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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※2001年の秋頃に書いた前ジャンルの作品です。
 三番目くらいに書いた話で、ドラグ温泉でともかく
バタバタしています。
  何て言うか全体的にギャグ風味な話になります。

  ドラグ温泉憂鬱帳        



二階の右上に位置する卓球の間は、静まりかえっていた。
 元々カナン達と、ここを運営する桜涯とビバノノくらいしかいないのだ。
騒がしい訳がある訳ないのだが、あの時の賑やかさを思い出すと…
同じ空間には思えなかった。

「卓球か…。僕は今までにやった事がないんだが、大丈夫だろうか…?」

「大丈夫ですよ。カナン様は大概の事は飲み込みが早いですから、
すぐに基本くらいはどうにかなると思いますよ」

 ビバノノが一匹もいないので、一人で卓球の台を組み立てて準備を整えながら、
セレストはカナンの問いに答えていた。
 カナンの方は、さっきセレストが出してくれたラケットを振っていた。
 指を指すような手の形で使用し、両面にゴム製のラバーが張ってある
シェイクハンド型と片面のみにラバーが張ってあり、グリップの方にデッパリを
親指と人差し指で包む
ような形で握り込むペンホルダー型の両方を試していた。
 その上でカナンが選んだのはシェイクハンドの方だった。
ちなみにセレストもまた両方共使えるが、得意としているのは同じ
シェイクハンドの方である。

「うむ…意外とこの指の形も持続するのは辛いな…向こうのペン…なんだか
よりはマジだが。両面で打てるというのが強みみたいだが、向こうの方は軽くて
振りやすそうだな…けど、あの手の形をずっと維持するのは辛いし…うーむ」

 意外とペンホルダーは慣れないと、持ってる指が攣りそうなくらいに辛くなる。
だが片面のみラバーが張ってある造りは、ラケットの軽量化に一役を買っており
熟練すればかなり勢いのあるスマッシュを打てるなどの利点もある。
 代わりに両面使用出来るシェイクハンドより、やや打ち返すだけだと動作に
制限も発生する。
扱いはやや癖があり、どちらかというと熟練者向きの趣のあるラケットであった。
 だからセレストは彼がそちらではなく、自分と同じ型のラケットを選択した事に
実は安堵していたのだ。

「じゃあまず、サーブを打って見て下さい」

「何だと?」

「私の勝負を見てらしたなら、どうすればいいのかくらいは判るでしょう。まず、
サーブを打って打ち合いをしてみましょう。細かいコツとかは、それから
お教え致します」

「わ、判った…」

 カナンは必死になって、あの時の試合の様子を思い出した。
 確か…セレストはポイントを取った後、いつも左手でボールを少し上げて
丁度右端から、
相手のコートの左側に向かってボールを打っていた。
 そして、ボールは一回ずつ、セレストのコートと敵のコートで跳ねていた。

  それが多分…サーブだと思う。
そしてポイントは、ネットに引っ掛かるか、ボールが同じコートで2回跳ねた時…
そして相手がボールを打ち損ねたり、相手のコートに一回もボールが
跳ねずにあさっての方向に飛んでしまった時にポイントの加算があった。

 ルールは大まかに判っていた。後は…サーブを打つ事に意識を集中させた。

 セレストの方に、一回ずつ互いのコートで跳ねさせながら対角線上にボールを
打って渡せばいいのだ。
その事だけを考えて、カナンは勢い良くラケットを振り下ろした。
 しかしその時、肝心のものを彼は完全に忘れてしまっていた。
ボールを打つときのフォームの事をまったく考えてもいなかったのだ。

 バァァァァン!

 そして次の瞬間、轟音が周囲に響いた。
 それに隠れて、同時にペコッという小さな音も同時に生じていた。
 セレストはその場から微動だにしない。周囲に発生する、沈黙。
 まるでフローズンが冷気を発生させているかと思うくらい…空気が凍っていた。
 そう…カナンはまるで蝿叩きをするかのようなフォームで、サーブを打ったのだ。
 そしてその時…ボールも一緒に潰してしまった訳である。
 双方、無言でその場に立ち尽くすしかなかった。
特にカナンの方は、真剣に背後霊かなんかを背負っていそうなくらいに、肩を
がっくり落としていた。
 どうしよう…かなり気まずい雰囲気だ。

「カ…カナン様。私が悪かったです…だからそんなお気になさらずに…」

「……」

 しかし、カナンからは返事はない。
 どう見ても…完全にカナンは落ち込んでいた。
しかもセレストのフォローの言葉も耳に届いていない様子だった。

「私が面倒臭がらずに、キチンとカナン様に教えなかったのが悪いんです! ですから
カナン様、どうか落ち込まないで下さい!」

「どうしましたノノー?」

 微妙な修羅場が発生しそうな空気の中、ビバノノののーんびりした
声が返ってきた。

「お仕事一段落つけて来ましたノノー。さあ卓球やりましょうノノー」

 そうしてビバノノがラケットを手に持って、セレストの側にチョコンと立った。


 再び、空気が凍りついていた。

「背…届かないですね…ビバノノ君…」

「そうみたいですノノー」

 ビバノノが卓球台の所でピョンピョン跳ねていたが、卓球台の高さとビバノノの
背は同じくらいである。これではとても試合など望めそうもない。
 セレストは、本当にシクシク泣きたくなってきた。

「これでは卓球が出来ませんノノー。どうしたら良いんですノノー?」

 実はビバノノなりに切羽詰ってはいるのだが、その響きはいつも通り
緊迫感がなかった。

「そうですね…ビバノノ達の背に合わせた卓球台でも特注しましょうかね…」

 落ち着いた声が、ビバノノの問いに対して返ってきた。
 気がつくとまるでJAPAN製の小説に出てくる労咳持ちの書生を、そのまま年を
重ねさせたような容姿を持つ男…桜涯がそこに立っていた。

「桜涯さん…どうしてここに?」

「いえ、ビバノノが卓球の勝負に負けたら、貴方達と一緒にお風呂に入って
良いですかと聞いてきたもので…ここにある台で、ビバノノが卓球出来るのか
どうか気になってしまってね…やっぱり予想通りでしたね」

「…すいません。私がもっと早くに気づいていれば…」

「いえいえ、今回の事がなければ私は卓球をビバノノ達もやりたいという事に気づいて
あげれなかったんですから…。気になさらなくて良いですよ」

「そうは言っても、今回の事の発端は僕が招いたものだし…一言くらいの
詫びは言わせてくれ。すまなかったな、桜涯殿」

 いつの間にか立ち直ったカナンもまた、この温泉の精霊である桜涯に頭を下げていた。

「…律儀な方々ですね、本当に貴方達は…」

 そう言った桜涯の瞳は、とても優しかった。

「じゃあ今度、ビバノノ達が出来るような特注の卓球台を取り寄せておきます。
牛乳ビバノノ、今日はもう仕事は良いからお二人と一緒にお風呂に入って
背中でも流してさしあげなさい」

「良いんですノノー?」

「あぁ、今日はお客さんもあまりいないし、たまには構わないでしょう。貴方は特に
良く働いてくれますからね…」

 ビバノノと温泉の精霊の暖かな交流がそこで交わされていた。ビバノノの頭を
そっと撫ぜ、優しく桜涯は労っていた。

「何で、こんな展開になっているんだ? セレスト…?」

「私にも、判りません…」

 元々ホットビバノノというか、ビバノノと温泉に入ろうという計画なだけだった筈だ。

「…まぁ、当初の目的は果たせそうだから、良いんじゃないのか?」

 それがどうしてこうなるのか、そう誘導したカナンでさえも少し不思議である。
 照れくさそうなカナンに対して、セレストは少し困ったような顔を向けた。
 まぁこれで誰かが迷惑を被った訳でも、不幸になった訳でもない。
むしろビバノノたちにはちょっとした良い出来事である。

「そうですね…」

「それじゃ、ゆっくり風呂にでも入るか」

 そういって伸びをしながら、こちらに向けられた笑顔はとびっきりで…。
 つられてセレストもまた、極上の顔を相手に返したのだった…。


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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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