えようとしなかったけど…お前、夏が来る度に、
特に俺がキャプテンになってから耳にタコが出来るぐらいに覚えろって
うるさかったからな…。それ、覚えているだろう?」

「…ああ、まとめ役になるなら万が一の時に備えて…遭難した時に誰かに
伝達する手段を覚えておくに越した事がないだろうに…。あの時、俺は何度も
お前に言ったのに…結局、覚えなかったからな…」

 そう呆れ口調で昔の事を語っていくと、思いがけず強い口調で本多
本人から否定されていった。

「…そうやって人の事、決めつけるんじゃねえよ…。覚えてないって
いつ…俺が言ったんだよ…?」

「えっ…?」

 そして本多は、自分の右手に持っている懐中電灯を動かし始めて…
長短をつけて明かりを明滅させ始めていく。
 モールス信号にはアルファベット版と、ひらがなに対応しているものと
数字に対応しているものの三種類がある。
 とっさにどれか…と迷った瞬間、本多は短く注釈を加えていった。

「これは和文符号の奴だぜ…」

 そして文字と文字の間に少し、間を空けていきながら文字を動きと
光を点滅させる形で作っていく。

 最初の動きは、「あ」。
 次はどうやら…『り』のようだった。
 確かに夏の合宿が近づくたびに不安になって在学中は覚えていざという時に
備えていたが…社会人になってから半分忘れかけていた知識だった。
 だが、本多の動きはひどくゆっくりだったおかげで…辛うじて、何を描いているのか
理解出来ていった。
 そして三文字目は「か」の文字に濁音である「・・」が二個足されて
「が」を作っていくのに気付くと…何を作ろうとしているのか松浦は
大体察していく。
 そしてすぐに「と」と「う」が予想通りに足されていった。

『ありがとう』

 そう、光に託されて伝えられていくと…本多の照れくさそうな声が
聞こえていった。

「何で、こんな形で…そんな、言葉を伝えるんだ…お前は…?」

 松浦が声を震わせながら問いかけていけば、本多の照れくさそうな声が
直ぐに返って来た。

『ああ…お前がまた俺とこうして一緒にいてくれるようになった事、俺のしたことを
呆れながらも許してくれた事と…お前が俺に教えようとしてくれた事をちゃんと
覚えているって…伝えたかったからな。だから…ない頭を考えて必死に
考えたんだぜ…』

「お前、は…」

 その言葉を聞いた時、松浦の脳裏に…大学時代の、夏の合宿前に
いつもやっていたくだらないやりとりが急速に思い出されて、とっさに
彼は言葉に詰まっていったのだった―
 
 


 

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 本多×松浦とうたっておりますが…香坂の中じゃあ、まだこのCPって
友達以上恋人未満、という感じです。
 松浦は微妙に意識しているけど、本多はそれに気づいていなくて
鈍感っぷりを遺憾ことなく発揮して、松浦はその鈍さにいらだったり、
自分の気持ちを理解していなくて…という感じのが好きです。
 ラブラブよりも、そういう二人のが好きです。
 だから本多×松浦と表記している割には今連載しているのは全然
甘くないです。
 本多はつい最近まで、ノーマルの克哉の方に想いを寄せていたって
設定ですしね。

 けど、皮肉屋の松浦と…微妙に言動で傷つけられて項垂れたり
顔をシロクロさせる本多って可愛いと思いませんか?
 すみません、ここら辺が私の萌え処であり…このCPものを
書きたいって思った最大の動機です。
 後、1~2話で完結ですが良ければ最後まで付き合ってやって
下さいませ。ではでは~。

オムニバス作品集(CPランダム。テーマは「メッセージ」で共通しています」

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。

 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                   4(完)
  本多×松浦    光に託して       

 台所から良く冷えたミネラルウォーターのペットボトルを二本持って
戻ってくると、本多はいそいそと部屋の片隅の方に向かっていった。
 其れを何気なく松浦が見つめていると、すぐにとんでもない光景に
出くわしていく。

「なっ…! 何だそれは!」

「ん?お前の為に買ってきた土産の候補だぞ。良ければまず好きな物を
一つ選んでくれよ」

「…どう見てもそれは土産というよりも、俺の目からすればガラクタの山にしか
見えないんだが…」

「うわっ! 宏明マジでひでぇな! せっかく俺がお前の為に選んできた
土産の品々をそう言うのかよ! ほら、この中から選んでくれよ!」

 そうしてドサッと大きな音を立てて、両手いっぱいに抱えていた様々な
品を机の上に広げていった。

(やはりどう見ても俺にはこれがガラクタにしか見えん…。こいつはこんな
くだらない物を渡す為にわざわざ人を呼び付けたのか…?)

 机の上に並んでいる物をざっと羅列していけば、城の模型に色んな文字や
絵柄が描かれているペナント。あからさまに怪しいキーホルダーに
木刀や木彫りの熊など、一体こいつは何処に出張に行って来たのか
判別出来ない、旅行から帰って貰ってもゴミにしかならない品の
典型ばかりが並べられていた。
 確かに今夜、予定が入っていた訳ではない。
 しかし何年振りかに自宅に来たというのに、こんなくだらない事で
呼び付けられたと思うと無性に腹が立ってくる。
 その感情が表に出てしまったのだろう。
 実に冷ややかな眼差しを浮かべていきながらそれらの品を
眺めていくと…その視線の先で本多が相変わらずニコニコと
朗らかに微笑んでいた。

(ええい、今はこいつの笑顔すら疎ましい…! この男はいつだってそうだ。
こんな風に笑って何もかも勢いでなあなあに毎回していくんだ…!)

 本多は性格的には実直で熱く、どちらかと言えば善人の方に分類される。
 だが同時に職場内でMr.KYとあだ名がつけられるぐらい人の心の機微や
空気を読む事が出来ない男だった。
 一体どんな用事でこちらを誘いを掛けたのか、と心の何処かで期待した
部分があったからこそ…あまりのくだらなさにムカついてしまい。
 同時に、冷静な部分で…一体どのような期待をこの男に抱いて
いたのだろうか疑問に思い始めていく。

(どうしてこんなに俺はイラついているんだ…? こいつがこういう奴だって
いうのは大学時代から変わらないだろうに。嗚呼、そうだ…大学でバレーを
していた時だって実家に帰省すると微妙な品ばかりを土産に持ってきていて…
皆から冷やかしを受けていた。全く変わっていないだろうに…)

 なのに、心の中は大きくざわめいて…モヤモヤとし始めていく。
 其れは必死になって「お前ともう一度やり直したいんだ! 俺と一緒に
どうかバレーをやってくれ!」と必死に頼み込まれてなし崩し的に
交流を復活させられた日から胸の中にざわついていた想い。
 その底にある物を直視したくなくて、自分の本音から逃れようと
していく。
 だが…目の前に本多がいるだけで、其れが叶わなくなっていった。

「なあ…もしかして、俺が選んだ土産物…気に入らなかったか?」

「…気に入る訳ないだろう。どうしてお前は昔から土産物を選ぶセンスが
ここまで壊滅的に悪いんだ? かつてのメンバーだって、お前が実家に帰省
する度に持ってくる土産物の類にブーブー言っていただろうに。
お前には人の意見を参考にして改善していくという学習能力が一切ないのか?
百歩譲って饅頭の類とかだったら其処まで外れは少ないし、無難に食べる事も
出来るが…こんな置物やペナントは、あくまで現地に行った人間にとっては
思い出の品になるが…実際に行っていない人間には思い入れが全く持てないし
貰っても困るだけだ! お前はそんな事も判らないのか!」

 しかし松浦の本音とは裏腹に、そんな憎まれ口と文句ばかりが
スラスラと淀みなく唇から零れていった。
 だが本多はそれを聞いて、やっと何か得心が行ったかのように
手をポンと叩いて目を瞠っていた。

「そうか、そうだったのか! 今まで何で人にペナントやキーホルダーの類を
贈っても喜ばれないのかずっと疑問でしょうがなかったけど…。そっか、
行ったことがある俺にとっては記念の品でも、行ってない奴からすれば
思い入れがないせいで…意味がなくなるって訳か。ずっと気付かなかったぜ…」

「…本当に、気づいていなかったのか…」

 まあ、こういう部分こそ本多らしさが出ていると言ってしまえばそれまでだが…
これらのやりとりをしているだけで松浦は一気に疲れ果ててしまっていた。

(本当に…あまりに変わっていなさすぎて涙が出てくる。どうして俺は…
こいつに全幅の信頼を抱いて、セッターをかつてやっていられたんだろう…)

 あの頃のような本多に対しての強い憧憬や、尊敬の念は…心から憎悪を
抱いた時期が長かったせいで、一度裏切られたおかげで完全に消えて
しまっている。
 だからこそ今は…本多という男を、酷く冷静な目で見れる自分がいた。
 頼りがいがある、何でも出来る強い男であると…あの頃、一緒にバレーをやっていた
仲間も自分もそう信じ込んでいた。
 だからこそ、あの八百長試合の一件を本多が独断で断って…自分たちの
将来が何の相談もなく閉ざされてしまった事が許せなかった。
 けど、今は違う。…こいつにも弱い処や、情けない処、多くの欠点や
そういう部分があるのだと判って来たのだ。 
 松浦の一言にガックリと肩を落としている姿は大きなクマが項垂れて
落ち込んでいるみたいで見てて愛嬌すら感じられた。
 何となくその時、自分はこうなって初めて…かつて主将を務めていた
同級生を等身大で見れるようになったのだと気づいていく。

「ううううっ…あんまり苛めるなよ。俺なりにこれでも…お前が喜んでくれそうな
ものを必死になって選んだんだからさ…」

「お前が幾らそのつもりでも、実際に成果が出なかったら無意味だと
思うんだが。お前の用事がこのくだらない土産物を渡す為だけだったと
いうのなら…俺はもう帰るぞ。貴重な時間をこれ以上無駄な事で
過ごしたくない」

 ピシャリ、と言い放ってペットボトルの冷たい水を一気に飲みきり…
その場を後にしようとした。
 だが、其れを阻むように本多は弾かれたようにその場から立ち上がり…
必死になって食らいついていく。

「待てよ宏明! 本題はこれからだ! 俺はもう一つ…お前にどうしても
伝えたい事があったから呼んだんだ! まだ…帰るなよ!」

「なっ…?」

 本多の表情が一瞬で、情けない顔から真剣なものに変わっていく。
 その変化に、とっさに視線が釘付けになり…言葉に詰まっていった。

「帰るなよ、宏明…!」

 そう叫んだ瞬間、パチンという音が聞こえていって…部屋の照明が
落とされていく。

「うわっ…!」

 そして、本多がこちらに近づいてくる気配を感じていく。
 どうして部屋の照明が落とされたのか…その意図が判らず、松浦が
困惑していくと…本多の足音が、一歩一歩…こちらに近づいてくるのを
確かに感じ取っていったのだった―

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。
 そして今回は初めて扱う、本多×松浦です。
 …個人的に本多って松浦とくっつのが一番ベストなんじゃないのかって
気持ちから発生したものです。
 呼んでやっても良いという方だけお読みくださいませ。

 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                   4(完)

―自分という存在は、本多という男にとって一体何なのか…再会してから
ずっと松浦は悩み続けていた

 再会してから早半年、一度は破たんした関係は本多の必死な説得により
復活し…徐々に修繕しつつあった。
 そして以前のように本多の前で笑えるようになったことを自覚したある日…
松浦は本多の自宅に呼び出され、その道の途中で…ふとそんな事を
考えたのだった。
 仕事帰り、辺りは陽が落ちてすっかりと暗くなってしまっている。
 それでも煌々と街灯が照らしだしてくれている道筋を松浦は一人で
歩き続けていた。
  
『本多の事は一生許せない』
 
 自分の将来が閉ざされた時、その真相も本音も事前に決して
打ち明けてくれなかった事が本当に許せなかった。
 当時はきっと、本多の傍にいたらいつか自分は彼を傷つけたり…
殺してしまうだろうと思った。
 だから本多という人間を自分の中から抹殺して、二度と接点を持たずに
思い出さないようにしようとしていた。
 
(それがどうしてか…何で、こういう形で俺とあいつは復縁して
しまったんだろうか…)
 
 今夜は松浦は、本多の自宅に出張先からの土産を直接渡したいという
理由で招待されていた。
 大学時代以来、何年ぶりかに訪れるかつてのチームメイトの部屋に
向かう途中…それまでに起こった事がふと走馬灯のように脳裏を過ぎって、
彼は苦笑したくなった。
 
「…まったく、こういうのをほだされたっていうんだろうな。まったく…俺は
とんでもない事をしでかしたというのに、それでもあいつはこっちを必要と
いうんだからな…。大したお人好しだな…」
 
 本多と友人関係が復活してから早半年が経過していた。
 其れは松浦にとって、信じられないぐらいに早く過ぎてしまった
時間のように思う。
 バレーボールの事など、もう考えないようにしていた。
 かつて注いでいた情熱が強ければ強かっただけ、最後の最後で全てを
台無しにされて将来を閉ざされた事は松浦にとっては耐えがたく、自分の全てを
賭けていたといっても過言ではなかったからこそ、思い出すのも
辛くなってしまっていた。
 けれど今の松浦は、本多の誘いに乗って…再びチームメイトとして一緒に
バレーボールをするようになっていた。
 本多が十日余り、仕事で出張に出ている間は共に練習する事は叶わなかった。
 
「あいつの顔を見るのも十日ぶりか…。ああ、ついたみたいだな…」

 交流を復活させて結構な時間が流れていたが、本多の部屋にこうして足を
向けるのは大学時代以来…何年ぶりかの事だった。
 家の周りの風景は殆ど変わっておらず、ここだけ時間が止まっているかのような
錯覚を覚えていく。

(そんなのは感傷に過ぎないけどな…)

 自嘲的に微笑みながらインターフォンを押して行くドカドカと盛大な
足音が鳴り響き、バァンと大きな音を立てて扉が開かれていく。
 其処には本多の満面の笑みが輝いていた。

「うわっ!」

「よぉ、宏明! わざわざ来てくれてありがとうな!さ、早く上がれよ」

「本多! お前…扉を開けるにしてももう少しゆっくりと開けろ。今、いきなり勢い良く
開いたものだから正直、びっくりしたぞ」

「おう、悪かったな。次から気をつけるよ…ほら、早く上がれってば。いつまでも
玄関先でダベっていても仕方ないだろう」

「…まあ、確かにそうだけどな。お邪魔する…」

 何か釈然としないものを感じつつも松浦は仕方なく言われた通りに
本多の家に上がっていった。
 部屋の内装も、松浦の記憶に残っている状態と殆ど変わっていなかった。
 数々の健康器具と、身体を鍛える為の道具。

(全くこの男の神経の図太さだけは感心するな…)

 実業団に入った訳ではなく、本多も自分も結局は普通の企業に採用されて
務める事になった。
 サラリーマンをやるなら、ここまで身体を鍛える為の道具を持ち続けたり…
身体を作る必要性などない。
 だが、それでもこの男は愚直にそれをやり続けたのだろう。
 部屋に置かれているトレーニングマシンが使いこまれているのに気づいて
そこまで察する事が出来てしまった為、松浦は苦笑せざる得なかった。

―本当に、本多は何一つ変わっていなかったのだと今さらながらに思い知っていく

 復縁するまでの間は、そういう処が癪に障って仕方なかったが今となっては
それこそがこの男らしさなのだと流せるようになっていた。

「そこら辺に適当に座ってくれよ。今、飲み物でも用意してくるから。コーラと
ミネラルウォーター、宏明はどっちが良いんだ?」

「ああ、じゃあ水の方を頼む。出来るだけ冷たくして持ってきてくれ」

「判った、じゃあ氷を入れてくるよ。少し待っててくれな」

 そうして本多の姿がキッチンの方に消えていく。
 その後ろ姿を眺めていきながら…松浦はまた深く溜息をついていった。

「…本当に貴様は、全然変わっていないな。見ていて腹立たしくなるぐらいだ。
…ま、もうお前に怒りを覚えても何にもならない事は理解出来たから…
イチイチ俺も怒らないけどな」

 そう憎まれ口を叩きつつも、心のどこかでは嬉しく思う気持ちもあった。
 社会人となって、色々な壁にぶつかっている内に理想や理念を見失って
しまう事は良くある。
 そんな中で本多だけは…学生時代の時のまま、心の中に熱い気持ちと
キラキラした希望のようなものを変わらず抱き続けている。
 其れが松浦には最初、許せなかった。
 自分が無くしてしまったものを、同じ体験をしておきながらずっと抱き続けていた
あの男に憤りすら覚えた。
 だが…今日の昼に掛けられた電話の一言を思い出すと、信じられないくらいに
易々とその怒りは溶けていった。

『おう、久しぶりだな。今朝、出張先から帰って来たんだが…お前に直接
渡したいものがあるからもし都合つくなら、今夜俺の自宅に来てくれないか?』

 そう明るく言われた時の事を思い出したら、ジワジワと湧き上がっていた
苛立ちが氷解していくのが判った。
 それを自覚した途端、困ったように松浦は苦笑していく。

「本当に困った男だ…」

 そして彼がそう呟いた直後、本多は飲み物を持ってリビングに戻って来て…
松浦に本題を切り出し始めていったのだった―
 

 
 
 



 とりあえず今まで香坂が扱ったことのないCPなので
今回は軽く警告を書く事にしました。
 そして…うん、初めて書くCPなのと松浦を書き慣れていないので
やや難産です。本当、待たせてすみません(汗)

 ちょっとニコニコ動画を見たり、鬼畜眼鏡本編の松浦の場面とか見て
予習復習しているのでお待たせしております。
 自分の中で松浦の仮人格を作成していたので時間が掛かりました。
 後、書きたいネタが軽く勉強しておかないといけないものだったので
そっちでもガオオ~! となっておりました。
 ボチボチ準備出来ましたので、15日の夜までには一話はアップ
出来るようにしておきます。

 逆にこのCPが苦手って方はお逃げ下さいませ。
 では、警告文&予告でした。

 ちなみに香坂、個人的には本多って松浦とくっつくのが一番ハッピー
なんじゃないかって考え、以前からありました。
 だって無印の鬼畜眼鏡の眼鏡×本多ルートの松浦って、単なる
チームメイトだったにしてはあそこまでやるのは愛憎の感情が絶対あるよなって
妄想してしまうので。
 鬼畜眼鏡Rの方でもあそこまでやってしまう訳だし。
 其処までとんでもない事をしでかしてしまうぐらい、松浦にとって本多は
強い感情を抱く相手なら…本多、松浦に報いてあげたらどうかなって
気持ちはあったんですよ。
 ただノマに愛情注ぎまくっていたから書かなかっただけで、
個人的に本多×松浦萌えていました。

…賛同者、いると良いなぁ。

 本日の猫日記。
 何かトラが来た辺りから時々掲載しておりますが、
11日にちょっとびっくりする事が起こりました。

 うちにトラが出入りするようになって早十日余り。
 それとほぼ同時期に、うちの周りで子猫の鳴き声が頻繁に聞こえて
鳴きやまないという事例が実は重なっておりました。
 
「一体どこで子猫が泣いているんだ…?」

 うちの家族全員でその事に疑問に思いつつ、香坂とうちの父親は
鳴き声の出処を軽く探しまわりました。
 昼間に確認した時点ではうちの近所の家の中から聞こえたから
その家の人に保護されたんだろうと思ってそれで一旦納得しました。
 けど、その筈なのに色んな方向なら子猫の鳴き声は鳴きやまず、
今度は父がペンライトを持って捜索。
 そうしたらお隣の家の車の下にいて、毛並みはトラっぽい感じで
一回り小さな猫がいたという証言を得ました。

 家の中に保護された筈なのに、何故車の下にいたのか。
 そこら辺に首を傾げつつも…11日の20時頃にトラが一匹の子猫を
連れて来た事で謎が解けました。
 子猫は、見れば見るだけトラと同じ文様しています。茶色のトラ柄です。
 けれど近寄ると偉い勢いで逃げられます。
 仕方ないから窓の少し外に餌を置いて様子を見ていました。
 すると脚先だけでもチラっと見えて、本当に子猫である事を確認しました。
 しかし少ししてから窓の外でニャーニャーとうるさく鳴くから、まだ食べ足りないの
かと思って…もう一回、カリカリ(キャットフードの事)を外に置いてやったら
驚愕の光景が飛び込んできました。

 ちっちゃいトラ柄の猫が三匹、必死になって餌を食べていました

 …待てぇぇ!! 子猫は三匹いたのか~~い!!
 どうりでここ数日、あっちこっちから子猫の声が響き渡っている訳だ。
 そしてトラは、その子猫達をうちに連れて来たり身体を舐めてやって毛づくろいを
しておりました。
 お父さんに報告して、その様子を一緒に見守ったんですが…その時にポツリと
呟いた訳ですよ、父が。

『もしかしたらこいつら…トラの子供じゃないのか?』

 トラ自身がまだ生後3~4カ月程度の子猫だと思っていたんですが、栄養状態が
あまり良くなかったから大きくならなかっただけで半年は過ぎているんじゃないかと
父が推測し。同じ毛柄で面倒を見てやっているのなら、母親猫である可能性が
極めて高いと。
 そしてトラは十日ぐらい前に、うちに出入りしているオス猫『しっぽ』に
連れられて来た訳ですが…じゃあ、父親はあいつかいって話になり。

『シッポ自身が、ミーの兄弟猫である可能性が確かあったよな…』

 と思うと、突如現れた三匹の猫を無下にする事も出来なくなりました。
 うちには十数年前から『ミー』と名付けられた元野良猫のメスがいるんですが…
ミーとシッポは父さんいわく、何年か前にこの近隣を仕切っていたボス猫の
子供である可能性が高く。
 この二匹は実際に見た目も良く似ています。ミーにはシッポがなく、
シッポは見事な長い尾があることから区別がつきますが、兄弟猫というのは
納得がいくんですよ。
 けど、長年いる猫と血がつながっているかも知れないと思うと…三匹も
一気に面倒見れるか~~! と思う反面、放っておけないと思う気持ちも
出てしまって今…どうするかな~という心境になっております。

 …うちは確かミーしか飼っていなかった筈なのに、徐々に猫が増えて来ている
状況にどうしようかってちょっと悩んでいます。
 うう、何で三匹の子猫たち、あんなに可愛いんだってば! あんちくしょう!
 

※このSSは2010年度の七夕SSになります。
予想よりも長くなったので3~4話程度に分けます。
克克の禁断症状が出たので突発で書いたような話ですが
それでも良いという方だけお読みくださいませ。

ささやかな願い  前篇  中編

―克哉は目の前の眩いばかりの光景に目を見開いていった
 
 対岸には、もう一人の自分の姿が淡い光を放って存在しているのが判った。
 彼の周囲には無数の蛍が明滅を繰り返して飛び交っていて、自分達の間に
流れる川は青白く輝いていた。
 其れはつい目を奪われてしまうぐらいに美しい光景だった。
 
「うわっ…!」
 
 さっきまでは普通の川だったのに、その幻想的な光のおかげで一瞬にして
様変わりをしていた。
 そう、其れは天高く存在する天の川が地上に降りてきたかのような風景だった。
 普通なら決してあり得ない情景を前に克哉が言葉を失っていくと脳裏に
一人の男の声が響きわたっていった。
 
―今夜、ささやかな私からの贈り物に喜んで頂けましたか…?
 
「…Mr.Rっ? 一体どこに…?」
 
 声が聞こえた瞬間、克哉は慌てて周囲を見回してその姿を探し始めていく。
 だがどれだけ目を凝らしても見つけだす事は叶わなかった。
 その状態のまま、その歌うような口調だけが脳裏にしっかりと響き渡っていった。
 
―今晩は七夕ですからね。短冊を見て、ついあの方に会いたいといじらしい願いを
書いた貴方に、私からのささやかな贈り物です。今から、もう一人の貴方に行く為の
架け橋をその川に掛けて差し上げましょう…
 
「架け橋、ってうわっ…これはっ!」
 
 姿を見せないまま黒衣の怪しい男がそう言うと同時に、自分と眼鏡が立っている
位置に光の橋が掛かっていって更に克哉はびっくりしていった。
 だが一瞬にして現れたその橋はあまりに美しく、克哉は絶句しながらそれに
魅入っていった。
 
「本当に、綺麗だ…」
 
―ふふ、お気に召して頂けたようですね…。七夕というのは各地に様々な伝承が
残っていますが、その中には二人が逢瀬をする夜には天の川に橋が掛かり、
行き来出来るようにするというものがあります…。せっかく貴方が川まで
来たのならそれを再現してみたのですが、如何でしょうか…?
 
 其れはきっと、男の気まぐれとも言える行動だった。
 克哉が自宅ではなく、勢い余って反対方向の川に逃げたから思いついた
程度の事でしかない。
 男の言葉に克哉は答えなかった。
 だが、一言も発さずに光の橋を見つめているのが何よりの答えだったのだ。
 この思っても見なかった光景は、克哉にとっては大きなサプライズとなっていた。
 
(まるで、織姫と彦星みたいだな…。七夕の夜に、天の川を渡って相手の元に
行くなんて…)
 
 其処は本来なら、大きな川に隔てられて水の中に入らない限りは向こう岸と
行き交う事が出来ない場所の筈だった。
 だが、今は相手の元に向かう白く光り輝く橋が掛けられている。
 非日常とも言える光景、克哉はそれに目を奪われていきながら引き寄せられる
ように対岸に立つもう一人の自分を見つめていった。
 
―俺の元に来い…
 
 そう訴えるように、眼鏡が両手を軽く開いて待ち構えていた。
 甘い愛の言葉はまったくなかったけれど、その動作だけで今の
克哉には十分だった。
 それだけでも凄く、嬉しかった。
 自分の傍に来いと、動作で気持ちを示してくれているだけでも…そんな
ささやかな事でも、克哉は満ち足りた気持ちになっていった。
 
(ああ、そうか…あいつも、オレに会いたいと…傍に来いと示してくれるだけでも、
こんなに幸せな気持ちになれるんだ…)
 
 克哉はその事実に気づいていくと、橋に足を掛けて渡り始めていく。
 その光の橋はフワリと柔らかく、まるで布地かスポンジの上を歩いている
ような感覚だった。
 少しおぼつかない足取りになりつつも、克哉は早足でもう一人の自分の元へと
向かい始めていく。
 一歩一歩、確実に。
 青白く輝く川、明滅する無数の蛍、そして白く輝く橋の三つに囲まれた自分たちは
まるで、伝承の中に出てくる織姫と彦星のようだった。
 
(きっとそんな事を面向かって言ったら、お前に呆れられてしまうだろうけどな…。
けど、本当にそう感じるよ…)
 
 そういって、フワフワと頼りない光の橋を渡っていく。
 少しずつ、もう一人の自分に近づいていく度に鼓動が高鳴っていくのが判った。
 相変わらず相手の口元にはシニカルで意地の悪い笑みが浮かべられたけれど、
ようやく向こう岸に辿り着いた瞬間、こちらが相手の胸の中に飛び込んでいくと…
しっかりとその身体を抱きとめてくれていった。
 
「やっと、俺の元に来たか…。随分と時間が、掛かったな…」
 
「うん、御免…。待たせてしまって…」
 
 そして相手の顔を見上げていきながら言葉を紡いでいこうとした。
 だがそれよりも先に、もう一人の自分に唇を塞がれて…情熱的なキスを
交わす結果になってしまった。
 息苦しくなるぐらいに荒々しく舌先を絡め取られて、吐息から何もかもを
奪い尽くされてしまいそうな…そんな口づけだった。
 
「はっ…あっ…」
 
 克哉が甘い声をつい漏らしていくと、一瞬だけ相手の優しい色を帯びた
瞳と視線がぶつかっていった。
 行動も、物言いも意地悪な癖に…その時だけ、酷く優しいものを滲ませていて…
それで克哉は全てを許しても構わないという心境になっていった。
 
(全く、お前って本当に素直じゃないよな…)
 
 そう呆れながらも克哉もまた温かいまなざしを浮かべていきながら相手の
頬と髪を撫ぜていった。
 二人の間に穏やかな一時が流れていく。
 
「…機嫌はようやく、直ったか…?」
 
「うん…」
 
「そうか、なら良い…」
 
 そうして、もう一人の自分の方からしっかりと抱きしめてくれた。
 今はこれで良い、と克哉は考える事にした。
 
(今夜、こうして会えて…あんな風に逃げたオレの前にもう一回現れてくれた。
願いごとは充分に叶えられたんだ。充分、だよ…)
 
 そうして克哉は目の前の相手をもう一度見つめていく。
 今夜の思いがけない幸福を心から嬉しく思いながら…相手の首にしっかりと
抱きついてその温もりをしっかりと感じていったのだった―
 
 
 
 

※このSSは2010年度の七夕SSになります。
予想よりも長くなったので3~4話程度に分けます。
克克の禁断症状が出たので突発で書いたような話ですが
それでも良いという方だけお読みくださいませ。

ささやかな願い  前篇 

 

―信じられない、どうしてあいつはあんなに意地が悪いんだよ!
 
 七夕の夜、駅前のロータリーに設置されていた七夕飾りに、「あいつに会いたい」と
願い事を短冊に書いてつるそうとしたのがそもそも間違いだった。
 奇跡的にその願いは即座に叶い、久しぶりにもう一人の自分と会う事が出来た。
 だが相手にあまりにからかうような事を言われたのが原因で克哉は反射的に
その場から駆けて立ち去ってしまったのだった。
 
(何だかんだ言って会えて嬉しかったのに…! 何か意地悪な事ばっかり言うから
ついカっとなっちゃったよな…)
 
 感情的になって勢い余って駆けだしたせいか、自宅とは反対方向に
全力疾走してしまった。
 歩いた事がない、とは言わないが人は例え近所であっても意識しなければ
必要としている経路しか歩かなくなる傾向がある。
 通勤路から外れているせいか、殆どこの辺りは歩いた事がなかった。
 暫く歩いているうちに気づけば克哉は河川敷の方に来てしまった。
 十数年前は汚染されて大量のヘドロが発生して夏場は悪臭を放つように
なっていた川も、近年は本来の生態系を取り戻そうと近隣の住民が努力した
おかげで、川の周りには幾ばくかの自然が戻り、わずかな数だが蛍が
飛び交うようになっていた。
 
「そういえばこの川って…数年前から蛍が少し出るようになったと
聞いた事あるな…。今夜はいないのかな…?」
 
 ふと癒しを求めて、克哉は川べりで蛍の光を探していく。だが暫く周囲に
視線を巡らせてもそれらしきものを発見するには至らなかった。
 
「やっぱり、いないか…。どうせなら見たかったんだけどな…」
 
 そうして克哉は近くにあった大きな岩の上に腰を掛けていった。
 座れば多少はズボンが汚れてしまうが、それでも土の部分に腰を
掛けるよりかはマシだろう。
 そうして川の流れを見てから…空の天の川を眺めていった。
 田舎とかネオンがあまりない場所ならば、夜空に息をのむような
星の川が望める事だろう。
 しかし都内ではそれも難しい。川というには若干乏しい量の星がポツポツと
浮かんで点在するだけだった。
 
「七夕、か…」
 
 今夜は晴れ渡っているから空の上では織姫と彦星は逢瀬をしている頃だろうか。
 そう考えた瞬間、さっき短冊を書いていた時に自分が考えていた事を思い出していく。
 
(何かオレ、ちょっと情緒不安定だよな…。七夕の伝説の二人を羨ましく
思ってしまうなんて…相当に重症だよ)
 
 水の流れは人の心の底にたまったものを静かに浮かび上がらせる力でも
あるのだろうか。
 先程は漠然としていた本心がゆっくりと浮かび上がり、考えを巡らせていった。
 
「はは、バカみたいだな…オレ。せっかく短冊に書いた願い事が叶ったのに、
あいつの前から逃げてしまうなんて…」
 
 普段だったらそれでも彼が自分の前に現れてくれた事を素直に喜んだだろう。
 それはきっと意地悪をされていたとしても変わらない。
 なのに今夜に限ってどうして切ないと思ってしまったのか克哉は一人、
川の流れを見ていきながらその理由を思い当たっていく。
 
「好き、だからか…」
 
 出来るなら認めたくなかった。
 けれど相手を前にしてその言葉や行動に振り回されてしまったり、
嬉しかったり悲しかったり感情の揺れ幅が激しいのは、もう一人の自分に
対して強い想いが存在しているからだ。
 人間、嫌いな人物に対してここまで感情が揺れ動いたりしない。
 会いたいと強く願ったり、意地悪な言葉を聞いてカッとなったり…どうして
もう一人の自分に対して、こんなに冷静でいられないのか。
 其れは言ってみれば至極単純な答えだった。
 
「一年に一度の逢瀬、か…。けどその一度を愛されて次の年まで相手を信じて
待てるなら…凄く幸せだよな。オレなんてあいつとの関係で、そんな幸せを
感じた事なんてないもんな…」
 
 彼が自分の前に現れるようになってから、十ヶ月程度が経過していた。
 去年あの銀縁眼鏡をMr.Rに渡されてから暫くした時に奇妙な夢を見たのが
最初の出会いだった。
 プロトファイバーの営業を手がけたのも、今となっては凄く遠い昔の出来事の
ように感じられる。
 あれから四回、あいつに抱かれた。
 いつだって夢だか現実だかはっきりしない形で。
 いや、大晦日の…自分の誕生日を祝ってくれたあの夜だけあいつはしっかりと
存在しているのを感じられた。
 薄闇に染まった川の水の流れを目で追っていきながら克哉は少しずつ、この
感情を抱くようになったキッカケに気づいていく。
 
(あの夜、からだ…。あいつに対して、すっきりしないモヤモヤした想いを
抱くようになったのは…)
 
 想いの起点となる出来事を思い出した克哉はジワっと目元が潤んで
いくのを感じていった。
 そういえば今年に入って顔を合わせたのはさっきが二回目ではなかったか。
 本当に何ヶ月ぶりかに会えたのに、まさか短冊に書いてすぐにその願いが
叶うなんて予想してもいなかったからこそ、動転して上手く頭が回らなくて…結局、
勢い余って相手の前から逃げ出してしまった。
 
「はは、せっかく会えたのに…もったいない事をしちゃったな。それに織姫と
彦星の事をいえないな。滅多に会えないのはオレ達だって、同じだし…」
 
 そう久しぶりに会えたのだ。
 本当に短い時間だったけれど、すぐに自分が逃げ出してしまったけれど。
 冷静さが戻ってくれば非常に惜しい事をしてしまったと後悔し始めていく。
 
(ううん、けど…やっぱりあんな風に言うのは酷いと思う。幾らなんでも、
公衆の面前であんな風にキスするのは、酷いよ…)
 
 もう一人の自分がそういう性格をしているというのは嫌って程判っているけれど、
もう少しこちらの気持ちというのを考慮してほしかった。
 夢見がちな乙女のように、ムードとか雰囲気とかそういうのを大切にして
欲しいとか要求している訳ではないが…それでも、あの物言いはなかったと思う。
「例えば一言で良い、会いたかったとか久しぶりとか…そんな風に普通に
挨拶してくれたら、オレだって逃げ出さなかったのに…。あ~あ、空では
七夕の二人は逢瀬している最中だっていうのに…オレは一人ぼっちで
過ごす事になるのかな。自宅とは正反対の方に逃げて来ちゃったもんな…」
 
 もしかしたらもう一人の自分が、こっちの事を追いかけて来てくれたかも
しれないけれど…この川は克哉の自宅と正反対の方角に位置している。
 だからもう、今夜中に顔を合わすのは厳しいだろうと思うと…余計に惜しい
気持ちが湧き上がってきた。
 彼は果たして、あの後どうしたのだろう。
 その事が気になって来たので…克哉は一旦、自分の家に帰ろうとその場から
立ち上がっていった。
 家にいなかったらそのままになってしまうのは承知の上だが…もしかしたら
克哉の家の前で待っててくれているかも知れない。
 そう一縷の望みを抱いて、帰路につこうとした瞬間…克哉は周囲にいつの間にか、
何匹かの蛍が舞っていた事に気づいていった。
 
「蛍…? 嘘、本当にこの辺りにいたんだ…。本物をこんな間近で見た事が
ないから、凄く感激するな…」
 
 淡い光を放ちながら、克哉の周りを何匹かの蛍がフワフワと飛んでいた。
 その優しく幻想的な光に目を奪われていくと…次の瞬間、更に信じられない
事が目の前で起こっていった。
 
「何だよ、これ…!」
 
 それはまさに、現実では決してありえない筈の光景だった。
 その様子に目を奪われていきながら…克哉は、目が焼かれそうになるのを
感じていきながら…その向こうにいる人影を、必死に凝視していったのだった―
  
 
 今年度の七夕SS、最初は一話完結で終わる予定でしたが
話が化学反応を起こして私にとっても予想外の展開になった為に
少し長くなります。
 大体、三回ぐらいの長さになると思います。
 二話目は九日の夜を目安に更新しますので少々、
お待ち下さい(ペコリ)

 ちなみにオムニバス方式は長編のネタが自分の中で組み上がったら
切り上げようと思っています。
 ネタは一応、10個ぐらい用意してあるんですがね。
 自分の中で長い連載を書ける程度に一本の話が出来あがったら
その時書いている短編のシリーズを終わらせ次第、切り替えます。
 
 この方式にした理由は、肩の力を抜いて作品を作るのと…
普段書かないCPのやりとりも少しは書いてみたかったからです。
 恐らくオムニバスの方も、次の話は普段はあまり書いていない
CPのネタになります。
 暫くはまったりペースでやっていくっと思います。
 ではでは~!

 とりあえず、語りたいので本日も近況という名の
猫日記をつづります。
  
 ちなみにトラ猫は少しずつ慣れてきたみたいで
最初の頃みたく身動きしたら速攻で消えたりはしなくなり…
とりあえず普通に鳴くようになってきました。
 写真を一枚、ちょこっと掲載。
 こんな感じです。ン~? という表情が可愛い(デレ)



 この猫、先日…普通に鳴かず、シャーシャー言う癖があるって
書きましたけれど…父が餌を上げる度に「普通に鳴きなさい」と
言っているおかげか、昨日辺りから少し普通に鳴くように
なってきました。
 それでも近寄るとシャーという処は相変わらずやけど(笑)

 そして昨日、私は非常に珍しいものを聞きました。
 昨晩は父がおらず…母のプール仲間であり従妹でもある
Tさんと兄、私と母の四人で夕食を食べていたんですよ。
 そしてうちに出入りしているもう一匹の雄猫、シッポと
トラがご飯を食べている時の事でした。

 トラのご飯をシッポが隙を見て綺麗に平らげてしまったんですよ。
 その時、確かに言ったんですよ。

 オオオオオ~~ン

 その場にいた全員が、一瞬…何だ? という顔をしたんですが…
どうもそれがトラの雄叫びらしいと気づいて、次の瞬間…
珍しいものを聞いたって顔を浮かべておりました。

 シャーシャー鳴くだけでも珍しいのに、お前…雄叫びまでするのか。
 普通、猫はそんなのやらんだろってすっごくツッコミ入れたい。
 けど面白いからネタにしてやろうと思って書いてみました。
 …何だかんだ言いつつ、少しずつ慣れていって…色んな顔を
見せてくれるトラに愛着湧いて来ているので…また何か書くネタが
出来たら報告することにしますね。
 それでは今夜はこれにて失礼しま~す(ペコリ)
 

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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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