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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※桜の回想は、もう少し時間を取って掲載していきたいので一旦、間を置いて
こちらを連載開始させて頂きます。(5~6話程度の長さの予定です)   
  
この話は2009年の日付設定で執筆されています。
  そして鬼畜眼鏡R経過前提です。 
  Mr.Rが絡んでくるのでなかなか不可思議なことが起こりまくる予定です。
  この三点を予めご了承の上、お読みくださいませ(ペコリ)

 
 
 ―愛しい人と再会して、会社を設立して一緒に運営するようになってから
丸八ヶ月が過ぎようとした頃。
 佐伯克哉はある事で真剣に悩んでいた
 
 9月22日、愛しい人の誕生日の一週間前。
 もう間近に迫っているというにも関わらず、彼にしては珍しく御堂に対して
何を贈って良いのか決めかねていた。
 正式に恋人関係になってから初めて迎える、大切な人の誕生日。
 その日ぐらい何かを相手に贈りたいと…ごく自然に思ったからここ数日、
ずっと考え通しだったのだが…いまいち、思考回路は順調とは言えなかった。
 しかもその一日ももうじき終わろうとしている。
 初めてのシルバーウィークの真っ最中。
 この長い連休を御堂と過ごしながら、克哉なりに必死に考えていた。
 今、御堂は入浴中で克哉の目の前にはいない。
 だからこそ余計に、来週贈るべきプレゼントを何にしようかその考えで満たされ
てしまう訳だが…一番良いのがなかなか浮かばなかった。
 
(…あいつに俺が贈りたいものと言ったら、真っ先に浮かぶのは指輪だがな。
だが…それはまだ早い気がする。せめて二人で運営しているアクワイヤ・
アソシエーションを一年は無事に持たせてもう少しが軌道に乗せてからにしたい…)
 
 そう、克哉の気持ち的にはすでに御堂と生涯添い遂げたいとすら思っている。
 だが、まだ自分が定めている目標にまで全然到達していない。
 御堂は彼にとってもっとも愛しい相手であると同時に、追いつきたいと思っている
目標でもあり、対等に並びたいと望んでいる存在がある。
 
―だからまだ途中経過でしかない段階でプロポーズを兼ねて指輪を
贈るのは早計だと思った。
 
(意味を込めて指輪贈るなら、胸を張れるだけの成果を出してからにしたい…。
これは俺のプライドだけどな…それは、譲りたくない…)
 
 だが、それを除くと御堂に相応しいプレゼントは何か…思い浮かぶものが
あまりない。
 御堂の生まれ年でもあるヴァンテージワインでも、と思ったが…彼が喜びそうで、
克哉が今求めている水準の代物は運悪く手に入らなかった。
 ワインを愛好している相手に贈るならば、日常で飲めるような代物では
物足りないだろう。
 最高級と言われる銘柄で、彼の生まれ年の物。
 だが、そんな希少品と言われる代物は一ヶ月前から手を尽くしているが
一向に見つかる気配はない。
 克哉が希望している水準の物は、すでに愛好家やバイヤーの手に渡って
しまって簡単には流れて来ないレベルの代物ばかりだ。
 毎日、マメにネットに接続して調べているが…一向にチャンスに恵まれなかった。
 そのおかげでもうじきリミットを迎えてしまいそうだった。
 
「指輪、ワイン…あいつに贈りたいと思うものはそれぐらいしかないんだがな…。
なかなか上手くいかないものだ…」
 
 どうせプレゼントするなら、同時にサプライズになる物の方が良い。
 相手を驚かせて、楽しませる事が出来そうな品か場所…。それを彼なりに
探しているのだが、これだ!と思えるものは見つからないままだった。
 
「くそっ…このままではタイムリミットを迎えてしまうな。中途半端な物を贈ったり、
連れていくような真似はしたくないのに…」
 
 苦渋に満ちた表情を浮かべながら呟いていくと、克哉は革張りの大きな
ソファに腰を掛けながら、煙草に火を点けて…紫煙を燻らせていった。
 
―それなら、良い場所を紹介しましょうか…?
 
「っ…!」
 
 唐突に窓の方から、聞き覚えのある声が耳に届いて…克哉は
慌ててそちらに視線を向けていく。
 其処には長い金髪と漆黒のコートをなびかせた、妖しい男が立っていた。
 言わずと知れた、Mr.R…時々克哉の前に前触れもなく現れる謎多き男だ。
 不審さと胡散臭さに掛けては右に出る者はいない程で、現れる度に
難解な言葉掛けと、不吉な予感を与えて去っていくという行動を繰り返している。
 今の眼鏡を掛けた克哉が十数年ぶりに解放されるキッカケを与えてくれた
存在でもあるのだが、基本的に彼は決してこの男を信用してはいなかった。
 
(…というか、こいつはどこから出て来たんだ…? このマンションの住居
区域はオートロック式の上、ここは最上階の筈だぞ…?)
 
 克哉が自分の会社と住居を構えたこのビルは都内の一等
地にある上にセキュリティ関連も万全である筈だった。
 普通の人間なら、無断でこうやって室内に入って来るのは
不可能の筈なのである。
 しかし目の前の男は、ごく当たり前のような顔をして存在しているのを見て、
克哉は一つ…気づいた事があった。
 
(…冷静に考えれば、コイツを普通の人間に数える方が愚かだったな…)
 
 そう自分に言い聞かせて、体制を立て直していく。
 しかしその表情は、極めて不機嫌そうかつ…偉そうなものであった。
 
「…一体どこから湧いて来た、という件は不問にしておいてやる…。しかし、
一体どこに俺たちを案内するつもりだというんだ…?」
 
―…そうですねぇ。ちょっとしたアトラクションを楽しむことが出来る場所…
とでも申しておきましょうか…?
 
「アトラクション…だと?」
 
―えぇ、ちょっとした趣向を凝らしてありましてね…。この鍵を使用します…
 
 克哉が怪訝そうな眼差しでそう問いかけていくと…男は唐突に懐から一本の鍵を
取り出して彼の前に見せていった。
 
「…何だ、その鍵は…?」
 
―そうですね、魔法の鍵とでも申しておきましょうか…? 貴方と、最愛の人を
非日常の世界へと…お連れする為のね…
 
「魔法の鍵だと…馬鹿馬鹿しい。おとぎ話の世界でもない限り…そんなものは
有り得ない。それにその鍵で、何が出来るというんだ…?」
 
―貴方が承諾して下さるなら、この鍵を使用する場所に…御堂様の生誕日に
お二人をお連れして差し上げましょう。まさに其処は非日常…いえ、幻想空間
そのもの。退屈極まりない日常生活内では決して味わえない娯楽と、
エキセントリックに満ちた素晴らしい場所です。サプライズとしては…
恐らくそれ以上のものは望めないでしょう…
 
 男はまるでセールストークか何かのように実に流暢に
言葉を並べ立てていく。
 だが、熱っぽく語れば語るだけ…胡散臭さもまた増大していった。
 
「だから遠回しな言い方はこれ以上しなくて良い…。これを使う場所は
どういった所なのかだけ簡潔に話せ」
 
―そうですね…とある古城の中に、沢山の鍵穴が並べられている空間があります。
その鍵穴にこの鍵を差し込むことによって…様々な趣向を凝らされた素晴らしい
部屋へと誘われる事でしょう。しかし…鍵は五回使えば、壊れてしまいます。
 何十個もある鍵穴から…果たしてどのような部屋に辿り着くか…実に
ワクワクしませんか…? スリルと高揚を求めるならば…試されてみるのも一興ですよ…?
 
 男は実に楽しそうにこちらに薦めてくる。
 その言葉を聞いて、克哉は考えあぐねいていた。
 
―こいつの言葉を本当に信じて良いのか…?
 
 克哉の中には、Mr.Rの言葉に激しく警戒している部分があった。
 この男が善意だけでこちらにこんな話を持ちかけてくるとは到底思えない。
 何らかの裏か、別の意図が隠されているに間違いなかった。
 訝しむような顔を浮かべていきながら克哉が考え込んでいくと…男は、
ねっとりと甘い声音でこう呟いていった。
 
―嗚呼、一つ言い忘れておりました。数ある部屋の中には…貴方様が心の奥底に
秘めて隠していらっしゃる欲望を満たす為の素晴らしい部屋が…幾つも
用意されています。きっとその部屋を引き当てたなら…ご満足して頂けると思いますよ…?
 
「…素晴らしい部屋、だと…?」
 
―えぇ、途方もなく。貴方の好みにぴったりだと思いますよ…
 
「ふむ…」
 
 その言葉を聞いて、少しだけ興味が湧いていく。
 実際に辿り着いた部屋のどれかを使う使わないは置いておくことにして…
今の発言を聞いて少しだけ試してみても良い、という風に心が傾き始めていった。
 
「…とりあえず鍵は渡しておいて貰おうか。実際に使うかどうかはまだ
判らないがな…。気が向いたなら試してみても良い…」
 
 そう克哉が答えた瞬間、男は愉快そうに微笑んでいった。
 
―えぇ、必ずやお気に召して頂けることでしょう…
 
 そうして男はそっと克哉の手のひらに豪奢な装飾が施された
銀色の鍵を手渡していく。
 瞬間、ほぼ同時に背後の扉がガチャと開く音が聞こえていった。
 
「克哉…今、上がったぞ…待たせたか…?」
 
「あ、ああ…」
 
 とっさに御堂の声がした方向を振り向いていく。
 そしてすぐにハっとなった。
 今、自分の前にはあんな胡散臭い男が立っているのを御堂に
見られる訳にいかない。
 だが、御堂は無反応のままだった。
 
「…? どうしたんだ克哉?」
 
「い、いや…何でもない」
 
 そう答えて、黒衣の男が立っていた方角を見やっていくと…其処には何も
存在しなかった。目を離していたのは本当に一瞬。
 その間に男は煙か何かのように…跡形もなく消えていた。
 
(ど、どこまで人外なんだ…あの男は…)
 
 流石にこれは克哉も言葉を失いかけたが…今更、あの男の非人間的な部分を
どうこういっても仕方がない気がした。
 
「…克哉、様子が変だぞ…? それで、君もシャワーを浴びてくるのか…?」
 
「ああ、すぐに戻ってくる。少し待っていてくれ…」
 
 そう答えて、相手の唇に小さくキスを落としていく。
 手の中にある鍵を悟られないようにしながら…平静を取り繕っていき、
静かに御堂の脇を抜けていった。
 そして浴室の手前、脱衣室まで辿り着いていくと…ドっと疲れが出た。
 
「…魔法の鍵か…。あんな男の言葉を真に受けて良いものか…」
 
 そう呟きながら、克哉は手のひらの上にある…銀色の美しい鍵をそっと眺めて、
暫く考え込んでいったのだった―
 
 
 
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 とりあえず本日、別ジャンルの方の原稿関係は
無事に完成して送信しました!
 つか、マジで間に合って良かったです。
 …今週はPCエラーが起こって、二日ロスが出た為に
色んな予定が押してしまって、9月29日の御堂さん誕生日も
当日にはちょっと無理でした…(くう)

 とりあえず一段落ついたので10月11日の新刊と、
連載、それと御堂さん誕生日関連のSSもアップしていけたらと
思っています。
 …平行してやっているので、ちょっと飛び飛び掲載に
なっていますがご了承下さい。

 後、スプレーオンリーの新刊は克克のエロが濃い目の話で
行こうかなって思っています。
 現在、誠意製作中です。
 表紙等も線画や本文等が仕上がりましたら、サイトの方に
掲載させて頂きます。
 本日はちょっと原稿書く方を優先しますので今夜はこの辺で。
 イベント情報の方も連載の合間に随時、掲載させて頂きます。ではでは~!
 ※いつもお世話になっている「花冠を」のむいさんがが開催した萌え茶に
先日、参加して参りました。
 こちらが落ち込んでいる時などに、暖かい言葉を何度も掛けて下さったので
そのご恩返しに、ささやかながら作品を書かせて頂きました。
(萌え茶=主催者の方がお題を予め用意しておいて、参加者が
それをランダムで引き当てて、SSをアップしていくチャットの事です)
 その日引いたお題内容は「だってそんなに抱きしめたらば壊してしまうだろう?」と
いう内容だったのでそれに合わせた18禁ものです。
(お題提供=不在証明様)
 というかそれ以外の要素はございません(きっぱり!)

 自分の誕生日に更新するものが、連載しているどっちの作品でもなく
別CPの一話完結なのはすっごい突っ込まれそうですが…そういう事情で
書いたものなので、本日分として掲載させて頂きます。眼鏡×御堂ものです。
 明日は書けたら「残雪」の続き掲載します! ではん!
 


-最近は二人で立ち上げた新会社が軌道に乗って、多忙を極めて
いたのでこうして際奥に感じるのは一ヶ月ぶりだった。
 だからこそ、ゴンドラの中という異常なシチュエーションでも…御堂は
歓喜を持って相手の熱を受け入れていく。
 公私とものパートナーと言っても就業時間中は…新しく雇った人間の
数も増えて来ただけに、初めの頃のようにアクワイヤ・アソシエーションの
オフィス内で…という事もなくなってきた。
 あまり頻繁に、週末に会社の上に住居を構えている克哉の部屋を訪ねれば
余計な疑惑を生むかも知れないと…最近は気を遣って理性が邪魔するように
なっていただけに、ただ欲しいという欲望だけで相手を素直に求めるのは
御堂にとって久しぶりだった。

「はぁ…んっ…!」

「はぁ…あ…やっぱり、あんたの中は…蕩けるぐらいに、熱いな…。
こうやって挿れているだけで…イケそうだ…」

「そ、んな事は…うあっ!」

 グリっと相手の性器が抉るように突き上げてくると…御堂は耐え切れないと
ばかりに声を漏らしていく。
 その衝撃に耐えようと…御堂は必死になって克哉の背中に縋り付いていく。
 相手が腰を動かし、こちらの脆弱な部位を執拗に攻め上げてくれば
次第に呼吸は乱れて、忙しいものへと代わっていく。
 空調など殆ど効いていない…寒いゴンドラの中に置いても、最早そんなのは
すでに関係なく感じられるぐらいに、二人は熱くなっていった。
 
 ―窓の向こうには、目にも鮮やかな遊園地のイルミネーションが
広がっていた

 自分たちだけしか存在しない遊技場で、こんな風にお互いを求めて
貪り尽くすなんて…想像した事もなかっただけに、本当に全身の神経か
何かが焼き切れてしまいそうだった。
 身体の上に御堂を乗せて、密着をさせた体制で…克哉は執拗に
はち切れんばかりに硬くなっている相手のペニスを執拗に弄り上げる。
 もう、衣服やゴンドラ内を汚してしまうだなんて…そんな懸念が入り込む
余裕すらなかった。
 ツルリとした鈴口の周辺を、克哉の指先が的確に攻め上げて
更に大量の先走りを滲ませようと、快楽を掘り当てていく。

「んっ…あぁ!  や、だ…克哉! もう…おかしくっ…!」

「はっ…孝典。もっと…俺の、腕の中で…乱れろ、よ…。あんたが
俺の手で感じて、見せろよ…」

 眼鏡の置くで克哉が熱っぽく恋人を見つめながら、囁いていく。
 彼のアイスブルーの瞳が、まるで宝石のように艶っぽくキラキラと
濡れて輝き始める。
 欲情に濡れた、獰猛なその双眸に…御堂の意識は全てを捕らえ
られていく。
 その目を、もっと見ていたかった。もっと相手の魂に近づいて…寄りよって
一つに限りなく重なるぐらいに…!
 そんな欲望が互いの中に宿り、二人の腰の動きが一層早まっていく。

「あぁ…うっ…! 克哉、克哉…!」

 熱に浮かされたかのように、うわ言のように御堂の唇から克哉の
名前が零れていく。
 恋人が自分の腕の中で余裕を失くし、必死になって縋り付いてくるのを
見て…御堂の内部で、克哉の欲望は一層質感を増していった。
 苦しいぐらいに、克哉でいっぱいになっているのを自覚して…御堂は
蕩けたような紫紺の眼差しを真っ直ぐに彼だけに注いでいく。
 二人の唇は再び深く重なり、上も下も…相手の存在だけで
いっぱいになっていった。
 瞬間、克哉が限界まで膨張して…大きく脈動をしているのを
自覚していった。
 御堂もまた、受け入れている箇所を激しく蠕動させながら
それを全て享受しようと…相手の背に回している腕に、
更に力を込めていった。

「孝典、もうっ…!」

 そうして、余裕のない声で克哉がこちらの名を呼んでいきながら
頂点に達して、熱い精を御堂の中に注ぎ込んでいった。
 己の内部で、克哉が爆ぜていく熱い感覚を感じ取って…御堂は
息を詰めながらそれを受け入れていく。
 ドクドクドク…とお互いに心臓を荒く脈動をさせながら、一息を
ついて…暫く対面座位の格好のまま抱き合いながら呼吸を
整えていった。

―その後、ゴンドラの中に静寂と沈黙がそっと満ちていく

 半ばぐったりとなりながら…御堂は暫く、克哉の身体の上に
覆い被さっていった。
 お互いの息遣いと鼓動だけしか、今は耳に入らない。
 それ以外の音は、今の彼には感じられなかった。
 意識が、ただ…こうして自分を腕の中に抱きしめてくれている
佐伯克哉という存在にだけに向けられていく。
 それ以外の存在も、外部の音も…この瞬間、彼にとっては
何もないのと同じだった。

―サイレント・ナイト

 その瞬間だけは、御堂にとって…世界は、愛しい恋人の事だけで
占められていく。
 うっとおしい人間関係も、雑事も…この余りに非日常な空間に
身を置く事で吹っ飛んでいってしまう。
 ゴンドラの外には、眩いばかりの…まるで宝石箱をひっくり返した
かのような遊園地の美しいネオン達が瞬いている。
 御堂自身はむしろ現実主義者で…決して夢見がちな方ではない。
 けれど…この光景と、お膳立てをするのは並大抵の事ではないという
事だけは良く判っていた。

(まったく君は…私以上に多忙で、寝る間を惜しんで全力で仕事に
当たっている癖に…その合間に、こんな手配をしているんだから…
本当に恐れ入るな…)

 こんなの、余程こちらを想ってくれていなければ…まあ、ゴンドラの中で
セックスするという事さえ除けばの話だが、実行に移す筈のない事だった。
 御堂は無言のまま、ただ…強く克哉の身体を抱きしめていく。
 克哉もまた、それに応えるように愛しい人間を抱く腕に力を込めていった。
 そうしている内に…その段階になってようやく気づいたが、克哉が座っていた
座席の方には毛布が敷かれていたので…そっと御堂は、彼の隣に
座るように促されていった。
 そのまま、凭れるような格好で二人で寄り添い…日常から切り離された
時間がゆっくりと訪れていった。
 …どれぐらいの時間、そうやって…二人で言葉もなく余韻に浸り続けて
いたのだろうか。
 だが、そんな時間ですら…今夜は、特別なものにすら感じられた。

 沢山の華美に装飾された愛の言葉を囁かれるよりも…こうやって彼の
気持ちが感じられる行動と、態度を取ってもらう方が…あまり恋愛に関しては
器用な方でない御堂にとっては好ましく感じられる。
 それでも、行為が終わってゆっくりとゴンドラが一巡を繰り返していって…
再び一番高い頂上の部位に上り詰めた瞬間、克哉は沈黙を破って
真摯な眼差しを向けながら…御堂に、こう告げていった。

「メリークリスマス…孝典。今夜をあんたと共に過ごせて…本当に良かった…」

 長らくの沈黙の後に、それだけ男は告げていく。
 愛しているとか、好きだとか…そういう甘い言葉はこの男は滅多に言わない。
 けれどその口調と…表情に、確かに想いが込められているのが感じられた。
 だから御堂は口元を綻ばせながら、その一言を受け止めていく。
 
(本当に君という男の愛情表現は…遠まわしで、判り難いな…)

 と心の中で突っ込んでいきながらも、敢えてそれを口には上らせず
代わりに相手の頬に片手を添える形で応えていった。

「…あぁ、私も同じ想いだ。メリークリスマス…克哉。けれど…こんな心臓に
悪いクリスマスの夜のサプライズは、今夜だけにして貰えないと、私の身が
これから先は持たなくなるかもな…」


 こんな心臓に悪いぐらいドキドキハラハラするような一夜を、これからも
用意されたら本気で心臓麻痺ぐらいしてしまうかも知れない。
 そんな危惧すら込めながら、ちょっと素直ではない言葉を返していく。
 だが、お互いに相手の身体に何気なく手を這わせている内にだんだんと
二人の間に流れる空気は甘いものになっていく。

「…まったく、判った…一応は考慮しておこう。あまりに刺激的なものを用意して
あんたに万が一の事があったら俺も困るからな。あんたは…俺の恋人であり、
大切な共同経営者でもある。この二つを兼ね備えれられる存在は俺にとっては
この世界であんた一人だけだからな…」

「っ…!」


 その瞬間、あまりに真っ向から見つめられた状態で褒め言葉を向けられて
しまった為に、ボっと御堂の顔が真っ赤に染まっていく。
 この男から意地の悪い言い回しや皮肉や、もったいぶった口調はすでに
免疫がついて慣れてしまっていたが…こんな風に顔を見つめられながら
こちらを肯定してくれるような、そんな嬉しい言葉を吐いてくれること自体が
滅多にない為に…見る見る内に御堂は耳まで赤くなってしまった。
 それを見て…克哉は不敵に、満足そうに笑っていく。

(本当に…あんたのそういう顔は、可愛すぎてしょうがないな…)

 その瞬間、克哉は愉快な気持ちになりながら…そっと御堂の耳元に
唇を寄せて囁きを落としていった。

―愛しているぞ、孝典

 そして、自分が滅多に口にしない極上に甘い一言を告げていってやる。
 瞬間、御堂が肩を大きく揺らして動揺していくのが判った。
 克哉はその隙を逃さず、強引に御堂の唇を奪い…そして、深く口付けていった。
 …そうして、二人の間に恋人同士特有の、沈黙の夜が訪れる。

 それ以上は、言葉などいらなかった。
 もう一度、飽くことなく互いを求め…想いを交し合っていく。
 今夜は、どれだけ遅くなっても朝が来るまでは問題がなかった。
 そして事後処理はすでにMr.Rに依頼してあるので…どれだけこの内部で
睦み合おうとも、外部の人間に自分たちの関係が決して漏れる事もない。
 それだけの下準備を終えた上で、克哉は…今夜、御堂を誘ったのだ。
 この一夜を、忘れ得ない特別な日とする為に。
 金銭も労力も、全てを惜しまない形で。

―この夜の思い出を、あんたの中にくっきりと刻み込めるぐらいなら
多少の金ぐらい惜しむつもりなど克哉にはまったくなかったから…

 それはクリスマスの夜の、あまりに幻想的で…現実から切り離された
一夜の物語。
 日付が変わり、この聖夜が終わるまでの間だけでも…ただ正直な思いだけを
相手にぶつけて、確かめ合おう。
 
―貴方を心から愛してる、と真摯に相手に伝える為に…

   恥ずかしくてつい、相手から目をそらしていたがチラリと横を見ると
克哉が柔らかく微笑む様子が目に入ってゆっくりと相手の方へと
顔を戻していく。
 
ふん」

 そんな一言を発していきながら、今度は御堂の方からそっと克哉の
頬へと手を伸ばしていく。
 自分よりも七歳も年下の恋人の肌は、男性の割には凄く滑らかな
感触をしていて心地好かった。
 そして意趣返しとばかりにこちらの方から噛み付くようなキスを
落としていった。
 クニュと相手の弾力ある唇を歯で軽く噛むと、なかなか面白い
感触がしてつい夢中になっていく。
 恋人同士らしい戯れの時間。
 そうしている間に克哉の指先が御堂の髪や項に触れて、愛しげに
撫ぜ擦っていく。

こら、克哉あんまり触れると少しくすぐったい」

くすぐったいだけか? これだけ愛情を込めてあんたに触れて
いるというのに

「あ、こら耳元で何か、んんっ囁くな

 克哉は片手で相手の背中をやんわりと撫ぜ上げていくと
そのまま御堂の耳元に口元を寄せて、腰に響くような低い声音で
囁きを落としていった。
 熱っぽい吐息が同時に送り込まれて、それだけで肌が粟立つような
感覚が襲い掛かってくる。
 そして気づけば克哉はゴンドラの座席に腰を掛けて、御堂が
正面で向かい合う形で彼の身体の上に乗り上げる体制になっていた。

さっきまで激しいキスをされてつい失念していたがこのまま彼と
ここでこうやって触れ合っていたら危ない気がする

 この男とこんな近くで密着し合っていたら絶対に穏やかでは
ない展開になりそうな気がして、本能的に後ずさろうとした。
 だが身を引こうとする御堂の肩をしっかりと掴んで、克哉は
決してそれを許そうとしなかった。

克哉、あんまり触れるな。ここでそんなに君に触られまくったら
私とて冷静ではいられなくなってしまうから

「・・・あんたは俺と一緒に二人きりでいて、冷静でなんかいられると
思っているのか? しかもこんな特別に夜に?」

「だ、だがここはゴンドラの中だぞ! こんな所でするなど、
君は正気か!?」

問題はない。今夜、この園内にいる人間は皆俺の息が掛かっている
人間ばかりだからな。ゴンドラ内でどれだけイカれたセックスを俺たちが
ヤろうとも外部にそれが漏れるような事はないさ。
 その点はちゃんと考慮してある

「だ、だがそれ、でも

 相手があまりに自信たっぷりに言い切るので、常識とかモラルとかが
瓦解してつい、欲望のままに相手を求めたい衝動に御堂は駆られていった。
 いくら廃園になっているとは言え、観覧車の中でセックスをするなど
彼の今までの常識では考えられない。
 そんな事を要求されてすぐに素直に頷ける訳がない。

君という男は! どうして、こんな時でも私をおかしくさせるような
そんな触り方ばかり、するんだ!)

 興奮と憤りで、耳たぶまで真っ赤に染めている御堂の全身に厭らしく
克哉の掌が這いずり回っている。
 彼の手が、こちらの衣類をゆっくりと剥ぎ取りに掛かっていく。
 火照った身体が徐々に外気に晒されていく。
 一瞬肌寒くてブルっと震えたが、胸の突起を執拗に弄られている内に
空気の冷たさなど気にならなくなっていく。
 
「やっめろ、克哉! 本当に、これ以上は!」

俺を求めて、腕の中でよがり狂えよ孝典

 そうしてついに眼鏡の手が御堂の下肢の衣類へと伸びていく。
 流石に観覧車の中で膝の上に乗せられた体制で、そこまでやられると
ぎょっとなってしまう。
 だが男の手はまったく躊躇いを見せずにそれを引きずり落として
あっという間にこちらを全裸に近い格好へと変えていった。
 自分ばかりが脱がされて、肌を晒される現状に身体全体が
紅潮していく。
 自分の下半身に、熱く猛った性器が息づいている。
 先端からは先走りが淫らなくらいに濡れそぼって陰毛が
茂っている箇所を汚していく。

「はっやっ其処を、弄るな克哉ぁ

 克哉の手がこちらの硬く張り詰めたペニスへと伸びていく。
 丸みを帯びた鈴口を執拗に弄られるだけで、あまりに強烈な感覚が
走って呼吸が上がっていく。
 たったそれだけの刺激で奥まった箇所が淫らに蠢いて浅ましく
息づいているのが自分でも判る。

こんなに濡らしている癖に、口でいつまでイヤと言い続けている
つもりなんだ。今更、あんたもコレを止める事など出来ないだろう?」
 
「そ、んな事、はぁはっんんっ!」

 尿道の付近を爪で抉られ、痛み混じりの快感が電撃のように
走り抜けていく。
 その瞬間、ドバっと蜜が一層大量に溢れてペニスを弄る克哉の
手を一気に濡らしていく。

ほら、口で拒んでいてもあんたの身体はこんなに正直に
気持ちいいって訴えているぞ

 そうして、暫く其処を執拗に扱きあげた後、イク寸前間際に唐突に
愛撫を止められてその先走りでグショグショになった指先を
ついに後蕾へと延ばされていく。
 散々焦らされて、煽られた身体は瞬く間にその指先を飲み込んで
深々と受け入れていく。
 相変わらず克哉の手は、的確だった。
 こちらの快感ポイントを正確に突いて、追い上げてくる。
 首筋から鎖骨に掛けて大量の赤い痕を刻み込まれていきながら
前立腺をねちっこいぐらいに責められ続けている間御堂は本気で
気が狂うかと思った。

「はぁ、あぁ! もう、ダメだ早く、君を!」

 ついに耐え切れずに御堂が、彼の身体の上で艶やかに腰をくねらせながら
懇願の声を漏らしていった。
 もう、ここがどこなのかすらもどうでも良くなっていった。
 求めて、相手が欲しくて仕方なくてもうその欲望以外、思考回路の中に
存在しなくなっている。
 御堂が切羽詰った様子で顔を歪めてくる。
 克哉はその表情を見て実に満足そうに微笑んでいく。

「あぁ、俺ももう、あんたを感じ取りたくて仕方なくなっている
抱くぞ、孝典

「あっはぁ

 悩ましい声を思わず御堂が漏らした次の瞬間、自分の狭間に克哉の
熱い滾りが押し当てられているのが判った。
 その瞬間、ゆっくりと熱い塊が御堂の内部へと押し入って行ったのだったー

  ―恥ずかしくてつい、相手から目をそらしていたが…チラリと横を見ると
克哉が柔らかく微笑む様子が目に入って…ゆっくりと相手の方へと
顔を戻していく。
 
「…ふん」

 そんな一言を発していきながら、今度は御堂の方からそっと克哉の
頬へと手を伸ばしていく。
 自分よりも七歳も年下の恋人の肌は、男性の割には凄く滑らかな
感触をしていて心地好かった。
 そして…意趣返しとばかりにこちらの方から噛み付くようなキスを
落としていった。
 クニュ…と相手の弾力ある唇を歯で軽く噛むと、なかなか面白い
感触がしてつい夢中になっていく。
 恋人同士らしい戯れの時間。
 そうしている間に…克哉の指先が御堂の髪や項に触れて、愛しげに
撫ぜ擦っていく。

「…こら、克哉…あんまり触れると少し…くすぐったい」

「…くすぐったいだけか? これだけ愛情を込めてあんたに触れて
いるというのに…」

「あ、こら…耳元で何か、んんっ…囁くな…」

 克哉は片手で相手の背中をやんわりと撫ぜ上げていくと…
そのまま御堂の耳元に口元を寄せて、腰に響くような低い声音で
囁きを落としていった。
 熱っぽい吐息が同時に送り込まれて、それだけで肌が粟立つような
感覚が襲い掛かってくる。
 そして気づけば…克哉はゴンドラの座席に腰を掛けて、御堂が
正面で向かい合う形で彼の身体の上に乗り上げる体制になっていた。

(…さっきまで激しいキスをされてつい失念していたが…このまま彼と
ここでこうやって触れ合っていたら…危ない気がする…)

 …この男とこんな近くで密着し合っていたら…絶対に穏やかでは
ない展開になりそうな気がして、本能的に後ずさろうとした。
 だが…身を引こうとする御堂の肩をしっかりと掴んで、克哉は
決してそれを許そうとしなかった。

「…克哉、あんまり触れるな…。ここでそんなに君に触られまくったら…
私とて冷静ではいられなくなってしまうから…」

「・・・あんたは俺と一緒に二人きりでいて、冷静でなんかいられると
思っているのか? しかもこんな特別に夜に…?」

「だ、だが…ここはゴンドラの中だぞ! こんな所でするなど、
君は…正気か!?」

「…問題はない。今夜、この園内にいる人間は皆…俺の息が掛かっている
人間ばかりだからな。…ゴンドラ内でどれだけイカれたセックスを俺たちが
ヤろうとも…外部にそれが漏れるような事はないさ。
 その点はちゃんと考慮してある…」

「だ、だが…それ、でも…」

 相手があまりに自信たっぷりに言い切るので、常識とかモラルとかが
瓦解して…つい、欲望のままに相手を求めたい衝動に御堂は駆られていった。
 いくら廃園になっているとは言え、観覧車の中でセックスをするなど
彼の今までの常識では考えられない。
 そんな事を要求されてすぐに素直に頷ける訳がない。

(…君という男は…! どうして、こんな時でも私をおかしくさせるような…
そんな触り方ばかり、するんだ…!)

 興奮と憤りで、耳たぶまで真っ赤に染めている御堂の全身に…厭らしく
克哉の掌が這いずり回っている。
 彼の手が、こちらの衣類をゆっくりと剥ぎ取りに掛かっていく。
 火照った身体が徐々に外気に晒されていく。
 一瞬…肌寒くてブルっと震えたが、胸の突起を執拗に弄られている内に
空気の冷たさなど気にならなくなっていく。
 
「やっ…めろ、克哉…! 本当に、これ以上は…!」

「…俺を求めて、腕の中でよがり狂えよ…孝典…」

 そうしてついに眼鏡の手が…御堂の下肢の衣類へと伸びていく。
 流石に観覧車の中で…膝の上に乗せられた体制で、そこまでやられると
ぎょっとなってしまう。
 だが男の手はまったく躊躇いを見せずにそれを引きずり落として
あっという間にこちらを全裸に近い格好へと変えていった。
 自分ばかりが脱がされて、肌を晒される現状に身体全体が
紅潮していく。
 自分の下半身に、熱く猛った性器が息づいている。
 先端からは先走りが淫らなくらいに濡れそぼって…陰毛が
茂っている箇所を汚していく。

「はっ…やっ…其処を、弄るな…克哉ぁ…」

 克哉の手がこちらの硬く張り詰めたペニスへと伸びていく。
 丸みを帯びた鈴口を執拗に弄られるだけで、あまりに強烈な感覚が
走って呼吸が上がっていく。
 たったそれだけの刺激で奥まった箇所が淫らに蠢いて浅ましく
息づいているのが自分でも判る。

「…こんなに濡らしている癖に、口でいつまでイヤと言い続けている
つもりなんだ…。今更、あんたもコレを止める事など出来ないだろう…?」
 
「そ、んな…事、はぁ…はっ…んんっ!」

 尿道の付近を爪で抉られ、痛み混じりの快感が電撃のように
走り抜けていく。
 その瞬間、ドバっと蜜が一層大量に溢れて…ペニスを弄る克哉の
手を一気に濡らしていく。

「…ほら、口で拒んでいてもあんたの身体はこんなに正直に
気持ちいいって訴えているぞ…」

 そうして、暫く其処を執拗に扱きあげた後、イク寸前間際に唐突に
愛撫を止められて…その先走りでグショグショになった指先を
ついに後蕾へと延ばされていく。
 散々焦らされて、煽られた身体は瞬く間にその指先を飲み込んで
深々と受け入れていく。
 相変わらず克哉の手は、的確だった。
 こちらの快感ポイントを正確に突いて、追い上げてくる。
 首筋から鎖骨に掛けて大量の赤い痕を刻み込まれていきながら…
前立腺をねちっこいぐらいに責められ続けている間…御堂は本気で
気が狂うかと思った。

「はぁ、あぁ…! もう、ダメだ…早く、君を…!」

 ついに耐え切れずに御堂が、彼の身体の上で艶やかに腰をくねらせながら
懇願の声を漏らしていった。
 もう、ここがどこなのかすらもどうでも良くなっていった。
 求めて、相手が欲しくて仕方なくて…もうその欲望以外、思考回路の中に
存在しなくなっている。
 御堂が切羽詰った様子で顔を歪めてくる。
 克哉はその表情を見て…実に満足そうに微笑んでいく。

「あぁ、俺も…もう、あんたを感じ取りたくて仕方なくなっている…。
抱くぞ、孝典…」

「あっ…はぁ…」

 悩ましい声を思わず御堂が漏らした次の瞬間、自分の狭間に克哉の
熱い滾りが押し当てられているのが判った。
 その瞬間、ゆっくりと熱い塊が御堂の内部へと押し入って行ったのだったー
 

 克哉が指定して来た場所は、二ヶ月くらい前に閉園したばかりの
都内の外れにあるアミューズメントパークの跡地だった。
 景気が良かった頃は大変な賑わいを見せていたここも、近年では
すっかり客足が遠のいてしまって…ついに閉鎖にまで追い込まれてしまった。
 開園当初の頃は派手なパフォーマンスが人気でそれで賑わいを見せていた
からこそ…予算が厳しくなり、以前よりも地味な演出になってしまった事が
敗因となってしまったのだろう。
 名前だけは聞いた事があったその場所に車を乗り付けていって…
ますます御堂の怪訝な想いは深まっていった。

(佐伯はどうして…この日に私にここに来るように指定して来たんだ?
 ここはもう二ヶ月も前に閉鎖していて…何も稼動していない筈なのに…)

 彼の片腕として働くようになってからすでに一年近くが過ぎようとしている。
 ビジネスのパートナーとしてなら、彼の行動や思考パターンは読めるが
プライベートの事となると相変わらずさっぱりであった。
 仕事から離れて、私人となればいつだって御堂は彼に振り回されて翻弄
させられてばかりだ。
 閉園されていると言っても、駐車場や国道に繋がっている道路には街灯が
灯っているので真っ暗という訳ではない。
 ガランとしている駐車場スペースに愛車のセダンを乗り付けていくと…
御堂はとりあえず、克哉の姿を探すべく車から降り立っていった。
 
「…この園に来るのは初めてだな。確か4年くらい前にオープンして
最初の頃は良く雑誌やテレビとかで宣伝をされていた筈だが…」

 最初は都内の若い世代向けの新スポットとして紹介されていた場所も…
閉鎖された今では閑散とした雰囲気だけが残されていた。
 確か夏には盛大な花火のパフォーマンス、冬には鮮やかなイルミネーションを
売りにしていた筈だ。
 しかし、今ではそんなのは本来ならどうでも良い筈だった。

「…? 何か向こうの方が妙に明るくないか…?」

 手がかりを得ようとゆっくりと入り口の方まで歩いて向かっている最中に
御堂は違和感を覚えていく。
 …ここはすでに閉まっている筈だ。それなのに奥に進めば進むだけ
明るくなっていくのは奇怪な現象だった。
 だが、幾ら御堂が疑問に思ったとしても現実に…近づけば近づくだけ
光は強くなっていき、眩しく感じられる程であった。
 そして…目の前には予想もしていなかった光景が広げられていた。

「…これは…!」

 それは、目にも鮮やかな光の洪水だった。
 誰もいない筈の遊園地内の全ての乗り物のネオンが灯されて冷たい冬の
夜の下で輝いている。
 メリーゴーランド、海賊船…ジェットコースター、空中ブランコ…遊園地に
おなじみの乗り物達が光り輝き、奥の方にはアクリルで作られた透明な床が
淡く青や緑に輝いて…その下に流れている水が波紋状の揺らめきを生み出し
実に幻想的な雰囲気を生み出していた。

「…これは一体、何なんだ…? ここは確かに二ヶ月前に閉鎖された
アミューズメントパークの筈なのに、どうして…?」

 御堂が疑問に思いながら呟いていくと、その瞬間…今まで沈黙を守っていた
観覧車が光り輝いていった。
 それはまるで…水晶で作られた風車が回っているような、美しくも儚い
光景だった。
 水晶の柱をイメージさせたデザインの観覧車の梁の部分は…一定時間ごとに
様々な色へと移り変わって、まるで夢を見ているかのような光景だった。
 思わず御堂が目を奪われていると…その時、携帯から克哉専用に設定してある
着信音が響き渡っていった。

「…佐伯からだ!」

 暫く呆気に取られて身動き出来ないでいたが…御堂はその音楽に正気を
取り戻して、慌ててコートのポケットに収めていた携帯電話を取り出して、通話
ボタンを押していく。

『…やっと来たな、御堂さん…随分と長く待ち侘びていたぞ…』

「佐伯、これは一体どういう事だ…? ここは確かとっくの昔に閉鎖された場所の
筈だろう…! それなのにどうして…」

『あぁ、そんな事か。単純なことだ…。…俺がここのオーナーに交渉して
今夜一日だけ特別に全ての照明を灯して貰ったんだ。乗り物を全て
動かすのは無理だが、明かりを灯すだけならちょっと操作すれば外部からでも
出来るらしいからな。それで…電気代は全てこちらが持つという条件で
こちらの我侭を聞いてもらい、あんたをここに招いた。それだけの話だ…』

「…何っ? 本当かそれは…」

『…そんな事を嘘言って何になる。…だが、ここはかつて美しいネオンと
イルミネーションを冬場は売りにしていた所だからな。
 あんたを驚かせて…楽しませるにはここ以上に最適の場所はないと
判断した。だから誘わせて貰った…気に入ったか?』

 そう言いながら電話口で相手が愉快そうに笑っていたのでカチンと来た。
 …何となく良いように克哉に自分は踊らされてしまっているみたいで
非常に不愉快だった。
 確かに予想外の展開過ぎて、驚いてしまったのは確かだ。
 こんなサプライズをクリスマスに用意されているだなんて…思っても
みなかっただけに、そして口では軽く言っているが…廃園になっている
遊園地を一日だけ稼動させるというのが容易な事でない事ぐらい
御堂にだって判る。
 物凄い労力を払って、自分の為だけにこの男は黙って準備をして
くれていた。その想いは判るのだが、やはり癪に障ってしまった。

(…まあ、彼と付き合っていたらそんな事はしょっちゅうなんだがな…)

「あぁ、大変気に入った。あまりに予想外の事だったからな…。
まさかクリスマスにこんなサプライズを用意して貰っていたとは
考えた事もなかったからな…。それで今、君はこの園の中のどこに
いるんだ…?」

『あぁ、俺は観覧車の中にいる。…ここから、あんたの姿が見える。
その観覧車のゴンドラの『Blue』にいる…色で分けられているから
近くまで来れば一目瞭然の筈だ』

「判った…今から観覧車の方へと向かおう」

 そういって御堂は一旦、通話を断ち切っていくと…そのまま
観覧車の方へと駆け足で向かっていった。
 成る程、克哉が言っている通り…目的のゴンドラはすぐに判った。
 16個のゴンドラには、それぞれ色の名前がつけられているらしく…一つだけ
目にも鮮やかな青いゴンドラがあった。
 あれが彼が言っていた『Blue』に間違いないだろう…そう目星を
つけながら、御堂は乗り降りする地点へと降り立っていった。
 其処には係員が一人立っていて、彼の姿を確認すると…青いゴンドラの
方へと歩み寄り、扉を開けていく。
 だが、その係員は奇妙だった。黒尽くめの衣装に目にも鮮やかな金色の
髪をおさげにして纏めているという…異様な格好をしていた。
 顔立ちは端正で整っている方だが、纏っている空気にどこか不穏なものを
感じて…その男を見ているだけで妙に落ち着かない気分になっていく。
 そして男はこちらの方を向き直り、実に胡散臭そうな笑みを浮かべながら
こちらに声を掛けて来た。

『…御堂孝典様ですね。お連れ様の佐伯克哉様が先にこのゴンドラにて
お待ちです。さあ…あの方との聖夜の、空中での一時を今宵はどうぞ
存分に愉しんで下さいませ…』

「あ、あぁ…」

 とりあえず生返事ながら答えていったが、御堂の心は疑問でいっぱいに
満たされていった。

(何だこの男は…? 遊園地の係員にしては…口調も態度も随分と
おかしなものを感じるが…)

 だが、男ははっきりと克哉の名前を口にしていた。
 このゴンドラに彼が乗っているのは間違いないだろう。
 その割には何故、彼の姿が窓から見えないのか少し疑問を感じていったが
うかうかしていたら乗り過ごして、もう一周回ってくるのを待たなければいけなくなる。
 押し問答をしている余裕は今のところなかった。
 だから御堂は疑問を一旦頭の隅に追いやり…ゴンドラの近くまで歩み寄っていくと…。

「来たか、御堂…」

「っ…佐伯!」

 いきなり乗り付ける寸前に、克哉が目の前に現れてこちらの腕をグイと
掴んで行って、こちらを強引に引き込んでいく。
 そして中に倒れこむように二人で収まっていくと…次の瞬間に、ガチャンと
音を立てて外から閉錠されていった。

「ふっ…うぅ…!」

 いきなり不意打ちのように引き込まれて、激しいキスを交わされていく。
 グチャグチャ…と熱っぽく、頭がクラクラとするような濃厚な口づけを落とされて
御堂は意識の全てを浚われていってしまった。
 無意識の内に相手のコートの裾を握りこんでしまい、その強烈に甘い感覚に
耐えていくが…暫く解放される事なく、ザラついた舌先に口腔を犯され続けた。

―クチャ、ピチャ…ヌチュ…グチャリ…

 脳裏に厭らしい水音が響き渡り、背筋にゾクゾクした感覚が走り抜けていく。
 早くも身体のあちこちが、快楽の余りに反応し始めているのを御堂は
感じ取っていった。
 こんな歓迎の仕方、あまりに性質が悪すぎる。
 その事で文句の一つも言いたいのに、腰が砕けてしまっている上に口も
しっかりと塞がれているので抵抗することすら出来ないのが恨めしかった。

 ―チュパ…

 そうして、最後に大きな音を立てながら口接音が響き渡り、ようやく口付けが
解かれていった。
 そして目の前の男はまったく悪びれる事なく、平然と言ってのけた。

「孝典…メリークリスマス。良く来てくれたな…」

 そんな事を言われながら、優しく頬を撫ぜられて微笑まれたらこれ以上…
相手に向かって文句や悪態を言う事すら出来なくなってしまう。

「…あぁ、メリークリスマス。克哉…」

 と、頬を赤く染めてソッポを向きながら…御堂は呟いていく。

―その瞬間、本当に楽しそうに克哉は口元に笑みを刻んでいったのだった―

 

 

 ※とりあえず前半部分だけです(><)
 最初書いていたのはダラダラと長くなってすっぱり切って、自然な流れに
なるように修正しました。
 眼鏡×御堂ものなので苦手な方は気をつけて下さいませ(ペコリ)

―佐伯克哉と結ばれて晴れて恋人同士となり、一緒に新会社を起こして
公私共に掛け替えのないパートナーとなってから最初のクリスマスが訪れ
ようとしていた。
 だが、その日…御堂孝則は極めて不機嫌そうな表情を浮かべながら
アクワイヤ・アソシエーションの玄関を一人、出て行っていた。

―本日はクリスマスイブ。恋人がいる身なら、本来なら
ウキウキしながら過ごしている記念日の一つである

 紆余曲折を得て、克哉と恋人同士になった。
 普段は新しい会社を更に発展させようと二人で必死になって働いている
おかげで月に何度か、恋人としての時間が持てれば良い方だった。
 …対等でありたいという願いを抱いて、彼の傍にいるのだ。
 その点で不満を覚えた事はない。
 だが、恋人同士ならクリスマスぐらい…一緒に過ごすべきでは
ないのだろうか?
 12月24日、イブの日…いつもは言われなくても夜八時くらいまでは
必ず残って仕事をこなしている男が…18時を回る頃にはさっさと退社
してしまっていた。

(あの男は…本当に、何を考えているのかまったくわからない…! 
好き勝手に抱きまくる癖に、滅多に好きとか愛してるとか言わないし…
こちらを振り回すだけ振り回して、説明がなかったり…そんな事
ばかりじゃないか…!)

 相手が一足先に退社したぐらいで、こんなに憤っている自分の器は
もしかしたら狭いのかも知れない。
 だが、どこかで克哉が誘ってくれるだろうという期待を持っていただけに
御堂の落胆はかなり深かった。
 一言でも、何か用事があってとかそういう説明があったのならば…
こんな気持ちにならなかった。
 だが、今夜…クリスマスの日でさえも、あの男は何も言ってくれなくて。
 恋人同士になってから最初の聖夜であるだけに、御堂は少しイライラ
ムカムカしていた。

「ったく…あの男は! せっかく私が今夜は奮発して、とっておきの
ワインを購入して備えていたというのに…!」

 自分の車に乗ろうと駐車場へ向かう途中、つい大声で叫んで
しまっていた。その瞬間に鳴り響く着信音。
 それを聞いて、思わずぎょっとなっていった。
 …御堂は着信音を聞いた時点で、すぐ誰から掛かって来たのかを
判りやすくする為にグループごとに音楽を変えていた。
 そして今…流れているメロディは、克哉専用に設定してあるものだった。

「…佐伯から、電話が…?」

 ぎょっとなって、御堂は慌てて携帯のディスプレイを眺めていく。
 そこには間違いなく…『佐伯克哉』からの電話番号と名前が
表示されていた。
 
「あいつからか…?」

 と思うと、慌てて電話を取ってしまっている自分がいた。

「もしもし! 克哉か?今、どこにいるんだ?」

 自分の車の前で思わず電話に向かって問いかけていく。
 そこからは克哉の低く掠れた声音が確かに聞こえて来ていた。

『こんばんは御堂…しかし、今夜のあんたは随分と不躾なものだな。
いきなり…挨拶よりも先にどこにいるかを聞くなんて、無粋なんじゃ
ないのか…?』

「悪かったな…だが、今夜は私に何も言わないで黙って君が
帰ったりとかするのが悪いんだろうが…。今夜が何の日か、
一応…君は判っているだろう」

 自分がまさか、こんなに女々しい事を口にする日が来るだなんて
予想もしていなかった。
 かつてMGNで出世街道の軌道に乗っていた頃の御堂には
付き合っている相手がいるからと言って記念日の類もクリスマスも年内行事も
あまり関係ないに等しかった。
 仕事が忙しくて脂が乗っている男なんてものは大抵そんなものなのだが
特に相手の誕生日とクリスマスの日は比重率が高くて、会う時間を
捻出しないと、拗ねられたり喚かれたりして面倒くさいことも多くて
辟易していたぐらいなのだ。
 咎めるような口調になってしまっている自分に、御堂は歯噛みを
したくなった。

『あぁ今夜はクリスマスイブだな…恋人たちにとっては疎かに
出来ない行事の日だが…それが何か?』

「…そうか、ちゃんと君は判っていたのか…」

 相手の言葉を聞いて、心が少しヒリリと痛んだ気がした。
 
『あぁ、判っている。だからあんたと掛け替えのない一時を過ごそうと
一足先に出向いて待っているんだが…』

「…何だと?」

 相手の予想外の言葉に、御堂は軽く瞠目していった。
 だが…同時に凄く嬉しくもあった。
 彼が本日、早くに帰った理由…それは聖夜である事も
自分の事をすっかり頭から抜け落ちていたからではなく…
それに相応しい場所を確保する為だったのなら、溜飲が下がる
思いがしていった。

『あんたが来てくれるのを待っている…今から場所を伝えるから
其処まで来てくれ。…目印は…』

 そうして男は、御堂が予想もしていなかった場所を口頭で
指定していった。
 ホテルや、レストランとか…夜景が綺麗なスポットというのなら
理解出来るが、聖夜に其処を選んで来るとは思ってもみなかった。
 聞き終わった後、御堂はポツリと呟いていった。

「…君のいる場所は理解した。だが…今夜、其処を選んだ理由は
一体何なのかだけ聞いても良いか…?」

『…孝典、夜は短いんだ。あまり益のない会話でダラダラと
過ごしていたらあっという間に今夜は終わってしまうぞ…?』

「…判った。とりあえず君の指示に従って現地の方へと向かおう。
だが、後で必ず君の考えなりを私に伝えて貰うからな…」

 少しだけ硬い声音でそう相手に伝えていくと、相手が電話の向こうで
喉の奥で笑っているような気がした。
 それがまた少々腹立たしかった。

『あぁ…あんたがここに到着してくれるのを首を長くして待っているぜ。
それではまた後でな…孝典』

 そう呼び捨てにしながら自分の名を呟くと同時に…相手からの通話は
プツっと切れていった。

(お前は…言いたい事だけ言って、あっという間に切るのか…本気で
身勝手な男なものだな…!)

 思いっきり受話器を強く握り締めながら、御堂は少し引きつったような
表情を浮かべて心の中で訴えていった。
 一体自分はどれだけあの男の気まぐれや突発的な行動に
振り回されなくてはいけないのだろうか。
 そんな事を考えつつも、御堂は一旦思考を切り替えて自分の車へと
乗り込み…指定された場所へと向かっていった。

「…どうして、今夜にそんな所を…」

 相手の意図が判らず、疑問げに呟いていきながら…御堂はまっすぐに
克哉から指示された内容を忠実に守っていく。

「…まあ良い。とりあえず向かおうとしよう。直接会ってあいつの考えなり
行動なりを理解しなければならないだろうしな…」

 そういって車を発進させて、御堂は一人…目的地へと向かっていく。
 そこで果たしてどんな事が起こるのか、まったく予想もせずに…。

  そして御堂はある意味、一生忘れられない出来事を体験する事と
なっていったのだった―

 

 
 
※これは某所で以前に書くと宣言していた眼鏡×御堂ものです。
 エロと砂吐きそうなぐらいに甘いものしか存在しません。
 それを覚悟の上でお読みください。
 大変に遅れてしまって本気ですみません…(汗)

 興味ある方だけ、「つづきはこちら」をクリックして
お読みになって下さいませv

※これも某所で御題を引いて書き上げた作品です。
「王子さまのキス」というテーマです。
11月1日分の「鬼哭の夜」と対になっているので
良かったら合わせてお読みになって下さいませ(ペコリ)

―今日もまた、男は一つの強い祈りを込めて愛しい人間に
口付けていく。
 それはまるで…童話の中の眠り姫の呪いを解いた口付けのように、
神聖で…心からの愛情が込められたものであった―

 今朝もまた、同じ朝が訪れていく。
 傍らに寝ていた御堂の頬を愛しげに撫ぜながら…暫く佐伯克哉は、
その身体を軽く抱きすくめていった。

(今朝も…駄目、だったか…?)

 その事実に溜息を吐いていきながら…男は窓の外に広がる、
明け方の空をそっと眺めていった。
 …どれぐらい長い期間、人形のように物を言わなくなった御堂の傍に
自分はいたのだろう。
 …何度、己の犯した過ちを悔いて涙を流した夜があったのだろうか…?

(…もう、そんな事も遠く感じられるぐらいに永く…俺はあんたの傍にいるよな…)

 しみじみとそんな事を考えながら、米神にキスを落としていった。
 かつて、御堂孝典という人間が欲しくて…その欲に囚われて鬼となった
男は、懺悔の涙を沢山流した事で…別人のように、穏やかな人間になっていた。
 
 最初の頃は…その後悔で、胸を掻き毟られそうな痛みを時折覚えて苦しかった。
 何度も何度も、それで人知れず涙を流し続けていた。
 静かに伝う泪はゆっくりと男の心を洗い流し…いつしか、廃人寸前になった
御堂の面倒を看る克哉の表情はどこか達観したものになっていった。

 どんな姿になっても…今は心を閉ざして、何の感情を表さなくなっても…
御堂孝典はまだ、生きている。
 その事に微かな希望を抱きながら…克哉は、御堂のマンションで寝食を
共にして…献身的に、その面倒を看続けていた。

 それで…春、夏、秋、冬…と全ての季節が一回は巡り…通り過ぎていった。
 
 年月が過ぎると共に…例えどんな姿でも、これは自分が心から愛した
人間なのだと…そう納得して、いつか戻ってきてくれる日を静かに待ち続けた。

―あんたは、必ず…戻って来てくれる筈だ

 それは眠り姫の目覚めを待ち続ける王子のような心境だった。
 現実は御伽噺のように上手くいくわけではない。
 そんな事は判りきっていた。
 だが、克哉は希望を捨てなかった。
 たった一度のキスで駄目なら…何回でも、何十回でも何百回でも…
己の想いを伝えていこうと思った。
 
「…本当に後、どれぐらい…この行為を繰り返せば、あんたは
目覚めてくれるんだろうな…」

 自分でも、こんな事に願いを託すのはバカらしくて…甘い考えだと
わかっている。
 だが、嘆き悲しみ…後悔している時、例の銀縁眼鏡をくれたあの男が
現れて…確かにこう言ったのだ。

―本当に愛する人間を追い詰め、人形のようにしてしまわれた事を
貴方は心から悔いていらっしゃるようですね…。
 それなら、愛情の篭った口付けを…この人の負った心の傷が
癒えるまで何度も落とし続けて下さい。
 それは気が遠くなるほどの時間を要するかも知れませんが…
その日まで貴方が決して諦めずに、この方に一途な愛情を
向けられるのでしたら…奇跡、というのも起こるやも知れませんね…

 そう、告げて…夜の闇にMr.Rが消えた翌日から…この儀式は
続けられている。

 ―もう一度、あんたの声が聞きたい。

 その願いを込めて…もう一度だけ、愛しげに御堂の頬を撫ぜた後…
唇に優しく、優しく口付けた。

 ピクリ…

 その瞬間、御堂の身体が…いつもと違って、反応したような気が…した。

「…御堂?」

 その僅かな反応に、目ざとく気づいていくと…あの日から初めて、
御堂が自らの意思で…身体を動かしていく姿が目に入った。

「…ここ、は…?」

 御堂が、途方に暮れた表情を浮かべながら…ゆっくりと
身体を起こしていく。
 それは…永き眠りに就いていた愛しい人がようやく目覚めてくれた瞬間だった。

(本当に…通じた、のか…?)

 その喜びに震えながら、二人はようやく…目が合っていく。
 双方の瞳には…お互いに、戸惑っているような…優しいようなそんな色が
浮かんでいた。

「…ずっと、君は…私の傍にいたのか…?」

 確認するように、御堂は問いかけてくる。
 その…声を聞けるだけでも、嬉しかった。
 心底、喜びに震えながら…掠れた声で、克哉は頷いて答えていく。

「あぁ…そうだ、ずっと…あんたの傍にいた…」

「…そう、か…」

 それ以上、何を答えて良いのかお互いに判らなかった。
 無言のまま…それでも、磁石が引き合うように…ごく自然に
身を寄せ合っていく。
 その目がぶつかりあうと同時に…顔もそっと近づいていって…静かに、
吐息が重なり合う。
 御堂の胸には、驚くぐらい怒りがなかった。
 …けれど、愛情を込められたキスをどれくらいこの男が自分に向けて
くれていたのかすでに知っているから。
 だから目覚めることにした。
 その愛を受け入れる事を…決めたのだ。

 もう、怒りも憎しみも…どうでも良くなるぐらいに…この男が、
自分を想い…愛してくれた事実を、知ってしまったから…。

 ―ただいま

 だから、御堂はそれだけ告げていった。

―おかえり…御堂…

 克哉もまた、それだけ返していく。
 それはまるで…王子様のキスを受けて、眠り姫が死の淵から
蘇ったかのような場面。
 愛という真実を得て…御堂は再び、目覚めていく。
 彼の心からの祈りを受けて…静かに、そして…輝くような笑みを浮かべて。

 ―祝福するように、窓の向こうには晴れ渡るような青空が広がっていた―

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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