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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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自分の方の用事は終わったから、会いたいと虎徹に伝えたら…虎徹は
「なら、一緒に夕食でも食べようぜバニーちゃん」と答えてくれた。
 それで夕方までに自分の部屋をざっと片づけて、夕食に食べる品を
買ってきてくれた虎徹を出迎えていった。
 それで他愛ない会話をしながら、夕食を食べてくる。
 最近虎徹はこういう風に一緒に食べると、煮物とかおひたしなど
オリエンタルタウンで良く食べられている総菜の類を良く買ってきていた。
 虎徹は見事なぐらい、買い出しを任せようとも自分たちで食事をするに
しても…チャーハンばかりにしようとするので、放っておくとこちらの分の
主食まで同じものにされるのだが、今日は敢えて意を唱えずに
おとなしく同じものを食べる事にした。
 和食の類は、こうやって虎徹と食事を共にする以前は馴染みのない
ものだったが、何度か食べてみるとなかなか味わい深いものだと
納得出来たし、そんなに悪くないと思うようになってきたからだ。
 ただ…やはりチャーハンばかりが続くと、そこまで愛好していない
バーナビーには少し飽きてくるので、それだけはたまには配慮して
ほしいと思うが…。
 夕食を食べ終わると、虎徹はバーナビーの部屋の床ニゴロンと横になっていく。
 このくつろぎっぷりも、今では不快ではない。
 むしろ…こういう気を許しているような態度を取ってくれた方が安心出来る
ようになっているんだから、我ながら随分変わったものだと思う。
 
「はい、虎徹さん…コーヒーで良いですか?」
 
「おう、バニーちゃん…どうもありがとう。いや、何かここ数日…もしかして俺、
避けられているって感じちゃったから…そっちから誘って貰えて良かったぜ。
俺、何をしたか…見当つかなかったから、余計にさ」
 
「えっ…そ、そんな事は…」
 
「え~…じゃあ、何で最初は俺の誘いを断ったんだ?」
 
「…そ、それは言ったじゃないですか。用事があるからって…」
 
「へえ、一人で当てもなく散歩するのがバニーちゃんにとって用事だったんだ?」
 
「っ…!」
 
 
 今日の午前中の、自分の行動をピンポイントで言い当てられてとっさに
言葉に詰まっていく。
 どうして虎徹がその事を知っているのか…その疑問が湧くよりも先に、
用事があるという嘘が相手にすでにバレてしまっている事に動揺を
隠す事が出来なかった。
 
「…どうして、それを…?」
 
「そりゃ簡単さ。今日、お前の行動をちょっとつけていたからな。ここ数日、
何か俺の事を避けているような…壁があるような気がしたからな。
原因を探ろうとちょっとな…」
 
「…いつからこのオジサンは、人の後ろをコソコソ付け回すような事を
するようになったんですか…?」
 
「…バニーちゃん、俺の事をオジサンっていうの…ちょっとヒドいよ。
久しぶりにその単語聞いて、俺…ちょっと傷ついたわ」
 
「ふざけないで、真面目に答えて下さい。一体いつから…」
 
「バニーがこの部屋を出てから、俺に電話してくるまでかな…。尾行している
間に、いきなり俺に掛けてくるもんだからかなりひやっとしたよ。まあ…
バイブモードにしておいたから、バニーは俺のことに気づいてなかった
みたいだけどな…」
 
 思ってもみなかった事を打ち明けられて、一瞬混乱しそうになった。
 だが…思い返してみれば、確かにリバーサイドを歩いていた時に複数の視線が
こちらに向けられていたのは確かだった。
 あの中に…虎徹の視線が混ざっていたのだろう。
 その事に気付かなかった自分のうかつさに、少し腹が立っていった。
 
「そん、な…ずっと、本当に僕のことを陰から見ていたって事なんですか。
そんなの…ストーカーみたいじゃないですか…」
 
「…ああ、そうだな。ストーカーみたいだって突っ込まれて今日の行動は
文句言えないな。悪いな、お前に避けられている理由をどうしても探りたかったんだ。
何か心当たりがあったり、お前を怒らせた原因が判っているなら…其処まで
しなかったけど、今回ばかりは何も思い至るものがなかったから…つい、な…」
 
「…貴方は本当に卑怯ですね…。そんな顔を、言われてしまったら…これ以上、
こっちは何も言えなくなる…」
 
「そっか…なあ、教えてくれよ。俺は…何をして、お前を怒らせたのか…。
自分の相棒にさ、何が原因で避けられているのか判らない状態が何日も
続いているのって…やっぱり精神的にきついからさ。素直に言ってくれよ…
頼むから…」
 
「虎徹さんの寝言を聞いて…ずっとモヤモヤしていたんですよ。『友恵』って…
奥さんの名前を口にしていたから…」
 
「っ…マジ、かよ。それ…もしかして、お前の部屋のベッドで寝ていた時に…
俺、やっちまったのかよ…」
 
 その瞬間、虎徹の顔に罪悪感が色濃く滲んでいった。
 前夜に抱き合ったその翌朝に…バーナビーの部屋に泊っていながら、
相手の隣でかつての妻の名を呼ぶなど…不愉快になられて当然の事だった。
 ようやく…避けられていた理由を理解し、虎徹はバツの悪い表情を浮かべていく。
 
「ええ、確かに言いました。そして…こう続けました。『友恵…お前の臨終に、
立ち会えなくて…御免な』と…。一つ、聞かせて下さい。貴方は…時々、
そうやって…奥さんが亡くなった日の夢を見ているんですか…?」
 
「………………」
 
 
 バーナビーは静かで、淡々とした口調で問いかけてくる。
 けれどその瞳は真剣そのもので…茶化したり、ふざけたりして返したら…
怒られてしまいそうなぐらい真摯なものだった。
 そんな目をされたら、誰だって嘘をついたり誤魔化したり出来なくなる…
そう観念した虎徹は暫くの沈黙の後、素直に答えていった。
 
「…ああ、その通りだよ。俺は時々…ワイフが死んだ日の事を繰り返し夢に
見ちまう。あいつはヒーローの出動要請があった時、行けと言った。
その言葉に背中押されて出動したらな…戻ったら、あいつは亡くなっていた。
最後までヒーローらしくあってくれ…というのがあいつの想いであり、
願いである事は判っているけどな。それでも…あいつの最後をちゃんと
見届けてやりたかった…という後悔が、今でも俺の中にあるよ…」
 
「…正直に答えてくれましたね。なら…許します」
 
「えっ…?」
 
 思ってもみなかったバーナビーの言葉に、虎徹は目を瞠っていく。
 だが…青年は、穏やかに微笑みながら答えていった。
 
「…もし、貴方が…僕が隣にいるのに、奥さんと幸せに過ごしていた時の
思い出なんて夢に見ていたのなら…遠慮なく殴りますし、文句を言わせて
貰います。けど…奥さんは貴方の家族でもあった。なら…『家族の死』の
場面を繰り返し夢に見てしまうのいうのなら…それは自分ではどうしようも
ない事だから、仕方ない事ですから…。復讐を遂げる前、僕は何度も
何度も、両親が殺された場面を繰り返し悪夢として見続けた。…そんな
僕が、どうして…奥さんが亡くなった日の事を見てうなされている貴方を…
責める事なんて…出来ないですから…」
 
 そう…かつての両親と、幼い頃の自分を思わせる家族連れと遭遇して…
自分が亡くなった両親を今でも愛しているのだと気付いた瞬間、嫉妬を
超えて…バーナビーはその事実に思い至る事が出来たのだ。
 妻を懐かしんで寝言で呼んだのならば…少し許せないけれど。
 自分だって何度も何度も、己の無力感を実感させられた…あの最後の光景を、
何度も見せつけられていた。
 ならどうして…嫉妬に狂って、この人を責める事など出来るのだろうか…!
 
「…家族を失うのは、辛い事ですから。愛しているからこそ…何度も後悔して、
それを夢に見てしまうのは…僕も同じだから。だからその夢が…奥さんの
臨終に立ち会えなかった後悔から生まれたものなら…許します。
…僕の方こそ、小さな嫉妬で…貴方を振り回してしまってごめんなさい…」
 
 そういって、小さく謝って頭を下げていくと同時に…強い力で引き寄せられた。
 それが思いがけず強くて、とっさに息を詰めてしまう。
 
「バニィィ…! おじさん、すげぇ感動しちゃったよ! お前が…そんな事
言ってくれるなんて思ってもみなかったから…!」
 
「わっ…虎徹さん! ちょっと痛いですってば…力、緩めて…!」
 
「うっ…ワリィな。…けど俺の失態を、暖かい気持ちでバニーちゃんが
許してくれたの、こうオジサン…ジーンときちまったからさ…。本当に
大人になったなぁ…って」
 
「…ちょっと待って下さい。何かその発言…非常に子供扱いされている
ような気分になって不快なんですけど…」
 
 虎徹の発言に、バーナビーの額に青筋が浮かんでいく。
 けれどそんな青年の柔らかな金髪を、虎徹は少し乱暴に撫ぜていった。
 
「いや、バニーが優しい子で本当に良かったなって…そういう話よ。
愛しくてさ、俺…お前を今…メチャクチャ抱き締めて、触れたくて…堪んないヨ…」
 
「あっ…」
 
 気付くと、虎徹の顔が目の前にあった。
 息を詰めていると同時に、唇がそっと重ねられていく。
 あっという間に掠めるように唇を奪われていくと…目の前に、悪戯っ子の
ような相手の笑顔が存在していて…つい、毒気を奪われてしまう。
 
「バニーちゃん…ありがとう」
 
「いいえ、貴方に礼を言われる程の事じゃありませんよ…全く」
 
 そう悪態を突きながら、バーナビーは虎徹の腕の中に素直に収まって…
軽く頬を赤く染めていった。
 
「…暖かい」
 
「ん、バニーを抱き締めている俺も暖かいよ。…んじゃ、そろそろベッドに行く?」
 
「そうですね。その方がお互いに冷えないで済むでしょうから。お姫様だっこ
でもしていきましょうか?」
 
「…いや、一応…俺にも男としてのプライドあるからさ。頼むからこういう時に
そういう発言するの止めてくれよ。ほら…行くぞ、バニー…」
 
「はいはい、仕方ないからオジサンについてってあげますよ」
 
「…また、俺の事…オジサンっていう…本当につれないなぁ…バニーちゃんは…」
 
「ふふ、僕がこういう態度なのは…いつもの事でしょう?」
 
「はは、確かに違いないな…それでこそ、バニーだけどな…」
 
 そうぶっきらぼうに言いながら、虎徹がこちらの肩をグイっと引き寄せて
抱いていくと…柄にもなくドキドキした。
 たったそれだけの事に、確かに自分は幸福感を覚えていた。
 
(いつか…貴方の奥さんよりも、貴方にとって大切な存在になれたら…良いですね…)
 
 きっと今でも、虎徹は家族を…特に失くした妻を愛しているのだろう。
 二人きりでいても、決して外されない左手薬指の指輪が…その想いを現している。
 それに今でも、チリチリと小さな嫉妬を覚える瞬間は…特別な関係になって
しまった為に何度でもあるけれど。
 いつか…虎徹にとって、一番の存在に…もしくはそれに近い処になりたい。
 
―そんな小さな願いを胸に秘めていきながら、素直に相手の腕に引かれて…
寝室の方に向かっていく。相手と共にこうして過ごせる事に…確かに幸福感を
覚えていきながら…今は意地を捨てて、身を委ねていく事にしたのだった―
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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