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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。

   GHOST                

―佐伯

 仕事中には心から愛しそうに彼はそう名を呼ぶ。
 優しくも、深く信頼をしながら…。

―克哉

 二人きりの時は、そう呼んでいた。
 心の中に嫉妬が浮かんでしまうぐらいに蕩けそうな声で。
 
(貴方の中に、オレの存在なんて始めから存在しなかった…)

 二人を見ながら、ずっと克哉はその想いに苛まれていた。
 ガラス越しに世界を眺めていた。
 現実に干渉することも出来ず、あくまで傍観者のままで。
 自分という意識は存在するのに誰にも存在を認識されることもなく。
 まるで光が差し込んでも透かしてしまって、受け止めることさえも
出来ない儚い存在に過ぎなかった。

―必要にされたかった

 あの二人を見ていたから、芽生えた思い。

―愛されたかった

 それはあまりに強い後悔の念。
 その可能性が残されていた時に、何もかもを捨てる選択を
した事を彼は心から悔いていた。

―誰かオレを必要として下さい…!

 それは懇願にも似た、願い。
 何度も何度も、繰り返し絶望の中で叫び続けた感情。
 その声に…ある日、Rは応えた。

―ゲームをしませんか?

 と…愉快そうに微笑みながら。
 それでも克哉は構わなかった。
 今のこの状況が…彼らにとっては板状のゲーム、余興に過ぎないと
判っていても。
 何の可能性も存在しないゼロの世界よりも、ほんの僅かでも
覆すことが出来るかも知れない世界の方が克哉にとっては
魅力的だったから。

―今の自分は彼らの始めたゲームの駒に過ぎない

 その自覚はあっても、克哉は…それでも人に対して何かを
する事が許されていることと、何かに触って確認する事が出来る
幸せと食べて味を感じること、話すことが出来ること…。
 普通の生きている人間だったら当たり前の事にすら、深く感謝して
日々を過ごしていたのだった―

                   *

 出勤する御堂を見送った後、克哉はうたた寝をしていた。
 そして目覚めた時、頬は涙で濡れていた。
 早起きをして洗濯をしたり…朝食の準備をした疲れが出て
しまったのだろう。
 革張りのソファの上に座って寛いでいたら…いつの間にか
眠ってしまったようだ。
 窓の外は快晴で、見ていて清々しい気分になった。
 陽はすでに高く登り、昼過ぎを迎えていることを告げていた。

「夢、か…」 

 かつての状況…記憶の断片を垣間見て、克哉は今…
こうして自分に身体がある事に深い感謝を覚えていった。
 確認するように自分の手を何度も握ったり、離したりしていく。
 たったそれだけの動作も『肉体』があるからこそ出来る。
 どういう理屈かは判らないがこの身体には血も通っているし、
体温もキチンと存在している。
 だが、それは御堂の傍にいるか…彼が生活している空間に
自分が存在している場合のみだ。
 この部屋から長く離れれば、自分は消えてしまう。
 幸いにも買い物に行く程度の短い時間なら、持ちこたえることが
出来るのが唯一の救いだったが。

「何か出来るって事は…凄く幸せなことだったんだな…」

 ほんの数日前までの自分の状況を振り返って、彼は
しみじみと呟いていった。

「生きていることって、こんなにも…在り難かったんだ。それに気づかずに…
何て無駄なことをしていたんだろう…オレって」

 それは亡霊のような生き方を強いられた今だからこそ思い知った事だった。
 死んでしまえば、自由を奪われてしまえば…人は何も成すことが出来ない。
 もう一人の自分の意識に押されて、肉体の主導権を奪われてしまった時に…
自分という存在はすでに消えているに等しい現実を理解した。

「生きてる…今は、少なくとも…」

 そうして、また…深く呼吸を吐いていった。
 心に浮かぶのは御堂と、Rにこのゲームを開始する前に言われた
言葉ばかりだった。
 その事が過ぎった瞬間、克哉の耳に予想外のニュースが飛び込んでくる。
 朝食時に御堂が付けていたテレビをそのままにしていた。
 だが、其処に映し出された人物の顔を見て克哉はこわばっていった。

「…まさか、もう…!」

 そうしてアナウンスが流れていく。
 見覚えがある人物の顔と名前が表示されて…その人物が失踪して
数日が経過していること。
 そして…家族が公開捜査に踏み切って、情報を求めていることが
告げられて…克哉は顔を蒼白になっていく。

「まさか…こんなにも早く…もう三人目が…。ちくしょう…こっちが
思っている以上に、残された時間が少ないって事か…」

 このゲームの説明を受けた克哉だからこそ、その失踪した人物が
以前に消えた本多と片桐にも繋がっている事を把握している。
 恐らく、最後に御堂が狙われることは判っている。
 果たして自分に何が出来るのか。
 
(もう残された時間が少ないなら…形振りを構っていられない。
残り一人にも魔の手が迫ったら次は、御堂さんだ…。それにあの子にも
警告ぐらいは促しておかないと…いや、あの子はきっと受け入れてしまう…。
なら、御堂さんだけでも…どうか…)

 この三日間、平和な日常を満喫していた。
 今朝も幸せを噛み締めていた。
 だが…このニュースによって克哉は一気に現実を突きつけられていく。
 ジワジワと追い詰められていることに。
 刻限が迫っていることを実感して、足場が崩れていくようだった。
 
(お前には…絶対に、負けない…負けたくない…この世界でも、
負け犬に終わるのは真っ平御免だ…!) 

 そうして手のひらに爪が食い込むぐらいに強く己の手を握り締めていく。
 あまりに強く握りすぎて、うっすらと血が滲んでいく。
 其処からドクドクと脈動する感覚と痛みを感じていきながら…克哉は
必死に自分が出来ることは何かを考え始めていったのだった―
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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