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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―撮影が終わった後、二人は御堂が以前から予約していたワインの品揃えが豊富な
本格的なイタリアン料理の店に入っていった。

 店内の調度品の類はシンプルなデザインながら…照明一つを取っても
センスの良さが光る店だった。
 木製のテーブルの上はピカピカに磨かれ、それと対になっている椅子の
座り心地も良かった。
 まるで蝋燭の火を思わせるような白熱電灯の明かりが…店の内装を
グっと柔らかいものに変えて温もりのようなものを感じさせていく。

 今年オープンしたばかりの店のおかげか、全体的に置かれている物も
ピカピカしていて綺麗な状態だった。
 それでも…御堂と交際していなければ、克哉にとっては縁遠い店であった
事は確かだ。
 二人は窓際の席に座っていくと…メニューを開きながら、暫く何を注文
しようか思案していった。
 窓の外は完全に日が暮れてすっかりと薄暗くなっていた。

(何か今日は…凄く密度が濃いのに、時間があっという間に過ぎ去っていくよな…)

 朝早くから起きて…朝食を用意して食べた後、御堂とセックスをしている最中に…
本多から電話が来てヒヤリとさせられたり、記念撮影をしたり。
 記念撮影も…御堂が何度も、何度も拘ってやり直しをしたおかげで結構な
時間が経過してしまっていた。
 そういう所は完璧主義者である御堂らしいとつくづく思った。

(…御堂さん、本当に拘りまくっていたからな…。これは私達にとって、一生の
宝物とする一枚になるから妥協したくないって…)

 そう、真剣な顔をして…自分の耳元で囁いた御堂の姿を思い出して、つい克哉は
微笑ましい気持ちになってしまった。
 何度もリテイクを出す御堂を見て…克哉は正直ハラハラしてて…そんなにやり直しを
要求しなくても…という気持ちになっていた。
 だが、御堂にそう耳元で囁かれてからは…協力出来る限り、自分なりに最高の
笑顔を残せるように協力していった。
 今はデジタルカメラが主流になっているので…出来上がりがすぐに確認出来るから
こそ…御堂もつい、拘って良い物を残したいと思ったのだろう。
 撮影してくれた係の人間に迷惑を掛けてしまったが、その気持ちが…克哉には
凄く嬉しかったのだ。

 テーブルの上には…上品なクリーム色の、隅に花の刺繍がされているテーブル
クロスが敷かれて…その中心には色とりどりの花が飾られたバスケットと…
小さな蜀台が置かれて…蝋燭の火が自分達を照らし出してくれている。
 その炎に映し出された御堂の表情はいつもと若干違って見えて…少しドキドキ
してしまう。

(…今日一日で、御堂さんの色んな一面を見れた気がするな…)

 そう思うと、自然に顔が綻んでしまっていた。
 本当にこの人が大好きだから…また違った一面が垣間見える場面に
遭遇すると純粋に嬉しい。
 今まで付き合ったことがあるどんな存在よりも…御堂のことを好きになっている。
 そうでなければ…きっと、指輪を贈られてこんなに胸が高揚することもきっと…
なかっただろう。
 そんな事をグルグルと考えながらメニューを眺めていたせいか…何を注文
するかまったく決められてなかった。

「克哉…そろそろ、何を注文するか…決まったか?」

「えっ…あ、はい…。すみません、ちょっと迷っていたもので…全然…。
こういう店に入るの、まだ…慣れていませんし…」

 御堂から声を掛けられると、恐縮したよな様子で克哉がうなだれていく。
 …何度か彼に連れられて、こういう雰囲気の店に入った経験はあるのに…
いまだに慣れない自分に少し歯痒くなっていった。

「…無理に慣れなくて良い。経験を積めば…自ずと自然に振舞えるように
なる筈だからな。…じゃあ、君の分の料理は私の方から注文しておこう。
それで…構わないな?」

「あ、はい…宜しくお願いします」

 そういって克哉が頭を下げていくと…御堂は片手を上げて、静かに
ウェイターを呼んで行った。
 
「…前菜にはプロシュートと、こちらのサーモンのバルサミコ風マリネを。
プリモピアットには…白トリュフソースのタリアテッレを。
セコンドピアットには…牛フィレ肉薄切りステーキ ガルバルディーソースを。
そしてワインは、ヴェトネ州産のアルゼロ・カベルネ・フランを…」

 …脇で聞いていて、一体何を注文されているのか克哉にはまったく判らなかった。 
 聞き慣れない単語ばかりが羅列されているので、はっきりいうと意味の判らない
呪文のようにさえ聞こえてくる。
 しかし御堂の態度は堂々としていて、竦んでカチコチになっている自分とは
大きな違いだった。

(やっぱり…こういう所で、育ちや環境の違いって出ているよな…)

 こういう時の御堂は頼もしく感じられて、それだけで胸がキュンと締め付けられて
いくようだった。
 本当に…こんなに格好良い人と、良く両想いになれたと思う。
 片思いしていた頃は…実ることなど絶対に在り得ないと思っていた。
 けれど…今、こうして指輪を贈られ、記念撮影して…そして豪華なディナーを一緒に
過ごそうとしている。
 …本当なら、幾ら御堂の方が高給だからと言って…全ての代金を御堂持ちなのは
申し訳なく感じてしまったけれど…幾ら克哉が払うと言っても「今夜は特別な日だから
私が払いたいんだ」とガンと跳ね付けて、聞き遂げてくれなかった。

「ご注文の方、かしこまりました…。まずは前菜と、ご所望のワインをお持ち致しますが…
グラスの数はどうなさいますか? お連れ様もご一緒に飲まれるようでしたら…
グラスを二つお持ち致しますが…」

「あぁ、宜しく頼む」

 壮年のピシっとした雰囲気のウェイターがそう問いかけていくと御堂は
余裕たっぷりに微笑んでいきながら…一言、そう告げていった。
 そうして…見事な身のこなしを見送っていきながら…克哉はほう、と
溜息を突いていく。
 こんな自分が、本当に御堂に選ばれたなんて信じられない。
 そんな迷いが瞳に浮かんだ時、まるでそれを察したかのように…御堂が
苦笑を浮かべていった。

「…克哉、どうしたんだ? …酷く悩んでいるような表情を浮かべているが…」

「あ、その…何でも、ないです…」

「…嘘だな」

 克哉の言葉の真偽を一発で見抜いて即答していくと…こちらは口を
噤むしかなかった。

「…どうせまた、君の事だから…自分が私に本当に相応しい人間なのかどうかと
迷っているんじゃないのか…?」

「そ、それは…!」

 図星を突かれて、克哉はあからさまに動揺していく。
 だが…御堂はそんな彼を、少しだけ怒っているような眼差しで見つめていった。

「…まったく、君は…いつになったら自信を持ってくれるんだろうな。私は君を
認めている。だから…もう少し、胸を張って生きろ。確かにまだ…このような場に
慣れてなくて気後れするような事もあるだろう。だが…そんなのは場数をこなして
経験をしていけば自然と解消されていく事だ。
 自分が体験していないような事なら、私の振る舞いを観察して…その中から
学んでいけば良いだけの話だ。…特に私と君は、7歳という年齢差もある。
その分だけ…私の方が経験を積んでいる事も多いだけだ。
だから…イチイチ、そんな瑣末な事で自分を卑下するな。…せっかくの私達の
記念日なのだからな…?」

「は、はい…!」

 御堂の、認めているという発言が…凄く嬉しかった。
 たった一言、されど…大切な存在から肯定されるというのは…人を強くさせ
自信を持たせるだけの力が込められているものだ。
 その言葉を聞いて…スウっと克哉は、胸を張り始めた。
 御堂の、今言った通りだった。
 経験値がないのなら…これから、一緒に積んでいけば良いだけの話なのだ。
 気後れして、怯えて…竦んでいたら、せっかくの学ぶ機会すら無駄にしてしまう。
 それよりも…観察して、今後の糧にしていった方が確かに有益だった。

(やっぱり…御堂さんは、凄いな…。この人が認めてくれるだけで…オレは
こんなに、自分を確かなものに感じられるようになったんだから…)

 例の眼鏡がなくても、自分が自分であるだけで…胸を張れるように変われたのは
御堂に愛されたからだ。
 その事実が、克哉を強くさせ…自信を持たせてくれている。
 今までの生涯の中で出会った誰よりも、想い…焦がれた存在。
 その人と今、こうして…特別な日を迎えている事実を…改めて噛み締めていった。

「…少しは、自信が持てたか?」

「はい…ありがとうございます。孝典…さん…」

 ニコリ、と微笑みながらお礼を告げていくと…先程のウェイターが恭しく
ワインの入ったバスケットと、ワイングラスを持って来た。

「…このワインは、先程までワインセラーの方で飲み頃まで冷やしてあります。
 すぐに飲まれるようでしたら…まずはこの状態でお持ちするのが最良だと
判断しました。もう少し経ちましたら…適温に保つためのワインクーラーの
方をお持ち致します」

「あぁ、宜しく頼む。デキャンターの方の準備は…?」

「今から、準備致します。丁度飲み頃を迎えている銘柄ですから…
デキャンタして30分程お待ち頂ければ…一番良いと思います。
とりあえず…それとは別にアペリティフをお持ちして…前菜や
プリモピアット用に注文された料理をお楽しみ下さいませ」

「判った、ありがとう。それでは…アペリティフ用にオススメの物はあるか?」

「当店では…シェリー、スパークリング・ワイン、ヴァン・ドゥ・ナチュレ、
ベルモッドなどがオーソドックスな物として用意してあります。
 それよりもやや口当たりの良いものを選ばれるのでしたら、キールや
ミモザ、スプリッツァーなど…他の物で割ったものなども御座いますが…」

「あぁ、それならスパークリング・ワインの方を頼もう。それは…そちらの
裁量に任せる」

「かしこまりました…もう少々、お待ち下さい」

 そういって別の係の人間が、優雅な手つきで注文したワインのデキャンタを
始めていく。
 デキャンタとは…ある程度の年月が経過したワインの澱を取り除き…ワインを
空気に触れさせることによって熟成を早めて…飲み頃にする為の行為だ。
 熟練のソムリエが思わず目を奪われそうになるぐらいに手馴れた手つきで
ワインのコルクを開けて、デキャンタ用の底の部分が大きく平らな造りに
なっている容器に慎重に注いでいく。
 その動作を見守っている内に…食前酒用に注文したスパークリング・ワインの
優美で細長いグラスが置かれていった。
 透明なグラスに、綺麗な泡がうっすらと浮かんで…キャンドルの炎に照らし
出されている様はどこか綺麗だった。

「…克哉、乾杯しよう。…この特別な日を、君と共に過ごせることを…」

「えぇ…孝典、さん…」

 そうして、二人はそれぞれのグラスを手に持って掲げて、乾杯していく。
 
―そして、多少の緊張をしながらも…克哉は御堂と共に美味しい料理の数々に
舌鼓を打って、実に楽しい一時を過ごしていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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