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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―その朝の目覚めは、最悪だった。

 思い出したくない記憶をMr.Rに強引に改めて見せつけられて、
今の状況が極めて厄介になってしまっている事を再認識したせいで
彼の機嫌はすこぶる悪かった。

(あの男は…自分がキッカケを作っておきながら…。絶対にあいつは
この状況を楽しんでいるよな…)

 そう、自分やもう一人の『オレ』、そして太一の三人が苦しみもがいて
運命に踊らされている様を実に楽しげに眺めているのだろう。
 昨晩だってそうだ。
 あの男は明らかに傍観者という立場で…自分達の間に起こった事件を
愉しみながら見守っている。
 なら、『オレ』に情が移ってしまって…こうやって強引に身体を繋げて
しまった事もアイツの予定に入っていた事なのだろうか?

―そんな事を考えている内に、一層胸くそが悪くなった。

 ふと、ベッドから身体を起こそうとして気づいていく。
 …昨晩、眼鏡の隣で意識を失っていたもう一人の自分の姿がどこにも
見当たらなかったからだ。

(あいつは…どこに行ったんだ…?)

 二週間前、目覚めた当初はまったく自分で身体を動かせなくなっていた
彼も…今では最低限の身の回りの事は自力で出来る程度には回復していた。
 だから、彼の姿が見えないからといって…本来なら心配することでは
ないのかも知れないが…。

「もしかしたら、全てを思い出して…俺の元から、逃げたのかもな…」

 らしくない、弱気な発想だったが…それくらい、克哉が太一の事を
思い出してしまったことは彼にとっては衝撃だった。
 いつかはこの日が来る事は、覚悟していた。
 あの強制的に記憶を奪う薬は…永続的に続くものではない。

 忘却、という…辛い記憶を意識の底に沈める行為は、人が自分を立て直す
為に無意識の内に行うものだ。
 記憶喪失というのも、心を守る為に行う防御作用の最たるものと言って良い。
 実際に一時的に忘れたからと言って、その記憶そのものは…記憶の保持を
司る「海馬」という器官が破壊されない限り、本当の意味で失われることはない。
 Mr.Rが調合したあの薬も…強制的に関連した記憶を封じてしまう代物だが、
飲まされた本人が思い出す事を望んだり、一定の期間が過ぎれば…自然と
思い出すと言っていた。
 
 ただ思い出すまでには個人差があって…一ヶ月程度から、長くて1年。
 …それくらいまでは猶予があると、信じたかった。
 だが実際はニ週間で克哉は、思い出してしまった。

「それだけ…あいつにとって、太一は特別な存在という事か…」

 投与を始めてから目覚めるまで一ヶ月掛かって…そうやって忘れさせても
二週間で思い出してしまう。
 それだけ…克哉の中で太一は大きな存在なのだろう。
 改めてその事実を思い知らされて、深い溜息を突く。

(こんな面倒な事になるのなら…最初から断れば良かったな…)

 ここまで、自分の中で…克哉の存在が大きくなるなんて、予想も
していなかった。
 意識のない状態で、一ヶ月…毎日のように世話をした事がキッカケに
なってしまったのだろう。
 手放したく、なかった。帰したくなかった…。
 そして…太一の親が、我が子を元に戻そうと命を狙うというのならば…
全力で守りたいと思うまでになってしまった自分の気持ちの変化に、彼自身
戸惑いを感じていた。
 想ったとしても…あいつの気持ちはきっと、太一に向いてしまっているのに。
 報われないと承知の上で、こんな感情を抱いてしまった自分の滑稽さに
自嘲的な笑いを浮かべていく。

「…ったく、俺らしくない…。こんな後ろ向きな事ばかり考えているなど…」

 そう呟きながらベッドの上から起き上がっていく。
 痛い記憶を無理矢理引き出されたせいで、身体は鉛のように重く感じられた。
 それでも…身体は水分を酷く欲していて、その渇きを癒す為に…頼りない
足取りで台所の方へと向かっていく。

(あぁ…そういえば、今朝はいつもよりも…寝過ごしてしまったな…)

 あいつが目覚めてから今日で15日目。
 その期間、いつだって自分は五時には目覚めて、色んな事の準備や
銃の訓練等を真面目にこなしていた。
 けれど、今朝は…何もやる気になれなかった。
 ついに思い出してしまったのなら…強引に身体を繋げていた自分の事を
克哉がどう思っているのか。
 それが不安で…気持ちがモヤモヤして…昨日まで強く感じていた使命感に
似た感情が鈍ってしまっていたのだ。
 
 何とも思っていないのなら、相手に嫌われようと関係ない。
 自分の勝手にさせてもらえばいいだけの話だ。
 だが…想いを自覚してしまった後で、相手に嫌われてしまったり
距離を置かれてしまうと…流石に辛かった。
 こんなことをグルグルと考え続けていても何もならないと…自分に
だって判っている。
 こんなみっともない自分、認めたくなかった。

 ガチャ…

 台所に繋がる扉を開けて、中に入っていくと…其処には先客がすでにいた。

「あ、起きたんだ…おはよう。朝食作っているんだけど…お前、食べれそうかな?」

 そこには、裾が長いパジャマの上だけを羽織った格好の克哉が立っていた。
 ゆったりと作業しやすいように設計されたシステムキッチンで…どうやら
今はフライパンで目玉焼きを作っている最中のようだ。
 その隣にはヤカンが置かれていて、勢い良く湯気を迸らせている。
 そして、コンソメスープの良い香りが辺りに漂っていた。
 どこからどう見ても…朝食を用意してくれている図にしか見えない。
 まったく想定していない光景にいkなり出くわして、眼鏡の方はその場に
思いっきり固まってしまっていた。

「はっ…?」

 いきなり、予想もしていなかった姿で出迎えられて、何事もなかったかのように
サラリと声を掛けられていくと…眼鏡はどうして良いのか判らなくなってしまった。

(何故、そんなに露出度の高い格好で…朝食など作っているんだ…お前は…)

 せめて、パジャマのズボンくらい履いてくれと…心底突っ込みを入れたく
なったが辛うじて飲み込んでいく。

「それよりも、何故…今朝は朝食をお前が作っているんだ…?」

「…だって、お前にばかり面倒見られて、悔しかったから。最初の頃は…
確かに無理だったけれどいつまでも…甘えていたくなかったし。
 だからこれくらいはやろうと思って、今朝は挑戦してみたんだけど…
嫌だったかな?」

「いや…嫌だ、という訳ではないが…」

口ごもりながら否定していくが、頭の中ではつい本音が浮かんでしまっていた。

(まったく予想もしていない展開だったから戸惑っているだけだ…)

「そう、嫌じゃないのなら…早く席に座って。もうじき目玉焼きも焼き
上がるからさ…」

「あ、あぁ…」

 呆然となりながらも、つい眼鏡が反射的に頷いていくと…。

 ―ニコリ、と嬉しそうに…もう一人の自分は目の前で微笑んでみせたのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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