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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

  夜街遊戯(克克)                 5           10 
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  ―ようやく待ち焦がれていたものを与えられて、意識の全てがその
快感に集中していった

「あっ…あぁぁぁ!!」

 焦らされ、高まった肉体にとってはその強烈な感覚は一種の暴力にも
等しかった。
 足をあられもなく広げられながら、深々と相手のペニスに最奥まで
串刺しにされてしまう。
 克哉は大声を上げていきながら、懸命に相手の欲望を受け入れていく。
 この街に最初に来た時も、たった今まで…背後から攻められ続けて…相手の
顔が見えない状況だった。
 だが、この瞬間…二人は向き合った状態のまま身体を繋げていた。
 大きく足を開かされて、相手の体重がしっかりと掛けられていて…克哉にとっては
やや苦しい体制だったが…眼鏡の顔が見える安心感の方が強かった。
 お互いに、大きく目を見開きながら…見つめ合い続ける。

―お前のその言葉は、本心か…?

 そう耳元で、囁かれたことは克哉にとっては衝撃だった。
 どうせこの時間は…相手にとってプレイの一環に過ぎないというのなら、
恐らくこちらの本気も、戯れで流されるだろう。
 半ばそれを覚悟した上で…けれど一度ぐらいは相手にダメだと承知の上で
この想いを告げてみるのも一興だろう。
 そんな想いで告げた『本心』に、相手がそんな反応をするなんて思っても
みなかった。

「はっ…はぁ…ぁ…はぁ!」

 乱暴に腰を突き入れ続けられる。
 狭い内部は荒々しく、もう一人の自分のペニスによって蹂躙されていた。
 相手が身体を揺すり上げる度に、グチャヌチャ…と音が響き続けていた。
 お互いに、信じられないという想いを瞳に宿しあいながら…見つめ合う。
 相手の本心を探り出そうと、その真意を見出そうと必死になるが…強烈な
快感に頭が蕩けかけて、何もかもがどうでも良くなりかける。
 けれど瞳で問いかける…もう一人の自分の眼差しは怜悧で厳しくて。
 曖昧なままでは許してくれそうになかった。
 だから、必死の想いで訴えかけていく。

「やっ…こん、な…状態で、答え…られない…よっ!」

 今の、眼鏡の一言はいわば…克哉にとっては思いがけない呼び水に
等しかった。
 流されると思っていた演技した上での、告白。
 それに…相手が、反応を示してくれた時に…直感的に思ったのだ。
 今…伝えなくては、いけないのだと…。
 もう…激しい攻めに、演技しようなんて意識なんてとっくの昔に吹き飛んで
どうでも良くなってしまっている。

―お互いの目線が、火花を散らす勢いでぶつかり合う

 その瞬間…相手の激しい腰使いが止んでいって…お互いに荒い
呼吸を整え始めていった。
 克哉はその瞬間、もう一人の自分の瞳に…強烈な感情の色を垣間見た。

「…お前が、あのままじゃ答えられないっていうから…止めてやったぞ。
さあ…答えろ。さっきのお前の言葉は…何だったんだ…?」

 顎をしっかりと捕まえられて、しっかりと顔を固定された状態で
問い質されていく。
 いつの間にか…先程までのこちらをからかっているようなそんな態度が
払拭されてしまっていた。

「…お前が、その気にさせてみろって…言ったんだろ…」

「あぁ、確かに言った。だが…あれは遊びの上のものにしては…少々
熱がこもり過ぎじゃなかったか…?」

 ここで一瞬、克哉は迷った。
 あれはあくまで…迫真の演技だったと言い張るか、本当のことを言うか
かなり葛藤した。
 どう返答するか…言葉に窮していく。
 
(…本当の事を、言うべきなのか…? あの好きだ、という言葉だけは…
まぎれもなくオレの本心だっていう事を…?)

 けれど、相手にとって…自分とのセックスは遊びに過ぎないのならば。
 プレイの一部に過ぎないと…そう想うなら、真剣な気持ちを訴えたところで
空しいものが残るだけだ。
 そう考えて…一瞬、演技だったと言いそうになった。けれど…。

「…本心、だよ…」

 けれど自尊心を守ろうという気持ちよりも…本音が、ポロリと自然と
零れてしまっていた。
 色んな感情が溢れて来てグチャグチャだった。
 快楽ではなく…気持ちが昂ぶり過ぎて、瞳から涙が滲み始める。
 胸に切ない思いが満ちていく。

「オレは…お前の事が、好き…なんだよ…!」

 泣きながら、気づけば…訴えかけてしまっていた。
 一度溢れてしまったら、もう止められなかった。
 その想いで…ここまで彼を追いかけて来た。
 どうしても会いたいと思ったし、勇気を絞ってここまで来たのだ。
 その果てに…ただの遊び相手としか、セックスの相手程度にしか見られていない
現状はあまりに悲しくて、切なくて。
 それでも…嫌われたくない一心で、相手の流儀に合わせようとした。
 けれど…もうダメなのだ。

(オレは…お前に、これ以上…単なる遊び相手としか扱われないことに…
もう、耐えられないよ…!)

 自分は好き、なのだ。
 本気で身も心も欲しいと望んでしまっている。
 なのに…その相手に、セックスの相手程度にしか思われない現実が痛かった。
 一度自覚したら…もう、抑えきれなかった。
 嫌われてしまうかも知れない。呆れられてしまうかも知れない。
 全身全霊を掛けて、抑え続けていた本心が溢れて…克哉の意思に反して
暴走してしまう。

「だから…もう、遊びは嫌だぁぁぁー!!!」

 相手の首元に両腕を伸ばして、しがみつきながら…克哉はその本心を
絶叫しながら訴えていった。
 お前の、本気が欲しい。真剣な気持ちが欲しい。
 胸の奥から溢れるのは、そんな真実。
 泣きながら、相手の唇に噛みつくようなキスを落としていく。
 …克哉の激情に、眼鏡は…驚きを隠せなかったようだった。
 茫然となりながら…克哉の叫びを、激しい口づけを受けていき…そして…。

「判った…」

 そう短くだけ告げて、眼鏡は再び…荒々しい律動を開始していった。

「あっ…!!」

 突然、前触れもなく…こちらのもっとも感じる部位を抉るように抽送を開始
されてしまって、克哉はビクリ! と大きく全身を跳ねさせていく。
 だがそれでも…眼鏡は一切、容赦する様子を見せなかった。
 瞬く間に呼吸すら満足に出来なくなるぐらいに、身体が追い詰められてしまう。 

「やっ…も、やだ…! 遊びなら…こんな、事は…もうっ…!」

 克哉は身を捩って、必死になって訴えかけていく。
 叫んで、自分でもようやく…胸に潜んでいた本心を知った。
 その直後だからこそ…もう、戯れならば…この夜の街で過ごす自分たちの
時間の全てが相手にとっては遊戯に過ぎないのならば…もういっそ
抱かないで欲しかった。

「オレに、本気じゃないなら…もう、抱かないで…くれよ…!」

 何度も逃れようと、克哉は必死になってもがいていく。
 その間に激しい腰使いは、一旦和らぐ形になった。
 深く身体は繋がっているのに、心が通い合っている実感はまだ
二人は感じられていなかった。
 ジタバタと暴れる克哉宥める為に、懸命にもう一人の自分は…
手を伸ばし続けていた。
 気づけば…お互いの指を絡ませ合うように、手が繋がれていた。

「…お前は、本当に…鈍い、な…。少しは、落ち着いて…考えたら、
どうなんだ…」

「な、にが…だよ…」

 手を深く繋がれた瞬間、克哉の抵抗は弱まっていく。
 その時、克哉は思いがけないものを見た。
 こちらを見下ろす…もう一人の自分の眼差しが、呆れた色をにじませながらも
とても優しかったことを…。

「この流れでも、まだ…俺がお前を抱いている…その事実が…
答えだと、判らないのか…?」

「えっ…」

「遊びなら、抱くなとお前が言ったんだろうが…それでも、お前は…
判らない、のか…?」

「…っ!」

 その言葉に、絶句して…反論の言葉を失ってしまう。
 代わりに…見る見る内に克哉の顔は真紅に染まっていった。
 それはあまりに遠まわし過ぎて、不器用過ぎて…判りづらいものだった。
 けれど…その一言でようやく気付く。
 相手もまた…戯れの気持ちだけで、こちらを抱いていた訳ではないという
その事実を―

「ずる、い…よ…」

 克哉の声は知らず、震えてしまう。
 一旦は治まりかけた涙が、再び目元から滲み始める。

「オレは…お前に、はっきりと…好きって…そう、伝えたのに…どうして、
お前は…そんなに、判りづらい形で、しか…言って、くれない…んだよ…」

 ポロポロポロ…と透明な涙が流れつづける。
 もう快楽とか、激情で…顔はクシャクシャだった。
 お世辞にも綺麗だとか、可愛いとか言えない表情。
 けれど…剥き出しの想いを伝えている克哉のその顔は、眼鏡の心を
強烈に揺さぶっていた。

「たった…一言で、良いから…好きだと…言って、くれよ…」

―その一言だけでも、構わないから

 これだけ、自分は彼を好きなのだ。
 だからどうか…この時間を戯れにしないで欲しい。
 自分だけが好きなのではなく、相手も同じように想ってくれているのだと…
求めてくれている実感を、自分は…欲しくて堪らなかったのだ。 
 子供のように、剥き出しの想いをぶつけてくる。
 今までの人生で…体裁も何もかもを放り棄てて、こんな本音を誰かに
伝えたことなど…克哉にとっては初めての経験だった。
 暫く、沈黙が落ちていく。
 無言の時間が流れる間、克哉の心臓はずっとバクバクと激しく脈動を
続けていた。
 先程まではお互いにあんなに…食い入るように見つめ合っていたというのに
今では本気で恥ずかしい上に…相手に呆れられたんじゃ、という不安でまともに
顔を見ることが出来ない。
 目をぎゅうっと瞑っていきながら…相手の返答を待ち続けていくと…。

「…まったく、お前は…本当に手間が掛かる…奴だな…」

 そう呟いた眼鏡の口調は、少しだけ予想より柔らかいものだった。

「えっ…?」

 そして克哉が呆けている隙に、もう一人の自分の顔が寄せられていく。
 あ、と思った時には遅かった。
 克哉の唇はしっかりと眼鏡の唇で塞がれてしまっていて…。

―好きだ

 と…待ち望んで止まなかった一言が、ようやく…彼から伝えられた。
 その瞬間、嬉しくて仕方なくて。
 胸の中から…何か温かいものがジワリと溢れて来て止まらなかった。
 その瞬間…克哉は、紆余曲折の末に…やっと得難いものを手に入れられたような
気持ちになっていった。

「凄く…嬉しい…よ…ありが、とう…『俺』…」

「…そうか。なら…俺を全力で、これから…感じろ…」

「うん…」

 克哉は、相手をしっかりと内部に納めた状態で…泣きそうな顔で、
笑みを浮かべていった。
 気づけば、先程着せられた衣類も…相手が纏っていたスーツも全てが
取り払って、ベッドの上で身体を重ね合っていた。
 改めて両者とも全裸になっていくと…それから律動を開始されていく。
 何度も途中で止められてしまっているせいで、再開されれば瞬く間に…
お互い熱くなって、今度こそ言葉を交わし合う余裕など失くしていってしまう。
 その一言を聞いたら、衣類も虚飾も…全てを無くしてしまいたくなったから。
 克哉が至福の顔を浮かべていくと…もう一人の自分の表情も随分と穏やかな
ものになっていく。
 こんなに優しい顔など、今まで見たことなかった。

(…『俺』って…こんな顔も、出来たんだな…) 

 トロリ、と淫蕩な表情を浮かべながら克哉は…相手のその表情に
見蕩れていった。
 好きだ、という想いが溢れていく。
 止まる事を知らず、自分の胸の中で広がり続けている。
 やっと、自分は…見つけることが出来たのだと…克哉は思った。

―誘惑が多いこの街は、沢山の戯れの恋で満ちている

 傷つけあわない為のルール
 温もりだけを求める為の流儀
 心を伴わないようにすることで、相手が他の相手を選んでも
目の前から去っても…恨みに思わないように心がける
 そういった条件の元で刹那の恋を求める夜街

 ここに迷い込んだから、克哉は…自分との事は彼にとって遊びに
過ぎないのだと絶望すら感じた。
 けれど…そう、最初は眼鏡にとって…克哉との事は戯れだった。
 だが克哉の中で気持ちが育っていく過程で、同じ想いは眼鏡の中にも
育っていたのだ。
 しかし、それが真剣なものだと先に自覚したのは…克哉の方が先だったと
それだけの話だったのだ。
 そして…開き直りが入っていたとは言え、克哉は本心を口にした。
 其処でようやく…眼鏡の心にあった虚飾を取り払えたのだ。

 相手に拒絶されるかも知れない。
 嫌われてしまうかも知れない。
 そんな恐怖心が湧いて、己の心を欺いて…意地を張って相手に好きだと
伝えられないことは誰にだってあるだろう。
 けれど本当に欲しいものは、勇気を出して真実を伝えなければ…得る事など
出来ないのだ。
 戯れの恋でも、その中で本気の想いを宿して…それをぶつければそれが
真剣な恋愛に発展する可能性だってあるのだ。
 人の心は移ろいやすく、変化しやすい。
 なら…真実の気持ちを伝えれば、それが本当の愛になる事だって…勇気を
出して向き合う事さえできれば…可能性は、あるのだ…。

「好き、だよ…『俺』…」

 克哉は、何度も何度も…やっと言えるようになった本心を伝えながら
全身で相手を受け止めていく。
 一度、開き直って正直になれば…もう怖いものなど、何もなかった。
 そして待ち望んでいた言葉を、相手も返してくれる。

「俺、もだ…」

 短い一言。されどずっと克哉が欲しかった相槌。
 嬉しかった、そのまま死んでも悔いがないぐらいに満たされていく。
 そうして、快楽で頭の中が真っ白になる。
 息が詰まって、そのまま苦しいぐらいの強烈な悦楽。
 それを相手と共有していきながら…。

「んぁー!!」

 相手の腕の中にしっかりと包みこまれていきながら…一際高く克哉は啼いていき、
そうして…まどろみの中に意識を緒としていったのだった―
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 如月さんの処の絵茶に、こっそりお邪魔させて頂きました。
 絵茶開かれるなら、ちょっと仮眠取って行こうかなと…と準備
していたら…。

 目覚ましぶっちぎりで眠っていたよ!

 …という訳でえへ、ほぼ午前二時前後からこっそりと参加
させて頂きました。
 何というか、某H嬢とは入れ違いだったけど…一枚、主催者の
如月さんが常々、彼女が言っている発言を反映するネタ絵を
一枚描いて、マジ大爆笑しました。
 その後、澤村祭りというか各々…好き勝手に弄りつつも熱い
トークをかましているのが非常に印象的でした(笑)
 
 何ていうか皆様、会話ぶっ壊れぐらいがマジ素敵です。
 香坂と絡んでくれた方、どうもありがとうございました。

 ちなみに僕がメインで描いた絵、一枚だけこっちに掲載します。
 当日、他にどんな絵があったのか興味ある方は、「眼鏡依存症」様の
方へどうぞです。

 以下、折りたたみしま~す。

 ※3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

  夜街遊戯(克克)                 5           10 
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 ―たった今、着たばかりの学ランのズボンをあっという間に膝下まで
引き下ろされて、克哉は真っ赤になっていった。

 恥ずかしさの余りにしきりに身を捩っている間に…ベッドの上で腰だけを
突きあげているような、淫らな体制を取られていく。
 気づけば窄まりの周辺に、生々しい相手の熱を感じ取っている。
 眼鏡の両手は…克哉の双丘に添えられ、奥まった箇所を暴くかのように
尻肉を捏ね続けていた。

「あっ…ぁ…ぅ…! や、だ…止めろ、よ…」

「…もっと、の間違いじゃないのか…? お前の穴は、こんなにも貪欲に…
俺を求め始めているぞ…?」

「や、擦りつけ、るなよ…」

 克哉の声はどこまでも弱々しかった。それでも、この状況だけですでに
感じている自分を認めたくなくて、必死にベッドシーツに額を擦りつけている。
 背後から覆い被されているこの体制では、相手がどんな表情をしているのか
次にどこに手を伸ばされるのかがまったく見えない。
 それが余計に…興奮を呼び覚ましている現状。 
 相手の先端が早くも濡れ始めているのが、嫌でも自覚してしまう。
 トロリとしたものが何度も、浅ましく蠢いている入口に塗りつけられているだけで
ビクビクビク、と電流に似た快感が走り抜けて克哉の理性を焼いていく。

「あっ…ん…」

 そんな動作を繰り返している間に、もう克哉は堪らなくなってしまていた。
 無意識の内に、相手の熱を求めるように…腰を自ら押し当て始める。
 彼が切羽詰まって自ら擦りつけてくるような行為を始めていくと…相手は
そのタイミングを見計らったように、そっとペニスを外し始めて…。

「えっ…? な、何で…?」

 克哉は肩透かしを食らったような、声を漏らしていった。

「…せっかくそんな恰好をしているんだ。どうせなら…学生らしく、なりきってみせろ…」

「な、何だよ…それっ…! くっ…!」

 相手に耳元でそんな挑発的な言葉を囁かれると同時に、カッとなって相手の
方に向き直ると同時に…後頭部を押さえつけられてシーツの上に縫いつけられる。
 気づけば右腕も後ろで折り曲げられて、後ろで押さえつけられている。
 もう一方の腕は不安定な体制を支える為に用入られているから…実質、これで
克哉の自由は殆ど奪われてしまったようなものだ。
 窄まりからは先端が外されてしまっているが…双丘の狭間に、相手の熱を
直接的に感じてしまっている。
 こんなの悔しいのに、それなのに…気づけば克哉の吐息はダンダンと荒い
ものに変わっていく。

「…そうだな。今の俺の格好は、学校の教師とかでも通じそうだしな…。お前が
その生徒役というのなら、俺の心を揺さぶるような…そんな告白でもしてみせろ。
コレが欲しいというのなら…こっちをその気にさせられるぐらい、な…?」

「ひゃ…ぅ…!」

 瞬間的に、襞を捲りあげる程度までペニスを挿入されて…克哉は鋭い声を
漏らしていく。
 だが、それは奥まで侵入せずに…あっという間に引き抜かれてしまう。
 今の克哉にとっては、そんな焦らすような行為はある種の拷問に近い。

「そんな、事…出来な、い…んあっ!」

 克哉が頭を振って拒んでいくと、次は前方に手を伸ばされて…すでに臨戦態勢に
あったペニスを強く握り込まれた。
 其処を力を込めて握り込まれると、すでに鋭敏になった底から痛み混じりの
快感が背筋を走りぬけていく。

「…お前が素直に応じない限りは、ずっとこのまま…だぞ…」

「っ…!」

 次は、耳朶に鋭く歯を立てられていく。
 すでにここまで高まってしまっている状態では…痛覚すらも、快楽のアクセントに
なってしまう。
 たったそれだけの刺激で、相手の手の中に納められたペニスからは…滴るぐらいに
大量の蜜が溢れ始めていく。
 こちらの羞恥を煽るように、グチャグチャとわざと卑猥な水音を立てて性器を
扱かれ続けると…感じるあまり、克哉の全身は赤く染まってしまう。
 意志と関係なく、瞳からは涙が滲み始める。

「んっ…ぁ…ああっ…ふっ…!」

 早く熱い熱で穿って欲しくて堪らないのに、別の処ばかりに鋭い快楽を
貰って身体が激しく焦れ始める。
 もういっそ、正気など完全になくなってしまった方がよほどマシだ。
 おかしくなって、もう理性など意味を成さなくなる。
 気づけば、ただ相手が欲しいという純粋な欲望だけが克哉を支配
するようになっていた。

(…もう、ダメだ…。悔しいけど…これ以上、焦らされたらきっと…正気なんて
保っていられない…)

 そして、追い詰められた果てに…ついに、相手の術中に堕ちていった。

「先、生…早く、オレに…下さい…」

 こんな事を言うのは、悔しかった。けれど…相手の望みを満たさなければ
こちらも満たされることがないのなら、背に腹は変えられなかった。
 そしてついに、一言…相手を先生と呼んでいく。
 その瞬間、奇妙な陶酔感を齎していった。

「…何がお前は…欲しいんだ…? 正直に言ってみせろ…」

「…先生が、欲しいです…貴方が、好きだから…だから、オレに…貴方の
熱いのを…たっぷり、と…下さい…!」

 こんな言葉、普段の克哉だったら絶対に口に出来ない。
 けれど…これは相手が求めているプレイだと割り切ってしまえば、そうしなければ
ならないのだという状況が…彼を逆に開き直させていた。
 なりきってしまえば、いつもと違うペルソナをつけて演じなければという意識が…
ずっと口に出来ないでいた『好き』という単語を解放してしまう。

「…良い、だろう…」

 相手もまさか、この状況で克哉が…『好き』だというとは予想外だったらしく
少し間が空いていた。
 そうして…相手の熱が窄まりに宛がわれていくと。

「好き、です…!」

 一度口にしたら、一種の開き直りのような思いが胸の中に満たされる。
 堰を切ったように、意地で覆い隠していた本心が迸り…こちらを駆り立てていった。
 克哉は必死に相手の方を向き直り、瞳に強い想いを宿して…相手をまっすぐに
見つめていく。
 それはかなり彼に苦しい体制を敷いたが…けれど、開き直りの極地に陥りながら…
迫真の気合を込めて、もう一度…告げた。

『貴方が、好きです…!』

 自尊心とか、そういうのが邪魔をして言えなかった言葉。
 それを、演技している最中に…必死に訴えていく。
 プレイなんかで、終わらせたくなかったから。ただ…相手に弄ばれているだけの
時間にしたくなかったから。
 そして、相手に振り回されているだけなんて…嫌だったから。
 だから克哉は…相手の予想外と思われる、真剣な気持ちを乗せていく。
 それは…今、この時ならいざとなれば…プレイの一環だったという言い訳が
利くからという理由もあったかも知れない。
 その一言を口にした瞬間…。

『――――――』

 ふいに、もう一人の自分に何かを囁かれた。

「えっ…?」

 あまりに予想外の言葉で、克哉が瞠目していくと…もう一人の自分は克哉の
足を大きく開かせていくと、身体を大きく反転させて…正面から向かう合う体制で
…深く熱いペニスを、挿入していったのだった―

 
 ※3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

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―相手の目線で、犯されているみたいだった

 克哉が先程、とっさに手に取った衣装は学ランだった。
 26歳にもなって、学生服を着るなんて…という想いが今さらながらに
頭の中でグルグルしていく。
 しかし、あの奥の方にあったサイズ大きめの女物の服や、あのコントや宴会席
でしか使えそうにない破壊力抜群のバレーリーナーの衣装を、もう一人の自分が
気まぐれで選ぶことを思えば、この衣装の方がずっとマシだ。
 そう思おうとしていたが…。

(そんなに、こっちを見るなよ…!)

 この部屋は広く、身を隠せそうな場所など…部屋の奥にあるバスルームと
トイレぐらいしかなかった。
 本当なら其処に移動して着替えたかったが…さりげなくもう一人の自分は
そちらに行くルートに立ち塞がって、牽制していた。
 言わば、ストリップショーみたいなものだ。
 反発や文句が心の中で渦巻いているのに…まるで操られてしまっている
かのように相手に逆らうことが出来ない。
 まず、上着とシャツを脱いで上半身を露わにしていくと…相手の目線が、すでに
反応してしまっている胸の突起の方に注がれているのが嫌でも判ってしまう。
 触れられている訳でもないのに、見られていると自覚しただけで…奇妙な
痺れを感じて、背筋から湧き上がってくるようだ。

「あっ…ふっ…」

 どうして、部屋の明かりは灯ったままなのだろうか。
 暗ければここまで相手の視線を意識せずに済むのに。
 女性がどうして、明かりを消すことに拘るのか今さらながらに理解してしまった。
 こんな風に一枚一枚、服という外装を解かれて脱がされていくのは
心底恥ずかしい。
 克哉の意思に反して、甘い吐息が唇から零れて…心臓がバクバクと
鳴り続けてしまっている。

「見る、なよ…」

 懇願するように言葉を紡ぐが、返される言葉は…当然ながら拒絶だった。

「…俺を愉しませるんじゃなかったのか? ほら…手が止まっているぞ。
…早く下も脱いでみせろ。あまり長く止まっているとこちらの興も削がれて
しまうだろう…?」

「ん…くっ…!」

 悔しくて、思わず目を伏せて唇を強く噛みしめた。
 屈辱的な気持ちが、胸の中に広がっていく。
 しかし…殆どヤケッパチになりながら、ズボンを引き下ろしていくと…
相手の前に自分の殆どの部分が晒されていく。

「…くくっ、すでに見飽きた身体だが…こういう場で見ると、また少しは新鮮な
気持ちになるものだな…」

「………」

 頭の中が、言いたい言葉でいっぱいになって…まとまりがなくなっていく。
 口にしたら、変なことを口走ってしまいそうだ。
 だから克哉は何も言わずに、学生服のズボンから履いていった。
 これから自分を抱こう、という人間の前で服を着るというのは初めての
体験だ。
 相手の視線が、自分の全身に絡みつき続けていく。
 血液が沸騰して、グラグラと煮え立つみたいだった。

(どうして、見られているだけで…こんな、に…)

 下着で覆われている性器が、早くも反応してくる。
 このまま完全に勃起してしまったら、相手に悟られてしまうというのに…
こちらの意思に反して、欲望はどんどん育っていってしまう。
 もう一人の自分に、こちらのその変化はあっという間に悟られてしまう。

「ほう…随分と淫乱じゃないか。見られているだけで…其処まで浅ましく
反応するのか…お前は…」

「言うな、言うなってば…!」

 ついに克哉が耐えきれずに言葉を漏らしていく。
 けれど相手は更に意地が悪そうな笑みを刻んでいくのみで、見るのを止める
気配は感じられなかった。
 もう、ペニスは完全に勃ち上がって立っているのも辛い状態だった。
 身体の奥まで、期待しているように蠢いてしまっている。
 早く…もう一人の自分の熱が欲しいと、収縮を繰り返して…。

(どうして、こんなに…反応して、しまっているんだ…。まだ、見られている
だけなのに…!)

 けれど相手に見られれば見られるだけ、頭の中に蘇るのは
今まで何度も抱かれた強烈な快感の伴う記憶だけだった。
 もう、身体に刻まれてしまっている。
 こいつが与える悦楽を、強烈な刺激を。
 だからそれを求めて…肉体は顕著に、訴えかける。

―『俺』が欲しいのだと…!

 こちらの一挙一足、全てを見られていく。
 手が何度も震えて、上手く指先が動いてくれない。
 それでも時間を掛けて…ようやく全てを身に纏っていくと…其処には
一昔前の学生が良く来ていた学ランに身を包んでいる克哉の姿があった。

「…ほう、案外似合っているじゃないか…少々年齢がオーバーしているのが
欠点だがな…」

「悪かったな。お前と同じ年なんだから仕方ないだろっ!」

「くくっ…相変わらず憎まれ口ばかり叩いているな。まあ…その姿で何を
言われても、可愛いだけだから別に良いがな…」

「か、可愛いって…!」

 克哉が相手の言葉に動揺している間に、あっという間にもう一人の自分に
距離を詰められていく。
 そうして、袖の周辺をガシっと掴まれていくと…そのままベッドの方へと
誘導されていった。
 相手からの予想外の言葉に、顔を真っ赤にしている間に…あっという間に
場所移動は完了されてしまった。
 ドン、と強い力で相手に突き倒されていくと…克哉の身体は仰向けに
ベッドの上に投げ出されていって。

「さて…そろそろ、次のショータイムへと行こうじゃないか…」

 と囁かれながら背後から覆い被さられ…。

「やっ…待て、よ…! そんな、急に…!」

 相手の吐息と言葉を耳のすぐ傍で感じながら、克哉の下肢の衣類は
あっという間に膝の処まで引き下げられていったのだった―



 

※3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

  夜街遊戯(克克)                 5          10 
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 必死の想いでもう一人の自分を追い求め、ここまで来たというのに…昨晩の
扱いと良い、今の状況と良い克哉にとっては耐えられるものではなかった。

(やっぱり、こいつにとって…オレはどうでも良い存在なのかな…?)

 そんな弱気な考えがつい、過ぎってしまう。
 自分だけがこいつを好きで、その気持ちを弄ばれているようなそんな状況に
しか思えなくて…克哉はつい、肩を大きく震わせていた。
 たった今、もう一人の自分が開いたクローゼットには百種類以上の多種多様な
衣裳が収められていた。
 
「…どうした? 早く選ばないのか?」

「…この中から、選べっていうのかよ…」

「そうだ…。どうせなら一度ぐらい…いつもと趣向を変えてヤルのも悪くは
ないだろう…? お前という貧弱な中身でも、外装を変えればまた気持ちも
大きく変わるだろうからな…。夜は短い、さっさと選ぶんだな…」

「そんな、事…言われたって…」

 相手はからかうような口調で、克哉から少し離れた位置ぐらいで腕を組んで
静かに待っていた。
 手持無沙汰になっているせいだろうか。克哉が暫く、クローゼットの前で
硬直していると…スーツのポケットから煙草とライターを取り出して手慣れた
動作で火を点け始めていく。

「…煙草二本分だけ、待っててやる。その間にお前が決められないというのなら
俺が直々に…お前に良く似合いそうな衣装を見繕ってやろう…」

「そ、そんな…! それって横暴じゃないのか!」

「うるさい。お前が優柔不断過ぎるのが悪い…。それでも寛大に煙草一本分じゃなくて
二本分も待ってやると言っているんだ。俺にチョイスされるのが不服だったら…
早く今夜の衣装ぐらい、決めることだな…」

「……判った」

 相手に対して非常に言い返したい気持ちは満々だったが、ここで言い争いに
余計な時間を費やしていたら…それこそ、眼鏡の方にどんな衣装を用意
されてしまうのか判らなかった。
 グっと唇を噛んで、文句を呑みこんで…衣装選びに意識を傾けていく。
 悔しい、という想いがジワジワと競り上がってくるが…ここで克哉が強固に
突っぱねれば、きっともう一人の自分はあっさりと今夜の逢瀬の時間を
断ち切ることだろう。
 それが判っているから、理不尽だと思っても克哉は拒めない。
 嗚呼、もうこんな気持ちなど自覚したくなかった。相手に一方的に、気まぐれに
犯されて翻弄されていただけの頃の方が…まだマシだったかも知れない。
 あんな身勝手な男を、どうして自分は…。

(何で、好きになっちゃったんだろ…。あいつはあんなに勝手で我儘で
オレの事を振り回してばかりなのに…)

 疑問に思って、イマイチ衣装選びに集中出来なくても…クローゼット内に
下げられている衣装を一枚一枚、見て確認していく。
 …成程、この部屋がコスチュームプレイをメインに扱っているというのは
納得だった。
 手前にあるのは男性もので統一されているらしく…パイロット、自衛官、警察官、
ウェイター、バーテンダー、警備員、駅員、学ラン、ブレザー、水兵服、医者、
科学者、貴族風な服など、多種多様な職業を想わせる衣装が並んでいた。
 奥の方になると…女性用のデザインの制服ゾーンへと切り替わっていた。
自分ぐらいの体系でも着れるぐらいに大きめに誂えられて吊り下げられている。
 メイド服、バニー服、婦警、ナース服、割烹着、花柄の浴衣、際どいデザインの
ボンテージに、レオタード、ウェデングドレスやクラシックなデザインのドレス
と言った…これを自分が着させられるとしたらその場で卒倒しそうな代物が
沢山並んでいた。

(どうしよう…一体どれを選んだら、マシなのかな…)

 奥の方はまさに克哉にとっては、禁忌に等しいゾーンだ。
 怖いものみたさ、というかうっかり見てしまったせいで…恐ろしい想像が
頭の中から抜けてくれない。
 バニーガールやメイド服なんて、時間切れでもう一人の自分に選ばれてしまったら
きっと神経という神経が、羞恥で焼き切れてしまうことは必至だった。
 しかし見れば見るだけ、迷いが生じてしまって選び切れない。
 克哉が一人で顔色を変えてアワアワとしている間に…眼鏡は平然と
した様子で言い放っていった。

「…一本、吸い終わったぞ。残り時間はあと…一本分だな…」

「ま、待って…今、選ぶから…」

 慌てながら、克哉は顔を真っ赤に染めていく。
 その様子を眺めて、眼鏡は喉の奥でククっと笑いを噛み殺していった。
 相手に翻弄されて、ペースを乱されているのが悔しい。
 けれど…これだけ沢山あると、本気で何を選べば良いのか判らなくなる。

(無難なのは、やっぱり手前の男性ものの制服ゾーンだけど…。この中から
選ぶとしたら、一体何を選べば…)

 克哉としては、奇をてらった衣装はあまり着たくない。
 けれどあまり無難過ぎて面白みのないものを選んでしまっても…眼鏡は
不機嫌になるような気がした。
 しかし女物の衣装を着ながら犯されるなんて、そんなの恥ずかしすぎるし
屈辱以外の何物でもない。

(オレにとっても許容範囲で…あいつがそれなりに満足してくれそうな
折り合いのつけられそうな衣装は…どれ、かな…?)

 相手が何を望んでいるのか、克哉にはこの時点ではまったく情報がない。
 だからこそ手探りで、暗中模索状態だった。
 とりあえず全部の衣装をざっと見ておこうとゴソゴソと奥の方に身体を潜り込ませて
いくとその瞬間、克哉はその場に凍りついた。

「うわっ!」

 その衣装のインパクトは、半端ではなかった。
 それはまるで…有名な白鳥の湖用のバレエ衣装だった。
 しかし一つだけとんでもない特徴があった。それは…股間の部分に大きな
白鳥の頭がにょき! と突き出ているのだ。
 その部分さえなければ首元や袖の部分にフワフワと真っ白な羽毛の飾りや
透明なビーズが沢山縫い付けられていて綺麗な衣装なのに、その飛び出した
部分が全てをぶち壊しにして、恐ろしい破壊力を齎していた。

「な、何でこんな衣装が…!」

 間違っても、こんな衣装を着て抱かれるのは真っ平御免だと思った。
 笑い話どころではない。まさに末代までの恥と成りかねない。
 しかしあまりに克哉がその衣装を見て、動揺しまくっているのに気づいて
もう一人の自分は面白そうに笑っていく。
 気分はまさに一人百面相。衣装を見ているだけで心拍数が跳ね上がったり、
真っ青になったりの繰り返しだ。

「…何か面白いものでもあったのか、『オレ』…? そろそろ刻限だぞ…?」

 もう一人の自分は、片手に灰皿を持ちながら…ゆっくりと先端に積もった
長い灰を落としていく。
 煙草はすでに、3分2程度の長さにまでなっているのを見て…克哉は
相当に焦りを感じていた。

「あっ…あっ…」

 もう、まともに思考回路が働いてくれなかった。

―どうしよう、どうしよう…どうしよう!

 頭の中でその言葉だけがリフレインしている。
 もう思考がまとまってくれない。
 あからさまに狼狽してしまって、取りつくろうことすら満足に出来なかった。

「後、十秒以内に決めろ…。もう、二本目も吸い終わる頃だ…」

「そ、そんな! 待ってくれよ!」

「…駄目だ。最初に言った通り…もうリミットだ。数えるぞ…10、9…」

「うわ~!!」

 克哉は泣きそうな顔を浮かべながら、叫び声をあげていった。
 そして克哉がそんなリアクションを取れば取るだけ、男は嗜虐心が
満たされているのか愉快そうな笑みを浮かべていた。
 克哉が慌てふためいている間に、眼鏡のカウントは進んでいく。
 そして残り、3、2、1となった時点で…覚悟を決めて一つの衣装を
手に取って掲げていった。

「こ、これが良い! 今夜はこれを着るから!」

 そうして、手前の方にあった衣装を一つ手に取ってもう一人の自分に
見せていった。
 相手はしばらく真顔で…衣装と克哉を交互に見やっていくと…。

「…ほう? 一見すると無難でつまらなそうだが…趣向を凝らせば
それなりに楽しめそうなものを選んだな…?」

「そ、そう…? それなら、良かった…けど…」

 相手が不穏な空気を纏っているのを見て…克哉は非常にぎこちない
笑みを浮かべていった。
 奥の方のものに比べれば無難、と言って差し支えのない衣装だ。
 だが…それがあからさまに相手を落胆させるものではなかったのに
克哉は安堵を覚えていく。

「だが、俺が存分に愉しめるかどうかは…お前の演技力に掛かって
いるな…。その衣装に合わせて、初々しさとかそういうのがキチンと
出せるかどうか…お前の腕の見せ所だな…」

「ちょっと待て、演技って…! 一体どうしろって言うんだよ…!」

「…それぐらい、少しは考えろ。とりあえずお前の衣装に合って
いそうな奴を俺も選ぶから、その間にさっさと着換えろ…。
モタモタしていたら、楽しむ時間などなくなるぞ…」

「た、楽しむって…」

 改めて自分の手に持っている衣装を見て、克哉はカーと赤くなる。
 26歳にもなる男が、こんなのを着ていたら恥ずかしい以外の何物
でもない。けど…一度は着てみても良いかな、という想いで選んだ
それを改めて見直していくと…やっぱり羞恥が溢れ出てくる。

(け、けど…あの奥にあったバレーリーナーの衣装を着せられて
しまう事を思えばこれぐらいは耐えられる筈だ…ファイト、オレ!)

 と、訳の判らない慰めを自分の中で思い浮かべながら克哉はようやく
決意して…部屋の隅に移動して、服を脱ぎ始めていく。

―ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…

 その間、緊張と不安と…良くわからない疼きみたいなのが身体の奥から
競り上がって来て鼓動と呼吸が忙しいものになっていく。
 それを振り払うように、克哉は勇気を振り絞って…自分が選んだ衣装に
袖を通していったのだった―

※3月23日より再開しました。現在の連載物のメインは
この話になります。
 克克で、歓楽街を舞台にしたお話です。
 良ければ読んでやって下さいませ。

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―もう一人の自分に昨晩指定された部屋は、白で統一されていた。

 そして克哉は…落ち着かない様子で、先に入室して…ソファの上に
腰を掛けながら待って行った。
 すでに約束の時間は間近に迫っている。
 その間、心臓が口から飛び出してしまいそうなぐらいに緊張していた。

(…あいつが、もうじきやって来る時間だ…)

 部屋に掛けられている白い大きな時計の針はもうじき21時丁度を
指そうとしていた。
 もう一人の自分に今日の21時までには部屋に入って待っていろと指示を
受けたから…散々迷った末に、その言葉に従ったのだ。
 けれど…真っ白い上質なシーツに覆われたキングサイズのベッドが
奥の方に設置されているのを見て…どうしても意識せざる得ない。
 昨晩は夢中で、もう一人の自分の姿を追い求めてこの街に足を踏み入れた。
 だが…今夜は、ホテルの部屋を予約した上での逢瀬だ。

「…くそっ、どうしても…意識をしてしまうな…」

 昨晩の激しいセックスの記憶が、こちらの意識を羞恥で焼いていくようだ。
 待っている時間すら、一種の焦らしプレイに等しかった。

(来るなら…早く、来いよ…)

 遅れてはまずいと思って、克哉はすでに15分程前からこの部屋に
辿りついていた。
 だが…緊張しすぎていてこの部屋の内装を詳しく調べる余裕はなかった。
 克哉はこのホテルが多種多様なプレイに応じられる様々な設備が整っている
特殊な場所だと知らなかった。
 そして…色つきの部屋は、必ず何らかの特殊な要素が存在する。
 当然スタンダードな内装の部屋するが…色つきの部屋は一部屋ずつしか
存在しないので…早めに来るか、予約して確保しておくかしなければ
入れない事も多かった。

 カチカチカチカチ…

 規則正しく秒針が刻まれる音が、静かな室内に響いている。
 防音設備はばっちりらしく…外部からの音は殆ど侵入して来なかった。
 待っている間に、あまりに硬くなりすぎていて喉の渇きを覚えていく。

(冷たいものの一つでも…飲もうかな…)

 21時まで後一分。
 だがドアの方をチラっと見ても…相手が訪れる気配も、それが開かれる
様子もなかった。

「何だよ…人に時間指定をしておいて、自分は遅れて来るんじゃないか…」

 少しだけ唇を尖らせながら…克哉は備え付けの冷蔵庫から一本のスポーツ
ドリンクを取り出していく。
 …不本意だが、これから大汗を掻かされるような行為を十中八九されて
しまうのだから…水分補給は欠かせないだろう。
 そう判断して、その缶のプルトップに指を掛けて開けていくと…徐に
喉に流し込んでいく。
 乾いた喉に、冷たいスポーツドリンクが流し込まれていくのが軽く快感だった。
 一頻り流し終えると…克哉はようやく、周囲を見回す余裕が出て来た。

「あれ…?」

 その時にようやく…彼は、大きな姿映し用の鏡が室内や壁に幾つも設置
されている事に気づいていく。
 大きな全身を映す為のものだ。
 近くの壁と…大きなクローゼットの前に其れは存在していた。
 克哉はつい気になって…すぐ傍にあった壁に嵌め込まれている鏡の前に
立っていく。

「…どうして、こんな処に大きな鏡が…?」

 その事に疑問を覚えていきながら、克哉は目の前に立ってそれを覗き込んでいく。
 そして…鏡を覗いて、ぎょっとなった。

「えっ…?」

 鏡に映っていたのは…自分ではなく、もう一人の自分だった。
 顔の造作は一緒の筈なのに、眼鏡を掛けて…強気に微笑んでいる。
 その底意地の悪そうな表情に…軽く腹を立てていくが、けれど克哉は…
鏡の中の自分に釘付けになった。
 嗚呼、以前にもこんな事があったような気がする。
 朝に目覚めて鏡を覗けば…もう一人の自分の面影が浮かんでいって、それで…。

「…待たせたな」

 ふいに背後から、声が聞こえた。
 気づけば自分の背中に…温かい感触が感じられた。
 扉が開閉した気配はない。物音一つ…立たなかった。

「ど、うして…」

 克哉は完全に、虚を突かれた格好になる。
 もう一人の自分は…扉から現れると信じて疑わなかったから。
 なのに…これでは、まるで…鏡の中から現れて来たかのよう。
 いや…そんな出現方法だって、有り得ない訳ではないのだ。
 何故なら自分たちは…同一人物、なのだから。

「…お前がいる処なら、何処にでも現れられるさ…。俺達はいわば二人で
一つの存在…光と影と同じぐらい、何よりも近くに存在するのだからな…」

「あっ…やめ、ろよ…」

 いつの間にか鏡に落ちつけられる格好になって、耳の奥に熱い吐息を
注ぎ込まれていく。
 その感覚だけで肌が泡立って、ゾクリと何かが走り抜けていった。
 クチュリ…という淫靡な水音が脳裏に響き渡って、早くも犯されてしまった
ような奇妙な錯覚を覚えていく。

「やっ…だっ…。おかしく、なりそう…」

 耳の中に舌を差し入れられて何度も出し入れされれば…セックスの際に
接合部から響くような淫らな音に近いものが頭の中に響いていく。
 まだ背後から抱きすくめられているだけで…具体的なことは何もされて
いないのに…もう、身体が熱くなっていくのを感じてしまった。

「ククッ…反応が早いな。だが…このまま押し倒してしまったら…この部屋を
せっかく指定した意味がない。…どうせなら、此処ならではの趣向を凝らして…
今夜は愉しむ事にしようじゃないか…?」

「な、何をする…つもりなんだよ…あっ…」

 背後から抱きすくめられた格好で胸元を撫ぜ擦られて…生地の上から
胸の尖りを掠められていく。
 たったそれだけでも、電流のような快感が走っていくのが悔しかった。

「…この部屋には百種類以上の衣装が…あのクローゼットに用意されて
いるんだそうだ…。その中から、一つ…選べ…。それから存分にお前を
可愛がってやるよ…」

「えぇっ! そ、そ…それって、もしかして…」

 相手から何をする気が聞いて動転してしまい…とっさに口が回らなくなった。
 だが内容を吟味すればするだけ、たった一つの結論にしか至らなくなる。

(それって、コスプレじゃないのかっ…!?)

「あぁ、そうだ…俗に言うコスチュームプレイ…という奴だな。とりあえず…
お前に好きなものを選ばせてやるから…俺を愉しませられそうなものを必死に
なって選ぶんだな…」

 そう言い捨てて、さりげなくクローゼットの方へと誘導されていく。
 そして…ガラリと大きな音を立ててその扉が開かれていくと…克哉にとっては
眩暈がしてしまいそうなぐらいに多種多様な衣装が、其処にはズラリと
並べられていたのだった―

 


 
 今回はオリキャラのラストエピソードです。
  散々悩みましたけど、これはこの物語に必要不可欠なピースと
判断して掲載に踏み切りました。
 番外にしようか、本筋に組み込むかムッチャ考えましたけどね。
 一話分(11P程度まで書いて)けど納得行かなくて書き直しをしたので
少し掲載遅くなりました。
 良ければ読んでやって下さいませ。書きたいテーマの半分が、この
エピソードの中にあります。次回からはW克哉中心でちゃんとお話が
進みますのでご了承下さい。

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 それでも読みたくないよ~という方もいるでしょうから、今回は
ワンクッション置いて掲載させて頂きました。
 読んでやっても良いよ~という方のみ、「つづきはこちら」をクリックして
目を通して下さいませ~。
※4月4日分に掲載しようとしていた話、出来が納得いかなくて
ボツにしたので掲載が遅れましたすみません。
 克克で歓楽街を舞台にしたお話ですが、良ければ付き合ってやって
下さいませ。
 
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 ―自宅に戻った頃には克哉は疲れ果てて、着替えもしないまま
勢いよくベッドの上に倒れ込んでいった。

 ようやく自分のフィールドに戻ってきた安堵感が、ドッと広がって
胸の中を満たしていく。 
 プライベートで初めて新宿二丁目に足を踏み入れただけでも相当に
緊張していたのに…怒涛のように色んな出来事が起こったせいで
克哉の頭はグチャグチャになっていた。

「…もう、何にも考えたくない…。あいつ、何を思って…こんな風に
オレを…振り回して、いるんだよ…」

 二回、立て続けに抱かれた身体は鉛のように重かった。
 それに久しぶりの行為のせいで…腰が本当に痛くて、一度こうやって
ベッドの上に倒れ込んでしまえば起き上がることすら億劫になってしまった。
 あんなに激しく抱かれて、グチャグチャにされたのなら…本当ならシャワーを
浴びた方が良いと判っているのに、今はその元気すら残っていなかった。

「疲、れた…。明日も、こっちは仕事があるって…いうのに…本気で
やりたい、放題やってくれちゃって…」

 苦笑しながら、呟いていく。
 もう何もかもがどうでも良くなってしまいかけていた。
 会いたくて、その一心で必死になってあの街まで足を向けたというのに…
あんな風にもう一人の自分に扱われて、克哉の心は少なからず傷ついていた。

(どうして…こんなに、胸が痛いんだろ…オレ…)

 ようやく会えて嬉しいという気持ちよりも、あんな風に扱われて…
こちらが節操無しみたいに言われたことが克哉の心に深く影を
緒としてしまっていた。
 ズクズクズク…と胸が疼いて、本当に切なかった。

「やっとの想いで見つけ出したんだから…少しぐらい…こっちに優しくして
くれたって…良いだろ…バカ…」

 そう拗ねた顔を浮かべながら呟いていくが、しかし…気持ちは晴れない。
 いや、むしろ…折れてしまう寸前のような状態になりかけていた。
 最後に渡されたホテルの名刺。
 其処に行くように指定されたが…行きたくない、という想いがジワリと
胸の中に広がっていく。
 
(また明日も…あんな風に、扱われるのかな…)

 と、考えた瞬間…ハっとなった。自分が身体だけ満たされるのでは
すでに物足りなくなっている事に…。
 好きだ、と自覚してしまった。だからもう少し優しい言葉とか…甘い期待を
自分は持ってしまっていた。
 だから…今までとまったく変わらない態度の眼鏡に、憤りのようなものを
感じてしまっていた。
 否、彼の方が変わった訳ではない。むしろ…変化したのは…。

「…随分と、受け止め方が変わってしまったよな…オレは…。前は突然、
あいつが目の前に現われて…一方的に抱かれるのに凄い抵抗があった癖にさ…」

 そう呟きながら、酷く遠い目を浮かべてベッドの上に何度も寝返りを
打って行った。
  あんな扱いを受けるぐらいなら…行きたくない、という否定的な気持ちが
ジワリと黒い染みのように…心に広がっていくのが判った。
 
「バカ、みたいだ…あいつが、好きとか愛しているとか…そんな甘い言葉を
オレに絶対に言ってくれる訳がないのに…さ…」

 そんな事を無意識のうちに求めてしまっていた自分が酷く滑稽に
思えてしまった。
 けれど…明かりが灯されていない暗い室内で…こうやって一人で
いると…どうしても自分の本心と向き合わざるを得なかった。
 真の闇は…太陽の下では隠されてしまう、隠された部分をゆっくりと
浮かび上がらせてしまう。
 身体の奥に…あいつの残滓と、匂いが濃厚に残っているのに…今夜は
いつもよりも、こうして一人で床に就くのが寂しく感じられてしまった。

「…もう、行きたくない…」

 一粒だけ、涙を瞳に浮かべていきながら…克哉は小さく呟いていく。
 その瞬間、幻聴が聞こえた。

―お前の想いというのは…それしきの程度の代物なのか…?

 挑発するような、もう一人の自分の強気な声が頭の中で響いていく。

―貴方様は、この遊戯を降りられて…本当に後悔なされませんか?

 しかもMr.Rの声まで、ご丁寧に響いていく。
 遊戯、と彼が口にしたから…余計に悔しく感じているのかも知れなかった。
 克哉は真剣に、彼を追い求めたというのに…その行為が、二人にとって
『遊戯』…遊びに過ぎないというのなら、全てが馬鹿らしいという想いが
猛毒のように心の中に広がっていく。
 あの二人の掌に踊らされて、振り回されているだけなら…自分は
滑稽な道化でしかない。
 それぐらいならいっそ…このまま…と思った瞬間、眠りに落ちかける直前…
鮮烈に、誰かの声が聞こえた。

―本気の恋なら、簡単に諦めない方が良いぜ…。目を逸らし続けて…
その相手を失ったら、マジで後悔するから…

 えっ…? と思った。どうしてそんな声が…脳裏に響いたのか訝しがって
いくと…一瞬だけ、さっきまで話していた青年の顔が浮かんでいく。
 青年は、穏やかに微笑んでいく。そして…短く、こう続けていった。

―お前さんが背中を押してくれたおかげで…俺は寸前で、大切な人間の
背中を見送らないで済んだからな…。だから、お前さんも頑張れよ…

 それはもしかしたら、同じ頃に…想い人に本気の気持ちをぶつけて
幸福を得た青年が…克哉に感謝したからこそ、届いた…祈りの気持ち
なのかも知れなかった。
 克哉は呆気に取られて…けれど、少ししてから小さく微笑んでいく。
 暗澹とした気持ちが、その励ましで晴れていくようだった。

―ユキさん、リョウって人と上手くいったのかな…

 笑顔で微笑んでくれている青年の顔を見ていると、自分が誰かの
役に立てたんだなって思って…少しだけ救われたような気持ちになった。
 それが…自己嫌悪とかモヤモヤした気持ちを持て余している状態の
時には…何よりの薬となった。

―ありがとうな

 小さく、ユキの幻影がこちらに告げていく。
 一期一会、本当に数時間しか接していない人だ。
 けれど幻でも何でも…その感謝の一言が、ほんの少しだけ温かいものを
克哉の心に灯してくれていた。
 人が人に救われるキッカケなんて、そんなものかも知れない。
 誰かを本気で案じたり、気遣ったり優しくしたり…そしてそれが少しでも
役に立ったのなら…感謝して貰えたなら、それは弱っている時には
何よりの薬となるのだ。
 幻でも、嬉しかった。そしてあの青年が想い人と上手く行ってくれていれば
良いと…そう考え始めた途端、ちょっとだけ気が楽になった。

「…俺も、貴方と…リョウさんみたいに、あいつと…上手く…行くかな…」

 そう呟いた瞬間、今度は…鮮明に、頭の中に…もう一人の
自分の声が響いていった。

―それなら、俺を本気にさせてみろ…

「えっ…?」

 克哉は驚きの声を上げて、大きく目を見開いていく。
 確かに、自分の頭の中に…あいつの声が響くのを感じていった。

「…『俺』…?」

 克哉はキュッと唇を噛み締めていきながら、自分の内側にいるかも
知れないもう一人の自分に問いかけていく。

―本気に、なってくれるの…?

―お前が、俺をその気にさせたならな…
 
 ただ、それだけ答えて…もう一人の自分の意識が再び遠ざかって
いくのを感じ取っていった。
 本当に短いやりとり。けれどそれだけでも…克哉の心中は随分と
マシになっていた。
 
「…諦めたら、それで…終わりか…」

 もしかしたら、今のユキの感謝の言葉も…もう一人の自分の声も
己が生み出した都合の良い幻に過ぎないかも知れなかった。
 けれど…良く色んな本やドラマの中にあるけれど、物事は諦めてしまったら
そこで終わりだ…という言葉が脳裏を過ぎっていった。

(もう少しだけ…頑張ってみよう…)

 ようやく、あいつを見つけ出してスタート地点に立ったばかりなんだから…
と言い聞かせながら、克哉は瞼を閉じていく。
 そうして深呼吸をしながら…克哉は眠りに落ちていく。

―その幻のおかげか、その夜の夢見は思ったよりも悪くないものだった―

 

 ※昨日書いていた続きはまだ時間掛かるので一話、掲載を
入れ替えてやります。
  書きたい場面は後、執筆に二時間ぐらい掛かりそうなので先に
克克達に一区切りつけておきますね~。
  一区切り→サブキャラ結末→夜街本編という流れになるので宜しく~。
 
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 ―行為が終わった後、満足に腰が立たなかった。
  
 結局、深い口づけをしている内に体内に納められている眼鏡のペニスが
再び硬くなってしまったので、もう一回激しく突き上げられてしまった。
 二回目の行為が終わる頃には、もう全身が汗だくになっていて…
克哉は目の焦点さえ定まらなくなっていた。

「はっ…ぁ…、くっ…ふっ…」

 ようやく二回目の精が注ぎ込まれて、中のモノがズルリと引き抜かれて
いくと…克哉は膝が笑っているのを感じ取っていった。
 快楽で緩んだ身体が、芯を失ってしまったような感覚だった。
 もう壁に手を突いて倒れないように支えるのも困難だったので…そのまま
ズボンと下着が膝の位置まで引きずりおろされて、臀部や太腿が露わに
なっている状態で…地べたに正座を崩したような格好で、腰を下ろしてしまう。
 相変わらず克哉の肩は忙しく上下し、瞳からは…散々啼かされて、喘がされた
後遺症か…思いっきり涙の跡が刻まれてしまっていた。

(みっともない格好だ…)

 自分でも、そう思った。
 久しぶりのセックスはあまりに強烈過ぎて…すでに終わった後でさえも
克哉の脳髄を蕩かせてしまいそうだった。
 こんなカビ臭くて薄暗い路地裏で、強引に貫かれて…半ば強姦に近い
感じで犯されてしまって。
 それなのに…相手に、本気で憤ることも出来ない自分が何か情けなかった。
 相手が、離れた位置に立っている。
 体温も、吐息も何もかもが遠く感じられる。
 さっきまであれだけ密着して、その一部を受け入れていただけに…ほんの僅かな
距離でさえも、寂しく感じられてしまった。

「…無様だな。そんなに…俺に抱かれるのが、良かったか…?」

 微かに街灯が注ぎ込まれている、そんな薄暗い路地。
 相手はこちらを見下ろすような格好で、そう言い放った。

「…あれだけ、散々人を好きなように…して、最初に…言う、言葉が…それ、
なのかよ…お前、は…」

「あれは単なる、お仕置きだ。ちゃんとヒントをくれてやったにも関わらず…三日も
遅れた挙句に、他の男に色目を遣うような真似をしたお前に対してな…」

「…何を、言っているんだよ…。いつもみたく、普通に現われて来ないで…こんな
人探し、みたいな真似をしたお前が…悪いんだろっ!」

 克哉はキっと鋭い視線を向けていきながら…相手を睨みつけていった。
 しかし…眼鏡はそれを愉快そうな表情を浮かべて、流していくのみだ。

「何で、こんな事を…したんだ、よ…。素直に、どうして…オレの前に…来て、
くれなかった、んだよ…」

「…こうでもしなければ、お前は…この街に足を踏み入れることさえしなかっただろう…?
あの男が戯れに教えてくれたんだが…この周辺には幾つか興味深いスポットがあって
お前と使ってみようと思ったが…普通の手段では応じないと思ったからな。
後はどれくらい…お前が俺を求めて、忠実でいるか見極める良い機会だと思ったので
こうさせて貰った。…結果は、あまり良かったとは言えないがな…」

「ちゅ、忠実って何だよ! オレはお前の所有物でも、下に就いている訳でも
ないだろう…! どうして、そんな物言いしか出来ないんだよ!」

 そう叫んだ瞬間、再びジワリ…と涙が溢れそうになってしまった。
 もう感情がグチャグチャで、どうにかなりそうだった。
 どうして…こんな酷い男に、会いたいと思ってしまったのだろう。
 好きになど、なってしまったのだろう。
 今夜だって会えたからと言って、好きだとか愛しているとか…こっちと会えて嬉しいとか
そういう事を言ってくれる訳じゃないと判っていた。
 けれどここまで予想通りというか、ひねくれた発言ばかりされてしまうと本気で
ぐれたくなってくる。

「…何を怒っている? 俺は…思っているままに、正直に口にしているだけだぞ…?
それに、お前に…血が出るぐらいに強く指を噛まれたからな。これぐらいの
意趣返しをさせて貰っても…構わないだろう?」

「あっ…」

 そういって、もう一人の自分が…一回目の行為の最中に皮膚を歯で破って
しまった指先をそっと見せていく。
 すでに血は止まっていたし、外傷もそこまで目立つ訳ではない。
 しかし先程、確かに口内で感じた血の味を思い出して…相手の発言に対しての
反発心よりも、申し訳ないという気持ちが広がっていく。

「それ、は…確かに、痛かったよな…。その件は、御免…」

「悪いと思ったのなら、身体で支払え。せめて…俺を愉しませてみろ」

「えっ…?」

 いきなり、そう告げられたかと思うと同時に…克哉のすぐ傍らにもう一人の
自分が膝を突いて、目線を合わせて来た。
 あっ…と思った時にはすでに遅かった。
 すでに乱れたシャツの胸元を強引に掴まれて、相手の唇が再びこちらに
押し付けられていく。
 それは唇を舌先でゾロリ、と舐めあげられていくような挑発的なキスで…まだ
身の奥に欲望の火が灯っている状態では、少し煽られるようでキツかった。

―そして、相手の鋭い眼差しが克哉を射抜くように、真っ直ぐに瞳に注ぎ込まれた

 それだけで…もう、離れた位置から聞こえる喧噪や、物音も全てが
遠く感じられて…眼鏡だけに意識が釘付けになる。

「また明日、この街に来い。そして…ここで待っていろ」

「えっ…?」

 そうして、名刺サイズの…一軒のホテルの地図とアドレスが載っている紙を
手渡されていった。
 まったく知らない名前だ。しかし…横文字で「HOT SHOT」と書かれている。

「これ、は…?」

「…其処の707号室を予約しておく。明日の夜九時までに入って待っていろ…。
ちゃんと来たのなら…また存分に可愛がってやる…」

「んっ…!」

 そうして、噛みつかれるようなキスを落とされて…克哉はギュっと瞳を閉じていった。
 だが…今回の口づけはあっさりと解かれて、そしてもう一人の自分はその場から
立ち上がっていく。
 傲慢で強気で、自信に充ち溢れた表情だった。
 その余裕が、今の克哉には…妙に癪に感じられてしまう。

「じゃあ…今夜はもう遅いから俺は…そろそろ行くぞ…」

「ちょっと、待てよ…! こんな、格好で帰れと言うのかよ…!」

 グチャグチャになるまで路地裏で抱かれ続けたせいで…克哉の服装は現在
シャレにならないぐらいに乱れて、汚れてしまっていた。
 幾ら服装を整えても、服にこびりついた泥とか…残滓とかは最早誤魔化せない
レベルになってしまっている。
 もう一人の自分の方は克哉ほど激しくはないから良いが…こちらとしては
堪ったものではない。

「あぁ、一応その件は心配しなくて良い。すぐ其処に…お前を気遣って
着替えを持って控えている怪しい男がいる筈だからな…」

「へっ…?」

 突然の発言に、目を剥いていくと…その瞬間に物陰から、歌うようにしゃべる
男の声が聞こえていった。
 その瞬間、暗闇に紛れて…Mr.Rが現われていく。

「うわっ! いつから其処に…?」

「いちいちこの男に関して、そんな詮索をするな。呼べばこいつがどこであろうと
すぐに現われるのは当たり前だろうが…」

(あ、当たり前なのか…それ! すでに人外のレベルじゃないのか…!?)
 
 何か当然のようにそんな事を言ってのける眼鏡に対して、克哉は瞬間的に
そう突っ込んでしまっていた。
 …この男性は望めば、トラックのコンテナだろうが…外部の人間が入り込めない
ぐらいに監視されてしまっている建物内でも神出鬼没状態で現れることが出来る
事実をまだ知らない克哉にとっては…そう突っ込みたくなった。

「こんばんは…貴方様が御所望の品をお持ちしました…」

「…遅かったな。もう一人の『オレ』が待ちわびていたぞ…。俺はそろそろ
退散するが後は宜しく頼んだぞ」

「御意…我主となる資質をお持ちの方の…お望みのままに…」

「相変わらず、大袈裟な男だな…。まあ、良い。後始末は頼んだぞ…」

 そうして、もう一人の自分の姿が遠ざかっていく。

「待て、よ…!」

 とっさに、克哉は声を掛けていく。
 その瞬間…一度だけ心底愉快そうに男は嗤(わら)っていくと…。

「お前が明日、来るのを愉しみにしているぞ…」

 そう一言だけ残して、静かに彼の姿は闇に溶けていった。
 まるで…それが当然のように、ごく自然に…その姿が見えなく
なってしまって…克哉は呆気に取られていく。

「あっ…」


 克哉はその瞬間、胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのような…
空虚な想いを覚えていった。
 それはもう一人の自分という存在の為に、空洞になってしまった部分。
 埋められるのは、彼と一緒にいる時だけだ。
 
「…求めるものを得たい、と思うのならば…御自分の欲望にどこまでも
正直になられた方が良いですよ…。この街はいわば、多くの人間の欲望や
様々な想いがひしめく遊技場。そして今は…あの方が主導権を握って
おります…。あの方が提示するゲームに、乗るか…拒否するかは貴方の
自由です。しかし…貴方が降りた途端、どうなるかは…私にも判りかねますので…」

 男もまた、愉しそうに笑いながら…克哉の傍らに、着替え一式が入っている
紙袋をそっと置いていった。

(降りたら…また、あいつの存在を見失うのかな…オレは…)

 そう思ったら、悔しかった。
 あいつと、この目の前の怪しい男性の掌に踊らされているようで。
 けれど今の克哉には…拒否する事すら出来ない。
 もう一人の自分を求める気持ちが、少し腹立たしくさえ感じられた。

「…乗り、ますよ…。そうしなきゃ、あいつを見失うのなら…オレ、は…」

 克哉はどこか悔しそうに呟いていく。
 行為が終わって、それなりの時間が経過したせいか…どうにか起き上がって着替える
事が出来るぐらいのコンディションまで、ぎりぎり回復していた。
 紙袋を手に取って、ヨロヨロと立ち上がり…そう呟いていくと。

「…それなら、存分にあの方が用意したゲームを楽しんで下さいませ。それでは…
私も今宵はこれにて…」

 そうして、Rの姿もまた…少し路地の奥まで進んでいくと同時に…ゆっくりと
姿を消していった。
 気づけばその場には、克哉一人だけが残されていき…。

「…ゲーム、か…」

 そう、Rが呟いたことに対して…寂しそうに呟いていった。
 これがゲームや遊戯、というのならば…もし自分が勝った時には何を
得られるのだろうか…。

(あいつがずっと傍にいてくれるとか…好きだとか、そういうことを言ってくれるって
いうのなら…やる意味はあるだろうけどな…)

 今夜の時点では、あいつの本心も意図も克哉には読めなかった。
 けれど…それでも。

「…あいつと、一緒にいたいなら…今は、乗るしか…ないのか…」

 そう呟いた克哉の表情は、どこか寂しげで…切ないものだった。
 そうして…どうにか着替えを終えていくと…克哉は大通りまで出てタクシーを拾い
そのまま今夜は夜の街を後にしていく。

―今の克哉には、この遊戯の果てに得られるものが何か…まだ見えていなかった

 多くの人間の欲望がひしめくこの場所で、彼が一体何を見出して掴むのか…
現時点では、誰にも予測がつかなかったのだった―


 



 

 お待たせしました。3月23日から連載再開しました。
 御堂さんの日の企画に参加して間が開いてしまったので過去のリンクも
貼っておきますね。

 夜街遊戯(克克)                               10
  
  ―久しぶりのもう一人の自分の性器は、こちらの身の奥を
焼き尽くすのではないかと思うぐらいに熱く感じられた。
 
「あっ…ぁ…ひっ…ふっ…!」

 こちらの内臓を抉るかのように深く腰を突き入れられて、克哉の
意志とは関係なく指の隙間から声が零れていく。
 けれど、遠くから聞こえる喧噪が…辛うじて最後の理性を保つ
要因となってしまっている。

(こんな、誰に聞かれるかも判らない場所で…大声を、出す訳には…!)

 思いっきり大声で、感じるままに声を発したいと思う気持ちと…
誰かに自分のあられもない声を聞かれたくないという相反する想いが
克哉の中に込み上げてくる。
 壁ともう一人の自分の間に閉じ込められる格好で…背後から犯される。
 これはまるで、獣同士のセックスのようではないか。
 眼鏡のもう一方の指先が…克哉の胸元を幾度も挑発的に彷徨い、
胸元を肌蹴させてその尖りを執拗に弄りあげていく。
 本気で、おかしくなりそうだった。

「やっ…だぁ…おかしく、なるから…もう…」

「…さっきから、止めろ止めろ…言っている割には随分とお前も乗っているように
思えるけどな…。こんなに、お前の浅ましい場所は俺を求めて…貪欲に
ヒクついて、いる…癖に…」

「言う、な…言う、なよ…」

 耳元で掠れた熱っぽい声で、そんな事を言われたら堪ったものではない。
 相手の呼吸が乱れて、声も途切れ途切れになっているのが…逆に相手の
顔が見えない体制だからこそ、敏感に感じられてしまう。
 腰を掴まれて、何度も何度も最奥を穿たれる。
 その度に相手が言うように…克哉の腰はもっと激しい快楽を求めるように
激しく蠢いていた。

(こ、んな…場所で、抱かれているのに…どうして、オレは…)

 克哉は泣きそうな気持ちになった。
 相手に振り回されて勇気を振り絞って幾つもの歓楽街を彷徨い歩いて
やっとの想いで見つけたのに、ただ相手に振り回されて翻弄させられる
状況なのが、悔しかった。
 他の男に媚を売っているなどと思われているのもやるせなかった。
 けれど頭の中はグチャグチャでまとまりがない状態だというのに、
相手から快楽を与えられれば、こちらの意思に反して過敏に反応して
しまっていて。
 胸元を攻めていた眼鏡の手が、こちらのペニスに伸ばされていく。
 すでに硬く張り詰めてしまった…大量の蜜を滴らせている先端を
執拗にくじられるように弄られていくと、克哉は耐え切れずに何度も
身体を小刻みに痙攣させていく。

―正気を失ってしまいそうなぐらいの悦楽が走り抜けていく

 どれぐらいぶりに、こうして…『俺』に抱かれたのだろうか。
 悔しいという気持ちよりも、気づけばようやく長らく餓えていたものを
与えられる喜びの方が大きくなっていた。
 身体の奥から溢れてしまいそうな嬌声を、指を必死に噛み締めていく事で
耐えていくと…ヌルリ、と血の味が僅かに口の中に広がっていく。

「くっ…!」

 克哉の歯が軽く、相手の皮膚を割いてしまったことでもう一人の自分は
短く呻き声を漏らしていく。
 だが、指を離すことも…止めろ、と言われることもなく…克哉の口腔に
指は収められたまま、抽送は続けられていった。

「んっ…んんっ…」

 与えられる快楽が深くなればなるだけ、克哉は大声を出すまいと
必死に相手の指先にむしゃぶりつく。
 この指を噛んだり、食んだりして口を塞ぐことだけが…唯一の
抵抗であり、方法であるからだ。
 気づけば壁に両手を突きながら、相手に腰を突きつけていくような
淫らな体制を取らされていく。
 だが…それでも、身体が崩れないように必死になって…克哉は
我が身を支え続けていった。

「…そうだ、お前はこうやって…俺だけを、感じ続けていれば…
それで、良いんだ…」

「んっ…ぁ…」

 相手の腰が、一層早まる。
 身体の奥で相手の先走りがジワジワと溢れ出て…相手がこちらを
揺すり上げる度に…淫猥な水音が響き続ける。
 グチャグチャ、と奥部で立てられているその音でも…聴覚まで
犯されていきそうで、恥ずかしくて仕方なかった。
 なのにそれすらも…ここまで煽られてしまうと、快楽のスパイスにしか
ならなくて。もう制御出来ない処まで、克哉は追い詰められてしまっていた。

(もう、ダメだ…イクっ…!)

 心の中で強く叫びながら、相手から与えられる衝動のままに
身体を突き動かしていく。
 欲望を受け入れている箇所は…貪婪に中に納めているペニスに
絡みつき、痛いぐらいに求めているのが自分でも良く判った。
 『俺』が、欲しくて堪らない。
 その想いが、克哉を一層深い狂乱へと叩き落としていく。
 もう快楽を追うこと以外考えられなくなっていく。

(『俺』…好き…だ…)

 多分、こんな事…口に出して言ったら…きっともう一人の自分は
嘲笑うかも知れない。
 だから、心の中に…想うだけにして、代わりにその指先を執拗に
舐めあげていく。
 不毛以外何でもない恋。気づいたら灯ってしまった想い。
 言葉に乗せて伝えられない代わりに…相手が刻む律動にシンクロ
させる事で…こちらが強く求めている事実を示していった。
 
「くっ…ぁー!」

 ついに堪え切れずに、克哉は鋭い声を漏らしかけて…代わりに
相手の指を再び噛んでいってしまった。
 血の味がまた広がって…相手を傷つけてしまったという罪悪感と、
愛しい相手の血を舐めているという…奇妙な思いが、何故か…
陶酔感を齎していく。
 申し訳なくて、その血を舐めとろうと…必死になって舌を這わせていく。
 チュッチュ…と音を立てて懸命に、いじらしい程に…その指先を
吸い上げていくと…。

「もう、良い…」

 と短く告げられて指を離されて、代わりに…相手の唇が近づいて
苦しい体制になりながら口づけられていく。
 
―そのキスは血の味がして、甘いような…塩辛いような味わいだった

 そのせいで、逆に克哉の心の中に…今までのどんなキスよりも
強く脳裏に刻みつけられていき。
 まだ相手のモノが内部に納められた状態のまま…暫し、目を伏せて
その濃厚な口づけを受け入れていったのだった―
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香坂
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女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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