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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※去年暮れに、まだR発売以前に…知り合いの管理人さんに
澤村がネギ臭いとか、可哀そうな子だとか洗脳されてしまった時に
ひょっこりと書いてしまった作品です。
 諸事情によりお蔵入りしていたので、掲載しますわ。
ギャグですので、それを承知の上でお読み下さいませ~。


『うざい男』  
               
それは春先に澤村と再会して、暫くが経った辺りの頃だった。
 春から夏に移り変わる六月の初めの時期。
 佐伯克哉は多少の残業をこなしてキクチ・マーケティングを退社しようと
タイムカードを押して玄関に差し掛かった頃に…予想もしていなかった人物の姿を
発見してビクっと肩を揺らしていった。
 
(ど、どうしてあいつがうちの会社の前にいるんだよ…!)
 
 玄関の扉の前に立っている人物の名は澤村紀次。
 青み掛かった髪に、赤いフレームの眼鏡。そしてばっちりとノリの利いたスーツに
身を包む彼の姿は…就業時間を迎えて行き交う人々の目を良く惹いていた。
 時々、周囲を見渡しながら何かを探しているのが…そしてそれは恐らく
自分の事であろう事はすぐに察する事が出来た。
 彼と再会したのは数ヶ月前、桜が満開に咲き誇っていた時期であった。
 だが、彼自身は…こちらの小学校時代の親友で、自分とは色々あった存在だと
言い張っていたが、克哉からしたら彼は殆ど知らない人間も同然で…どれだけ
色んな話をされてもさっぱりと思い出す事がなかった。
 
―すみません、どれだけ色んな話をされてもオレにはどうしても…
貴方の事を思い出すことは出来ません
 
 散々相手から話を引き出した挙句に、そう言わざるを得なかった時…
克哉は本当に申し訳なさそうに頭を下げていった。
 克哉からしたら、これで…これっきりの縁になるだろう。そう覚悟していったのだが
…その次の瞬間、相手はとんでもない事を言い出した。
 
―なら、僕の事を思い出すまで…お前の傍にいるとしようか
 
 その一言を聞いた瞬間、「はあ?」と克哉は大声で叫んでしまった。
 だが、相手は至って真面目だった。その結果…自分と澤村は奇妙な
関係を続けることになってしまった。
 
(はあ…うっとおしいな。ただでさえ梅雨を迎えて…ジメジメして気持ちは
浮かないっていうのに…。あいつが帰り際に待っていたら、素通りは
出来ないしな…。こういう日に限って本多はいないしな…)
 
 プロトファイバーの一件以後、同僚の本多とは良き仲間…親友という
間柄にまで自分の中では昇華していた。
 そして何故か、本多と澤村は犬猿の仲というか顔を突き合わせると
ケンカばかりなので…克哉は澤村がうっとおしくなると、本多に一声を
掛けて帰宅する事も多かった。
 それで最近は見かけなくなっていたのに…また性懲りもなく現れた男を
チラリと見て、克哉は深い溜息をついていった。
 
(あぁ…もう、どうしよう。最近…『俺』が、本多でも澤村でもあんまり
仲良くしていると不機嫌になるんだよな…)
 
 克哉からしたら、澤村も本多も嫌いではないのだが…もう一人の
自分の不興を買うのだけがちょっとだけ気が重かった。
 いっそこの場で踵を返して、回れ右でもして裏口からでも帰ってやろうかと
いう考えが過ぎった途端、間が悪い事に相手に見つかってしまった。
 
「あっ…克哉君! 良かった…やっと君に会えた!」
 
 目が合った瞬間、花を飛ばしかねない勢いで相手が満面の笑みを
浮かべていく。
 その顔を見ると…ちょっと煩わしいと思いつつも、相手に対してあまり
酷い態度は取れなくなってしまう。
 
(まったく…こんなに嬉しそうな顔をされると、あんまり冷たい態度は取れないよな…)
 
「…こんばんは、澤村。ここでもしかして…オレを待っていたのか…?」
 
「…それ以外の理由で、僕がこんな小さな会社に足を向ける理由が
あると思うのか?」
 
(相変わらず自信満々の奴だよな…こういう所は『俺』にちょっと似ているんだよな…)
 
 そう思うとちょっとだけ邪険にし辛くなっていく。
 だが相手はそんな事を思っている間に一気に間合いを詰めてくる。
 こんなに間近に来なくても良いんじゃないか? と突っ込みたくなる
ぐらいに男は克哉の方へ歩み寄っていった。
 
「…おいおい、せっかくかつての親友が訪ねて来たっていうのに…何だって
君はそんなに後ずさるんだ」
 
「いや、御免…反射的につい…」
 
(あんまり密着されても困るんだよな…『俺』が機嫌悪くなっちゃうから…)
 
 口では謝りつつも、相手に対してつい文句を呟きながら克哉はさりげなく
澤村に向かって距離を取っていった。
 
「…それで、こんな大雨の日に一体こちらに何の用なんだよ? 出来れば
手短に済ませてくれると嬉しいんだけど…」
 
 社内を一歩出れば、ザーザーと音を立てながら大雨が降り注いでいる。
 そんな中でどこかに連れ回されるなど御免だったのでつい…克哉は
無意識の内に不愉快そうな表情を浮かべてしまっていた。
 
「あぁ…そうだな。君に一つ頼みがあってな…あのね…」
 
「うん…」
 
 
『僕とプリクラを記念に一緒に撮影して
くれないか…!』
 
「………はあ?」
 
 一瞬、何を言われたのか把握できなくて少し間を置いてから克哉が
呆れた声を漏らしていく。だが相手は限りなく真面目だった。
 
「…あの御免、お前って…今、正気なのか?」
 
「…酷い言われようだな。…かつての親友と一枚ぐらい記念撮影をしたいと
いう俺の熱い想いを理解してはくれないのか…?」
 
「…頼むからそれなら、普通にデジカメを用意して来てくれ。それなら一枚
ぐらいなら付き合ってあげても良いけど…どうしてよりにもよってプリクラなんだよ!」
 
 26歳の立派な成人男子同士が顔を突き合わせて一緒にプリクラを
撮影するなど…思いっきり寒すぎる光景過ぎて泣きたくなる。
 八課内にてMr.KYの名を欲しいままにしている本多でさえ今までそんな
提案を持ちかけた事などなかった。
 …まあ、土産物に松本城の模型を買って来るような困った部分は多々あるが。
 
「プリクラの方がその…『親友』とか、『仲良し!』みたいな感じを強調出来るだろ!
 …僕の事を忘れるなんて酷い仕打ちをしているんだから、それぐらいは
付き合ってくれても良いだろ!」
 
「…そ、それは…」
 
 相手の事を自分は一欠けらも覚えていない、という件を指摘されると
克哉もつい言葉を言いよどむしかなくなってしまった。
 
「…君が付き合ってくれないのなら、ここでいつまでも僕はOKして
くれるまで毎日のように待ち続けるぞ…!」
 
「はっ…?」
 
 そう言い放った瞬間、澤村の目はマジだった。思わず克哉は相手の
正気を疑ったが…何を言おうがしようが、引きそうにない空気だけは満々だった。
 
「お前なぁ! それは普通、ストーカー行為と言わないか!」
 
「何を言う…ちゃんと僕は妥協案を君に提示しているぞ! 君が今日…
これからプリクラを一枚撮るのを付き合ってくれたら今日ぐらいで
止めておくさ。さあ…克哉君、どうするんだ…?」
 
「ど、どうって…判った。毎日、そんな理由で会社の前に待ち伏せされたら
迷惑だし…仕方ないから付き合うよ」
 
「仕方ないとは失礼だな…。 まあ、良い。…これで交渉成立だな。
という訳で行こう! 克哉君!」
 
 澤村は半端じゃなく浮かれた態度を取りながら、強引に克哉の手を取って…
傘も差さずに大雨の中を歩いて進もうとしていた。
 
「こら! ちょっと待ってくれ! 頼むから傘ぐらいは差してくれー!」
 
 こんな雨の中を傘も差さずに歩いたら、2~3分で酷いことになってしまう。
そんなにスーツを持っていない克哉からしたら堪ったものではなかった。
 だが、大粒の雨が降る中を30秒も進んだ途端…自分たちの目の前に
道路沿いに一台のタクシーが止まっていく。
 
「せっかくだからタクシーを使おう。小さな事に拘るなよ…克哉君」
 
「あっ…」
 
 その瞬間、澤村が格好つけながら克哉にそう言い放っていく。
 元々…行動や言動が多少、ぶっとんだ部分が多くて忘れがちなのだが…
澤村は非常に整った顔立ちをしているのだ。
 だから稀に決まっている台詞や態度を取られると…一瞬だけドキリとしてしまう。
 
「さあ、行こうか克哉君。行き先は…この近場にあるゲーセンへとお願いします」
 
 そうして克哉を座席の奥に押しやりながら、澤村も続いて隣に腰を掛けていく。
 …間もなくタクシーが発進し、二人を乗せた車は指定された場所へと
向かい始めていった。
 
 ―そんな二人の様子を、物陰から鋭い眼差しを向けている一つの人影が
ある事に…澤村と克哉は最後まで気づく事はなかったのだった。
 
                         *
 
 ゲーセン、という場に顔を出すこと自体がどれくらいぶりなのか克哉には
最早、判らなかった。キクチ・マーケティングの一番近くにあったゲームセンターは
物凄く年季が入っていて古めかしい雰囲気が漂っている場所だった。
 其処の前に二人で降り立った瞬間、克哉はどうしよう…と迷った。
 
(何だって、よりにもよってこんなオンボロなゲームセンターなんだろう…)
 
「良し、プリクラの機械はあれみたいだな…克哉君、撮影しよう!」
 
 しかしズモ~ンと不愉快そうになっている克哉に対して、澤村は本当に
花が舞い散っているかのような上機嫌でプリクラの機械を指差していく。
 
(…ただでさえ大雨の日でジメジメしてうっとおしいというのに…何でこんなに
うざい事に付き合わされないといけないんだろう…オレ…)
 
 克哉はその時、我が身の不運をちょっとだけ呪いたくなったが澤村は
一向に彼のそんな様子に気づく事はなかった。
 …澤村の空気の読めなさ具合は、立派に本多とタメを張れると思い知った
瞬間でもあった。これだけこちらが不機嫌オーラをバリバリに出しまくって
いるにも関わらず一切それに気づけないで話を進めていけること自体が、
一つの立派な才能のようにすら感じられる。
  
「あぁ…判った」
 
 克哉はどうにか、不愉快な気持ちを押し殺して生返事をしていった。
 彼が頷くと同時に、澤村は機械にお金を投入して起動させていく。
 どうやらこのボロいゲームセンターに置かれているプリクラは、最新式の
ものではなく…一昔前のシンプルな機能しか持ち合わせていない
古い機種のようだった。
 単純なフレームを選んで、正面から撮影する事しか出来ない初期型に
限りなく近い感じだ。
 現在種類の美白加工や、お絵描き機能…様々なアングルから何枚も撮影して
修正が出来るようなものとは縁遠い、観光地とかに置かれているようなのと
同ランクぐらいのレベルの代物のようだった。
 
(うっわ…物凄いレトロな型だ…流石、ゲーセンがここまで古いだけの事がある…)
 
 克哉が強張った顔をしながら内心で突っ込みをしている最中、澤村は
実に浮かれた様子で機械に200円を投入していった。
 その瞬間に、画面が認識を始めてメニューが開かれていく。
 
「へえ…色んなフレームとかあるみたいだな。克哉君…一体どれが良いかな?」
 
―どれでも良い。早く俺を解放してくれ…!
 
 という限りない本音がその瞬間、口を突きそうになったが
辛うじて飲み込んでいく。
 どうやら選べるフレームは全部で40種類あって、5種類のカテゴリーの中に
8個ぐらいずつ用意されているようだった。
 左側から順に…「ラブラブな二人へ」「仲良しな二人へ」「クールな二人へ」
「メルヘンな二人へ」「夢見がちな二人」と記されていた。
 克哉は無言で「クールな二人へ」のボタンを素早く押してやろうかと試みたが、
それよりも早く澤村がよりにもよって「ラブラブな二人へ」の所にカーソルを
合わせて決定ボタンを押してしまっていた。
 
「よし! これで撮ろうか…克哉君!」
 
「ちょっと待てー! 何で背景にハートマークが飛び交っているような
フレームをお前はわざわざ選択するんだー!」
 
「何を言う! 親友ならこれぐらいは当然だろう!」
 
「普通は親友とこんなフレームでプリクラなんて撮影しないって! 
これは恋人同士が選ぶ奴だろ!」
 
「…克哉君、君って瑣末な事に拘る奴だったんだな…」
 
「…おい、何でそこであからさまに落胆したような顔をするんだよ。…お前
がそんなフレームを選ぶというのなら、オレはこのまま帰らさせて貰うからな…」
 
 克哉は断固拒否する、といった風の態度できっぱりと言い放っていった。
 こんな背景フレームを使ってプリクラを撮影したら、絶対に『俺』が
不機嫌になる事など目に見えている。
 それが判っていて澤村に付き合ってやる程…克哉はお人好しにはなれなかった。
 
(『俺』がいるのに…それ以外の人間と、こんなフレームで撮影なんて出来ないよ…!)
 
 そう克哉が言い切った瞬間…澤村は少し傷ついたような表情を浮かべたが、
それで一応は諦めてくれたらしい。
 大きな溜息を一つ吐きながら、小さく呟いていく。
 
「…判った。君が嫌だと言うのなら他のフレームに変えよう」
 
「…判ってくれたのなら、良いよ…」
 
 克哉はあからさまにほっとしたような表情を浮かべて澤村を見遣っていく。
 
「じゃあ、このカテゴリィの中のこちらのフレームにしようか…」
 
「はあぁ?」
 
 そして安堵した途端、また予想外の行動を取られていく。
 次に澤村が候補に挙げて来たのは…中心に真っ赤なハートマークが
置かれているタイプのデザインのものだった。
 …こんなのも恋人同士以外が使ったら痛い以外の何物でもない代物だ。
 
「ちょっと待て! そのフレームは待った! お前は本当に正気なのか!」
 
 一番目と良い、二番目のものと良いはっきりいってロクなものをチョイスして
来ない澤村に克哉は本気で憤りを覚えていった。
 しかしついに…澤村の方も不機嫌そうな表情を浮かべ始めていった。
 
「さっきからうるさい奴だな…さっきから嫌がってばかりじゃないか…。
それなら何なら良いんだ…?」
 
「ハートマークはどっちも却下するよ。…オレはお前とそんなフレーム
を使用して一緒に撮影するつもりなんてまったくないから。
それ以外のデザインのを是非採用してくれ。だって…お前とオレは『親友』なんだろう?」
 
 その瞬間、克哉は愛らしくニッコリと微笑みながら『親友』という単語を
特に強調して言い放っていった。
 澤村がその時、何かに胸を射抜かれたかのように盛大に仰け反って、
心臓の辺りを押さえ始めていったが…克哉は敢えて無視を決め込む事にした。
 
「そ、そうだな…だが、お前は俺の事を親友と認めてくれるんだな…
そ、それなら次はこのフレームでどうだ!」
 
 フフフ、と不適に笑いながら…澤村が別のカテゴリィにカーソルを
合わせて、今度は真っ赤な薔薇が敷き詰められた派手派手しいフレームを選択してきた。
 
 スパーン!!
 
 その瞬間、無言で克哉のチョップが澤村の頭に炸裂していった。
 
「あたっ! 何をするんだ…克哉君!」
 
「…あのさぁ、このまま…お前をこの場で…」
 
 抹殺しても良い? とかなり低い声で克哉は呟いて脅したい衝動に
駆られたら辛うじてその物騒な言葉を喉の奥で飲み込んでいった。
 
(…おっと、危ない危ない…こんな奴の為に自分の社会生命を
終わらせてしまうなんて本当に勿体ないからな…)
 
 心の赴くままに行動したかったが、殺人はとりあえず割が合わな過ぎると
思い直してかなり黒い表情を浮かべながら克哉は澤村を見遣っていった。
 その時、澤村の表情が凍り付いていった。
 一瞬浮かべた親友の表情があまりに恐ろしくも綺麗で…言葉を失うぐらいに
怜悧なものになったからだ。
 そして、バン! と大きな音を立てていきながら花が舞っているフレームで
『決定』ボタンを押していき、撮影へと進ませていった。
 
「おい! 克哉君…! 僕に無断で決めるなんて…!」
 
「…何? 文句あるの?」
 
「…いえ、何でもありません…」
 
 澤村がそれ以上、文句を言えそうにないぐらい…その時の克哉の表情は
怖すぎて、反論の言葉を続けられなかった。
 一度決定ボタンを押せば、古い機械であるだけに展開は速かった。
あっという間に撮影モードへと入り…画面上に3、2、1…と
カウントダウンが始まっていく。
 
「わわっ!」
 
 澤村は慌てて、とびっきりの笑顔を浮かべていきながら克哉の肩を
そっと抱き…撮影体制へと入っていく。
 だが、克哉の表情はあまりに平静で…冷たく、能面のような感じであった。
 極めて対照的な顔を浮かべた二人が、花が舞い散っている可愛い感じの
フレームに収まり…そして撮影は完了していった。
 
『撮影を完了します。120秒後に機械の外の取り出し口から…シールが
出てきます。必ずそれを取ってからお帰り下さい。
ご利用、ありがとうございました』
 
 機械から、最後のアナウンスが流れて…たった今、撮影したばかりの
プリクラがプリントアウトされていく。
 その段階に入った瞬間、克哉は印刷が完了するのを待たずに…機械の
前から無言で立ち去っていった。
 
「おい! 克哉…待てよ! 一体どこに…!」
 
「…お前の我侭を聞いて、プリクラ一枚撮影するのを付き合った
んだから…今日はこのまま帰らせてもらうよ。…それはいらないから、
適当にそっちで持っていて」
 
「か、克哉君…待って!」
 
「…御免、それは却下させて貰うよ。じゃあね…!」
 
 そういって後、90秒以上…時間が残っている段階で克哉は
早足で立ち去っていった。
 一切澤村の方を振り返ろうとはしなかった。
 克哉の背中にはくっきりとした拒絶を感じられて、澤村は胸が
引き絞られそうになっていった。だが…ようやく、克哉とたった一枚とは
言えど念願の撮影を済ます事が出来たのだ。
 澤村にはどうしても…このプリクラを置き去りにして、克哉の後を
慌てて追いかける事は出来なかった。
 克哉の背中が瞬く間に消えていく。澤村はその場に呆然と立ち尽くしていた。
 そしてようやく…プリクラの印刷が終わった頃には、克哉の姿は完全に
影も形もなくなってしまっていた。
 
「…克哉君。君はいつまで…僕に対してつれない態度ばかりを繰り返すんだ…」
 
 その瞬間、澤村は本当に悲しそうな表情を浮かべていった。
…そう、彼は克哉が好きで好きで堪らなかった。そして早く、自分の事を
思い出して欲しかった。
 もし…克哉に恋人なんて存在がいたら、自分はきっと嫉妬して
怒り狂ってどうしようもなくなっていただろう。
 だが…克哉には今は大切な存在も、恋人もいないようだった。
 再会してその事実を知ってから澤村はせめてどんな形でも、彼の
『特別』な存在になりたいと…いつの日か想うようになっていった。
 だから本心に気づいた日からともかく澤村は熱烈なアプローチを
彼に続けていた。
 たまにライバルである本多とかいう大男と反発する事もあったが、幼い頃から
あの運命の小学校の卒業式の日まで…自分は間違いなく彼の親友だったのだ。
 諦めなければきっと…という思いを抱きながら、澤村は恐る恐る…完成した
プリクラ写真を手に取っていった。
 
(嗚呼克哉君…今の君は、僕に以前のような笑顔は浮かべてくれないけれど…
いつか満面の笑顔を浮かべてくれるような、そんな関係を君と再び築けたら…)
 
 克哉の表情が冷たすぎるという難点があったが、念願の大人になった
克哉とのツーショットを撮影する事が出来て澤村は感無量となっていった。
 ジーンとなりながらそのプリクラをジーと眺めていくと…唐突に、それを奪い取られていく。
 
「何をする…! えっ…?」
 
 思わず叫んでしまったが、それが誰なのかを認識した瞬間…
澤村は言葉を失っていった。
 其処に立っていたのは…眼鏡を掛けた克哉だった。
 さっきまでと打って変わって、毅然とした表情と空気を身に纏い…
上質な黒い革コートを羽織って紫煙を燻らせている彼の姿を見て、
澤村は二の句が告げなくなった。
 
「かつ、や…君? 戻って来てくれたのか…?」
 
「…やり忘れた事があるのを思い出したんでな…」
 
 そう言いながら、眼鏡は無言で…自分の咥えていたタバコを
問答無用とばかりにそのプリクラに押し付けていった。
 一瞬、何が起こったのか判らず澤村が呆気に取られていくと…
彼の目の前でせっかくの記念撮影が、ジリジリと音を立ててゆっくりと燃え始めていく。
 あまりの出来事に、澤村は何も言えずに…信じられない光景を凝視していき、そして…。
 
「よし、こんなくだらない代物はこれで抹殺出来たな…まあ、これは俺からの
慈悲だ。小さな紙片の一枚ぐらいは、お前に残しておいてやるよ…。じゃあな」
 
 冷然とそう言い放ちながら、焼け残った端っこの小さな一枚分だけを宙に
ヒラヒラと舞わせて眼鏡は踵を返していった。
 その場には澤村一人だけが残されていく。
 ゲームセンターの濡れたリノリウムの床の上に落下した一枚はグショグショに
濡れていた。だが幸いな事に落ちた面が裏だったおかげでどうにか…
印刷面だけは無事だった。
 
「克哉君…」
 
 泣きそうな顔を浮かべながら、澤村はそれでもその一枚を大事そうに
掌の中に包み込んでいく。
 諦めない、諦めるもんか…。時折、克哉の態度が氷のように
冷たくなるのは…小学校時代の時のこちらがした事を思えば、仕方ない事だった。
 克哉が自分の事を覚えていないと知った時、やり直せるかも知れないと思った。
それと同じくらいに早く…あの日以外の自分と積み重ねた思い出は蘇って欲しかった。
 
「克哉君…連れない君も、本当にクールで魅力的だね…。けれど、僕は
絶対に諦めないぞ…かつてのように、きっと僕の前で満面の笑顔を
浮かべてもらう日が来るように…頑張らせて貰うからな…!」
 
 そうして、一枚の焼け残ったプリクラ紙片を手に、澤村は
心の中で強く誓っていく。
 だが…克哉は…もう一人の自分と密かな恋愛関係にある事を、そしてそれで
澤村には冷たくするしかないという切ない事実を彼は知らなかった。
 そう誓う事そのものが今の克哉には迷惑極まりないのだが、本多と
タメを張るぐらいに空気の読めない男…澤村は、梅雨の夜空の下で
決意を固めていった。
 
―そうしてこの日、克哉にとって頭が痛くなるような想いが…大変迷惑にも、
一層強く澤村の胸の中に宿っていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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