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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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死と許しがテーマの眼鏡×片桐の話。
  どこまでもお人好しな片桐さんを掘り下げて書きたいと
いうのが動機のお話です。
 ちょっと重いテーマかもですが、優しい話に仕上げる予定です。

  優しい人  


  片桐家代々の墓と書かれた墓は綺麗に整えられていた。
  その墓を見たのが克哉にとっては初めてだった為に…少しだけ
殊勝な気持ちになった。
 片桐自身は本当は山口県の出身だったが、両親が両方とも亡くなった時に
出身地にあった代々の墓には入れず、すでに作ってあった息子の墓に
収めることにしたようだ。
 片桐なりに、両親と孫が一緒に過ごせるように配慮したつもりだったが
昨日ボソっと告げられた衝撃の事実に、克哉は複雑な想いを抱いた。
 
(…あの話が本当だとしたら、本当にあんたはお人好し過ぎるけどな…)

 片桐自身は、僕の推測に過ぎなくて違うかも知れない…と否定していたが
そうなると、息子が亡くなった時に彼の妻が間もなくして出ていったという話に
別の意味が含まれてくる。
 …もし事実だったら非常に腹立たしいが、同時に彼の妻がすでに離婚して
いなかったからこそ…自分達の今が存在している訳だから、克哉としては
素直に怒れない部分があった。
 瞳を眇めていきながら…その墓石を凝視していく。

(もし…あんたの息子が生きていて、妻も現在だったら…少し
ややこしいことになっていたんだろうな…)

 克哉はふと、出会ったばかりの頃の自分を振り返って苦笑
したくなった。
 きっとあの時期の自分は…片桐に妻子があろうとも、気に入ったなら…
抱きたいと思ったなら同じ事をしていただろう。
 己が欲しいと思った獲物に恋人がいようが、誰がいようが…配慮して
欲望を抑えるような真似をかつての自分はする訳がないだろうし…
その場合は、今のように一緒に暮らしたり…指輪を贈るような関係に至る
までには色々と煩雑なことがもっとあっただろう。
 一つ屋根の下でこの人と暮らしている今だからこそ…彼の妻が犯して
いたかも知れない罪に憤りつつ、それがあったからこそ…深い憂いもなく
今の自分達の関係が存在しているだと思うと…複雑だった。
 綺麗な花が添えられて、掃除が行き届いている墓石を眺めている間に
片桐は水と線香を用意していた。
 すぐ傍らにバケツと柄杓、そして水を汲む為の水道が設置されて
いる処だったから…準備はすぐに終わったようだ。

「…お久しぶりですね。珍しく花が添えてあるけど…もしかしたら、
あの人が来てくれたのかな…。お寺さんがお盆やお彼岸以外にお花を
置いて下さることはあまりないから…」

「…あの人とは、もしかして…?」

「えぇ、僕の奥さんだった人です…。彼女はあまり来ている形跡がないから…
珍しいんですけどね。今日は一応…あの子の月命日でもあるから、来ても
おかしくないんですけどね…」

「そうですか…」

 そういって語る片桐の様子は、どこか懐かしそうだった。
 怒りも憎しみも悲しみも、すでにその相手に対して存在していないのが
明白の…微笑だった。
 どうして、こんな顔が出来るのだろうかと…克哉は疑問に思った。

(あんたはどうして…怒らないんだ…?)

 線香に火を灯している片桐を見ながら…克哉はつくづくそう思った。

「克哉…君。はい、どうぞ…線香です。面倒を掛けてすみませんが…もし
良かったら君もお線香を添えてあげて下さい…」

「はい…」

 そうして、克哉は素直に線香の束を受け取って…線香を入れる処に
捧げていって手を合わせていった。
 そうしている間に、仏のような表情を浮かべていきながら…片桐は墓石に
線香の火を消さないように気をつけていきながら水をそっと掛けていった。

「…この人が今の僕の大切な人の克哉君です…。もしかしたら、同性である事に
えっ? と思うかもですけど…僕の大好きな人でもありますから…お父さん、お母さん
そして…君に出来れば理解して貰いたいです。…僕の今の幸せは彼が…
与えてくれましたから…」

 そうして照れた様子を見せながら、墓の中に眠っている両親と息子に
克哉を紹介していく。
 こんな時でも赤面して、少ししどろもどろになりながら…説明している
片桐の姿に愛おしさを覚えていく。
 だからこそ、胸の中に…彼の妻に対しての言いようのない不快感と怒りが
ジワリと湧き上がっていった。

(…あんたの妻は、こんなにお人好しなあんたを…騙したのか…)

 確証のない話。
 けれど、片桐と妻との間に…愛情があったのならば、息子が亡くなったと
しても間もなく出て行くような行動にはならないだろう。
 子供を亡くしたことでぎししゃくして…それで夫婦仲が破綻したという話は
結構聞くが、もし…事実だった場合は別の意味が含まれてくる。

―なあ、墓の中に眠っているあんたの息子は…本当にあんたと血が
繋がった息子なのか…?

 昨日、片桐が漏らした…寂しげなその裏側の事情を思い出して…
克哉は言いようのない想いを抱いていきながら…片桐と共に、彼の家族に
黙祷を捧げていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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