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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い      

後、今回の連載の作中に使用されているミュージックのリンク。
どんな曲なのか知りたい方はどうぞ~。

 『A列車で行こう』
 『いつか王子様が』
 JAZZソング集 1. Fly Me To The Moon/フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
          2. The Girl From Ipanema/イパネマの娘
          3. Over The Rainbow/虹の彼方に
          4. Night And Day/夜も昼も
          5. When You Wish Upon A Star/星に願いを

 

 ―ピアニストの指先から奏でられるFly me to the moonのメロディは
克哉が知っているものよりも若干アップテンポだった

 だが、柔らかいメロディラインは聴いている内に…心を穏やかにして
聴く者を静かに魅了していった。
 …ピアノの澄んだ音が、日頃ストレスに晒された心身を優しく
解していってくれているのが判る。
 
(ピアノの音に癒し効果があるっていうのは…本当だな。
凄く寛いだ気分になってくる…)

 恐らくテーブルの下で御堂に手を繋がれていなければもっと
リラックスした状態で聞くことが出来ただろう。
 だが…相変わらず御堂の指先はこちらにしっかりと絡んで
離れる気配を見せなかった。
 その間、自分の心臓が何度も大きく高鳴っていくのが判る。

「…御堂、さん…」

 克哉は蚊の鳴くような小さな声で、恋人に向かって呼びかけていく。
 だが…控え目な照明しかない室内で、彼は…悠然とこちらを見つめながら
微笑みかけてくるのみだった。
 無言でこちらの手を握り締め、力を込めてくる。
 たったそれだけの事に…心臓が壊れそうなぐらいに暴れ続けていった。
 いつの間にかリクエストの一曲目の音楽は終わっていた。
 次に流れたのはイパネマの娘、という曲だった。
 
 その頃に先程注文したカーディナルがそっとテーブルの方に運ばれてくる。
 赤ワインをベースにしたカクテルは、赤く澄んだ色合いをしていて…
照明が落とされている状態では、赤い血を想わせた。

(…ワインって、そういえばキリストの血って概念もあるって聞いたことがあるな…)

 暗い中で、赤ワインの色を見れば…確かにそう納得出来てしまう。

「…これがカーディナル、か…。見た目は悪くなさそうだな…」

「えぇ、きっと貴方が気に入る味だと思いますから…ぜひ、飲んでみて下さい」

「うむ…」

 そういって優雅な仕草で、御堂はそっとカクテルに口をつけていった。
 その間ですら、テーブルの下の甘い拘束は解かれることはない。
 一挙一足の全てが洗練されていて…目を奪われてしまう。
 立ち振る舞いや小さな仕草、全ての要素が克哉の心を深く捉えていく。
 
(こんな格好良い人と…オレって良く両想いになれたよな…)

 今でも、夢の中の出来事ではないかと疑いたくなる時がある。
 けれど…しっかりと指と指を絡めているように、繋がれている手の感触は
紛れもなく現実で。

「…悪くない味だ。流石…君が薦めるだけはある…」

「…本当ですか?」

「あぁ、私の好みを良く理解してくれていると…実感出来る。確かに
これなら…私が違和感なく口に出来そうなカクテルだな。
ベースが赤ワインである分、非常に馴染みやすい味わいだ…」

「よ、良かった…。オレの一方的な独りよがりにならなくて…」
 
 御堂の穏やかそうな笑みを見て、克哉が安堵の表情を浮かべていく。
 それを見て、男は愉快そうな顔をしてみせた。

「…まったく君は…相変わらずそういう処は気弱なんだな…」

「す、すみません…」

「…別に謝らなくて良い。だが、褒め言葉は素直に受け取って貰った方が
こちらも嬉しい。だから…謝罪はなしだ」

「は、はい…!」

 背筋をまっすぐに正して行きながら克哉が答えていくと…
御堂は軽く吹き出していった。

「…ククッ! 君は本当に可愛いな…」

 そうして、再び繋いだ手を淫靡に蠢かし続けていく。
 ただ指と指の間をやんわりとくすぐられているだけなのに…その度に
背筋がゾクゾクして、体中の力が抜けていくようだった。

「…はぁ…っ…」

 こんな、手を愛撫されているだけで悩ましい声を出す羽目に
なるなんて…想像もしていなかっただけに困惑を隠せなかった。
 御堂はもう片方の手でグラスを持ち、こちらを真っ直ぐに見据えて
いきながら…酒を飲み進めている。
 まるでこちらが動揺して、乱れ始めている姿を肴にして酒を
飲まれているような…そんな感じだった。
 きっと御堂は今、こちらを掌で弄んでいる事を心底楽しんでいるに
違いないだろう。
 そう思うとつい、潤み始めた瞳で睨みつけたくなってしまうが…ジワジワっと
手を繋いでいるだけで追い上げられて、甘い快楽の涙を浮かべて
しまっている自分の視線など、きっと面白がられるだけだろう。
 しかも厄介なことに、身体は更に深い快楽を求め始めている。
 スーツの下で、胸の突起とペニスが隆起し始めていき…身体を
少し揺らしていく度に、また煽られていってしまう。

(こんなの、一種の拷問だ…)

 この人に身体の一部が触れているだけで欲しくなって、欲望に
スイッチが入ってしまうというのに…この場では隠れて手を繋ぐ以上の行為を
絶対にする訳にはいかない。
 それが克哉にとっては辛くて仕方がなかった。
 ただ、愛しい人に手だけを握られる。
 きっと二人きりの時にされたならば…それは幸福に結びつくことでも
胸の奥に灯る欲望を発散出来ないならば、それは甘い責苦にもなりうる。
 指の股を、愛撫するように握る手に強弱をつけられてしまい…もう、
涙になり掛けていく。
 手だけしか、触れ合っていない。後は御堂の眼差しだけが注がれて
いるだけだ。

 たったそれだけで…こんな風に一方的に自分だけが乱されてしまうのは
心底、恥ずかしかった。
 音楽は三曲目がアッという間に過ぎて…御堂がリクエストしたもう一曲に
演奏が入っていく。
 だが、最早克哉の耳にはまったく届かない状態だった。

「御堂、さん…もう、止めて…下さい…」

「おや、もっと…じゃないのか? 君の此処は…随分と反応している
みたいだが…?」

「っ…!」

 克哉はキュっと唇を噛み締めていく。
 手の拘束はそっと解かれていった。
 だが…代わりに御堂の手は、こちらの下肢に絡まっている。
 勃起し掛けていたペニスをスーツズボンの上から握り込まれて…
ゴク、と息を呑んでいく。
 間接的とは言え、欲しい場所に刺激を与えられて急速に情欲が
高まっていく。

「あっ…っ…」

「…声を、出すなよ…? あまり大きな声を出すと…コンサートの
邪魔になる…」

「そ、そんなの…」

「…私は君の望みを叶えてやっているだけだぞ…ほら…」

「っ…!」

 手なれた仕草で、スーツズボンのフロント部分を寛げられて…ペニスを
引きずり出されていく。
 そして、パっと見…すぐに克哉が何をされているのか判りにくくする為に
カモフラージュに、テーブルの上に置かれていた白いナプキンを下肢に
被せられていった。

「…声を、極力出さないようにするんだぞ…?」

 耳元に唇を寄せられて、非常な命令が下されていく。
 克哉はそれを拒むことも、首を縦に振ることも出来ないどっちつかずの
状態のまま…御堂の手管に、翻弄される羽目となっていったのだった―

 

 



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※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い    

後、今回の連載の作中に使用されているミュージックのリンク。
どんな曲なのか知りたい方はどうぞ~。

 『A列車で行こう』
 『いつか王子様が』

 ―次の演奏と演奏を繋ぐ音楽は、『いつか王子様が』を
柔らかくスローテンポにアレンジされたものだった。

 前半の演奏と、後半の演奏を繋ぐ小休止の間は…先程までは
ピアニストが紡ぎ出す音楽に耳を傾ける方に集中していた観客が
ひそやかな声とは言え、談笑を楽しみ始めていた。
 カウンターに立っていたバーのマスターや、ボーイ達も目まぐるしく
動き続けている。
 再び後半の演奏が始まれば、大きく動くことが出来なくなるからだ。
 前半の三十分の内に大抵の客は一杯の飲み物を片づけてしまって
いるらしく追加のドリンクをオーダーしていた。
 …克哉は御堂に手を握られている間、その恥ずかしさを少しでも
紛らわそうと、そんなジャズバーの店内の様子に目を向けていく。

(…御堂さんの指が絡んで、どうしても意識してしまう…)

 こういう時、この人にたっぷりと調教されてしまった自分の
淫らな肉体が恨めしくなった。
 …この人から与えられるものならば、どれだけささいなもので
あっても過敏に反応してしまう。
 こちらの指の股を、くすぐるように手を絡まされた状態で握られて
しまって…其処だけ、神経が鋭敏になっているようだった。

「…御堂さん、手を…離して、下さい…」

「駄目だ…」

「…ここはバーの中です。誰かに見られたら…」

「もうじきコンサートが始まれば照明も落とされる筈だ。…問題はない」

 傲岸不遜に微笑みながら、御堂は小声で言い切っていく。
 元来押しが弱い性格の克哉には、その傲慢なまでの自信が時々
羨ましくなる。
 けれどこのまま…御堂に手を繋がれた状態で、指先の性感帯を
責められ続けたらそれだけで勃起をしてしまいそうだった。
 …こんな処で自分だけが盛り上がる訳にはいかない。
 
(…しかも店の中でテーブルの下で手を握られて…オレだけ勃起するって…
どれだけもの欲しげな反応なんだよ…それって…)
 
 想像しただけ居たたまれなくなって、この場から消えたくなって
しまいたくなった。
 けれど御堂からの緩やかで甘い拘束は止められる気配はない。
 克哉の顔は…すでに耳まで赤くなって、心臓が忙しく脈動を
繰り返していた。
 すでに自分でも半分ぐらいまで性器が勃ち上がり掛けているのを
自覚して…泣きべそを掻きたくなった。
 混乱しつつある頭で、それでもこの状況を打破する為に…
克哉は苦し紛れにある一点を指摘していった。

「御堂、さん…。そろそろ一杯ぐらい…何か頼まないと喉が
乾きますよ…?」

 そう、御堂はこの店に入ってからまだ水しか口にしていなかった。
 一敗目のグラスの水も…すでに空になりつつある。

「…そうだな。一杯ぐらいは確かに酒を頼んだ方が良いな…。
克哉、君のオススメのカクテルはあるか…?」

「…御堂さんは確か赤ワインが好きでしたよね? 次は白ワインを好まれて、
行きつけの店では良く飲んでらっしゃいますよね?」

「あぁ、そうだ。この店でも何種類かイタリアワインがあるようだが…
あまり飲み慣れていない銘柄だから、ピンと来なくてな…」

「…赤ワインを飲みたい気分ならカーディナル、白ワイン寄りのを
味わいたい気分ならキール・ロワイヤルをお薦めします。
この二つのカクテルは確か…赤ワインと、白ワインがそれぞれベースになって
いますから御堂さんでも違和感なく飲めると思います…」

「ほう、君は…カクテルに詳しいのか?」

 克哉がスラスラとカクテルをこちらに薦める姿を見て…御堂は軽く
驚愕を覚えていったらしい。
 軽く目を見開きながら、恋人の方を見やっていった。

「えぇ、趣味で昔…自分で作ったりしていました。ここ最近はご無沙汰に
なっていましたけれど。けど…この二つは、もし御堂さんがカクテルを
飲まれる機会があったら薦めてみようって…そう決めていましたので…」

「そうか、なら…カーディナルの方を頼んでみよう。キール・ロワイヤルの
方が気が効いた高級レストランならメニューに置いてあるし…飲んだ
事もあるからな…」

「…そうですね。せっかくいつもと違う場所に来ているんですから…
新しい味に挑戦してみるのも良いと思いますよ…」

 会話している間に、御堂の意識もそっちに向いていったらしい。
 手は離される事はなかったが…こちらを煽るような挑発的な蠢き方を
しなくなっただけ…克哉の精神衛生上、大変ありがたかった。

「それでは…頼んでみようか」

 そうして御堂は片手を上げて、ボーイにオーダーを告げている間…
こちらの手をテーブルの下では変わらず握りしめていて…胸が
ドキドキしていた。

(どうか、気づかれませんように…)

 その事にばかりヒヤヒヤしてしまって…克哉は気が気じゃなかった。
 なのに相変わらず、御堂はポーカーフェイスを貫いていて…平然とした
態度をとり続けている。
 その肝の太さに心から感嘆を覚えていく。
 ようやくボーイが目の前から遠ざかっていくとそれだけでジワっと背中に
冷や汗が伝っていった。

「…緊張したか?」

「…当然、です…。どうして、こんな…」

 今、克哉が緊張していたおかげで掌はしっとりと濡れてしまっている。
 それでも意地悪な恋人は、手を離してくれる気配はなかった。
 今の間に、リクエストは完全にとり終わったらしい。
 舞台上ではトリオが三人揃っていて、演奏を開始しようと身構えて
いるのが目に入っていった。
 再び、スポットライトが舞台の上だけに灯されて…周囲の光は
控え目な状態になっていく。

「再び、演奏が始まるみたいだな…」

「…はい…」

 そうして、再び沈黙が落ちていくと…嫌でも、相手の掌の温もりと
感触を意識せざるを得なくなってしまう。
 後半のコンサートの開始に、ピアニストが滑るような指使いで奏でた
最初の曲は…御堂がリクエストした「Fly Me To The  Moon」の
柔らかなメロディラインだった―


※お待たせしました。
 6月25日から新連載です。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
  その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。

 秘められた想い  

 
 ―三人の男が舞台の上に立ち、ベーシストの合図が聞こえると
同時にポローンと、ピアノの音が店内に響き渡っていった

 それと同時にゆったりとしたテンポでジャムセッションが
開始されてく。
 ピアニストの指先から奏でられるのはしっとりとした雨の夜を連想
させるようなスローテンポの曲調だった。

「…ほう、なかなか悪くないな…」

「えぇ、綺麗な旋律ですね…」

 特に今の御堂は、新商品のCM曲を求めて「水」や「雨」を
連想させるような曲を、克哉が驚くぐらいの量を聴いている。
 曲のジャンルも多岐に渡っている。
 自分が全力で手掛ける新商品の売れ行きを大きく左右するであろう
『ベスト』の一曲を求める御堂の姿は貪欲すぎるぐらいだ。
 だが、それだけ細部においても人任せにしないで拘り続ける
御堂の姿に、克哉は感嘆を覚えているのも事実だった。
 演奏が本格的になっていくと、二人は完全に口を噤んでいく。
 ピアニストが奏でるメロディに集中する為だ。

(何ていうんだろ…しっとりとしている雨の夜…そんなイメージだな…)

 奏でられるメロディだけで、しっかりとその場面が頭の中に
鮮明に思い描かれていくようだった。
 そっと目を閉じてその音楽に聞き入っていくと…次第に店舗が
変わっていく。
 ドラムのフィルの音が変化していくと同時に…いきなり雰囲気が
大きく変化していく。
 ピアノの音楽が一旦止まり、ベースとドラムのソロの演奏だけが
始まっていく。
 トリオを構成している二つの楽器から生まれる音が、徐々にテンポアップ
していくと…ふいに鍵盤の高い位置から低い位置へと指先を流れるように
滑らせて…ジャーンという和音が高らかに響き渡った。

「わぁ…」

 その音調の切り替えの仕方は鮮やかで、店内にいた人間の口から
感嘆の声が漏れていった。
 次に聞こえて来たのは夏を思わせるようなきらびやかで華やかな、
踊るようなテンポの一曲だった。
 克哉は今までの人生で、ジャズなど殆ど聞いた経験がない。
 BARなどに行った時、店内のBGMとして有名な曲なら耳にしている
だろうが…曲名を詳しく言える程、接している訳ではなかった。
 だがピアノ、ベース、ドラムの三つの楽器から生み出されていくメロディは
アドリブが酷く聴いていて…聴衆の心を酷く踊らせていった。
 アップテンポのメロディがそのまま20分前後続き、その間は誰もが
聴き入っていて…チラっと周囲を見回しても聴く方に意識を集中させている。
 誰も余計な口を利かずに、彼らが紡ぎ出す心地よい音を楽しんでいた。

(…聴いていると、自然と身体が動きだすような凄い陽気な感じだ。
ウキウキしてくるみたいだ…)

 克哉自身は曲名を知らなかったが、紡がれているのはジャズやクラッシクの
定番でもある「A列車で行こう」を、かなりアドリブされて明るい曲調に
されているものだった。
 曲が切り替わったままの盛り上がりを残したまま…そのテンションの高さを
残して、ピアニストが全身に汗を浮かべながら必死にメロディを生み出していく。
 それに圧巻されながら、その場にいた誰もがその音の虜となる。
 そして唐突に曲が終わると同時に、割れんばかりの拍手がその場に
響き渡っていった。
 詳しくその音楽のジャンルに知識が持たないものでも、力がある演奏は
聴くものの心を大きく揺さぶっていく。
 今夜のコンサートには確かにそれだけのものがあった。

「…悪くない演奏だったな。聴いてて楽しめた…」

「えぇ、オレ…初めてジャズの生演奏なんて聴きましたけど凄い
迫力でした…。聴いてて、何かワクワクしてきたっていうか…」

「あぁ、軽い視察のつもりで来たが…思いの外、良いものを聞くことが
出来たな…。君がそんなに楽しんでくれたなら、誘った甲斐があった…」

「えっ…?」

 さっきまで、御堂は仕事モードの顔を浮かべていた。
 だが…ふいに笑みが浮かび、自分の恋人としての表情が滲み始めて
いくと同時に…克哉の胸は小さく高鳴っていった。

(…そんな顔を、いきなり浮かべるなんて…反則です。孝典さん…)

 ここは店内で他の客の目もあるというのに…思わず顔が赤く
染まってしまう。
 この時ばかりは店内の照明が控えめになっていることを心から
感謝していった。
 コンサートは一旦、一区切りがついたらしく…ベーシストを残してドラムと
ピアニストの二人は舞台から降りているようだった。
 僅かな小休止の時間、店の人間の何人かが回って…客に今夜の
リクエスト曲を聴いて回っているようだった。
 克哉が頬を染めて戸惑っている間に、彼らのテーブルにも店の人間が
次に聴きたい曲を尋ねてくる。
 だが、今までジャズに馴染みがなかったせいか…そう尋ねられてもとっさに
思い浮かばない。
 すると、御堂が小さく呟いていった。

「…Fly Me To The MoonかNight And dayを…」

 御堂が曲のリクエストを告げていくと、ボーイらしき男性は
「畏まりました」と小さく告げて一礼をして去っていった。

「…御堂さん、ジャズにも詳しかったんですね…」

 克哉が感心したように告げていくと、御堂は肩を竦めながら答えていく。

「…いや、私もそんなに詳しくはない。辛うじて…ジャズの曲だったと
覚えていた二曲を口に出しただけだ」

「けど、オレはまったく考えつきもしませんでしたから…」

 何となく今夜の気分は、初めて御堂にワインバーに連れていって
貰った時の心境に似ている気がした。
 普段、馴染みのない…自分の知らない世界へと足を踏み入れたことによる
不安と、ドキドキ感。
 だが、御堂の気まぐれで…今では良く顔出すようになったワインバーに
招かれた時と違い…今の自分と彼との間には確かな信頼感がある。
 知らない場でも何でも、この人と一緒にいるなら安心できると…そういう
頼もしい空気を纏ってくれている尊敬する上司であり、恋人でもある相手を
そっと見つめていきながら…克哉は嬉しそうに瞳を細めていった。

「…まったく、君は大したことでなくてもそうやって素直に驚いたり
感嘆出来るのだな…」

「えっ…そんな、事は…」

 御堂の眇められた目がとても優しくて、少し気恥ずかしくなって
相手から目を逸らしていく。
 その瞬間…予想もしていなかった展開になった。

「…あっ…」

 小さく、小声で呟いてしまう。
 木製の丸型のテーブルの下で…静かに御堂から指先を絡め取るように
手を繋がれていってしまう。
 驚きで克哉は言葉を失っていくが…こちらの戸惑いなどお構いなしとばかりに
手全体を愛撫されるように、しっかりと握られてしまって背筋に甘い快感が
走っていく。

「…ん、はぁ…」

 恋人関係になってからこの人に何度も抱かれた。
 時には甘く、激しく…様々な顔をベッドの上で見せられてきたおかげで…
今では克哉の身体は、こんな些細な事にすら過敏に反応するようになっていた。
 まだコンサートは終わっていないにも関わらず、こんな風に手を繋がれて
しまったら意識するなという方が無理だ。

「…お願い、です…御堂さん…その…」

「…克哉、手を繋いでいるだけで…何故そんなに拒むんだ…?」

「あっ…それ、は…」

 御堂に耳元で、囁きを落とされて…それでも背筋がゾクっとなっていく。
 こんな感覚、性質が悪過ぎて抗えない。
 心臓がバクバクと大きく音が立っているのを自覚しながら…克哉が
困惑している間にリクエストを聴き終わったらしい。
 いつの間にか全員が舞台上に戻っていて、演奏が再会されていた。

(どうしよう、こんな…)

 ただ手をしっかりと御堂に握られているだけ。
 なのに…自分の鼓動が破裂せんばかりになっているのを自覚しながら
克哉は、ピアノの音に耳を傾けて…絡んでいる指先から必死に意識を
逸らそうとしていったのだった―

 
 

 
 ※お待たせしました。
 6月25日から新連載を開始します。
 今回のCPは御堂×克哉となります。
 テーマは酒、(「BAR」&カクテル)です。
 鬼畜眼鏡Rで、太一×克哉ルートで克哉が軌道が乗るまでアメリカで
BARで働いていたという設定を見て、御堂×克哉でもカクテルやバーを
絡めた話が見たいな~という動機で生まれた話です。
 香坂自身が下戸に限りなく近いので、(アルコール度が低いカクテル1~2杯
飲むのが精いっぱい)出てくるカクテルの味の描写及び知識は調べたもので
補っております。
 その点をご了承で、お付き合いして頂ければ幸いです。


―それは御堂と克哉がMGNで一緒に働くようになって半年程が経過した
秋の初めの夜だった
                          
 二人はその夜、年季の入った雑居ビルの中にひっそりと紛れて
存在しているジャズバーに足を踏み入れていった。
 最近、御堂が注目している若いピアニストがこの店で専属で曲を
弾いていると聞いて…克哉が詳しく調べて…今夜、下調べの為にこうして
二人で訪れたのだ。
 まだ二十半ばのそのピアニストが以前手がけた曲を最近聞いた御堂は…
彼が手がける曲は、自分が手掛ける新商品のCMに使いたい
メロディのイメージに近い…と関心を持ったからだ。
 現時点ではあくまで候補の一人に過ぎないが、判断材料の
一つとして視野に入れておきたい。
 そういう意図で今夜の下見は決定され、恋人としてではなく…
仕事上の彼の右腕として克哉はこの場に身を置いていた。

 真剣そうな御堂の横顔を見て、克哉も緊張を高めている。
 プロトファイバーが大成功を収めてから、MGN内での御堂の評価は
随分と高くなって…次に彼の企画する商品にも注目が寄せられている。
 そのプレッシャーに負けることなく、精力的に仕事をこなし…
自分の思い描いているプランを実現させる為なら、貪欲に各地を飛び回る
御堂の姿は、恋人としてだけじゃなく…共に仕事をしている上司としても
尊敬していた。
 
(カクテルとかは結構好きだから、普通のバーはともかく…ジャズバーには…
初めて来たな。しかも御堂さんと…こうして一緒に訪れる日が来るなんて…
想像してもいなかった…)

 克哉自身はウィスキーやブランデーなどの蒸留酒、及びカクテルの類を
好む性質なので…御堂と付き合う以前は、良く一人でバーに飲みに行ったり
していた。
 だが、この人は何よりワインを愛好しているから…最近は飲むと
すればそればかりで…その他のアルコールは殆ど口にしていなかった。
 久しぶりに飲んだラフロイグは、藻のような…海藻のような独特の
風味がある。
 かつては頻繁に飲んでいたウィスキーも、ワインに飲む事に慣れてから
改めて喉に流し込むと趣きが深い。
 やはり、場の雰囲気というのがあるのだろう。
 シャレたレストランや、清潔さと整頓さが行き届いたようなバーなどでは
ワインは良く似合うが…このどこか古めかしさが漂う店内では
蒸留酒やカクテルを飲む方がしっくりと来る。
 チラリ、と御堂を見つめてみると…やはり、もうじき始まるコンサートの
方に意識を集中しているのが見て取れた。

―コンサートが終わるまで、私はアルコールを注文する
つもりはない。だが、それだと向こうとて商売だからな。
君の方は…好きなのを一杯頼んでおいてくれ…

 その告げられたので、御堂が何も注文していないのに
飲むのは気が引けたが…克哉だけ先にオーダーする
形となっていた。
 今回はそのピアニストの、実際のピアノの腕前はどれくらいかを
知る為にこうして…二人はお忍びで来ているのだ。
 確かに酒に酔っていては正しい判断が下せなくなる可能性が
あるから…聴き終わるまで飲まない、と毅然と言い切る姿に…
相手の真剣さを克哉は感じ取っていた。
 御堂の中にある、次の企画商品のイメージはすでに克哉は詳しく
聴かされている。

 そして御堂が現在考えているのは…天然素材で作られた淡彩飲料、
その透明な曲のイメージを若手の無名の人間に任せるか、否か。
 現在の進行状況から見れば…来年の春頃にはほぼ製品も完成をして、実際に
流通に乗せるかどうか詳しく打ち合わせをしたり、検討する時期に入るだろう。 
 CMとして放送する際、使用するタイアップ曲の準備は…早めに準備
するに越したことはない。
 …そして、御堂の候補のアーティストの中に…今夜演奏する
ピアニストも入っている。
 そう思うと、少し緊張してしまった。

(…そう考えるとちょっと緊張してしまうよな。…御堂さんはきっと、オレを
信頼してこうして同行させてくれたんだろうけど…果たしてオレが
その判断の役に本当に立てるんだろうか…)

 すでに本日の仕事も終わり、今はアフターファイブの時間帯。
 こうして二人きりで週末の夜を過ごしているのならば、甘い時間を
とうに過ごしていてもおかしくないのだ。
 だから…視察の為に今夜はこの店を訪れたのだというのに
酷く緊張してしまっていた。
 御堂と克哉が座っている席は、小さな舞台のすぐ手前。
 これから今夜、この店内で開かれるコンサートを見るには
特等席に近い位置にあった。
 店内の照明はすでに落とされ、落ち着いたBGMがゆったりと
流されている。
 老若男女、様々な年代の客が…これから開かれるジャズの
コンサートを楽しむために酒を飲みながらその時を待ち構えている。

(良い雰囲気の店だな…)

 克哉はそう思いながら、自分の手に持っているグラスを眺めていく。
 御堂は…何かを検分するように、鋭い眼差しを浮かべながら舞台の
上に立つ若いピアニストを見つめている。
 今夜の演奏はトリオ編成らしく、ピアノを中心に二人の
中年の男性がそれぞれベースとドラムを担当していた。

 …残り二人の年齢に比べて、ピアニストの年齢が圧倒的に
若いせいか…酷く目を引いていく。
 外見的に目を奪われる程の美貌、という訳ではないが
整った風貌と、しなやかな体型だった。
 指先の細さは本当に同じ男の指かと疑う程だった。
 いっそ、御堂が注目しているこの男性がもう少し年を取っているか
またはあまり美形な方ではなければ、こんなにヤキモキした
気持ちを覚えなくて済んだのだろうか…と漠然と感じた。
 コンサートが終わるまでは、幾ら週末の夜と言っても…
今夜は仕事の延長だ。
 それなのに、余計なことばかり考えて心がモヤモヤしている
自分が凄く情けなく感じていった。

(…完全に仕事モードに入っているな。御堂さん…目が本当に…
真剣で、食い入るように眺めている…)

 本来なら、今…こんな事を考えるのは不謹慎かも知れないが
御堂が鋭く食い入るような眼差しを自分以外の誰かに向けていることに
チリリ、と胸が疼いていった。
 あくまで仕事で来ているのだから…と言い聞かせても、嫉妬めいた
感情が湧き上がる自分自身に少し苛立ちが募る。
 だから邪魔をしないように、密かに息を潜めて…コンサートの開催を
待ち構えていく。
 開催が近づくにつれて、店内の照明は徐々に落とされ…舞台の
上だけがそっと淡い光に照らし出されていく。
 トリオを編成する三人が、それぞれ持ち場についていく。
 もうじきコンサートの幕が開けることを伝えていく独特の
緊張感が店内中に広がっていくと…。

 バッタン! 

 これから音楽が始まろうと観客全員が身構えたその瞬間、
入口の方から盛大な扉を開閉する音が聞こえていった。
 そして二十二時丁度を迎えて、一人の若い男性客が息を切って
店の中に滑り込んでくる。
 そして彼が、舞台から離れた席にそっと座っていった瞬間…
最初のピアノの旋律がその場に鳴り響いていった。
 それと同時に、鮮明に舞台上はスポットライトが灯り…そして静かに
ジャズのコンサートは開催されていった―
 
  今日は、いつもお世話になっている「眼鏡依存症」の如月さんに
捧げる話を投下します!
 …ここ3~4日、回線トラブルは起こりまくるわ、仕事で新しい
事を沢山覚えなきゃいけなくなって頭がパンク状態なので…
小説書くのスランプです。すみません~(TT)

 けど、本気で如月さんにはお世話になっているし…二日遅れでも
やっぱり一本、何か贈りたいと思ったので書きます。
 …これからパーティーで家を出て行くまで一時間切った、という時点で
創作の神が降りてくるっていうのも皮肉やけど。
 思いついた以上、書きたいので投下します!
 本日は御克です! …最近、何が出てくるか判らないブログに
なっていて本気ですみませぬ!
 けど如月さん、誕生日おめでとう! 

※このお話は、如月さんのブログに掲載されているイラストの
一枚から、勝手に香坂がイメージを膨らませて書いた作品です。
 香坂の独断で書かれたものなので、ご了承下さい。

『貴方に繋がれて』

 プロトファイバーの営業期間が終了しても、御堂と克哉の関係は
ずっと続いたままだった。
 御堂と会う度に、感じる奇妙な想い。
 克哉はその気持ちに名前を敢えて、名をつけずに目を逸らしていた。
 そしていつもの週末、克哉は…指定された御堂のマンションへと
足を向けていく。
 緊張と、期待に満ち溢れながら…廊下を歩き、御堂の部屋の前で
少し立ち尽くしていった。

(今日も御堂さんに…オレは、抱かれるんだな…)

 御堂に半ば脅迫されて肉体関係を持つようになった日から
すでに五ヶ月が経過しようとしていた。
 季節はすでに二月、肌寒い時期を迎えていた。
 第八課のプロトファイバーの営業は、ドリンク業界の今までの
最高記録を塗り替える程の成果を出していた。
 御堂が最初にこちらを揺さぶる手段として用いた…「売り上げ目標値の
繰上げ」の数字すら、とっくにクリアしていて…今となってはこうやって
御堂と身体を繋げることに意味などなくなっている。
 
―それでも何故、自分達はこんな関係を続けているのだろうか…?

 そんな自問をしながら、克哉はインターフォンを押していった。
 すでに約束の時間間際だったので、殆ど待たずにその扉は
開かれていった。

「君か…やっと来たようだな。待ちかねたぞ…」

「…はい。お待たせしました…御堂さん」

 クスクスと笑いながら、御堂はそっと克哉を招きいれていく。
 愉快そうに笑う相手の顔を見て、克哉は少し不安に襲われていく。
 それでも敢えて意識せずに…むしろ約束の時間よりも少し早く
訪れたにも関わらず、克哉は一言謝って…室内へと入っていった。
 御堂は面白がるように克哉の腕を掴んでいくと、そのまま…腕を
引いて寝室へと連れ込んでいった。
 
「来い…」

「…はい」

 頬を軽く染めながら、克哉は頷いて相手のされるがままになった。
 年を空けた頃からだろうか。
 克哉と御堂の関係は、接待を繰り返していた頃よりも…少しだけ
変化していった。
 何か劇的な事件が起こった訳ではない。しかしその辺りから
御堂はホテルの部屋ではなく、克哉を自分の部屋へと呼ぶように
なっていた。
 御堂自身の弁では、「どこから自分達の関係が発覚するか判らないから」
という事だったが、真意は判らないままだった。
 
 性急に御堂のベッドルームに連れ込まれると、いきなり大きなベッドの
上へと押し倒されていった。
 手馴れた感じで、あっという間に衣類を剥ぎ取られていく。
 もう何回抱かれたかすでに判らないぐらいなのに…克哉の顔は
真っ赤に染まって、居たたまれなさそうに目を瞑っていく。
 生娘のように、恥じらいを忘れない態度は却って男の欲望を
煽るだけだと無自覚なままで…。

「相変わらず君はいやらしいな…もう、こんなに胸の突起が
赤く熟れている…」

「あっ…っ…言わないで、下さい…」

 そのまま、胸元に顔をうずめられていくと…其処だけを執拗に
攻められ続けた。
 甘い疼きが、その度に走り抜けていく。
 いつの間にか、克哉の身体も変わってしまった。
 御堂に触れられた途端、どこも顕著に反応するようになって
しまっていたのだ。
 ギュウっと目を強く瞑りながら、克哉は必死に与えられる感覚に
耐えていくと…ふいに金属音が聞こえた。

ジャラ…

 鎖のようなものが擦れ合う音が聞こえて、怪訝そうな顔を
浮かべて目を開けていくと、そこには手錠を持って愉しそうに
微笑んでいる御堂の姿があった。

「っ…! それは…!?」

 とっさに暴れようとした。しかし驚いていたので実際に身体が
反応するのは遅れてしまっていた。
 その隙に御堂は克哉の片腕をそっと掴んで、ベッドの柵の部分と
繋げてしまっていた。

「御堂さんっ?」

「…たまにはこういう趣向も良いだろう? 君は淫らな性質をして
いるんだからな…」

「そんな、事は…うぅ…!」

 御堂の指先が、そっと克哉の頬から首筋にかけてそっとなぞり
上げていく。
 たったそれだけの刺激で確かに自分は過敏に反応してしまっていた。

「はっ…あっ…」

 甘い声を漏らした瞬間、ふいに足を大きく広げられて…御堂が
自分の足の間に割り込んで来ていた。
 熱っぽく、傲慢な双眸。その奥に確かな欲情の色を感じて…
知らず、克哉はゴクンと息を呑むようになった。

―その眼差しに逆らいきれず、支配されてしまう…

「克哉…抱くぞ」

 そう一言、熱っぽく言い放って強引にペニスを挿入されていった。
 御堂の体重を全身に感じて、その熱さと重量に眩暈すら感じる。
 すでに把握されてしまった感じる部位を執拗に擦られながら…相手と
自分の身体の間に挟まれてしまっている性器を扱かれていく。
 たったそれだけで…すでに欲望に火を点けられてしまっている事を
自覚せざるを得なかった。

 グチッ…ネチャ…

 相手の手が絡まり、亀頭の部分から早くも粘性の水音が
響き渡っている。
 御堂の整った指先に、自分の体液が絡まっていく様が妙に
卑猥だった。
 そうしている間に、真っ直ぐに相手の目線が…こちらの痴態に
注がれていることに気づいて、克哉は羞恥で神経が焼ききれそうになる。
 
(また…貴方の、その目だ…。御堂さん、貴方は一体…オレに
何を伝えたいのですか…? その熱い目で見られていると…
落ち着かなく、なってしまうんです…!)

 最近、御堂は何かを訴えるようにしながら…正面から向き合う
ようになって身体を繋げるようになった。
 その度に、メチャクチャに克哉は感じて…乱され続けていく。
 彼の自宅で抱かれるようになってから、行為は執拗さと嗜虐性を
増していき…今日の手錠のように、何かSM道具や性具を用いて
辱められることは当たり前のようになっていた。
 御堂が激しく、こちらを突き上げる度に…手錠が繋がっている箇所から
皮膚が擦れて、痛みを覚えていった。
 それでも…逃れたくても、こうして手錠だけではなく、身体も繋がれて
しまっては克哉としては逃げようがない。

「あっ…はあぁ…! ううっ…んっ…!」

 ただ甘い声を漏らして、喘ぐのみだった。
 その声に気を好くしたのか…御堂は激しく克哉の唇をも深く
塞ぎながら、激しく突き上げ続けていった。

「…相変わらず、君の中は厭らしくて気持ち良いぞ…この、淫乱…」

「ふっ…言わないで、下さ、…! ああっ!」

 そうして、御堂に繋がれながら克哉は翻弄され…今夜もまた
彼の腕の下で啼き続けるだけの存在になっていく。

 お互いに胸に抱く想いはあるのに、それを口に出せない。
 伝え合わないから、『接待』という名目でしか彼らは逢瀬を重ねる
ことができない。
 不器用な人間同士の、切ない関わり。
 ほんの少し、態度と言葉に出せばハッピーエンドに結びつけるぐらいに
お互いを想い執着しあっているのに…彼らはまだ、そんな形でしか
顔を合わせる理由を見出せずにいた。

―この胸に宿る感情は、一体何なんですか…? 教えて下さい…
御堂、さん…!

 激しく突き上げられながら、今夜もまた心の中でその疑問を浮かべて
声を出さずに問いかけていく。
 克哉が自らの思いに気づいて、リアクションを起こせばきっと別の
形へと彼らの関係は変わっていく。
 しかし時期を逸してしまった彼らは、『今』は不毛な関係を続けていた。

『あぁー!』

 そうして、克哉は今夜も御堂の腕の中で乱れていく。
 …彼が自らの想いに気づくのは、きっとこの冬が明ける頃だろうか。
 克哉が答えに至るまで、この形で関係は続く。

―『恋人』という間柄になる、その日まで―
 
 ―レストランで楽しい一時を過ごした後、あるホテルに克哉は連れて行かれた

 二人とも、食事時に一杯飲んだので…そのままでは車を運転して
帰れないから、前日に御堂がレストランの手配をした時に、一緒に
予約をしていたようだった。
 その場所に久しぶりに足を向けた時、克哉は正直驚いてしまった。
 どうしてこの日に…この場所を指定したのか、一瞬…相手の意図が読めなくて
不思議そうな顔をつい、浮かべてしまった。

 だが御堂はそんな彼の手を引いて、フロントに向かっていきチェックインの
手続きを済ませていく。
 その間、二人して無言のままだった。
 そして一緒にエレベーターに乗り込んで、予約した部屋の番号を見て…
一層瞠目してしまった。

―それは、克哉が最初に御堂に接待を要求された部屋だった

 克哉がその部屋番号を確認して、つい…動揺してしまうと…そんな彼の
手を強引に引いて…御堂は部屋の中に入っていった。

「来るんだ…克哉」

「あっ…」

 そして、ガチャと乱暴な音を立てながら共に部屋の中に入っていく。
 部屋の内装は…以前とほぼ変わらなかった。
 この部屋を、自分が忘れる訳がない。
 自分と御堂の肉体関係が始まった場所であり…今では甘く優しい恋人に
なった彼が、かつて冷酷な己の支配者として振舞っていた場所だった。
 
「…孝典、さん…どうして、ここに…?」

「…ここでの君との思い出を、良いものに上書きをしたいからだ…」

「えっ…?」

 思ってもみなかった返答を聞かされながら…部屋の奥へと進んでいく。
 そしてそのまま…大きな窓ガラスの前に二人で立っていった。
 御堂は、しっかりと覆われているカーテンを引いていく。

―その瞬間、眩いばかりの街の明かりが現れていった

 それは…まるで宝石箱をひっくり返したような光景。
 様々な色合いのネオンが、夜の闇の中で…まるで生きているかの
ようにキラキラと輝いている。
 この部屋には何度も来ていた。
 だが…このカーテンを開けて、こうやって夜景を眺めた事など…一度も
なかった気がした。
 ここで御堂と肉体関係を強要されていた頃は、こんな風に…外の風景を
楽しむ余裕など一カケラもなかったから…。

「…この部屋から見える夜景って…こんなに、綺麗なものだったんですね…」

「あぁ、そうだ。…きっと昔の君は見ている余裕などなかっただろうからな。
だが…私は、何度も…約束の時間が訪れる合間に、この光景を眺めながら…
君を待ち続けていた。…落ち着かない心を鎮める為にな…」

「…え? そうなんです、か…? あっ…」

 克哉が窓の外のネオンの瞬きに目を奪われている間に…御堂が背後から
そっとこちらの身体を抱きしめてくれていた。
 もう初春を過ぎた頃とは言え…夜になればまだ正直、かなり冷える。
 だから…フワリと包み込まれるように抱きしめられていくと…その温もりが
心地よく感じられて随分と安心出来た。

「…貴方が、そんな気持ちで…オレを待っててくれていたなんて…まったく
知りませんでした…」

「…意外か? そうだな…自分でも、そう思う。…あの時期、どうして…
君を抱けば抱くだけ、感じさせて啼かせれば啼かせるだけ…自分の心がこんなに
ざわめいて…収まりがつかなくなるのか、私自身にも判らなかったからな…」

「…そういえば、言っていましたよね…。オレが判らないと…何度も…」

「…あぁ、そうだ。あの時…君の行動が私には理解出来なかった。どうして…仲間の
為なんかに好きでもない男に、何度も何度も抱かれているのか…。どれだけ
痛めつけても、何をしても…私の元に来るのか…本当に判らなかった…」

 そう告げた、御堂の声は…少しだけ苦いものが滲んでいる気がした。
 そんな彼の手を…自分の正面に回されている愛しい人の手に…己の掌を
重ねて…そっと目を伏せていく。
 自分は、この人に惹かれているという事実に気づいたのは…いつだったの
だろうか。最初は嫌で仕方なかった行為が別の意味を孕み始めて…たった十日間
この人に会えないだけで切なくなっていた頃。
 …その当時の記憶が、ゆっくりと克哉の中にも蘇ってくる。

(あの時を思えば…今は、何て幸せなんだろう…オレは…)

 ここは、苦い思い出が伴う所だった。
 同時に…自分達の原点でもあった。
 幸せすぎて、忘れてしまいそうだった。
 この人に…片思いをして、この想いが実るなどこれっぽっちも考えられなかった頃の
記憶が…ゆっくりと克哉の中に蘇って来た。
 だが、克哉の中には…怒りも何もない。

 告白する時に、想いの全てを叩きつけている。泣きながら、懇願するように…
想いの全てを吐き出して、そして…御堂にぶつけている。
 それが今思えば…良かったのかも知れない。
 だから…今は、克哉は…この人の当時の仕打ちを許せる。
 そして…どうして御堂が、この特別な日に…自分をここに連れて来たのか…
何となく克哉はその意図を察し始めていた。

「…御堂さん。…オレは、貴方を…もう、恨んでいませんよ。それは…
この半年、オレと一緒に過ごして…良く判っているでしょう…?」

「あぁ…判っている…充分すぎる程、な…」

 そうして…御堂は克哉の顎を捉えてこちらの方を向かせていく。
 お互いの視線が真っ直ぐに交差していく。
 そして…真摯に向き合いながら、御堂は告げていった。

「…あの時は、すまなかった。克哉…」

 そしてきっと、この人の中でずっと胸につかえていたであろう一言が…
静かに紡がれていく。
 その一言を聞いて、克哉は…静かに、愛しい人を抱きしめていった。

「…良いんです。孝典さん…この半年間、一緒に過ごして…何となくですけど
貴方が…あの時の行動をどこかで悔いている事は…察して、いましたから…」

 柔らかく微笑みながら、克哉は…御堂のした行為の全てを…愛を持って
許していく。
 …恐らく、自分達が新しい出発を切るには…この過程が不可欠だったのだ。
 御堂は、自分に厳しい性格をしている。
 だから…最後に、ここに来る事で…あの当時を思い出して、その気持ちを
吐露する事が苦い気持ちの伴う過去を清算出来ると何となく感じていたのだろう。
 この場でなければ、なかなか向き合って言うことすら出来なかっただろう。
 克哉はそんな…愛しい人の気持ちを、察していった。
 だから…もう、これ以上は気にしなくて良いと…そう、伝えていくように…
ともかくその背中を優しく擦り続けていった。

「…ありがとう」

 そして、飽くことなく背中を擦り続けていたその時…御堂の静かな声が
そっと聞こえていった。
 お互いに少し身体を離して、顔を見詰め合っていくと…自然と柔らかい
笑みが零れ始めていく。

―お互いの指に、幸福の証が輝いているのが判った

 そっと手を重ねあい、指先を絡めあっていく。
 その状態のまま…顔を寄せて、静かに口付けあった

―この幸福をオレに与えてくれた貴方を…心から許して…愛していきます…

 心の中で、そう呟いていくと…克哉の気持ちが何となく伝わったのだろう。
 今まで見た事がない程、その表情は優しくて…余計に、克哉の中で愛しいと
いう気持ちが強まっていった。
 そして…お互いを抱きしめていく腕の力が徐々に強まっていく。

 たったそれだけの事で、再び身体が熱くなっていく。
 もう…過去の過ちも痛みも、今となってはこの人と寄り添う為に必要な過程だったと
今では割り切れるから。
 自分達の関係が始まったその場所で、全てを許して…水に流して、再び新たに
向き合っていく。

 貴方が愛してくれる。
 自分を選んでくれた。
 そしてその証を…自分に贈って、大切な一日になるように尽力してくれた。
 それだけで充分、だから貴方を許そう。
 そして一層…これからも愛していこう…そう思った。

「孝典さん…愛しています…」

「あぁ、私もだ…」

 そして確認しあうように愛の言葉を交わしあい、二人のシルエットが重なり合っていく。
 その熱さに、腕の強さに眩暈すらしてくる。
 何度身体を重ねあっても、まだ足りない。
 もっともっと…この人を感じ取りたい。
 その競りあがってくる欲求を感じ取りながら…克哉は、御堂の腕の中に再び全てを
委ねていった。

―そして、今夜も想いと身体を重ねていく

 だが、これからも二人の指には幸福の証は輝き続けるだろう
 死が二人を分かつ、その日を迎える日まで…ずっと―
 
 ―撮影が終わった後、二人は御堂が以前から予約していたワインの品揃えが豊富な
本格的なイタリアン料理の店に入っていった。

 店内の調度品の類はシンプルなデザインながら…照明一つを取っても
センスの良さが光る店だった。
 木製のテーブルの上はピカピカに磨かれ、それと対になっている椅子の
座り心地も良かった。
 まるで蝋燭の火を思わせるような白熱電灯の明かりが…店の内装を
グっと柔らかいものに変えて温もりのようなものを感じさせていく。

 今年オープンしたばかりの店のおかげか、全体的に置かれている物も
ピカピカしていて綺麗な状態だった。
 それでも…御堂と交際していなければ、克哉にとっては縁遠い店であった
事は確かだ。
 二人は窓際の席に座っていくと…メニューを開きながら、暫く何を注文
しようか思案していった。
 窓の外は完全に日が暮れてすっかりと薄暗くなっていた。

(何か今日は…凄く密度が濃いのに、時間があっという間に過ぎ去っていくよな…)

 朝早くから起きて…朝食を用意して食べた後、御堂とセックスをしている最中に…
本多から電話が来てヒヤリとさせられたり、記念撮影をしたり。
 記念撮影も…御堂が何度も、何度も拘ってやり直しをしたおかげで結構な
時間が経過してしまっていた。
 そういう所は完璧主義者である御堂らしいとつくづく思った。

(…御堂さん、本当に拘りまくっていたからな…。これは私達にとって、一生の
宝物とする一枚になるから妥協したくないって…)

 そう、真剣な顔をして…自分の耳元で囁いた御堂の姿を思い出して、つい克哉は
微笑ましい気持ちになってしまった。
 何度もリテイクを出す御堂を見て…克哉は正直ハラハラしてて…そんなにやり直しを
要求しなくても…という気持ちになっていた。
 だが、御堂にそう耳元で囁かれてからは…協力出来る限り、自分なりに最高の
笑顔を残せるように協力していった。
 今はデジタルカメラが主流になっているので…出来上がりがすぐに確認出来るから
こそ…御堂もつい、拘って良い物を残したいと思ったのだろう。
 撮影してくれた係の人間に迷惑を掛けてしまったが、その気持ちが…克哉には
凄く嬉しかったのだ。

 テーブルの上には…上品なクリーム色の、隅に花の刺繍がされているテーブル
クロスが敷かれて…その中心には色とりどりの花が飾られたバスケットと…
小さな蜀台が置かれて…蝋燭の火が自分達を照らし出してくれている。
 その炎に映し出された御堂の表情はいつもと若干違って見えて…少しドキドキ
してしまう。

(…今日一日で、御堂さんの色んな一面を見れた気がするな…)

 そう思うと、自然に顔が綻んでしまっていた。
 本当にこの人が大好きだから…また違った一面が垣間見える場面に
遭遇すると純粋に嬉しい。
 今まで付き合ったことがあるどんな存在よりも…御堂のことを好きになっている。
 そうでなければ…きっと、指輪を贈られてこんなに胸が高揚することもきっと…
なかっただろう。
 そんな事をグルグルと考えながらメニューを眺めていたせいか…何を注文
するかまったく決められてなかった。

「克哉…そろそろ、何を注文するか…決まったか?」

「えっ…あ、はい…。すみません、ちょっと迷っていたもので…全然…。
こういう店に入るの、まだ…慣れていませんし…」

 御堂から声を掛けられると、恐縮したよな様子で克哉がうなだれていく。
 …何度か彼に連れられて、こういう雰囲気の店に入った経験はあるのに…
いまだに慣れない自分に少し歯痒くなっていった。

「…無理に慣れなくて良い。経験を積めば…自ずと自然に振舞えるように
なる筈だからな。…じゃあ、君の分の料理は私の方から注文しておこう。
それで…構わないな?」

「あ、はい…宜しくお願いします」

 そういって克哉が頭を下げていくと…御堂は片手を上げて、静かに
ウェイターを呼んで行った。
 
「…前菜にはプロシュートと、こちらのサーモンのバルサミコ風マリネを。
プリモピアットには…白トリュフソースのタリアテッレを。
セコンドピアットには…牛フィレ肉薄切りステーキ ガルバルディーソースを。
そしてワインは、ヴェトネ州産のアルゼロ・カベルネ・フランを…」

 …脇で聞いていて、一体何を注文されているのか克哉にはまったく判らなかった。 
 聞き慣れない単語ばかりが羅列されているので、はっきりいうと意味の判らない
呪文のようにさえ聞こえてくる。
 しかし御堂の態度は堂々としていて、竦んでカチコチになっている自分とは
大きな違いだった。

(やっぱり…こういう所で、育ちや環境の違いって出ているよな…)

 こういう時の御堂は頼もしく感じられて、それだけで胸がキュンと締め付けられて
いくようだった。
 本当に…こんなに格好良い人と、良く両想いになれたと思う。
 片思いしていた頃は…実ることなど絶対に在り得ないと思っていた。
 けれど…今、こうして指輪を贈られ、記念撮影して…そして豪華なディナーを一緒に
過ごそうとしている。
 …本当なら、幾ら御堂の方が高給だからと言って…全ての代金を御堂持ちなのは
申し訳なく感じてしまったけれど…幾ら克哉が払うと言っても「今夜は特別な日だから
私が払いたいんだ」とガンと跳ね付けて、聞き遂げてくれなかった。

「ご注文の方、かしこまりました…。まずは前菜と、ご所望のワインをお持ち致しますが…
グラスの数はどうなさいますか? お連れ様もご一緒に飲まれるようでしたら…
グラスを二つお持ち致しますが…」

「あぁ、宜しく頼む」

 壮年のピシっとした雰囲気のウェイターがそう問いかけていくと御堂は
余裕たっぷりに微笑んでいきながら…一言、そう告げていった。
 そうして…見事な身のこなしを見送っていきながら…克哉はほう、と
溜息を突いていく。
 こんな自分が、本当に御堂に選ばれたなんて信じられない。
 そんな迷いが瞳に浮かんだ時、まるでそれを察したかのように…御堂が
苦笑を浮かべていった。

「…克哉、どうしたんだ? …酷く悩んでいるような表情を浮かべているが…」

「あ、その…何でも、ないです…」

「…嘘だな」

 克哉の言葉の真偽を一発で見抜いて即答していくと…こちらは口を
噤むしかなかった。

「…どうせまた、君の事だから…自分が私に本当に相応しい人間なのかどうかと
迷っているんじゃないのか…?」

「そ、それは…!」

 図星を突かれて、克哉はあからさまに動揺していく。
 だが…御堂はそんな彼を、少しだけ怒っているような眼差しで見つめていった。

「…まったく、君は…いつになったら自信を持ってくれるんだろうな。私は君を
認めている。だから…もう少し、胸を張って生きろ。確かにまだ…このような場に
慣れてなくて気後れするような事もあるだろう。だが…そんなのは場数をこなして
経験をしていけば自然と解消されていく事だ。
 自分が体験していないような事なら、私の振る舞いを観察して…その中から
学んでいけば良いだけの話だ。…特に私と君は、7歳という年齢差もある。
その分だけ…私の方が経験を積んでいる事も多いだけだ。
だから…イチイチ、そんな瑣末な事で自分を卑下するな。…せっかくの私達の
記念日なのだからな…?」

「は、はい…!」

 御堂の、認めているという発言が…凄く嬉しかった。
 たった一言、されど…大切な存在から肯定されるというのは…人を強くさせ
自信を持たせるだけの力が込められているものだ。
 その言葉を聞いて…スウっと克哉は、胸を張り始めた。
 御堂の、今言った通りだった。
 経験値がないのなら…これから、一緒に積んでいけば良いだけの話なのだ。
 気後れして、怯えて…竦んでいたら、せっかくの学ぶ機会すら無駄にしてしまう。
 それよりも…観察して、今後の糧にしていった方が確かに有益だった。

(やっぱり…御堂さんは、凄いな…。この人が認めてくれるだけで…オレは
こんなに、自分を確かなものに感じられるようになったんだから…)

 例の眼鏡がなくても、自分が自分であるだけで…胸を張れるように変われたのは
御堂に愛されたからだ。
 その事実が、克哉を強くさせ…自信を持たせてくれている。
 今までの生涯の中で出会った誰よりも、想い…焦がれた存在。
 その人と今、こうして…特別な日を迎えている事実を…改めて噛み締めていった。

「…少しは、自信が持てたか?」

「はい…ありがとうございます。孝典…さん…」

 ニコリ、と微笑みながらお礼を告げていくと…先程のウェイターが恭しく
ワインの入ったバスケットと、ワイングラスを持って来た。

「…このワインは、先程までワインセラーの方で飲み頃まで冷やしてあります。
 すぐに飲まれるようでしたら…まずはこの状態でお持ちするのが最良だと
判断しました。もう少し経ちましたら…適温に保つためのワインクーラーの
方をお持ち致します」

「あぁ、宜しく頼む。デキャンターの方の準備は…?」

「今から、準備致します。丁度飲み頃を迎えている銘柄ですから…
デキャンタして30分程お待ち頂ければ…一番良いと思います。
とりあえず…それとは別にアペリティフをお持ちして…前菜や
プリモピアット用に注文された料理をお楽しみ下さいませ」

「判った、ありがとう。それでは…アペリティフ用にオススメの物はあるか?」

「当店では…シェリー、スパークリング・ワイン、ヴァン・ドゥ・ナチュレ、
ベルモッドなどがオーソドックスな物として用意してあります。
 それよりもやや口当たりの良いものを選ばれるのでしたら、キールや
ミモザ、スプリッツァーなど…他の物で割ったものなども御座いますが…」

「あぁ、それならスパークリング・ワインの方を頼もう。それは…そちらの
裁量に任せる」

「かしこまりました…もう少々、お待ち下さい」

 そういって別の係の人間が、優雅な手つきで注文したワインのデキャンタを
始めていく。
 デキャンタとは…ある程度の年月が経過したワインの澱を取り除き…ワインを
空気に触れさせることによって熟成を早めて…飲み頃にする為の行為だ。
 熟練のソムリエが思わず目を奪われそうになるぐらいに手馴れた手つきで
ワインのコルクを開けて、デキャンタ用の底の部分が大きく平らな造りに
なっている容器に慎重に注いでいく。
 その動作を見守っている内に…食前酒用に注文したスパークリング・ワインの
優美で細長いグラスが置かれていった。
 透明なグラスに、綺麗な泡がうっすらと浮かんで…キャンドルの炎に照らし
出されている様はどこか綺麗だった。

「…克哉、乾杯しよう。…この特別な日を、君と共に過ごせることを…」

「えぇ…孝典、さん…」

 そうして、二人はそれぞれのグラスを手に持って掲げて、乾杯していく。
 
―そして、多少の緊張をしながらも…克哉は御堂と共に美味しい料理の数々に
舌鼓を打って、実に楽しい一時を過ごしていったのだった―
 ―午後から御堂に連れていかれた場所は、大きくて立派なホテルだった。

 お風呂から出て、午後の時間帯に差し掛かった辺りから…二人して御堂の
車に乗って、御堂が行きたいと望んだ場所に向かっていった。
 其処に辿り着くまで、御堂の自宅から車で30分前後掛かった。
 駅の周辺にそびえる、圧倒されるぐらいに大きな建物を前にして…克哉は
思いっきり立ち竦んでしまった。
 どう見ても、これは結婚式とか大きな祭典の際に使用される会場やホールを
提供する系の場所だった。

 今の二人は、その場に似つかわしい服装を身に纏っていた。
 今回は御堂は…克哉に、自分が持っている中でも上等な部類のブランド物の
スーツを貸し出し、それを着させていた。
 二人ともほぼ同体型であったからそのような事が出来た訳だが…高級なスーツが
醸す雰囲気が、二人を普段以上に今は輝かせていた。
 整った風貌の男二人が、ピシっとノリの利いた高級なスーツに身を包んでいる
様子は…周りの人間の目を嫌でも惹いていった。

「あ、の…御堂、さん…ここは…」

「都内でも有数の斎場だが、それが? あぁ…一応ここは貸衣装のレンタルとかも
していてな。それで衣装を借りて記念撮影を出来るサービスも提供している」

「そ、そうなんですか。…で、ここにオレと来た理由は、やっぱり…?」

「…君と記念撮影をする為に決まっているだろう。あぁ…一応、ここの斎場の
オーナーとは交流があってな。それで…そのツテで当日だが、一応予約を
承って貰った」

 何でもない事のようにサラリと言い放たれて、克哉は実に微妙な表情を
浮かべていった。
 だが、克哉は…オーナーと交流があって…という一言を聞いて明らかに
困惑していた。
 男同士で、こんな場所で記念撮影をするなど…絶対に変だと思われるに
決まっている。
 しかし…御堂の方は堂々とした様子で、悪びれた様子もなかった。

「あ、の…御堂さんは大丈夫なんですか。その…男同士で普通、こういう
場所を訪れるって絶対に…不審がられますよ。それに…指輪をしながら、
何て…それは…」

「…君は心配性だな。…私が安易に、そんな疑われるような振る舞いをする
と思うのか? 別に男性同士で記念撮影をしたとおかしくはあるまい。
 相手にとって記念すべきことがあって…そのお祝いにや、記念に共に
写真を撮るぐらい…あってもおかしくはない事だ。
 それに指輪も…二つをじっくりと見比べなければ対となるデザインである
事を…そう簡単に見抜けないものを選んだつもりだ。
 それに、二人とも既婚者同士なら…指輪をそれぞれつけていたとしても
全然おかしな話ではあるまい。怪しまれるような言動や態度をしなければ…
人はそこまで穿った見方をするまいよ…」

「た、確かにそうですね…でも…」

 それでも克哉は不安だった。
 …御堂は確かに、客観的に他の人間がどんな風に見るかを語ってくれた
けれど…実際に、自分達は恋人同士で…この指に輝く指輪を贈り贈られるような
そんな関係でもあるのだ。
 御堂にとって、不利な条件になるような事ならば…出来るなら、したくない。
 自分との事が明るみになって、この人の足を引っ張るような真似は避けたかった。
 その不安が明らかに克哉の表情に浮かんでしまっている。
 だが…御堂は、そんな恋人の肩にそっと手を乗せていき…顔を寄せていきながら
不安を覚えている克哉を元気づけるように、確かな声で言った。

「…君の不安は、何となくは察している。だが…私は指輪を贈って、こちらの気持ちを
確かに伝えている筈だ。それなのに…いつまでも君に不安を抱えていて欲しくはない。
…この記念撮影は、その為に組んだもののつもりだ。
 どうか、もう少し堂々としていてくれ。君は…私が認め、選んだただ一人の存在
なのだからな…」

「御堂、さん…」

 今の、御堂の一言に…克哉は勇気づけられていた。
 この人に…こんなに優しい言葉を掛けて、心の中から何か暖かいものが
湧き上がって来て…とても、嬉しかった。

「…あの、ありがとうございます。…貴方に、そこまで…言って貰えるだなんて…
思っても、見ませんでしたから…」

「…気にする事はない。私は、率直に…思っている事を君に伝えただけだ」

 そう、ぶっきら棒に言い放ったが、その表情は少し照れている事が伺えた。
 それを見て…克哉は心から嬉しそうな笑みを浮かべていく。

(…御堂さんが、照れている。…この人でも、こんな表情を見せることが
あるんだな…)

 その頬が軽く赤く染まっているのを見て、克哉はグっと…御堂を愛しく感じた。
 そして…ごく自然に、笑みを浮かべていく。

「…御堂さん、行きましょう。余分なお時間を取らせてしまって…すみません。
貴方の気持ちは、良く判りましたから…」

「うむ。それで良い。行くぞ…克哉」

 そうして、ゆっくりと連れ立ちながら…斎場の入り口へと向かっていく。
 今は周りの人間の目も意識して、恋人同士としては振舞わず…あくまで
友人同士として、これから記念撮影に挑むだろう。

 けど、この人の本心は充分に伝わっている。
 指輪を贈ってくれた翌日の記念撮影。
 それが意図するものは…自分達だけが理解していれば良い。
 …その事を自覚して、克哉は…嬉しくて柔らかい表情を浮かべていく。
 そんな彼を、御堂は優しくリードしていって…二人は、一枚の写真を…
記念に残していったのだった―
 ―ちゃぷちゃぷ…

 克哉が身を揺する度に、浴槽の中のお湯が揺れて水音を立てていく。
 髪にはうっすらと雫を立てながら、頬を真っ赤に染めている克哉は扇情的な
表情を浮かべていた。
  行為が終わった後、午後から一緒に出かけたい所があると御堂が言ったので
とりあえず身体を綺麗にしようという流れになったのだが…克哉はずっと
落ち着かない気持ちだった。何故なら…。

「どうした…? この体制で一緒に湯船に浸かるのは抵抗あるか…?」

「あ、当たり前です…。貴方と、こんな風に肌を触れ合わせていたら…オレ…」

「…克哉、そんな事を言って私を煽るな…。あんまり、顔を赤くして恥ずかしがって
いる姿を見せてばかりいると…私はまた、君の前で…狼になってしまうぞ?」

「それは、その…この後に、出かける体力がなくなってしまうから…その、
我慢、して…下さい…」

 そう答えた克哉の声は、消え入りそうなぐらいにか細いものだった。
 付き合い始めて半年、御堂自身に望まれて…それ以前までに比べて、克哉は
自分の意思を彼にキチンと伝えるようには変わっていた。
 だが…湯船の中で、背後から御堂に抱きすくめられているような格好で入浴
している状態では、とても言いたい事など言えそうにない。
 湯の中で身を寄り添わせていると…ツルツルの肌がお互いに吸い付いて来るようで
普段とは違う独特の感触がある。
 それを極力意識しないようにしながら…克哉はそっと、自分の脇から身体の前方へと
回されている相手の手に、己の手をそっと重ねた。

(孝典さんは…意地悪だ。けど…この人が本当に…オレを想ってくれて、その証の
品を贈ってくれたのも…また、事実なんだよな…)

 自分と御堂の指には、確かに対となっているデザインのプラチナリングが
嵌められていた。
 この体制だと、御堂の身体の他に…その指に輝いている指輪もまた
意識してしまう。
 不思議な、感覚だった。
 たった小さな指輪一つ。それが存在しているだけで…今までどこか不安定に感じられた
自分達の関係が、酷く安定したものへ変化したような錯覚を覚えていく。
 それは…克哉の思い込みや幻想に過ぎないかも知れないけれど…御堂が、これを
自分に贈ってくれた。
 その事実が…確かな自信を、彼に齎してくれていたのも…事実だった。

(…凄く、幸せだな…オレ…)

 好きな人に、同じ気持ちを返して貰えて…こうして一緒に、今も傍にいる。
 それはどれだけ…幸せな事なのか、御堂との馴れ初めを思い出す度に嫌でも
実感していく。
 この人との関係は…ある意味、最悪の形で始まっていた。
 脅迫にも似た形で、強引に身体を繋げられて、嬲られて。
 一方的に抱かれて、翻弄されていた。だから克哉は…この人との関係は
セックスとビジネス以外はないと、絶望してずっと打ちひがれていた。
 けど、告白してようやく判った。この人とは…身体だけじゃなかったんだと。
 ちゃんと心も存在していたのだと…それを知った時、本当に嬉しくて仕方なくて。
 本当に幸せで…だから、その想いが実った証を…本当に幸せそうに克哉は
眺めていった。

「孝典さん…好き、です…」

 だから、その言葉は自然に零れ落ちていった。

「…あまり可愛い事を言うな。また…君が欲しくなる…」

「あっ…そん、な…」

 そう言いながら、御堂はギュウっと強く克哉の身体を抱きしめて…
首筋にキスを落としていく。
 どうしよう、それだけで…凄く感じてしまっている自分がいた。
 フルっと身を震わせていくと…ギュッと強く目を伏せながらその感覚に
耐えていった。

「…さっきだって、あんなに激しくされて…どうしようって思ったのに…
これ以上されたら、きっと…出掛ける体力なんて、なくなってしまうから…
困ります。だから…」

「あぁ、判っている。私とて…今日は君と私にとって特別な一日にしたい。
だから…いつものようにセックスだけで終わらせてしまうのは勿体無いと
思っているからな…」

「はい…」

 本当は御堂の肌と触れ合っているせいで、また欲しくなってしまっているのは
事実だけど…それよりも、この指輪のように…ずっと消えないでいるような
思い出も欲しいと思っていた。
 御堂がどんな場所に自分を連れて行ってくれるか、まだ判らない。
 けど…きっとこの人がこういってくれているんだから素敵な場所だと思う。
 嬉しそうに微笑みながら、そっと頷いていくと…御堂はこちらの顎をそっと
捉えて自分の方へと振り向かせていく。

「克哉…」

 そうして、甘く優しい声音で名前を呼ばれながら…静かに唇にキスを落とされた。
 その瞬間、とても幸せな気持ちが…じんわりと、暖かく広がっていった。
 
―触れ合うだけのキスが、こんなにも気持ち良くて…幸福感を感じられるのは
今の克哉にとって、この人だけなのだ…

 克哉は…その歓喜に身を委ねながら、酷く満ち足りた気持ちで…御堂との
バスタイムの時間を楽しんでいったのだった―
 ―ドクドクドクドク…

 繋がっている箇所から、相手の昂ぶりのようなものを感じてしまって…克哉の肌は
自然と粟立っていた。
 だけど、今…こうやって電話を取っている以上、本多をどうにかして…この場を
収めなければならなかった。

(御堂さんに動かれたら…)

 そういえば、正式に付き合う前にも…似たような状況になった事があったような気がした。
 あの時は片桐相手だったけれど、電話している最中に思いっきり身体を弄られて
煽られて…感じているのを必死に堪えながら電話したけれど、やはり怪訝そうな顔を
されてしまって。
 …今は手で触れられて快楽を引き出されたりしていないけれど、代わりに
しっかりと深く…繋がってしまっている。

(意識したら、ダメだ…。誘惑に負けそうになる…)

 グっと己の唇を強く噛みながら…このまま腰を振って快楽を追いかけたい衝動を
押さえ込んでいく。
 まずは…この状況をどうにかしないといけなかった。

『おい…克哉、さっきから随分と長く黙っているみたいだけど…大丈夫か?』

「う、ん…ちょっと今日、熱っぽくて…少しダルいだけだから…心配、しないで…ぁ…」

 そう答えた瞬間、一回だけ御堂に揺さぶり上げられた。
 ビクリ…と全身が震えていくが、ギリギリ…声を殺すことに成功する。

『マジかよ! それなら…丸ごとカレーじゃなくて…豪快カニ雑炊の方でも作った方が
良かったな…。俺の作るカレーって…自分で言うのも何だが…かなりボリュームあるからな。
なあ…カレー食えそうか? 無理そうなら…そっち作って持っていくけど…』

(豪快カニ雑炊って…一体何なんだよ、本多…何となく想像つくけど…)

 心の中で思いっきりツッコミを入れたくなったが…敢えて追求の言葉を飲み込んでいった。

「んっ…あ、大丈夫。ちょっと食欲はないけど、自分で身の回りの事は出来るから…。
けど、カレーは…オレのマンションの方に、持って来なくて良いから…ゆっくりと
休ませて、んっ…貰える、かな…?」

 御堂の手がゆっくりと腰から臀部を撫ぜるように這わされていく。
 その度に克哉はつい、甘い声を漏らしかけていく。
 身体が震えていく度に…内部にいる御堂がこちらを圧迫するようにドクドクと脈動
しているのを自覚して…自然と、ペニスから蜜が溢れ始めていく。

(流されて、しまいそうだ…)

 まだ、ギリギリ…理性は残っている。
 けれど刻一刻とそれは削ぎ落とされ、身の奥から競りあがってくる強烈な衝動に
身を委ねたくなってしまう。

『なあ…克哉。お前…何か呼吸が乱れて、苦しそうだぞ…? そんなに辛いなら…
俺は今日、身体が空いているから看病しに行ってやろうか? とりあえず…傍にいたり、
代わりに買い出しに行くぐらいの事は出来るしな…』

「い、いや…良い、よ。寝ていれば、治るから…はっ…」

 恐らく、本当に熱でも出して寝込んでいる時なら…本多の申し出は友人として
素直に受け取れたのかも知れない。
 だが、この状況では到底無理だった。
 御堂の手がゆっくりとこちらのペニスに伸ばされて、竿の根元の部分をしっかりと
握り込まれていく。
 そのまま…その淫靡な指先は克哉の先端に這わされて、クチャグチャ…と音を
立てながら蜜を塗り込まれ始めた。
 御堂の指先は緩慢な動きで、克哉の鈴口の周辺を弄り続けていく。
 その度にジワリ…と蜜が更に滲んでいくのが判って…おかしくなりそうだった。

『克哉…大丈夫かよ。お前…本気で、辛そうだぞ…?』

「だ、大丈夫…だよ。けど…うん、もう…辛いから、電話…切るね。カレーは…
また、今度で…良いから…あぅ…!」

『克哉っ…? 待てよ、おい…!』

 最後に、大きく腰を突き上げられたから…少し甲高い声が漏れてしまった。
 けれど…フルフルと全身を震わせながら、克哉は理性をギリギリ保っていくと…
通話を切って、自分の携帯の電源を落としていった。
 その瞬間、ついに身体の力が抜けて…携帯は台所の床に転がり落ちていく。
 
「終わったか…随分と長く、あの男と話していたみたいだったな…?」

「そんな、事は…ひゃっ…うっ…!」

 克哉が頭を振って否定すると同時に、御堂の力強い律動が開始されていった。
 そのまま握り込まれていたペニスも執拗に扱き上げられて…腰全体が痺れて
しまいそうなぐらいに、激しい快楽が生み出されていく。

「…友人との交流は結構だがな…私とて、君が…友人の一人もいない…孤独な
日々を送れとは、言うつもりはない…。だが、今日だけはな…私は、君を…
独占したい。…何故なら、今日は…私にとって、特別な日なのだからな…」

 そういって背後からしっかりと覆い被さりながら身体を密着させて…克哉の
首筋から耳の付け根に関して、強く吸い上げていく。
 所有の痕を、其処にくっきりと刻み込まれているのが自分でもはっきりと判った。
 けれど…今は、克哉も抗うつもりはなかった。

「オレ、もです…。今日は…とても、大切な日…です、から…。だから…他の
人間と過ごすよりも…孝典、さん…貴方とずっと一緒に…いたいです…。
だから、そんなに…虐めないで、下さい…あっ…!」

 克哉は必死になって御堂の方を振り仰いでいく。
 その双眸は快楽のせいで、甘い涙を滲ませてキラキラと輝いていた。
 紅潮した頬が、艶かしく開かれた口元が…全てが、扇情的だった。
 愛しい恋人の媚態に煽られるように…御堂は何度も、克哉の中に己の猛りを
叩きつけていった。
 その度に克哉の全身は戦慄き、大きく震えていった。

「あっ…はぁ…孝典、さん…ダメ、です…そんなに揺さぶったら…オレ、もう…
イッちゃい…ますから…」

「…イケば良いだろう…? 私は何度でも、君が達して…私の腕の中で乱れる
姿を…見たいのだから…」

「そんな…はっ…うぅ…! も、う…うぁぁ…!」

 御堂の律動は激しかった。
 克哉が苦しいぐらいにその行為が激しかったのは…胸に灯された激しい独占欲の
せいでもあった。
 子供じみた想いである事は自覚している。
 だが、今日は…他の誰にも、克哉を見せたくなかった。全てを独占したいという
強烈な感情が…その胸の中には吹き荒れていたのだ。
 だから、その想いを全て克哉にぶつけるように…激しく、性急に腰を使って…
可愛い恋人を追い上げていった。
 克哉は耐え切れないとばかりに…必死になって頭を振り続ける。
 そんな仕草の一つ一つさえも…可愛くて、仕方なくて。
 御堂は…限界が近いと悟った瞬間、顎を掴んで…やや強引に、克哉を
こちらの方へ振り向かせていった。

「はっ…んんっ…!」

「克、哉…」

 口腔も、同時に犯すように激しく舌先を蠢かしていく。
 瞬間…生じていく、強烈な快楽の波に二人の意識はほぼ同時に飲み込まれていって
そして…達していく。

「ひっ…いっ…あぁっ―!!」

 そして、克哉が一際甲高い声で、啼いていく。
 御堂の情熱を身体の奥の部分でしっかりと受け止めて…克哉はガクリ、とシンクに
凭れ掛かり…忙しい呼吸を繰り返していった。

「克哉…」

 そして御堂は…愛しい恋人を背後からギュウっと強く抱きしめながら…その不安定な
体制で、呼吸が整うまで暫く…一時、休息していったのだった―

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HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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