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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―あの桜の夜の記憶が蘇り、眼鏡は苦い想いが広がっていくのを
感じていった。

 確かに太一と克哉の関係は、ある日を境に歪んだものへと
変わってしまった。
 けれど…克哉の命が危険に晒された時、我が身を盾にしてでも
庇うだけの強い愛情を抱いていたのも確かで。

(厄介だな…)

 どうして、あの男はこんな感情を自分が抱いてしまった事を
見抜いて、残酷な現実を突きつけるような真似をするのだろう。
 何故、自分は…こんな感情を『オレ』に抱くようになったのか。
 最初は深入りをしないように気をつけていた。
 いずれ、危険が去ったら…こいつは、太一の元に戻すのだからと。
 もう一人の自分が死ねば、自分もこの世界に存在する拠所を
失ってしまうから。
 自分がこいつの面倒を見て、守るのはそれだけが理由だと…
必死に思うように努めていた。

 四肢に刻まれた黒い痕。
 それはこの一年、克哉を手中に収め続けた太一の独占欲の証だ。
 いつから…自分は、思うようになったのか…?
 そんな疑問を抱いた瞬間、再び世界は暗転していく。

 最後の夢の記憶は、眼鏡の中にこの厄介な想いが宿ってしまった日の
出来事だった。
 最初の頃は、半狂乱になって…Mr.Rが用意した薬も飲食物の類も
意識がない癖に暴れ続けて、受け付けなかったので手を焼き続けた。
 面倒看ている眼鏡の方が生傷が耐えなくなり、もうこんな奴なんて知るか! と
放り出したくなった事は数え切れないくらいだった。

 当然、最初はイライラムカムカしている事が多く…だからといって太一に
帰すと約束しているものに手をつける気もサラサラなかった。
 そんな真似をしたらややこしい事になるのは目に見えているし…肉が極端に
落ちた克哉の身体は、眼鏡にとっては魅力的には映らなかったからだ。
 だからその時期は…止むを得ず、口移しで薬や食事、水分の類を少しずつ
与えはしていたが…抱くことはなかった。
 意識のない相手を抱いたってつまらないと判りきっていたからだ。

 ただ…その時期から射撃訓練は始めていた。
 太一の父親の手の人間が再び放たれた場合、意識のない克哉を守る
必要性はあったからだ。
 応戦できなければ克哉は殺される。そして彼が死ねば自分も消える。
 だから最初は、自分の為に訓練も始めた。
 威嚇の為に放った一発が、予想外の事態を招いた苦い経験もまた…
彼に真剣に訓練に打ち込ませる大きな動機になっていた。
 
―故意ではなかったといえ、偶然とはいえ…不用意に放った一発で彼は銃で人を殺めた。
それは事実だったからだ。

 二週間に渡る訓練と、介護の日々。
 一人の意識がない人間の面倒というのは、綺麗ごとでは済まされない。
 特に克哉と自分は同体格とはいえ、かなり長身の部類に入るのだ。
 最初の頃は体力が何度限界を迎えたか判りはしない。
 だが…少しずつ克哉の抵抗が収まって、こちらが与える度に大人しく飲み込んで
くれるようになった辺りから、不覚にも自分は愛着を覚え始めてしまった。
 
(どうして…俺はこいつの面倒など、看ているんだろう…?)

 それは月が綺麗な夜だったことを覚えている。
 一日の仕事をどうにか終えて…ベッドの上で眠っている克哉の姿を見下ろしている
時、しみじみとそんな事を考えていた。
 ベッドサイドに腰を掛けながら、ぼんやりとそんな事を考えて…相手の方へと
振り返るような体制でその寝顔を眺めていた。

―その時、何かを探るようにもう一人の自分の手が蠢き…こちらの手を
キュッと握り締めてきたのだ。

 最初は、何が起こったのかびっくりした。
 もう一人の自分がこんな風に…意識を失った状態でこちらの手を
握ってきたことなど初めての事だったから…

「お、水…」

 掠れた、消え入りそうな声で…克哉が呟いていった。

「あぁ…そうか。そういえば…今日は昼からこいつに…飲み物の類は与えて
いなかったな…」

 そろそろ、こちらも疲労のピークに達していたので…そういえば夕食に流動食と
スープは与えたが…純粋な水分は確かに普段より与えていなかった気がした。
 恐らく、極限まで喉が渇いたからこその…無意識の行動だったのだろう。
 けれど…縋るように握られたその指の力は弱々しくて、却って乱暴に振りほどく
には躊躇いが出るほどであった。

「喉、痛い…」

 無意識の言葉。
 弱々しく、儚い声で必死になって…こちらに呼びかけてくる。
 それが却って、こちらの庇護欲を刺激したのかもしれない。
 自分のような人間に、そんなものがあったのか…眼鏡は少し驚いたが。

「…仕方ないな。今、冷たい水を持ってきてやる…」

 そうして、一旦ベッドの上から立ち上がると…キッチンから、程好い温度に冷やされた
水を一杯持ってきてやった。
 そうして再び傍らに腰を掛けて、グイと煽っていくと…いつものように口移しで
ゆっくりと慎重に与えていってやった。
 最初の頃はスプーンやスポイトで与えたりもしていたが、まどろっこしくなったので
両腕を押さえつけながら強引に嚥下させる口移しをメインにやるようになった訳だが。

コクン…。

 今夜は、彼自身が水を欲していたのでいつになく大人しく…こちらが
与えた水を飲み込んでいった。

「ん…」

「最近は大人しく、飲みようになったな…旨いか?」

 返事が戻って来ることはないと承知の上で…つい、そんな事を尋ねながら
そっと髪を梳いていってやる。
 …こうやって毎回、大人しく飲んでくれるならば可愛げがあるものを…。
 そんな事を思いながら溜息交じりに…こいつの頭を撫ぜていってやると…。

「…っ!」

 不意打ちを、食らった。
 いきなり…ひどく安心したような表情をこいつが浮かべたからだ。
 微かに微笑んでいるような、安堵しきっているような顔だった。
 面倒を見るようになって…こんな顔をコイツを浮かべたのは本当にこの夜が
初めての事で…信じられないようなものを見るような眼差しで、眼鏡はその
寝顔を眺めていった。

―コイツが、俺の前でこんな顔を浮かべるなんて…初めて、だな…

 それは不覚にも…相手からやっと気を許してもらったような、そんな
気分になって悪くなかった。
 いや…むしろ、可愛いとすら思い始めて来ていた。

 更に相手の髪を梳いていってやる。
 それでも、安心しきったように克哉は眠り続けていた。
 その度にジンワリと…胸に暖かなものが広がっていくような気になった。

 そう…恐らく、克哉に好意を抱くようになったのは…この夜からだ。
 初めて、大人しくこちらが与えた水を飲んで…警戒心を解いてくれた。
 その様子を見た時に…眼鏡の心は引き寄せられてしまった。
 知らない内に、顔を寄せてしまっていた。

―やめろ、面倒な事になるぞ…

 理性の声が、頭の中で響き渡る。
 けれど、もう止める事は出来なかった。
 散々、口移しはしてきた。
 けれどそれは克哉に水や食事を与える為の人工呼吸や人命救助の
延長戦にある行為でしかなかった。

 けれど…この日、この口付けだけは違った。
 彼の意思で、ゆっくりと…その唇を寄せて、淡く重ねていく。
 まるで…麻薬のように、ジイン…と甘い快楽がそこから広がっていった。

(甘いな…)

 もっと味わってみたくなって、唇を舐め上げていく。
 …気持ちよかった。
 自覚した時、かなり悔しくなるくらいに…可愛いと思ってから、克哉に
口付けて…快楽を自分は感じてしまっていた。

―この夜から、変わってしまった。

 帰したくないと。
 出来るならこの日々が続いて欲しいと、そんな事をいつしか
望むようになってしまった。
 袋小路のような想い。
 救いはきっと、この先進んでも存在しないだろう。
 けれどこの記憶を想いだした時、彼は自覚するしかなかった。

 ―自分は、もう一人の『オレ』
 佐伯克哉に想いを寄せてしまっている事に―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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