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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―果たしてそれはどんな運命の悪戯であったのか。

 彼の弾は、誰も傷つけない筈だった。
 周囲には、甘い香りが充満し始めていた。
 そう、眼鏡がこんな派手な立ち振る舞いをしたのは…全ては時間稼ぎの為だった。

 克哉の命が狙われている。
 それは太一の父親が指示している。
 この二点を告げないまま、克哉を浚うような真似をすれば…太一は死ぬ物狂いに
なってもう一人の自分を探すだろう。
 だから、事実を促した上で…あくまで避難という名目を伝えて警告していき、
挑発して…Mr.Rが焚いたその場の人間を痺れさせる香の効力が出るまでの
間…彼は無駄に、太一と会話を続けていた。
 眼鏡は中和剤を飲んでいるから、香の効力が出てからも自由に動ける。
 それから悠々ともう一人の自分をこの屋敷から連れ去る…筈だった。

―だが、目の前の光景は…彼らが立てた計画の全てを打ち砕いてしまっていた。

 銃弾が響き渡ると同時に、鮮やかに赤い花が周囲に飛び散っていく。
 それは舞い散る桜の花びらではない。
 人の身体から溢れ出る、血飛沫だった。
 たった今放たれた銃弾は、命中した人間の動脈を深く傷つけて…勢い良く血を
迸らせていく。
 嗚呼、淡い桜の花弁と…その鮮やかな赤は、闇の中で酷く映えていた。
 おぞましいくらいに美しい、もう一人の鮮やかな華。

 その場にいた人間は、絶叫すら上げることも出来ずに…その光景を魅入られたように
見守る事しか出来なかった。
 最初に悲鳴を上げたのは…この一ヶ月ばかり、人形のように何の感情も表さなく
なっていた克哉だった。

―うわぁぁぁぁぁぁ!!!

 長らく意識を閉ざしていた彼が、絶叫を挙げていく。
 それくらい、今…目の前で起こった出来事は彼に衝撃を与えたのだ。
 身体全体を大きく震わせながら、彼は不自由な身体を必死に…今、打たれたばかりの
人物に向かって延ばしていく。

―あ、ああぁ…うっ…あぁ…。

 あまりのショックに、言葉になっていなかった。
 ただ、壊れた機械のように単語になっていない声を喉の奥から漏らしていく。
 本当なら、彼の名を呼びかけたかったのだろう。
 だが…長らく意識を閉ざしていた彼には、そんな事すら侭成らなくなってしまっている。

―若っ!! しっかりしてくだせぇ!

 克哉が叫ぶのと同時に周りにいた人間の呪縛もようやく解けていった。
 そう…今、銃弾を受けたのは…狙われていた克哉ではない。
 反射的に彼を救おうと、克哉の前に立ちふさがった太一の方だった。
 至近距離で打たれたせいか、銃弾は彼の左胸と鎖骨の間くらいの位置を貫通して
大量の出血を溢れさせていた。
 心臓は辛うじて避けていたが、動脈は傷つけてしまっていた。
 だから…今も物凄い勢いで、彼の命の証である血液は流れ続けている。
 あまりの予想外の出来事に、眼鏡は…立ち竦むことしか出来なかった。

―知らぬ間に、形勢は逆転していた。

 太一は荒い呼吸を吐いて、ゼーゼーと苦しそうな呼吸を繰り返していた。
 青年の身体に、耐え難い激痛が襲い掛かる。
 皮肉にもそのおかげで、彼は意識を辛うじて保っていられた。
 目が霞んで、苦しくて…痛くて、全身から脂汗すらじっとりと浮かんでいく。
 だが、彼は…最後の気力を振り絞って眼鏡を睨みつけて…こう叫んでいった。

―あんたに一時、預けておく…だが、絶対に片付いたら克哉さんを
返して貰うからなっ! 絶対に忘れるなよっ…!

 今の彼は、そうとしか言えなかった。
 この男が言っていた話が事実だったと…今、この身を持って彼は
知ったばかりだからだ。
 本当に自分の父親がその依頼をしたかどうかまでは…現段階では判らない。
 けれど一つだけはっきりしているのは、克哉の命が狙われているのは事実だと
彼は認めた。
 だから、苦渋の選択で…彼は克哉を手放す決意をした。

―俺は、死なない! この傷が癒えたら…克哉さんを絶対にあんたの元から
連れ戻させて貰う! それまでには…この人の命を狙う奴の全てを一掃してやるっ!
 だから覚えておけ! …預けるだけ、だ! その人は渡さない! 絶対に…!
 あんたが一時避難だと言ったから、任せるだけだ…!

―もうしゃべらないで下さい! 若、傷に触ります!

―野郎共! 早く病院の手配をせんかっ! 一刻を争うぞぉ!!

 眼鏡は鬼気迫る様子で、全力を振り絞ってこちらに訴えかけてくる太一の
形相から目を逸らせなかった。

(何でこいつは…そこまで、コイツに執着するんだ…?)

 もう人形のようになって、自分の意思で動きもしないのに。
 飲食すらも拒んで、自らを死においやるような真似をし続ける奴に…どうして
この男は我が身を差し出してでも庇い、絶対に取り戻すと…こちらに啖呵を
切り続けるのだろうか。

―克哉、さん…克哉、さん…!

―あぁ…ぅ…あっ…!

 克哉は、泣きながら…満足に動かない指先を必死になって…血まみれになっている
太一に延ばしていく。

―俺、死なないからね…待って、て…がっはっ…!

 克哉の指先にようやく、手を伸ばして握り込んでいくと同時に彼は微笑み…
その瞬間、再び口から大量の鮮血を吐いていく。
 壮絶な光景だった。
 だが…其処に確かに克哉に対しての強い想いが存在していた。

 皮肉な話だった。
 克哉はもう二度と見れないと諦めて、絶望に陥って…自らを閉ざしてしまった。
 だが…そのかつての彼とまったく同じ微笑みを、こんな…克哉を庇って自らの
命を危険に晒したその時に…一年ぶりに見れたのだから。

―た、いちっ…! やだっ…! 死んじゃ…いやだぁぁぁ!!

 初めて、克哉は…閉ざしてからまともな言葉を紡いでいった。

―いやだぁぁぁ!!

 克哉は半狂乱になっていた。
 そんな彼を安心させるように…太一は優しく、笑っていく。
 それが余計に…この場の悲壮感を濃厚にしていた。
 克哉が暴れて、必死になって太一に縋りついていく。
 だが…そんな真似をすれば、他の人間は太一に近づけなくなってしまう。
 彼は一刻を争う重傷を負っている。
 眼鏡は…これ以上、迷っている暇はないと思った。

『ちっ…いい加減にしろっ! 泣き叫んで現状の何が変わる! 邪魔をするだけなら…
大人しく黙っていろっ!』

 二人の元に駆け寄ると、ジタバタとみっともなくもがくもう一人の自分を無理矢理
太一の身体から引き剥がし、みぞおちに拳を入れていく。
 綺麗にその拳が、胸の肋骨の下部のくぼみの部分にめり込んでいく。

―はっ…うっ…!

 短く呻くと同時に、克哉は意識を失った。
 ぐったりと彼の腕に凭れ掛かるその身体の軽さに驚いていく。
 自分と克哉は、ほぼ同じ体格の筈だからこそ、その落差に彼は再び愕然とする。

―仕方ねぇ! 早く救急車を呼べぇ! このままじゃ…若がっ! 若がっ!

 周辺は、相変わらず騒然としていた。
 誰も今は、眼鏡と克哉の事など構う余裕はなかった。
 ただ…大量の血を流しながら瀕死の状態に陥っている太一を助けることだけに
五十嵐組の面々の意識は向けられていた。
 どうやら突然のアクシデントによって、途中まで撒かれていた痺れさせる効果の
ある香は中断されていたようだった。
 その場にいる人間の誰もが、普通に行動し…太一を救おうと、各自必死に
なって屋敷中を駈けずり廻っていた。

 逃げ出すには絶好のタイミング。
 だが其処から立ち去るのは…酷い罪悪感が伴った。

―何を立ち尽くされておられるのです? 今こそ…もう一人の貴方を連れて
逃げ出す絶好の機会でしょう? 私の方は…今、この屋敷の裏門の外へと
黒い車に乗って待機しています。そこまで、いらっしゃって下さい…

 いきなり、Mr.Rの声が頭の中に響き渡っていく。

 太一の血飛沫をまともに受けて、血まみれのもう一人の自分。
 これを連れて歩いて逃走するのは、確かに問題があった。

『ちっ…もう、迷っている暇はない…!』

 たった今、起こった出来事に頭はまったくついていけてなかった。
 しかし彼は思考を切り替えて、もう一人の自分と肩を組んでその場からの
離脱を計っていった。

 計画は大幅に狂いまくって、とんでもない方向へと突き進んでしまった。
 だがもう…歯車は動き始めてしまったのだ。
 どれだけ、こんな筈ではなかった! と嘆いたとしても起こった事はもう
変える事は出来ない。
 それなら…その時出来る精一杯の事をするしかないのだから…!

『行くぞ…オレ!』

 そう声を掛けて、二人は百花繚乱な庭園を後にしていく。
 そうして、太一から…もう一人の自分を奪還するという計画は予想外の
形で終結していった。

 ―その夜から、五十嵐太一は…半月ばかり、死線を彷徨い続けたのだった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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