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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
 1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
 書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。
 20で完結させる予定でしたが、長くなりそうなので
二回に分けて掲載します。ご了承下さいませ(ペコリ)

 残雪(改) 
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 そして克哉から最後の想いを託された日から、五年あまりの時間が
経過していった。
 三年間、サラリーマンを務めた太一は…その期間内に、自分が手がけた
商品のタイアップ曲を自らが手がけたいと申し出た事がキッカケで
上司の御堂に、MGNが手がける商品のCMソングを優先的に作る事を
条件に支援を受ける事となり、二年前からアメリカに渡って音楽の
勉強に専念する事となった。

 太一がMGNに受けて、採用される事になったのも克哉がその縁を
引き寄せてくれたからであった。
 彼が通っていた大学のOBである御堂を訪ねた際に…その理由として
プロトファイバーの営業を担当していた克哉の話題が登ったからだ。
 最初はそれで第一印象は最悪に近くなったが、太一が本気でこの会社で
働いてみたいと望んだ事で態度は軟化していき、偶然にも御堂が関係している
部署に配属された事から、意気投合するとまではいかなかったが、案外良い
上司と部下の関係は築けていたのだった。
 太一の実家の事が問題となり、CM曲を作るアーティストとして支援する事に
上層部が難色を示した時も積極的に説得をしてくれたのも御堂だった。
 そうして太一は結果的に、克哉と結ばれた場合に辿る経路に限りなく
近い未来を進んでいきながら…日本で、アーティストとして認められていった。
 克哉からの強い加護が、彼を本来あるべき場所へと導いたかのように…。
 そうして二年ぶりに日本の地を踏んだ太一は、父から佐伯克哉の墓を
見つけたという報告を受けて…父と一緒にその地へと向かっていった。
 二年ぶりに逢う息子の顔は精悍になっていて、もう立派な大人の男の顔へと
変わっていた。
 サラリーマン時代は黒く染めていた髪も今では以前のように鮮やかな
オレンジ色へと伸ばして、それなりに長く伸ばされていた。 
 落ち着いた色合いのワインレッドのシャツに、黒の革ジャンやパンツ、
ブーツで統一された服装を纏ってサングラスを掛けている太一は
本当にミュージシャンとしての雰囲気を纏わせていた。

(…結局、お前は自分の夢を叶えたな…。あの人を理解したいと言って…
サラリーマンになると言った時は夢もあきらめるかと思っていたが…
結局、叶えちまったな…コイツは…)
 
 日本に帰って来たのは昨日の夜の話だったが、その間も非常に
過密なスケジュールで動かされたようだった。
 だが、墓参りはすぐにしておきたいと言っていたので睡眠を削って
働きづくめだったようだ。
 そのおかげで太一は車の中ですっかり熟睡していた。

(…死んでも、想いは残るか…)

 太一が五十嵐の家の呪縛から逃れて、こうしてアーティストとして
成功するようになったのは…佐伯克哉の想いが、彼を護っているからだと…
父親も感じるようになっていた。
 本来なら一度留年している学生がMGNなんて大企業から内定を取るなど、
かなり厳しい事だろう。 
 だが入社してから太一の事を盛りたてて、音楽の勉強をするように勧めたのも
克哉と縁があったその御堂という上司の存在があったからだった。
 見えない糸に手繰り寄せられるように…太一は、陽の当たる場所での
未来を掴み始めている。
 その事を噛みしめていきながら…父親は、疲れている息子を少しでも
休ませてやろうと安全運転を心掛けながら…埼玉県の外れにある
佐伯克哉の墓所へと向かっていた。

―克哉さんの墓が見つかったなら絶対行く! それは俺の最優先事項だから…

 長い年月を経て、やっと…息子を墓にまで連れて行こうと決意して
一昨日電話した時に、太一は迷いなくそういった。
 今でも息子の心の中には、克哉への強い想いで満たされているのだろう。
 その事に後悔の念は今も尽きなかったが…自分が殺してしまった男の
心の内を見せられた一件から、太一の父は覚悟を決めて…義父の意思に
逆らう事になっても、息子の夢を支援するようへと変わった。

(あの件がなかったら…俺はいつまでも義父の顔色をうかがって
真剣に太一の味方になってやる事も出来ずしまいだったな…)

 この五年間は、太一の父にとっても戦いの日々だった。
 どんな手を使っても自分の跡継ぎに据えようとする五十嵐組のトップである
寅一に必死になって跡継ぎにさせるのをあきらめさせるように画策して奔走
していたのは他ならぬこの父だった。
 その努力がやっと実ったから、こうして太一を帰国させる事が出来る
段階にまで達した訳だった。
 だが、それくらいしなければ…克哉に対して償いが出来ないと想ったから、
男は腹を括っていた。

―一生、その秘密を息子さんに隠すぐらいの覚悟は持って下さい…

 そして、あの夜に太一と二人の佐伯克哉の間に起こった一連の出来事を
見せてくれたあの謎起き男性の言葉が、繰り返し脳裏に蘇る。

「安易に…懺悔して、楽になっては駄目、か…。本当に…それが
一番の罰だよな…」

 息子が寝ている事を確信しているからこそ、父は苦い心情をそっと
呟いていく。
 だからこそ、佐伯克哉を男は忘れる事が出来ない。
 そしてその罪の意識が生々しく息づいているからこそ…彼の中では
克哉の分も、太一の味方にならなければという想いが息づいているのだ。

「太一…もうじき、お前の大切な人の元に連れてってやれる…。もう少しだぞ…」

 佐伯克哉の墓は、様々な裏側の事実を知ってから手を回してすぐに
作らせた。
 彼の実家に知らせて、はっきりと名乗り上げる事はしなかったが…墓の
費用は全部、男が代わりに持つ形で…遺骨も静かに遺族へと引き渡したのだ。
 墓を作ってから五年近く経つのに、今まで太一に告げる事が出来なかったのは
罪悪感の為だ。
 だが…せめて、こういう形になってしまっても…彼らを引き合わせれば、
すこしはこの胸の痛みは和らいで、過去の過ちの清算が出来るだろうか。
 そう願って男はハンドルを握り…そして、もう目的地の間際へと
迫っていった。

「おい、そろそろ着くぞ…もう起きたらどうだ、太一…」

「ん~判った…今、起きるよ…親父…」

 そうして寝ぼけ眼で後部座席から起き上がる息子を眺めると…父は
知らずに微笑んでしまっていた。 

「ああ、お前の大事な人間に逢いに行くんだから…シャキっとしろ!」

「はいはい、判りましたよ…もうじき、会えるね…克哉さん…」

 そう呟きながら…今も大事に持っているあの石をそっとポケットから
取りだして…愛おしそうに太一はそっと握りしめて、目を伏せて
いったのだった― 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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