鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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本日の朝にアップした内容、ちょっと回線トラブルで
ページが凍ったり、止まったりとエラーばかり起こって焦って
急いで書いた為に不十分なものとなってしまいました。
そういう訳で一旦下げさせて貰って、少し落ち着いた状態で
改めて上げさせて頂きます。
…ここ二週間ばかり、エラーが頻繁に起こっているので
正直イライラして、小説を書くのも通販の状況を報告するのも
遅れがちになっておりました(苦笑)
五回挑戦して、一回…新しい記事の投稿が出来るかどうか
ぐらい、現在…接続が不安定になっております。
ページに入れてもたま~に途中で固まって操作不能になる
時もあります…。つ~訳で更新状況がかなりデンジャラスに…。
(気を抜くと書いていた内容全てがパーになりかねない
要、コマメなバックアップです…)
今夜少し時間を取って、連載の方を一話書きます。
春コミのインフォメーションはまた、日を改めて…もう少し全体が
出来上がってからアナウンスさせて頂きます。
…ん~締め切りまで一ヶ月を切ったので、ちょっとその件でも
焦りが出てしまいました(汗)
職場でも今、新しいことを沢山覚えなきゃいけなくてアップアップ
状態で…気持ちに余裕ないな、とふとした事で気づいたんで…
少し正直に現状を書いて、日を改めてという処置をとらせて
頂きますね。
…まだまだ人間出来てない、と思い知りましたん…トホホ。
では、また後で…。
ページが凍ったり、止まったりとエラーばかり起こって焦って
急いで書いた為に不十分なものとなってしまいました。
そういう訳で一旦下げさせて貰って、少し落ち着いた状態で
改めて上げさせて頂きます。
…ここ二週間ばかり、エラーが頻繁に起こっているので
正直イライラして、小説を書くのも通販の状況を報告するのも
遅れがちになっておりました(苦笑)
五回挑戦して、一回…新しい記事の投稿が出来るかどうか
ぐらい、現在…接続が不安定になっております。
ページに入れてもたま~に途中で固まって操作不能になる
時もあります…。つ~訳で更新状況がかなりデンジャラスに…。
(気を抜くと書いていた内容全てがパーになりかねない
要、コマメなバックアップです…)
今夜少し時間を取って、連載の方を一話書きます。
春コミのインフォメーションはまた、日を改めて…もう少し全体が
出来上がってからアナウンスさせて頂きます。
…ん~締め切りまで一ヶ月を切ったので、ちょっとその件でも
焦りが出てしまいました(汗)
職場でも今、新しいことを沢山覚えなきゃいけなくてアップアップ
状態で…気持ちに余裕ないな、とふとした事で気づいたんで…
少し正直に現状を書いて、日を改めてという処置をとらせて
頂きますね。
…まだまだ人間出来てない、と思い知りましたん…トホホ。
では、また後で…。
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―それは、太一が知ることのない真実のカケラだ。
『直径一センチ以上の胃ガンが見つかりました。恐らく重度の
ヘビースモーカーである事と、アルコール度の高い酒の頻繁の
摂取。そして過剰なストレスに長い期間晒され続けていた事が
原因でしょう…。そして、残念ですが転移もすでに見受けられます。
…このまま治療して放置していたら、余命は長くて2年前後。
しかも…かなりの苦痛を伴います』
眼鏡は、神妙な表情を浮かべながら年配の医師が先日に
語った言葉を思い出していた。
太一のアパートを出てから、佐伯克哉は…裏の世界で展開している
事業の作業中に吐血していた。
…掌にはべったりと赤い血がついていた。
(ついに…ここまで血が出るようになったか…)
冷めた目で己の血を見つめていきながら…眼鏡は深々と溜息を
吐いていった。
若い内にガンが発生すれば、進行が早くて命を落とすケースも
多いというのは結構耳にしている。
だが…自分の身にそれが降りかかってくるとは、半年ぐらい前までは
まったく考えなかった。
「俺に残された時間は…そんなに、ないか…。未だに実感は
湧かんがな…」
もうこの一年ぐらい、胃の痛みを感じることなど日常茶飯事に
なってしまっていたから…慣れ切ってしまっていた。
今、目の前に自分の血がべったりとついていても…何の感慨も
湧きはしない。
他人事のように…酷く冷めた目で、それを見つめていた。
―いつの間にか、心も身体も麻痺してしまって…痛みというものに
酷く鈍くなってしまっていた
能面のように冷たい無表情。
心はいつの間にか氷のように凍り付いてしまっていた。
何をしても、やっても…心の底から楽しいと思うことも感情が
揺さぶられることもない。
人間はあまりに苦痛を与えられると、脳内麻薬を分泌したり
その痛みを感じないように完全にシャットアウトする機能がある。
今の眼鏡は…その繰り返しだ。
太一を苛め抜くように抱いている時だけ、快感を…鮮烈な何かを
感じていく。
その度に、もう一人の自分が「もう止めてくれ!」と叫び続けている。
張り裂けるような胸の痛みが、何も感じられなくなった自分が
知覚する事の出来る、唯一の痛みだった。
(俺は…どうして、あいつの傍にいるのか…? 何も感じなくなった
状態では…痛みや快楽を感じるのは、あいつの傍だけだからだ…。
一瞬の高揚、興奮。そして…苦くて辛い気持ち。それだけが…
生きている証のように…感じられるからだ…)
身体はいつしか、鉛のように思い通りに動かなくなっていた。
自分の肉体の筈なのに、まるで借り物のような感覚さえしてくる。
深く溜息を吐く。
本気で、苦い思いをしながら…胸元を押さえて、呼びかけていく。
―なあ、お前はいつまで…俺の中で苦しい、苦しいとだけ訴えて
何もしないでいるつもり…なんだ…
苛立ちを覚えながら、不甲斐ないもう一人の『オレ』へと声を
掛けていく。
だが、ピクリとも…反応もなければ、答えはない。
「駄目、か…」
幾ら呼びかけても、眼鏡が一人でいる状態ではもう一人の自分の
気配は絶対に感じられない。
だが、太一のいる時だけは…時折、その気配を感じる。
しかし皮肉にも…僅かに波を立ててもう一人の『オレ』と繋がっている
時に限って、太一は自分を否定する言葉ばかりを吐いていく。
呪う言葉、嫌悪の言葉、拒絶、否定…罵声、悪態…それらの言葉を
『眼鏡』に吐いていくと同時に、『克哉』をも傷つけていく。
「…このままだと、お前は何も言わずに消えることになるぞ…。
それでも良いのか…? 大した負け犬根性だな…。自分が
惚れた男を俺に陵辱され続けても、何も行動しないままで
いるつもりか…?」
挑発する言葉を吐いても、やはり反応がない。
眼鏡が太一を抱くもう一つの理由。
それは…その時だけ、コイツの存在をくっきりと強く
感じる瞬間があるからだ。
…コイツの存在は、今となっては精神の方のガンのようなものだ。
意識の底に沈んで、普段はまったく存在感など感じない癖に…
意識の深い処では泣き続けて、苦しみもがいている。
天の岩戸のように深く心を閉ざしている癖に、その毒素は次第に
強まっていき…そして、ついには肉体的にも『ガン』という結果を
与えることとなった。
けれどほんの僅かな時間。
もう一人のコイツと意識が繋がると、繰り返し聞こえ続ける言葉が
存在していた。
―ごめんなさい、ごめんなさい…!
ただ、克哉は…謝り続ける。
虚しく、すでに誰に向けられているのか判らない謝罪の言葉を
壊れたスピーカーのように流し続けていく。
まともな単語は、すでに紡ぐ能力すら失われてしまっているの
かも知れない。
最愛の人間を傷つけてしまった。
その罪の意識が、克哉を雁字搦めにして目を曇らせ…そして
深層意識という深い処にある檻の中で…自らを閉じ込め続ける。
「…いい加減に、しろ…!」
苛立ち混じりに叫んでいくが、相手と儚く繋がっていたものが…
プツリ、と途切れる形で終わっていった。
「…何で、ただ俺の中で泣き続けて何もしようとしない奴に…身体まで
蝕まれなければならないんだ…! くそっ!」
近くにあった灰皿を思わず手に取り、窓に向かって勢い良く投げつけていった。
手にべったりと付いていた血がガラス製の灰皿に付着し、それが
ガシャッ!!
普通の窓ガラスに命中したものだから…大きくひび割れていった。
幸い、厚目の窓ガラスを用いてあったから大穴は空けずに
済んでいた。だが…やり切れなさだけは、確かに感じていた。
「…いつまで、お前らに俺は振り回されていなければならないんだ…?」
腹にモヤモヤしたものを感じながら、怒気を込めて呟いていく。
「…お前らが過ごした期間より、俺と過ごしている時間の方がずっと
長いはずなのに…どうして、あいつの目は決して俺を見ようとしないんだ…?
お前の影だけを見て、俺という存在は素通りか…否定されるかのどちらかだ!
どうして…一年以上も前に力をなくして消えて、ただ俺の中で泣き続けて
いるお前の存在だけが求められる!?
こんな不毛な関係…もうゴメンだ!」
そう、眼鏡の心は随分前から何も感じなくなってしまっていた。
しかし…ただ二つ、例外がある。
太一と、克哉に関係する事だけは痛みを、怒りを、悲しみを、憤りを…
様々な感情を実感する事が出来るのだ。
他者の前で感情を吐露できない男は…一人きりで、己の手を鮮血で
染め上げていきながら、本心を爆発させていく。
―訴えかけているのはもう一人の自分
けれど、決して応えられることはない。
耳と目を閉ざし、ただ自分だけを守り続ける。
…自分の心だけをどうやって、消え去れば良いのか…そんな
後ろ向きな気持ちだけを胸に抱いて…
「応えろよ! なあ…!」
そうして、眼鏡は再び激しく、何度も咳き込んでいく。
…床には、目を覆いたくなる程の細かい血飛沫の痕が
きっかりと付着していた。
「…お前達二人の恋愛に、振り回されるのはもう…ゴメンだ…」
そう力なく呟きながら、眼鏡はフローリングの床の上に倒れていく。
汚れが全身につくから、出来れば床を拭った後で倒れこみたかったが
今はそんな事に拘っている暇はなかった。
「もう…疲れ、た…」
最後に、彼自身も無気力に…人形のようになりながらそっと
一人…孤独に自分のアパートの床の上に倒れこんでいく。
―何もかもがどうでも良い…
太一と同じように、やけっぱちになりながらそう呟いて…眼鏡も
意識を手放していく。
余命二年で、果たして自分に何が出来るのか。
これから先のことを考えた方が良いとは理性の上で判っている。
けれど…今は、手元にあった火を吹きそうになるぐらいに強い酒を
そのままラッパ飲みしていきながら…泥のように眠った。
―悪夢など、もう一人の自分の声など決して聞こえないぐらいの深い処へ
ただ一人…自分の部屋の安物のベッドの上で…青白く、疲弊した
表情を浮かべながら…静かに眠りの淵へと落ちていったのだった―
『直径一センチ以上の胃ガンが見つかりました。恐らく重度の
ヘビースモーカーである事と、アルコール度の高い酒の頻繁の
摂取。そして過剰なストレスに長い期間晒され続けていた事が
原因でしょう…。そして、残念ですが転移もすでに見受けられます。
…このまま治療して放置していたら、余命は長くて2年前後。
しかも…かなりの苦痛を伴います』
眼鏡は、神妙な表情を浮かべながら年配の医師が先日に
語った言葉を思い出していた。
太一のアパートを出てから、佐伯克哉は…裏の世界で展開している
事業の作業中に吐血していた。
…掌にはべったりと赤い血がついていた。
(ついに…ここまで血が出るようになったか…)
冷めた目で己の血を見つめていきながら…眼鏡は深々と溜息を
吐いていった。
若い内にガンが発生すれば、進行が早くて命を落とすケースも
多いというのは結構耳にしている。
だが…自分の身にそれが降りかかってくるとは、半年ぐらい前までは
まったく考えなかった。
「俺に残された時間は…そんなに、ないか…。未だに実感は
湧かんがな…」
もうこの一年ぐらい、胃の痛みを感じることなど日常茶飯事に
なってしまっていたから…慣れ切ってしまっていた。
今、目の前に自分の血がべったりとついていても…何の感慨も
湧きはしない。
他人事のように…酷く冷めた目で、それを見つめていた。
―いつの間にか、心も身体も麻痺してしまって…痛みというものに
酷く鈍くなってしまっていた
能面のように冷たい無表情。
心はいつの間にか氷のように凍り付いてしまっていた。
何をしても、やっても…心の底から楽しいと思うことも感情が
揺さぶられることもない。
人間はあまりに苦痛を与えられると、脳内麻薬を分泌したり
その痛みを感じないように完全にシャットアウトする機能がある。
今の眼鏡は…その繰り返しだ。
太一を苛め抜くように抱いている時だけ、快感を…鮮烈な何かを
感じていく。
その度に、もう一人の自分が「もう止めてくれ!」と叫び続けている。
張り裂けるような胸の痛みが、何も感じられなくなった自分が
知覚する事の出来る、唯一の痛みだった。
(俺は…どうして、あいつの傍にいるのか…? 何も感じなくなった
状態では…痛みや快楽を感じるのは、あいつの傍だけだからだ…。
一瞬の高揚、興奮。そして…苦くて辛い気持ち。それだけが…
生きている証のように…感じられるからだ…)
身体はいつしか、鉛のように思い通りに動かなくなっていた。
自分の肉体の筈なのに、まるで借り物のような感覚さえしてくる。
深く溜息を吐く。
本気で、苦い思いをしながら…胸元を押さえて、呼びかけていく。
―なあ、お前はいつまで…俺の中で苦しい、苦しいとだけ訴えて
何もしないでいるつもり…なんだ…
苛立ちを覚えながら、不甲斐ないもう一人の『オレ』へと声を
掛けていく。
だが、ピクリとも…反応もなければ、答えはない。
「駄目、か…」
幾ら呼びかけても、眼鏡が一人でいる状態ではもう一人の自分の
気配は絶対に感じられない。
だが、太一のいる時だけは…時折、その気配を感じる。
しかし皮肉にも…僅かに波を立ててもう一人の『オレ』と繋がっている
時に限って、太一は自分を否定する言葉ばかりを吐いていく。
呪う言葉、嫌悪の言葉、拒絶、否定…罵声、悪態…それらの言葉を
『眼鏡』に吐いていくと同時に、『克哉』をも傷つけていく。
「…このままだと、お前は何も言わずに消えることになるぞ…。
それでも良いのか…? 大した負け犬根性だな…。自分が
惚れた男を俺に陵辱され続けても、何も行動しないままで
いるつもりか…?」
挑発する言葉を吐いても、やはり反応がない。
眼鏡が太一を抱くもう一つの理由。
それは…その時だけ、コイツの存在をくっきりと強く
感じる瞬間があるからだ。
…コイツの存在は、今となっては精神の方のガンのようなものだ。
意識の底に沈んで、普段はまったく存在感など感じない癖に…
意識の深い処では泣き続けて、苦しみもがいている。
天の岩戸のように深く心を閉ざしている癖に、その毒素は次第に
強まっていき…そして、ついには肉体的にも『ガン』という結果を
与えることとなった。
けれどほんの僅かな時間。
もう一人のコイツと意識が繋がると、繰り返し聞こえ続ける言葉が
存在していた。
―ごめんなさい、ごめんなさい…!
ただ、克哉は…謝り続ける。
虚しく、すでに誰に向けられているのか判らない謝罪の言葉を
壊れたスピーカーのように流し続けていく。
まともな単語は、すでに紡ぐ能力すら失われてしまっているの
かも知れない。
最愛の人間を傷つけてしまった。
その罪の意識が、克哉を雁字搦めにして目を曇らせ…そして
深層意識という深い処にある檻の中で…自らを閉じ込め続ける。
「…いい加減に、しろ…!」
苛立ち混じりに叫んでいくが、相手と儚く繋がっていたものが…
プツリ、と途切れる形で終わっていった。
「…何で、ただ俺の中で泣き続けて何もしようとしない奴に…身体まで
蝕まれなければならないんだ…! くそっ!」
近くにあった灰皿を思わず手に取り、窓に向かって勢い良く投げつけていった。
手にべったりと付いていた血がガラス製の灰皿に付着し、それが
ガシャッ!!
普通の窓ガラスに命中したものだから…大きくひび割れていった。
幸い、厚目の窓ガラスを用いてあったから大穴は空けずに
済んでいた。だが…やり切れなさだけは、確かに感じていた。
「…いつまで、お前らに俺は振り回されていなければならないんだ…?」
腹にモヤモヤしたものを感じながら、怒気を込めて呟いていく。
「…お前らが過ごした期間より、俺と過ごしている時間の方がずっと
長いはずなのに…どうして、あいつの目は決して俺を見ようとしないんだ…?
お前の影だけを見て、俺という存在は素通りか…否定されるかのどちらかだ!
どうして…一年以上も前に力をなくして消えて、ただ俺の中で泣き続けて
いるお前の存在だけが求められる!?
こんな不毛な関係…もうゴメンだ!」
そう、眼鏡の心は随分前から何も感じなくなってしまっていた。
しかし…ただ二つ、例外がある。
太一と、克哉に関係する事だけは痛みを、怒りを、悲しみを、憤りを…
様々な感情を実感する事が出来るのだ。
他者の前で感情を吐露できない男は…一人きりで、己の手を鮮血で
染め上げていきながら、本心を爆発させていく。
―訴えかけているのはもう一人の自分
けれど、決して応えられることはない。
耳と目を閉ざし、ただ自分だけを守り続ける。
…自分の心だけをどうやって、消え去れば良いのか…そんな
後ろ向きな気持ちだけを胸に抱いて…
「応えろよ! なあ…!」
そうして、眼鏡は再び激しく、何度も咳き込んでいく。
…床には、目を覆いたくなる程の細かい血飛沫の痕が
きっかりと付着していた。
「…お前達二人の恋愛に、振り回されるのはもう…ゴメンだ…」
そう力なく呟きながら、眼鏡はフローリングの床の上に倒れていく。
汚れが全身につくから、出来れば床を拭った後で倒れこみたかったが
今はそんな事に拘っている暇はなかった。
「もう…疲れ、た…」
最後に、彼自身も無気力に…人形のようになりながらそっと
一人…孤独に自分のアパートの床の上に倒れこんでいく。
―何もかもがどうでも良い…
太一と同じように、やけっぱちになりながらそう呟いて…眼鏡も
意識を手放していく。
余命二年で、果たして自分に何が出来るのか。
これから先のことを考えた方が良いとは理性の上で判っている。
けれど…今は、手元にあった火を吹きそうになるぐらいに強い酒を
そのままラッパ飲みしていきながら…泥のように眠った。
―悪夢など、もう一人の自分の声など決して聞こえないぐらいの深い処へ
ただ一人…自分の部屋の安物のベッドの上で…青白く、疲弊した
表情を浮かべながら…静かに眠りの淵へと落ちていったのだった―
本日はお休みでしたが、お昼頃から母上と一緒に「マンマ・ミーヤ!」を
見に行ったり…買い物に付き合わされたり。
帰宅早々に兄上に、「このゲームは是非やってみて貰いたい!」と
速攻で捕まって、「ポールの冒険」というバーチャルコンソール専用の
横スクロール風、関西風ギャグネタ満載ゲームを付き合わされたり
していたら…あれ? 気づいたら夕方だぞ? みたいな感じで
時間ワープしておりました。
…ネコにも一日振り回されたよこんちくしょう…(T○T)
夜中に四回、人をたたき起こすのは止めてけれ。
おかげで午前中は寝ぼけて使い物にならなかっただよ~!
オトンには「うちのミー(猫の名前)に最近、新しい男(恋人ネコ)
が出来たようだ! 飼い主なら追跡してどんな奴と付き合って
いるか確認して来い!」とか酔っ払った勢いで延々と絡まれ
続けたり…気づけば家族に振り回された一日でした(汗)
やっと夕飯の片付け終わって、自由時間持てました…。
つ~訳でこれから書きます。
しかしうちのミーたん、盛りがついたのか最近うるさくて
ちょっぴり寝不足気味です。
夜中にあんまり人を起こすの止めて欲しいっす…(T△T)
見に行ったり…買い物に付き合わされたり。
帰宅早々に兄上に、「このゲームは是非やってみて貰いたい!」と
速攻で捕まって、「ポールの冒険」というバーチャルコンソール専用の
横スクロール風、関西風ギャグネタ満載ゲームを付き合わされたり
していたら…あれ? 気づいたら夕方だぞ? みたいな感じで
時間ワープしておりました。
…ネコにも一日振り回されたよこんちくしょう…(T○T)
夜中に四回、人をたたき起こすのは止めてけれ。
おかげで午前中は寝ぼけて使い物にならなかっただよ~!
オトンには「うちのミー(猫の名前)に最近、新しい男(恋人ネコ)
が出来たようだ! 飼い主なら追跡してどんな奴と付き合って
いるか確認して来い!」とか酔っ払った勢いで延々と絡まれ
続けたり…気づけば家族に振り回された一日でした(汗)
やっと夕飯の片付け終わって、自由時間持てました…。
つ~訳でこれから書きます。
しかしうちのミーたん、盛りがついたのか最近うるさくて
ちょっぴり寝不足気味です。
夜中にあんまり人を起こすの止めて欲しいっす…(T△T)
※太一×克哉の悲恋前提の物語です。
ED№29「望まれない結末」を前提に書いているので
眼鏡×太一要素も含まれております。暗くてシリアスなお話なので
苦手な方はご注意下さいませ(ペコリ)
五十嵐太一の記憶は、そのまま…過去へ遡っていく。
思い出しているのは…あの救いの日の一週間ほど前の
出来事だった。
自分も、あの男も…この救われない関係に疲弊して…
やりきれなさを噛み締めていた頃。
その頃の自分の心情がゆっくりと蘇って来て…太一はただ、
苦笑するしかなかった―
―大切なものは一度失くさないと判らない
以前の自分なら、きっとそんな良く言われている口上など
鼻先で笑っていただろう。
失くして後悔するぐらいなら、失くさないように行動すれば良い
だけじゃん…とあっさり言って、共感する事などなかっただろう。
だが、年月が過ぎれば過ぎるだけ…今はその言葉に含まれた
意味と、痛みを理解出来るようになった。
…どれだけ先に生きた人間が後世の者に向かって良い教訓の
言葉を残していても、人は経験した事以上の痛みを理解したり
察することは難しい生き物だ。
―太一は皮肉にも、もっとも大切な人間を失って初めて
『痛み』というものを知った。
本当ならそろそろ大学に行かなければならない時間帯なのは
判っていたが…太一はどうしても起きる気力が湧かずに、ベッドの
上で寝そべり続けていた。
太一が寝ている間に、あの男はいつの間にか部屋から出て行って
しまったようだった。
(…何か最近、忙しいみたいだしな…。俺の実家の後ろ盾とか色々と
利用してやっているみたいだし。その件に関しては勝手にすれば良いと
思っているけど…。道理も判らずに稼いだり、人を踏みつけにすれば…
それ相応のしっぺ返しを食らうもんだからな…。あいつがどうなろうと…
俺からしたら、知ったこと知ったことじゃない…)
自分の実家の権力を利用して、裏の社会へと進出し始めているのは
太一も知っていた。
けれどそれを知った上で…太一は好きにさせていた。
あんなロクデナシで人の心を理解しない男は、絶対にその内に摩擦が
生じて…敵を作るだけだとどこかで判っているからだろう。
頭の芯は酷く冷えてて、冷淡な感想しか最早抱かない。
長くベッドの上に横たわっていたおかげでさっき目覚めた時よりかは
身体の調子はマシになっていた。
「何で、俺…あんな奴から離れられないままなんだろ…」
自分の肉体が酷く軋むことを自覚しながら、ぼそりと…太一は力なく
呟いていった。
―もう二度と、以前の克哉とは会えないと諦めてしまえば良い
理性ではとっくの昔にその答えは出ている。
なのに…結局、実行に移せぬまま苛立ちながらあの男と長い
時間を過ごしていった。
どれだけ抱かれようとも、寝食を共にしようとも…自分と眼鏡の間には
決して情のようなものは生まれなかった。
克哉とあれだけ楽しく、暖かな時間を過ごせたことなど嘘のように…
自分と、変わってしまった後の克哉とは冷たい時間が広がるだけだった。
「ちくしょう…どうして、あいつを見ていると…こんなにムカムカするんだろ…」
心底悔しげに、太一は呟いていく。
この時の彼には、どうしてもその答えを見出せぬままでいた。
未来の救われた方の太一であるなら、その回答をすでに持っている。
…あの男の冷酷さと闇と同じものを、太一自身も持っていて…この時点の
彼は自分の中にそれがある事を認めていなかったからだ。
人は…自分の中にある認めがたい要素を受け入れていない時…それと
同じものを持っている人間を嫌悪する傾向にある。
心理学的に言えば「投射」と言われる反応だ。
太一は、己の闇を…自分自身で受け入れることも、他者に受け入れて
貰うことなく…自覚した日から過ごしていた。
己を受け入れていない人間は、他者の中に認めたくない部分を見出した時…
その相手を憎悪し、嫌うことで遠ざけようとする。
振り返れば…どうしても眼鏡と上手く行かなかった理由は、そこに帰結
するのだが…この頃の太一は迷路に迷い込んでしまっていてその回答を
見出せないままだった。
「克哉さん…」
そして、自分を正の世界に留める為に…太一はただ、失ってしまった方の
克哉を呼んでいく。
今、目の前にいる方の彼など、決して認めないと…そう言い聞かせるように。
けれど、太一は気づかなかった。
その行為が、奥に眠っている克哉を一番傷つけていた事を。
彼がもう一人の克哉を否定すればするだけ…あの男の奥底に沈んでいた
克哉をズタズタに引き裂き続けて、弱らせてしまっていた事を。
―どんな彼でも、同じ佐伯克哉だ
もし…あの頃の太一が、たった一言でも発していたのならば…自分達が
辿る結末は変わっていたのかも知れない。
人の中には色んな要素が眠っている。
善と呼ばれるものから、悪と見なされる類の感情まで…様々なものを内包して
『一人』の人間は成り立っている。
太一は、その事実を…克哉を聖域のように扱っていたからこそ、まだ気づけて
いないままだった。
―あの頃の俺って、視野が本当に狭くなっていたよな…。克哉さんが
酷い言葉を放っているその奥にいた事を…知らないままだったし、
あの日に一度だけ会えるまで…気づけなかった。
だから俺は…あの人を失ったんだな…
全てを知った上なら、己が犯した罪がどれだけ…重かったか、自覚出来る。
その行為が眼鏡だけじゃなく、あの人をも傷つけていた。
もっと早くにその事実を知っていたら…自分はどうしただろうか?
―きっと、克哉を救えていた。眼鏡を掛けたあの人を含めて…
相手を認める思いやりの言葉と、裏の面を含めて一人の人間を
受容し信じること。
幸せになるにはたったそれだけの事が出来るようになれば良い。
単純だが、絶対的な真理。
だが…自分も、あの男もきっと…人の愛し方を知らなかった。
傷つけあう言葉と態度しか、終始取れないままだった。
―胸の中に、暖かい想いはあったのに…
伝えられないまま埋もれた想いでは意味がない。
けれどきっと…自分達は傷つけあうしか出来なかった。
太一が克哉に拘って、「眼鏡」を見ようとしなかったから。
酷い男だと思い込んでいたあいつにも、こちらへの情があったのだと…
『克哉』の口から聞かされる前に気づけていたのなら…あいつも、
自分は救えていたのかも知れない。
けれどこの時の太一はただ…やりきれなさだけを感じて、ただ…一日を
ベッドの上で過ごすしか出来なかった。
―何もかもどうでも良い
そんな投げやりの言葉を、疲れた様子で呟きながら…何度も、まどろみと
覚醒を繰り返していく。
…気づかぬ間に、自分達の報われない関係は…終焉のときを確かに
迎えようとしていたのだった。
ED№29「望まれない結末」を前提に書いているので
眼鏡×太一要素も含まれております。暗くてシリアスなお話なので
苦手な方はご注意下さいませ(ペコリ)
五十嵐太一の記憶は、そのまま…過去へ遡っていく。
思い出しているのは…あの救いの日の一週間ほど前の
出来事だった。
自分も、あの男も…この救われない関係に疲弊して…
やりきれなさを噛み締めていた頃。
その頃の自分の心情がゆっくりと蘇って来て…太一はただ、
苦笑するしかなかった―
―大切なものは一度失くさないと判らない
以前の自分なら、きっとそんな良く言われている口上など
鼻先で笑っていただろう。
失くして後悔するぐらいなら、失くさないように行動すれば良い
だけじゃん…とあっさり言って、共感する事などなかっただろう。
だが、年月が過ぎれば過ぎるだけ…今はその言葉に含まれた
意味と、痛みを理解出来るようになった。
…どれだけ先に生きた人間が後世の者に向かって良い教訓の
言葉を残していても、人は経験した事以上の痛みを理解したり
察することは難しい生き物だ。
―太一は皮肉にも、もっとも大切な人間を失って初めて
『痛み』というものを知った。
本当ならそろそろ大学に行かなければならない時間帯なのは
判っていたが…太一はどうしても起きる気力が湧かずに、ベッドの
上で寝そべり続けていた。
太一が寝ている間に、あの男はいつの間にか部屋から出て行って
しまったようだった。
(…何か最近、忙しいみたいだしな…。俺の実家の後ろ盾とか色々と
利用してやっているみたいだし。その件に関しては勝手にすれば良いと
思っているけど…。道理も判らずに稼いだり、人を踏みつけにすれば…
それ相応のしっぺ返しを食らうもんだからな…。あいつがどうなろうと…
俺からしたら、知ったこと知ったことじゃない…)
自分の実家の権力を利用して、裏の社会へと進出し始めているのは
太一も知っていた。
けれどそれを知った上で…太一は好きにさせていた。
あんなロクデナシで人の心を理解しない男は、絶対にその内に摩擦が
生じて…敵を作るだけだとどこかで判っているからだろう。
頭の芯は酷く冷えてて、冷淡な感想しか最早抱かない。
長くベッドの上に横たわっていたおかげでさっき目覚めた時よりかは
身体の調子はマシになっていた。
「何で、俺…あんな奴から離れられないままなんだろ…」
自分の肉体が酷く軋むことを自覚しながら、ぼそりと…太一は力なく
呟いていった。
―もう二度と、以前の克哉とは会えないと諦めてしまえば良い
理性ではとっくの昔にその答えは出ている。
なのに…結局、実行に移せぬまま苛立ちながらあの男と長い
時間を過ごしていった。
どれだけ抱かれようとも、寝食を共にしようとも…自分と眼鏡の間には
決して情のようなものは生まれなかった。
克哉とあれだけ楽しく、暖かな時間を過ごせたことなど嘘のように…
自分と、変わってしまった後の克哉とは冷たい時間が広がるだけだった。
「ちくしょう…どうして、あいつを見ていると…こんなにムカムカするんだろ…」
心底悔しげに、太一は呟いていく。
この時の彼には、どうしてもその答えを見出せぬままでいた。
未来の救われた方の太一であるなら、その回答をすでに持っている。
…あの男の冷酷さと闇と同じものを、太一自身も持っていて…この時点の
彼は自分の中にそれがある事を認めていなかったからだ。
人は…自分の中にある認めがたい要素を受け入れていない時…それと
同じものを持っている人間を嫌悪する傾向にある。
心理学的に言えば「投射」と言われる反応だ。
太一は、己の闇を…自分自身で受け入れることも、他者に受け入れて
貰うことなく…自覚した日から過ごしていた。
己を受け入れていない人間は、他者の中に認めたくない部分を見出した時…
その相手を憎悪し、嫌うことで遠ざけようとする。
振り返れば…どうしても眼鏡と上手く行かなかった理由は、そこに帰結
するのだが…この頃の太一は迷路に迷い込んでしまっていてその回答を
見出せないままだった。
「克哉さん…」
そして、自分を正の世界に留める為に…太一はただ、失ってしまった方の
克哉を呼んでいく。
今、目の前にいる方の彼など、決して認めないと…そう言い聞かせるように。
けれど、太一は気づかなかった。
その行為が、奥に眠っている克哉を一番傷つけていた事を。
彼がもう一人の克哉を否定すればするだけ…あの男の奥底に沈んでいた
克哉をズタズタに引き裂き続けて、弱らせてしまっていた事を。
―どんな彼でも、同じ佐伯克哉だ
もし…あの頃の太一が、たった一言でも発していたのならば…自分達が
辿る結末は変わっていたのかも知れない。
人の中には色んな要素が眠っている。
善と呼ばれるものから、悪と見なされる類の感情まで…様々なものを内包して
『一人』の人間は成り立っている。
太一は、その事実を…克哉を聖域のように扱っていたからこそ、まだ気づけて
いないままだった。
―あの頃の俺って、視野が本当に狭くなっていたよな…。克哉さんが
酷い言葉を放っているその奥にいた事を…知らないままだったし、
あの日に一度だけ会えるまで…気づけなかった。
だから俺は…あの人を失ったんだな…
全てを知った上なら、己が犯した罪がどれだけ…重かったか、自覚出来る。
その行為が眼鏡だけじゃなく、あの人をも傷つけていた。
もっと早くにその事実を知っていたら…自分はどうしただろうか?
―きっと、克哉を救えていた。眼鏡を掛けたあの人を含めて…
相手を認める思いやりの言葉と、裏の面を含めて一人の人間を
受容し信じること。
幸せになるにはたったそれだけの事が出来るようになれば良い。
単純だが、絶対的な真理。
だが…自分も、あの男もきっと…人の愛し方を知らなかった。
傷つけあう言葉と態度しか、終始取れないままだった。
―胸の中に、暖かい想いはあったのに…
伝えられないまま埋もれた想いでは意味がない。
けれどきっと…自分達は傷つけあうしか出来なかった。
太一が克哉に拘って、「眼鏡」を見ようとしなかったから。
酷い男だと思い込んでいたあいつにも、こちらへの情があったのだと…
『克哉』の口から聞かされる前に気づけていたのなら…あいつも、
自分は救えていたのかも知れない。
けれどこの時の太一はただ…やりきれなさだけを感じて、ただ…一日を
ベッドの上で過ごすしか出来なかった。
―何もかもどうでも良い
そんな投げやりの言葉を、疲れた様子で呟きながら…何度も、まどろみと
覚醒を繰り返していく。
…気づかぬ間に、自分達の報われない関係は…終焉のときを確かに
迎えようとしていたのだった。
本日、節分です。
そして春コミ発行の克克アンソロジー2の締め切り日でございます!
…今日、運よく休みだったから一日原稿やっておりました。
とりあえず、現時点でコメントと原稿はほぼ完成して…後は送信するまで
推敲や、修正&調整をするだけなんですが…はい、お金を出して買って
貰うアンソロジーにお渡しするものなので、本日はそっちに専念します。
余裕あったら本日分を書こうかと思いましたけど…今日は潔く
諦めておきます。
明日の分は、キチンと書くのでご了承下さいませ。
通販の件に関しては、最終日付近に申し込んで下さった方の
発送は2月5日を予定しています。
今週末までにはお手元に届くように発送致しますのでもう少し
お待ち下さいませ。
後、申し込みはされても現時点まで入金をされていない方は
2月10日までに連絡+入金がない場合はご注文はキャンセル
されたものとして扱います。
ご了承下さいませ。
申し込んで下さった方、どうもありがとうございました。
春コミの新刊も、余裕があれば自家通販。
ない場合も書店委託する事を検討に入れていますので
宜しければご利用なさって下さい。
じゃあ最後の調整、行ってきま~す。
ではでは~(逃走)
そして春コミ発行の克克アンソロジー2の締め切り日でございます!
…今日、運よく休みだったから一日原稿やっておりました。
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推敲や、修正&調整をするだけなんですが…はい、お金を出して買って
貰うアンソロジーにお渡しするものなので、本日はそっちに専念します。
余裕あったら本日分を書こうかと思いましたけど…今日は潔く
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ご了承下さいませ。
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じゃあ最後の調整、行ってきま~す。
ではでは~(逃走)
※これ以降の話は「望まれない結末」を元にしているので相当に暗くなります。
眼鏡×太一要素もかなり含まれます。
それらを了承の上で、読み進めて下さい。(ペコリ)
―何故、もう一人の克哉にあそこまで自分は拘り続けたのか…彼と
決別してから何ヶ月も経過しているのに、どうしても太一には判らなかった。
ただ一つ言えるのは、振り返ってみれば自分達は一緒にいて…
お互いを傷つけあう事しか出来なかった。
『あんたってどうして…いつだってそんなに冷たいんだよ! 克哉さんと同じ
顔をして、何でこんなに酷いことを繰り返せるんだよ! 返せよ!俺に
克哉さんを返してくれよ! あの人がいなかったら俺は…俺は…!』
いつか、そんな言葉を泣き叫びながら訴えていった。
普段はどれだけ太一が暴れようが、悪態をつこうが余裕の笑みや…
冷たい態度を崩さなかった男が、『克哉さんを返してくれ!』と訴えている時だけ
一瞬だけ、泣きそうな顔を浮かべていった。
その瞬間だけ、水面が揺らめいて…あの人の面影が浮かんでくるような
そんな気がして、何度も何度も…決別する間際は叫び続けたのかも知れない。
―切なく悲しい顔を浮かべる時だけ、あの氷のような男の中に…
愛しい人の面影が重なる時があったから…
その行為の報復は、いつだって陵辱めいた形で犯されることだった。
相手を傷つけ、刺激すればするだけ…我が身にその行為のツケは返され
続けていた。それでも太一は止めなかった。
―今思えばあの頃の自分は…克哉を失った心の痛みを、相手にぶつける
事でしか…そして、身体に痛みを与えられるような行為をされることでしか
誤魔化すことが出来なかった。
ヘラヘラと笑って差し障りのない言葉を吐くことすら…あの頃の太一には
苦しくて、辛いことだった。
そのドロドロを唯一、ぶつけられる相手は…眼鏡を掛けた克哉だけだった。
―傷つけあう為に、自分達は一緒に暮らしていた
その不毛な行為に…内心ではボロボロになって疲弊しきっていた。
けれどそれでも…離れられなかった、その理由は…。
―太一が、本当に…儚い笑顔を浮かべる克哉を愛してしまっていたからだった
*
目覚めると同時に、全身が悲鳴を上げてギシギシ言っていた。
意識が朦朧として…一瞬、ここがどこなのか…把握出来なかった。
しかし明かり一つない暗い室内でも、闇に目が慣れてくればうっすらと
見え始めてくる。
(あぁ…俺の部屋か…)
力なくぼんやりと考えていきながら、太一は…ゆっくりと周囲に視線を
巡らせていった。
窓際には…椅子に腰を掛けながら、憎たらしいあの男が紫煙を燻らせて
一服していた。
それを見た瞬間…ムカムカと怒りが湧き上がってくる。
(腕の拘束は…一応解かれているみたいだな…。ったく、本気で悪趣味で
どうしようもない男だよな…。俺を抱く時、まず…組み敷いて縛ってから犯すし。
…手首の周辺が、いい加減擦り切れて沁みるしアザになっているし…本気で
SMの趣味でもあるのかって疑われ始めているからな…)
そんな事を考えながら、自分の手首をジっと眺めていく。
うっすらと紐が食い込んだような痕が残されていた。
時間を掛けて慣らすなんて丁寧な真似など死んでもやってくれない相手だから
犯された時は、本気で腰が立たなくなる。
…克哉がいなくなってから一年以上、頻繁に繰り返されているいつもの
自分達の光景だった。
「いてっ…ちくしょう…。本気で、手加減ぐらいしろよ…あいつは…」
今夜も、太一の仕返しは失敗に終わっていた。
こうやっていつも良いように抱かれるのが悔しくて仕方なくて。
逆に相手を組み敷いて、同じ痛みを味あわせてやろうと…ここ半年は必死に
なって色々と策を張り巡らせたが、全部失敗に終わっていた。
太一が呻いたことで、相手はこちらが起きたことに気づいたらしい。
タバコを吸いながら…ゆっくりとこちらの方に向き直り、冷たい声で
言い放っていく。
「…目覚めたか」
たった一言。抑揚のない声で言い捨てるように呟く。
大丈夫か…という一言すらない。
それはいつもの事だと判っていても、更に太一をイライラさせていった。
「あぁ…起きたよ。…相変わらず、あんたって…手加減なんてしてくれないよね。
抱かれる方のが負担が大きいっていうの判っている? それなのに全然、
こっちを気遣ってなんてくれないよな…」
「…俺に抱かれるのが嫌なら、俺を追い出すか…もうチョッカイを掛けなければ
良いだけの話だ。お前ごときの策など、幾らやられようとも通用などしないし…
この力関係をひっくり返させるつもりはない。いい加減諦めたらどうなんだ…」
「やだね、ずっとやられっぱなしで…大人しくなんて黙ってなんかいられるかよ!
あんたに…俺の気持ちを嫌ってほど…味わって貰わない限りは、俺の気持ちは
絶対に済まない。だから諦めないかんね…」
「…好きにしろ。まあ…そういう奴を屈服させて従えさせるのもそれなりに
楽しめるからな…」
そういって冷然とした表情を浮かべながら…眼鏡はタバコを吸い続けていく。
その様子を本気の怒りを込めながら太一は見遣っていった。
(…どうして、こんなやり取りしか…こいつとは出来ないんだろう…。同じ、
『克哉』さんである筈なのに…)
克哉に裏サイトの件のことを問い質され、この眼鏡を掛けた方の人格に
辱めを受けた日を境に…太一は、それ以前の克哉と会えなくなってしまった。
どれだけ求めても、焦がれても二度とあの人に会えない。
その現実を認めたくなくて太一は今…足掻き続けている真っ最中だった。
(克哉さんと話していたときは…いつだって暖かい気持ちが心の中に
満ちていたのに…今のこいつと幾ら話しても、苛立つか…どす黒いものが
一層広がっていくばかりだ…。なのに、どうして俺は…こいつの元から
離れることが出来ないんだろ…)
あの人が好きで、今も求め続けている。
だから優しくされたい、慈しみたいという希望が…太一の中に宿っていた。
だがこの状況は…望みを捨てきれないからこそ、彼を酷く追い詰めてしまっていた。
繰り返される悪夢と陵辱。
それにより…太一の心はかなり疲弊して、悲鳴を上げ続けていた。
―皮肉にも、酷い身体の痛みが…その心の痛みを、中和してくれていた
「克哉、さん…」
会いたい、貴方の笑顔が見たい。
そう思ったらごく自然に名前を呟いて…涙が浮かんでしまっていた。
頭の中に、いつだって花が咲くようなあの人の優しい笑顔が浮かんでいる。
どれだけ消したくても、消えない…鮮やかな記憶。
それが…今の太一に希望を宿しているのと同時に、酷い苦しみを齎している
原因でもあった。
(ちくしょう…! こんな奴、大嫌いなのに…けれど、こいつの身体は克哉さんの
ものでも…あるんだ。だから…どれだけ嫌いでも、こいつが他の人間を抱いたり
するのなんて…許せない。だから…こんなバカな真似、俺はしているのかな…。
抵抗して、暴れて見せればこいつは…面白がって俺を抱く。
そうしている間は…他の奴に目を向けなくなる。だから…なのか…?)
それは今も克哉を愛しているから生じるジレンマ。
沈黙が訪れたまま…ジタバタと暴れたくなるような葛藤が胸の中に発生していく。
自分の気持ちが、判らない。支離滅裂すぎて…どれが本心なのか太一自身にも
見えなくなって来た。
それはまるで大きな迷宮に迷い込んでしまったかのような不安感。
―けれど、克哉が消えてしまって一年…太一はこの時点でもうかなり
疲れきってしまっていた
心を凍らせて、どんな仕打ちをされても胸が痛いと思わないように心がけていても…
克哉のことを思い出すと、その凍った心が溶けて柔らかくなってしまう。
だからその柔らかさと暖かさが…今の太一を苦しめる。
いっそ何も感じないぐらいに心が冷たくなれば…何もかも諦め切れればきっと
楽になることは判っていたが…。
『この状況から、誰か…救い出してくれよ…』
ベッドの上で仰向けになりながら、右手で目元を覆って…太一は苦しげに
そう呟いていく。
この進むことも戻ることも出来ない、不毛な状況をどうにかしたかった。
何かを、変えたかった。改善したかった。
けれどその糸口を…今の太一に見出すことは出来ない。
だから何かを祈るように…もう一度だけ呟いていく。
―克哉さん
それは真摯な祈りのように…夜の闇に木霊していく。
もう一人の克哉は、どれだけ太一が「克哉」と呟いても…決して太一の方に
視線を向けることすらなかった。
その呼びかけは、消えてしまった方に向けられているのは明白だったから。
二人で部屋の中にいても、どれだけ抱き合っていても…傷つけあう事しか出来ず。
お互いの心は、氷のように冷え切ってしまっていた。
だから、温もりを求めるようにそっと太一は指先を宙に伸ばしていく。
目の前には…克哉の残影が、幻だが…確かに浮かんでいたから。
―会いたいよ…
そう呟きながら自分の脳裏に描いた克哉に、そっと吐露していく。
―オレも、太一に会いたいよ…
けれど、その幻は…一言だが、切ない瞳を浮かべながら返事をしてくれた。
それだけで…太一は、とても嬉しそうな顔をしていった。
―会えると、良いね…たった一度でも、貴方と…どうか…
それは儚い願いだと判っている。
けれどそれでも…祈りながら、太一はそっと瞼を閉じていった。
その瞬間、暖かい掌の感触を確かに感じた。
「克哉さん…」
それが錯覚でも、幻でも構わなかった。
それでも太一は嬉しかったから…そう思った瞬間、安堵の為に意識が
ゆっくりと落ち始めていった。
―おやすみ
そう最後に告げた克哉の声は、自分の記憶よりも低かった気がしたが…
眠りに落ちる直前の太一は、そこまで気づけなかった。
「…いい気な、ものだな…」
相手が寝入ったのに気づくと、眼鏡が太一の傍らで不機嫌そうに言い捨てていく。
だが…相手が眠っているからこそ、何度かその髪をそっと撫ぜていった。
「…いつまで俺らは、この不毛な関係を続ける羽目になるんだろうな…」
そうして、眼鏡は…どこか苦しそうな顔を浮かべていた。
太一が起きている限り、決して浮かべることはない迷っているような顔。
けれど…これ以上、こんな虚しいことを続けていても意味はない。
もうすでに…男もそんな結論に達してしまっていた。
「そろそろ…ピリオドを打つべき時なのかもな…」
そう呟きながら、眼鏡はそっと太一から離れていく。
やりきれない気持ちを誤魔化すかのように…眼鏡は新たなタバコに
そっと火をつけて、その煙をたっぷりと吸い込んでいったのだった―
眼鏡×太一要素もかなり含まれます。
それらを了承の上で、読み進めて下さい。(ペコリ)
―何故、もう一人の克哉にあそこまで自分は拘り続けたのか…彼と
決別してから何ヶ月も経過しているのに、どうしても太一には判らなかった。
ただ一つ言えるのは、振り返ってみれば自分達は一緒にいて…
お互いを傷つけあう事しか出来なかった。
『あんたってどうして…いつだってそんなに冷たいんだよ! 克哉さんと同じ
顔をして、何でこんなに酷いことを繰り返せるんだよ! 返せよ!俺に
克哉さんを返してくれよ! あの人がいなかったら俺は…俺は…!』
いつか、そんな言葉を泣き叫びながら訴えていった。
普段はどれだけ太一が暴れようが、悪態をつこうが余裕の笑みや…
冷たい態度を崩さなかった男が、『克哉さんを返してくれ!』と訴えている時だけ
一瞬だけ、泣きそうな顔を浮かべていった。
その瞬間だけ、水面が揺らめいて…あの人の面影が浮かんでくるような
そんな気がして、何度も何度も…決別する間際は叫び続けたのかも知れない。
―切なく悲しい顔を浮かべる時だけ、あの氷のような男の中に…
愛しい人の面影が重なる時があったから…
その行為の報復は、いつだって陵辱めいた形で犯されることだった。
相手を傷つけ、刺激すればするだけ…我が身にその行為のツケは返され
続けていた。それでも太一は止めなかった。
―今思えばあの頃の自分は…克哉を失った心の痛みを、相手にぶつける
事でしか…そして、身体に痛みを与えられるような行為をされることでしか
誤魔化すことが出来なかった。
ヘラヘラと笑って差し障りのない言葉を吐くことすら…あの頃の太一には
苦しくて、辛いことだった。
そのドロドロを唯一、ぶつけられる相手は…眼鏡を掛けた克哉だけだった。
―傷つけあう為に、自分達は一緒に暮らしていた
その不毛な行為に…内心ではボロボロになって疲弊しきっていた。
けれどそれでも…離れられなかった、その理由は…。
―太一が、本当に…儚い笑顔を浮かべる克哉を愛してしまっていたからだった
*
目覚めると同時に、全身が悲鳴を上げてギシギシ言っていた。
意識が朦朧として…一瞬、ここがどこなのか…把握出来なかった。
しかし明かり一つない暗い室内でも、闇に目が慣れてくればうっすらと
見え始めてくる。
(あぁ…俺の部屋か…)
力なくぼんやりと考えていきながら、太一は…ゆっくりと周囲に視線を
巡らせていった。
窓際には…椅子に腰を掛けながら、憎たらしいあの男が紫煙を燻らせて
一服していた。
それを見た瞬間…ムカムカと怒りが湧き上がってくる。
(腕の拘束は…一応解かれているみたいだな…。ったく、本気で悪趣味で
どうしようもない男だよな…。俺を抱く時、まず…組み敷いて縛ってから犯すし。
…手首の周辺が、いい加減擦り切れて沁みるしアザになっているし…本気で
SMの趣味でもあるのかって疑われ始めているからな…)
そんな事を考えながら、自分の手首をジっと眺めていく。
うっすらと紐が食い込んだような痕が残されていた。
時間を掛けて慣らすなんて丁寧な真似など死んでもやってくれない相手だから
犯された時は、本気で腰が立たなくなる。
…克哉がいなくなってから一年以上、頻繁に繰り返されているいつもの
自分達の光景だった。
「いてっ…ちくしょう…。本気で、手加減ぐらいしろよ…あいつは…」
今夜も、太一の仕返しは失敗に終わっていた。
こうやっていつも良いように抱かれるのが悔しくて仕方なくて。
逆に相手を組み敷いて、同じ痛みを味あわせてやろうと…ここ半年は必死に
なって色々と策を張り巡らせたが、全部失敗に終わっていた。
太一が呻いたことで、相手はこちらが起きたことに気づいたらしい。
タバコを吸いながら…ゆっくりとこちらの方に向き直り、冷たい声で
言い放っていく。
「…目覚めたか」
たった一言。抑揚のない声で言い捨てるように呟く。
大丈夫か…という一言すらない。
それはいつもの事だと判っていても、更に太一をイライラさせていった。
「あぁ…起きたよ。…相変わらず、あんたって…手加減なんてしてくれないよね。
抱かれる方のが負担が大きいっていうの判っている? それなのに全然、
こっちを気遣ってなんてくれないよな…」
「…俺に抱かれるのが嫌なら、俺を追い出すか…もうチョッカイを掛けなければ
良いだけの話だ。お前ごときの策など、幾らやられようとも通用などしないし…
この力関係をひっくり返させるつもりはない。いい加減諦めたらどうなんだ…」
「やだね、ずっとやられっぱなしで…大人しくなんて黙ってなんかいられるかよ!
あんたに…俺の気持ちを嫌ってほど…味わって貰わない限りは、俺の気持ちは
絶対に済まない。だから諦めないかんね…」
「…好きにしろ。まあ…そういう奴を屈服させて従えさせるのもそれなりに
楽しめるからな…」
そういって冷然とした表情を浮かべながら…眼鏡はタバコを吸い続けていく。
その様子を本気の怒りを込めながら太一は見遣っていった。
(…どうして、こんなやり取りしか…こいつとは出来ないんだろう…。同じ、
『克哉』さんである筈なのに…)
克哉に裏サイトの件のことを問い質され、この眼鏡を掛けた方の人格に
辱めを受けた日を境に…太一は、それ以前の克哉と会えなくなってしまった。
どれだけ求めても、焦がれても二度とあの人に会えない。
その現実を認めたくなくて太一は今…足掻き続けている真っ最中だった。
(克哉さんと話していたときは…いつだって暖かい気持ちが心の中に
満ちていたのに…今のこいつと幾ら話しても、苛立つか…どす黒いものが
一層広がっていくばかりだ…。なのに、どうして俺は…こいつの元から
離れることが出来ないんだろ…)
あの人が好きで、今も求め続けている。
だから優しくされたい、慈しみたいという希望が…太一の中に宿っていた。
だがこの状況は…望みを捨てきれないからこそ、彼を酷く追い詰めてしまっていた。
繰り返される悪夢と陵辱。
それにより…太一の心はかなり疲弊して、悲鳴を上げ続けていた。
―皮肉にも、酷い身体の痛みが…その心の痛みを、中和してくれていた
「克哉、さん…」
会いたい、貴方の笑顔が見たい。
そう思ったらごく自然に名前を呟いて…涙が浮かんでしまっていた。
頭の中に、いつだって花が咲くようなあの人の優しい笑顔が浮かんでいる。
どれだけ消したくても、消えない…鮮やかな記憶。
それが…今の太一に希望を宿しているのと同時に、酷い苦しみを齎している
原因でもあった。
(ちくしょう…! こんな奴、大嫌いなのに…けれど、こいつの身体は克哉さんの
ものでも…あるんだ。だから…どれだけ嫌いでも、こいつが他の人間を抱いたり
するのなんて…許せない。だから…こんなバカな真似、俺はしているのかな…。
抵抗して、暴れて見せればこいつは…面白がって俺を抱く。
そうしている間は…他の奴に目を向けなくなる。だから…なのか…?)
それは今も克哉を愛しているから生じるジレンマ。
沈黙が訪れたまま…ジタバタと暴れたくなるような葛藤が胸の中に発生していく。
自分の気持ちが、判らない。支離滅裂すぎて…どれが本心なのか太一自身にも
見えなくなって来た。
それはまるで大きな迷宮に迷い込んでしまったかのような不安感。
―けれど、克哉が消えてしまって一年…太一はこの時点でもうかなり
疲れきってしまっていた
心を凍らせて、どんな仕打ちをされても胸が痛いと思わないように心がけていても…
克哉のことを思い出すと、その凍った心が溶けて柔らかくなってしまう。
だからその柔らかさと暖かさが…今の太一を苦しめる。
いっそ何も感じないぐらいに心が冷たくなれば…何もかも諦め切れればきっと
楽になることは判っていたが…。
『この状況から、誰か…救い出してくれよ…』
ベッドの上で仰向けになりながら、右手で目元を覆って…太一は苦しげに
そう呟いていく。
この進むことも戻ることも出来ない、不毛な状況をどうにかしたかった。
何かを、変えたかった。改善したかった。
けれどその糸口を…今の太一に見出すことは出来ない。
だから何かを祈るように…もう一度だけ呟いていく。
―克哉さん
それは真摯な祈りのように…夜の闇に木霊していく。
もう一人の克哉は、どれだけ太一が「克哉」と呟いても…決して太一の方に
視線を向けることすらなかった。
その呼びかけは、消えてしまった方に向けられているのは明白だったから。
二人で部屋の中にいても、どれだけ抱き合っていても…傷つけあう事しか出来ず。
お互いの心は、氷のように冷え切ってしまっていた。
だから、温もりを求めるようにそっと太一は指先を宙に伸ばしていく。
目の前には…克哉の残影が、幻だが…確かに浮かんでいたから。
―会いたいよ…
そう呟きながら自分の脳裏に描いた克哉に、そっと吐露していく。
―オレも、太一に会いたいよ…
けれど、その幻は…一言だが、切ない瞳を浮かべながら返事をしてくれた。
それだけで…太一は、とても嬉しそうな顔をしていった。
―会えると、良いね…たった一度でも、貴方と…どうか…
それは儚い願いだと判っている。
けれどそれでも…祈りながら、太一はそっと瞼を閉じていった。
その瞬間、暖かい掌の感触を確かに感じた。
「克哉さん…」
それが錯覚でも、幻でも構わなかった。
それでも太一は嬉しかったから…そう思った瞬間、安堵の為に意識が
ゆっくりと落ち始めていった。
―おやすみ
そう最後に告げた克哉の声は、自分の記憶よりも低かった気がしたが…
眠りに落ちる直前の太一は、そこまで気づけなかった。
「…いい気な、ものだな…」
相手が寝入ったのに気づくと、眼鏡が太一の傍らで不機嫌そうに言い捨てていく。
だが…相手が眠っているからこそ、何度かその髪をそっと撫ぜていった。
「…いつまで俺らは、この不毛な関係を続ける羽目になるんだろうな…」
そうして、眼鏡は…どこか苦しそうな顔を浮かべていた。
太一が起きている限り、決して浮かべることはない迷っているような顔。
けれど…これ以上、こんな虚しいことを続けていても意味はない。
もうすでに…男もそんな結論に達してしまっていた。
「そろそろ…ピリオドを打つべき時なのかもな…」
そう呟きながら、眼鏡はそっと太一から離れていく。
やりきれない気持ちを誤魔化すかのように…眼鏡は新たなタバコに
そっと火をつけて、その煙をたっぷりと吸い込んでいったのだった―
先週から、通販の方のアナウンスがないままでいて
申し訳ございません。
2月1日時点で入金報告メールを頂いている方に関しては
全員、こちらの方から発送しました。
本日付で25日以降に入金を済ませた方に関しては発送
致しましたので数日中にお手元に届くと思います。
もう少しお待ちくださいませ。
30~31日に申し込みをされた方に関しては、
入金を確認出来次第…発送出来るように準備は
してあります。
完了した時点で、一言報告メールを下されば
その時点で発送致します。
本当に一月末に入金をされた方に関しては
お待たせしてしまってすみませんでした。
とりあえず自家通販は現時点では終了です。
春コミの頃にまた取り扱うか、次回は書店委託にするか
どうかは検討中です。
とりあえず…申し込んで下さった方、どうもありがとうございます。
本を読まれて、「買って良かった」と少しでも思って頂ければ
こちらとしては幸いでございます(^^)
それでは今夜はこの辺で…。
おやすみなさいませ。
申し訳ございません。
2月1日時点で入金報告メールを頂いている方に関しては
全員、こちらの方から発送しました。
本日付で25日以降に入金を済ませた方に関しては発送
致しましたので数日中にお手元に届くと思います。
もう少しお待ちくださいませ。
30~31日に申し込みをされた方に関しては、
入金を確認出来次第…発送出来るように準備は
してあります。
完了した時点で、一言報告メールを下されば
その時点で発送致します。
本当に一月末に入金をされた方に関しては
お待たせしてしまってすみませんでした。
とりあえず自家通販は現時点では終了です。
春コミの頃にまた取り扱うか、次回は書店委託にするか
どうかは検討中です。
とりあえず…申し込んで下さった方、どうもありがとうございます。
本を読まれて、「買って良かった」と少しでも思って頂ければ
こちらとしては幸いでございます(^^)
それでは今夜はこの辺で…。
おやすみなさいませ。
※いつもお世話になっている「花冠を」のむいさんがが開催した萌え茶に
先日、参加して参りました。
こちらが落ち込んでいる時などに、暖かい言葉を何度も掛けて下さったので
そのご恩返しに、ささやかながら作品を書かせて頂きました。
(萌え茶=主催者の方がお題を予め用意しておいて、参加者が
それをランダムで引き当てて、SSをアップしていくチャットの事です)
その日引いたお題内容は「だってそんなに抱きしめたらば壊してしまうだろう?」と
いう内容だったのでそれに合わせた18禁ものです。
(お題提供=不在証明様)
というかそれ以外の要素はございません(きっぱり!)
自分の誕生日に更新するものが、連載しているどっちの作品でもなく
別CPの一話完結なのはすっごい突っ込まれそうですが…そういう事情で
書いたものなので、本日分として掲載させて頂きます。眼鏡×御堂ものです。
明日は書けたら「残雪」の続き掲載します! ではん!
先日、参加して参りました。
こちらが落ち込んでいる時などに、暖かい言葉を何度も掛けて下さったので
そのご恩返しに、ささやかながら作品を書かせて頂きました。
(萌え茶=主催者の方がお題を予め用意しておいて、参加者が
それをランダムで引き当てて、SSをアップしていくチャットの事です)
その日引いたお題内容は「だってそんなに抱きしめたらば壊してしまうだろう?」と
いう内容だったのでそれに合わせた18禁ものです。
(お題提供=不在証明様)
というかそれ以外の要素はございません(きっぱり!)
自分の誕生日に更新するものが、連載しているどっちの作品でもなく
別CPの一話完結なのはすっごい突っ込まれそうですが…そういう事情で
書いたものなので、本日分として掲載させて頂きます。眼鏡×御堂ものです。
明日は書けたら「残雪」の続き掲載します! ではん!
※この作品は現在、不定期連載中です。(週1~2回程度のペースで掲載)
その為以前のを読み返しやすいようにトップにリンクを繋げておきます。
バーニングクリスマス!(不定期連載) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13
その日の夕暮れ、克哉を想う二人の男は…それぞれ物思いに
耽っていた。
Mr.Rはその様子を心から愉快そうに眺めていく。
眼鏡を掛けていない方の佐伯克哉を巡って、4人の男が攻防を
繰り広げているその様は…男を非常に楽しませてくれていた。
すでに日は傾き始めて周囲は赤く染まっている。
世界の全てが深紅に染まる瞬間に、黒衣の男の存在はどこか
禍々しい雰囲気を称えながら…キクチ・マーケーティングの裏手に
一人、佇んでいた。
物陰にひっそりと潜みながら…誰かを待ち続けていく。
だが、最初にその入り口から飛び出して来たのは…彼の待ち人
ではなく、明るい髪色をした青年だった。
「…よし、脱出成功っと…これで、あのイケすかない男も…克哉さんと
これ以上、二人きりで部屋に潜んでいるのは難しくなった筈だよな…」
そういって、青年は悪戯が成功した時のような…満足げな笑みを
浮かべていた。
太一はザックの中に、何かを大切そうに抱えている。
この中には太一の大学で使う教科書と…講義用と、作曲専用のノートの
他に…いざという時に使える様々な用途に使える七つ道具が納められていた。
「…あんなに、大きな音を立てればそれ処じゃない…筈だよな…」
と言いつつ、太一は一瞬…不安そうな表情を浮かべていった。
だが…確認したくても、戻る訳にはいかなかった。
裏手の入り口からでも、社内中が大騒ぎになっていることだけは
充分に伝わって来ている。
しかも…太一が立てた轟音の他にも、原因不明の閃光という要素が
加わったおかげで…爆弾を仕掛けられたのではないか? とパニックに
陥っている人間が多かったのだ。
太一は、閃光の件には関わっていない。だが…轟音を立てた件に関しては
確実に犯人だった。
そして…今、彼が手に持っているザックにはその証拠の品が二つ、収められている。
あの爆音は、窮地の際に…追っ手をの注意を引き付ける為の護身道具の一つだ。
派手な音はするが、それ以外の効果はない。
しかしスピーカーなどを通して、最大音量で流せば…先程のような爆発音に
限りなく似たものを発することが出来るのだ。
太一は、克哉と御堂が二人きりで部屋にこもったのを見送った時…長時間
そのままにしたら、あの男に出し抜かれると考え、このような行動に至ったのだ。
「やべ…心臓、バクバク…言ってる。…一応、克哉さんがいる会社だから把握する為に
ハッキングして、内部の構造については頭に入れておいたけれど…実際に歩いたり
色んな部屋に入ったのは初めてだったしな。…けど、ぶっつけ本番だったけど…
上手く行って良かった。…マジで放送室に先客とかいないでラッキーだったよ…」
太一は胸を押さえながら、深呼吸を繰り返して…逸る気持ちを抑えるように努めていった。
本当ならば、克哉達がいるフロアまで戻って…どうなっているかを確認したかった。
だが…大騒ぎになってしまった以上、もうこの会社に留まることは危険だ。
しかも元々、自分は部外者として本日…招かれている。
何かあった場合、外部からの人間が一番疑われるものだ。
そういう点からも、今日のところは一旦立ち去るのが賢明なのは…判っていた。
だが、太一は相当に…この場に後ろ髪を引かれていた。
(…克哉さん、マジで…今、貴方が何を考えているのか判らない…。凄く良い人の
貴方と、凄く寂しそうな顔を浮かべている苦しそうな克哉さんの…どっちが本当の
姿なんだろうね…)
そんな事をふと考えながら、キクチ・マーケティングのビルを切ない表情を浮かべながら
仰いで見上げていく。
だがその未練を断ち切って、青年はその場を後にしていった。
―ふふ、かなり惑わされているみたいですね…五十嵐様も。甘い蜜を放つように
なった…あの方の半身の魅力に参ってしまっているようですね…
物陰から太一が立ち去ったのを見届けていくと、Rはそのまま…愉快そうな
笑みを浮かべながら裏口の扉の前へと移動していく。
…今、社内にはあまり人目に付きたくない立場の存在が、太一の他にもう一人
いる筈だった。
長い金髪を風に靡かせながら…男はただ、夕暮れの中で待っていく。
五分、十分…と過ぎていく度に、日は更に傾き始めて…ゆっくりと夜の帳が
下り始めていった。
そして、完全に地平線に太陽の姿が消えようとする間際…その扉が静かに
開かれていった。
「こんばんは…我が主。貴方の狙った通りの結果になりましたでしょうか…?」
「お前か…ご苦労だった。さっきの閃光は役に立ったぞ…まあ、あの爆音
まで直後に鳴り響いたのは予想外だったがな…」
「えぇ、貴方様が私に指示を出したのとほぼ同じ頃…貴方の半身を想う
男性の一人が、別に動いた模様ですから…。ふふ、流石は貴方を魅了した
だけの事はありますね…。今の克哉さんはまるで、多くの人間を惹き付ける
魔力を持った花のような物です…。そこにいるだけで、知らない内に
人の心を煽り…欲望を灯してしまう。ウカウカしていたら…貴方にとって
望ましくない結果が訪れてしまうかも知れませんね…」
「…どういう意味だ。それに…何をそんなに愉快そうな顔をしている…。
見ているだけで不愉快になる、止めろ」
憮然とした様子で眼鏡が言い放っていくと、更にMr.Rは面白そうに喉の奥で
笑っていった。
それを見て更に彼の機嫌は悪くなったが…黒衣の男は特に気にした様子はなかった。
「…ふふ、貴方は本当に素直じゃないですね。…そこまで執着なさっているのならば
独占してしまえば良いのに…。誰の目にも触れないように、貴方以外の人間を
欲さないように…籠の鳥のように…」
「…そんな手段があるのなら、とっくの昔にやっている。だが…あいつが今は
本体を持っている以上、俺は常にこの世界に存在は出来ない。そんな身の上で
どうやってやれというんだ? 拉致監禁するのも不可能だろうに…」
「そうですね…物理的に今の貴方が、克哉さんを閉じ込め続けるのは
現時点では無理です…。しかし、その為の方法があると申したら…
どうなさいますか?」
男の一言に、眼鏡はハっとなっていった。
その顔を見て戦慄を覚えていく。
夕暮れの頃は…昔から、逢魔ヶ刻と呼ばれていた。
昼と夜の境…幻想と現の境、その二つの要素が交じり合ったこの時間帯には
『魔』と呼ばれる存在が現れると古来から言われて来た。
今のMr.Rの存在は、まさにそれだった。
怖いぐらいに綺麗な笑みを浮かべながら…眼鏡を意味深な表情で見つめてくる。
「…まさか」
「私はこういう事で…嘘は申し上げませんよ。我が主…ですが、それは…
貴方にとって、強烈なリスクを背負うこととなります。…失敗すれば
ただでは済みません…。下手をすれば貴方という存在そのものが
危うくなる程の手段です…。それでも、お聞きになりますか…?」
そう言いながら囁く黒衣の男の姿は、人を堕落させる悪魔のようで
すらあった。
瞠目しながらRを見据えていくと…どこまでも優艶な笑みを口元に称えながら
男は歌うように、言葉を続けていく。
―太陽が最後の光を鮮烈に放つ寸前、男の金色の髪が鮮やかに宙に舞った
それはまるで、芝居が開幕していく光景のような奇妙な錯覚を覚えていく。
「…言ってみろ。興味がある」
少し考えた後、眼鏡ははっきりとした口調で答えていくと…男はどこまでも
愉しそうな顔を浮かべていったのだった―
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その日の夕暮れ、克哉を想う二人の男は…それぞれ物思いに
耽っていた。
Mr.Rはその様子を心から愉快そうに眺めていく。
眼鏡を掛けていない方の佐伯克哉を巡って、4人の男が攻防を
繰り広げているその様は…男を非常に楽しませてくれていた。
すでに日は傾き始めて周囲は赤く染まっている。
世界の全てが深紅に染まる瞬間に、黒衣の男の存在はどこか
禍々しい雰囲気を称えながら…キクチ・マーケーティングの裏手に
一人、佇んでいた。
物陰にひっそりと潜みながら…誰かを待ち続けていく。
だが、最初にその入り口から飛び出して来たのは…彼の待ち人
ではなく、明るい髪色をした青年だった。
「…よし、脱出成功っと…これで、あのイケすかない男も…克哉さんと
これ以上、二人きりで部屋に潜んでいるのは難しくなった筈だよな…」
そういって、青年は悪戯が成功した時のような…満足げな笑みを
浮かべていた。
太一はザックの中に、何かを大切そうに抱えている。
この中には太一の大学で使う教科書と…講義用と、作曲専用のノートの
他に…いざという時に使える様々な用途に使える七つ道具が納められていた。
「…あんなに、大きな音を立てればそれ処じゃない…筈だよな…」
と言いつつ、太一は一瞬…不安そうな表情を浮かべていった。
だが…確認したくても、戻る訳にはいかなかった。
裏手の入り口からでも、社内中が大騒ぎになっていることだけは
充分に伝わって来ている。
しかも…太一が立てた轟音の他にも、原因不明の閃光という要素が
加わったおかげで…爆弾を仕掛けられたのではないか? とパニックに
陥っている人間が多かったのだ。
太一は、閃光の件には関わっていない。だが…轟音を立てた件に関しては
確実に犯人だった。
そして…今、彼が手に持っているザックにはその証拠の品が二つ、収められている。
あの爆音は、窮地の際に…追っ手をの注意を引き付ける為の護身道具の一つだ。
派手な音はするが、それ以外の効果はない。
しかしスピーカーなどを通して、最大音量で流せば…先程のような爆発音に
限りなく似たものを発することが出来るのだ。
太一は、克哉と御堂が二人きりで部屋にこもったのを見送った時…長時間
そのままにしたら、あの男に出し抜かれると考え、このような行動に至ったのだ。
「やべ…心臓、バクバク…言ってる。…一応、克哉さんがいる会社だから把握する為に
ハッキングして、内部の構造については頭に入れておいたけれど…実際に歩いたり
色んな部屋に入ったのは初めてだったしな。…けど、ぶっつけ本番だったけど…
上手く行って良かった。…マジで放送室に先客とかいないでラッキーだったよ…」
太一は胸を押さえながら、深呼吸を繰り返して…逸る気持ちを抑えるように努めていった。
本当ならば、克哉達がいるフロアまで戻って…どうなっているかを確認したかった。
だが…大騒ぎになってしまった以上、もうこの会社に留まることは危険だ。
しかも元々、自分は部外者として本日…招かれている。
何かあった場合、外部からの人間が一番疑われるものだ。
そういう点からも、今日のところは一旦立ち去るのが賢明なのは…判っていた。
だが、太一は相当に…この場に後ろ髪を引かれていた。
(…克哉さん、マジで…今、貴方が何を考えているのか判らない…。凄く良い人の
貴方と、凄く寂しそうな顔を浮かべている苦しそうな克哉さんの…どっちが本当の
姿なんだろうね…)
そんな事をふと考えながら、キクチ・マーケティングのビルを切ない表情を浮かべながら
仰いで見上げていく。
だがその未練を断ち切って、青年はその場を後にしていった。
―ふふ、かなり惑わされているみたいですね…五十嵐様も。甘い蜜を放つように
なった…あの方の半身の魅力に参ってしまっているようですね…
物陰から太一が立ち去ったのを見届けていくと、Rはそのまま…愉快そうな
笑みを浮かべながら裏口の扉の前へと移動していく。
…今、社内にはあまり人目に付きたくない立場の存在が、太一の他にもう一人
いる筈だった。
長い金髪を風に靡かせながら…男はただ、夕暮れの中で待っていく。
五分、十分…と過ぎていく度に、日は更に傾き始めて…ゆっくりと夜の帳が
下り始めていった。
そして、完全に地平線に太陽の姿が消えようとする間際…その扉が静かに
開かれていった。
「こんばんは…我が主。貴方の狙った通りの結果になりましたでしょうか…?」
「お前か…ご苦労だった。さっきの閃光は役に立ったぞ…まあ、あの爆音
まで直後に鳴り響いたのは予想外だったがな…」
「えぇ、貴方様が私に指示を出したのとほぼ同じ頃…貴方の半身を想う
男性の一人が、別に動いた模様ですから…。ふふ、流石は貴方を魅了した
だけの事はありますね…。今の克哉さんはまるで、多くの人間を惹き付ける
魔力を持った花のような物です…。そこにいるだけで、知らない内に
人の心を煽り…欲望を灯してしまう。ウカウカしていたら…貴方にとって
望ましくない結果が訪れてしまうかも知れませんね…」
「…どういう意味だ。それに…何をそんなに愉快そうな顔をしている…。
見ているだけで不愉快になる、止めろ」
憮然とした様子で眼鏡が言い放っていくと、更にMr.Rは面白そうに喉の奥で
笑っていった。
それを見て更に彼の機嫌は悪くなったが…黒衣の男は特に気にした様子はなかった。
「…ふふ、貴方は本当に素直じゃないですね。…そこまで執着なさっているのならば
独占してしまえば良いのに…。誰の目にも触れないように、貴方以外の人間を
欲さないように…籠の鳥のように…」
「…そんな手段があるのなら、とっくの昔にやっている。だが…あいつが今は
本体を持っている以上、俺は常にこの世界に存在は出来ない。そんな身の上で
どうやってやれというんだ? 拉致監禁するのも不可能だろうに…」
「そうですね…物理的に今の貴方が、克哉さんを閉じ込め続けるのは
現時点では無理です…。しかし、その為の方法があると申したら…
どうなさいますか?」
男の一言に、眼鏡はハっとなっていった。
その顔を見て戦慄を覚えていく。
夕暮れの頃は…昔から、逢魔ヶ刻と呼ばれていた。
昼と夜の境…幻想と現の境、その二つの要素が交じり合ったこの時間帯には
『魔』と呼ばれる存在が現れると古来から言われて来た。
今のMr.Rの存在は、まさにそれだった。
怖いぐらいに綺麗な笑みを浮かべながら…眼鏡を意味深な表情で見つめてくる。
「…まさか」
「私はこういう事で…嘘は申し上げませんよ。我が主…ですが、それは…
貴方にとって、強烈なリスクを背負うこととなります。…失敗すれば
ただでは済みません…。下手をすれば貴方という存在そのものが
危うくなる程の手段です…。それでも、お聞きになりますか…?」
そう言いながら囁く黒衣の男の姿は、人を堕落させる悪魔のようで
すらあった。
瞠目しながらRを見据えていくと…どこまでも優艶な笑みを口元に称えながら
男は歌うように、言葉を続けていく。
―太陽が最後の光を鮮烈に放つ寸前、男の金色の髪が鮮やかに宙に舞った
それはまるで、芝居が開幕していく光景のような奇妙な錯覚を覚えていく。
「…言ってみろ。興味がある」
少し考えた後、眼鏡ははっきりとした口調で答えていくと…男はどこまでも
愉しそうな顔を浮かべていったのだった―
※この作品は現在、不定期連載中です。(週1~2回程度のペースで掲載)
その為以前のを読み返しやすいようにトップにリンクを繋げておきます。
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11 12
―本多憲二は混乱していた
さっき起こった事が現実なのか、頭の中でグルグルと渦巻きながら
就業時間を迎えようとしていた。
本日は午後二時前後まで、営業であちこちを回っていた。
だから例の大食い大会のミーティングが終わった後、退社をする
前ぐらいは今日の成果を打ち込んで纏めて、片桐に報告しなければ
ならなかった。
しかし、あまりに仕事に手がつかない。
(何で…太一とかいう奴の他に、御堂さんまで…!)
それが、不思議だった。
そして本多の一番の謎だったのだ。
今までそんな気配を、御堂から感じたことは殆どない。
いや…プロトファイバーの営業の件が終わってからも、MGNはキクチと
繋がりを求めて来たが…この一年、直接関わって来たのは御堂と克哉の
二人で…本多は蚊帳の外だったから、気づいていなかっただけだった。
あんな風に宣言しながら飛び込んでくるなど、自分が知っている御堂のイメージと
あまりにかけ離れ過ぎていて…本当にあれは本人だったのかと疑いたくなる。
しかし…あの傲慢な物言いに、不遜で冷たい態度は紛れもなく本物だった。
(一年ぶりに会っても、イケすかない所は全然変わっていなかったよな…
あの人は…。てか、何で御堂さんまでお前は誘惑しているんだよ…。
克哉、お前が全然判らねぇよ…!)
本多としては一年以上前から、克哉のことを意識して…願うことなら
恋人関係になりたい、とずっと思っていた。
―本多はオレの大切な親友だよ
そう言い放たれても、その態度を貫かれても…一度自覚した恋心は決して
抑えられなかった。ずっと想い続けていた。
なのに…ここに来て、恋のライバルはゾクゾクと増え続けていく。
克哉に熱っぽい目を向けてくる女性社員は後を絶たず、ついでに太一や御堂まで
乗り込んできた。
冷静でなど、いられる訳がなかった。
「うぉぉぉ!!」
しまいには、混乱した頭をどうにか整理しようとうめき声を上げながら机に
頭部を擦り付けるような仕草までし始めていく。
「わわっ! 本多君どうしたんですか! 何か悩み事でも…!」
その鬼気迫る様子を見て、片桐が慌てた様子で声を掛けてくる。
「…す、すみません! 幾ら悩んでも答えが出なかったので…つい、呻いて
しまいました…!」
片桐があまりに血相変えてこちらに声を掛けてくるので…逆に申し訳
ない気分になって、こちらも急いで謝っていく。
どうしよう、本気で仕事に手がつかない。しかもこのまま部屋の中で
頭を抱え続けていたら…周囲の人間にいらない心配を掛けたり、奇異な
眼差しを向けられることは必死だった。
(ちょっと外の空気を吸ってきた方が良いな…気分転換しないと、マジで
頭がおかしくなりそうだ…)
そう判断し、本多は勢い良く立ち上がっていくが…勢い余り過ぎて、盛大に
椅子から転げ落ちていった。
「うおっ!」
ドンガラガッシャン!
まるでコントか、漫画の中のように本多の巨体が盛大に八課内の床の上に
滑って転がっていった。
「あぁ!! 本多君! 本当に大丈夫ですか! 頭は打っていないですか!
怪我はないですか! 報告は今日は良いですから…もう帰って良いですよ!
さっきから見ていても、全然仕事に手がついていないみたいですし!」
片桐がまたもやアタフタとして本多の元に駆け寄り、労わりの言葉を掛けていった。
…普段、優柔不断で少し頼りない人だなと感じることは多々あっても…
優しい人である事は紛れもない事実で。
混乱していたり、傷ついている時に片桐がこうやって気遣ってくれると…
心に染み入った。
「うっ…すみません。今日は片桐さんの言葉に甘えます…! それじゃあ…!」
片桐の言葉を聞いて、これ幸いとばかりに…その場から立ち上がって自分の
カバンを手に取っていくと…本多は部屋から出て行った。
そうして本多は駆け足で…御堂と克哉が、打ち合わせをしている筈の
会議室へと急いで向かっていく。
さっき起こった出来事を思い出して…本多はハラワタが煮えくり返りそうな
気持ちになっていった。
―彼のことを、私は一切譲るつもりはない。スタートラインにすら立っていない
君達には特にな…
自信満々に、そう言い放っていった。
意味深な表情を浮かべながら、そんな事を言い放った御堂に…太一も自分も
本気で怒りを覚えた。
―スタートラインにすら立っていない
その一言が、無性に腹立たしく聞こえたからだ。
一食触発の空気だった。ピリピリピリと…空気が殺気立っていたのが
確かに判った。
何かキッカケがあれば、そのまま爆発していただろう。それだけ際どい雰囲気が
自分と太一と御堂の間には流れていた。
だが、その前に…大食い大会の係の人間が自分達を探しに来て、飛び込んで来たので
特にそれ以上は何事も起こらなかった。
一度、大会議室に戻って…それから、御堂が「聞きたいことがある」と言って
克哉を連れ出して二人きりになっていた事以外は…。
―だから本多は、気が狂いそうになりながら…この30分を過ごしていた。
ここはキクチ社内で、今は就業時間中だ。
御堂と二人きりになったからと言って…克哉がどうこうされているとは
思えなかった。
けれど、あぁやって飛び込んできた御堂の剣幕を…ついさっき本多は目にした
ばかりで…だからこそ、嫌な予感は時間の経過と共に増してしまっていた。
太一があの後、どこに行ったのかは判らない。
けれど…恐らく、自分と同じ穏やかではない心境で過ごしていることは
明白だった。
そうして本多は階段を勢い良く駆け下っていくと…御堂と克哉が消えていった
小さなミーティングルームの前へと向かっていった。
間近まで近づいていくと…本多は、気配を悟られないように足音を忍ばせて
そっと聞き耳を立てていく。
瞬間、信じられない音を聞いた。
―はぁ…ん
それは、悩ましい声だった。
一瞬、誰のものかと…耳を疑った。
だが、この部屋の中にいるのは克哉と御堂に間違いないと…その事実を
思い出してからは、一気に頭に血が昇っていった。
(御堂の奴…まさか、就業時間中に克哉に手を出したのか…!)
その事に思い至った瞬間、本気で殺意すら覚えた。
フルフルと身を震わせながら…こめかみと大きな手の血管が脈動していく。
本気で扉を蹴り破りたい衝動に駆られていった。
だが、その瞬間…本多はとんでもないものを見た。
いや、最早有り得ないものだった。
「なっ…!」
そのミーティングルームの奥の廊下に、一人の人影があった。
最初は我が目を疑った。
しかし…それは、紛れもなく…。
「克哉…?」
しかも其処に立っている彼は、眼鏡を掛けていた。
久しぶりに雰囲気の変わっている克哉の方を目にしたので…本多は
唖然となった。
(えっ…? 何で克哉が外にいるんだ…? それなら、この部屋の中にいて
悩ましい声を挙げているのは一体…?)
一層訳が判らなくなって混乱していると、廊下の奥にいた人影は…
携帯電話で、時間か何かでも確認しているようだった。
そういった仕草の一つ一つが決まっていて格好良いと、つい思わず
見惚れていると…。
―そろそろだな
と、離れていてもくっきりと…彼の一言が耳に飛び込んで来た。
「何が…そろそろ、何だ…?」
本多が心底疑問そうに呟いた直後。
ピカッ!
と…周囲が眩く輝いていく。
その突然の事態に、本多は頭が真っ白になった。
「な、なんだぁぁ~!!!」
その瞬間、キクチ社内から程近い場所で…原因不明の閃光が走り抜けていった。
(な、何で克哉は…あんなに不敵な笑みを浮かべて…)
そして本多は目撃してしまった。目を灼くような眩い光が走り抜けていく直前…
眼鏡を掛けた佐伯克哉が愉快そうに、口元を上げていったのを…。
それにとても嫌な予感を覚えて、まさか…という想いが込み上げてくる。
―この閃光は、まさか克哉が…?
本多はその考えに思い至った瞬間、混乱した。
だが…眼鏡の克哉がこんな行動を取った意図が判らない。
本多は、混乱の余り…呼吸が乱れ始めていった。
―バァァァァァンン!!
そしてその瞬間、社内のスピーカーを通して…物凄い音量で、爆発音が
流れていった。
とっさに鼓膜が破れてしまう! と思わせる程の轟音だった。
大音のせいで、ビリビリビリと肌に振動が伝わってくる。
音量の派手さの割に、閃光の時と同様に…衝撃、と言われるレベルの
揺れ等は感じられなかった。
だが、原因不明の強烈な閃光と、爆音。
それらは…ビル内にいた人間を混乱と恐怖に叩き落していった。
誰もがこの突然の強烈な光に、穏やかではいられなくなったらしい。
本多が叫び声を迸らせたのを皮切りに…アチコチの部屋から、人間が
飛び出して来てパニックになり始めていった。
「何だ、何が起こったんだ…!」
「今の光と音は何! 何なのよ! 核兵器とか、爆弾とか何かなの…!」
「落ち着いて! 落ち着いて下さい! 今から原因を究明しますので持ち場から
無闇に離れたり、パニックになったりしないで下さい!」
「落ち着いてなんかいられるかよ…! 本気で爆弾か何かを社内に仕掛けられた
んじゃないのか! 早く原因究明をしてくれよ!」
ゾロゾロと廊下に沢山の人影が立ち並んでいく。
皆、顔に激しい動揺の色を浮かべて穏やかな様子ではなかった。
その中には御堂と克哉の姿もあって…ちょっとだけ一安心していく。
しかし其処でまた疑問が生じた。
ミーティングルームの中から出てきた克哉は…眼鏡を掛けていなかった。
そして余計に、本多は混乱していった。
(今の克哉は一体…?)
しかし幾ら彼が考えようとも答えなど出なかった。
そうして…就業時間終了間際に発生した謎の閃光によってキクチ社内の人間と
近隣の会社の人間は、混乱の渦に巻き込まれ、ちょっとした騒動が巻き起こって
しまったのだった―
その為以前のを読み返しやすいようにトップにリンクを繋げておきます。
バーニングクリスマス!(不定期連載) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
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―本多憲二は混乱していた
さっき起こった事が現実なのか、頭の中でグルグルと渦巻きながら
就業時間を迎えようとしていた。
本日は午後二時前後まで、営業であちこちを回っていた。
だから例の大食い大会のミーティングが終わった後、退社をする
前ぐらいは今日の成果を打ち込んで纏めて、片桐に報告しなければ
ならなかった。
しかし、あまりに仕事に手がつかない。
(何で…太一とかいう奴の他に、御堂さんまで…!)
それが、不思議だった。
そして本多の一番の謎だったのだ。
今までそんな気配を、御堂から感じたことは殆どない。
いや…プロトファイバーの営業の件が終わってからも、MGNはキクチと
繋がりを求めて来たが…この一年、直接関わって来たのは御堂と克哉の
二人で…本多は蚊帳の外だったから、気づいていなかっただけだった。
あんな風に宣言しながら飛び込んでくるなど、自分が知っている御堂のイメージと
あまりにかけ離れ過ぎていて…本当にあれは本人だったのかと疑いたくなる。
しかし…あの傲慢な物言いに、不遜で冷たい態度は紛れもなく本物だった。
(一年ぶりに会っても、イケすかない所は全然変わっていなかったよな…
あの人は…。てか、何で御堂さんまでお前は誘惑しているんだよ…。
克哉、お前が全然判らねぇよ…!)
本多としては一年以上前から、克哉のことを意識して…願うことなら
恋人関係になりたい、とずっと思っていた。
―本多はオレの大切な親友だよ
そう言い放たれても、その態度を貫かれても…一度自覚した恋心は決して
抑えられなかった。ずっと想い続けていた。
なのに…ここに来て、恋のライバルはゾクゾクと増え続けていく。
克哉に熱っぽい目を向けてくる女性社員は後を絶たず、ついでに太一や御堂まで
乗り込んできた。
冷静でなど、いられる訳がなかった。
「うぉぉぉ!!」
しまいには、混乱した頭をどうにか整理しようとうめき声を上げながら机に
頭部を擦り付けるような仕草までし始めていく。
「わわっ! 本多君どうしたんですか! 何か悩み事でも…!」
その鬼気迫る様子を見て、片桐が慌てた様子で声を掛けてくる。
「…す、すみません! 幾ら悩んでも答えが出なかったので…つい、呻いて
しまいました…!」
片桐があまりに血相変えてこちらに声を掛けてくるので…逆に申し訳
ない気分になって、こちらも急いで謝っていく。
どうしよう、本気で仕事に手がつかない。しかもこのまま部屋の中で
頭を抱え続けていたら…周囲の人間にいらない心配を掛けたり、奇異な
眼差しを向けられることは必死だった。
(ちょっと外の空気を吸ってきた方が良いな…気分転換しないと、マジで
頭がおかしくなりそうだ…)
そう判断し、本多は勢い良く立ち上がっていくが…勢い余り過ぎて、盛大に
椅子から転げ落ちていった。
「うおっ!」
ドンガラガッシャン!
まるでコントか、漫画の中のように本多の巨体が盛大に八課内の床の上に
滑って転がっていった。
「あぁ!! 本多君! 本当に大丈夫ですか! 頭は打っていないですか!
怪我はないですか! 報告は今日は良いですから…もう帰って良いですよ!
さっきから見ていても、全然仕事に手がついていないみたいですし!」
片桐がまたもやアタフタとして本多の元に駆け寄り、労わりの言葉を掛けていった。
…普段、優柔不断で少し頼りない人だなと感じることは多々あっても…
優しい人である事は紛れもない事実で。
混乱していたり、傷ついている時に片桐がこうやって気遣ってくれると…
心に染み入った。
「うっ…すみません。今日は片桐さんの言葉に甘えます…! それじゃあ…!」
片桐の言葉を聞いて、これ幸いとばかりに…その場から立ち上がって自分の
カバンを手に取っていくと…本多は部屋から出て行った。
そうして本多は駆け足で…御堂と克哉が、打ち合わせをしている筈の
会議室へと急いで向かっていく。
さっき起こった出来事を思い出して…本多はハラワタが煮えくり返りそうな
気持ちになっていった。
―彼のことを、私は一切譲るつもりはない。スタートラインにすら立っていない
君達には特にな…
自信満々に、そう言い放っていった。
意味深な表情を浮かべながら、そんな事を言い放った御堂に…太一も自分も
本気で怒りを覚えた。
―スタートラインにすら立っていない
その一言が、無性に腹立たしく聞こえたからだ。
一食触発の空気だった。ピリピリピリと…空気が殺気立っていたのが
確かに判った。
何かキッカケがあれば、そのまま爆発していただろう。それだけ際どい雰囲気が
自分と太一と御堂の間には流れていた。
だが、その前に…大食い大会の係の人間が自分達を探しに来て、飛び込んで来たので
特にそれ以上は何事も起こらなかった。
一度、大会議室に戻って…それから、御堂が「聞きたいことがある」と言って
克哉を連れ出して二人きりになっていた事以外は…。
―だから本多は、気が狂いそうになりながら…この30分を過ごしていた。
ここはキクチ社内で、今は就業時間中だ。
御堂と二人きりになったからと言って…克哉がどうこうされているとは
思えなかった。
けれど、あぁやって飛び込んできた御堂の剣幕を…ついさっき本多は目にした
ばかりで…だからこそ、嫌な予感は時間の経過と共に増してしまっていた。
太一があの後、どこに行ったのかは判らない。
けれど…恐らく、自分と同じ穏やかではない心境で過ごしていることは
明白だった。
そうして本多は階段を勢い良く駆け下っていくと…御堂と克哉が消えていった
小さなミーティングルームの前へと向かっていった。
間近まで近づいていくと…本多は、気配を悟られないように足音を忍ばせて
そっと聞き耳を立てていく。
瞬間、信じられない音を聞いた。
―はぁ…ん
それは、悩ましい声だった。
一瞬、誰のものかと…耳を疑った。
だが、この部屋の中にいるのは克哉と御堂に間違いないと…その事実を
思い出してからは、一気に頭に血が昇っていった。
(御堂の奴…まさか、就業時間中に克哉に手を出したのか…!)
その事に思い至った瞬間、本気で殺意すら覚えた。
フルフルと身を震わせながら…こめかみと大きな手の血管が脈動していく。
本気で扉を蹴り破りたい衝動に駆られていった。
だが、その瞬間…本多はとんでもないものを見た。
いや、最早有り得ないものだった。
「なっ…!」
そのミーティングルームの奥の廊下に、一人の人影があった。
最初は我が目を疑った。
しかし…それは、紛れもなく…。
「克哉…?」
しかも其処に立っている彼は、眼鏡を掛けていた。
久しぶりに雰囲気の変わっている克哉の方を目にしたので…本多は
唖然となった。
(えっ…? 何で克哉が外にいるんだ…? それなら、この部屋の中にいて
悩ましい声を挙げているのは一体…?)
一層訳が判らなくなって混乱していると、廊下の奥にいた人影は…
携帯電話で、時間か何かでも確認しているようだった。
そういった仕草の一つ一つが決まっていて格好良いと、つい思わず
見惚れていると…。
―そろそろだな
と、離れていてもくっきりと…彼の一言が耳に飛び込んで来た。
「何が…そろそろ、何だ…?」
本多が心底疑問そうに呟いた直後。
ピカッ!
と…周囲が眩く輝いていく。
その突然の事態に、本多は頭が真っ白になった。
「な、なんだぁぁ~!!!」
その瞬間、キクチ社内から程近い場所で…原因不明の閃光が走り抜けていった。
(な、何で克哉は…あんなに不敵な笑みを浮かべて…)
そして本多は目撃してしまった。目を灼くような眩い光が走り抜けていく直前…
眼鏡を掛けた佐伯克哉が愉快そうに、口元を上げていったのを…。
それにとても嫌な予感を覚えて、まさか…という想いが込み上げてくる。
―この閃光は、まさか克哉が…?
本多はその考えに思い至った瞬間、混乱した。
だが…眼鏡の克哉がこんな行動を取った意図が判らない。
本多は、混乱の余り…呼吸が乱れ始めていった。
―バァァァァァンン!!
そしてその瞬間、社内のスピーカーを通して…物凄い音量で、爆発音が
流れていった。
とっさに鼓膜が破れてしまう! と思わせる程の轟音だった。
大音のせいで、ビリビリビリと肌に振動が伝わってくる。
音量の派手さの割に、閃光の時と同様に…衝撃、と言われるレベルの
揺れ等は感じられなかった。
だが、原因不明の強烈な閃光と、爆音。
それらは…ビル内にいた人間を混乱と恐怖に叩き落していった。
誰もがこの突然の強烈な光に、穏やかではいられなくなったらしい。
本多が叫び声を迸らせたのを皮切りに…アチコチの部屋から、人間が
飛び出して来てパニックになり始めていった。
「何だ、何が起こったんだ…!」
「今の光と音は何! 何なのよ! 核兵器とか、爆弾とか何かなの…!」
「落ち着いて! 落ち着いて下さい! 今から原因を究明しますので持ち場から
無闇に離れたり、パニックになったりしないで下さい!」
「落ち着いてなんかいられるかよ…! 本気で爆弾か何かを社内に仕掛けられた
んじゃないのか! 早く原因究明をしてくれよ!」
ゾロゾロと廊下に沢山の人影が立ち並んでいく。
皆、顔に激しい動揺の色を浮かべて穏やかな様子ではなかった。
その中には御堂と克哉の姿もあって…ちょっとだけ一安心していく。
しかし其処でまた疑問が生じた。
ミーティングルームの中から出てきた克哉は…眼鏡を掛けていなかった。
そして余計に、本多は混乱していった。
(今の克哉は一体…?)
しかし幾ら彼が考えようとも答えなど出なかった。
そうして…就業時間終了間際に発生した謎の閃光によってキクチ社内の人間と
近隣の会社の人間は、混乱の渦に巻き込まれ、ちょっとした騒動が巻き起こって
しまったのだった―
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性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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