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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  一面はどこまでも白い雪で覆われていた。
  淡く透明な朝日の光が、雪原の上に降り注いで…白銀にキラキラと煌いて、
乱反射を繰り返していく。
 空には薄い白と青と橙の三色が綺麗なグラデーションを作り出している。
 白に覆われた山峰は鋭く切り立って、遠方で幾重にも重なっていた。
 
「…綺麗、だな…」

 白い息を吐きながら、克哉は…その見事な光景に目を奪われていた。
 昨晩から降り続いていた雪は、今は止んで…酷く晴れ渡った空模様を
見せていた。
 ここが、どこなのか…彼には判らない。
 目覚めたら、この山にいて…かなり立派なロッジの部屋のベッドの上に
横たわっていた…という感じであった。

「…本当、ここはどこなのかな…これだけ綺麗な朝日を見れる場所なら…
地名くらいは覚えておきたいのに…」

 そう呟きながら、ふと地面の上に残る…自分の足跡を眺めていく。
 あれだけ雪が降り続けているのに、積雪量はそこまでではなく…自分の足跡が
5センチくらいの深さで純白の雪の上に一直線に刻み込まれている。
 白いコートに、立派な飾り模様が編みこまれている白いセーター。それとライトグレイの
厚手のズボンに、雪国用の靴下と長靴。
 それが今の自分の格好だ。

「…って、今のオレが聞いても無駄かもな。…何にも思い出せないし、引っかかる物も
あんまりないし。昨日の晩までいた人は…すっごい訳判らない事をベラベラ話している
だけだったしな…」

 深い溜息を突きながら、空を仰いでいく。
 克哉は目覚めたら、まっさらな状態になっていた。
 ようするに…自分がどこに住んでいたかも、何をやっていたのかも…知り合いや家族の
事も一切合財、綺麗に忘れてしまっていた。
 長い金髪の謎めいた男は…『十日も立てば思い出せますよ』とか慰めを口にして
くれたけれど本当に十日で思い出せるのかが…怪しかった。

 微風が吹く度に、口元から白い息がゆっくりと流れていく。
 肌を突き刺すぐらいに寒いが…そのおかげで空気は酷く澄んでいて
目の前の見事な風景がクリアに見えた。
 ふいに…ザク、ザク…と雪を踏みしめる音が聞こえてきた。
 克哉は振り返らずに、暫くその音に耳を傾けていく。
 見ずとも…その相手は誰だか、判りきっていたからだ。
 こちらが振り返る気配すら見せないと…背後の相手は、やや不機嫌そうに
こちらに声を掛けてきた。

「おい、お前…あんまり長時間…そんな処で突っ立っていたら…風邪を引く。
そろそろ…戻ったらどうだ?」

「ん…判ってるよ。兄さん…けど、こんなに綺麗な光景…滅多に見れないし
せめて日が昇り切るまで…見てたいんだけど…駄目かな…?」

「…お前の好きにしろ。ただこれくらいは巻いておけ。お前に風邪を引かれると
世話を焼かないといけないのは…俺だからな…」
 
 そうして、背後に立っていた人物は…克哉の首元にやや乱暴な手つきで
白いマフラーを巻いていった。
 ふわりとした手触りの編み物が首に巻かれると…それだけで随分と暖かく感じられて
つい顔が綻んでいった。

「ふふ…すっごい暖かい。優しいね…兄さん…」

「…気持ちの悪い事を言うな。それで…気が済んだのか」

「ううん…もう少し…」

 首を振りながら、ふと相手の方に振り返ると…その相手は、自分と同じ顔を不機嫌そうに
歪めて、軽く眼鏡を押し上げる仕草をしていた。
 態度からして、「早くしろ…」と表に出まくっていたが…何となく、意地悪したい気持ちに
なって…再び、徐々に白さを帯びていく朝の空を眺め続けていた。
 傍らに立つ相手の、白い息が…風に靡いて、立ち消えていく。

「…いい加減にしたらどうだ…? 俺は物凄い寒いんだが…」

 五分もしたら、相手の方も焦れてしまったらしい。
 それを聞いて…ついに克哉は観念した。
 名残惜しいが、これ以上は諦めた方が良さそうだった。

「ん、判った。これで十分だよ…行こう、兄さん…あっ…」

 こちらが笑顔を浮かべて振り返っていくと…ふいに空に灰色の雲が広がって、再び
ハラリハラリ、と白い雪の結晶が降り注ぎ始めていた。

「…見ろ。お前があんまりモタモタするから、また雪が降り出したぞ…」

「ん、ごめんなさい。それじゃあ…早く戻ろう…?」

 克哉が屈託のない笑顔を目の前の相手に向けていくと…眼鏡は平静な表情を
浮かべて踵を返していく。

「…行くぞ」

 そうして、二人はロッジの方に戻っていく。
 白い雪には二人分の往復の足跡が刻み込まれていく。
 この白い雪も、大気の冷たさも…酷くリアルだった。
 
(…夢の中にしては、本当に良く出来ているな…。あの男の力というのも
意外に侮れんな…)

 自分の肩口を軽く掴みながら、後をついてくる…もう一人の自分に、眼鏡は
非常に複雑な気持ちを抱いていた。
 こいつは今は何もかもを一時的にだが、忘れている。
 これが夢の中だという事も気づかず、Mr.Rがついた「この人は貴方のお兄さんですよ」と
いう嘘もまったく疑いもせずに信じ込んでいる。
 その事実が言いようのない苛立ちを眼鏡に与えていたが…とりあえず、顔には出さずに
建物の方へと足を進めていった。

「後…九日、か…」

「…それ、何の話…?」

「いや…何でもない。行くぞ…」

「あっ…」

 放っておくと、克哉の方は足をマゴマゴさせて遅れがちになるので…面倒なので
手をぎゅっと掴んで牽引する形で、眼鏡は雪道を進んでいった。

 そう…この仮初の世界は後…九日。
 全部で十日間で終わりを告げる、と…あの謎多き黒衣の男が告げた。
 その間、自分達はこの世界で…二人だけで過ごす事になる。
 正直、面倒だから断りたくて仕方なかったが…断る訳にはいかない理由も
存在したので…結局、この茶番じみた事に付き合う羽目になったのだ。

 10分も坂道をゆっくりと下りながら歩けば自分達が寝泊りしているかなり立派な
木造のロッジが姿を見せていく。
 軽井沢とか、別荘地とかにある…金が掛かっていそうな造りの物だ。

「ついたぞ…」

「ん、ここまでありがとう…兄さん」

 そうして、今まで…決して見た事がない無邪気な笑顔を…もう一人の自分が
浮かべていく。
 それに舌打ちをしながら…眼鏡は、こんな事態に陥った事の発端を…静かに
頭の中で再生し始めたのだった―
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  翌日の早朝。
  克哉はコンビニの袋を片手に、自分の部屋の扉の前で携帯を
片手に会話をしていた。

『ん、今日は…会社に行けると思う。昨日休んだ分の埋め合わせは
するから…宜しくな。じゃあ、後で会社で…」

 本多からの電話をそういって切っていくと、克哉は玄関のドアノブに
手を掛けて自分の部屋の中に入っていく。
  
―そこには、恨めしそうな顔をした眼鏡を掛けた自分がベッドの上で
身体を起こして待っていた。

「…あ、起きていたんだな」

「…おかげさまで、な。お前が移してくれた風邪のせいで…こちらは
安眠を妨げられたぞ。どうしてくれるんだ…?」

 じっとりと、射殺されそうな眼差しで見つめられるが…今朝の克哉は
それに動じる様子はなかった。
 
「そんなの、自業自得じゃないか。俺が風邪引いているって知ってて
好き放題やらかしてくれた天罰じゃないのかな?」

「…イイ根性しているじゃないか。お前…誰に向かってそんな事を
言っているんだ…?」

「ん~けど…昨晩、 お前に俺の風邪を移してやるって…散々、言って
いただろ? その上でオレを…お前は抱いたんじゃなかったのかな?」

「……まあ、な。だが何で、お前の方はピンピンしているんだ。この風邪は
元はと言えばお前が引いていたものだろうが…」

「さあ? 風邪って人に移すと治るっていうからね。…お前に移したから
治ったのかも知れないね…?」

 そういって、不敵に克哉は笑っていく。
 昨晩の死にそうだった容態が嘘のように、今朝は身体が軽かった。
 むしろ…昨日一日、高温が出ていたからこそ…克哉の風邪は全快
したとも言えた。

 風邪というのは、ウイルスが大量に体内に侵入してきたり…疲労物質
などの老廃物が過剰になっている時に起こる体内の浄化反応である。
 身体に害があるものを鼻水や痰などで体外に排出し、発汗して燃やし
尽くす事で完治する。
  
 昨晩、眼鏡に好き放題されて…克哉の身体は興奮でかなり長い時間
高温状態になっていた。
 その状態で大量に発汗したせいで…結果的に風邪の原因だった老廃物を
出し切ったので治った…が正解なのだが、二人にそこまでの知識はない。
 理不尽な結果に眼鏡は心底不機嫌そうにしていたが…相手のそんな顔を
初めて見れた事で克哉の方は愉快そうに笑っていた。

「…理不尽だな。どうして俺がお前ごときに風邪を移されて、寝込まなければ
ならないんだ…」

「ほらほら、拗ねないで。一応…コンビニでレトルトのお粥とか、弁当とか
買ってきておいたから…お腹空いたらこれ食べてて。今日は出来るだけ
早く帰ってくるから…な」

「…ちょっと待て。お前…俺に風邪を移しただけじゃなくて、俺を一人にして
会社に行くつもりか…?」

 かなり眼鏡は不機嫌そうな表情で尋ねていく。

「うん…そのつもりだよ。昨日は当日に欠勤して迷惑掛けてしまったし。
自分の分の仕事はちゃんと片付けに行ってくるよ」

 それがまったく悪びれる様子もなく、ニコニコ笑いながら言ってのけられた
ので…眼鏡は瞬間、相手に殺意を覚えていた。
 自分自身でも、何故こんなに苛立たしいのか…原因はまったく
判らなかったが。

「帰って来たら、ちゃんと昨日…お前がしてくれたみたいに、俺も
お粥作るからさ。今朝はちょっとギリギリだから…これで勘弁して
くれな。昨日の残りの粥と、レトルトの粥二食分あれば足りるだろうけど
足りなかったらカルビ弁当も食べてて良いから」

「…お前はバカか? 病人がカルビ弁当なんぞ食える訳がないだろうが…」

 ワナワナと震えながら、シーツを握ってとりあえず怒りを逃していく。
 気に入らない。
 いつもなら自分の方が相手を手玉に取って翻弄し続けてきたというのに
今回に限っては、克哉の方にいつの間にかリードを取られてしまっている
状態が非常に気に食わなかった。

「ん? カルビ弁当は元々オレの夕食のつもりで買ってきているんだけどね。
足りない場合は…ってちゃんと言ったろ?。それじゃ台所にはお湯ですぐに作れる
生姜湯とかホットレモンとかあるから…好きに飲んでてくれ。じゃあね!」

 会話をしている最中も、克哉はバタバタと身支度をして…会社に行く
準備を進めていく。
 よっぽど、無理やり組み敷いて会社に行くのを阻止してやろうかとも
考えたが…悲しい事に、熱で身体がダルくて、イマイチ動くのも億劫に
なっている状態だった。

「あ、そうだ…」

「まだ何か…あるのか…?」

 玄関を出る手前、思い出したように立ち止まって…眼鏡の方に
振り返っていく。
 玄関のドアから微かに差し込む朝日が…克哉の顔で反射して
白く輝かせていた。

「今日、絶対に早く帰ってくるから…待ってて…な?」

「っ!」

 一瞬、心臓が止まるかと思った。
 滅多に見た事がない、はにかむような可愛い表情を浮かべられて
眼鏡はあっけに取られていた。
 自分とこいつは、基本的な顔の造作はまったく一緒の筈なのだ。
 それなのに、思ってもいなかった予想外の表情を浮かべられて…眼鏡は
相手から顔を背けて…咳払いを一つして、答えていった。

「…絶対だな。…約束はキチンと、守れよ…」

「うん、じゃあ…行って来る。じゃあね…<俺>」

 そうして、克哉はとびっきりの…子悪魔のような魅力的な笑顔を浮かべて
朝日が降り注ぐ中、出勤していったのだった―。


 
 

  妖艶に微笑んだもう一人の自分相手に、眼鏡は一瞬…硬直して、身動き
出来ないでいた。
  いつもよりも少し強気になっている克哉は、そんな隙を見逃さなかった。
  自分から積極的に舌を絡めて、相手の唇を何度も吸い上げていく。

「ん、んっ…ぁ…」

 甘い声を合間に漏らしながら、今まで…眼鏡とセックスはしている癖に、キスは殆どして
来なかった事に気づいた。
 この間、オフィスで襲われた時にやっと…初めてしたくらいだ。
 初めての時はもう一人の自分と対面している異常事態に混乱していた。
 二度目の時は、迷っている内に気づいたら挿れられていた。
 三度目は、生クリームまみれにされて、訳判らない内にバナナを口に突っ込まれながら
抱かれていた。

(…何かロクな事されてないよな。こいつには…)

 そう、基本的に会う時は無理やり貫かれて…優しくされた事なんてまったくない。
 なのに、嫌いになれない自分を…不思議に思いながら、優しく頬を撫ぜて…相手との
深い接吻を続けていく。
  風邪を移す、という嫌がらせの行為に…気づけば没頭し、こちらの欲望も一層大きく
煽られて…冷えピタの下から性器の先端がヒクヒクと震えて、蜜を大量に零していく。

「…俺とキスしてて、もう…こんなになっているのか…大した淫乱だな、<オレ>…?」

「あっ…」

 体制を立て直した眼鏡に、やんわりと先端に近い場所を握られていく。
 先程より少しあったまっていたが…冷えピタ特有の青く柔らかいジェルが、手で
扱かれる度に絶妙にこちらを刺激してくる。
 柔らかくヒンヤリした感触と、段々熱を持ってくる自分のペニスの極端な温度差に
余計に性感を高められて…克哉は、余裕なさげに腰を揺らしていく。

「さっき…生意気な事を言っていた割には…随分と気持ち良さそうに腰を
揺らしてくるじゃないか…? 俺に風邪を移すんじゃなかったのか…?」

「あぁ…そのつもり、だよ…」

 そういって、熱っぽい瞳を浮かべながら…もう一度、眼鏡の首元に腕を
回して、しっかりと抱きつきながらキスを施していく。
 互いの唾液が混ざり合い、舌が蕩けるように絡まりあっていく感触に
どうしようもなく欲望が高まっていく。

(…初めて、かも…。今夜は、凄く…こいつが、欲しいと…思ってる…)

 一方的に身体を弄られて、無理やり開かれる形ではなく…積極的に
自ら求めた事で、克哉の心境も…いつもと少し異なっていた。
 キス、というのは不思議だ。
 好意がある相手となら、それだけで…心が満たされるし、気持ちよくなって
天にも昇る気持ちになれる。

「…俺の風邪、絶対に…お前に移してやるから…覚悟、しておいてな…?」

 チュっと音を立てながら、挑発的に相手の瞳を覗き込んでいく。
 いつもと違う…強気で、魅惑的な表情を眺めて…眼鏡は心から愉しそうに
笑って…相手の首筋に噛み付いて応えていく。

「…今夜は、随分と手応えがあって…愉しめそうだな。そうだな…せいぜい、
俺を退屈させないようにな…<オレ>…」

 そのまま、足を大きく開かされると…胸に塗った風邪薬を潤滑剤代わりに
蕾に塗りたくられ、そのスースーする感覚に、克哉は思わず文句を言う。

「つ、冷たいっ! それ…嫌いだって、何回言ったら…」

「風邪引いているんだったら、大人しく塗っておけ。ここも…こんなに
熱を持ってヒクついているんだからな…?」

 ククッっと喉の奥で笑いながら、眼鏡は…克哉の最奥を指の腹で探り、すでに
熱く蕩けかけていた場所を刺激し続けていく。
 自分でも其処が激しく収縮して…物欲しげに蠢いているのが判る。
 荒い吐息を零しながら、必死に克哉は目を閉じてその感覚に耐えていた。

「…ほ、んとうに…意地悪、だ…お前は…」

 熱く潤んだ瞳を相手に向けながら、克哉は眼鏡の腕の中で
拗ねた表情を浮かべていく。

「…そんな事、判りきった事じゃないか…なぁ…<オレ>」

「ひぃ…やぁ…!!」

 いつもの不遜な顔をしながら、眼鏡の身体が克哉の足を割り込み
一気に最奥まで貫いていく。
 克哉は布地の上から、相手の背中を掻き毟るようにしてすがり付いて
その衝撃を逃していく。

「…イイ、味だ…俺に次第に…ここは慣れてきた、んじゃないか…?」

「ん、はぁ…あぁ!! そ、そんな事…ないっ!」

 言葉ではそう言いながらも、克哉の体内は食いちぎりそうなくらいに
激しくヒクついて…懸命に眼鏡のモノを搾ろうとしている。
 もう、その後は…理性など吹き飛ぶくらいに激しく揺さぶられ、犯され
続けるしかなかった。
 相手に与えられる感覚で、燃えるように身体が熱く昂ぶっている。
 玉のような汗が大量に克哉の肌に浮かび上がり、身体が揺れる度に
いつしか滝のように肌の上を流れ落ちていく。

「や…あぁ! も、もう…ダ、メ…だ…! イクっ…!」

 眉を顰めながら、最初の絶頂感を覚えて…克哉は啼いた。
 性器の先端からドッと勢い良く白濁を吐き出していく。
 それから間もなく体内の相手の、熱い脈動と…精を感じ取って
克哉は何度も身体を痙攣させて、それを受け入れていく。
 強すぎる快感に、すでに頭に霞が掛かったような状態になり
絶え間ない荒い呼吸が部屋中に響き渡る。

(も、う…意識、が…)

 心地よい疲労感と甘い快楽の余韻に浸りながら…克哉の意識はゆるやかに
まどろみの中に落ちていく。
 それが―今夜の、克哉の最後の記憶だった―

 
 
  
 眼鏡を掛けた自分にベッドの上に組み敷かれている間、克哉は必死になって
熱でぼけそうになっている頭を働かせていた。

(…毎度、毎度…こいつの好き放題にされてて…良いのか? オレは…?)

 もう一人の自分の事は嫌いじゃない。
 むしろ、さっき…少し優しくしてもらって嬉しいと思う程度の好意は
あると思う。
 しかし毎回、こちらばかり…相手に振り回されている状況をどうにか
一度くらいはひっくり返してみたかった。
 しかしそんな事を考えている間に、眼鏡は楽しそうに笑いながら…
自分の上着のポケットに忍ばせていた青い容器を手にとっていく。
 …そのラベルには見覚えがあった。

「そ、れ…」

「さっき…救急箱を覗いてみたら、入っていた…せっかくだから、これを
使ってやろう…」

 以前、コマーシャルで頻繁にやっていた…塗る風邪薬という奴だ。
 興味持って買ったは良いが…何となく馴染めずに、1~2回使って
長い間放置されていたソレを眼鏡はいつの間にか見つけていたらしい。
 相手がそれをたっぷりと掌に載せる様子を見て、ぎょっとしていく。
 メンソレータム系の、独特の香りが鼻腔を突いて…それで何となく
克哉は酔いそうになりながら、抗議していった。

「ま、待てって! オレ…それ、スースーするし…匂いも何か嫌だから
苦手、なんだって!」

「…お前は風邪引いているんだ。薬は必要だろう…?」

「だから! 自分で飲むからそれは塗るなって! オレ…本当に
その匂い駄目なんだから!」
 
 必死に身を捩って、魔手から逃れようとしている間に…シーツの上で
相手に背後から抱きすくめられる格好になっていた。
 背面からしっかりと押さえつけられた状態では、振り解かない事には
逃げようがない。

「ひっ…やぁ…冷たっ…」

 白く半透明なジェル状の液体を胸元にたっぷりと塗りつけられて
その冷たさに克哉は思わず身を竦めていく。
 しかしそんな彼の反応も…眼鏡にとっては愉しくて仕方がないらしい。
 いつもの余裕ありげな表情を浮かべながら…相手の耳朶を甘く噛んで
囁いていく。

「我慢しろ…俺は親切に、お前に治療を施してやっているんだぞ…?
お前は、俺の好意を無下にするつもりなのか…?」

「っ…! こんな、真似…して…どこが、親切…なんだよ…!」

 克哉のパジャマは、眼鏡の手によってかなり派手に肌蹴られていて…
鎖骨から臍の周辺まで外気に晒されていた。
 細長い指が、胸元全体をやんわりと撫ぜて…胸の突起を弄り始めれば
あっという間に其処は硬く張り詰めて弾力を伴っていく。

「や、やめ…ろってば…! 其処ばっかり…ど、うして…」

「…お前が、ここを弄って欲しがっているんじゃないのか…? 少し俺が
触れただけで…もうこんなに硬くなっているぞ…?」

 クチュリ、と音を立てながら…相手の舌先が侵入して、淫靡な水音を
立てていく。
 耳の穴を舌先で犯されて…それだけで、すでに身体に火が点きそうに
なって…そんな自分に羞恥を覚えていく。

(どうし、よう…! このままじゃ…また…コイツに、俺は…!)

 相手から、すでに何度も深い快感を与えられて…翻弄させられた身体は
克哉の意思と反して、すでに熱を帯び始めている。
 風邪の発熱以外に、相手の愛撫によって呼び起こされる…熱によって
頭の中が蕩けそうになって…それに従いたい衝動に駆られていた。

「相変わらず…淫らな身体をしているな…。嫌だ、と言っている割には
俺の手が滑る度に…ビクビクと身体を揺らして悦んでいるじゃないか…?」

 相手の手がゆっくりと下降し…臍の周辺を辿った後に…やんわりと
克哉の下肢をパジャマの上から握り込んでいく。
 それだけで甘い痺れが強烈に走って…腰が蠢きそうになる。

「あ…んんっ…!」

 甘い声を出して…身体全体を揺らしていくと…更に眼鏡の手の動きは
大胆になって…パジャマの隙間から手を差し入れて…こちらの性器を
直接握り始めていった。
 熱を帯びた己の幹が…先走りを滲ませていることを、手が動く度にネチャネチャ
といやらしく音が立つ度に自覚させられていく。

「…ほう。ここも随分と熱を持って…熱くなっているじゃないか…? それなら
ここも冷やしてやった方が良いんじゃないか…? なあ、<オレ>…?」

「ひぃっ!!!」

 いきなり、ペニスを外気に晒させたかと思えば…先端の敏感な部分に
冷えピタを貼られて…その冷たさに克哉は鋭い悲鳴を上げるしか出来なかった。
 狂いそうなくらいに熱くなった芯に、そんな冷たいものをいきなり押し当てられたら
その刺激だけで、つい放ってしまいそうになって…身体を激しく竦ませていった。

「へえ…随分と…甘い声で啼くじゃないか…。お前はやっぱり…こんな真似されても
感じまくる…変態だと、そういう訳なんだな…?」

「ち、違う…って、ば…」

 愉しそうに眼鏡が笑う様子を…悔しそうに必死に目を瞑って…微かに反論していく。
 しかし後は快感に耐える以外に、今の克哉には術がない。
 それが無性に悔しくて仕方なかった。

(…何でこいつは、こっちが風邪で参っているっていうのにいつもと変わらずに
こんな真似をしでかすんだよ! 少しはこっちの身体の事を労わって…)

 と、考えている最中…一つ引っかかった事があった。
 そう…今、自分は風邪を引いているのだ。
 だからこの男が現れたのだし、こんな状況になった。
 たった一つの…この状況をひっくり返せるカードをようやく見つけ出し…
急に克哉は…相手の方に腕を伸ばすと…唇を強引に塞いでいった。

「っ!?」

 今度は…眼鏡の方が驚きで目を見開いていた。
 何度も克哉を抱いてきたが…ただの一度も、この相手は…この段階で
自分から積極的になるような事はなかった。
 欲望を煽り続けて…深い快楽に落として、ギリギリまで追い詰めなければ
決してこちらを求めて来ない筈の相手から…ふいにキスされて、眼鏡はすぐに
反応出来ずに…手を止めるしかなかった。

「いきなり…どうしたんだ…? お前は…?」

 眼鏡は、驚きを隠せない顔でこちらを見つめていた。
 その顔を見て…克哉は初めて、この相手に対して先制攻撃が成功したのだと
いう満足感に浸っていく。

「…気づいたんだ。今日だけは…俺が切り札を持っているっていう事に…」

「…何だと?」

「…ねえ、知ってる…? 風邪って…こうやって深いキスとかしたら、相手に
移るんだよ…?」

 悠然と、艶やかな表情を浮かべながらゆっくりと克哉は…唇を寄せて
自分の方から、相手の口腔に舌を差し入れていく。
 
 この時―初めて、克哉は…眼鏡を相手に…自分が優位に立つ事に
成功したのだった―。

 



 
「…お前はバカか?」

 冷えピタを貼られて、第一声がそれだった。

「…顔合わせた早々、人をそんなバカ呼ばわりしなくたって良いじゃないか…」

 少し怒っている風な相手に気後れして…弱々しくしか言い返せなかった。

「…風邪なんて、自己管理が出来ていない証拠だ。…まったく、そんな状態で
俺を呼ぶとは…イイ根性をしているな。お前は…」

「よ、呼んだって…俺が…?」

「そうだ」

 …確かに、さっき少しだけ…もう一人の自分の事が頭を過ぎっていた。
 しかし…柘榴の実を齧る事なく、彼が自分の目の前に現れたのは初めての
経験だったので…克哉は軽いパニック状態に陥っていた。

「…そんな空腹の状態で俺を起こしてくれたもんだから…おかげで
俺も強烈な空腹感を覚える羽目になった。…いつまでもそんなのは御免
だからな。…仕方なくこうして作ってやる事にした。感謝するんだな…」

「えっ…?」

 こちらが驚いている間に、眼鏡は台所に向かって…お粥が入った皿を
乗せたお盆を運んで来た。
 一杯の水が入ったグラスに、スプーンが添えられていた…それを見て
克哉は再び、驚くしかなかった。

「これ…本当に、お前が作ってくれたのか…?」

「…不本意だがな。食えるか…?」

「…ん、けど…起き上がるの辛い、かも…」

 丸一日以上食べていない身体は、熱っぽい上に力も入らない。
 ベッドから起き上がって食べるのも何となく億劫な気分だ。

「…仕方ない。俺が食わせてやる」

「えぇ!!」

 今日の眼鏡は、通常からかけ離れた言動ばかりするので本気で
こちらは驚かされっぱなしだった。

「…お前がそのまま空腹でいると、俺もその苦痛を味あわされるんだ…。
仕方がないだろう…」

 溜息をつきながら、眼鏡が…克哉の枕元にお盆を載せて、スプーンで
一口分のお粥を掬い取ると…何とそれを吹いて冷ましてから克哉の口元に
運んでくれた。

「…毒、とか変な薬は入ってないよな…?」

「酷い言い草だな…<オレ> 今はお前と若干感覚を共有させられている
状態だから、そんな真似したら…俺の方にも被害が出るからな。
 そんな馬鹿な真似はしないさ…」

「そうなのか…? 判った…頂きます…」

 何となく眼鏡が不機嫌そうなので、それ以上は余計な事は言わずに
お粥を口に運んでいく。
 うっすらとオレンジ掛かった色のタマゴ粥は…ほんのりとした酸味と、コショウの
風味が良く効いていて…とても美味しかった。

「あれ…ちょっとほんのりと酸味があって…美味しい…」

「香り付けに柑橘類を少々入れたからな。悪くないだろ…」

「へえ…うん、良い香り。こういう使い方もあるんだね…」

 そういえば昔読んだ本の中にそんな小技が載っていた気がするが
眼鏡を掛けた状態の自分はしっかりとそれを生かしているらしい。
 何口かスプーンでそうやって、お粥を運んでもらうと…やっぱりこの相手が
そんな優しいことをしてくれるのが信じられなくて、けど…嬉しくて…克哉は
目を細めて笑んでしまう。

「…何を笑っているんだ…?」

「いや…何か、一人で今日は心細かったから…。何かこういう風に優しくして
もらうと…凄い、嬉しいなって…そう思って…」

「…優しい? 俺がか…? 俺は止むを得ずにこうしているだけだとさっき話したと
思うが…?」

「うん…それは承知の上なんだけどね。でも…やっぱり、俺は嬉しいんだよ…」

 そう言われて、不可解だと言いたげに眼鏡の顔が不機嫌そうになっていく。
 
「…相変わらずおめでたい思考回路をしているみたいだな…お前は。
俺が自分の利益や愉しみに繋がらない事を喜んでやる性分とでも
思っているのか…?」

「…思ってないけど…さ。それでも少しぐらいは…お礼言ったって良いだろ…
ありがとな…」

「っ…!」

 熱っぽく潤んだ瞳で、克哉にお礼を言われて…眼鏡の顔が一瞬、強張って
いった。
 慌てて口元を手で覆って顔を背けていくと…一瞬、大きく脈動した自分の鼓動に
不機嫌そうに眉を顰めていく。

(一体…どうしたというんだ…? 俺ともあろうものが…)

 一瞬でも可愛い、とか感じてしまった自分に…動揺するしかなかった。

「…どうしたんだ…?」

 不思議そうな顔を顔をして、克哉がこちらを見上げてくる。
 弱々しく…どこか頼りない、性格もまったく正反対な…自分。
 それを見て…眼鏡は酷い苛立ちを感じていた。

「…別に。そろそろ…お前にこうしてやっているのも飽きたから・・・俺の好きに
させて貰おうと考えていただけだ…」

 しかし、内面の動揺を一切漏らさずに…相手の顔を不敵な笑みを刻みながら
見つめていく。
 瞳の奥に宿る、獰猛さと冷淡さが同居している輝きに…克哉の背中はビクンと
強張っていった。

「ほう…察しは良いみたいだな…これから、俺がどうするつもりか…読めたのか…?」

「ちょ、と待て…こんな、時まで…もしかして…」

「…俺がお前の前に現れて…何もしなかった事があったか…?」

「っ!!」

 その一言を言われて、克哉の顔が一気に赤く染まっていく。
 今までの快楽の記憶が一斉に喚起されて…ベッドの上で身体を強張らせていく。

「お前に奉仕する時間は終わりだ…せいぜい、後は楽しませてもらおうかな…?
なあ、<オレ>…?」

 そう言いながら眼鏡はベッドの上に乗り上げて…克哉の唇をそのまま深く塞ぎ…
ギシリ、と大きくベッドが軋む音が部屋の中に響いていった―。
 気づけば、一日がうつらうつらしている内に終わっていた。
 窓を見れば、外は逢魔ヶ時を迎えている。
 夕暮れと夜の境…太陽と月が同時に空の上に存在する短い時間
昔の人間はこの時間帯に魔…人ならざる者と遭遇する、と考えられて
いた時間帯。
 克哉は…鮮やかな橙と白い雲と…そしてゆっくりと降りていく薄い藍色の
闇の帳を…室内から眺めて、学生時代にどっかの小説か漫画に書いて
あった一文を思い出していた。

「…綺麗だな。普段、この時間帯は会社の中にいて…こんな風に
夕暮れをじっくり見る事なんて滅多にないし…」

 一日中寝ていたせいか、背中がひきつるように痛いし…何となく
身体にも力が入っていない気がした。
 ぼんやりと外の景色を眺めている内に…また熱が出てきたのか
頭が朦朧としてくる。

 普段は気ままで良いと思う一人暮らしが、ちょっと切なくなるのが
こういう体調を崩した時だ。
 家族と同居していると時に煩わしい時もあるが、看病して貰えるし
身の回りの事もやってもらえる。
 ―こんな時だけ都合良いというのは承知だが、誰かにおかゆの一つ
でも作って欲しいな…と思う。

「たまごの入ったお粥…食べたいなぁ…」

 しかし悲しいかな、一人暮らしでは…食べたかったら、自分で作らないと
いけない。

「喉も渇いたしな…薬も飲まないといけないけど、何か食べてからじゃないと
胃がやられるし…」

 朝に片桐に直接電話してから、2回くらいトイレに立ち上がってその度に水分を
摂った以外に本日は何も口にしていない。
 丸一日以上、胃に何も入れていない事になる。
 寝ていればそれも紛らわせられたが、空腹もそろそろ限界だ。

「…こんな時、もう一人誰かが…いたらな…」

 そう呟きながら、克哉は荒い吐息を零していく。
 脳裏に色んな人の面影が浮かんで、消えていった。
 ―弱っている時、自分は果たして誰に傍にしてもらいたいのだろうか。
 自分の家族、かつて別れた彼女―今身近にいる八課の仲間である片桐さんか
本多か、それとも…御堂さんか、太一か…もしくは…。

「…ったく、普段は…突然前触れもなく顔出して、オレを困らせるだけなのに…
どうしてこういう時に手助けの一つもしてくれないんだか…」

 ふと、もう一人の自分の顔が浮かんでは…消えて、ついぼやきの一つも
漏らしてしまう。
 どうして…思い浮かんだのか、自分でも判らない。
 あんな身勝手で、意地悪で…こっちを困惑させるような真似しかしない奴
だというのに。

「…それでも、いて…くれたら、な…何か今日は、参っているな…オレ…」

 ベッドの上で…両手で顔を覆いながら、つい…弱音を零してしまう。
 多分久しぶりに風邪なんて引いて…弱気になっているだけだ。
 自分でもそう思うんだが…何となく、誰かの温もりが無償に恋しくて
仕方なかった。
 
 最後に人と温もりを分かち合った相手がよりにもよって…眼鏡を掛けた
もう一人の自分という訳の判らない事になっているから、そんな妙な事を
考えているだけだ。
 そう考えて、克哉は…また、緩やかに意識を落としていく。

 ―どれくらい、時間が経ったのだろうか。
 何か良い匂いが…部屋の中を漂っている。
 これは…自分が望んでいた、お粥の匂いだろうか。
 台所の方から、明かりと…人の気配を感じる。

(誰だ…? 誰か来て…オレに何か作ってくれているのかな…?)

 身体を起こして、台所の方を見ようとするが…空腹の為に…それくらいの
力すら入らない。
 それでもモゾモゾとベッドの中で動いている内に、ドスドスとちょっと
荒っぽい足音がこちらに近づいてきた。

「…やっと起きたか…<オレ>」

 低く掠れた、何度か聞き覚えがある声。
 
「えっ…?」

 顔をゆっくりと上げると…額に何故か青筋を立てて不機嫌そうにしている
もう一人の自分と目が合った。

「どうして、お前が…ここに…?」

 さっき…確かにこの男の事を考えていたけれど、こうして本当に現れると
戸惑いしか感じない。
 これならまだ…本多が台所に立って、「風邪引いているのなら栄養バンバン
つけないとな!」とか言いながらあのダイナミックなカレーを作っている場面に
遭遇した方が驚かなかっただろう。

「うるさい。少し大人しく黙っていろ…」

「わわっ!」

 そうして、問答無用に何か冷たいものを貼り付けられた。
 ―それが冷えピタである事に気づいた時…克哉はもしかして、この男は
自分を看病しに来てくれたのか…? などとつい甘い事を考えてしまっていた―。



 ピピッ!!
 
 ある秋の日の早朝。
 電子音が聞こえたので、脇の下から体温計を取り出していく。
 そこに表示されている温度を見て、克哉は深い溜息を突いていく。

「…37・8度か…」

 昨日から、セキは絶え間なく出まくっていた。
 身体はダルいし、節々も痛む。しかも熱まで出している。
 紛れもなく風邪だった。
 
「…今日はやっぱり、休ませてもらうしかないよな…」

 昨日の夕方辺りから、熱が出て頭が働かなくて全然駄目だった。
 結局、自分の分の打ち込み作業は…八課の仲間たちがそれぞれ分担して
やってくれたので…支障は出なかったが、それでも休んで、みんなに
負担を掛けると思うと…申し訳なくなってくる。

「…早めに片桐さんに連絡しないと…」

 ベッドの傍の透明な机の上に置いたあった携帯を手に取り、片桐の携帯に
まず連絡していく。
 片桐は八課の中で一番早く出社しているとはいえ、7時前のこの時間帯では
さすがに自宅か…通勤中のどちらかだろう。
 しかし何十回と呼び出し音が鳴り響いたが、片桐が出る気配はない。

「…今、マナーモードにしているのかな。片桐さんの…」

 片桐は周囲に凄く気を遣う性分である。
 その為、電車に乗る時は必ずマナーモード設定にするのを忘れない。
 しかし…元がおっとりしているせいか、振動の状態だとなかなか電話に
気づかずにいる事も多いのだ。
 ついでにいうと、マナーモードから通常状態に戻すのも忘れている
事が多い。
 その為、仕事中はともかく…時間外は片桐の携帯に繋がらない事が
多かったのを思い出した。

「…後で会社に直接掛けた方が確実かな…」

 そうして、ぎこちない動きで携帯のアラームを…会社の始業時間より20分前に
設定していく。
 もう一つ…保険として、本多の携帯に本日は風邪の為に来れそうにないので
休みたい、という短い一文を送信しておく。
 社会人のルールとして…自分で直接連絡するのが基本だが、万が一…アラームで
起きれなかった事を考えてそうしておく事にした。
 熱でこれだけダルいと起きれない可能性もあるし…連絡なしで休むよりは良い
だろう。そう思い、本多に一通のメールを送っていく。

「わっ!」

 すると送信して1分後には、本多から「大丈夫かっ! 克哉?」という短い
一文だが返信が届いた。
 本多らしい簡潔かつ、素早い返信につい…微笑ましくなっていく。
 一言だけだが、その速さに…本多が心配してくれているという気持ちが
伝わってきて、ついクスクスと笑ってしまっていた。

「まったく…本多ったら…」

 こちらも素早く、「大丈夫だよ。一日寝れば治るだろうから…」と短く打ち込んで
返信していく。
 その作業を終わらせると、ほっと一息を突いて克哉はもう少しだけ
朝のまどろみの中に落ちていった―。

 壁に凭れて、力尽きている克哉の傍に…Mr.Rは跪き、介抱を始めていく。
 全身に散らされている情事の痕跡を、目を細めながら見つめていた。

『あぁ…こんなにあの方に愛された証を身体に残して…随分と艶やかで良いですよ。
佐伯克哉さん…』

 楽しげに笑いながら、手袋を纏った手で…暖かいタオルを持ち、それを
克哉の肌の上に滑らせて…清めていく。
  首筋から鎖骨のライン、胸元を丹念に時間を掛けて拭って…情事の
痕跡を消していく。
 しかし、眼鏡に刻まれた赤い痕だけはくっきりとその白い肌に赤い花びらが舞っている
かのように残されている。

「んんっ…」

 Mr.Rの手が滑っていく度に、克哉は身体を震わせていくが…意識が覚醒するまでには
至っていない。
 睫を震わせているだけで、目を開く様子のない彼に…黒衣の男は更に語り続けていく。

『あぁ…本当に、あの方の腕の中で快楽に身悶えている貴方は素敵でしたよ…。
このまま連れ去って…私の店に永遠に置いておきたいと願う程にね…ですが、今は
まだその時ではありませんからね…貴方をもう暫くは『日常』の中に置いておいて
差し上げますね…』

 そうして、胸の突起の周辺や…臍の周りなどにこびりついた精液を綺麗に
拭い去っていく。
 いつの間にか嵐は去り、月と太陽が…雲の向こうに微かに浮かび上がっていく。
 微かに照らし出される月光が…克哉の肌を眩く照らし出し、その美しさに…Mr.Rは
妖艶な笑みを刻んでいく。

『本当に貴方たち二人は…私の魂を魅了するほど、美しく…魅力的ですね…』

 心からの感嘆の声を漏らしながら、性器の周辺も残滓を拭い終えていくと…
今度は克哉の蕾の中に、指を鉤状に挿入していく。

「っ!!」

 さすがにこれは意識がなくても、衝撃が走ったのか…克哉の身体が大きく
跳ねていく。しかし…瞼は開かれない。
 まだその意識は夢と現の狭間を彷徨い、覚醒までには至らないようだった。
 そうして…丁寧に時間を掛けて、眼鏡が放った残滓を…綺麗に掻き出して、
清拭は完了した。

『ふふ…これでも目覚めないとは、余程お疲れだったんですね…ご苦労様です…』

 労いの言葉を掛けながら、ヒラリと…黒い布を掛けていって…克哉の身体が
冷えないようにしていく。

『さて…我が主が望んでいた物を、貴方が目を覚ます前に…調達してくると
しますか。あの方も…本当に人使いが荒いですね…ふふっ…。
またお逢いしましょうね…佐伯克哉さん…』

 流れるような口調でそう言いながら、嬉しそうに笑みながら…黒衣の男の姿は闇に消えていく。
 そのまま夜明けまで―克哉は目を覚ます事なく、壁に凭れ続けていたのだった…。

                               *

 目覚めれば、気づけば朝だった。
 嵐が明けた後の朝は爽快で、昨夜までの暗雲の影はどこにも見受けられない。

「…っ! 作業は…!」

 ふと、打ち込み作業の事を思い出してすぐに意識は覚醒し、飛び起きていく。
 克哉が目覚めた時には…シャツもスーツも元通りに纏っていて…いつものように柘榴の実を
食べた時のように、己の精で衣類が汚れている事もなかった。

(…昨晩の痕跡がまったくない? じゃあ…あれは全て夢だったのか…?)

 衣類が汚れてない事は有難いが、そのせいで克哉には昨晩の出来事が現実だったのか
それとも自分が見た夢に過ぎなかったのか…その境界線が曖昧に感じられた。
 立ち上がって、身繕いを整えていくと慌てて資料室を出て…八課のオフィスに走って
向かっていく。
 すでに片桐部長と本多の二人が、パソコンの前に座って…作業を続けている姿が
視界に飛び込んで来た。

「おはようございます! 二人とも…資料の方はどうなったんですか?」

 もう一人の自分の事を信じれば、必ず終わっている筈だ。
 それは判っているのだが…やはりどうなったのか確認したくて、ストレートに克哉は
二人に尋ねていった。
 しかし本多も片桐も不思議そうに顔を見合わせて、首をひねっているだけだった。

「…克哉、お前…覚えていないのか? ついさっきまで…お前、眼鏡を掛けたまま
全力で…作業をずっと続けていただろ? お前が頑張ってくれたから俺たちはこうして
見返しの段階まで入れたんだぞ?」

「えぇ…そうですよ。私が五時くらいに起きた時には、佐伯君一人で…残っていた分の
半分近くはやってくれていましたからね。おかげで…私も本多君も、余裕を持って
確認作業に入れましたし。本当に、佐伯君には感謝していたんですよ…?」

「えっ…あ、はい。その…そう言って貰えるのはうれしいんですが…ちょっと、疲れて
少しの間…意識を失っていたもので。それで…まだちょっと頭がぼうっとしていたんです。
…打ち込みが終わっていたのが、夢じゃなかったのなら…良いんです。
変な事言って、御免なさい。本多に…片桐さん」

 二人の言葉を聞いて、克哉はほっとしていく。
 …間違いなく、もう一人の自分は約束を果たして…膨大な打ち込み作業を寝ている間に
終わらせてくれていたのだ。
 …あれだけ好き放題ヤラれて、貪りつくされて。
 その事実だけだと恥ずかしいやら…少し悔しいような思いがするけれど、何だかんだ
言いながら…手助けをしてくれたのも事実で。

(…あれ? 何で俺…こんなに、嬉しいんだろ…?)

「…まあ、佐伯君も夜通しで作業してくれた訳ですし…睡眠不足でしょうからね。
少しぐらい記憶が前後してしまっても…多少は仕方ないと思いますよ。
さあ…MGNさんに提出出来る段階まで後、少しです。八課の他の人達が出社をしてくる
前までに…僕たちで終わらせてしまいましょう」

『『はい』』

 片桐の言葉に…本多と、克哉の声が重なる。
 こういう時…今までと違って、プロトファイバーの一件から真の意味で仲間と結びつく事が
出来たんだな、と実感が出来る。 
 打ち込み作業が終わらずに、二人の落胆の表情を見るくらいなら…昨晩、もう一人の自分に
好き勝手にされたとしても…この笑顔を見る事が出来て良かったと思えた。

(ありがとうな…<オレ>)

 心の中で、眼鏡を掛けた自分にそっとお礼を述べていきながら…ふと、入り口の扉の
方に視線を向けていく。

「えっ…?」

 そこに一瞬だけ…もう一人の自分が立って、強気な笑みを浮かべて…こちらを見つめていた。
 克哉からも彼を真っ直ぐ見つめていき、はっきりした口調で告げていく。

「本当に…ありがとう」

 そう短く告げると、眼鏡もまた…満足そうに、不敵に微笑み―そして幻のようにその姿が
掻き消えていく。

「あっ……」

 そして―朝のオフィスに…昨夜の名残である柘榴の甘酸っぱい香りが…仄かに漂い、
克哉の鼻腔を突いた。

 彼と会うといつも翻弄され、好き放題されるだけだった筈だった。
 しかし…対価を払わされる形とは言え、二度…こうして手を貸して助けてもらった
事で…克哉の中で以前ほど、もう一人の自分に対しての抵抗感はなくなっていた。

(また…いつか…会えるのかな…。その時はちゃんと―前回と、今日のお礼をしっかりと
言えると良いな…)

 そうして、克哉は空を見上げる。
 またいつか…彼と会える日を心のどこかで望んでいきながら―。

  己の腕の中で意識を失ったもう一人の自分を、壁に凭れさせていくと…行為で
汚れた全ての衣類を脱ぎ捨て、代わりに…先に相手に脱がせて、被害を免れていた
服一式を眼鏡は身に纏っていった。
 自分達の服のサイズは何もかもが一致している。
 汚れた衣類をそこら辺にあった大きめのビニール袋の中に押し込んでいくと
部屋の隅にいるMr.Rに向かって声を掛けていく。

「…朝までにこいつの分のこれと同じスーツを…用意しておけ。俺はとりあえず
約束した対価の分働いてくる。出来るな…?」

『えぇ…貴方の為ならば、それくらいお安い御用です。貴方の作業が終わる頃
までには必ずご用意してご覧に入れましょう…』

「…後、こいつの後始末も一応しておけ。このまま暫く目を覚まさなかったら
必要以上に痕跡が残る恐れがあるからな…」

『おやおや…随分とお優しい事を。何度か抱いて…佐伯様に情でも
移られたんですか? 貴方ほどのお方が…?』

 Mr.Rの物言いに、明らかに眼鏡は不愉快そうな表情を浮かべる。
 しかし金色の髪の男は動じる様子もない。
 いつもの余裕そうな笑顔を浮かべるのみだ。

「…それが、お前たちの世界のルールではなかったのか? 必要以上に
関係ない人間たちに痕跡を晒すことがなく…闇にひっそりと紛れて存在する。
…お前はそういう人種であったと記憶していたが…違ったのか?」

『いいえ、貴方の仰る通りですよ。私たちは…私たちを愉しませて下さる
素質のある人間以外の前に現れる事も、必要以上に関わることは望ましい
事ではありませんから。貴方の望む通り、佐伯様の介抱は私めがやって
おきます―。貴方はどうぞ、ご自分の事に専念なさって下さい―』

 闇の中、男が歌うようによどみなく言葉を紡いでいく。
 それはまるで…完成されたシナリオの台詞を一言一句違わずに
朗読するかのように滑らかな口調だ。

「任せたぞ…」

 傲慢な笑みを刻みながら、閉ざされていた扉を開いて眼鏡は資料室から
そっと退散していく。
 あぁ言っておけば…胡散臭い男ではあるが、やるべき事はやっておいて
くれるだろう。
 一応そう信じる事にして…眼鏡は第八課のオフィスの方へと足を向けていく。

「克哉! お前今まで一体何をしていたんだ…! ずっと探していたんだぜ!」

 室内に入った瞬間、本多に声を掛けられていく。
 その異常な状態につい眼鏡は冷静に突っ込みを入れていった。

「…お前は一体、何をしているんだ。ふざけているのなら…それは笑えんぞ」

「ふざけてなんかない! 俺はどうにか…課の備品を守ろうと必死だったんだぞ!」

 そう、本多はMr.Rが先程起こした策略の為に一時間以上、ずっと…身を挺して
パソコンを守り続けていた。
 片桐の机の上に5台以上のパソコンが不安定な状態で重ねられていて…すでに
足元には二台が無残にも散らばって…モニターにヒビが入った状態で打ち捨てられている。
 タワー状態になったパソコンは微妙なバランスで成り立っていて…本多が支えていなければ
残り何台かも落下や転倒を免れなかっただろう。
 …結果的に邪魔者を足止めするには最適な状況を作り出した訳なのだが…この分では
自分達が愉しんでいた間、本多はまったく作業を進める事など出来なかっただろう。

(まったく…こちらの仕事を増やしてくれるとは…イイ根性だな、あいつは…)

「克哉! お前が来てくれたならこの状況を打破出来る! 頼むから手伝ってくれ!」

「…不本意だが仕方がないな。…今、俺が代わりに支えているから…代わりにお前が
一番上のから順にパソコンをどけていけ」

「あぁ…頼んだぞ!」

 そういって、眼鏡が支えている間に…彼が指示した通りに本多はパソコンをどけて
タワーを解除していった。
 それでどうにか危機を乗り越えていくと、克哉は空かさずに…一台、一台のパソコンの
配線や電源コードの類を元通りに繋げて、復旧を始めていく。
 モニターが壊れてしまった二台は仕方ないが…それ以外の無事な機体はどうにか
元通りに稼動できる環境へと戻っていった。
 その動作はあまりにスムーズかつ優雅で、本多はただ口も挟めずに見守る事しか
出来ずに立ち尽くしていた。

「…出来たぞ。後は打ち込み作業を続ける。ロスタイムが多いが…これから俺が全力で
やればどうにかなる範囲だ。お前にも手伝ってもらうぞ…」

「あぁ…任せておけ! 俺たちのチームワークで絶対に打ち込みを間に合わせような!」

 眼鏡を押し上げる仕草をしながら、言い放てば…本多はまた耳にタコが出来ている
発言をのたまっていく。
 それで明らかに不愉快になって不遜な表情を浮かべていた。

(また…この男はこれか…。少し身体で判らせて、黙らせておくか…?)

 そんな苛立ちが胸の奥に湧き上がったが…今は残念ながら時間がない。
 ついでに言えば…すでにもう一人の自分から対価は貰い受けている。
 …眼鏡のプライドに掛けて、間に合わせなければならないのだ。
 だから、そんな真似をする時間すら今は惜しいのだ。

(ま…約束は果たそう。俺の全力を持って…仕事は片付けておいてやるさ。
…なあ、<オレ>)

 今は意識を失っている相手に向かって、不敵に笑みながら…心の中でそっと
語りかけていくと、眼鏡は…全力を持って仕事に当たり始めた。
 対価―報酬をすでに貰い受けた以上は全力でやるのは自分の義務だ。
 そうして、驚異的なスピードで完璧な資料の数々を打ち込んで作成し続けていく。
 間に合わないと思った仕事はこうして、彼の協力によって…完成へと
導かれていったのだった―。

 
『さあ、貴方たち二人が絡み合い、お互いを貪りあう姿を私に見せて下さい』

 歌うように、金色の髪をした男が告げる。
 その声を聞いて、克哉に辛うじて理性が戻っていく。

「じょ、冗談じゃ…んんっ!」

 今夜、何度目かの抵抗を試みたが…眼鏡に強引に唇を塞がれて、何かを
嚥下させられる。
 甘い蜜のような芳香の、ドロリとした液体だった。
 それが喉を通った瞬間…強くて甘い酒を飲んだ時のように…喉と腹が
焼けるように熱くなった。

「な、んだ…これ…身体が、熱い…くなって…」

「…あいつ特製の、口径用の媚薬だそうだ。…あいつが育てている植物の粘液から
採取したらしいがな…」

「…っ!」

 一瞬、この資料室で…謎の植物に犯された時の事が頭を過ぎる。
  初めて、あのざくろの実を拾って口にした時―謎の蔓植物に襲われて
問答無用で犯された事があった。
 悪寒と同時に…あの時の強烈な快感を思い出し…怯んでいる間に
甘い毒は克哉の意識と身体を蝕み始めていった。

「あぁ…ぁ…はぁ…」

 淫靡な記憶が蘇り、克哉は男のモノを最奥に収めたままで身悶える。
 首筋を幾度も舐め上げられ、吸い上げられていく度に鋭い痛みと同時に
甘い快感が走っていく。

「け、けど…み、す…た…あ…る…が…そ、こに…」

「…あれは単なる傍観者であり、外野だ。それにお前だって…見られていた方が
燃える筈じゃないのか…?」

「そ、んな…事、ないっ! や、やめ…」

「…今は俺だけを感じていろ…自分の欲望に、忠実になれ…」

 命じるように、眼鏡が告げると同時に…深く突き上げられ、克哉がもっとも
感じるポイントを容赦なく責められていく。
 相手の刻むリズムに合わせて、受け入れる場所がキツく眼鏡自身を
受け入れ始めていく。
 強烈に最奥が、収縮し続けているのが自分でも良く判る。
 己の芯に湧き上がっていく情欲はとっくに制御を失っていた。

「うあぁ…! く、うはぁぁぁ!!」

 的確に、自分が感じる場所を攻め上げてくるような男の動きに…克哉は
ただ必死に抱きついて堪えていくしかない。
 相手がスーツを着たままの状態でなければ、無数の爪痕がその背に刻まれて
いた事だろう。
 それくらいの強さで相手の背中にしがみ付き、強烈過ぎる愉悦に耐えていく。

 グチャ…グプ…ネチャ…グチュ…

 互いの粘液が接合部で混ざり合い、淫らな水音が静寂の中―響き渡る。

「はっ…ぁ…ぁ…やっ…あぁ…!」

 克哉はまるで何かの楽器のように、あえぎ声という音楽を漏らし続ける。
 奏者は眼鏡。的確に紡がれる手管で…今まで自分すら知らなかったような
甘い声を奏で続けていた。

(あぁ…本当に、素晴らしい舞台です…我が、主…っ!)

 Mr.Rが心からの感嘆を込めてその光景を眺め続ける。
 夜の闇の中で輪郭しか見えないのが残念だが、稲光が走った時だけ―
網膜を焼くかのように鮮烈にその場面が飛び込んでくる。

 デスクは今は舞台へと変わり―
 雷は彼ら二人を浮かび上がられる強烈なスポットライトに―
 強烈な雨音と雷鳴は場面を盛り上がらせるBGMとなり―
 克哉の喘ぎ声は、甘い色を帯びた歌声のようであった―
 
「も、ダメ…っ! この、まま…俺、おかしくっ…なるぅ…!」

 透明な涙を浮かべて、艶やかな表情を浮かべながら克哉が必死に
限界を訴えていく。
 体内の眼鏡の性器もまた、その興奮に連動するように大きく膨れ上がり
熱い先走りを滲ませていく。
 相手の脈動を感じ取って、自らも昂ぶっていく。
 熱い熱を求めて…自らの内部も貪婪に蠢いて応えていた。

「あぁ…今夜は、俺も…イイ…ぜ…このまま…蕩けようぜ…<オレ>」

「ひやぁぁぁ!!」

 断末魔のような声を挙げて、克哉が登り詰めて―先端から大量の白濁を
迸らせていく。
 ほぼ同時に眼鏡も達して―相手の最奥に熱い樹液を送り込んでいく。

「はぁ…あ、んう…」

 男の腕の中でガクリと脱力した克哉は…忙しなくなった呼吸を必死に
整えていく。
 眼鏡は、心から愉しそうに笑い―そして静かに唇にキスを落としていく。

「お前の中は…なかなかイイ味で、愉しめたぞ…なあ、<オレ>…」

 からかうような声の響きを、呆然と聞きながら口付けを受けていく。
 思ったよりも相手の身体が温かくて心地よくて、それだけで気持ちよくて
陶然となっていく。

(キス…凄く、気持ち良い…かも…)

 深い快楽の余韻に浸りきりながら―相手の腕の中にしっかりと納まったまま
克哉は、深い闇の中へと意識を落としていった―。

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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