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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。

 残雪(改) 
                  10   
                    
11   12   13

―さて、これから物語は最終局面に入っていきます。
 ですがその前に、ちょっと私の雑談に付き合って頂きましょうか。
 これは私の独白のようなものです。
 どうして…こんな気まぐれを、太一さんの父に見せたのかその理由の
ようなものです。

 太一さんの父は、表では喫茶店のマスターをやっていましたが…
裏の世界ではそれなりに名の知られた殺し屋でもありました。
 ご自分の義父や、妻の敵になる存在を人知れず排除してきた
そういう経歴を持つ方です。
 だから…彼には自分の身内の敵や、害になる存在を殺して消すという
思考パターンが知らず染み付いてしまったんです。

 どうして人殺しがタブーなのか、ご存じですか?
 どうして殺人を犯した者がどの国でも厳しく裁かれるようになったのか
その理由は意外と知られていません。
 それは…一度障害を取り除く為の手段に「殺人」を用いてしまった人間は
壁にぶち当たる度に、その解決法に殺人を選んでしまう可能性が極めて
高くなるからです。
 おかしなものですよね。
 戦争という状況下では、むしろその殺人を犯してはならないという制御を
外した人間こそ英雄と言われる訳ですが…日常を、平和な暮らしを望む時には
同族や、周りの人間を殺してしまう可能性のある人間は忌避される。
 太一さんの父親は裏の世界に浸りきっている間に、知らず…自分の家族の
為なら殺人を辞さない存在になっていたんです。

―だから当初は佐伯克哉さんを手に掛けても、この方は何の心の痛みも
罪の意識も覚えなかった

 この世界において、私のもっともお気に入りの存在を殺しても何も感じずに
その他大勢と一緒に扱われる。
 何となくそれが私には気に入らなかったから。
 だから…この人の抱えている謎を解いて差し上げる代償に、せめて心の痛みを
覚えて頂くことにしたんですよ。

 どうして人は人を殺せるかご存じですか?
 殺すにはいくつかの理由がありますが、一つはその対象に異常な執着を
覚えて独占したがること。
 一つは憎悪や憤怒を覚えて、殺人を犯してはならないという制御を振り切って
しまうこと。
 そして三つめは…その対象から完全に関心を失くして、家畜や何かを殺すように
無感情に殺すことです。
 その場合、殺される対象に一切感情移入をせずに無機質に処分します。

 三つ目の場合…殺す相手がどんな風に考えているのか、何を思っていたのか
そんなことを知るのは却って邪魔になります。
 相手を理解すれば、心の痛みが増すだけですから。
 心底憎いだけの存在である事、相手が悪人で救いようのない人間だったと
確信を深めるならともかく…相手の優しさや、善なる部分を見出してしまったら…
罪悪感が湧くだけですからね。
 だから私は…せめて、心の痛みだけでも覚えて頂くことにしました。
 それがささやかな意趣返しであると共に…私なりの、気遣いでもあります。

 だって真実を知らないままでいたら…太一さんの父親は、その謎に少しずつ
押しつぶされて心が病むかも知れないでしょう?
 そうなったら息子である太一さんは苦しんだり悲しんだりします。
 克哉さんは最後に、太一さんの幸福だけを祈りました。
 私はそれを知っている。

―だから一度だけ気まぐれですが、こうして手を差し伸べた訳です。
 この世界においての…両方の佐伯克哉さんが望んだたった一つの最後の
願を叶える為にね…
  これは私の他愛無い独白のようなものです。
 さて、最後の幕をそろそろ開くと致しましょう。
 佐伯克哉さんと、五十嵐太一さんの二人の物語の終焉を…ね。 

                          *

 そして、太一の父親はゆっくりとあの日の佐伯克哉の意識へと同調していった。
 シンクロした瞬間に真っ先に飛び込んできたのは…目の前に立っている
あの日の自分の酷薄な眼差しだった。
 何の感情もなく、冷たい目でこちらを見ているのに気づいて…改めて
思い知らされていく。

―今までこうやって自分が手に掛けた人間が、それ以前にどんな人生を
辿っていたのか、何を思い考えているのかなど興味を持とうとしなかった

 だが、太一と彼のやりとりを追っている内に…どんな形であれ太一が
この男に執着をしている事を知れば知るだけ、この時に犯した己の所業を
心底後悔するようになった。
 だが、すでに殺してしまった事実は変えられない。
 こうしてあの日の光景を改めて見れたとしても過去に干渉して起こった
出来事まで変えられる訳ではない。

(…俺は、俺のした出来事を受け入れるしかないんだな…。本当の事を
太一に知られたら憎まれても仕方ない事をしたのだと、な…)

 そうして、男は観念していく。
 ゆっくりと意識は溶けていき…佐伯克哉の深層意識へと堕ちていく。
 深い海の底に潜っていくような、そんな奇妙な感覚だった。
 そもそも他者の意識の中に入り込んで、其処で起こった出来事を見るなど
普通なら到底不可能な行為である。
 だが、男は憎い筈の存在に…同調し、克哉の視点でその光景を見ることになる。
 太一の父は、傍観者としてただその光景を静かに眺める形になっていた。

―気分はどうですか? 佐伯克哉さん…

―最悪だな。身体は痛いし、全身が物凄くだるい…。今度ばかりは流石に
助からないのか…?

―えぇ、貴方は先程…車に跳ねられて、重傷を負いました。雪で路面も
滑っていましたし…かなりのスピードが出た状態での衝突でしたから。
今から救急車を手配しても、助かる見込みは薄いですし…生き延びたとしても
身体に大きな後遺症が残るでしょう…

―ちっ、やはりな…。さっき、衝突した時にそんな気はしていた…。
なら、これで俺は助からないという訳か…。その割には今はさっきほど
痛みは感じられないのだが…

 克哉は不思議そうに透明になった己の身体を見つめていく。
 この状態はあれか、映画や漫画で良くある意識体だけで存在
している感じなのだろうか。
 さっきまで感じていた激痛は存在せず、フワフワと自分の身体が頼りない
もののようになった気分だった。
 それこそ風でも吹いたら吹き飛ばされてしまいそうなぐらいにあやふやな
ものに成り果てたようだった。

―えぇ、今の貴方は魂が肉体から切り離されようとしていますからね…。
だから身体が感じている痛みも遠いものになっています…。
このまま何もしなければ…ただ、息絶えるのみでしょう…?

―それで最後にこうやって会う奴が、お前になる訳か…。お前は黒い
衣装を常に纏っているし…さながら、俺にとっての死神になる訳か…?

―心外ですね。私は貴方に救いの手を差し伸べに来たというのに…。
貴方はこのままでは確実に死にます…。ですが、貴方が生きる事を望むと
いうのなら…私の力で持って生存させる事は可能です。
 ですが貴方の身体には重篤な後遺症が残ることは避けられませんし…
貴方がそれに同意しなければ無理ですから…。
 一つだけ、私は貴方の願いを叶えて差し上げます。貴方のその願いが
生き延びる事ならば…助けることも可能ですが、どうなさいますか…?

―ほう、一つだけ…お前が望みを叶えてくれるというのか…?

 Rからの申し出を聞いて、眼鏡を掛けた佐伯克哉は心底意外そうに
呟いていった。
 まさかこの男がそんな温情をこちらに与えてくれるなど予想もして
いなかったからだ…。

―えぇ、ここでの貴方は私が望む者には進化してくださいませんでしたが…
それでもそれなりに私の退屈を紛らわせてくれましたからね。だから一つだけ…
餞別として、そちらの最後の願いを叶えるとしましょう…。さあ、貴方は何を
願いますか…?

―本当に、一つだけ願いを叶えてくれるのか…?

―はい、そうです。その代わり叶えられる願いは…一つだけです。
そしてそれは貴方が強く望んでいるものでなければなりません…。
貴方が強くそれを求める気持ちがなければ、実現することは不可能ですから…。
さあ、もう貴方に残された時間は多くはありません。…そろそろ、決断を
なさって下さい…

 こうして心の世界でやりとりしていると実感しづらいが、眼鏡の身体は
少しずつ輪郭を失くしていた。
 魂が肉体から切り離されて、命の灯が消えようとしている…その事実が
如実に現れ始めていた。
 ゆっくりと、命に翳りが見え始めていくのが自分でも良く判った。
 本当に…自分は助からないのだと、死が間近に訪れているのだと…
嫌でも実感させられていく。

(もう…俺は、死ぬのか…)

 そう実感した瞬間、一つの願いが浮かんでいく。
 現実を生きている間は目を逸らしていた事実。
 見ないようにしていた…己の、本心が浮かんでくるのを実感した。

(俺が、このまま死んだら…お前は、どうするんだ…?)

 脳裏に浮かぶのは、太一の顔ばかりだった。
 一緒にいた間…彼はいつだって苦しそうな顔ばかりしていた。
 悲しげな、泣きそうなそんな顔しか見れないでいた。
 けれど…太一の事を考えた瞬間、もう一人の自分の意識と同調
していくのが判った。
 その瞬間に浮かび上がったのは太陽のように明るい、眩しいまでの
太一の笑顔だけが浮かんでいく。

(嗚呼、そうか…俺は…いや、俺も…お前を、好き…だったんだな…)

 滑稽、だった。
 最後になってようやくその事に気づくなんて。
 けれど相手が、弱い方の自分ばかりを求めて自分を否定ばかりする事で
頑なになってしまっていた。
 意地を張り、相手を傷つけるような行為しか出来なかった。
 本心から目を逸らして…太一を痛めつけるような言動しか口を突いて
出てこなかったのだ。

(…あいつばかりを求めているお前が、腹立たしかった。『俺』を見ようとしない
お前に苛立ってばかりいた…。なのに…もう、終わりだという段階になって
今更気づくなど…道化以外の何物でもないな…)

 もう自分という存在が消えるという段階になって、やっと本心に気づいた。
 けれど…命は助かったとしても、自分の身体には後遺症が残ると
Rははっきりと告げていた。
 助けることまでは出来ても、其処までは回避出来ないのだと。
 なら…自分が生き延びたとしても、もしそれが誰かの助けなしに生きられない
状況であるのなら…下手をすれば、太一に大きな負担を強いてしまうことになる。
 もしくは自分の家族に、経済的なものや介護の負担を掛けてしまう
形になるかも知れない。
 後遺症が残る、と告げられた時点で…男は、自分が生き延びる事に対して
激しい抵抗を覚えていた。
 太一に伝えたい気持ちがあった。
 あいつの本当の願いを、叶えてやりたかった。
 生き延びたとしても…誰かに負担や負担を掛けなければならないとするならば、
自分が最後に願うことは…。

(俺がこれから死ぬというのなら…せめて、お前の願いを叶えてやるよ…)

 眼鏡は、そうして…己が生き延びるよりも…最後の最後で、相手の事だけを
思い遣っていく。
 意地も何もかもを捨てて、その心の奥底に存在していたもの。
 相手がこちらを愛していなくても構わなかった。
 それでも、たった一つだけ願うことはただ一つだけ…。

―俺の、最後の願いは…

 そうして彼は、意識が途切れそうになる間際に…黒衣の男にその
願いを告げていく。
 それは無償の愛に近い想いと、行動に近かった。
 自己を捨て去り…ただ、相手を思い遣る域に達していなければ出来ない
事でもあった。

―それが、最後に貴方が望まれることなのですね…。非常に残念ですが、
判りました。その最後の願いを叶えましょう…

 そう、Rの了承する声を遠くに聞いていきながら…眼鏡を掛けた
佐伯克哉の意識は、闇の中に静かに溶けていったのだった―
  
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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