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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  昨晩、某所に初めて人がいる時に顔を出しました!
  素敵絵師さん達の豪華な競演により、大変楽しい一時を過ごさせてもらいました。
  構ってくださった皆様、どうもありがとうございました。
  …で、私は今回絵チャットには会話のみの参加でしたが、皆様の大変素敵な絵を
拝見させて貰ったお礼に一本、SSを書き下ろさせて貰いましたv
   絵の方のリンクは、以下から飛べます。背後注意絵なので、閲覧の際には
気をつけてくださいませ!
 えっと絵に参加はしてないけど…ちゃんとお題にちなんだSS書いたから…載せる権利
ありますよね…?(ドキドキドキ)

 (メガミド新春合作絵)

 ついでにいうと…某所ではもう一つ、左から二番目の絵(筆プレイ…)にちなんだSSが、
文章書きⅠ様の手によってアップされていますv
 興味のある方は探してみるのも一興かと思います。(まあ…メガミド好きな人なら一発で
判るでしょうが)

『君と一緒に』 メガミド姫初めSS


   1月1日の朝、体中の筋肉がミシミシと悲鳴を上げているのを自覚しながら、
御堂孝典は目覚めた。

「…朝、か…」

 昨晩は…自分の恋人の克哉に好き放題貪られたおかげで、酷く身体がダルかった。
 身体中が何か汗とか体液で汚れているせいで、寝起きの気分も最悪だ。
 しかも更に腹が立つのは…そこまで自分を好き放題にしておきながら、起きた時に
佐伯克哉の姿がどこにも感じられなかった事だ。
 ムカムカする気分をどうにか抑えながら、ダブルベッドから降りていくと…そのまま脇目も
振らずに浴室へと向かっていった。

(とりあえずあいつの姿を探すのは…身体をさっぱりさせてからで良い…)

 まだ自分の内部に、相手の残滓が残っている。
 それをまずは掻き出さない事には…冷静な判断など出来っこないだろう。
 そう思って、浴室に入り熱いシャワーを浴びていく。暖かいお湯の感触が、
身体を清めていってくれる感触がとても心地よかった。

                         *

 全身をさっぱりさせて、バスローブに身を包んでリビングに足を向けると…ソファの前の
透明な机の上に…何やら藍色の着物が折りたたんで置かれている事に気づいた。

(…何でこんな処に着物が?)

 御堂は基本的に洋装の物ばかりを好んで着用している。和服や浴衣の類は一着も
所持していない筈だった。
 それなのにここには間違いなく…まったく見覚えのない和服が存在している。
 訝しげに思いながらも近寄って…手に取って見せる。
 肌触りはとても良い処から判断するに、これは相当に上等な生地を使用されている。

「何でこんな物がここに…?」

 そう、呟くと同時に背後から何者かに羽交い絞めにされていた。

「っ!」

 咄嗟の事でこちらも反応が出来ない。
 一瞬、竦んでいる隙に首筋に柔らかい感触と鋭い痛みが走って…それで状況を理解した。

「佐伯! 何の冗談だ! 止めろ!」

 そう、今…背後から御堂を抱き込んでいるのは…つい最近再会して、心を通わせた
ばかりの恋人―佐伯克哉その人である。
 彼の方も目が覚めてすぐにシャワーを浴びたのかこざっぱりしていて…いつも通り、
ピシっとしたスーツに身を包んでいる姿は、悔しい事にかなり格好良かった。
 …今の御堂には、そんな事を気づく余裕もない訳なのだが。
 
「…断わらせてもらう。年明け早々、あんたの湯上り姿なんて色っぽいものを拝ませて
貰っているんだ…まったく手を出さないでいられる訳がないだろう…?」

「くっ…君という男は、いい加減にしたまえ! 昨日だって私を散々好きなようにしただろうが!」

 克哉の手が怪しく蠢きながら…自分の胸の突起を両手で弄り上げていく。
 昨晩、散々弄られた其処は…ほんの少しこの男に触れられるだけで充血し、
堅くなっていた。首筋には熱い吐息と、唇の感触も感じる。
 たったそれだけの接触で…再び自分の身体の奥に熱い疼きが湧き上がってくる事に、
御堂は戸惑うしかなかった。

「やっ! こら…新年早々、朝っぱらから君は何をするんだ! もう少し落ち着いたら、
どう…なんだっ!」

「あぁ…そういえば今朝はもう新年でしたね。御堂さん…あけましておめでとうございます」

 克哉はとびっきり爽やかな口調と笑顔で、晴れやかに新年の挨拶を口にしていく。
 しかしやっている行動は限りなく…爽やかという単語とは縁遠かった。

「何をいけしゃあしゃあと…!挨拶をするのならこんな真似は止めて、正面から向かい合って
まともにやってくれ!」

「…そんな事したら、あんたはさっさと俺の腕から逃げるでしょう。あぁ…そういえば、
御堂さん。俺の方から一つお願いしたい事があるんですが…聞いて貰えますか?」

「お願いを口にする前に…! はっ…! そのいやらしい手を止めて、くれ! 
おかしく…なる、だろ…!」

 弱々しく頭を振って抗議していくが、克哉は一向に手を止める気配すら見せない。
 耳朶を甘く食まれながら、腰に響く低い声音で…甘く囁きを落とされていく。

「…せっかくあんたの為に、上等の着物を用意したんだ。これで…姫初めに付き合って
貰えませんか…?」

「ひ、姫初めって…! ひゃっ…!」

 バスローブの裾を割られて、そのまま性器をやんわりと握りこまれていく。
 相手の体温を背後に感じながら、胸を弄られるだけで半勃ちになっていた其処を
弄られるのは…顔から火が噴出しそうになるくらいに恥ずかしい。
 けれど、それ以上の愉悦が…身体の奥から湧き上がってくるのも事実だった。

「…こうして、一緒に新年を過ごしているんだ。今日…この瞬間に、真っ先にあんたを
感じ取りたい…」

「…あっ」

 揶揄する訳ではなく、今度は真摯な声音で…耳元に直接、呟かれた。 
 その瞬間に、期待しているかのように…自分のペニスがドックンと脈打つのを
自覚する。御堂は羞恥の表情を浮かべながら…荒い吐息と共に頷いていく。

「好きに…しろ…」

 そう言いながら、一旦スルリと…頷いた瞬間に緩くなった克哉の腕から抜けていく。
 頭の中で円周率を50ケタくらい、ざっと思い描いて…少しの間だけでも冷静さを
取り戻して…下半身のモノを沈めた。まあ効果は一時に過ぎないだろうが…。

(意外に効くな…円周率…)

 妙な事に感心しながら、そのまま…克哉の目の前で…バスローブを脱ぎ去った。
 朝日が差し込む部屋の中…御堂の身体は、陽光に照らされて…眩いばかりに
輝いている。
 均整の取れたその身体に、満遍なく克哉がつけた赤い痕が散らされている。
 その妖艶な様子に息を呑みながら…御堂は、克哉の視線に晒されながらも…
藍色の着物にゆっくりと袖を通していった。

 着物など、殆ど着た経験はない。辛うじて知っている知識は肩と襟の位置をキチンと
合わせる事と、右側の襟を下にする事ぐらいだ。
 克哉は肌襦袢までしっかりと用意していたが…どうやって着るのかまでは判らない。
 結局、直接肌の上に長襦袢を見よう見まねで羽織って…整えていく。
 それで腰紐を結わえれば…一先ず、格好だけはついていった。

「…これで、良いのか…? 佐伯…」

「…やっぱりな。あんたにはそういう…凛とした印象の物が良く似合う…」

 良く見れば、その着物は藍色だけではなく…所々に空に瞬く星のように、銀が瞬いて
散らされていた。
 派手すぎず、地味すぎないなかなか粋なデザインの生地選んだな、と少し感心する。

「…着物なんて、初めてだから…キチンと着れているか非常に不安はあるがな…」

「…別に構わない。どうせ…すぐに脱がしてしまうんだから…。俺は一度でも、あんたが
袖を通してくれれば…満足だからな…」

 そのまま、腕を引かれると…寝室の方まで連れ込まれていく。
 御堂の方も、予測済みだったので…抵抗しない。むしろ…下半身がかなり疼いている
状態で、平常心を保って…着物を纏った事の方がかなり堪えていたくらいだ。
 問答無用でベッドシーツの上に組み敷かれた。
 …どうやら自分がシャワーに入っている内に…しっかりと克哉はシーツ交換を
していたらしい。
 起きた時は昨晩の行為でグチャグチャになっていた筈なのに…実に抜かりのない男だ。

「シーツが…。君って男は…本当にこういう事だけは抜かりがないんだな…!」

「当たり前だ。あんたと愛し合うのに…手抜かりなんて出来る訳がないでしょう?」

 実にあっさりと、とんでもない発言を口にしながら…御堂の身体に容赦なく
圧し掛かって、唇を塞いでくる。

「んっ…はぁ…!」

 深く唇を重ねられながら、胸の突起を弄られて足を大きく割られていくだけで
もう駄目だった。
 せっかく着たばかりの着物は愛撫の最中にすぐに肌蹴られ、そのまま剥ぎ取られた。
 死ぬ程恥ずかしい想いをしながらストリップまがいの事までしたのに…そこら辺は
張り合いがない事、この上ない。

「せっかく…着た、のに…」

 少し恨めしそうに相手の顔を見つめていくと…さも当然とばかりに克哉は反論する。

「…あれは凝ったプレゼントの包装みたいな物だ。元々メインはあんた自身なんだから…
一度、袖を通してくれるだけで充分なんだ…。それに着たままじゃ…これ以上の事をしたら、
汚してしまうだろ…?」

 クスクスと笑いながら、唇にチョンとキスを落とされればもう駄目だ。
 それだけで甘い衝動が全身を走り抜けて、堪えが効かなくなりそうだった。
 足の間に大量のローションを落とされて、下肢が再びビショビショにされていく。

「ん、それ…冷た、い…!」

「我慢しろ…早く、あんたが欲しくて仕方ないからな…」

 相手の指がすぐに、昨晩散々愛された蕾へと伸ばされていく。
 ローションの滑りも手伝ったせいか…あっさりと内壁は克哉の指を飲み込み、緩い収縮を
繰り返していった。
 自分の身体の反応の速さに、思わず死にそうなくらいに恥ずかしくなった。

「…火が点くのが早いな。もう柔らかくなって…俺の指を締め付け始めて、いるぞ…
あんたの此処…」

「だから! そういう事はわざわざ、言わなくて…良いって! んぁ…!」

 今度は、再び性器の方にも指が絡められていく。
 キスと蕾への刺激だけでビンビンに腫れ上がったペニスを、早い動作で扱かれて…
それだけで御堂の息は容赦なく上がっていく。

 ピチュ…グチュ…ニチャ…ネチャ…

 克哉の指が亀頭を攻め上げる度に、先端から厭らしい水音が立って、
部屋中に響き渡っていく。
 まだ明るい内からこんな事をされるだけでこっちは死にそうなくらいの羞恥に
晒されているのに、更にわざとこんな仕打ちをすることの男は真性のサドだと思う。

「あんたの身体…本当に、やらしくて…美味しそうだな…孝典…」

「バカ、バカ…! 言うなって…何度、言ったら…むっ、がっ…!」

 そのまま相手の腕に押さえ込まれると同時に深く唇を塞がれて、反論を封じられていく。
 もがいている隙に指を引き抜かれて…熱く脈動している剛直を宛がわれた。
 期待するように御堂が息を呑むのと同時に、その灼熱の塊は奥まで一気に
刺し貫いていった。

「ふぁっ!!」

 片足を大きく抱えられて、いつもよりも深い処を抉られたらもう駄目だ。
 たったそれだけの刺激で、全身に電流が走り抜けたようで堪らなくなる。
 克哉のペニスが…御堂の感じる部位を探り当てて其処を重点的に擦り上げていけば…
その度に御堂は翻弄され、あえかな息を漏らし続けるしか、ない。

「はっ…ぁ…や、もう…それだけで、おかしく…なるから…加減、して…くれ…!」

 御堂の身体の反応が顕著になる度に、克哉の腰の動きもまた容赦ないものになっていく。

「駄目だ…俺はどこまでも、あんたが感じる姿を見たいんだ…。せっかく今年最初の
愛の営み…なんだ。あんたも…とことんまで、俺を…感じろ…」

 熱っぽく囁かれると同時に、一層奥深くを穿たれて…御堂の喉が弓なりに
反り返っていく。

「ひぁ!!」

 もう、反論の言葉など紡ぐ余裕などない。
 ただ…相手の熱を享受して、受け入れていくだけだ。
 御堂のペニスが、相手の指と腹部に擦られていく度にまるで別の生き物のように…
克哉の身体の下で暴れ狂っていく。
 接合部からも、性器の先端からも互いの蜜が滴りあって…絡み合う音が何かの
音楽のように、グチャグチャグプ…と鳴り響いていた。

「はっ…あっ…、克哉…も、うっ…」

 意識が、混濁する。
 あまりの強い愉悦に頭が真っ白になって…彼が与えてくれる感覚以外、
何も考えられなくなった。
 必死になって相手の背中に縋り、全身を大きく震わせながら…際奥に収まった
克哉の熱塊を締め付けていく。

「…あぁ、あんたの中で…イクぞ。孝典…っ!」

 克哉もまた、余裕の無い表情を浮かべながら最後の追い上げとばかりに激しく
腰を突き入れていく。

「ひぃぃ…あぁぁ!!」

 一際大きな声で御堂が啼き。
 そのまま勢い良く、克哉の情熱の証が身体の奥へと注ぎ込まれていく。

(…気持ち、良い…)

 どっと押し寄せる快楽の波に身を委ねながら、そのまま御堂の身体から力が抜けていく。
 心地よい酩酊感に浸りながら…ふいに、唇にチュっと小さくキスを落とされる感触がした。

「改めて、今年も宜しくな…孝典…」

 とってつけたような、定番の新年の挨拶に…ついこちらも笑いたくなった。
 けれどあまりの疲労感に…もはや声も枯れて、言葉にならない。
 
 しょうがないので…柔らかく、どこか儚い笑顔を浮かべていきながら…答えてやった。
 御堂のその顔を見て…克哉もまた、心から嬉しそうな顔をしていた。

(まったく…しょうがない奴だな…)

 最後にそう心の中で呟きながら、ゆっくりとまどろみの中に御堂の意識は落ちていく。
 そうして…二人の新しい年は、幕を開けたのであった―

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 最初その言葉を聞いた時、克哉は信じられなかった。
 しかし御堂から初めて強い力で抱き付かれて…少し時間が経ってやっと…
その言葉がじんわりと胸の中に沁みていく。

 自分が御堂を欲しかったから、あれだけ酷い行為を繰り返していたのだと
気づいた時にはもうすでに遅くて…。
 人形のようになっていた彼を前にして、もう二度と彼に自分の想いは届く事も
ないのだと…何度絶望に陥ったのかも判らない。
 だから、本当にこれは夢ではないのか…と思った。
 しかし腕の中にいる、相手の暖かさだけは…本物、だった。

「み、どう…」

 気を抜くと、涙が零れそうだった。
 しかし…その顔を相手に見られたくなくて、彼の肩に顔を埋めてしっかりと
抱きしめ返していく。
 相手の息遣いが、体温が、鼓動が全て愛おしい。
 二人は雪の降り注いでいるベランダで…しっかりと抱き合い、お互いを
確かめ続けていた。

「…佐伯…」
 
 御堂が瞳を細めて、静かに顔を寄せて来る。
 吸い寄せられるように…唇を重ね、その背中を掻き抱く。
 パジャマ姿の相手が冷えないように、強い力で引き寄せて…熱い舌先を
お互いに絡ませ合う。
 クチュ、ピチャ…という水音がお互いの脳裏に響き合い。
 ドックンドックンという心音がうるさいくらいだった。
 ようやく唇を離すと…御堂は間近で愛しい男の顔を見つめていく。
 その顔は甚く、満足そうであった。

「…君にそんな顔をさせているのが自分だと思うと、気持ちが良いものだな…」

「そんな顔って、どんな感じなんだ…? 自分では鏡が無ければ、
判らないからな…」

「少し拗ねたような…私の言葉に困惑しているような、そんな顔だ。
以前は…君の意地悪そうか、傲慢に微笑んでいる顔しか見たことが
なかったからな…」

「…悪かったな」

 憮然と言い返す様がまたおかしくて、ククっと笑いを噛み殺していく。
 けれど…以前の作り物のように一切、表情を変えなかった頃に比べれば
からかわれているって判っていても、御堂が笑ってくれる方が何万倍もマシだ。

「…で、君からは返さないのか?」

 不満そうに御堂が尋ねると、とっさに何の事を言っているのか察する事が
出来なかった。

「…何をだ?」

「改めて、君の気持ちを…口にしてくれないのか?」

「…俺は、何度もあんたに対して言っているだろ…?」

「私は、今…聞きたい。今なら…君の言葉を信じて、受け入れられるからな…」

 今思い返せば…正気に戻った日に泣きそうな顔を浮かべながら
克哉はこちらに想いを伝えてくれていた。
 あの時は信じられなくて、そんな言葉を聞いても困惑と混乱しか生まれなかった。
 けど…彼に対してのわだかまりを無くした、今なら信じられる。
 だから…心の底から、もう一度…聞きたかった。

「そんなにお望みなら、幾らでも聞かせてやる…覚悟、しておけ…」

「…んっ…」

 克哉の唇が、耳元に触れて…彼の微かな息遣いと共に…腰に響く
低く掠れた声が鼓膜に直撃してくる。

「…御堂、孝典…俺はあんたを…心から、愛している―」

 そうして、強く強く…愛しい人の身体をしっかりと克哉は抱きしめていく。
 御堂も同じくらいの強さで抱きしめ返していた。
 お互いの心は、幸福感でいっぱいだった。

『良かったね…』

 ふいに、脳裏に…もう一人の自分の祝福する声が響き渡った。
 一瞬…どうしようかと思ったが、そのまま…無理に抑え込まずに好きなように
させておいた。
 かつては、もう一人の自分の甘さや弱さが許せなかった。
 こんな奴と同じ身体を共有しているのも歯痒くて、正直良い印象を持っていなかった。
 だから…今までは封じ込めて、表に一切出さないようにしていたのだが…。

(…だが、こいつが御堂の心を解してくれなかったら…俺と御堂は上手くいかなかった
可能性もあるからな…)

 悔しいが、こいつが甘ったれた事を言ってくれたおかげで…昨日までと違って
御堂の態度は別人のようだった。
 以前はそんな甘えなど邪魔なだけだと考えていたが、御堂の幸せそうな顔を見ていると
そこまで…もう一人の自分を否定する気持ちがなくなっていた。
 だから、初めて…甘すぎる性格をした自分を、受け入れ始めていた。

(…まあ、良い。とりあえず、好きにしていろ。お前の功績は確かにあるからな…)
 
 それからゆっくりと…もう一人の自分の心が、緩やかに溶け込み始める。
 御堂の心が閉ざされた日から、自分の胸の中には黒に近い濁った灰色の気持ちが
広がり、占めていた。
 しかし今はゆっくりと変化し始めていく。
 黒と白が混ざり合い、光に照らされて…銀色へと、変化していく。
 自分の中に優しさとか慈愛とか、そんな感情が染み渡っていくのが…不思議と
悪い気持ちではない。
 気づけば…克哉の方にも、穏やかな表情が浮かび始めていた。

「…君の今の顔、好きだ。とても…優しい、からな…」

「そうか。あんたの顔は…どんな顔でも、そそるぜ…例えば俺に必死に縋り付いて
くる時…とかな・・・?」

 耳朶を甘く食まれながら…そんな際どい事を言われれば、御堂の顔は
真っ赤に染まるしかない。

「佐伯っ! 君はどうして…こんな時も…!」

「こんな時だから、言うんだ。あんたの可愛い顔を沢山拝めるからな…?」

「…まったく、本当に君という男は…」

 気づけば、いつものように強気な笑みを浮かべられていたが…先程の
穏やかな顔も、この顔も…今ではすっかり愛しいと感じられるようになったのだから
仕方が無い。
 もう一度…克哉の顔がゆっくりと寄せられてくる。
 御堂はそれを…静かに瞳を伏せて、受け入れていった―。
 
 それと同時に…一瞬だけ街並みに強い陽光が差し込み、白い雪が積もった世界を
眩いばかりの白銀に染まった―

 それは…二人を祝福しているかのように…神々しく美しい光景だった。

 白い雪がヒラリヒラリと舞い落ちる。
 それはまるで雪の精が輪舞を踊っているかのような
幻想的な光景だった。
 この白銀の輪舞が終わり…街を覆っている白い雪が溶け終わる頃には
恐らく二人の間に…確かなものが生まれているだろう。

 絆と呼ばれる、互いを想い合う気持ちが―
 ベランダに一歩、踏み出すと…コンクリートは氷のように冷たかった。
 本当は何か履物を履いた方が良いのは判っていたが、そのまま裸足で
手すりの方まで向かっていく。
 鈍色のからは微かに日が照っていて…空を覆う雲は灰色と白の
グラデーションを作り上げている。
 其処に雪の純白が酷く映えて…灰色の町並みを、白にゆっくりと
染め上げていく。
 その様子を…無言で、御堂は眺めていた。

「綺麗…なもの、だな…」

 雪ぐらいで、こんな感傷に浸れるとは思ってなかった。
 エリート街道を突き進んでいた頃は…雪が降ったぐらいで風景に
見惚れるような暇などカケラもなかった。
 ただぼんやりと景色を眺めて、物思いに浸る時間など無駄以外の
何物でもない。
 佐伯克哉、という人間に出会うまでの自分はそう考える人間の筈―だった。

 白い息を吐きながら
 ヒラヒラと粉雪が大気を舞う様子を眺める
 緩やかに降り注ぐそれはとても幻想的で
 見慣れた景色を非日常へと変えてく―
 その中で想うのはただ一人の…面影だった。

「…まったく…君はどこまで、私という人間を変えれば気が済むんだろうな…」

 憎まれ口を叩きながらも、その顔に笑みが浮かんでいた。
 そのまま…シンシンと降り注ぐ様子をそっと眺めていると…身体が冷たいな、と
やっと感じ始めた。
 パジャマしか着てない上に裸足でいれば…当然なのだが、そろそろ部屋に
戻ろうかと思い始めた矢先に、急に暖かな腕に包まれていく。

「…佐伯、か…?」

「あぁ…そうだ」

「…どこに、行っていたんだ…? 朝起きたら…お前の姿がなかったから…
探した、んだぞ…?」

「…すまなかったな。…そろそろ冷蔵庫の中身が乏しかったら、あんたが
寝ている内に買い出しに行ってた。…一人にさせて悪かったな…」

「あっ…」

 コメカミの辺りに小さくキスを落とされて、つい甘い声を漏らしていく。
 そのまま克哉の唇が首筋を伝い…軽く其処に痕を刻み込んでいた。
 どうしよう、と思った。
 昨日まではそうされると…感じるよりも先に、戸惑いの感情が先立っていた。
 しかし…今は違う。純粋に…感じて、いた…。

「…それより、も…御堂。こんな処にいたら、風邪…引くぞ…?」

 相手の吐息が、声が…自分の耳元に掛かっていく。
 それだけでゾクゾクと背中が震えて…甘い痺れが走っていった。
 暫く、二人はその後は…無言のままだった。
 ただ…克哉が自分を強く抱きしめてくれている…その腕の強さに
彼の気持ちがこもっている気がして…嬉しかった。

 トクン、トクン、トクン…トクン…。

 息遣いと共に、相手の鼓動が背中の方に感じられる。
 少し早めながらも…こんなに穏やかな音をしていたのだと…初めて気づく。
 お互いの白い息が、微風によって宙にフワフワと浮かんでいた…。

「…引かないさ。お前が…こうして、抱きしめてくれているのなら…な…?」

「…っ!」

 御堂から、そんな返答が戻ってくるとは予想もしてなかったのだろう。
 克哉が言葉に詰まり、答えに窮していく。
 ふと、今の彼の表情をこの目で見たい衝動に駆られていく。
 …困惑している彼の腕からするりと抜け出すと…御堂はそのまま
少し腰を落としてベランダの手すりに…両腕で身体を支えるようにして
寄りかかっていた。

「御堂…何がおかしいんだ…?」

「ん? いや…君の驚いている顔など…こうやってゆっくりと見たのは
初めて…だからな。意外に愉快なものだと思ってな…?」

 そうして、初めて穏やかな眼差しで佐伯克哉という男を見つめた。
 こういう格好になると…彼よりも目線が低くなる形になった。
 自分の方が確か少しだけ高いせいで…こんな高さで克哉の顔を
見るのは久しぶりだった。

「そう、か…」

 克哉がふてくされた表情で、眼鏡を押し上げる仕草をする。
 自分の真意を図りかねている。
 そんな戸惑いの表情を浮かべている彼が…何か愛しく感じられた。

「佐伯…私は、君がそんな顔が出来る人間だとは…以前、監禁されていた
時は考えもしてなかった…」

 監禁、という言葉に…克哉の顔に緊張が走っていく。
 憎まれごとでも言われるとでも思ったのだろう…固唾を呑んで御堂の次の言葉を
待っていた。

「…あの時は、君が憎くて…仕方なかった。君の元に堕ちてやるものか!
私は君が…酷い事をすれば、するだけ…意地になった。
 けれど…あぁ、北風と太陽の寓話というものがあったな。私達の関係は
それに凄く良く似ている…そう、思わないか? 佐伯…?」

 そう、今思えば…自分達の関係はそのままあの有名な寓話に
当てはまっていた。
 佐伯克哉という人間が御堂孝典という人間を手に入れようとやっきになって
酷い行為を続けている時は、決して自分は彼に心を預けようとしなかった。
 しかし彼が…慈悲の心を見せて、この身と心を暖めてくれた時―自分は
心から、彼に惹かれた。

「御堂…それ、は…」

 克哉とて、その有名な話ぐらいは知っている。
 同時に…言葉の意味を察して、まさか…と思っているようだった。
 驚愕に目を見開き、その唇を細かく震わせている。
 …この傲慢な男に、こんな顔をさせているのが自分だと思うと…御堂は
愉快で仕方なかった。

「佐伯…」

 初めて、心の底から彼を愛しいと思って笑顔を浮かべる。
 今なら…彼の伝えてくれた言葉の数々を受け入れて、信じられる。
 だから御堂は、本当に嬉しそうに笑っていた。
 そのまま…彼の腕の中に勢い良く飛び込んで、その首に強く強く
こちらから抱きついた―。

『私も君が好きだ―』

 そうして―ずっと克哉が待ち望んでいた言葉が
初めて、御堂の口から紡がれた―。
 目覚めたら、隣に誰もいなかった。
 時計の針は…昼の二時を指していた。
 昨日、あれこれとやっている内に…かなりの時間が過ぎていたのだろう。
 いつもの起床時間よりも大幅に遅れてしまっている事に気付いて、
御堂は苦笑いを浮かべた。
 今朝はとても冷えていた。
 窓ガラスにはうっすらと夜露が残っていて空気は凛と澄み切って
室内は静寂に包まれている。

「さ、えき…どこ、だ…?」

 自分をしっかりと抱きしめていた筈の相手の姿はどこにもなく
ベッドシーツの上で、幾ら腕を彷徨わせても温もりの気配一つ
感じられない。
 身を起こして、相手の姿を探したが…やはりどこにも痕跡がない。
 
「いない、のか…?」

 昨日無理やり剥ぎ取られていた筈のパジャマや下着類は、寝ている間に
新しい物を着せられていたらしい。
 緑と白のストライブの寝巻きは、真新しくて…微かに洗剤の香りが
残っていた。

 ベッドから降りて、リビングやキッチン…バスルーム…そして、今彼が
寝泊りしている一室もくまなく探し回ったが、やはり姿がない。
 確か本日は…週末だから、彼は仕事がなかった筈だ。
 これが平日ならば、彼がいなくても不安など芽生えなかっただろう。
 しかし…あんな時間を一緒に過ごしておいて、朝にはもぬけの空になって
いるなど少々冷たいのではないのだろうか?
 そんな事を考えている自分に、思わず苦笑した。

「…私は、おかしくなっているな…彼の、せいで…」

 冷たい窓ガラスにそっと手を添えながら…御堂は俯いていく。
 十年間、MGNに在籍して…やっとの思いで築き上げた部長という肩書きや権力、
そして人脈の類は全てあの男に破壊されて、奪われたというのに。
 今の御堂が持っているのは自分の貯金、マンション、そしてこの身体一つだけだ。

 仕事に、理想に燃えて…全力でプロトファイバーのプロジェクトに当たっていた頃が
何と遠いのだろうか―。
 あれだって、自分の持てる能力の全てを費やして当たった大事な企画だったのに。
 …途中で、あの男に監禁されて…無理やり、外される形になってしまっていた。
 身体と心まで一度は壊されて、この一年を無為に過ごしてしまった。
 その事を考えれば、許せる筈が―ないのに…。

「…どうして、だろう…。今の私には、君を憎いという気持ちが…殆ど、なくなって
しまっている。この一ヶ月…それが、私を突き動かしていた原動力だったと
いうのにな…」

 自分の両手を見つめながら、その指先を震わせていく。
 本当に信じられなかった。
 昨晩の透明な笑顔を浮かべて口付けた、いつもと異なる佐伯の顔が…
どうしても脳裏から消えてくれない。
 たった一度のあの優しい抱擁は…彼に抱いていた恐怖心や、嫌悪感や憎悪や
その他のマイナス感情の全てを打ち砕いてしまっていた。
 それで自覚せざる得なかった。
 自分は…いつの間にか、彼にあんな風に優しく扱われる事を望んでいた事を―。

「…あんな風に優しくしておいて、その朝に…どうして、私を一人にするんだ…。
君は、本当に…酷い、男だ…」

 自らの身体をぎゅっと抱きしめて、寒さに耐えていく。
 部屋の中はとても寒くて…パジャマ姿のままでは、冷えて風邪を引いて
しまいそうだった。
 エアコンのスイッチを入れようと、リビングに向かっていく。
 お互いが寝泊りしている部屋にもちゃんと冷暖房は備え付けられているが
リビングだけは壁に電灯のスイッチと一緒につけられているので…リモコンを
探す手間が省けるからだ。

 裸足のまま…フローリングの床を歩いて、リビングの暖房を点けていく。
 何気なく…部屋の中を見回していると、外の変化にふと気付いて…意外そうな
表情を浮かべた。

「…雪…?」

 そう、空は灰色の雲に覆われて…ポツリポツリ、と白いものを地上に
舞い落としていた。
 この一ヶ月…日付感覚など失くしていたが、今は雪の一つくらい降っても
おかしくない季節である事を思い出す。
 白い雪が、ヒラヒラと舞う。
 その純白を眺めている内に…御堂は、引き寄せられるようにガラス戸を開けて
ベランダの方へと足を踏み入れていった―。


 
 ―ずっと、この一年間二人を見守っていた。

 もう一人の自分は…オレを必要としていない事ぐらい判っていた。
 だからずっと大人しく息を潜めて…彼の内側から、自分は見守り
続けていた。
 時々、彼と繋がって…夢の中で言葉を掛けた事があったが、それに
決して甘えることもなく、こちらが手を伸ばしても受け入れられる事もなく。
 傍観者でいる事しか、出来なかった。

(やっと…貴方に手を伸ばせる…!)

 久しぶりに肉体のコントロール権が戻って、何分かは動けずにぐったり
しているしかなかった。
 だが指先から…徐々に動かせるようになると、もう一人の克哉は―
銀縁眼鏡をゆっくりと外し始めた。

「…君、は…」

 御堂は、ぎょっとなった。
 一瞬で…自分を無理やり抱こうとしていた男の表情が豹変したからだ。
 どこか鋭利で冷たい印象を持つ顔が、あっという間に穏やかで頼りなげな
ものに変わっていく。
 
(そういえば…初めて会った時の佐伯の顔は…こんな感じだったな…)

 あの本多という、暑苦しくて体育会系まっしぐらな男と一緒に自分の処に
乗り込んで来た時は何て使えそうにない奴だ、としか思わなかった。
 眼鏡を掛けた瞬間から…まったくの別人のような印象になって
―そして、自分の苛立ちが生まれるキッカケとなったのだ。

「本当に…御免なさい。御堂…さん…」

「………さん、だって…?」

 目覚めてからはずっと、佐伯は自分の事を「御堂」と呼び捨てにしていた
筈だった。しかもさっきまでと全然声まで違う。
 こんなに情けない様子の佐伯の声なんて…随分前に聞いたきりだ。
 状況についていけずに困惑の表情を浮かべていると…強い力で
抱きしめられていく。

 ―それはどこまでも暖かい抱擁だった。

「さ、えき…君は…一体…」

 なんなのだ? という問いかけはすでに言葉にならない。
 ただどこまでも優しく抱きすくめられて…それでやっと、身体の力が
抜けていく。
 こんな風に…彼に優しく抱きしめられた事など、初めてだった。
 性的な意味合いを持たない、慈愛に満ちた腕の中は…御堂の中にあった
憎しみの感情を容赦なく溶かしていく。
 もう一人の克哉は…泣いていた。
 ただ静かな涙を頬に伝らせて…切ない表情を浮かべながら、御堂の
顔を優しく撫ぜ続けていた。

「御堂、さん…」

 穏やかな、声で何度も飽く事なく…御堂の髪や頬に指を滑らせていく。
 相手の涙が…御堂の頬に静かに落ちた。
 顔がゆっくりと寄せられて…その唇が静かに重ねられた。

 ―それを拒む事なく、静かに御堂は受け入れていた。

(…この一年、ずっと…見ていた。どれだけもう一人の俺が…貴方を
愛していたかを…)

 口は、上手く動いてくれない。
 だから…克哉は、態度で相手への愛情を示し続けた。
 自分は傍観者だった。
 それだから、客観的な視点を持って判断出来た。

 この人は紛れもなく…眼鏡を掛けた方の自分を想ってくれている。
 あれだけ献身的に一年以上も世話を焼き続けていた、もう一人の自分の
努力は…実り始めていたのだ。
 だからこそ、壊したくなかった。
 やっと二人の間に芽生えた愛情の芽を守りたいと思った。
 その強い想いが…強固な殻を突き破り…ほんの短い時間だけでも
こうして一年ぶりに表に出る事が出来たのだ。
 
「佐伯…私には、君が判らない…」

 御堂も泣きそうな声で、呟いていた。
 しかし…先程無理やり自分を貫こうとしていた克哉の性器が今は静まって
力を失っているのに気づくと…初めて、自分から彼を抱きしめていく。
 こんなに…彼の身体を暖かいと思った事など、初めての事だった。

「…御堂、さん…これだけは…聞いて、欲しいんです…。どんなオレでも…
オレは、貴方を心から愛している…と…それだけは、忘れないで…下さい…」

 本当は、自分が言うべき言葉ではない…と判っていた。
 しかし…もう一人の自分は実は凄く不器用だという事も、知っていた。
 眼鏡は酷く慎重になっていて…多分…御堂に想いを伝えるにはかなりの
時間を要するだろう。
 けれど御堂は…たった一言、こちらの方から確かな想いを口にすれば…
心を開いてくれる筈だ、と確信があった。
 それは人の心を読み取るのに長けた…穏やかな方の克哉だからこそ
判った事だった。

「…私、も…だ…」

 御堂も、力なく応えて…こちらの身体をぎゅっと抱きしめていた。
 それを感じて…急速に、意識が消えていくのが判った。
 涙を流しながら、克哉はしっかりと…御堂を抱きしめていく。
 自分がこうやって、表に出て…この人に触れる事はもう二度と
出来ないのかも知れない。
 けれど、自分はそれでも良いと思った。

 もう一人の自分も…紛れもなく自分自身なのだ。
 どれだけ別人のようであったとしても…自分たちは確かに繋がっていて。
 彼の悲しみは、自らの悲しみであり。
 彼の喜びは、自分の喜びでもある。

 例え二度と…こうして表に出る事は叶わなくても。
 この二人が幸せならば…それで良い、と…克哉は思っていた。

(さようなら…御堂さん。もう一人の俺とどうか…幸せになって下さい…)

 心からの願いを込めて…もう一人の自分に、この身体を返していく。
 そのまま…穏やかな眠りが、御堂と…克哉の間に訪れた。
 静かにその身を寄せ合って…ただ、間近に相手の体温と寝息を
感じ取っていく。

 目覚めてから一ヶ月間、初めて二人の間に…こうして穏やかで
優しい時間が生まれたのだった―。

 
 バァァァン!!!


 荒々しく克哉が扉を開け放った音が、静寂の中に響き渡った。
 御堂はその音にはっとなって、自慰行為を中断して身を起こしたが
声を出す間もなく組み敷かれ、唇を塞がれていく。

「っ…!!」

 噛み付くような、乱暴なキスだった。
 強く唇を食まれて、何度も痛いぐらいに唇を食まれて…気づけば
血の味が微かに混じり始めていった。
  状況が判断出来ない状態で、強引に身体を弄られて…足を大きく
開かされて、身体を割り込まされていく。
 相手の膝が、寛げて露出していた性器を性急に擦り上げていけば…
たったそれだけの刺激で、溢れんばかりの蜜が相手のズボンを汚し始めて
いった。

「なっ…! や、め…ろっ! ど、うして…!」

 無理やり身体を開かれそうになって、懸命に身を捩って御堂は
抵抗していく。
 しかし…克哉は獰猛な光を瞳に称えたまま…こちらを射抜くように
きつく見据えて…パジャマの襟元の部分に手をかけて…手荒く布地を
引き裂いていった。

「ひっ…! あっ…あぁ!!」

 硬く張り詰めていた胸の突起を両方同時に押し潰されるように愛撫されて
痛みと快楽の入り混じった感覚が全身を走り抜けていく。
  余裕なく零される悲鳴は、相手に貪るように深く口付けられて…
封じ込まれていった。

「御堂…み、どう…っ!!」

 今の克哉はまさにケダモノ、としか形容しようがなかった。
 御堂という美味しそうな香気を放つ獲物を前に理性を失い、それを
貪り尽くしたいという欲だけが彼の心の中を支配している。
 熱い舌先が、御堂の口腔を縦横無尽に舐め尽し…御堂の舌を
容赦なく絡め取って…息苦しくなるぐらいに吸い上げていく。

 御堂の硬く張り詰めている性器に、克哉の欲望が何度もぶつかり
自己主張していく。
 あからさまなソレに、御堂は恐怖心と…言いようのない身体の疼きを
覚えていた。

(ど、うして…こんな酷い事をされて…私、は…感じている、んだ…?)

 相手が己を求めて、昂ぶっていることに悦びを感じている自分がいる。
 それと同じくらいに…今の克哉は、恐かった。
 想いを伝えてくれる言葉の一つも口にせず、ただ…こちらの身体を煽って
高め上げていく。
 …この一ヶ月で克哉の事を好きになりつつあるからこそ…言葉一つなく
無理やり身体を開かされる事に抵抗を覚えて、何度も何度ももがいて
相手の腕の中から抜け出そうと試みていく。

「御堂…俺を、拒むな…っ! そんなに…俺が、嫌、なのか…!」

「違う、佐伯… ち、がう…んだっ! ひゃあ…!」

 今の克哉には、御堂の言葉を詳しく聞いていられる程の余裕はない。
 相手の性器をギュっと強く握りこんでいくと…根元から棹の部分を何度も
扱き上げて…脆弱な鈴口を執拗に攻め上げていく。
 ただでさえさっきまで自らの手で追い上げてビンビンに硬くなっていたのだ。
 他人の手でそんなに強い刺激を加えられたら…ひとたまりもない。
 
「だ、だめっ…や、だ…こんなに、乱暴なのは…っ! 嫌、だぁ…!」

 克哉が、嫌な訳じゃない。
 事実先程まで…自分は彼にどこかでこうして欲しいと思ってペニスを
慰めていたぐらいなのだから…。
 御堂が必死になって訴えているのは、愛情の確認もなく強引に身体を
繋げるのは嫌だ…という事なのだ。
 しかし欲望で頭に血が昇りきっている今の克哉にはその細かいニュアンスを
判断して分析出来るほど、冷静になりきれてなかった。
 ただ…相手からの「嫌」と「だめ」という言葉だけで…己が拒絶されているように
感じられて切なげに瞳を伏せていく。

「俺じゃ…やはり、駄目…なのかっ!? 」

「違…っ…佐伯、お願い、だから…聞い、てっ…くっ…れ…! あぁぁぁ!!」

 いつの間にか性急に下着ごと、パジャマのズボンが剥ぎ取られて
恥ずかしく収縮している蕾まで相手の前に晒されていた。
 其処に無理やり、蜜を塗り込められて…鉤状に曲げた人差し指を
奥深くまで突き入れられたのだから…堪らない。
 前立腺の部位を的確に指の腹で探り、擦り上げていくと…御堂は
全身を大きく痙攣させて、その甘美な攻めに耐えていく。

「………っ!!」

 ふいに、御堂の顔が恐怖心で強張った。
 焦燥に駆られて暗く獰猛な眼でこちらを見つめてくる克哉の眼差しが
こちらが正気を失う寸前の…陵辱行為を繰り広げていた恐ろしい彼の
瞳と被さっていく。
 その瞬間…穏やかな日々で塞がりつつあった筈の心の傷が…パクリと
開いてどっと血が吹き出し始めていった。

 ―御堂の心は、一瞬にして過去の記憶に囚われていった。

「あっ…あっ…あぁぁぁぁっ!!!!」

 忘れていた筈の恐怖心がどっと吹き出して、涙が零れ始めていく。
 御堂の瞳は瞬く間に虚ろになり、ガラス玉のように力ない…無機質な
ものへと変わり果てていく。
 その変貌に、克哉は焦燥感を覚える。

 こんなに愛しいと思っているのに!
 これだけ欲しいと言う気持ちでいっぱいだというのに!!
 御堂自身にそれが届く事も、受け入れられる事もなく。
 行き場のない強い想いは逃げ場を失い、強烈な奔流となって
克哉を突き動かす衝動へと変換されていく。

「御堂っ! 俺を拒むな! 受け入れて、くれっ…!」

 まだ慣らしてもいない場所に、ペニスを強引に宛がって
先端を挿入しようと試みていく。
 その行動によって、御堂の身体は一層強く強張っていく。
 御堂の拒絶するような反応が、克哉の心を余計に焦らせて
彼から冷静な判断力を奪い去っていた。

「嫌だっ…お願い、待って…くれっ! さ、えきぃ…!」

 快楽に抗うように必死に喘ぎながら、体制を立て直す為の
時間を御堂は求めていく。
 多分、恐怖の感情が呼び起こされている状態では…せっかく身体を
繋げても悲しい結末を招くだけだ。
 好きだから、そうなりたくない。その一心で叫んでいるのに
今の克哉にはその言外の気持ちが正しく伝わる事はない。
 
「そんな、に…あんたは…っ! 俺が、嫌いなのか…!!」

 引き絞るように克哉が叫んでいく。
 あの傲慢で冷たかった男が涙を瞳に滲ませながら、こんな事を
口にするなど…以前は考えられなかった。
 同時に、信じられなかった。

(違う! 佐伯…違う、んだ…っ!)

 必死に頭を振りながら、否定の意思を示していく。
 けれど…トラウマが目覚めている状態では、舌がもつれて…言葉が
上手く紡ぐ事が出来なくなっていた。
 喉の奥から、くぐもった呻き声しか漏れず…虚ろな眼差しだけしか
返せない自分が恨めしかった。

 この一ヶ月の日々でようやく取り戻した己のコントロール権が…
一気に奪われていく。
 恐らく、このまま…無理やり抱かれれば、恐怖の感情が再び
御堂の心を壊して、外界への扉は閉ざされて暫く帰って来る事が出来なく
なってしまうだろう。
 かつて、克哉が御堂に与えた仕打ちは…それだけ陰惨で
酷かったのだから…。

「助けっ…!!」

「御堂っ!」

 やっと出てくれた言葉が、それだった。
 克哉は必死になってその身体を掻き抱いて…泣きそうな顔を
浮かべている。
 指を引き抜いて、熱く滾ったペニスが宛がわれた。
 少ししか解されていない其処を割り開くように腰を進め始めていく。
 御堂は必死に括約筋に力を込めて、克哉の侵入を拒んだ。

「今は…ダメ…だ…止め…!!」

 力なく涙を零しながら…消え入るような声で訴えていく。
 けれど暴走している克哉は…もう止めれない。
 好きだから御堂が欲しいだけなのだ。
 なのに、相手に拒絶されてしまっている。
 その悲しみと憤りが…悲しいすれ違いを生んでいく。

 紛れもなく今は両思いな筈なのに…僅かな気持ちの行き違いが
悲しい結末を呼び起こそうとしていた―。

『そんなのはダメだ…!!』

 ふいに、頭の中から声が聞こえた。
 最初は幻聴かと、思った。
 しかしその一言ははっきりと克哉の脳裏に響き渡り
次の瞬間、更に大きな音が響き渡った。

 パリィィィィィィン!!!!

 それは大きなガラスが盛大に砕け散る音に良く似ていた。
 まるでタマゴから雛が孵り、もがいて内側からその殻を突き破るような
―そんな感覚だった。

 白いイメージが、一気に克哉の意識を駆け巡って…光輝く
何かに…自分の意思が覆われて、包み込まれていく。

「お前、は…っ!」

 克哉の瞳が驚愕で見開かれていく。
 次の瞬間、ブレーカーが落ちるように…いきなり身体から力が抜けて
御堂の身体の上に倒れこんだ―。

「…さ、えき…?」

 暫くして…御堂が力なく問いかけるが…克哉の身体はいきなり
活動を止めて…彼の身体の上でぐったりとなっていた。

「おい! 佐、伯…一体…どうした、んだっ!」

 必死になって御堂が呼びかけるが、克哉の身体はピクリともしない。
 その身体からは…今は完全に、意識は失われてしまっていたのだった―。
 
 
※諸事情により、このバージョンはボツになりました。
 こちらのは…正式アップバージョンとの比較の上でお読み下さい。
 正式アップは25日の14時から18時までの間に掲載予定です。



  バタン!! と大きな扉を開け放つ音が部屋中に響き渡った。
  それにビクっと御堂が身を震わせている内に…いきなり黒い人影が
飛び込んできて、こちらを組み敷いていった。

「なっ…!」

 とっさに反応出来ずに、全力でもがいて逃れようと足掻いていく。
 しかし…影はこちらをがっしりと抑え込んで離そうとしなかった。

「…さ、え…きっ…?」

 最初は…あまりに突然の事過ぎて、状況判断が出来ずにいた。
 しかし、両者ともここ一年くらいは誰とも交流を持たずにこの部屋で
過ごしてきたのだ。他の人間が訪れようもない。

「み、どう…っ!」

 掠れた、切羽詰った声音を零しながら…有無を言わさずに首筋を
吸い上げられていく。
 鋭い痛みが走って、肩を大きく震わせていった。
 その隙に克哉の膝が足の間に差し込まれて…こちらの下肢を
容赦なく擦り上げていく。

「ひっ…ぃ…!」

 先程まで自らの手で慰めて、ビクビクと派手に痙攣を繰り返しているソレを
布地越しとは言え擦り上げられて…御堂は余裕のない声を漏らす。
 パジャマ生地の上から、胸板全体を揉みしだくように愛撫されて…突起が
硬く張り詰めていく。
 敏感な箇所を同時に攻められて、御堂の身体は嫌でも煽られて…欲望の火を
灯されていった。

「御堂…御、堂…!」

 欲望という熱に浮かされて、幾度も余裕のない声で相手の名を呼び続ける。
 興奮して荒い呼吸を繰り返し、瞳を情欲でギラつかせている克哉は…
この一ヶ月間の穏やかさなど微塵もなかった。
 
―それは正気を手放す前に見た、狂気の瞳に似た輝きを帯びていた。

「ひぃぃぃ! や、止めろ…! 止めて、くれ…! さ、えきぃ…!!」

 電撃のように脳裏を駆け抜けていくのは、苛烈な陵辱行為を繰り返していく
佐伯克哉の憤りを帯びたぎらついた瞳だった。
 一年前、最後に見た克哉の眼もこんな飢えた光を称えていた。
 それが恐くて…どうしてそんな眼で自分を見ながら、あんなに酷い行為を
延々と繰り返し続けているのか判らなくて…その混乱と限度を超えた恐怖心が
一度は御堂の正気を破壊し、廃人寸前まで追い込んでいった。
 必死になってその最悪の過去を打ち消そうと…その身体を抱きしめて、気持ちと
体温を伝えていく。

「…っ! 俺は…! お前を求めているだけだ! 御堂!! もう…酷い事は、
絶対にしない! だから! そんなに…怯えない、でくれ…!」

 克哉が哀願にも似た、切羽詰った声で訴え掛けていく。
 しかし今の御堂にはその叫びは正しく届かない。
 一度、深過ぎる傷が開いてしまえば…その胸の痛みに気を取られていて
人は正常な判断能力を失う場合が殆どだからだ。

「嫌だ! もう嫌だ!! …無理やり、は…も、う…嫌だぁ!!」

 御堂の中には、今は確かに克哉に対して好意的な思いが存在している。
 しかし…同時に、己を破壊する程一度は追い詰めた憎い相手である事も確かなのだ。
 一旦、マイナスの方に天秤が傾いてしまえば…ずっと心の底に眠っていた
ネガティブな感情や、恐怖心の類が一気に吹き出していく。
 今の御堂にはどれだけ叫ぼうとも…克哉の訴えは届く事はない。
 何故なら…今の彼が見ているのは、過去の記憶。
 忌まわしく消してしまいたい…御堂への想いを自覚する以前の、あまりに非道な行為を
繰り返していた頃の克哉なのだから―。

「もう! 絶対にしない! だから…正気に戻ってくれ! 御堂、御堂!!」

 相手の瞳を覗き込みながら、噛み付くように口付けていく。
 優しくしたい、という気持ちがあっても…余裕のない状態ではその苛立ちは
行き場を失って、更に克哉の気持ちを追い込んでいた。

「嫌だぁ!! もう…許して! 助けてくれっ…! も、う…わ、たし…はっ…!」

 それは壊れる寸前に見せた、あまりにみじめで弱々しい御堂の姿だった。
 あれだけ誇り高く、どんなに大事なものを奪い続けても屈する事がなかった
気高い男が…こんなみっともない振る舞いをする事をかつての自分は許す
事が出来なかった。
 だから、憤りをそのままぶつけ続けて…彼を、壊したのだ。
 こんなに彼を追い詰めたのは、自分なのだ。
 久しぶりに見た御堂の弱い姿は、克哉に己の罪を突きつけていた。

 ―この男をここまで追い詰めたのは紛れもなく自分自身なのだ。

 そんな自分が許せなかった。
 御堂ではなく、自分自身が堪らなく憎くなって…克哉は憤っていた。
 だから…性欲はコントロールを失い、制御出来なくなっていく。

 性欲と、憤りの感情は実は男性の生理上…実は良く似ている。
 怒張、という言葉があるように…男性器は性的な刺激以外に、強烈な
怒りの感情を抱いていても硬く勃起するのだ。
 怒りが強くなればなるだけ、解放を求めて…性欲が高まる。
 それはオスである以上…避ける事が出来ない本能に近いものがあった。

「…いい加減に、したらどうだ…?」

 怒りが、性欲が…先程まで抱いていた克哉の理性を完全に打ち壊して
かつての酷い行為を繰り返していた頃の彼を誘発していく。
 そこにいたのはここ一ヶ月の、穏やかな克哉の顔ではない。
 御堂のトラウマとして刻み込まれている冷たく…怜悧な表情だった。

「…や、だ…助け…!!」

 怯える御堂を無理やり押さえつけると…今度は強引に相手の足から
下着とパジャマのズボンを剥ぎ取って、外気に晒していく。
 恐ろしいのに…すっかりと反応して、硬く張り詰めている性器と…ヒクついている
自分の蕾が恨めしかった。
 其処を慣らしもせずに、いきなり…克哉のドクドクと脈動している熱いペニスを
宛がわれてぎょっとなっていく。

「そ、それは…や、やめて…く、れ…! 佐、伯…!」

 やっとこの一ヶ月で、最悪の記憶から…相手の姿を上書き出来たと
思っていたのだ。
  許せないけれど、夕食前にキスされた時…憎い筈だった男を
愛しいと感じていた。
 夕食と入浴を終えても火照りは収まらずに…身体が疼いて、先程まで
自らの手で宥めざるを得ないほど…確かに欲しがっていた。
 しかし、こんな乱暴に求められるのはやはり…まだ、恐かった。
 克哉がこちらを労わり、気遣うような言動をしながら抱いてくれたのならば…
御堂はここまで怯えることも、恐がることもなく素直に克哉を受け入れていただろう。
 しかし…こんな乱暴な手段では、駄目だった。
 
「…あんたのココは…俺を求めて、こんなに激しく…収縮を繰り返して
吸い付いてきているぞ…? 少しぐらいは自分の欲望に…正直になっても
良いんじゃないのか…? 御堂…」

 先端から蜜が滲んでいるペニスを何度も、何度もじれったくなるぐらいに入念に
相手のアヌスの縁に擦り付けて…ごく浅い抽送を繰り返していく。
 それだけで…御堂の身体はかつて克哉から与えられた強烈な快感を思い出して
意思と裏腹に蠢いて、相手を求めているように収縮し続けている。

「そ、んな…事は、なっ…い…! デタラメ、を…」

「随分と…意地を貼るな…御堂…? お前の口は…本当に…嘘つきだ…」

 克哉が腰を揺らす度に、グチャネチャと…いやらしい水音が
部屋中に響き渡っていく。
 お互いの荒い呼吸と鼓動も…耳を突く。
 ほんの少し克哉が腰を突き入れれば…御堂の最奥を深く抉る事だろう。
 しかし…克哉は、部屋の電灯が消えているせいで…気づいてなかった。

 御堂の瞳が…再び虚ろになりつつある事を…。

「さ、えき…本当に、やめ…て、くれ…!」

 御堂はあの暗く閉ざされた世界に戻りたくなくて、必死になって
克哉に懇願していく。
 多分、今ここで無理やり身体を貫かれれば…恐怖心が御堂の正気を
再び覆い尽くして…やっと開いた心の扉は無理やり閉ざされることだろう。
 それを避けたくて、御堂は懸命に頭を振って…訴えていく。
 しかし…憤りによって、かつての姿を取り戻している克哉には…その声は
正しく届く事はない。

 お互いに好意がある事は確かなのに…二人の心はすれ違い続けて
最悪の展開へと突き進もうとしていた。

「こ、んな…のは…嫌だぁぁぁ!!」

 御堂が、悲鳴を上げていく。
 やっと…この男を好きだと、自覚したばかりだというのに。
 それなのに…こんなに悲しい形で、また身体を繋げるという事実が
あまりに悲しくて…涙が、とめどなく溢れ続けていた。
 けれど、暴走してしまった克哉には…すでに相手の懇願や涙程度では
ブレーキを掛けることは出来ない。

 克哉もまた…根っこの部分では、御堂が愛しいと想う気持ちが
存在していた。
 だから欲しい。深く感じ取りたい。心行くまで御堂を感じて貪りたい。
 それと憤りの感情が絡まりあって…凶暴な性欲となり、克哉を突き
動かしているのだから…。

「御堂、俺を…拒むなっ! 受け入れて、くれ…っ!」

 必死の形相で、相手の硬く慣らしてもいない内部に…ペニスを
ググっと押し込もうとしていく。
 その瞬間、御堂の身体が恐怖に強張って、克哉の侵入を
拒んでいった。

「いた、痛いっ…さ、えき…! 止め、ろぉ…!!」

 御堂もまた、心から克哉を拒んでいる訳ではない。
 こんなレイプみたいな形で、身体を繋げるのが嫌なだけなのだ。
 ほんの少しでも克哉の優しさや気遣いが感じられる形での
行為であったのなら…ここまで強固に克哉を拒絶する事はなかった。
 しかし今の克哉には…そこまで察する余裕はない。
 ただ…自分が相手にまた、拒まれてしまっている。
 その事実が胸を切り裂き、どうしようもない痛みを齎していた。

「また…俺を、拒むのか…?」

 泣きそうな顔をしながら、克哉は力なく呟いていく。
 その瞬間…脳裏に音が鳴り響いた。

 パリィィィィン!!!
 

 それはガラスが盛大に割れる音にも、タマゴから雛が孵って
突き破って生まれてくる音の両方に似ていた。
 その音が響き渡った瞬間、強烈な意思が克哉の意思を抑え込み
無理やり闇へと押し込んでいった。

(お前、は…!)

 そう、心の中で叫んだが…遅かった。
 次の瞬間…克哉の意識は、深い深い闇の中へと沈み、そのままベッドの上に
力なく身体を投げ出して、倒れこんでいったのだった―。
 

 夕食を無事に終えた後に…すぐ入浴を済まして自室に戻り、ベッドの上に
身体を投げ出していくと…克哉は深い溜息を突いていた。
 もう自分を抑えるのは限界だと、心底感じていた。

 御堂を致命的に壊した日から一年近く。
 抱いても反応を返さない彼をいつしか抱く事も性愛の対象にする事はなくなっていた。
 愛してはいたが…何をしても眉一つ動かない人形のような彼を抱いても、決して満たされる
事はないと思い知らされていたからだ。
 しかし目覚めた日から…徐々に以前の姿に戻っていく御堂を見て、克哉は心から
愛しいと感じ始めていた。

 ―愛しいから触れたい。抱いてどこまでも啼かせて自分に縋り付かせたい

 そんな凶暴な欲望と、二度とあんな風に壊したくないという想いがこの一ヶ月…
克哉の中で渦巻いていた。
 さっき、自分の為に夕食を作っている姿なんて反則だ、といっそ呪いたくなった。
 キスした時、本当はその場で組み敷いてその身体を貪りたかった。

「くそっ…!」

 御堂の温もりと僅かな時間だけ触れた唇の感触がどうしても忘れられない。
 あれから何度も身体が滾って、風呂場で一人で沈めた。
 それでも燻りは消えず、むしろ酷くなっていた。
 自分の中の凶暴な獣が、解放を求めて暴れ狂っているのが判る。
 ベッドの上で何度も寝返りを打ちながら、少しでもその欲望を逃がそうと
試みていく。

「…こんな夜は、一杯引っ掛けて…眠るに限るな…」

 アルコールは血管の拡張作用があり、飲んだ当初は体温を急激に上げていく。
 それから暫くすると一気に体温が下がっていく為に…眠れない時の睡眠の導入には
確かに効を成す。
 しかし同時に飲む事で4~5時間後には眠りの浅くなる周期を呼び込み、熟睡の妨げに
なる一面もある。
 しかしこのままでは眠れない…という時には、眠りが浅くなっても少しは寝た方が
身体の為ではある。そう判断し…ベッドから起き上がって台所を目指し始めた。

 面倒に思って、電灯はつけないまま…手探りで薄闇の中を動いていく。
 御堂の身の回りを面倒見る為にいつしかここで寝泊りするようになっていたが…
暗い中で動いても問題ない程度にはいつも片付けてある。
 闇に目が慣れたこともあって、スイスイと台所の方まで向かっていくと…何か
声が聞こえた。

「………っ!」

 それは微かな呻き声だった。
 何かを必死に耐えているような切羽詰ったものを感じさせる。
 怪訝に思って…微かに開いていた御堂の部屋の扉の前に立ち、中の様子を
伺っていく。
 ベッドの上の布団が、ゴソゴソと蠢いて…僅かな衣擦れの音を響かせていた。

「ぁ……っ…」

 僅かに漏れる声は微量で、夜の静寂の中でなければ耳に届かないほど
か細かった。
 こんな声を漏らす行為は、心当たりは一つくらいしかない。
 先程自分が風呂場でしていたように…御堂もまた、同じように思って
今…そこで自らを慰めているんだろうか?

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…

 己の心臓の音が、うるさいぐらいに高まっていく。
 宵闇が全てを覆い尽くしているせいか…想像ばかりが大きく膨らんで
制御を見失いそうだ。
 
「ぁ…さ、え……っ…き…!」

 暫くその場に立ち尽くしていると、今までよりも少しだけ大きな声が
ベッドの上にいる御堂の唇から漏れていく。
 それが決定打、だった…。

「………御堂…っ…」

 もう、我慢が効きそうにない。
 己の中の獣が鎖を食いちぎって…解き放たれたのが判った。
 暫く誰の温もりにも触れていない、という理由もあった。
 御堂が壊れてからは、MGNの人間も八課で一緒だった人間も全て
彼の面倒を見ることを優先して…一切の付き合いを絶っていた。
 誰とも深い交流をする事も、バカ騒ぎをする事もなく過ぎていた一年間。

 その孤独もまた…彼の中の凶暴な衝動を育てる一因となっていたのだ。
 大事にして二度と傷つけるような振る舞いはしない。
 克哉がこの一ヶ月、ずっと抱いていたその戒めも今は何の意味も成さない。
 ただ、御堂を思うが侭に貪り尽くしたい。
 その強烈な欲望に突き動かされながら、御堂の部屋の扉を乱暴に開け放って
いったのだった―。

 

   御堂が正気に戻ってから…一ヶ月の月日が過ぎた。
  どれだけ苦しくても、必死になって身体を使い…身の回りの事は自力でするように
努力したおかげで、驚異的なスピードで回復していた。
 指先の感覚がきちんと戻り、長時間立っていても…足先から力が抜けるような事は
もうない。
 その為…御堂は克哉が使用している和食メインの料理本を開きながら…本日は夕食作りに
チャレンジをしていた。

「ふむふむ…包丁をこう使ってニンジンは大きめにザクザク切って…と…」

 本に書いてある通りの調理法を忠実に守りながら、肉じゃが用に
ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、シラタキ等を丁度良い大きさに切っていく。
 一応一人暮らしをしていた期間が長い為、御堂は一通りの料理は
作る事が出来ていたのだが…イタリアンやフレンチ系のレシピが多かっただけに
肉ジャガなどは…殆ど作った事がない。
 あったとすれば…学生時代の調理実習でくらいだろう。

「見てろよ…佐伯。今日は私が夕食を予め作っておいて…びっくりさせてやろう…」

 何とも凶悪な笑みを浮かべながら、肉じゃがに必要な材料を全て切り終えていく。
 克哉は日中は…御堂の分の朝食と昼食は用意しておいて…自分が帰宅してから
二人分の夕食を作っていた。
 いつまでも克哉に食事を作って貰っている状況に、いい加減に焦れたので
本日…久しぶりに御堂が包丁を握っている訳だ。

 克哉への対抗意識が、今はみなぎる程のやる気に繋がっている。
 子なべに火を掛けて、ゴマ油を落としていって…それを軽く熱していく。
 少し湯気が出て来たくらの頃にブタ肉を切ったのを入れて丁寧に炒めていき
一通り熱が通ったら…ニンジン、ジャガイモ、タマネギの順に投下して火を
通していった。

 手順は完璧だ、と動くようになった自分の手先に満足しながら…仕上げに
麺ツユや日本酒、みりん等を入れてシラタキも投入していく。
 これで一煮立ちさせて…蓋を閉じて、暫く蒸らして置いておけば美味しい
肉じゃがの出来上がりだ。
 仕上がりを想像しながら…次は何を作るか頭を巡らしていると…ふいに
背後から抱きすくめられて、ぎょっとなった。

「なっ…!」

「ただいま、御堂…良い匂いだな…?」

 …十数分間、作る事に没頭していたおかげで…いつの間にか克哉が帰って来ていた事に
気づいてなかったらしい。
 御堂の髪にそっと顔を埋めて、項に軽く唇が触れていく。
 その感触に、思わずぎょっとなって…叫んでいた。

「さ、えき…それ、くすぐったいから…離れ、ろ…」

「嫌だね。俺の為にせっせと料理してくれている可愛い姿なんてみたら…
あんたを抱きしめたくなって、当然だろう…?」

「だ、誰がお前の為なんか、に…!」

「違うのか?」

 背後から御堂を抱きすくめた状態のまま、意地の悪そうな微笑を浮かべて
克哉が問いかけて来る。
 それに対して顔を真っ赤にしながら…御堂はぶっきらぼうに答えた。

「…いつまでも、お前に食事の世話になっているのが嫌なだけだ。これは私の
分だけを作っているだけだ…」

「へえ? その割には…子鍋いっぱいにあって…どうやっても二人分以上は
ありそうだけどな…?」

 図星を突かれて、御堂はぐっと答えに詰まっていく。
 彼の予定では…克哉が帰宅する頃を見計らって夕食を用意しておいて
びっくりさせるつもりだったのだ。
 私は、お前の世話ばかりになっている訳じゃないぞ。
 ここまで回復したんだぞ、と…そう訴えたくて、料理する事に踏み切ったのだ。
 しかしその製作途中に相手に見つかっただけじゃなくて…こんな風に背後から
抱きしめられたら、まるで新婚夫婦みたいである。
 それを自覚して、更に顔が火照り始める。

「…別に、一度に沢山作っておいても良いだろう…? その方が手間が省けて
面倒ではないし…」

「…くくっ、いい加減…認めろよ。俺の分も…作ってくれていた事実をな…」

「そんな事…っ!」

 と、相手の方を振り返った途端…唇を塞がれていた。
 一瞬…状況が理解出来なかった。
 しかし…視界いっぱいに相手の顔が移り、柔らかいものが唇に触れている事を
自覚した瞬間…御堂の頭は真っ白になり、抵抗も反論も一切出来なくなっていた。

「ん、んっ…」

 やんわりと唇を舐め上げられて、甘く吸い上げられる。
 わざと御堂の口内には侵入させず…唇の裂け目の浅い処や、輪郭を
辿るようにしながら…舌を這わせていく。
 その感触に鳥肌が立つくらいに…感じていく。
 相手のスーツの袖を咄嗟に掴んで…その感触に耐えなければ…そのまま
膝から崩れ落ちそうになるくらいに…感じてしまっていた。

「あっ…」

 久しぶりにされる甘いキスに…酔いしれそうになる。
 この一ヶ月…克哉は御堂の世話は欠かさずやっていたが…性的な意味で
触れてくる事はしなかった。
 最初の頃は入浴も少し手伝ってもらっていたが…二週間を過ぎる頃には
一切手を借りる事もなくなっていたし…肌を見せる事もなくなっていた。
 同時に…こうやって触れられることもまったくなかった。

「やっ…だ…さ、えき…や、め…」

「嫌、か…?」

 声の振動が唇に伝わってくる距離で、低い声で囁かれる。
 一瞬…眼鏡の奥で目を細めていた相手の瞳と目が合って…言葉に
詰まっていく。
 こんなキスをされたら、そこから腰から下が蕩けそうになって…力が
入らなくなる。
 それに…今、自分を支えている…彼への怒りや憎しみ。そういった感情が
綺麗に消え去ってしまいそうで…困惑した表情を浮かべていく。
 克哉はそれを拒絶と取ったのだろう。
 …ふっと目を伏せると腕を解いて…御堂から身体を離していく。

「嫌…なんだな。悪かった…御堂…」

「えっ…あ、あぁ…」

 つい、頷いてしまっていたが…こうあっさりと相手から解放されて、御堂の方も
困ったような表情になる。
 以前の彼であったのなら…自分が嫌だと言おうが泣き叫ぼうが、このまま行為に
及ばれていた事だろう。
 しかし今の克哉は違う。
 こちらが答えに詰まっているだけでもそっと腕を離して、解放してくれる。
 あまりの態度の違いに…御堂の方も、呆然とするしかなかった。

(いや、じゃないから…困っているんだ。…判ってくれ。それくらいは…)

 声にならない叫びを胸の奥に宿しながら、御堂は視線を戻していく。
 手に持っていた鍋の状況を見てぎょっとなった。

「わっ!! 佐伯の馬鹿! 火を使っている時に妙な事をしたから…肉じゃがが
少し焦げたじゃないか!! それに私が手を滑らせて鍋をひっくり返したりしたら
どうするつもりだったんだー!」

 慌てて火を止めて、ガスコンロから子鍋を開けていったが…中身の下の方が
うっすらと焦げて何とも香ばしい匂いが部屋中に漂っていく。
 危なかった…後、30秒も放置していたら香ばしいではなく、焦げた匂いになって
味も著しい劣化を免れなかっただろう。

「…すまない」

「判れば、良い。後…お前は座っていろ。今夜は私が夕食を作る。いつまでも
お前の世話になっているのは御免だからな」

「…あぁ、楽しみにしている。あんたの手料理なんて…初めてご馳走になるからな。
心して食べさせてもらおう…」

「あぁ…」

 そうして、相手の身体が遠ざかり…背面の状態のまま、克哉が部屋に
消えていく気配を感じ取った。

「…急に、あんな風に抱きしめるな…バカ…」

 短く、相手に向かって文句を言っていく。
 まだ心臓がバクバクと鳴っているのを自覚して、悔しそうに御堂が呟く。

「…一ヶ月も、私に何もしなかった癖に…」

 背中に少しだけ残っている相手の温もりを思い出し…それを振り払うように
頭を何度か横に振った後…御堂は夕食の準備に戻っていく。
 微かに残った相手の残り香が…余計に寂しさを強く感じさせる。
 何故、克哉が以前のように自分を抱かない事を…切なく思うのか
自分でもその理由を掴み切れず、御堂はギュっと瞼を閉じて…その感情を
抑えていくしかなかったのだった―

  御堂が意識を取り戻してから、十日が経過していた。
  あの日から…克哉と御堂は、一応平穏を取り戻していた。
  腫れ物に触るような…お互いの態度に、表面上は意見を違えて
怒ったり、文句を言ったりする事もない…一見平穏そうな生活。
 しかしそれは…微妙なバランスで成り立っている事は、二人とも
良く自覚していた―。

「御堂…ここに、今朝の分の食事を置いておく。…机の上には昼の分も
用意しておいた。それじゃあ…俺は、行くぞ」

「あぁ…」

 会社に行く準備を終えて、克哉が声を掛けてくる。
 自室のベッドの上から、相手の方を振り返りもせずに御堂は短く、
返事だけしていく。
 短い、やりとり。
 それでも一言だけでも言葉が返って来てくれる事に…克哉は笑みを浮かべて
そのまま会社へと向かっていった。

 床の上に、今朝の分の食事が置いてある。
 そうするように最初に頼んだのは…自分だ。
 今日も筋肉痛で軋む身体をどうにか動かして…ベッドの上からぎこちなく降りていって
膝と手をつきながら…ハイハイするような動きで、おにぎりの皿が乗せられている
お盆の方へと向かっていく。

 一年以上、自らの意思で身体を動かしてなかったせいで…御堂の身体は今は極限まで
筋肉が低下していた。
 そのリハビリの為に…御堂は必死に、出来る事は自分でやろうとしていた。
 ほんの数メートル…床の上を這うだけでも…汗がどっと吹き出してくる。

「はぁ…ぁ…も、う…少し、だ…」

 みっともない姿を晒していると、自分でも思う。
 しかし御堂の目は…ギラギラと輝いて、強い意志を宿している。
 一日も早く、かつての自分に戻りたい。
 その強烈な願いが、彼の身体を突き動かしていた。

 克哉が作ったおにぎりに手を伸ばすと…それに夢中で齧りついていく。
 まだほんのりと暖かい舞茸入りの炊き込みご飯で作ったそれは…非常に美味しくて
御堂の味覚を満足させていく。

「うまい…」

 ポツリ、と呟きながら…ぎこちなくおにぎりを齧っていく。
 ボロボロと何度かご飯を零すのは歯痒かったが、今はまだ指先も完全に以前の
ようには動かせないのだから…仕方ない、と割り切る事にした。

(…みっともないな…我、ながら…)

 それでも最初、自分の意思で動かした日よりは随分マシになっていた。
 おにぎりと一緒に、用意されたのはトン汁だった。
 細かく切った豚肉に、大きめにカットされたニンジン、タマネギ、ジャガイモに
ゴボウが具沢山に入っている。
 ダシも煮干でキチンと取られていて…味噌の加減も丁度良い。

 佐伯克哉という人間が、意外に料理が上手かったことを知ったのは…意識が
覚醒してからの事だ。
 以前、陵辱されていた頃にはまったく知らなかった一面ばかり…この十日間は
見せ付けられていた。

(…佐伯。君は一体…何なんだ…?)

 零さないように細心の注意を払いながら、トン汁を飲み進めていく。
 おにぎりは上手くいかなかったが、こっちはどうにかなりそうだ。
 暖かいトン汁に、胃をポカポカさせながら…ほうっと溜息を突いていった。
 ―この十日間は、信じられない事ばかりだった。

 自分の意識を破壊される程、酷い行為を繰り返していたあの男は…目が覚めた途端
とても優しくなっていた。
 この十日間、一度もあの男に抱かれていない。
 無理強いをする事もなく…自分の我がままで、食事、排泄、入浴等をやって…酷く
床やトイレ、風呂場を水浸しにしたり汚してしまっていても…一言も文句を言わずに
毎日片付け、自分の世話を焼いてくれていた。

 それは…かつての克哉の姿からは、まったく想像もつかないものだった。
 同時に、壊れていた自分の傍に一年もいた事も…信じられない。
 価値がなくなったら、さっさと自分を捨てていなくなる男だと思っていた。
 なのに…彼はいた。目覚めるまでずっと待っていたと言っていた。
 有り得ない現実に、御堂は…困惑を隠せないまま…十日を過ごしていた。

「…佐伯、ど、うして…お前は、そんなに、私、に…優しく、する…? かつてのように
酷く、扱わ、れれば…私も、憎む…事が…出来る、のに…」

 御堂は力なく、呟くしかなかった。
 嬉しい、という気持ちもあまり湧いて来ない。
 逆に…胸の中に存在する、この複雑な感情をどう処理していけば良いのか
戸惑うしかなかった。

 以前のように扱ってくれれば、こちらも相手を憎む事が出来る。
 拒絶して…この家から出ていけと追い出せる。
 しかし…こんな風に献身的に世話を焼かれて、優しくされたら…どうしても
『私の家から出て行け!』という一言を言うことが出来なかった。
 行き場のない感情は、御堂を混乱させ…どう対応していけば良いのかという
正解をひどく遠くに追いやっていた。

「お前、が…本、当…に…判ら、ない…私、には…」

 克哉が作ってくれた食事の全てを平らげて、御堂は床の上に身体を投げ出した。
 たったそれだけの動作でも、暫くは身体を休めなければ…辛くて動けない。
 そんな身体にした原因は、あの男が作った。
 なのに―憎み切る事が出来ず、胸の中に湧いた…情のような気持ちに御堂は
深い深い溜息を突いて、それを紛らわす事しか出来ないでいた―。
 
 
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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