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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―お互いの舌先が淫靡に絡み合っている

 クチュクチュ…という水音が二人の脳裏に響き渡っていく。
 その度に怪しい痺れが全身を走り抜けていって…欲情がじっくりと
胸の奥から湧き上がってくるのが判った。
 気持ちを確認し合って正式に付き合い始めた日から、欲しいという
想いは日増しに加速していって。 
 だから今…彼らの指には、その証である指輪が光っている。
 昨晩も深く、愛し合った。
 そして朝食を終えた直後のキッチンという場所で…まるで熱々の新婚
夫婦であるかのように…二人は、その場で愛を交し合っていった。

「…克哉」

 甘い声で、相手の名前を呼んで行きながら…ゆっくりと衣服を
引き下ろし始めていった。
 御堂の目の前に引き締まった形の良い臀部が露になる。
 克哉はシンクの縁の部分に手を添えてその身体を支えて…こちらを振り返っていた。
 かなり不安定な体制だ。だがそれが逆に…こちらの興奮を強く煽っていく。
 頬を染めながら荒い吐息を漏らし、濡れた眼差しを浮かべている恋人の
姿は、それだけでゴクリと息を呑むぐらいに艶かしかった。
 御堂はゆっくりと…克哉の臀部に、先端を押し当てていく。

「あっ…はっ…焦らさないで、下さい…」

「ふっ…聞こえ、ないな…」

 アヌスの縁の部分に…ペニスの先端をゆっくりと押し込むような形で先走りを
ネチネチと擦り付けていった。
 その度に期待するように克哉の背筋がビクビクと震えていく。

「ふっ…うっ…意地悪、しないで…孝典、さ、ん…」

 うっすらと涙を浮かべて、懇願する姿すら愛しい。
 だが…御堂は愉しげに微笑んでいくと…克哉のペニスにゆっくりと手を
回して、前も刺激を始めていった。
 すでにこんな体制になっているので…克哉の性器もまたはち切れんばかりに
硬く張り詰めてしまっている。
 それをクチュクチュ…と音を立てながら弄っていくと、克哉が耐え切れないと
ばかりに…全身を戦慄かせていった。

「克哉…君は、本当に…可愛いな…。私に少し触れられるだけで…
いつだって、こんなに感じて…」

「はっ…んんっ…! お願い、ですから…言わない、で…あっ…」

「…そろそろ、大丈夫そうだな。君は…もう、いやらしく私の事を根元まで
飲み込んで、絞ってくれる事だろう…」

「そ、んな…あっ…ん…」

 ようやく…御堂が前も後ろも同時に攻め上げながら…克哉を追い詰めて
いく事に終止符を打とうと…ペニスを押し込み始めると…蕩けそうな甘い声が
喉の奥から零れ始めていく。
 待ち望んでいた衝撃がやっと訪れる予感がして…克哉がその背中を
歓喜で震わせていくと…。

―その瞬間、克哉のポケットから携帯電話の着信が鳴り響いた

 克哉は、仕事上…携帯電話は必須になって来ている。
 そのおかげで最近はプライベートの間でも、つい…携帯電話を
肌身離さずか、すぐ手に取れる距離に置く習慣が身について
しまっていたのだ。
 それが今、この瞬間では仇になってしまっていた。

 御堂の顔が、そのメロディを耳にした途端に…青筋が浮かんでいくのが
気配で感じられた。
 それを後ろ向きの状態でも咄嗟に気づいてしまった克哉は…
慌ててその電話を通話ボタンを、反射的に押してしまった。

(しまった…思わず、取っちゃった…)

 何故ならば、この携帯着信音の設定は…営業八課に属する仲間用、
そして主に本多から掛かっている時の合図に等しかったからだ。
 正式に御堂と交際してからも…本多は頻繁に克哉に電話してきて、
否…御堂の神経に時に触るぐらいに積極的に愛しい恋人を飲みや
食事に誘ったりして来ているのだ。
 克哉も…それで御堂が最近、独占欲丸出しでイライラしている事を
知っているので…つい、反射的に取ってしまったのだが。

―間違ってもこんな体制である事を…本多に悟られたくはなかった

(ど、どうしよう…こんな、体制で…)

 克哉が心底困惑して、第一声を発せない状態に陥ると…その向こうから
実に腹が立つぐらいに明るい声が聞こえていった。

『よう! 克哉…今、平気か?』

「あっ…うん…」

 本気でどうしようかと迷って、生返事をしてしまったのだが…向こうはそれを
了承の言葉と受け取ってしまったらしい。
  自分のすぐ背後で御堂が物凄い怒りオーラを漂わせてしまっているのが
ビリビリと伝わってくる。
 さっきまでの甘い空気が一辺して、まさに一色触発の状態だった。

―私と愛し合っている最中に…克哉に電話掛けてくるとは
いい度胸だな…本多…

 確かに休日の朝九時という時間帯なら、電話を掛けて来てもおかしくは
ない時間帯かも知れない。
 しかしあの男は、週末は克哉は自分との約束を優先してずっと断わって
いるにも関わらず…懲りずに誘ってくるから真剣に御堂の神経を
逆撫でしていたのだ。

(お願いだから…気づかないで、くれ…)

『今、大丈夫なら…誘わせてもらっても良いかな? 今朝起きたら
凄くカレーを食べたい気分になったから…また、例の丸ごとカレーを
沢山作ったんだ。良かったら食べていくか、持って行くかしてくれないか?
まあ、お前が平気だっていうのなら…そっちのアパートに鍋ごと
持って行っても良いしな…』

「あ、の…本多、御免。今日は…ちょっと…ダ、メなんだ…んあっ…!」

『っ!? 克哉、どうしたんだ…!?』

 ふいに漏らした克哉の声に、本多も怪訝そうに問いかけてくる。
 本当は声を漏らすべきではなかった事ぐらい判っている。
 だが…どうしても、抑えられなかった。
 何故ならそれは…。

―御堂が、根元まで性器を克哉の中に押し込んでいったからだ…

 内部に、恋人が存在しているのが判る。
 それで怪しく…己の内部が収縮をしているのも…。
 唯一の幸いは、御堂が押し入って来ただけで…敏感な場所を他に
弄られたり、快楽を引き出されたりはしていない事だった。
 だから…身体の奥は疼いて熱くなっていたが…まだ、辛うじて理性の
ようなものは残されていた。
 さっきまでの新婚のような甘くて蕩けそうな空気はどこへ行ったのか…。

(ど、どうにかして…この場は、言い繕わないと…)

 この気が狂いそうな状況下…克哉は、必死になって…辛うじて残っている
理性を掻き集めて、この場をどうするかを…考え始めていった。
 

 

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―克哉が作ってくれた朝食はいつも以上に美味に感じられた

 他愛無い談笑をしながら愛しい人間と食べる朝食の時間。
 それがこんなにも…心を満たすものだと、御堂は今まで知らなかった。
 カリっと焼いたトーストに、ベーコンエッグ。そして…シーザードレッシングを
掛けたツナサラダ。
 どれもそんなに手間が掛かっている訳ではない料理ばかりだ。
 それなのに、愛情という要素が込められているせいか…今まで食べてきた
朝食の中でも抜群に美味しく感じられた。

「…克哉、今日の朝食は…とても美味しく出来ていた。わざわざ
私の為に作ってくれて…ありがとう」

「あ…そんな、孝典さんがかしこまってお礼をする程の物を…オレは
作っていませんから。あの…その、片付けて来ます」

「うむ…」

 克哉はこちらの言葉に反応して、再び顔を真っ赤に染めていく。
 今朝の彼は、いつもよりも表情や態度の一つ一つがウブで可愛らしく
感じられた。
 照れくさくて、こちらから一旦…離れようとしたのが見え見えの態度
だったので…スルリ、と相手が自分の脇を通り過ぎていっても、御堂は
つい微笑ましい気持ちになってしまった。

(…まったく君は、どうしてそう…可愛らしすぎるんだろうな…)

 しみじみと、他の人間に口に出していったら「惚気」以外の何物でもない
事を考えながら…皿をキッチンの方まで下げていった克哉を眼で
追っていく。
 ついでに時計をチラリ…と眺めながら、少し思案していった。

(…まだ時刻は、随分と早いな。予約の方は…午後から入れてあるし
今日は休日で、充分時間がある。それなら…)

 克哉は手っ取り早く、朝食の片付けに掛かっているようだった。
 ジャーという水の音と、カチャカチャという皿同士が擦れ合う音が
聞こえ始めている。

(…少しぐらい、私の愛しい恋人と触れ合う時間ぐらいあるな…)

 そう考えながら…御堂はキッチンの方へと足を向けていった。
 スリッパをわざと脱いで足音を立てないように注意しながら再び
近寄っていったので…克哉は気づく気配はない。
 彼という人間はいつもそうだ。
 何事も、ちょっとした事でも真剣にやろうとする。
 だから…その瞬間に、隙が生まれることも多いのだ。
 御堂は、軽く笑いながら…克哉の背後に、さっき朝食を作って
いた時と同じように背後から抱きすくめていく。

「うわっ…! 孝典、さん…? ちょっとどこを…?」

 ただ、今朝と違っているのは克哉は火を扱っていない事。
 そして御堂の手は直接…背後から胸の飾りを、服の上からとはいえ
弄り始めている事だった。

「ちょっと…孝典、さん、ダメ…です…。今、皿を洗っている最中…
何ですから、弄らないで…下、さい…」

 そんな甘い声混じりに、抗議してくる恋人の姿が可愛くて…御堂は
首筋にチュっと吸い付いていきながら、ゾロリと舌で舐め上げていく。

「ほう…? 君は口で抵抗している割には…あっという間に此処を
硬くさせているみたいだがな…?」

 ククっと喉の奥で笑っていきながら…スルスルと服の隙間から手を
差し込んで、胸の突起を直接弄り上げていった。

「ひゃ…! あ、孝典…さん、ダメ、ですってば…んんっ…!」

 首筋に強く吸い付いて、赤い痕を散らしていきながら…克哉がもっとも
感じるぐらいの強さに加減しながら、胸の突起を捏ねたり摘んだりを
繰り返していった。
 必死に頭を振ってその感覚に耐えているみたいだが…御堂の愛撫の手は
一層執拗さを増していって、相手の理性をどんどん蕩かし始めていった。

「…何がダメなんだ? 私は…今、君が欲しくて堪らなくなっている。
いや…君がさっき朝食を作っていた時からずっと…そう思っていた。
だがさっき引いたのは、君が手ずから作ってくれた朝食を無駄にしたくは
なかっただけだ…だから、今は…止めてやる理由など、ないな…」

「そ、んな…あんなに、昨日…した、のに…」

「…正直、まだ足りない気分だ。今朝は…君が私を心から受け入れてくれた
いわば記念日のようなもの。だから…求めて、止まない気持ちのが強い…」

「あっ…ん…」

 耳元で、そんな甘ったるいことを囁かれて…克哉の背筋がゾクゾクゾクと
震えていった。
 今の一言で、随分と感じてしまっていたのが自分でも判った。
 その瞬間…臀部に、相手の昂ぶりを感じて…克哉は、もう洗い物など
もうどうでも良くなってしまった。
 
―こんな風に煽られたら、御堂が欲しくなって仕方なくなってしまうから…

「はっ…ん、孝典さん…も、う…」

「あぁ、君が欲しくなって…熱くなっている…だから、克哉…」

 そう言いながら、ズボンのフロント部分をゆっくりと指先でなぞられて
握り込まれていく。
 もう、逆らえそうになかった。

「はい…貴方を、奥まで…オレに、下さい…」

 そんな挑発的な一言を口にして、克哉は背後から自ら振り返って…
御堂の唇に熱く深い口付けを施していったのだった―

 起床した御堂がリビングに向かうと、其処にはキッチンに立って
朝食を作っている克哉の姿があった。
 すでにシャワーを浴びているらしく…さっぱりとした感じで清潔な
ワイシャツとスーツズボンを身に纏っている。
 もう、付き合い始めて半年以上が経過している。
 今ではこの光景も見慣れた…日常の一部となっているが、昨晩…
指輪を贈ったせいか、今朝は少しいつもと違うように感じられる。

(…私の為に朝食を作ってくれている姿も、可愛いものだな…)

 今の御堂の心境はまさに「眼に入れても痛くない感じ」だ。
 まさに7歳年下の恋人にメロメロメロな状態。
 ちょっとした仕草や…表情一つとっても愛しくて、胸が詰まりそうに
なるぐらいだ。
 そのぐらい…大切に思っていなければ、同性に指輪を贈るなんて
真似は絶対にしなかっただろう。
 ジーと熱い眼差しを向けていきながら、その後姿を見守っていくと…
ようやく克哉がこちらの視線に気づいたらしい。
 ゆっくりと、振り向いて…こちらの姿を発見していくと…花が綻ぶ
ような愛くるしい笑顔を向けて来た。

「あ、孝典…さん。おはよう、ございます…」

 ドッキン!

 ほんの少し、頬を染めながら恥じらいを含んだ表情で微笑まれて…
年甲斐もなく御堂の心臓は高鳴った。

「あ、あぁ…おはよう。克哉…今朝も私の為に、朝食を作ってくれて
いるんだな…ありがとう」

「い、いえ…オレが好きでやっているんですし…あ、すみません。ちょっと
そろそろ目玉焼きが頃合いなので、そっちに集中します…」

「いや、気にしなくて良い。私の方は…机の上でも拭いておこう」

「はい、お願いしますね…」

 そう、後ろを向きながら…告げていくと、克哉はフライパンから中皿の
上へと目玉焼きを移す作業へと集中していった。
 手際良く作業する後姿を見ていると、つい悪戯したくなる衝動に
駆られていく。
 彼に気取られないように…ソウっと後ろに忍び寄っていくと…克哉が
ガスコンロの上にフライパンを置いて、1~2秒経った頃ぐらいに…
ふいに背後から抱きすくめていった。

「うわっ!」

 今、作業に集中してそちらに意識が行っていたおかげで…克哉は
不意打ちされる形になっていた。

「…随分と精が出るな。君がそうやって…私の為に頑張ってくれている
姿を見ると…嬉しくて、朝から元気が出てくる…」

「そ、そんな大げさな事なんかじゃ…ないです、から…。オレだって…
貴方が、喜んでくれるなら…これ、くらい…んっ…」

 克哉が最後まで言い終わる間もなく…そっと静かに唇が重ねられていく。
 触れる程度の軽い口付けでも、その部位から…ジィンという甘い痺れが
ゆっくりと走り抜けていった。
 御堂は背後から愛しい恋人を抱きすくめたまま…そっと優しく髪と
項の部位を撫ぜていって…指先で確認していく。
 そのまま…調子に乗って唇の輪郭を舌先で辿っていくと…。

「あっ…ん。孝典さん、ダメです…。これ以上されたら…多分、朝食を
一緒に食べる、処じゃ…なくなり、ますから…」

「…朝食よりも、君を先に食べたいって言ったら…どうするつもり、
なのかな…?」

 その甘い戯れの一言は、耳元で囁いていってやる。
 恋人からの誘惑の言葉を…熱い吐息交じりに感じて、克哉の肩が
フルフル…と小さく小刻みに震えていった。

「…ん、意地悪…しないで、下さい。せっかく…暖かい朝食を、貴方に…
食べて貰いたくて、作った…のに…」

「…すまないな。君が可愛すぎるから…つい、虐めたくなる…」
 
 ちょっと拗ねたように唇を尖らす年下の恋人をなだめていくように…
御堂は米神に小さくキスを落としていった。
 そのままチョン、と唇にも小さくキスしていくと…やっと機嫌が少し
治ったようだった。

「…もう、孝典さんったら…困った人、ですね…」

 そう言いながら克哉が、唇を重ねてくる。
 それは羽のようにフワリと柔らかいキスだった。

「朝食…一緒に、食べましょう?」

 そう言いながら…軽く瞳を細めて告げてくる。
 御堂にとってはそんな仕草一つ一つが…今朝は一層、可愛らしく感じられて
断わる事なんて出来ない。

「そうだな…君が私の為に作ってくれた朝食を馳走するとしよう…」

 そうしてギュっと恋人を抱きしめてから身体を離して…御堂は朝食の
準備を手伝い始める。

―今朝は、そんな日常のワンシーンの一つ一つが…いつも以上に
眩しく、大切なもののように感じられていた…


 

  ―御堂孝典が目覚めると、恋人の姿はすでに傍らにはなかった。

「克哉…?」

 小さく、愛しい相手の名前を呟きながらゆっくりと身体を起こしていった。
 激しいセックスをした後、快楽の余韻に浸りながら眠りに落ちた時には
しっかりとこの腕に抱いて眠っていた存在は…今では、その温もりのカケラすら
存在していない。
 それに若干の寂しさを感じつつ、御堂は髪を掻き上げていった。

「…昨日は随分と、激しく抱いたからな。シャワーでも浴びに出ていったん
だろうな…」

 そう割り切って、一先ずベッドサイドに置いてある棚の上から…ミネラルウォーターの
ペットボトルを手に取って、喉に流し込んでいく。
 これは週末、克哉が泊まりに来ると判っている時には必ず用意しているものだ。
 二人で愛し合うと…一日中、殆どベッドの中から出ないで過ごしてしまう日が
ある為…2~3本のペットボトルと、簡単に食べれるバランス食品の類は
すぐ近くに置くように心がけているのだ。
 カロリーメイトの箱を取っていくと、その包装を剥いて一本…食べ始める。
 水でそれを流し込んでいくと…ゆっくりと昨晩の記憶を思い出していった。

(昨晩も…私の克哉は、可愛かったな…)

 無意識の内に、すでに御堂の中では克哉は…「自分のモノ」という感覚が
出来上がってしまっている。
 有能で高学歴、仕事もバリバリとこなす上に容姿端麗という御堂は
今までも男女問わずに良くモテた。
 だが、どんな人間と付き合おうとも仕事を優先する御堂に…交際している
相手は寂しさや欲求不満を募らせる場合が多く、それであまり長くは続かなかった。
 御堂自身も、そうやって己を高めようとせずにダダを捏ねたり拗ねたりして
振り回してくるような相手に執着することもなく、どの付き合いもあっさりとして
今思えば…深く付き合った相手などいなかった。
 だが、7歳下の現恋人…佐伯克哉だけは、例外だった。

「…こんな物を贈ってしまうぐらい…彼に熱を上げるとはな…。我ながら、
滑稽だな…」

 自分の左手の薬指に嵌められているシンプルなデザインのプラチナリングを
見て…つい苦笑したくなってしまう。
 御堂にとっては、これはエンゲージリングやマリッジリングとほぼ同一の意味合いを
持つこの指輪は…昨日、依頼していたジュエリーショップから受け取って来て…
克哉に贈った物と対になっていた。
 昨日、この指輪を贈った時…本当に克哉は喜んでくれて。
 その顔が可愛くて仕方なくて、愛しさがこみ上げて来て…自分でもどうしようと
思ったぐらいだ。

 正式な結婚式や、挙式は出来ない間柄だ。
 日本では同性同士での結婚は認められていないし、その辺が外国のように
認められるのはまだまだ先の話だからだ。
 けれど気持ち的にはそれと同じ意味合いを込めて…指輪を贈った。
 それでお互いに…気持ちが高まって…。

―はっ…あっ…孝典、さん…! ダメェ…そんなに、されたら…オレ…!

 一瞬、無我夢中で克哉をバックから突き上げている時の…艶かしい
媚態を思い出してしまい…つい、鼻先と口元を覆ってしまっていた。

―んんっ…も、う…イク…た、かのり…さん…好き…!

 もう抑えないといけない筈なのに、今度は正面から抱いた時に…
瞳を潤ませながら必死に首元に抱きついて来た時の、切なくて…
耳まで紅潮していた表情を思い出し…それだけで下半身がズクズクと
疼くような思いがした。

(…何で私の克哉は、あんなに可愛くて可愛くて…仕方ないんだ…?)

 思い出すだけでこんな風に興奮して仕方なくなるなんて…それこそ
高校生同士のカップルでもないのに、凄いことだと思う。
 結局…今週の休みを確保する為に、平日は過密スケジュールを過ごして
かなり疲れていたにも関わらず…三発も彼の中で放ってしまったのだから
自分も随分…若いものだと思った。

「…いかん、これ以上…朝から克哉のことばかり考えていたら…本日も
セックスで明け暮れてしまう。…指輪を贈った昨日はさながら…私達に
とって初夜のようなものなら…今朝は、いわば…新婚初日と言った所だ。
せめて…もう少し、克哉にとって思い出になるような事をしなければ…」

 ただ、一日中セックスして愛し合うことは…今までだって散々していた。
 けれど…一生彼と添い遂げていくぐらいの覚悟を持って指輪を作り…
それを贈ったのならば、もう少し…二人でその思い出をずっと語り合えて
いけるような…そんな一日にしたいと、御堂は考えた。

―それから、暫く御堂は考え始めていく

 …そのまま、考えが纏まると…ベッドサイドに大雑把にたたんであった
自分のスーツから…携帯電話を取り出して、ネットに繋いで検索を
始めていった。
 そして対象となる店のリンクをいくつか辿っていくと…ようやく望んでいた内容に
合致する所を発見し、その電話番号を登録していく。

「…これで、良い…」

 どうせなら、恋人の喜ぶ顔をもっと見たい。
 嬉しそうに笑う克哉を、しっかりと眼に焼き付けたい。
 そう想像して…御堂は本当に幸せそうに微笑んでいった。

「…そろそろ、起きるか。克哉の顔を早く…見たいしな…」

 そうして、御堂はベッドから身体を起こし…簡単に衣類を羽織った状態で
リビングの方へと向かっていく。
 その時、キッチンの方からコポコポコポ…という音と、ジュージューと
言う小気味の良い音が微かに聞こえていたのだった―
 

 

―大切な人から、それを受け取った朝は…世界が輝いて見えた

 佐伯克哉は、キラキラと光る朝日を受けながら…ゆっくりと意識を覚醒
させていった。
 今朝は…気持ちの良い朝で、窓の向こうには白く輝く見慣れた光景が
広がっている。
 御堂のマンションで、こうやって週末の朝に目覚めて…この眼下の景色を
眺めるにもそろそろ慣れて来たのだが…今朝は、また…違って感じられた。

(これを…孝典さんから、受け取ったおかげかな…)

 克哉は寝ぼけ眼で、そっと自分の指に嵌められているプラチナリングを
眺めていった。
 その小さな、されど確かな御堂からの想いの証を見つめながら…克哉は
幸せそうに微笑んでいく。
 御堂を想っていると自覚したばかりの頃は、こんな物をこの人から
贈られる日が来るなんて…想像した事もなかったから―

「どうしよう…一晩経った後でも、夢みたいだ…。凄く、嬉しい…」

 そっと大切な物に触れるかのように、愛しげに指輪を…指で辿って
確認していった。
 克哉のすぐ傍らには、御堂が安らかな寝息を立てて静かに眠っている。
 一緒の会社に働くようになってからも…御堂の多忙なスケジュールは
相変わらずで、愛し合った翌朝はこうやって泥のように眠り続けているのも
珍しくなかった。

(孝典さん…良く寝ているな。…いつもいつも、こんなに深く眠りこけてしまう
ぐらい疲れているのに…毎回あんなに激しく、オレを抱くんだもんな…)

 つい、昨晩の情事の記憶を思い出してしまって…ボっと頬が赤くなるような
想いがした。
 昨日の夜の、優しい瞳をしながら…この指輪を贈ってくれた時の愛しい人の
顔が鮮明に脳裏に浮かんでいった。
 たったそれだけで…克哉の胸に、じんわりと幸せな気持ちが浮かんでいく。

―この小さな指輪一つに、幸福がいっぱい詰められているような気がした。

 克哉は…ゆっくりと御堂の方に顔を寄せていくと、その唇に小さくキスを
落としていく。
 今の御堂は、彼の前では警戒心を解いているから…これくらいじゃ眼を
覚まさない事を知っている。
 触れるだけの口付けはとても長く…それだけでも、克哉の心を甘く
満たしていった。

「孝典、さん…大好き、です…」

 きっと眠っている相手には今は届かないけれど…この胸に溢れる想いを
静かに告げていって、その紫紺の髪を愛しげに撫ぜていった。
 愛しい人が傍にいてくれる。
 それがこんなに幸せだったと…この人に逢うまで、克哉は実感した事は
なかった。
 同じ布団にこうやって一緒に包まって寝て…朝を迎えていく。
 以前、無理やり…脅迫まがいの手段で関係が始まったばかりの頃は…
この人とこのように甘い関係になるなんて、予測した事もなくて。
 だからこそ…今、この瞬間の幸福は、本当に夢のようにさえ感じられた。

「…ん、克哉…」

 そう呼ばれた瞬間、ドキリとした。
 もしかして気持ち良さそうに寝ている御堂を起こしてしまったのだろうかと
肝が冷えたが…どうやら、少し経ってうわ言で呟いているだけだと判明していく。
 
「…何だ、寝言で…オレの名前を、呼んだだけか…」

 その事実に気づいて、克哉はほっとしていく。
 ただでさえ…自分の自慢の恋人は、忙しくて疲れているのだ。
 気持ち良さそうに眠っているのならば…絶対に邪魔したくない。

(このまま一緒の布団に入ったまま…寝顔を寝ていたら、絶対に孝典さんの
眠りを妨げちゃうよな…)

 もうすでに冬は過ぎて…暖かい季節を迎えている頃とは言え…朝方は少し
冷えるから一緒の布団に入っていると、フワフワしてあったかくて気持ち良かった。
 けれどきっと…こちらがすぐ傍でモソモソと動き続けていたら、御堂を起こして
しまうだろう。
 そう判断して…克哉は、そっと慎重に布団から這い出ていく。
 その時、自分が全裸で何一つ身に纏っていない事実が…酷く、恥ずかしくて
照れくさかった。

「あっ…これ…」

 自分の手首から、胸元。腹部や太股に至るまで…眼に見える範囲の場所
だけでも大量の赤い痕が散らされている事に気づいていった。

(うわ…っ! そういえば孝典さん、昨日はいつもにも増して…オレにキスマークを
つけまくっていたよな…)

 その記憶を思い出して、あっという間に克哉の顔が真っ赤に染まっていく。
 この赤い痕の一つ一つが、御堂の克哉への執着の証のようなものだ。
 今思えば…初めて御堂に最後まで抱かれた日の朝も、シャワーを浴びている
時に…全身にキスマークをつけられている事に気づいたけど、御堂は恋人関係に
なってからも…週末の度に、抱くたびに克哉に所有の証を刻み付けていた。
 そのおかげで…人前で肌を晒せなくなってしまったけれど、克哉は己の肌に
刻み付けられているコレを見る度に…どこか、安心出来た。
 …恥ずかしいけれど、それだけ…この人が自分に執着してくれているのだと
実感も出来るから…。

「…早く、シャワーぐらい浴びないとな…。これで良いかな…」

 正式に付き合い始めてからは週末の夜は…まず御堂のマンションで
一緒に過ごすので…今では克哉の着替えの類は結構、この部屋の中にも
置かれていた。
 そのまま克哉はクローゼットの方へと向かうと、ワイシャツ一枚と新しい
ボクサーパンツ、ジーンズを手に取っていった。
 肌寒いから…早く着たかったが…今はまだ、身体の奥に御堂の残滓が
残されているので…まずは浴室の方へと向かっていく。

 最後に、チラリと…ベッドの中で安らかな顔をして眠っている御堂の姿を
確認していくと…克哉は幸せそうに微笑みながら、まずはシャワーを浴びに
向かっていったのだった―

※28日より少し日付越えてしまいましたが、08年度の御堂さん
お祝いSS第一弾投下します!
 本日は御克バージョンでございます。
 少しでも楽しんで頂ければ幸いですv 


 もうじき日付が変わり、愛しい人の誕生日を迎える間際。
 御堂のマンション内にて、二人はベッドの上で恋人らしい甘く情熱的な
一時を過ごしていた。
 ただ、今夜に限っては照明は煌々と照らされており…互いの裸身を余す
処なく晒していく。
  真っ白いベッドシーツの上に、180センチを越す立派な体躯の男が二人で
絡み合っている姿は、圧巻だった。
 
 散々深いキスを繰り返し、愛撫を施されたことによって克哉の身体には
すでに欲望の火が灯り…耳まで真っ赤に上気させながら、荒い呼吸を
繰り返している。
 そうしている間にも、再び深いキスを施されながら…臀部に両手を
回されて激しく揉みしだかれていく。
 衣服はすでに完全に剥ぎ取られて、二人を阻むものは何も無い。
 暫く御堂が、克哉の身体をシーツの上に押さえつけるような体制を取っていたが
耳元で甘く要求内容を囁き、さりげなく…御堂の方がベッドの上に仰向けになる
格好を取っていくと…克哉の顔が一層、朱に染まっていった。

「ん…はっ…御堂、さん…そん、な…事…」

「…今夜は、私を存分に楽しませてくれると…そう約束してくれたのでは…なかったか?
克哉…早く、私の上に…乗れ。夜は…短い、からな…」

「は、はい…」

 羞恥に震えながら、御堂の下半身の上に乗り上げて…モジモジしている姿は
破壊的に可愛らしかった。
 克哉の胸元の突起や、ペニスが赤く色づき…いやらしく染まっている処などが
目に入ったら、それだけでこちらも興奮して生唾を飲んでしまいそうな勢いだった。

(…君は、自分のそういう姿がどれだけこちらの心を煽るか…まったく自覚が
ないんだろうな…)

 克哉は目を何度も瞬かせながら、オズオズと御堂の身体の上に跨っていく。
 明かりが灯って、全てが晒される状況ではこのような大胆な振る舞いをするのは
恐らく物凄く恥ずかしいのだろう。
 そっと御堂の剛直の上に臀部の谷間を落としていくが…騎乗位にそんなに慣れて
いる訳でない克哉は、一発で入れる事が出来なかったようだ。
 熱い先端が蕾の周辺に辺り、ビクリと身体を跳ねさせていく。

「あっ…」

「…克哉、それでは…私のモノが君の中に収まらないだろう…? これから、どうすれば
良いのか…ちゃんと判るのか…?」

「あ、はい…頑張り、ます…」

 恥じらいながらも、必死にこちらを悦ばせる為に尽くす姿は見ていて相当に
クるものがあった。
 御堂が見守る中、愛しい恋人はローションを手に取り、己の掌と御堂のペニスに
たっぷりとそれを落としていった。
 その準備を施してからまず自分の手を克哉の手が恐る恐る御堂のペニスに
添えられていくと…それを軽く握り込んで、己の内部に導こうとしていく。
 もう一方の手を御堂の腹部に添えて、身体を支えていきながら…それをゆっくりと
蕾の入り口に宛がい…。

「う、あっ…」

 実に悩ましい声を漏らしていきながら、腰を一気に落としていった。
 ローションでたっぷりと濡らしてあったせいか…挿入自体は実に滑らかにいって
あっという間に際奥まで克哉を穿つ形になっていた。
 早くも物欲しげに…ヒクヒクと克哉の内部が震えているのが判る。

「…君の中は、相変わらずいやらしい…みたい、だな…。まだ、挿れた…
ばかりだと、言うのに…こんなにキツく私のを食み始めている…」

「やっ…んんっ…御堂、さん…言わない、で…!」

 克哉は必死に頭を振っていきながら、訴えていく。
 ほんのりと目元に涙を滲ませながら…目をギュっと瞑っている姿が
妙にいじらしくて可愛く感じられる。

「ほら、克哉…今夜は、ただ私の上に乗って…腰を振る、だけでは…
なかった筈だ。…私にとって忘れられない一夜になるぐらいに…君が
愉しませてくれる、と。そういう約束…だった筈だ…」

「わ、かって…います…」

「なら、早く…この体制で…自分を慰めて、みろ。私の上で…どこまでも
淫らに乱れる…君の姿を、存分に堪能したい…」

 熱っぽい口調でそう告げると、克哉はフル…と頭を震わせながら
小さく頷いていった。

「…はい、貴方の…望む通り、に…」

 そうして、たどたどしい手つきながら…克哉は己の性器に静かに
手を伸ばしていく。
 御堂の身体の上に乗った状態で、腹に付きそうなぐらいに硬く張り詰めた
ペニスの先端からは大量の先走りが早くも滲み始めている。
 その様は酷く卑猥で…扇情的だった。

「あぁ…凄く淫らな光景だな…」

「…言わない、で…下さい…」

「…いいや、口にさせて貰おう…。今の君の姿は凄く色っぽくて…魅力的だ…」

「やっ…孝典、さん…」

 そう言いながら、合間に克哉の太股や膝頭の辺りをやんわりと撫ぜ上げて
いきながら…悪戯を仕掛けてくる。
 恥ずかしくて、このまま憤死してしまいそうな勢いだった。
 だが…この行為が、今夜…「誕生日プレゼントは何が良いですか」というこちらの
問いに対しての回答だった為に、克哉に拒否することは出来なかった。
 
―御堂さんに喜んで貰いたいから…

 そんな献身的な想いを胸にしながら、羞恥を堪えながら…必死に己の
性器を扱きに掛かっていく。
 指が敏感な所を擦り上げて、快楽を引き出していく度に受け入れている箇所が
キュンキュンと激しく収縮を繰り返しているのが自分でも判る。
 
(恥ずかしくて…本気で、死んでしまいそうだ…)

 チラリ、とそんな事を考えながら御堂の方を見遣っていくと…熱く獰猛な視線を
こちらに真っ直ぐ向けて来ているのに気づいてしまった。
 その眼差しが余計に、こちらの心をどうしようもなく煽っていく。
 背筋にゾクゾク~という、肌が粟立つような快感が走り抜けていった。
 
―愛しい人に、もっとも自分の浅ましくて淫らな姿を見られている

 そんな状態に、克哉の身体は確かに期待に震えて…一層、熱くなって
しまっていた。
 手を動かす度に、粘質の水音がグチャグチャ…と静かな室内に響き渡っていく。
 それが余計に、克哉の神経を焼いて…頭の芯を痺れさせていった。

「あっ…はっ…んんっ…!」

 そんな行為を繰り返している内に、声が抑えきれなくなって…ついに
大きな嬌声を漏らし始めていった。

「それで、良い…。君は、どこまでも私を深く…感じて、乱れていれば…」

「はっ…くっ…孝、典さぁ…ん…! や、これ…以上は…」

「する、んだ…決して、手を止めるんじゃないぞ…?」

 克哉がこのままではおかしくなる、気が狂ってしまうと…そう危惧を覚えて
頭を振って懇願しようとすると、それを強気な笑みを刻みながら阻んでいく。
 こんな処で、決して許してなどやらない。
 もっと自分の上で乱れて、狂えば良い。
 そう伝えるように…克哉の腰に両手を添えて、激しく…その内部を下から
突き上げ始めていった。

「あっ…はっ…! やっ…御堂、さん…! そんな、事…!」

「手は、止めるな…! もっと、もっと…私の上で、乱れるんだ…!」

「あ…んっ…はい! 判り、ました…!」

 恋人からの甘く拷問にも近い命令に必死に答えながら…克哉は己の
手で、性器を必死に扱いて…どんどん、乱れ続けていく。
 それはまるで…蕾が綻んで大輪の華が咲き誇っていく様のようだ。
 自分の身の上でいやらしく覚醒していく愛しい恋人の姿に…満足そうな
笑みを刻んでいきながら、御堂は激しく突き上げ続けていった。
 

 グチャグチュ…! グプ!

 空気が混ざり、互いが繋がり合っている事を示す水音が聞こえてくる。
 それが双方の欲望を更に深いものへと掻き立てていく。
 二人の肉体がぶつかり合い、ただ夢中で貪りあう姿は…獣じみているが
もっとも己の欲求に正直になった証でもあった。

「んあっ…! 孝、典さぁ…ん! もう…!」

 切羽詰った声で、克哉が訴えていくと同時に…御堂のモノもまた、熱く激しく
内部で脈動し…限界が近い事を訴えていった。

「克、哉…!」

 御堂もまた、余裕のない声音で恋人の名を呼び…そのまま、相手の中で
熱い欲望を解放していった。
 ビクビクビク…と両者の身体が激しく痙攣し、恋人の熱い樹液を際奥で
受け止めていく。

「あっ…はっ…孝典、さん…」

「克夜…」

 快楽の余韻に浸ってお互いに熱っぽい眼差しで相手を見つめていくと…
視線が確かに絡まりあった。
 そのまま…克哉は身体を引き倒して、御堂の唇に小さくキスを落としていく。
 何度も啄ばむような、慈しみをこめた口付けを繰り返していくと…そのタイミングで
丁度、日付が変わった事を告げるアラームが携帯から鳴り響いていく。

 そのメロディは…『ハッピーバースディー』
 愛しい人の生誕を祝う曲が流れる中で…小さく、克哉は告げていく。

―孝典さん、お誕生日…おめでとうございます…

 優しくその頬を撫ぜながら、克哉は静かに告げていく。
 そんな恋人の髪を優しく梳きながら御堂もまた…至福の感情を
覚えながら声の振動が唇に伝わる距離で…そっと囁き返していった。

―今年は、こんなに可愛い恋人に祝って貰えて…私は幸せ者、だな…

 と満足げに微笑みながら、そっと克哉の身体を腕の中に改めて
閉じ込めていったのだった―

 
 

 
 

 
 
 
 
 

 

 

 今日は諸事情により、一話完結の話を投下です。
 メガミドのラブい(鬼畜チック?)な連載ものは明日から開始予定っす。
 こっそりと先日の飲み会で出会った自分と同じ県在住の…本日が誕生日な
お嬢様に捧げます。誕生日プレゼントという事で…。
 良かったら受け取ってやって下さいませv

 『貴方の傍に…』 御堂×克哉SS

 御堂に告白し、結ばれた翌日。
 大きなサイズのベッドで、昨晩告白した相手の腕の中に納まりながら…佐伯克哉は
目覚めていった。
 窓からは眩いばかりの朝日が差し込んでくる。
 爽やかな早朝のワンシーンだ。
 だが…目を開けた瞬間に御堂孝典の寝顔が飛び込んできた瞬間、克哉は顔を
真っ赤にしながら飛び起きそうになってしまった。

「う…っ…!」

 一瞬、ここはどこかと疑ってしまった。
 寝起きで落ち着いていた心拍数が一気に上昇していく。

 ドキドキドキドキ…。

 自分の胸が早鐘を打っていくのが判る。
 相手の腕の中で身じろぎすると、その整った顔立ちが自分の眼前に存在していた。

(昨日の事…夢じゃなかったんだ…)

 昨晩の記憶を思い出して、また羞恥で憤死しそうだ。
 十日ほど御堂に会えないだけで切なくなって、相手の心が見えない事が苦しくて
苦しくて仕方なくて、玉砕覚悟でした告白。
 それをまさか御堂が受け入れてくれるなど、克哉にとっては予想外すぎて。
 信じられない想いで…眠る相手の頬にそっと指先を滑らせていった。

(暖かい…夢ではない…。本当に…現実、なんだな…)

 けれど紛れもなく其処に、触れられる距離で…無防備な姿を晒しながら御堂は
そこにいてくれていた。
 それを確認するように、静かに指先で辿っていく。
 頬から、顎に掛けて…そして鼻筋から、唇へと…昨日の出来事が本当にあった事
なのかを確かめるように克哉は御堂に触れていった。

(好きだとか、愛しているとかは…相変わらず言ってくれていないけれど、好きでもないなら
もう抱かないで下さい…とオレが言ったのに対して、あんな風に抱いてくれたという事は…
両想いだったと、判断しても良いんだよな…)

 昨晩、途中で懇願したくなるくらいに激しく…何度も御堂に貫かれた。
 濡れたシャツを羽織った状態での強引な行為であったが、途中で衣類が気にならなく
なるくらいにこちらも高められていって。
 終わりの方など、何も考えられなくなっていた。
 ただ御堂の熱さと、その激しさに翻弄されて…応えるのが精一杯になっていた。
 あれは幸せすぎて、本当に起こった事なのか疑いたくなるような一時であった。

「御堂、さん…」

 静かに、名を呼んでいく。
 されど相手は目覚めない。
 だが、こちらがこうしていても起きないくらいに…彼はぐっすりとこの瞬間、深い眠りに
落ちてしまっている。
 それは警戒している人間相手ならば、決して見せない光景だ。
 窓から差し込む微かな光が、御堂の髪と顔の一部を微かに照らし出していく。
 その光景を目の当たりにして、また小さく鼓動が跳ねていった。

―あぁ、オレ…本当にこの人を好きになってしまったんだな…。

 半ば自嘲気味に、同時に自分でも信じられない想いでいっぱいになりながら…
克哉は相手の髪をそっと梳いていった。
 端正な寝顔を眺めながら、くすぐったい気持ちが溢れてくる。
 こんな他愛ない事で、こんなに幸福な気持ちになれる自分が信じられなかった。

(もっと触れていたいな…)

 こうして、こんな風に安らかな寝顔を浮かべている彼を見るのは初めての経験で。
 ドキドキしながら、奇妙な高揚を覚えていく。
 そうして相手の頬や生え際を静かに撫ぜていくと…急に相手の唇に、視線が
釘付けになってしまった。

「あっ…」

 口端に自分の指が軽く触れただけで、酷く意識してしまう。
 昨晩、どれだけこの薄く整った唇と深く唇を重ね合ったのか…その生々しい
記憶を思い出して、またカァーと火照ってしまいそうだ。

(だめ、だ…凄く、キス…したい…)

 寝込みの相手の唇を奪うなど、ちょっとズルいのではないのだろうか?
 そういう理性が少し働いたが、ふと自分の中に芽生えた強烈な誘惑に抗えそうに
なかった。

「そっと触れる程度なら…大丈夫、だよな…?」

 恐る恐る顔を寄せながら、自分の唇を相手のそれに寄せていく。
 相手を起こさないように慎重に、たどたどしいキスを落とした瞬間…
ふいに強い力で克哉は抱き寄せられていった。

「っ…!?」

 一瞬、何が起こったのか状況が把握出来なかった。
 だが…克哉が困惑している間に、ギュウギュウ…と強い力で御堂の
腕の中に抱き締められて、その胸の中に閉じ込められていく。
 頭は見事にパニック状態になってて、すでにまともに働いていない。

「…まったく、君は意外に…いたずら好きなみたいだな…。さっきからずっと
髪や頬を撫ぜられたり色々されている内に、目が冴えてしまったな…」

「えっ…あの、すみません…! 御堂さん…」

「いや、良い。悪い気分には正直…ならなかったからな。だが、まさか寝込みを
襲われて唇を奪われるとまでは予想はしていなかったがな…?」

 意地悪く瞳を細めながら、男は楽しげに口角を上げていく。
 その顔で見つめられた克哉の心境は、まさに蛇に睨まれた蛙…といった処だろうか。
 困惑したような表情を浮かべながら、苦笑していった。

「す、すみません…昨晩の記憶を、思い出してしまったら…どうしても、御堂さんに…
キスをしたく、なって…」

「何を謝る必要がある? 私達はもう…恋人関係なんじゃないのか? 君が告白して…
私はちゃんと、それを受け入れた。昨晩はそういうつもりで君を抱いたつもりだがな…?」

「えぇ?」

 御堂からの思ってもいない発言に、素っ頓狂な声を挙げてしまう。
 だが男の表情は変わらない。
 自信に満ち溢れた、真っ直ぐな眼差しだった。
 その紫紺の瞳に魅了されながら…克哉も目を逸らさずに真摯に見つめ返していく。

「恋人、関係って…あ、の…」

「克哉…君はもう、私のものだ。違うのか…?」

 そう言われながら、グイと身体を引き寄せられて…首筋に赤い痕を刻まれていく。
 この身体に、昨日だって数え切れないくらいに刻まれた所有の証。
 それを更に、一つ一つ…確実に増やされていく。

「…いえ、違いません。オレは…もう、貴方のものです。身も…心も、全て…」

 いつの間にかこの人を好きになって強く惹かれていた。
 気づいたら、自分の中は御堂の事だけでいっぱいになってしまっていた。
 相手の心が見えなくて、辛くて仕方なくて。
 欲しいという気持ちとこれ以上期待したくないという葛藤で苦しくなってしまうぐらいに
すでに自分の心はこの人の事で埋められてしまっている。
 だから、噛み締めていくように…克哉は告げていく。

「そうか。なら…恋人にするキスなら、これくらいはしたらどうかな…?」

 愉しげに微笑みながら、強引に唇を重ねられる。
 熱い舌先が容赦なく入り込んで…克哉の口腔を容赦なく犯し始めていった。
 尖らせた舌が縦横無尽にこちらの歯列や、舌を舐っていき…息が苦しくなるくらいに
貪られていく。

「ん、んっ…ふっ…ぅ…!」

 こんなキスを、好きで堪らない人にされたら…正気でなどいられない。
 あっという間に身体の奥にスイッチが入って、腰が淫らに蠢き始める。

(ダメ、だ…このままじゃ、また…この人が欲しくなってしまう…!)

 反応し始めていく自分の身体に羞恥を覚えて、必死になって御堂の腕の中で
もがき始めていった。
 だが…どれだけ暴れようとも、深いキスによって身体の力が入らなくなってしまっている
状態では逃れられる訳がなかった。

「…やっ、御堂さん…こんな、キス…されたら、オレ…!」

 どうにか、唇だけは引き剥がすのに成功して…うっすらと快楽の涙を目元に滲ませながら
反論していく。

「どうか…なれば良い。そうしたくて…私は仕掛けたつもりだからな…?」

「えっ…? 御堂、さん…なに、を…あっ…」

 そして、再び深く唇を重ねられていく。
 御堂の胸を満たすのは、焦がれるような熱い想いだった。
 自分達の関係のスタートは、最悪であったという自覚はあった。
 当初は弄るだけ弄って、懇願させて啼かせるのだけが目的で始めた関係であったのに
気づいたら自分の方も彼を求めるようになり…気づけば惹かれてしまっていた。

(…君はきっと知らないだろうな…昨日、君の心が私に向けられていた事を知った時…
どれだけ私が嬉しかったかを…)

 だが、あんな風に関係を始めた自分が愛される訳がないとどこかで諦めていた。
 しかし、克哉は確かに言った。
 いつの間にか自分を想うようになってしまっていたと…。
 それがどれだけ、御堂にとっては驚愕を齎し…同時に嬉しく思ったのか彼はきっと
知らないだろう。
 だから確認したかった。お互いの気持ちが同じである事を。
 明け方まで何度も求めていても、まだ足りなかった。
 時間が許す限り、彼を今は貪りたかった。せめて…この週末の間だけ、でも…。

「克哉、君が欲しい…」

 朝日が窓際から強烈に差し込む天井を背景に背負いながら…御堂が熱っぽく
囁いていく。

「…っ! だって、昨日…あれだけ、オレを抱いた、のに…」

「まだ、全然足りない…あんなものでは、な…?」

「そん、なっ…む、ぅ…!」

 問答無用とばかりに唇を強引に塞がれて、己の下肢の茂みに…御堂の熱くなった
塊が擦り付けられていく。
 相手のあからさまな欲望を感じて、血が沸騰しそうになった。

(もう、ダメだ…オレも、御堂さんが欲しくて…堪らなく、なってる…)

 朝っぱらから、何てふしだらなんだろう…とツッコミたくなったが、一度…点いた欲望の灯は
行くとこまで行かなければとても収まりそうになかった。
 だからギュウ…と御堂の首筋に両腕を回しながら、相手の背中にすがり付いて…克哉の
方も彼を求めているのだと、しっかりと伝えていく。

「良いか…?」

「はい、オレも…貴方が欲しいです、から…」

 消え入りそうな儚い声音で、そう囁いていくと御堂は猛々しい表情で笑っていく。
 精悍さを兼ね備えた…獰猛な牡の顔だ。
 それを見て、余計にこちらの情欲が煽られていった。

「良い子だ…」

 そう笑いながら、御堂は改めて克哉の身体を…ベッドシーツの上に組み敷いていった。
 瞬く間に始まる、灼熱の時間。
 愛しているという甘い睦言よりも、遥かに激しく…お互いの身体でもって、滾りそうな
強い想いをぶつかり合わせていった。

 ―もっと、もっと傍に。
  この世界で一番、オレは貴方の傍にいたい
  強く貴方をどこまでも感じたい

 深々と相手に貫かれながら、必死に縋り付いて…強くそう想っていく。

 ―愛している

 お互いに簡単に口に出せない不器用な人間同士の、愛情表現。
 願わくばどうか、どうか…いつまでも貴方の傍に…入られますように。
 そう願いながら、朝焼けの中…愛しい人の腕の中で克哉は躍っていったのだった―
 
『君を…私は凄く大事に想っている…心、から…』
 
 掠れた声音で囁かれた言葉は酷く甘くて、克哉を酩酊させるには十分な
威力を持ち合わせていた。
 まさかここまで言ってくれるとは予想外だった為に克哉は想いっきり瞠目して
驚いていってしまう。
 それに連動するように、瞬く間に御堂の顔が朱に染まっていった。
 
「…た、かのり…さん…」
 
 嬉しくて胸が詰まりそうになりながら…愛しい人の名前を呟いていく。
 それと同時に、更に御堂は照れ臭そうな表情を浮かべていた。
 
「…これは、君の特効薬に…なった、だろうか…?」
 
「あ…はい、凄く…嬉しかったです。貴方に…そこまで、言って貰えるとは…
思っていなかった、ですから…」
 
 お互いに繋がった状態のまま、至近距離で相手の顔を見詰め合っていく。
 本来なら恥ずかしくてすでに居たたまれないレベルで照れ臭かったが…ジワリ、と
相手に対する愛しさがこみ上げてくるせいでどうしても…顔を逸らす事が出来ない。
 まるで何かの魔法に掛かってしまったかのように…お互いの瞳を真っ直ぐに見つめあう。
 
 ドックンドックンドックンドックン…。
 
 一番深い処に、相手を受け入れているせいだろうか。
 御堂の鼓動まではっきりと其処から感じ取れて…羞恥を覚えるのと同時に、
嬉しくて仕方なくなってしまう。
 
「た、か…のり、さん…」
 
 このまま死んでも構わないと思えるくらいに…幸福で、胸が満たされていく。
 自然と唇を寄せ合っていくと…触れるだけのキスを交わしていく。
 くすぐったくて、甘い一時。
 けれど…二人の胸を満たすのは紛れもない暖かな感情だった。
 
「嬉しい…」
 
 うっすらと喜びの涙すら浮かべながら、克哉は恋人の背中に腕を
回してぎゅうっと強く抱きついていく。
 お互いの汗ばんだ肌が、しっとりと吸い付いていくようだった。
 御堂のいつもつけているフレグランスの匂いが、汗に混じって…フワリと
克哉の鼻腔を突いていく。
 今ではすっかりと馴染んでしまった、彼の香りそのものだ。
 それを胸いっぱい吸い込んでいきながら…克哉は、チュっと相手の首筋に
赤い痕を刻み込んでいった。
 
「おかえし…です。さっき…オレも、貴方にいっぱい…つけられ…ました、から…」
 
 悪戯っぽい眼差しを浮かべながら、克哉が呟いていくと…一瞬、驚いたような
表情を浮かべて…それから徐々に苦笑めいたものに変わっていく。
 御堂の方から克哉に痕を散らした事は数え切れない程あっても…克哉の方から、
彼に痕を刻む事は滅多にない。
 けれど…珍しく、彼の方から独占欲や所有欲の表れであるキスマークを刻
まれるというのは悪い気分ではなかった。
 むしろ、普段穏やかで何を考えているのかイマイチ掴みにくい自分の恋人にも…
こちらに対しての執着心を抱いてくれているのが判るから、むしろ喜ばしい気持ちすらあった。

 お互いにクスクスと笑いあっていくと…ふいに克哉が、小さくクシャミをした。
 それを見て…克哉の容態が本日は優れなくて、ここに連れ込んだという事実を
思い出していった。

 お粥を作っていた時点ではその気持ちの方が勝って、出来るだけ色めいた方向の事は
考えないようにしていたんというのに…つくづく、自分は精神修行が足りないと思い知らされる。
 深く溜息を突きながら…御堂は克哉に問い尋ねていった。

「克哉…平気か? 冷やしてしまっただろうか…?」

「あ、はい…どうやら、汗を沢山掻いたせいで…冷えたみたいですね…」

 照れ臭そうに呟きながら、克哉は慌ててタオルケットを手探りで探り当てて…自分の
身体の上に掛けていった。
 抱かれている最中は、熱に浮かされて熱いくらいだったのに…今はあっという間に
汗が冷えて寒く感じられてしまう時期なのだ。
 
 クチュン…。

 そう答えている間に、もう一回小さく克哉がクシャミをしていく。
 御堂は、恋人の様子を見て小さく溜息を突いていった。

「随分と冷やしてしまったみたいだな…。今夜は、このまま…責任を取って君の
湯たんぽ代わりにでもなるとしよう…」

 そうすると、一旦克哉の中から性器を引き抜いていくと…そのまま克哉の身体を
しっかりと抱きすくめて、腕枕をしていくような態勢になっていく。
 克哉も御堂も、同じくらいの立派な体格をした人間同士なので…その図だけでも
かなりの圧巻ものだった。

「ゆ、湯たんぽですか…?」

 ふいに腕枕をされる格好になって克哉は顔を真っ赤にしていく。
 殆どされた経験がないせいか…照れ臭いのだろう。
 そんな姿を見て、御堂は更に微笑ましい気分になっていった。

「あぁ…今夜は君の特効薬になりうる労わりの言葉と…暖める役割を果たして
無体な振る舞いをした償いをしていこう…。そういう形にして構わないかな…?」

 ドキン…。

 ふと、悩ましくも優しい眼差しで、御堂に見つめられていくと大きく胸が跳ねていって…
それ以上の反論を封じられていってしまった。

「はい…その、構いません…」

 布団を被り直して、改めて相手の腕の中に納まっていくと…くすぐったいような、奇妙な
ざわめきを感じて…最初は酷く落ち着かなかった。
 意地悪をされる事は数あれど、こんなに甘ったるく優しくされた経験は殆どないせいで
鼓動も荒くて早いままで、ドキン、ドキン…という音がずっと止んではくれない。

「…いつも、君を虐めてばかりだからな…。こういう時ぐらいは、ちゃんと労わって
大事にしないと…いつか、逃げられそう…だしな…」

「逃げる、何て・・・そんなっ…。オレは…意地悪な、御堂さんだって好きですし…それで
貴方の元からいなくなるなんて…在り得ないですよ。それなら最初から…貴方に告白
してまで…この腕に、飛び込まなかった…ですからね…?」

 室内の証明に照らされて、克哉の色素の薄い髪が…キラリと透かされていった。
 その様と透明な笑顔を浮かべられながら、密かに御堂はノックアウトされていく。
 嗚呼…どうして、無自覚にこうも…こちらの胸を掻き回すような事を言ってのけるの
だろうか…。御堂はこの年下の恋人に向かって、深々と溜息を突いていった。

(まったく…私はどこまで、君という存在に振り回され続けるのだろうな…)

 出会った時から、今思えば彼は予測のつかない…御堂の理解の範疇を超える
行動や反応ばかりを返していく。
 最初はそれが不可解で理解の出来ない人種だと思ってむしろ…嫌悪した。
 だが、今となっては相手の全てが見えない事や予想のつかない部分が…今もなお
御堂を夢中にさせて離さないでいる魅力になっているのだと、素直に感じた。

「…参ったな。君からも…言霊を与えられてしまったみたいだな…私は…」

「えっ…?」

「…今の一言、かなり…私にとっては照れ臭くて、嬉しかったぞ…?」

 そうして、克哉の頬に手を触れさせて…ゆっくりと顔を寄せていく。
 彼は、そんな恋人の振る舞いに…瞼を閉じて、素直に受け入れていった。
 
「あっ…」

 甘い声を漏らしながら、その口付けと抱擁を克哉は享受していく。
 今夜、何度目かになるか判らない穏やかな幸福の波に…ゆっくりと呑み込まれて
いきながら、克哉は…御堂の胸の中で そっと目を閉じていった。

 暖かな腕に、抱擁。
 そして…愛されていると実感出来る愛情の篭った『言霊』
 たったそれだけで、人はこんなにも幸せを手に入れる事が出来る。
 普段、言葉が足りない二人だからこそ…時折、こうやって紡がれる想いを確認しあう
一言というのはとても貴重で…。
 少し不安定であった二人の関係を少しだけ確かなものに、補強していく。

 後、どれくらいの言葉を紡げば、安定した地盤を築けるのだろう。
 どれ程身体を紡げば…この想いは愛に昇華していくのだろうか。
 それは誰にも判らない。不安定の極み、と呼べるものが恋愛であるからだ。
 けれど…恐らく、相手にとっては宝石の価値を持つ言葉を必死に考えて、伝え合う
努力をしていけば…恋は、愛に緩やかに変質する日が訪れるかも知れない。 
 その日を信じて、君に気持ちを伝える言葉を伝えよう。

 お互いに…この腕を離さずに済む未来が訪れることを、小さく祈りながら―
 
 実に魅惑的な笑みを浮かべた克哉を前にして、御堂は息を呑みながら
たった今…耳元で告げられた一言を脳裏で再生していった。

『今のオレは…正直、いつもより弱っています。だから…もう少しだけ優しくて…
貴方の愛情を感じられる言葉が欲しい、です…』

 克哉の内部に指を押し込めた状態の御堂の耳元に囁かれたのは
そんな恋人からの、可愛らしい要求だった。
 それを聞かされて、先程まで彼を追い詰めて苛めるだけにしか
意識が向かなかった自分に少しだけ恥ずかしくなって…つい、言葉に
詰まってしまった。

「例えば…どんな言葉を欲しい、と願っているんだ…?」

 何となく今の惑いを感じている自分の表情を、克哉にじっと見られたくなくて
御堂は相手の耳元に唇を寄せながら、甘く囁き返していく。
 克哉もまた、それに習って…恋人の耳元に、熱っぽいような声音で…
自分の望みを、口にしていった。

「…言霊、って知っています? 言葉に魂が宿ると、どこかで聞いたことがあります。
弱っている時に励まされるような一言で元気になったり…逆に酷い言葉で傷つけ
られてしまったり…言葉って、とても…重要なものだと…思うんです。
だから…今のオレにとって…元気になるような…そんな特効薬になりそうな
一言を、貴方の唇から…聞いて、みたい…」

 チュっと耳朶に克哉から口付けられると同時に、彼の内部が怪しく蠢いて
こちらの指を実に淫らに締め付けてきた。
 熱に浮かされた克哉の表情は、艶やかと言っても差支えがない程…いつも
よりも色っぽくて扇情的だ。

 ―こんな状況で、相手にこのような一言を言われて…男として、冷静でなど…
いられる訳がない。
 指に強い締め付けを感じた瞬間、ズクン…と下半身が疼く想いがした。

「か、つや…」

 つい、知らぬ内に乾いていた唇を舐めてしまっていた。
 性急に指を引き抜いていくと、克哉の唇から切羽詰った声音が溢れていった。

「うあっ…!」

 何て、甘くて…魅惑的な声と表情をしているのだ…と思った。
 本当ならば、克哉の要望に今すぐにでも応えてやりたいのに…相手の言葉や
他愛無い反応から、欲情を刺激されて…興奮の方が先走ってしまう。

―克哉が、欲しい

 あまりに直球で、即物的な欲求。
 だが…それが彼の正直な気持ちだった。
 相手の上に覆い被さっていくと…お互いの呼吸は酷く荒くて、熱かった。
 ギリギリまで張り詰めて、先端から先走りを滲ませ始めているこちらの欲望の証を
相手の狭い隘路に宛がい、グイと押し込め始めていく。

 病人だから、労わらなくてはいけないと頭の片隅では理解しているので…いきなり
乱暴に腰を使うような真似だけはどうにか避けたけれど…ただ、挿れているだけで
こんなにイイとは思わなかった。

(いつもよりも…克哉を可愛い、と思っているからな…。いつもよりも…
君の中にいる事が気持ち良く感じられる…)

 克哉の内部は早くも淫らに蠕動を繰り返して、御堂のペニスを自らの際奥に
導こうと妖しく吸い付き、搾り始めている。
 腰を使わなくても、中にいるだけで達してしまいそうなくらいにきつくて…
気を抜けば、それだけでイってしまいそうだ。

「み、御堂さん…お願い、ですから…」

 貴方からの、愛されていると実感出来る一言が欲しいと…その欲求を
瞳に強く宿していたが、御堂の方は…まず、身体全体で…克哉を愛して
その想いを叩き付けたい欲求に駆られていた。
 
 ヌチャ…ヌチュ…グプ、グチャ…

 お互いの体液が混ざり合う音が、接合部から響き渡って来て…ゾクゾクゾク、と
した快楽が背中から這い上がって来た。
 凄く、気持ち良くて…眩暈すらしてくる。
 それ程の極上の快楽を共有しながら…お互いに、身体のリズムを合致させて
快楽の階段を駆け上り始めていった。

「あっ…んっ…み、ど、う…さ、ん…! 凄く、気持ちが…イイ…ふぁっ!」

 与えられる強烈な感覚に堪えるように、必死になって克哉は恋人の背中に
腕を回して縋り付いていった。
 相手のそんな一つ一つの動作が、御堂の心を更に激しく煽って…どうしようもなく
昂ぶらせていった。

「克哉、私も…凄く、良いぞ…っ。君の、中は…凄く熱くて…こちらまで、蕩かせて
しまいそう…だ、からな…」

 お互いに焼き尽くされそうなくらいの激しい情熱に突き動かされながら
夢中で相手を貪りあっていく。
 両者の呼吸と、刻むリズムがほぼ重なり合っていく。
 克哉がギュウッと強く内部のモノを締め付け…御堂もまた、限界に達して
熱い精を解放していくと…双方、押し寄せてくる悦楽の海へと呑み込まれ
始めていった。

「くぅ…!」

「んんっ―!」

 ギュウ、ときつく相手の身体を抱きしめあいながら…二人、ほぼ同時のタイミングで
達していった。
 克哉の内部に、御堂は熱い滾りを注ぎ込み…克哉もまた、それを受け止めながら
己を抱いていた相手の腹に、白い飛沫を飛ばしていってしまった。

 荒い呼吸に、鼓動。
 真っ白になるような快楽と、気だるい余韻。
 息を整えていきながら…御堂は改めて相手の耳元に唇を寄せて、少ししてから…
やっと言葉を紡いで、恋人に伝えていく。

『克哉…私は……………………』

 照れ臭さもあったのだろう。
 彼なりに必死になって考えた、この想いを伝える特効薬になりうる一言というのは
気恥ずかしくて、消え入りそうなくらいにか細い声音だった。
 だが、克哉の耳には辛うじて届いていて…その一言がジンワリ、と彼の心に
染み入っていくと同時に…。

「た、かのり…さん。本当に、ありがとう…」

 泣きそうな表情を浮かべながら、御堂の腕の下で…克哉は花が優しく綻んで
いくように…穏やかで嬉しそうな微笑を浮かべていった―

 
 イベント行けない方用の置き土産
 当日配布の無料配布本の中身でございます。

『春麗らかに』
 
                      BY 香坂 幸緒
 
 ―桜を見に行こう
 
 桜の蕾がつき始めの頃、御堂は克哉に向かって短い言葉で花見に誘い掛けていった。
 最初は克哉もびっくりしたけれど、御堂にそうやって誘って貰えた事自体はと
ても嬉しくて、二つ返事でOKした。
 だが、タイミングが悪い時というのは重なるものだ。
 心の其処では随分とこっそり、楽しみにしていた花見は結局…桜の花が見頃を
迎えた頃に大きなトラブルの対応に追われている内にあっという間に過ぎてしまっていた。
 特に恋人同士になってからは、克哉はMGNに移籍して彼の直属の部下に
なったおかげで…御堂の仕事が忙しくなれば、彼も一緒に慌しくなってしまう。
 花の命は短し、と良く言ったもので…関東圏内で花見をするのに最適だった時期は
全て忙殺されている内に終わってしまっていた。
 
―せっかく御堂さんが誘い掛けてくれたのに残念だったよな…
 
 内心ではそう感じていたが、特に不満を表には出さないように心がけて…GWまでの
期間を過ごしていた。
 4月の初旬にあれだけ忙しかったおかげか、連休に入る頃には少しは
仕事状況も落ち着いて。
3日から6日の間は丸々…二人共連休を取れる運びとなった。
 その前日、御堂は改めて…克哉に向かって声を掛けていった。
 
―もう、葉桜になってしまったが…二人で先月のあの約束を果たしに行かないか…?
 
 そう言われた時はびっくりしたけれど、とても嬉しくて。
 
―はい、オレで良ければ…喜んで。
 
 克哉は二つ返事で…了承、していった―
 
                *
 
 5月3日、MGNに移籍してから初めて迎えるGWの初日。
 御堂と克哉は…いつもと違ってスーツ姿ではなく、ポロシャツにゆったりとした作りの
ズボンというラフな服装で、都内の外れにある大きな自然公園に足を向けていた。
 この時期、都民の殆どは田舎に帰省したり…海外旅行に勤しんだりしているので
普段の休みの日なら賑わうこの公園も、すっかり人気がなかった。
 正門から随分と離れた位置まで歩いて進み、恐らく一月前だったら見事な桜の
花を讃えていただろう立派な桜並木の下でビニールシートを敷いて二人で腰を掛けていく。
 
 ―昨晩、結構遅くまで二人で愛し合ってしまっていたので…かなり最初は眠気と
疲労感を覚えていたが、日の下にいる内に結構意識が覚醒していった。
 
(正直言うと…結構、眠いかも…。でも、せっかくの御堂さんとのデートだしな…)
 
 付き合い始めて今月で四ヶ月から五ヶ月目に差し掛かるくらいだろうか。
 最初、あんなに険悪な形で関係が始まったとは思えない程、交際するようになって
からは自分と御堂の間には優しい時間が訪れるようになった。
 
(ちょっと御堂さんは…言葉が足りない部分が多すぎるけど、な…)
 
 正直、好きだとか愛しているとか…そういう甘い言葉を殆ど言ってくれない人なので
時折不安を覚える時もあるが…他愛ない表情や仕草、言葉の中にこちらを気遣ってくれる
言葉がちゃんとあるので…一先ず、そこまで不安は覚えずに済んでいた。
 
「…ふぁ…」
 
 今日の屋外デートだって、御堂が自分と一緒の自分を過ごしたいと思ってくれた
からこそ実現した事なのだ。
 その嬉しさをちゃんと噛み締めたい、という気持ちはあったが…やはり、睡眠不足には
勝てず生あくびが零れ続けていった。
 
(いつまで御堂さんに気づかれずに過ごせるかな…)
 
 せっかくこうして外にまで出たというのに…自分があくびを繰り返してばかりでは
御堂にだって申し訳ない…そう考えた瞬間。
 
「えぇ…っ?」
 
 克哉は信じられないものを見たような思いがした。
 御堂もまた、眠そうに…必死になってあくびを噛み殺していたのだ。
 すぐにこちらから顔を背けられて、隠されていったが…見間違えようがなかった。
 
(も、もしかして御堂さんも…オレと同じく、凄く眠いのかな…?)
 
 いつも完璧主義者で、乱れた処やだらしない処を殆ど見せようとしない…御堂に
対してはそういうイメージを抱いていたせいで、今のあくびをした瞬間は克哉にとっては
ちょっとしたカルチャーショックだった。
 しかし良く考えていれば、御堂と自分は同じように働いている訳だし…昨晩だって、
行為が終わって就寝に就いたのはほぼ同じくらいの時間である。
 よって、克哉が睡眠不足であるという事は…御堂だって同じ条件である事は頭で
理解していたが…やっぱり、ちょっと驚いてしまう。
 
(御堂さんでも、ちょっと呆けたような顔で…アクビをするような事あるんだな…)
 
 何となく、今の顔を見て…いつも格好良い自分の恋人に対して凄い親近感が
湧いていくが…恐らく本人に面と向かって言ったら絶対に不機嫌になる事だろう。
 
「…あのう、もしかして…御堂さんも、凄く…眠いんですか…?」
 
「…む、あぁ…そうだ。昨晩は…少々、寝るのが遅かった…から、な…」
 
 いつも語尾まではっきりした物言いをする彼にしては、珍しく歯切れが
悪い返答だった。
 けれどこちらを向いた瞬間に、キっとした眼差しに戻った処を見ると…
やはり克哉の前ではみっともない姿を晒したくないという彼なりの美学が
存在しているからだろう。
 その瞬間、春風が柔らかく辺り一面を吹きぬけていく。
 春の暖かさと、爽やかさをそっと周辺に伝えていくその微かな風を…克哉は
心地良さそうに受けていった。
 
「…オレも、同じです。本当なら…今日、貴方とこうして外にデートに行くって
判っていたのに…結局歯止めが利かなくて、昨晩は夢中に…なってしまいました…から…」
 
「う、む…そうだな…」
 
 お互いに昨晩の情事の記憶を思い出して、顔が赤らむような思いがした。
 だが…この沈黙は気恥ずかしいが、同時に悪くない気分だった。
 御堂が照れ隠しにそっぽ向いていく仕草が可愛らしく思えて…ついクスクスと
笑い声が漏れていってしまう。
 そんな自分を御堂はちょっとだけ不服そうに見つめていたが…忍び笑いを
噛み殺す事が出来なかった。
 
「あの…御堂さん。お互いに眠いというのなら、葉桜の下でお弁当を食べる
んじゃなくて…一緒にお昼寝しませんか。きっと…気持ちいいですよ…」
 
「誰が来るのか判らない場所で…その振る舞いは、少々無用心では
ないのか…?」
 
「えぇ、人の気配を感じたらどっちかがちゃんと起きれば良いだけですから。
それに…本当に眠らなくても、目を閉じて日光浴をしながら身体を休めるだけでも…
少しは身体の疲れが取れると思いますから…。
あの、ダメ、ですか?」
 
「む、ぐ…!」
 
 克哉が柔らかく微笑みながら、強請るようにそっと相手の顔を見つめていくと…
御堂は暫く押し黙っていった。
 そのまま腕を組んで暫く考え込んでいって…結局、観念したように深い溜息を
突いていく。
 
「…判った、君の提案を呑もう。私も確かに…睡眠不足だしな。君と一緒ならば…
それも悪くなさそうだ…」
 
「…はい、御堂さん…オレの提案、聞いて下さってありがとうございます…」
 
「…礼を言われる程の事ではない。私だって…その、君と一緒に過ごしたいという
想いは…一緒、だからな…」
 
 本当に心底照れ臭そうに咳払いしながら、そんな事を言うこの人を…愛しく
感じながら、克哉はそっと相手の腕に凭れ掛かって頬を擦り付けていった。
 多分、御堂と一緒ならば…より添って昼寝をするだけでも自分はきっと
幸せな気持ちになれる事だろう。
 そして…二人は暖かな日差しが降り注ぐ中、若葉を力強く繁らせた桜の木の幹に…
そっと背中を凭れさせながら、一時のまどろみに落ちていく。
 
(ん…凄く、良い気持ちだ…)
 
 心地よい春の一日。
 どこまでも澄んだ陽光と春風、そして自然の恵みに包み込まれていきながら…
相手が今、自分の傍らにいてくれる喜びを、互いに噛み締めていく。
 ジンワリと胸の中に満ちていく幸福感。
 他愛無く、同時にとても得難く…貴重な一時。
 克哉は瞼を閉じながら、傍らの愛しい人の体温を脳裏にしっかりと刻み込んで…
ただ、その僥倖を享受していった。
 
 ―この春麗らかな光の中で―
 
 
                         
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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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