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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 お互いに寄り添った状態のまま、バスルームに向かうと…そこから仄かに香る匂いに
御堂は不思議そうな顔をしていた。

「…この匂い、は…?」

 初めて嗅ぐ匂いだが、根底は馴染んでいる香りだった。
 怪訝そうな顔をして…服を脱ぐよりも先にバスルームの扉を開いていくと、浴槽の傍らに
ワインボトルを象った容器が置いてあって、軽く眉を潜めた。
 容器は深いワインレッド色をしていて…本物のワイン瓶と違って、プラスチック製で
どこか安っぽい感じがしていた。

「…これは一体…?」

「先日、取引先から貰った…ワインの香りがする入浴剤です。最近、オレがワインの
世界に興味を示した事を知った人が…好きなら、こんなのもどうかって送って
下さって…。それで気に入ったから御堂さんにも試して貰おう、と考えたんです…」

 それを聞いて、御堂は興味深そうな顔を浮かべていた。
 御堂は基本的にシャワー党で、湯船の中に長時間浸かる事は滅多にない。
 長い時間湯船に浸かっていても生産的な活動は出来ないと思うし、何より時間が
勿体無いと感じるからだ。
 当然、湯船に浸かる習慣が無ければ入浴剤など使う訳がない。
 逆に…今まで触れる事がなかった物なだけに、こんな風に克哉が用意しているのが
新鮮に感じられた。
 
「…佐伯。君は一応、私が湯船に浸かる習慣がないっていうのは…この三ヶ月
付き合っていたのだから、知っていると思うがな…?」

「…えぇ。それでも…ワインの香りがするようなものなら、構わないでしょう…?
赤ワインとローズの匂いは…貴方は好ましく感じると…記憶していましたから…」

 お互いに何か含みを持たせたような表情で、見つめ合う。

「…これを適量使うと、ロゼっぽい色合いになりますが…オレなりに調べて
もう一つだけネットで購入した山梨のワイナリーが販売しているワインの入浴剤を
入れておいたんですよ。そうすると…色合いが濃くなって、本物の赤ワインの
ような深い色になります。
 …こういう趣向も、たまには悪くないと思いまして…」

「…そうだな。確かにたまには…悪くない…。入浴剤など、まったく未知の分野な
だけにな…? だが、どうせなら…本物のワインの入れるのも悪くないだろ…。
少し待ってろ…」

「えぇっ…って、ちょっと御堂さん?」

 克哉が驚いている間に、御堂は素早く自分専用のカーヴ(酒の貯蔵庫)に向かうと
其処から一本のボトルを持ち出して、コルクを開けてバスルームに持ってきた。
 それを湯船の中に盛大に注ぎ入れると…香料で作られただけでない、本物の
ぶどうの香りが混ざり、むせ返るような芳香が辺りに広がっていった。

「…今年の11月に、大隈専務の関係者から贈られたは良いが…私はこのメーカーの
ボジョレー・ヌーヴォーは飲む気はまったくないからな…。処分に困っていたので…
丁度良い…」

 御堂が勢い良く投入したのは…高額であるが、ワイン通からはあまり
評判が良くない代物だった。
 恐らくにわか知識で購入してこちらに贈ってきたのだが自分の上司の関係者でもあるし、
受け取らない訳にもいかなかったので…一年近く御堂のカーヴの中で眠っていた物だ。

 ボジョレー・ヌーヴォーは製造元によってはそれなりに飲める物もあるが…
基本的にその年の秋に収穫したばかりの葡萄を使って、急ごしらえで製造して
出荷する。
 初物を楽しむ、という意味合いでは良いが…言うなれば、ワインに必要な
熟成期間を設けられていない未成熟な飲み物と言える。
 だから、御堂も躊躇い無く…それを投入していった。

「…それで、克哉。私と一緒に入浴したい…とおねだりしたからには…
それなりに楽しませて貰えるんだろうな…?」

 御堂がシュル、とネクタイを緩ませながら問いかけてくる。
 佐伯から、克哉…に呼び方が変わった事で…御堂の気持ちが性的な方に
傾いているのが…判って、少し顔を赤く染めていく。

「…えぇ。そのつもり…です…」

 自分から、誘って…御堂がこうして興味を示して乗ってくれた事は嬉しいが
同時に…明るい処で、自らの裸身を晒すのは未だに恥ずかしかった。
 それでもぎゅっと自分のYシャツの袖を握りながら…告げていく。

「…貴方に、楽しんでもらうつもりで…誘いました、から…」

 ぎゅっと目を瞑りながら、頬を朱に染めて恥ずかしそうに口にしていく。
 …この克哉の恥じらいの表情が、御堂の嗜虐心を強く刺激していった。

「…あぁ、思う存分…楽しませてもらおう…」

 そうして、御堂は悠然と微笑む。
 ―それはベッドインしている時の、以前と変わらぬ…少し意地の悪い笑みであった―。


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  克哉が夕飯の片付けを終えている間に、リビングのテーブルの上には
適温に冷やされた一本のワインと二種類のチーズが用意されていた。
 …テーブルに近づくと、独特の匂いが鼻についてそれだけで…克哉は
微妙に顔を引きつらせていたが、御堂の方は涼しい顔だった。

「とりあえず…今夜はワインはベリンジャーのホワイト・ジンファンデルを。チーズの
方はフランスのブリチーズ…そしてリバロを用意させてもらった」

「…はい。有難く…ご馳走になります…」

 やはり、苦手意識を持ってしまった物が目の前にあると…どれだけ隠しても表情や
態度に現れてしまうものだ。
 その様子を面白そうに眺めながら、御堂は鮮やかな手つきでソムリエナイフを使って
ワインボトルからコルクを抜いていく。
  その動作は流れるようによどみがなく、見ているだけで惚れ惚れしてしまう。

(やっぱり…孝典さんはこういう処は、格好良いよな…)

 視線でその感情が表れてしまったのだろう。
 克哉からの眼差しに気づくと…御堂はふっと目を細めて微笑んでいく。

「…私に見蕩れても…これ以上は何も出ないぞ? 佐伯…?」

「えっ…そ、そんな事、ないです!」

 図星を突かれて、つい顔を赤く染めてそっぽを向くが…御堂はその様子を見て
喉の奥で笑いを噛み殺していく。
 この年下の恋人はこういう処が可愛くて堪らないのだ。
 そのままエクスペール型のワイングラスの中に、鮮やかな桃色のワインを
丁寧な動作で注ぎ込んでいく。
 薄いクリスタルガラス製のグラスの中で液体が微かに揺らめき…テーブルの上に
僅かに赤みがかった影が差し込んでいた。

「…今夜のワインは、ブリの方に合わせてチョイスしてある。リバロの方には
もう少しどっしりした味わいの赤ワインが良く合うが…こちらの方が君にとっては
飲みやすいだろう」

「はい…それでは、頂きます…」

 そうして、何度か軽くグラスを回して…匂いを楽しんでから一口、口に含んでいく。
 鼻腔を突く柔らかくフレッシュなアロマが心地よい。
 鼻から空気を抜きながら…ゆっくりと喉に流し込んでいくと、その鮮烈な風味と
心地よい甘酸っぱい味わいに顔を綻ばせていく。

「…美味しいです。これ…凄く…」

「気に入って貰えたなら、良かった。それは一本千五百円程度の安価な物だが、
上質のワインにもひけにたらないくらいの味わいがある…。
 それとなら、ブリチーズも良く合う筈だ。そちらも試してみるといい…」

「えぇ…それじゃあ、こちらも…頂きます」

 そうして一口大にカットされたブリチーズを軽く齧っていく。
 ブリチーズは日本ではお馴染みのカマンベールと同じ原材料と
製法で作られているチーズだ。
 日本で一般的に売られているカマンベールは、どちらかというとこのブリチーズの
方に味わいや香りが近い。
 トロリとした味わいと、濃厚なコク…そして白カビチーズ特有の鮮烈な香りが
特徴だがウォッシュタイプの物よりも香りの類は癖がなく、チーズ初心者でも
気軽に試せる一品でもある。
 克哉もこれはすでに何度か食べた事があるので、気に入っている。
 ただこのワインと合わせる事は初めての経験だった。

「…本当だ。何というか…口の中で交じり合って、凄く良い感じになってる…」

 克哉が感嘆の表情と言葉を浮かべれば、御堂もまた満足そうな顔になっていた。
 カマンベールや、ブリなどのあっさりとした

「…これは気に入ったみたいだな。それでは…本題のリバロの方に行くとしよう。
 これから私がやるのと同じ手順で…試してみると良い。良く見ててくれ」

「はい…」

 御堂はナイフとフォークを両手に持っていくと…皿の上に置かれた
リバロの外側の赤い皮の部分をナイフで綺麗に切り分けて、中の柔らかい
部分だけをフォークの上に乗せていく。

「…こうすれば匂いをあまり気にせずに…中身の旨みたっぷりの部分だけを
味わえる。君もやってみると良い…」

「…はい、やってみます」

 リバロに限らず、ウォッシュタイプのチーズは…チーズに馴染みのない
日本人にとっては味も匂いもきつく感じられて、なかなか食が進まないものだ。
 チーズの熟成中に色のついた塩水で何度も洗って、有用な菌を繁殖させて
作るので腐敗臭に似た、強烈な香りがするのが特徴である。
 しかしウォッシュタイプの物の中では匂いは強烈でも味の方はマイルドで
馴染みやすく、皮を取り除けばチーズ初心者に薦めやすい味をしていた。

 クサヤが食べれるなら…ウォッシュタイプのチーズも食べやすいが、克哉は
残念ながら成長過程でこういう類の物をまったく口にして来なかった。
 前回に至っては、自分から「考典さんの好物をオレも試してみたいです」と
言っておきながら食べる前に匂いに参って気持ち悪くなってしまったのだ。
 皮を切り分ける手が何度か震えたが…どうにか無事に終えて、恐る恐る
中身の部分だけを口の中に放り込んでいった。

「……凄い、これ…味が濃厚で、カマンベールとかよりも旨みが凄く複雑で…
美味しい…」

「…あぁ、私も最初の頃はこの匂いに辟易したがな。慣れるとこの味わいと香りに
病み付きになってくる。そうやって食べると…リバロも馴染みやすくなるだろう?
この間は教える前に…君がダウンしてしまって、その暇もなかったがな…?」

「…それを言われると、その…凄く申し訳ない気持ちになるんですけどね…」

「いや、良い。君はゆっくりとでも…私が好きなものを知ろうと努力をしてくれて
いるからな…焦らなくて良い。少しずつ理解してくれれば…私は、十分だと
思っている」

「えぇ…貴方が教えてくれるものなら、全てを吸収したいですから…」

 その言葉を聞いて、御堂は満面の笑みを珍しく浮かべていった。
 …この厳しい人がこんな嬉しそうな顔をしてくれると言うのなら、幾ら努力
したって惜しくない。
 克哉がワインやチーズを学ぼうと思った最大の理由はそれだった。
 初めてワインバーに連れていかれた頃を思えば、今の御堂は信じられない
くらいに優しくて、初心者であるこちらの目線に立って選んでくれている。
 ついていくのは大変でも、それ以上の実りも感じられるのなら勉強も
辛くなかった。
 
 そのまま…二人の間に、ゆったりとした穏やかな時間が流れていく。
 二人でグラス二杯分程度も飲めば、ワインボトル一本分くらいなら余裕で
空けられる。
 心地よい酩酊感に浸りながら…静かに、お互いを見つめ合う。
 …真っ直ぐに視線を返して、柔らかく微笑んでくれているのを見れるだけで
痺れるような幸福感を覚えていく。

(…オレは本当に…御堂さんの事が…好き、なんだな…)

 こういう時、言葉はいらない。
 こちらも黙って微笑んで…返していくだけだ。
 隣に座っている御堂の手にそっと手を伸ばして…自分の手を重ねていく。
 顔を寄せ合って、そっち唇が重ねられると…お互いに、今食べたワインとチーズの
味と風味がするのが、何かおかしくて…嬉しかった。

 御堂の整った指先が、克哉の髪をやんわりと撫ぜ擦って…くすぐるように
通り過ぎていく。
 椅子に座った状態で身体をひねり、上半身だけお互いに向かい合わせた状態で
克哉は恋人に抱きついていく。
 啄ばむようなキスを何度も落とし、戯れ続けていくと…ふいに舌先で唇を舐められて
ドキリ、となった。

「んっ…はぁ…」

 ぎゅっと御堂の首元に抱きつきながら…克哉は、身体の力を抜いていく。

「…そろそろ、ベッドに行くか…? 克哉…」

 甘い声で御堂が囁くと、何故か克哉は…緩く、首を振った。
 いつもなら、コクンと恥ずかしそうに頷いて応えてくれる筈なのに…どうして
今夜に限ってはこの流れで、NOのサインを出すのだろうか?
 こちらが怪訝に思っていると…克哉は艶やかな表情を浮かべて…口元に
笑みを刻んで、告げた。

「…今夜は、貴方と一緒に…お風呂の方に…先に、入りたいんです。
…駄目ですか? 孝典さん…」

 克哉の上気した頬と、潤んだ瞳を見て…御堂は言葉に詰まっていく。
 
(…ったく、君は本当に…自分の魅力というのを…判っていないな…)

 そんな顔と眼差しを向けられて、提案をされたら…こちらが断れる筈がない
事ぐらいは理解して欲しい。
 深い溜息を突きながら、しみじみとそう思った。

「…君にそう言われて、私が…断る筈が、ないだろう…? それくらいは判って
くれても良さそうだがな…」

「…はい、ありがとう…ございます!」

 御堂がそう答えれば、克哉は悪戯っぽく微笑みながら…もう一度、
ぎゅっと恋人の首筋に抱きついていった―。

「今日の夕食は…美味しかった。佐伯、ありがとう…」

 夕食が終わった時、御堂が満足そうに微笑みながらそう言ってくれたおかげで
克哉の方にも嬉しげな笑みが刻まれていく。
 
「…いえ、御堂さんが少しでも満足してくれたなら…良かった、です…」

 恥ずかしそうに俯きながら、呟いていく。
 御堂が帰って来てから少し甘い時間を一緒に過ごしてから…こうして二人で
夕食を楽しんだ。

「君は…どんどん、料理に関しても進歩しているな。カマンベールのフォンデュというのは
初めてだがシンプルでも意外に味わい深かった。君が用意した野菜の他に、
ドイツソーセージにもつけてみたが…良く合ってて楽しめた」

「えぇ…最初にレシピを知った時は簡単すぎて、大丈夫かなって思いましたけどオレも
これは気に入りました。早く食べないとすぐに冷めちゃうのが難点ですけどね」

 今夜克哉が作ったカマンベールのフォンデュの作り方は簡単だ。
 チーズの上の白カビで覆われている部分を薄く削いで、電子レンジに30~40秒ほど掛けて
黒コショウとレモン汁少々を加えて混ぜ込んでいくだけだ。
 これに茹でた野菜類やソーセージ、他の魚介類やカリっと焼き上げられたパンの類などを
つけて食べるとちょっとした贅沢な一品になる。

「いや、良い。他にもシーザーサラダの上に…レッドチュダーを細かくして乗せていたな。
そのアイディアは悪くないが…少しチーズの味が強すぎて、ドレッシングとぶつかり合っていた。
恐らくそのドレッシングなら…パルメザンチーズを細かくしたのか、フレッシュ系のものを
乗せた方がマッチすると思う。ただ…挑戦してみようという君の心意気は買おう」

「えぇ、少し俺もレッドチュザーだと…味と風味が強すぎたな、と思いました。
 白いドレッシングだから…白いチーズを掛けるより、鮮やかなオレンジの物を使って
みた方が色合い的に綺麗かな…と思ったんですけどね」

「…なるほど、君が使おうと思ったのはその視点の為か。それなら…色合いを良くしたいなら
シーザーサラダの上に少し焦がしたクルトンや、粉末のパセリの方を使うと良い。私が利用
しているような店では、そのようにして色合いを綺麗に仕上げていた」

「あぁ…なるほど。粉末パセリを使えば良かったんですね。勉強になります…」

 御堂は面白そうに笑いながら、こちらに対して丁寧に改良のアドバイスを
与えてくれている。
 克哉がサラダの上に細かく削って使ったレッドチュザーは南米産のアナトーという
植物染料を用いた、鮮やかなオレンジ色をしているチーズだ。
 プロセスチーズの類は、ベースにこれを使用しているので…日本人には馴染みやすい
味わいで濃厚で包み込むようなコクとバランスの良い酸味が効いているのが特徴だ。
 風味はそれほど個性が強くなく、これはチーズにあまり馴染みのない克哉でも
すぐに気に入った一品でもあった。

 パルメザンチーズは、洋食屋で良く「粉チーズ」として使われている物の
日本的な名称だ。
 正式名称はパルミジャーノ・レッジャーノと言い…本場のものだと世界中の
チーズの中でも最高峰と言われる味わい深いものだ。
 日本で一般的に使われているものは等級が低いもので、味わいも匂いも癖がない。
 逆にどんな料理にでも使えて、安価であるというメリットがある。

「後、ガーリックトーストもパリッと仕上がっていて美味しかった。スープも塩加減や旨みの
バランスが絶妙だったしな。…君は本当に少しずつでも腕前を上げているな。
…君に夕食を作って貰うのがこうやって…楽しみになるとは正直、嬉しい誤算だった」

「…御堂さんにそういって貰えると、こちらも作った甲斐があります…」

「…お世辞ではないからな。さて…こうして君にチーズを使った美味しい夕食をご馳走に
なった訳だし…私の方からも是非お返しをさせて欲しい。…良いな?」

 本来なら御堂からそう言われれば気持ちは嬉しい、と感じている筈なのに…何故か
克哉の顔が一瞬、強張っていく。
 それを察して、御堂は心から愉快そうに笑っていた。

「…佐伯、心配しなくても…この間のように何種類もウォッシュタイプのチーズをズラっと
並べたりしないさ。それに今夜は初心者でも大丈夫な食べ方をきちんと伝授しよう」

「えっ…あ、はい。それなら…オレも、頑張ります…」

 微妙に顔を引きつらせながら答える克哉に、更に愉しそうな表情になる。
 付き合い始めの頃に…お互いの好物の話が出て、御堂がウォッシュタイプのチーズと
ワイン全般と答えた時にマンステールやAOCの認定が出ている本場ノルマンディー地方の
匂いが強烈なカマンベール、リバロやウォッシュチーズの王様と言われるエスポワなど
四種類くらい見繕ってご馳走したら、強烈な香りの四重奏だけで克哉が降参してしまって
殆ど味わえなかった…という苦い思い出があった

 それがあったからこそ…初心者向けの匂いや味のマイルドなものから御堂に教えてもらい
積極的に味見したり、勉強したりする原動力にもなった訳だが。
 日本製のカマンベールや、ブリチーズ、レッドチュザーやピザや前菜にも使われる
モッツアレーラチーズなどは美味しいと思えるし抵抗感はない。
 しかし最初にあれだけのトラウマを刻んでくれたウォッシュタイプの物は…やはり
躊躇いがあるのだ。

「…私を信じろ、佐伯。ちゃんと今度は…君にウォッシュタイプのチーズの魅力を
伝えよう。新しい味覚を広げていく事はきっと…今後の君のプラスにも繋がるだろう」

「…………はい」

 御堂が自信満々の様子で言い切っているのを見て…ゆっくりと硬かった表情を
綻ばせていく。
 この三ヶ月で、ある程度は御堂考典という男の性格を理解し始めている。
 彼がこういうのなら、絶対に大丈夫だろう。
 克哉はそう信じていた。
 恋人の顔が和らいでいくのを見て…また御堂も、満足そうに強気な笑みを
浮かべていった―。

  御堂と両思いになってから数ヶ月が過ぎたある週末の事。
  MGN内での自分の仕事を終えると、克哉は大急ぎで御堂のマンションに向かい
キッチンに立っていた。
  恋人である御堂の方は、まだ少し確認事項があるから…と言っていたので
一時間程度の猶予はあるだろう。
 ご機嫌な様子で、Yシャツとスーツズボンの上にエプロンを纏った格好で
克哉はせっせと…御堂の為に夕食に手がけていく。

「え~と…これに削ったチュダーチーズをパラパラと散らして…と」

 一生懸命な表情をしながら、レタスを細かくちぎってシーザードレッシングを
振りかけた上で赤くて硬いレッドチュダーチーズをナイフで削っていく。
  御堂と付き合う前までは、自炊する時は和食が多かったが…最近では彼がワインと
チーズをこよなく愛している影響で、洋食を手がける事も多かった。

  御堂が好むようなウォッシュタイプのチーズの匂いが強いものはまだ克哉には
合わない事が多かったが、一般的なチュダーやカマンベール辺りの物は出来るだけ
積極的に料理に取り入れたり…挑戦するように心がけていた。
 シーザーサラダの上に仕上げのクルトンと半熟タマゴ、両脇の方にトマトを飾りつけて
いくと…それなりに見栄えが良くなった。

「えっと…後はガーリックトーストを作ってと…カマンベールのチーズフォンデュは
御堂さんが帰って来てからで良いか…」

 今、克哉が用意している夕食は…フランスパンにニンニク入りのオイルとバターを
塗って焼いたガーリックトーストに、茹でたブロッコリーとアスパラをつけて食べる
カマンベールのチーズフォンデュ。
 みじん切りにした玉ねぎをたっぷりと入れたコンソメスープに、そしてこのサラダだ。
 自分達の場合、食べ終われば…まあ、大抵はベッドインという流れになるので
ステーキなどのメインとなる料理は敢えて用意していない。
 適度に野菜が取れて、腹八分になる程度の量があれば充分だ。

 フランスパンを適当な薄さに切って、ガーリックオイルとバターを塗ってオーブンに
放り込んでいく。
 ちらりと時計を見れば…午後19時半を指していた。
 20時になれば…御堂がきっと帰ってくる筈だ。

 「それくらいまでには絶対に帰る…」と少しだけ顔を赤く染めて言っていた御堂の顔を
思い出してつい克哉は楽しげな笑みを浮かべていく。
 あんな始まり方をした自分達も、付き合い始めて一緒の職場で働くようになって
3ヶ月も経過すればある程度は安定し始めていた。
 克哉はその間に、御堂が好きなチーズの勉強もちょっとだけ始めて…こうしてチーズを
自分で買って調理に使うようにまでなって来ていた。

「…と、ここが正念場だな。丁寧にやらないと失敗する…」

 フランス産のカマンベールチーズを包装から取り出していくと…まな板の上に
置いていき包丁で丁寧に上のフワフワして白カビで覆われている部分を薄く剥ぎ取っていく。
 上蓋に当たる部分を取り去って、下ごしらえを済ませる。
 フランスパンを焼き終えた頃に放り込めば、丁度御堂の帰宅時間になるだろう…。
 そう踏んでいたのだが…。
 玄関の方で…扉の開閉する音が聞こえて、足音がゆっくりと近づいて来ていた。
 ドキッ、と小さく胸が跳ねていく。
 
 ドク、ドク、ドク、ドク…。

 相手の足音と同じリズムで、自分の胸が跳ねていく。
 予想よりも相手が早く帰ってきたので、まだ心の準備が出来ていない。
 克哉は軽く頬を染めて、手を止めていく。
 そして…ふわりと、抱きしめられていた。

「ただいま…佐伯…夕食の準備、ありがとう…」

 自分の肩に、相手の吐息と体温を感じる。
 それがくすぐったくて…つい克哉は瞳を細めた。

「…どう致しまして、おかえりなさい…御堂さん…」

 嬉しそうに微笑みながら、克哉は御堂を出迎えていく。
 その嬉しさを胸に刻み込んでいきながら…克哉は御堂が頬に落としていく
優しいキスをそっと享受していった―。
 顔から、胸元…腹部に、欲望に滾っている下肢…そして足先。
 御堂の眼差しがゆったりと這うように注がれて…視線を向けられる場所がその度に
緩く疼いていく。
 特に性器を見られている時など、見えない手で弄られているかのようだった。
 自分の意思と関係なく、そそり立って…小刻みに震え…荒い吐息と共に先端から
先走りが滲んでいく。

「っ…! ふぁ……」

 携帯を持つ手が次第に頼りなくなる。
 本音を言えば、大切な友人である本多の誘いに乗りたい。
 しかし…今の身体の反応では、首を縦に振ることは難しかった。

「…本多、その…御免。俺…今、熱があるみたい、なんだ…。一応…明日から、いつも通り仕事がある
訳だし…休んでおきたいんだ。またの機会に…誘って、欲しい。…駄目、かな…」

『…そうか。さっきから様子がおかしいって思ったら…熱があったんだな』

「う、うん…ちょっと自分でも…こんなにボーとするのは…おかしいかなって思ってさ。
体温計取り出して計ってみたら…37度、ちょっとあったんだ。だから…今日は家でおとなしく
しておく。また誘ってな…」

 体温計云々は方便だが、熱がある事は嘘ではない。
 散々御堂に煽られて、視線で犯されている状態では嫌でも身体に火は灯っていく。

『そっか…お大事にな。それなら…帰りに見舞いに寄らせてもらって良いか?
お前の処…一人暮らしだから食い物関係差し入れた方が良いだろ?」

 その言葉に思わず、ぎょっとなる。
 恋人同士になってから…週末は基本的に御堂の家で過ごしている。
 だから克哉の部屋はもぬけの空だ。
 熱があって…という口実で断っておいて、尋ねたら誰もいないという状況では
嘘がバレてしまう。必死になって説得を始めるしかなかった。

「い、いや…大丈夫、だよ…一応、こういう時の為に買い置きの類は欠かしてないし…。
本多だって、懐かしい顔と逢うんだ。夕飯とか皆で楽しく…食べて、きなよ…。
俺の事は気にしないで良いから…な?」

『…ん、そうだな。お前とは会おうと思えば、会えるしな…。今日は後輩とか、草バレーの
仲間たちの方を優先させてもらうよ。それじゃ…お大事にな、克哉…』

 本多の声にはかなり残念そうな響きが含まれていて、それが少しの罪悪感を呼び起こしたが
すぐに電話が切られて、ツーツーという音が耳に届く。
 どうにか…やり過ごす事が出来て、安堵の息を漏らしながら…こちらも電話を切っていく。

「…終わったのか…?」

「…はい」

 そう答えた瞬間、ベッドの上から御堂が身を起こして…こちらの身体を引き寄せていく。
 問答無用の熱い抱擁と口付けに、克哉も抗う事が出来ない。

「ん、んんっ…ぁ…!」

 唇の端から、甘い声が零れていく。
 情熱的に蠢く、御堂の熱い舌先に翻弄されながら…尻房の辺りを容赦なく揉みしだかれる。
 …心から愛しいと思っている人物にこんな振る舞いをされたら、朝早くだという理性など
最早何の意味もなさない。
 先程から燻っていた情欲に、本格的に火が灯る。
 もう抑える事など…出来る訳がなかった。

「…克哉。私以外の男と…こんな真似をしたら…絶対に、許さないからな…?」

「…何度言えば、信じてくれるんですか…。俺がこんな真似をするのも、したいと願うのも
…孝典さん。貴方…ただ、一人…だけです…」

 その言葉を聞いて、御堂が満足げに微笑んでいく。
 …彼の表情を見て、克哉はつい拗ねたような顔を浮かべていく。
 対照的な態度であったが…想いは結局、同じ方角を向いていた。

「…そうか。それなら…今度、私のベッドの上で…他の男と楽しげに電話をするような
真似は謹んでくれ。それ以外の場所なら…君にだって人付き合いがあると考えて
割り切れるが…ここは駄目だ。…私と君だけの…大事な場所、だからな…?」

 余裕たっぷりに瞳を細めて、微笑んでいる御堂の顔を見て…何故、御堂がこんな
意地悪な真似をしたのか思い至った。
 恋人同士になってから…甘ったるいくらいに優しかった彼がどうして、こんな行為に
出たのか。
 …その動機にようやく思い至った時…さっきまで密かに燻っていた御堂への憤りは
綺麗に鎮められていった。

「…すみません、孝典さん。…それは、その…俺が軽率…でした…」

「別に良い…これから、たっぷりと…君の身体で、責任を取ってもらうからな…?」

 御堂の手が、ベッドサイドにあるローションの容器に伸びて…それをトロリ、と…
下肢に落とされていく。
 冷たい感触と共に…下肢をたっぷりと濡らされて、これから起こるであろう行為の
予感に…再び肉体が昂ぶっていく。

「あっ…はっ…」

「…イイ声だ…もっと聞かせてもらうぞ。克哉…」

 御堂の身体が覆い被さり、耳元で甘く囁かれれば…蕾に宛がわれた彼の性器の
先端を…貪婪に引き寄せようと…其処がヒクつき始める。
 何とも艶やかな表情を浮かべながら…克哉は、静かにその要望に応えた。

「…は、い…孝典、さんの…望む通りに…」

「…良い子だ…」

 満足げに微笑み、そして…克哉の中に全てを収めていく。
 そのまま情熱的に、律動を開始されて…克哉の身体は快楽に何度も震え、
ベッドシーツの上で踊り続ける事となった。

 日曜日の晴れやかな午前中。
 日がすっかりと昇り切る頃まで…御堂からの甘いお仕置きは続けられたのであった―。

 少し反応しかけた先端を口に含まれて、克哉の身体がピクっと震えていく。
 チロチロと舌が蠢いて、敏感な鈴口を執拗に攻められていく。

 チュ、チュパ…チュル…ピチャ…

 股間の付け根や、太股の内側を緩やかに撫ぜられながら…先端だけを口で
刺激されて、次第に克哉の性器も硬さを帯びていく。
 暫く続けている内に、御堂の唾液と共に…自分自身の先走りも混ざって幹を
伝い落ちている様子を眺めて、克哉は羞恥で震えていた。

『おい…克哉、どうしたんだ? さっきから…ずっと黙っているみたいだが…?」

「はっ…ん、御免。ちょっと…まだ、眠くて。少し、ボーと…なっていた…」

『…大丈夫か? それで…どうする? さっきの俺の誘い…良かったら受けてもらえるかな?
俺は是非、大学時代の仲間としてお前に来て欲しいんだが…」

「ん、ぁ…俺も行きたい、けど…」

「…イキ、たいか。ちょっと弄っただけで…酷く淫らだな。君は…?」

 御堂から与えられる快楽に耐えて、どうにか平静を装って応対するが…相手の口から
漏れる挑発的な言葉に、顔がカっと熱くなる。
 本音を言えば、今は同じ会社じゃなくなったとは言え…本多は今でも自分にとっては
大事な元同僚であり、友人でもある。
 その彼にこうして熱心に誘われたのならば…是非とも顔を出したい処なのだが…。

 一旦指先で通話口を押さえて、一旦こちらの小声が本多に聞こえないようにしてから…
身体を折り曲げて御堂の方に顔を寄せて囁いていく。

「み、どう…さん。止めて、下さい…。本多に気づかれたら…どうするんです、か…っ…!!」

 終わりの方は掠れて、殆ど声に出来なかった。
 御堂に尿道の付近を深く舌先で抉られたからだ。
 快楽によって、生理的な涙が眼の周辺に滲んでいく。

「…私は、気づかれても良いがな…。その方が、君は私のモノだという事を…あの男に
示せるしな…?」

「…! そんな、の…出来る、訳ないじゃ…ないですか…! 本多は、俺の友人で…
貴方は、俺の大事な…人、です…! 比べるまでの、事じゃないって…何度も、言って
…いるじゃない、ですか…? だから…止めて、下さい…」

 これはまるで…以前、MGN内の御堂の部屋で…片桐部長と通話している最中に
淫らな事をされた時のようだった。
 あの時も御堂から体中を弄られて、攻められて…煽られて。
 そんな状態で片桐と会話して、メモを取らされて…そんな記憶が過ぎったせいか
更に身体の奥に、熱が灯るのを感じた。

「あっ…ぅ…」

「…そうか。それなら…これ以上の悪戯は…止めておこう。しかし…そのまま、足は
開いておくんだぞ…?」

「そ、そんなの…」

 涙目になりながら、反論しようとしたが…少し離した位置に置いた携帯電話から、
『克哉、克哉』と呼びかけの声が響いている。
 こちらの返答がないままだから…本多が必死になって呼びかけていたのだ。
 それに気づいて、慌てて受話器を耳元に宛がっていく。

『克哉? 克哉…? そんなに眠かったのか…? さっきからずっとおかしくないか?
お前…?』

「いや、大丈夫だよ…けど…うん。今週は…凄く仕事が、忙しくてさ…。正直、バレーを
やれる程の体力はないんだ…」

『そうか。それは残念だな…。けど、それなら…ちょっと顔出して、観戦してくれている
だけで良い。それでも…来れないのか?』

「それ、なら…」

 と言い掛けて、克哉はチラリと御堂の方を見遣っていく。
 御堂からの視線を、痛いぐらいに感じた。
 先程、弄られて硬く張り詰めた状態のままのペニスに…熱い視線を注がれていく。
 時折、彼と目線が合うと…それだけでカッとなっていく。
 
(これじゃ…眼だけで、犯されている…みたいだ…)

 前回は、御堂の熱い囁きと…掌がこちらを追い上げて煽っていた。
 しかし今回は…この熱い眼差しが、克哉の心をどうしようもなく追い上げていく。

「良い眺めだな…克哉…」

 悠然と微笑みながら、こちらの顔を見つめてくる様子に…克哉は、本多への返答を
返せずに、身の奥に宿った…強い情動を持て余し、燻らせるしかなかった―。
 

 

 御堂と克哉が晴れて恋人同士になってから半年近くが経過した…
天気が良い、日曜日の朝の事だった。
 肌触りの良い布団に包まって、二人で一緒にまどろんでいた時…ふいに
電話の音が鳴り響いていた。

 ツルルルルル…ツルルルルル…。

 発生源は自分の携帯からのようだ。
 佐伯克哉は寝ぼけながらも、どうにか腕を伸ばして携帯を取っていく。
 ディスプレイに表示されている相手の名は「本多憲二」とあった。

「……本多からだ…。朝っぱらなんて、珍しいな…」

 本多、と呟いた瞬間…隣で寝ていた人物の肩がピクリと震えていたのだが、当の克哉
本人は電話に意識を取られてその事に気づいていなかった。
 通話ボタンを押して、携帯を耳元に宛がっていく。

「もしもし…」

『おう、克哉か。出てくれてほっとしたぜ。もしかしたらまだ寝ている頃かも…と少し不安
だったんだぜ』

「…そう思うなら、もう少し遅い時間にしておけよな…。まだ朝七時だよ。
それに起きていたんじゃなくて、お前の電話に起こされた形だし…」

『うわっ! それは悪い事したな。どうしても気が逸ってしまってな…』

「…どうしたんだよ。凄いウキウキしているっていうか…本多の声、弾んでいるけど。
何か良い事あったのか?」

 実際に、今朝の本多はかなりハイテンションのようだった。
 声の調子を聞くだけで嬉しいことがあったと一発で伝わってくる感じだ。

『あぁ…! 今日はな。俺が所属しているバレーチームに、飛び入りで…大学時代の
後輩が顔出してくれる事になったんだ。それが嬉しくてな…ついお前に報告したくなった』

「へえ、それは良かったな。…本多、大学時代での出来事…引きずっていたからな。
そうやって一緒にバレー出来るってだけでもお前にとっては嬉しい事だろうからな…」

 克哉が御堂と結ばれて、MGNに引き抜かれてから…声を掛けられて本多とは何度か
飲みにいった事があった。
 特に営業の最中に、以前の仲間であった松浦と再会した辺りは頻繁に呼び出されて
大学時代の…かつての仲間たちとの確執の話を相談されたりした事があった。
 …その時期、毎週のように金曜日に本多の話を聞きに伺っていた為に…御堂に
ヤキモチを焼かれたりした事もあったが…こんな報告を聞ければ、その当時の
苦労など一気に吹き飛んで、こちらまで嬉しくなってくるくらいだ。

『あぁ…仲間は本当に大事だからな。一人でも…こうして、俺に会いたいと
連絡してくれる奴がいるだけでも…例の件を責めないでいてくれるだけでも
本当に嬉しいと思っている。で…克哉、お前も良かったら来ないか?』

「…えっ? 何で俺まで…?」

『…お前だって途中で辞めたけど、同じチームの仲間だっただろ? それなら
本日のバレーに参加する資格は十分だと思うけどな』

「…そんな事、ないよ。俺は…レギュラーメンバーでも、大した実力も持っていない
幽霊部員に近い奴だっただろ?」

『…昔から俺にとって克哉は大事な仲間だ。大学も卒業して…今は八課からも
いなくなったけど…俺は一生、その気持ちは変わらないと誓えるぜ』

 あまりに率直かつ、熱い言葉に…逆に恥ずかしくて顔が真っ赤に染まっていく。
 
「ば、バカ…そんな事、真っ直ぐに言うなよ! 言われたこっちが恥ずかしくなるだろ…!」

 克哉が動揺した声を漏らせば、傍らの御堂から殺気にも似た濃密なオーラが立ち上り
始めていく。しかしそれでも…今の克哉には気づく余裕がなかった。

「ん…でも、本多がそう言ってくれる事は…うん。嬉しいかな…俺にとっても、本多は…」

 それ以上の言葉は、紡げなかった。
 咄嗟に唇を噛んで、声が漏れるのを防いだからだ。

「っ…!」

 気づけば、隣に寝ていた御堂はいつの間にか移動して…自分の足の間から、顔を
覗かせていた。
 大きな掌に下着を纏っていない状態の自分の太股から鼠経部に掛けてを
やんわりと…撫ぜ擦られていく。

「…み、どぅ…」

 咄嗟に相手の名を呼んで、止めさせようとしてはっとなった。
 今は本多と電話中で…「御堂さん」と口に出せば、絶対に聞かれてしまう。
 日曜日に朝七時という早い時間に、御堂と一緒にいる事を詮索されたら…
自分は上手く誤魔化せる自信はない。だから口に出せる訳がなかった。
 どうにか声を抑えるのには成功したが…耐えたのも束の間、今度はやんわりと
まだ柔らかいままの性器を掌で握り込まれていく。

 な、ん、で、こ、ん、な、こ、と

 声に出せない代わりに口パクでそう呟き、哀願するような切ない表情を浮かべて…克哉は
足の間の御堂を見つめていく。
 御堂は、傲慢に笑っていた。
 ―恋人関係になってからの彼は非常に穏やかで、ここ暫くは優しい眼差ししか見る事は
なかった。
 しかし今の御堂からは…最初に無理やり身体の関係を持たされた頃のような酷薄な
眼差しを浮かべている。

 そう、御堂は憤っていた。
 心から執着し、愛しいと思っている相手が…自分のベッドの上で、他の男と
楽しそうに電話し続けていた事を。
 これが服を纏い、ベッドの上での事でなければ…許せただろう。
 しかし本気で想っている相手が己の領域内で、他の男の言葉で顔を赤らめて
動揺しているような姿を見せられて…冷静でなどいられる訳がないのだ。

「君が悪いんだ…克哉…」

 剣呑な表情を浮かべながら御堂は…克哉の性器の先端を緩やかに舐め上げて刺激した
後に、そっと口に含み始めたのだった―。

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香坂
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職業:
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趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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