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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『夜街遊戯』
 
―プロトファイバーの一件が片付いてから、佐伯克哉は
平穏な日常を取り戻していた。

Mr.Rから例の眼鏡を受け取った日から三ヶ月間は今までの
自分からしたら激動の日々の連続だったが…定められていた
期間が過ぎてあの眼鏡を返してからは、ゆっくりとそれまでの
日常に克哉は戻っていた。
 本日は陽気もうららかなもので、こんなに日差しが穏やかな日なら…
散歩したり、公園で日向ぼっこをしても良いと思えるくらいだ。
 柔らかい陽光に照らし出された街並みを眺めていきながら、
佐伯克哉はしみじみと感じていった。
 
(…平和だなぁ)
 
 八課のオフィス内で、ふとキーボードでの打ち込み作業を中断して、
窓の外に広がる青空を眺めながら、克哉はしみじみと実感していた。
 本多と協力してバイアーズと契約を結んで、プロトファイバーの新しい
販売経路を開拓した一件のおかげでキクチ社内での営業八課の評判は
格段にはね上がっていた。
 そのおかげでここ数ヵ月間は仕事上は順風万風。
 以前に比べてあらゆる仕事がやりやすくなっていて…何の不満も
感じる事はなかった。
 八課内の空気も活気に満ちていて実に明るい。
 いずれはどうせリストラされる身分なのだから…と諦めムードが
漂っていた頃に比べれば見違える程の変わりようだった。
それなのに何かが足りないような…そんな気持ちが常に消えなかった。
 
「…何だろう。現状にそんな不満を抱いてない筈なのに、どうして
こんなに空虚な気持ちになっているんだろう…」
 
そんなのは我が儘で贅沢だという自覚はある。
だがあの慌ただしかった日々と比較したら今はあまりに平和すぎて。
そのせいで克哉の胸には「退屈」という病魔が深く巣食うようになっていた。
 
―刺激が欲しい
 
あの時のような毎日が充足していて飽きる暇がない程の何かが欲しい。
そう望んだ時、克哉の中で真っ先に浮かんだのは例の不思議な力を
持った眼鏡と、もう一人の自分の存在だった。
克哉と同じ顔をしている筈なのにその表情は自信に
満ち溢れた理想の自分の事を…。
 
(…っ!何であいつの事なんて考えているんだよ!俺はこの手で
眼鏡を返す事を選択したんじゃないか…!何を今更…)
 
いや、違う。
自分はあの眼鏡自体には執着はない。
以前と比べて自分は随分と自信を持てるようになっていた。
だから自信がない自分を変えたい…そういう動機では克哉は
眼鏡を欲していなかった。
ただ、何故かもう一人の自分に会いたいと荒唐無稽な事を願っていた。
 
(バカバカしいよな…オレ達は同じ人間同士なのにアイツと
会いたいと思うなんてさ…)
 
どうしてこんな事を思うのか克哉自身にも不思議だった。
その瞬間、脳裏をよぎったのは真っ赤な天幕で覆われた部屋での記憶。
あの部屋での奇妙な邂逅を思い出し瞬く間に克哉の頬は真紅に染まった。
 
(…わわっ!仕事中にオレはなんて事を考えているんだよっ!)
 
だが、一度再生された記憶は容易に消えてはくれない。
あの夜の濃厚な快楽を思い出してゾクン、と背筋から甘いうずきが走り抜けていった。
 
「…あっ」
 
―あの強烈な刺激が欲しい。もう一人の自分にメチャクチャにされて、
思う存分貫かれて。もうダメ、とこちらが泣き叫ぶまで犯して…
 
「うわっ…」
 
唐突に己の中から溢れ出してきた欲望と本音に顔を赤くしたまま、
とっさに口元を押さえ込んでいく。
その様子はまさに挙動不審。端から見て怪しい人にしか
見えないだろうっていう態度であった。
 
(…けど、もう自分の気持ちに嘘はつけないな…)
 
自分はすでにこの平穏で退屈な日々に飽々してしまっている。
恐らく何もしないでいればこの日々は変わらずに続いていくだろう。
今の克哉にとってそれは何故か耐えがたいもののように感じられた。
せめて何か一つぐらいは変えてみたかった。
 
―帰りに久しぶりにあの公園に寄ってみようか…
 
ごく自然にそんな考えが浮かんだ。
何故かそれは凄い名案のようにさえ感じられた。
 
―それから克哉は修業時間までどこかソワソワしながら過ごしたのだった―

 

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※某鬼畜眼鏡アンソロジー様に寄稿させて貰った原稿です。
 すでにその本が発行されて一年が経過しているのと、その本自体が
今は販売されていないこと。
 それと…ちょっとした手違いで私の作品が掲載されていないバージョンの
本もあるとの事で掲載しておきます。

 …執筆したのは2007年で、ドラマCDの特別な日が出る前でしたが…
か~な~り内容が被っていたので当時はシクシクと泣いたいわくつきの
一作です。克哉誕生日アンソロジーだったからそれにちなんだものと
思ったら本家もそれ来るとは思っていなかったので(汗)
 …一応、CD発売前に書いたと断っておきます。パクリじゃないです。
 たまたま被ってしまっただけでございます。トホホ~。
 …そしてビジュアルファンブックも出る前だったので裏設定その他も
ロクに知らない頃なので今読み返すと色々痛い話ですが宜しくです。

 興味ある方のみ、「つづきはこちら」をクリックして読んでやって下さい。

 ―晴れ着を着た状態のまま、もう一人の自分に抱かれるというのも
奇妙な感じだった。
 眼鏡の手がこちらの帯板へと掛かっていくと…ゆっくりと何度も
身体を反転させられて、さっき丁寧に巻かれたばかりの帯が
解かれていってしまう。

(時代劇か何かだと…この光景ってクルクルと回されたりするんだよな。
町娘があ~れ~とか言いながら…)

 しかし、自分が立った状態でならともかく…ベッドの上に横たわった
ままでは、それを実行するのは厳しいだろう。
 クルクルと慎重に身体を回していく度に、今…自分は相手の目の前で
着物を脱がされているんだなという思いが一層強くなっていく。
 帯をあらかた取られていくと、慎重な手つきで深い蒼の…色とりどりの
桜が舞い散っている上品なデザインの晴れ着が剥ぎ取られていく。
 その下につけていた長襦袢と肌襦袢が見え隠れするようになって
克哉は緊張していく。
 そんな彼の首筋から、鎖骨に掛けてそっと吸い付いていくと…赤い痕が
其処にくっきりと刻み込まれていった。

「んっ…つぅ…!」

 身体に、今夜も相手の痕跡が刻み込まれていく。
 その度に克哉の身体はビクビクと跳ねていくが…相手はそんなの
一切おかまいなしに行為を続けていく。
 ゆっくりと晴れ着を肌蹴られて…赤く熟れた胸の突起が露出していく。
 それを指先で摘まれたり、引っかかれたりしながら刺激を与えられていくと
克哉の唇から実に艶かしい声が零れていった。

「はぁ…ん…」

「…くくっ、今日は随分と色っぽい声を漏らすじゃないか…? やはり、晴れ着を
身に纏っているといつもより若干…色気が増しているのかもな…?」

「っ…! そ、んな訳、ないだろ…そんなの、お前の気のせい…?」

「ほう、その割には…顔は真っ赤に染まっていて、実に艶かしいぞ…?」

 相手は喉の奥で笑いながら、ゆっくりと克哉の裾を割って…その下に息づいている
熱いペニスを握り込んでいった。
 着物の厚い生地の下ですっかりと反応しきってしまったそれは相手の手の中で
ドクンドクンと荒く脈動を繰り返している。
 その生々しさといやらしさに、克哉はつい…目を釘付けにされていってしまう。

(オレの…あいつの手の中で、こんなに淫らに息づいている…)

 自分のペニスの先端からは厭らしい汁が大量に滲んで、もう一人の自分の
手をすっかりと汚してしまっていた。
 ただ握られているだけで呼吸が乱れがちになっているというのに…彼が
執拗に敏感な鈴口を擦り上げるものだから、耐え切れないとばかりに
克哉は肩を上下させて、荒っぽい呼吸を繰り返していく。

「んっ…あっ…! やっ…あんまり、弄るなよ…!」

「…何を言っている。お前の本心は…『もっと…』じゃないのか…? 俺の手の中で
これは暴れまくって、もっと気持ちよくなりたいって訴えかけているぞ…?」

「やっ…だっ! 意地悪…言う、なよぉ…!」

 克哉は泣きそうな顔を浮かべながら反論していくが、その声は一層甘さを
帯びていくばかりだ。
 愛撫を施されていく度に耐え切れないとばかりに肌を上気させて…眼鏡の
手の中で乱れていく様は、ハっとなるぐらいに色香を放っていた。

(まさに…艶姿だな。着物をつけなくても、お前は十分に色っぽいが…晴れ着を
身に纏うことによって…いつもはない華や色気が生じている…)

 克哉の肌に、その晴れ着の蒼はとても良く映えた。
 当然だ…自分が見立てて、これなら絶対に克哉に似合うと確信を得たもの
なのだから。
 彼の健康的な肌が、興奮する事で朱に染まり…その蒼に調和していく。
 蒼は極めて合わせるのに難しい色だが、今の克哉には…あまりにマッチ
していて…彼が本来纏っている色気を、何倍にもしていた。

 グチャヌチャ…

 淫らな水音を立てながら、眼鏡の手の中で克哉の欲望が育っていく。
 その音に鼓膜を刺激されて、克哉は耐え切れないとばかりに必死に
頭を振り続けていった。
 だが…眼鏡は決して容赦してくれない。
 何度も小刻みに全身を痙攣させて、克哉はともかく忙しない呼吸を繰り返し
続けていた。

「ひっ…あっ…! やだ、もう…イクっ!」

「あぁ…俺が見ていて、やるよ…もう、イケよ…」

「ふっ…あっ―!!」

 昨日も散々、抱かれているというのに…否、散々この男に至るところを
弄られ続けたせいで克哉の身体は敏感になっていた。
 だから、ついに堪え切れずに精を放っていくと…白濁が眼鏡の手の中に
大量に吐き出されていった。

「あっ…はっ…『俺』…」

 熱に浮かされたような眼差しを浮かべながら…克哉が真っ直ぐにもう一人の
自分の顔を見つめていく。
 そんな彼の視線を、そっと見つめ返していきながら…眼鏡は一層大きく
克哉の裾を捲り上げて、その足の間に身体を割り込ませていった。
 そうして…すっかり覆い被さられていくと…相手の欲望を奥まった箇所に
ダイレクトに感じて、克哉はビクっと震えていき…。

「そろそろ、抱くぞ…。晴れ着を纏っていつもよりも艶やかになっているお前をな…」

「ひゃ…うっ…!」

 期待するようにブルリと身体を震わせていきながら克哉はその衝撃に
備えていった。
 それから、容赦なく眼鏡の熱い塊がこちらの身体の中に割り込んでくる。

「あぁ…! 熱、いっ…!」

 覚悟はしていたが、もう一人の自分のペニスはかなり熱かった。
 その熱に歓喜の声を漏らしていきながら…際奥までそれを深々と克哉は
飲み込んでいく。
 相手の鼓動を身の奥で感じ取って、克哉は耐え切れないとばかりに
悩ましい声を漏らしていく。
 それから…眼鏡の律動は激しさを増していって…克哉の身体を遠慮なく
ゆすり上げていった。

「あぁ…もっと、俺をしっかりと感じろよ…『オレ』…。これが俺たちにとっては
今年最初の…『姫初め』になるんだからな…」

「ひ、姫初めって…! 何か、その響き…凄くいやらしい、んだけど…
ひゃう…!」

「いやらしい、から…良いんだろうが…。この為に、誕生日祝いを延長しても…
お前の傍にいたんだから、感謝しろ…」

「…っ! な、んだよそれ…まったく、お前って…!」

 誕生日祝いの為に自分の元に来てくれたことは何だかんだ言いつつも、
一人寂しいバースディを送ることに比べたら、凄い嬉しかった。
 そして初めて…もう一人の自分が、目覚めた後も残ってくれていたことも
最初はびっくりしたけれど…嬉しかったのだ。

「お前って、何だ…? 言ってみろよ…なあ、『オレ』…?」

 ククっと笑いながら、思いがけず甘い眼差しをこちらに向けて来たので…
克哉はつい、拗ねたような顔を浮かべてしまった。
 …こんな時に、そんな顔をこちらに向けるなんて反則以外の何物でも
ないと思う。
 …滅多に優しい顔なんて見せない癖に、こんな状況で見せられてしまったら
克哉としても…言葉に困ってしまうではないか。
 
「…お前って、本当に意地悪で…」

「ほう? それで…続きは何だ…」

「…困った奴、だよな…けど、その…耳、貸して…」

「あぁ、良いぞ。何を言ってくれるんだ…?」

 克哉の反論など、すでに相手は予測済みなのか…それくらいの言葉では
まったく動揺する様子など見せなかった。
 その間、抽送はかなりゆるやかで…甘い快感がじんわりと身体の奥から
広がっていくようだった。
 このまま、悪態を続けるだけでは相手を愉快がらせるだと思った。
 だから…克哉は言ってやる事にした。
 相手にとっては今、予想外な一言を…。

―けど、そんな奴でも…オレはお前のことが好きなんだよな…

 そう囁いた瞬間、相手の身体がピタっと止まった。
 そして驚いた表情を一瞬だけ浮かべていく。それを見て…克哉は
してやったりと…思った。

「驚いた…?」

 その瞬間、克哉は悪戯が成功した子供のような表情を浮かべていく。
 眼鏡は…少し経った後、正気に戻って…代わりに激しく相手を突き上げるという
行為に出始めていった。

「あぁ、驚いたとも…そういう訳で、お前には今の一言を言った責任を存分に
取ってもらおうか…」

「な、何だよ…その、責任って…はっ!!」

「…新年早々、俺をこんなに熱くさせた責任だ…」

 そう宣言しながら、克哉を翻弄するぐらいに激しく律動を繰り返していって…
眼鏡は貪るように克哉を抱き続けた。

 そして…激しく甘い一時が二人の間に訪れていった。
 …そうして、眼鏡と克哉の新年はゆっくりと始まっていったのだった―

 
 ※2話で完結させる筈が伸びたー!! 眼鏡がムダに
エロくなりすぎだー! 頑張りすぎだー!
 という訳で三話形式になります。許してください…(ヨヨヨヨ)

 ―その後の克哉を宥めるのは並大抵の苦労ではなかった。
 いかんせん、勝手に克哉の口座から必要経費を引き落としておけと
いう言い方が非常にまずかったらしい。
 Mr.Rが立ち去っていってからも半端じゃないヘソの曲げっぷりで…
眼鏡はいまだかつて、もう一人の自分に対してここまで苦戦を
強いられた事はなかった。

 ベッドの上で膝を抱えて眼鏡に背を向けている克哉からは
何か黒いオーラが大量に滲み出ている。
 ここまで大いに拗ねまくっている克哉に遭遇したのは眼鏡も
初めての経験だけに…どうすれば良いのか判らなくなった。

「…おい、お前。いつまで拗ねているんだ…。新年早々、あまりにその顔は
景気が悪すぎるぞ。もう少しにこやかに笑ったらどうなんだ」

「………」

 しかし、さっきから幾ら声を掛けようと何をしようと、克哉がこちらを振り向く
事すらなかった。
 二人の間にかなり険悪な空気が流れていく。
 眼鏡はその現状に正直、舌打ちをしたくなりながら…どうすればもう一人の
自分が機嫌を直してくれるかを必死になって考えていった。

(考えろ…俺はこいつにこれを贈りたくて…あの男に手配を頼んだ筈だろう…?)

 この状況を打破しよう、という意識が強まった時…男の目には、
さっき黒衣の男から受け取った桐の箱が目に止まっていった。
 それをそっと手に取って開いていくと…其処には実に目にも鮮やかな一枚の
青い振袖の着物だった。
 それは…京友禅、全てが絹糸で仕立てられた見事な一品だった。
 青い生地の上に…赤や桃、紅や白の鮮やかな桜の花が舞い散って
流れている文様は…見ているものの心をくっきりと捉えていく。
 細かい絹糸の一本一本が鮮やかに染められて作られたその着物は…克哉の
肌の色の良く映えた。
 本人は女物など嫌がるかも知れないが…眼鏡はこいつにならきっと
似合うだろうと確信して選んだ品だ。
 この上品な蒼の生地なら、きっと…。

「おい…『オレ』」

 そうして、眼鏡は乱暴に桐の箱から晴れ着を取り出していくと…克哉の
肩にそれをそっと掛けて、彼と合わせていった。

「な、何だよ…!」

「…これが、俺がお前に贈りたかったものだ。…お前に良く映えているだろう…?」

「何を考えているだよ! 男のオレにこんなに贈ったって、何にも…!」

「いいや、お前なら立派に似合う。何故なら…この俺自らが直々に見立てて
選んだ品だからな…これの代金は今はお前に立て替えて貰うがその内、きちんと
俺が責任を持って支払うから…心配するな」

「…本当に、後で払ってくれるのか…?」

「あぁ、俺の能力ならば50万ぐらいはあっという間に稼げる。だから心配せず
これを受け取ってくれ…」

 相手に瞳を覗き込まれながら、きっぱりと言い切られて…思わずドキリ、となった。
 こうやって何かを断言する眼鏡の表情を、不覚にも克哉は格好良いと思った。
 こいつの真剣な顔なんて基本的に滅多に見れないし…自信たっぷりに笑みを
浮かべる姿は妙な色香すら感じてしまう。

(…こんな顔をされながら、断言されるのって反則だよな…)

 苦笑しながら頷いていくと、克哉はようやく…機嫌を直して、もう一人の
自分の手から晴れ着を受け取っていった。

「…これ、どこからどう見ても女の子が着るものだよな…」

「…心配するな。同じ顔でも俺には似合わないが…お前なら絶対に似合う」

「…それ、どんな保証なんだよ…まったく…」

 そう言いながら、もう一人の自分の手がこちらの衣服を脱がしに掛かる。
 眼鏡の手に脱がされるのは正直、恥ずかしかった。

「…お前に、着せてやるよ…俺、手ずからな…」

「うん…」

 そうやって自分の身体に触れる相手の手がとても優しかったものだから
克哉はつい…素直に頷いてしまっていた。
 そうして…さっき、応対する為に身を纏ったシャツとジーンズが遠慮なく
剥ぎ取られていって、ベッドの上で再び全裸にさせられていく。

「立てよ…お前に、これを着せてやる…」

「あっ…」

 耳元で、腰に響きそうなぐらいに低い声音で囁かれていく。
 そのまま…まるで催眠術に掛けられたかのように、克哉は
フラフラとその場に立ち上がり…相手に全身を晒していった。

(死ぬほど…恥ずかしい…!)

 羞恥の余りに、唇をキュっと噛み締める仕草すらもかなりの
色香が漂っていた。
 そのまま…眼鏡は全裸の克哉の前に跪いて、足袋から履かせていく。
 桐の箱の中には晴れ着を着るのに必要な物が一揃い収まっていた。
 自分だけが脱がされている状況なのに…先に足袋だけ身につけさせられるのは
逆に卑猥に感じられた。
 そのまま…肌着をゆっくりと身に纏わされていく。
 足袋、裾よけの順でつけられていくと…ようやく下半身が相手の眼前に
晒されなくなって少しだけホっとしていく。
 そのまま肌襦袢をそっと着付けられていくと…今、自分はこの男の手で
着物を着せられているという事実を嫌でも自覚していった。

(一体どこで…着付けの仕方なんて覚えたんだろう…『俺』…)

 その事に疑問を覚えつつも、克哉は相手の手に素直に身を委ねていった。
 眼鏡は克哉に長襦袢をそっと袖を通させると、両袖の辺りをしっかりと
克哉に持たせて正しい位置へと合わせていく。
 微調整を終えていくと、胸元の辺りをしっかりと右が下になるように
合わせてから後ろから前に紐を通していって縛って止めていった。
 意外に本格的な着付けの仕方をこいつがしている事に驚きつつも
克哉は…相手のされるがままになっていった。
 襟の後ろの部分に拳が一つ入るぐらいの余裕を作るように調整を
していくと…今度は紐の上に…伊達絞め用の帯を、身体の前から
通して背中で交差させていき前で挟んでねじって止めていった。

(何か着物を着せるのって凄く大変なんだな…。見ているだけで
一つ一つが非常に細かいっていうか…良く、『俺』覚えられるよなぁ…)

 まあ、恐らくこの晴れ着も一度着せられたら確実に脱がせられるような
真似をされるのは確実なのだが、こういう事に拘るもう一人の自分に…
ちょっとだけ尊敬も覚えてしまった。
 自分にはそれだけの為にこんな細かい着付けの仕方まで覚えるなど
絶対に無理なことだからだ。
 そして…ようやく青い晴れ着に袖を通されて、ドキドキしてきた。
 長襦袢を乱さないように慎重に羽織わされていく手つきが…妙に
丁寧で優しく感じられた。
 そのまま、腫れ物を触るような繊細さで…着付けは続けられていく。
 きっともう一人の自分にとっても、着物を人に着せることなど初めての
経験なのだろう。
 そのおかげで…滅多に見れない真剣な表情のもう一人の自分の顔を見る
格好となり、克哉の心臓は高鳴り続けていた。

―着付けが終わるまでの間、二人は終始無言のままだった

 口を挟むことなく、いつもは一方的に脱がされるだけの相手に…
こうやって丁寧に晴れ着を纏わされるなど予想外の体験過ぎて。
 全ての着付けが終わって…ようやく、帯板がつけられた頃には…
緊張の余りに、このまま克哉はその場にヘタり込みそうだった。

「…終わったぞ。思った通り…その晴れ着はお前に良く似合っている。
可愛いぞ…『オレ』…」

「…そんな訳、ないだろ…。26歳にもなる大の男が…こんな、晴れ着なんて
着たって…似合う訳…」

「お前は、俺の見立てに文句をつけるつもりか…? その蒼は、お前に合うと
確信して選んだんだ…。だから胸を張っていろ…良いな?」

「えっ…あ、うん…」

 そのまま、晴れ着を纏った克哉を愛でるように…男の手はゆっくりと
克哉の髪先から、項に掛けてを撫ぜ上げていく。
 たったそれだけの動作で…触れた場所から電流が走り抜けていくようだった。

「はっ…ん…」

 どうして、この男にこうやって少し触れられるだけで自分の身体は
こんなに反応をしてしまうのだろうか…?
 そのまま、眼鏡の手はゆっくりと…克哉の首筋のラインを辿っていく。
 克哉の身体は相手の手が蠢く度にビクビクビクと震えていってしまう。
 この着物を着させられている間、熱くて食い入るようなもう一人の自分の
眼差しに貫かれ続けていた。
 そして…この指先が、こちらの肌をくすぐる度に…もっと触れて欲しいと
いう欲望が溢れ出してしまって、堪らなくなってしまっていたのだ。

「…まだ、お前の髪やうなじに触れているだけだろ…? それなのにどうして…
もうそんなに顔を真っ赤に染めているんだ…?」

「…いじ、わる…さっきから、あんな風に…お前に見つめられ、続けていて…
こっちが冷静でなんか、いられると思ったのかよ…?」

「…そんなに、俺に見られて…お前は感じていたのか…?」

「はっ…ん…」

 眼鏡がカプっとこちらを焦らすように…耳朶を甘く食んでいった。
 軽く歯を立てられて痛いぐらいなのに、たったそれだけの刺激でもすでに
欲望が灯ってしまった肉体は過敏に反応していってしまう。

「…見れば、判る…だろ…?」

「いいや、判らないな…。だから俺を求めているのならば…きちんと声に
出して言うことだな…なあ、『オレ』…」

 そのまま、晴れ着の生地の上から…背骨のラインを探し当てられてツウっと
なぞり上げられていく。
 三枚ほど布地が隔てられているにも関わらず、それでもゾクっと肌が
粟立つのを止められなかった。
 そのままベッドの上に腰を掛けさせられると、その上に横たえられていく。
 
「…せっかく、着付けてもらったのに…もう…」

「なあ、『オレ』…知っているか…? 男が恋人に服を贈る時は…どんな意図が
込められているかをな…?」

「な、に…?」

「…それを自分の手で脱がしたいから、贈るんだ…。その為に、着付けの勉強を
今回はしたぐらいだ…。この蒼の着物を身に纏っているお前を…自分の手で
丁寧に解いて、抱きたいと思ったから…今朝も帰らずに残っていた…。
本当に、良く似合うぞ…『オレ』…」

「…ほんっとうに…そういう事だけは、労力を惜しまないんだな…お前…」

 と、思いっきり呆れたい気持ちが生じたが…相手がこちらを見る眼差しの
強さに、それ以上の言葉は封じられてしまった。

(着付けの勉強するぐらい…これをオレに贈りたいとか考えていたって聞くと
ちょっとだけ可愛く感じられるな…。それで黙って50万使われるのはちょっと
困ってしまうけれど…)

 けれど、さっき自分は必ずその分は稼いで返して…それをお前に贈る形に
してやるって聞いて、ちょっとだけくすぐったい気持ちになっていった。
 一旦、自分の口座から50万が減るのはちょっと痛いけれど…もう一人の自分なら
きっとその約束は果たしてくれるだろう。

「…本当、お前って物好きだよな…。こんなに労力を払ってまで…オレに晴れ着
なんて贈るんだもんな…」

 そう呟きながらも、克哉はまるで花が綻ぶような笑みを浮かべていった。
 それを見て…眼鏡は本当に、満足そうに微笑んでいく。
 そのままとても甘い空気が二人の間を流れていき…ごく自然に、唇が重なり合った。

「んんっ…」

「はっ…」

 お互いに短く声を零し合いながら夢中で唇を貪り合っていった。
 昨晩もセックスしている間、沢山の口付けを交わした。
 だが、そんなものでは全然足りない。
 
―もっと深く、激しく相手を感じ取りたいと思った

 キスを交わしたら、その想いが一層強まっていくのを克哉は感じていく。
 
(もっと…こいつと、キスしたい…)

 その願いに突き動かされながら、克哉は自ら積極的に舌を絡めていく。
 こんな…自分に晴れ着なんて、茶番以外の何物でもない。
 それでも…何か、不思議と嬉しく感じられた。
 もしかしたら他の人間から見たら、きっともう一人の自分の行動は滑稽に
感じられてしまうかも知れないけれど…それでも…。

 触れられる指先の優しさに、暖かいものを感じられた。
 こちらを時折見つめてくれた眼差しに熱いものを垣間見れた。
 
 晴れ着云々よりも、それを贈られた事でもう一人の自分が想ってくれている
事実を実感する事が出来たから。
 それが克哉の胸の中に確実に喜びをもたらしていたのだ…。

 チュク…チュパ…

 何度も何度も激しく口付けている内に、淫らな水音が二人の脳裏に
響き渡っていく。
 それが克哉の中に興奮を生み出していき…次第に理性も、何もかもが
どうでも良くなっていった。
 そうしてどれくらい永い間…キスを続けていた事だろう。
 ようやく解放されていくと…克哉の目の前で、眼鏡は実に獰猛で魅力的な
笑みを浮かべながら告げていった。

「さて…姫初めでも始めるとしようか…『オレ』…」

 そう告げながら、眼鏡の手はゆっくりと…克哉の晴れ着の帯板を
まずは外しに掛かったのだった―

 ※これはCDドラマに収録されている克克の「特別な日」の
翌日という設定で書いてある克克の姫初めSSになります。
 それを聴いていない方には不親切な内容になっているので
予め断っておきます。すみません

 ―もう一人の自分に誕生日を祝ってもらった翌日
  克哉が目覚めた頃には初日の出はすっかりと昇り切っていた

 窓の外から、眩しい光が差し込んでくる。
 それでようやく…克哉が目覚めていくと、自分の隣にはとても
暖かい感触を感じた。

「えっ…?」

 一瞬、克哉は我が目を疑った。
 大晦日の日に彼と会えただけでも一種の奇跡だと思っていたのに
何故、自分がこうして起きても彼の姿が存在しているままなのだろうか?

(どうして目覚めても…もう一人の『俺』が隣に…?)

 そのことにびっくりしつつも、初めて相手の無防備な寝顔を目撃して
克哉はフっと瞳を細めていく。
 彼はいつだってヤルことをやったら…幻のように自分の前から消えて
いく癖に…何たって今回に限って、こいつが…。

「んっ…」

(しかも寝言漏らしているよ…案外、こいつ…睫が長くて整った顔をしている…
って、オレと同じ顔の造作している筈なのになんで見とれているんだよ!)

 心の中で大いにツッコミをしつつも、自分も相手もしっかりとベッドの上で
裸の状態で眠っていた事実に気づいて、ボっと顔が赤くなっていく。
 昨晩、どれだけ自分が相手に『愛されたか』を思い出してしまって
克哉は居たたまれない気分に陥っていく。
 もうこいつに好き勝手にされるのも多少は慣れて来たし…何だかんだ
言いつつもセックスをするのは気持ちよくて蕩けそうになる。
 …辛うじて、イク寸前に除夜の鐘を遠くで聞いていたようなそんな
記憶が残っている。
 
(まあ…シャンパンもケーキも美味しかったけど…誕生日プレゼントに
『プレゼントは俺で良いな』って言う奴は初めてだったな…。しかもオレが
食われる側になった訳だし…)

 何というか昨日の誕生日は、色んな意味で思い出に残るというか…奇妙な
一日でもあった。
 不思議な夢のような感覚。だけど…それが現実である事を示しているかのように
自分の傍らには、今も…もう一人の自分が存在していた。
 確認したくて、克哉は無意識の内に…彼の方へと指先を伸ばしていく。
 相手を決して起こさないように、慎重に…静かに触れようとした瞬間、ガシっと
眼鏡の手に手首を掴まれてしまって、克哉はぎょっとなる。

「うわっ…!」

「…俺を起こさないように撫ぜたかったのなら、もう少し気配ぐらい絶て。
…相変わらずお前は愚鈍な奴だな。…まあ、新年明けましておめでとう…
『オレ』 良く眠れたか?」

 手首を捉えられた次の瞬間には、相手が自分の指先をパクっと咥えて甘噛みなんて
したものだから、ついビクっと肩を揺らしてしまった。

「こら…人の指を噛むなよ! ちょっと痛いだろ!」

「…痛いだけか? お前のことだから…俺にこうされたら、指だけでも感じて
しまうんじゃないか…? こんな風に…」

 そういって、今度は掌の中心の辺りをペロリと舐められて、克哉はキュっと唇を
噛み締めてその感覚に耐えていく。
 そうしている間に、眼鏡は克哉の右手を両方の手で覆っていき…指の又や
先っぽの部分を…まるでペニスを口に含んで愛している光景を連想させる
ような淫靡な雰囲気で…舐めたり、擦り上げたりを繰り返している。

(って…何で指先を弄られるだけで、こんなエロい気持ちにさせられないと
いけないんだよ…! 本当にこいつって…!)

 チュポン…!

 わざと大きな音を立てるように指先を吸い上げられていく。

「こらっ!そんなに新年早々、いたずらするなよ…! もう、
やめろって…! あっ!」

 克哉がついにこらえ切れずに相手の口元から指を引き抜いた瞬間、まるで
見事な技の連携が決まった時のように鮮やかに…相手の腕の中に自分は
引き込まれてしまっていた。
 さっきまでちょっと距離があったのに…あっという間に詰められていく。
 トクントクン、と相手の鼓動をごく身近に感じてみるみる内に克哉の耳元まで
真っ赤に染まっていく。
 相手の顔が至近距離に寄せられて、克哉はどうすれば良いのか判らなくなって
つい眼鏡の顔を凝視してしまった。

「…くくっ、新年早々…俺の顔に見蕩れたか? お前は本当に…ナルシストなんだな。
俺とお前の顔は、基本的に一緒だろう?」

「…そんな事言ったら、新年早々…自分と同じ顔の奴にこんなエッチな
ちょっかいを掛けてくるお前は何なんだよ…。オレをそんな風に扱って、お前は
楽しいのかよ…」

「あぁ、楽しいが悪いか?」

「…即答なんだ」

 眼鏡の答えが一瞬も迷いも見せずに、即効で返って来たので…逆に克哉は
毒気が抜かれてそれ以上、何も言えなくなってしまった。
 相手の顔をチラチラと見ながら、軽く頬を染めていく克哉の姿は…本人にその
自覚はないが本当に可愛らしくて…眼鏡の嗜虐心を大きく煽っていった。

「…あの、悪いけど…そろそろ、離して。オレ…このままお前の腕の中にいたら、
何か、ちょっと落ち着かない気分になってきたから…」

 こうやって裸の状態で相手と抱き合っているだけでザワザワザワ…と
自分の中で何かがざわめき始めているのを自覚していった。
 このまま寄り添っていたら確実に自分はヤバイ事になってしまう。
 その本能的な危険を察して、俯きながらもう一人の自分に頼み込んでいったのだが
そんなのはこの男に限って言えば逆効果以外の何物でもない。

「…お前は、俺とこうしてベッドで裸で抱き合っていて…何もないままで
いられると思っていたのか? 随分と俺に関しての認識は甘いものだったんだな…」

「えっ…だって、昨日…あんなに、されたのに…今日までされたら、オレ…
本当に、その…死んじゃうよ…」

「まあ、新年早々…腹上死するぐらいに激しくヤルのも悪くはないかもな…」

「うわうわっ! だから抱き合った状態のまま…そんないやらしい手つきで
オレの身体を、あっ…! 弄るなってばー! やっ…あっ!」

 克哉は必死になって眼鏡の腕の中で暴れまくるが…相手はただ愉しそうな顔を
浮かべるばかりでまったく容赦するつもりなどなかった。
 赤く色づき始めている胸の突起や、脇腹の敏感な部分を遠慮なく攻め立てて
克哉の性感帯を攻めていく。

「くくっ…口では嫌がっている割には、お前はこんなに反応しまくっているじゃないか…。
胸がこんなに赤く色づいて、硬く尖っているぞ…?」

「やっ…バカ、其処を舐めない、で…んんっ!」

 唇でもその赤く染まった箇所を攻められて、軽く歯を立てられていくと耐えられないと
ばかりに鋭い声を克哉は漏らしていった。
 このままでは確実にセックスに雪崩れ込まれてしまう…とその危機感を抱いた瞬間、
部屋中にチャイムが響き渡っていった。

 ピンポ~ン!

 その音を聞いた瞬間、克哉は思いっきり眼鏡に頭突きを食らわせる勢いで
身体を起こして、一気に正気に戻っていった。

「ぐおっ!」

 その瞬間、眼鏡の顎に克哉の頭がクリーンヒットしていった。
 顎を押さえて相手が怯んでいる一瞬の隙を突いて…克哉は慌ててベッドの周辺に
大雑把にたたんで置かれていた自分のシャツとジーンズを引っ下げて、それに
袖を通し始めていった。

(確か…昨晩、オレは鍵を掛けた記憶がない…! もし、本多とかが新年の挨拶に
顔を出したのなら…出ないと、中に黙って入られる可能性がある…!)

 長年の付き合いである本多のみ、もし家の鍵が掛かっていなくて自分が
応対しない場合は…中に入って様子を確認するぐらいはされる可能性があった。
 克哉が一人暮らしと判っているから、風邪とかで倒れているということも
ありうるから仕方ないと判っているが…今朝に限ってはそれをやられたら
もう一人の自分を目撃されてしまう訳で。
 その危機を回避する為に克哉は高速で着替えを終えて、そのまま玄関へと
駆けていった。

「はい! どなたですか…?」

 先程の情事の匂いなど、絶対に表に出さないように気をつけながら…
克哉は慌てて玄関の扉を開けて応対していく。
 普段の克哉なら、もう少し用心して対応するのだが…今は動揺しているので
少し大胆な出方になってしまっていた。

「…新年明けましておめでとうございま~す。清々しい新年の朝ですね。
そんな貴方がたを祝うべく…お祝いの品をご持参させて頂きました~」

 歌うようなしゃべり方に、新年の爽やかな朝の全てをぶち壊しにしかねないぐらいに
胡散臭い格好をした男が其処には立っていた。

「み、Mr.R!?  ど、どうして貴方がここに…?」

「嫌ですねぇ。たった今…申し上げたばかりですよ。佐伯克哉さん…貴方と
我が最愛の鬼畜王となられる資質がある御方の為に、ささやかながら…新年の
お祝いの品をご持参させて頂きましたと…」

「えっ…? 我が最愛の…何て、言ったんですか…?」

 あまりも聞き慣れない単語がスラスラと黒衣の男の口から紡がれていった為に
とっさに聞き取れなくて、克哉は問い返していく。

「…別にこの男が俺をどう呼ぼうとどうでも良いだろう。…で、お前は一体…俺に
大してどのような貢の品を持って来たというんだ…?」

「お、『俺』…!  そんな風に出て来て…誰かに見られたらどうするんだよ!」

「…心配するな。この場にはこの男しかいない筈だ。こいつが…自分が目の前に
いる時に他の人間と俺たち二人が出くわすようなそんなミスを犯す訳がないからな…」

「あぁ、流石に我が王は…私のことを良く理解して下さっているようですね。
それでは…貴方様が佐伯様に対して、贈りたいと願っていたものをここに…。
これで宜しいでしょうか…?」

 そうして克哉のマンションの玄関先にて、男は恭しい仕草でもう一人の自分へと
立派な桐の箱を一つ…手渡していった。

(どうして桐の箱なんて…? 普通それって…着物とか、高い生地とかで出来た
ものを入れるものだよな…。どうしてあいつがそんな物を所望したんだ…?)

 ついでに言えば、もう一人の自分が好むのは外国のセンスが良いブランド物の
スーツやコートの類だ。
 それらの物を収めるには桐製の箱は若干、合わないというか不釣合いだ。
 その事で疑問を覚えていると…眼鏡は満足そうに微笑み、それを受け取ってから
黒衣の男に対して労いの一言を掛けていく。

「…ご苦労だったな。確かに…良い物を選んでくれたようだ。購入に掛かった
費用は適当にこいつの口座から引き落としておけ」

「了解しました」

 眼鏡の言葉に、Mr.Rは快く頷いていったが…その言葉の意味を少し遅れて
理解した克哉は、思いっきり叫んでいった。

「ちょっと待て! 今…オレの方を指差して言わなかったか? それ…一体
幾らぐらいするもんなんだよ!」

「50万ぐらいでございますよ」

 そして恐ろしい金額を、Mr.Rはサラリと口にしていった。
 瞬間、克哉は頭が真っ白になりかけていき…。

「そんな大金をオレに一言も断りもなく平気で引き落とそうとするなー!」

 という、安月給でこき使われる克哉としては至極まっとうな心の叫びが
その場に広がっていったのだった―

 某Kさんに進呈した克克のSSでございます。
 イラストつきバージョンはこちらからどうぞ(掲載許可はこのイラストのみ頂きました)
 サイトにお邪魔した際、9月13日に掲載されていた如月さんの克克イラストが
こちらの胸に凄く残りまして…あぁ、恐らくこんなストーリーと、こういった
加工がしたいんだろうな…と何となく読み取れたので、それをこちらが
勝手にSSつけて送らせて貰った作品です。
(イラストの加工も少々やらせて頂きました)
 ご本人に凄いシンクロしてるー! と喜んで貰えたのでほっとした次第ですが。
 克克は切ない部分がとても好きです。
 快くこちらの加工やSSを受け入れて下さったKさんに感謝ですv

 気になる方だけ、つづきは~をクリックしてお読み下さいませv
 スパコミ、皆様お疲れ様でした!
 
 え~と予告していた、御堂さんの誕生祝ネタ…28日に御堂×克哉編を。
 29日に眼鏡×御堂編をアップと言っていましたけれど…諸事情により
翌日30日の方に掲載させて頂きます。 
  代わりに27日のキャラソンを語ろう! チャットの中で書き上げた克克ものを
掲載しておきます。

 …絵茶行く度に、何か一本は書いているような気がする…あたい。
 今日、御堂さんの誕生日当日なのですが某チャット様で最後にどうしても
皆様と一緒にカウントダウンしたかったので(汗)
 明日には誕生祝SS 眼鏡×御堂編掲載させて頂きます。
 一応、お題チャットで絵師様の絵に合わせて誕生日Hネタ書く事になったものですが…
そのサイト様の投稿所の方に掲載してから、ここでもという形にしたいと思ったので…
こうさせてさせて頂きました。
 ご了承ください。

 興味ある方だけ、続きを…をクリックしてお読み下さい。
 キャラソンのミニドラマ後の克克…という妄想ネタです。
 …勢いで書き上げました。
 少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
※この話は7月いっぱいに連載していた『在りし日の残像』の後日談に当たる話です。
  その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。
 それを了承の上でお読みください(ペコリ)

―花火が終わってからも、二人は何度も求め合った。
 お互いの心臓が破裂するのではないかと思えるくらいに激しく。
 相手の事以外、身体を重ねあっている瞬間だけでも考えられない
くらいに夢中に。
 両者とも、どれくらいの数…その間に果てたのか、すでに途中から
数えることすら忘れてしまっていた。

 そして、力尽きるようにしてまどろみの中に落ちてからどれくらいの
時間が経ったのだろうか…?
 気がつくと克哉は、少しだけさっぱりとした感じで…布団の中に収まって
もう一人の自分の腕の中に包み込まれていた。
 例の屏風の内側にあった、布団一式の中に…屋形船の縁側の部分で
抱き合った後に運び込まれていたらしい。
 清潔でフカフカの感触がする薄手の布団に包まれているおかげで…
裸の状態でも、寒いとはまったく感じずに済んでいた。

(…いつの間に布団の中に入ったんだろう…?)

 その記憶がすでに克哉の中では定かではなくなっている。
 花火が終わってからも、激しく抱かれ続けていたのは辛うじて覚えているが
それからどれくらいの時間が過ぎたのか、すでに間隔が判らなくなっていた。

「…何か、あのまま腹上死でもするかと思った…」

 寝ている間に、眼鏡の方が肌だけでも拭っておいてくれたのだろうか。
 内部にはまだ残滓が残っている感覚があるけれど、あれだけ行為の最中に
汗だくになっていた割には、爽快な気分だった。
 そういえば昔…記憶を失って、あの別荘地の屋敷で目覚めた直後も…
意識を失うまで抱かれ続ける事はしょっちゅうあったような気がする。

―お互いの想いを確認して、眼鏡の様子が落ち着いてからはそんな事は
殆どなくなっていたけれど…。

「…けど、あの頃も…意識を失って翌朝目覚めると、一応…こちらを介抱して
くれていたんだよな。ふふ…懐かしいな…」

 …三年前、一緒にいた頃の記憶は正直、苦いものも多かった。
 あの一件を機に、克哉は太一と決別したからだ。
 記憶が無くて不安で、空白の一年間の間に何があったのか判らなくて
凄く苦しかった。
 …けれど、その時期があったから…今、こうして眼鏡と一緒にいる事を
選択したのもまた事実だった。

「…お前の寝顔も、あの頃はまったく見れなかったもんな…」

 懐かしむように瞳を細めて、自分のすぐ側で安らかな寝顔を浮かべている
眼鏡の顔を見つめていく。
 …今、思えば…三年前の眼鏡はいつだって張り詰めた顔をしていた。
 いつ、五十嵐組の追っ手が飛び込んでくるのか判らない状況では無理が
なかったとはいえ…そのおかげで、眼鏡はいつも克哉よりも遅く寝て…早朝に
起きて、銃の訓練や戦闘訓練を欠かしていなかった。
 そんな殺伐とした日々も、すでに遥か遠い過去のこととなりつつある。
 こんな風に二人で抱き合っていても、何の心配も抱かなくて良い。
 克哉は、その事実に…感謝していた。

(…オレ達の身辺も、平和になったよな…。あの時、毎日のように…
オレを守る努力をしてくれていて…ありがとうな、『俺』…)

 愛しげに、眼鏡の頬を撫ぜていきながら…小さくその頬にキスを落とそうと
した瞬間…ぎょっとなった。

「なっ…?」

 起きてから暫くは、頭がボーとしていたから無理がないとは言え…いつの間にか
克哉の左手の薬指にはシルバーのリングが嵌め込まれていた。
 こんな物、克哉には買った覚えもなければ、つけた記憶すらない。
 呆然となりながら…自分の指に輝く指輪を眺めていると…。

「…気に入ったか?」

 ふいに…自分の傍らでもう一人の自分の声が聞こえていった。
 慌てて振り向いていくと…いつの間にか眼鏡の方は意識を覚醒させていたらしい。
 愉しげな笑みを浮かべながら、腕の中の克哉を見つめていた。

「こ、これって…お前、が…?」

「あぁ、俺達の結婚指輪だ」

「へっ…?」

 突然、思ってもみなかった事を口走られて克哉は呆けた声を漏らしていく。
 しかし…そんな克哉の反応はすでに予測済みだったらしい。
 可笑しそうな顔を浮かべながら…眼鏡は平然と言ってのけた。

「…さっきも言っただろう? お前に今夜…花火大会に行きたいと誘われてから
一週間も時間があった。その間に…俺が何も準備をしないでいると思ったか…?」

「あっ…」

 そう言われて、合点が言った。
 この男はそれで…二人きりになれるように、この屋形船をMr.Rに言いつけて
用意しておいた方の周到ぶりだったのだ。
 確かに…一週間という時間があれば、指輪の一つぐらいは…この男なら
準備するくらい訳ないだろう。
 しかも、指輪のサイズも確認する必要もない。
 何故なら、自分達は同一人物なのだから…この男のぴったりなサイズの物を
用意すればそれで事足りるのだから…。

「…もしかして、その期間の間に…これ、を…?」

「あぁ、そうだ。俺達は…養子縁組という形で、籍を入れるという訳にも行かない
間柄だからな。せめて…指輪ぐらいは用意して、区切りぐらいはつけておいて
やりたかったからな…」

「…そう、なんだ…」

 現在、日本国内では同性同士の婚姻は認められていない。
 だが…養子縁組をするという形で、同籍に入るぐらいの事は出来る。
 しかし彼ら二人の場合、同一人物である為…眼鏡の方には自分の戸籍と
いう物が存在しない。
 公の場や、何かあった場合は…「佐伯克哉」の戸籍を共有して使っていく
以外に方法がないのだ。
 結婚するという手段も、籍を一緒にするという事も出来ない関係。

 けれどそれでも…少しでも証を残してやりたくて眼鏡はこっそりと…この指輪を
用意したのだ。
 …いつまでこうして、二人で一緒にいられるかは誰にも判らない。
 それでも、万が一終わりが来てしまったとしても…その記憶が、想いを少しでも
残しておきたくて…形となるものを贈っておきたかったのだ。

「…本当に、これを…オレ、に…?」

「…あぁ、本気だ。そうじゃなければ…わざわざ、こうして対になるものを
俺もつけたりはしないさ…」

「…あっ…」

 眼鏡がそっと自分の左手を、克哉の目の前に突きつけていく。
 其処には同じデザインの指輪が、光を放っていた。
 それを見て…克哉の胸は締め付けられて、思わず涙ぐみそうになった。
 嬉しかった。彼の気持ちが。
 …自分だけが、この男を好きな訳じゃない。
 彼もまた…自分を想ってくれている。その証を目の当たりにして…
克哉は思わず、その指輪にそっと触れていた。

「…嬉しい。凄く…嬉しいよ。ありがとう…『俺』…」

「そうか…」

―その瞬間、眼鏡はとても優しく笑っていた

 …それが愛しくて、仕方なくて。
 克哉は吸い寄せられるように顔を寄せて、そっと唇を重ねていった。
 何度も、何度も啄ばみあうように…優しいキスを繰り返していって。
 上質の酒を飲んだ時のような、甘い酩酊感を覚えて…頭の芯すらも、
ボウっとなっていきそうなくらいだった。

「…お前が喜んでくれるなら、こちらも準備した甲斐があったな…」

「…うん、今までの人生の中で一番嬉しい贈り物かも知れない…。
ありがとう…『俺』…」

 そういわれて、眼鏡は少しだけ複雑な顔をしていった。
 …そうして、難しい顔をして考え込んでいく。

「…どうしたの? 『俺』…?」

「…ふと思ったんだが、こういう時…『オレ』とか『俺』と呼び合うのが…
少し虚しいと思ってな…?」

「えっ…? でも、オレ達の場合は…それ以外に何て呼び合えば良いんだよ…?」

「…難しい問題だがな。…よし、克哉。俺に名前をつけろ…。お前のネーミング
センスと服装のセンスの悪さはよ~く知っているが…俺が許す。今から…
俺に相応しい名前をつけてみろ」

「えええっ~!?」

 指輪を贈られただけでもびっくりなのに、いきなり命名しろと言われて
本気で克哉は叫び声を挙げていく。
 だが、眼鏡の目は本気だった。

「…こうして、二人で存在している以上…俺達は「二人」だ。それなら…
個別の名前を持っていたって良いだろう? …この世界で、お前だけが…
俺をその名で呼ぶんだ。いわば…真名(マナ)をつけるようなものだ。
そう考えれば…悪くない提案だろう…」

「…そ、それはそうなんだけど…責任、重大だよね…」

「あぁ、変な名前をつけたら即効で却下させて貰おう。せいぜい…
俺にぴったりな名前をつけて貰おうか…?」

 幸福感から一転して、人生最大ともいえる難題をつきつけられて…克哉は
ともかく困惑するしかなかった。
 もう一人の自分に、命名?
 そんなとんでもない事態が襲ってくるなど予想もしてなかったから…半ば
混乱寸前だ。
 だが、彼が自分を「克哉」と呼ぶ以上…彼だって恐らく、同じように自分に
名前を呼んでもらいたいから…そんな提案をしたっていうのは判っている。

(こいつにぴったりな名前…え~と…もう一人の俺って言ったら傲慢で、
強気で…何が何でも勝ちに行こうとする性格で、どんな事でも器用にこなせて…
負けず嫌いで、頑固で…意地悪で、残酷で…)

 恐らく、彼から連想出来る要素や単語を必死に頭の中で考えていきながら
克哉は良い名前をつけようと考え続けていく。
 だが…ポロリと、考えを零すように呟いてしまっていた…。

「…俺、様…?」

 それは、その性格や性分を考えたら…『俺』に様をつけるぐらいが
丁度良いんじゃないか…という単なる思い付きだったのだが、それを耳にした
途端、盛大に眼鏡の額に青筋が浮かんでいった。

「…ほう? それが…お前が俺につける名前だというのか…?」

「うわっ! 違う…違うってば! だからそんなに怖い目でオレの事を見ないで
くれ~! 目だけで本気で殺されそうだから…!」

「…だったら、もう少し真面目な名前を考えろ! 幾らなんでも…『俺様』は
無いだろうが! 『俺様』は…!」

「ご、御免! 本気でオレが悪かった…! だからそんなに怒らないでくれってば!」

 こんな間近に顔を寄せ合っている状態で、射すくめられそうな強烈な眼差しを
向けられたらそれだけで失禁してしまいそうなくらいに怖い。
 機嫌を直して貰いたくて、必死に瞳を潤ませながら…克哉は謝り続けていく。

「…御免。今度こそちゃんと考えるから…怒らないでくれ。突然、そんな
提案をされたからこっちもびっくりしてしまって…まだ、考えが纏まって
いないだけだからさ…?」

 そういって、チョンと克哉から唇にキスを落としていくと少しだけ眼鏡の溜飲は
下がっていったようだった。
 少しだけ瞳が柔らかくなったのを確認していくと…ホっと安堵の息を吐いていきながら
克哉は改めて考え始めていく。

(…っ! そうだ、これなら…)

 彼のイメージと、ぴったりの名前が唐突に閃いていった。
 確かに自分のネーミングセンスは限りなく悪い。
 過去に知り合いのディエット名の案を考えろと言われて「オレザイル」なんて
提出したら思わず失笑を買ってしまった過去すらあるぐらいだ。
 だが…これなら、きっと…気に入ってくれるという確信があった。
 
「ねえ…『俺』。この名前は…どうかな…?」

 克哉は優しく微笑みながら、たった今…閃いたその名前を彼の
耳元で囁いていく。

―…………と、言うのはどうかな…?

 負けん気の強い、向上心が強い彼にぴったりの漢字を使ったその名前を
静かに囁いていく。
 それは…「克哉」という名前にも少し意味が被っていて、対になっている。

「…お前にしては、悪くない命名だ。気に入った。今度から…俺の事を
ちゃんと、そう呼べ…。世界でただ一人、お前だけが呼ぶ…俺の名前
なのだからな…」

「うん…」

 相手が気に入ってくれたのを確認して、克哉は幸せそうに微笑んでいく。
 慈愛に満ちた空気が、部屋中を満たしていく。
 そして静かに顔を寄せ合って…。

―お互いの名前を静かに呼び合っていった。

 心の底から幸せそうな笑顔を浮かべながら…二人は改めて、相手の身体を
抱き締めあって、その温もりを感じ取っていった―

 そうして…その日を境に、一つの季節が過ぎ去っていく。
 それは夏の終わりの、二人の思い出のカケラ。

 どれ程辛い日々も、輝ける日々も…その瞬間が過ぎ去ってしまえば
まるで残影のように儚く、遠いものになっていく。
 それでも…印象深いこと、大切な記憶となって何度も再生されていくものは
どれだけ長い月日が流れてもその人の心で決して色褪せる事なく輝き続けていく。

 この日、克哉に贈られた銀色の指輪は…眼鏡の気持ちが、間違いなく
自分に向けられている事を示してくれていた。
 それは永遠の誓いの証。実際に永遠に続く関係など存在しない事は
承知の上でも…一日でも長く、お互いが寄り添い会える事を。
 こうして二人でいられる事を願って贈る、繋がりの印を眼鏡が…
自分の為に用意してくれた。
 その事実だけでも、克哉にとっては充分だった。

 出来るなら、ずっとこうして傍に…。
 死が再び、二人を分かつ日まで。
 こうして寄り添って時を過ごしていける事を…。
 心から望んでいきながら、一つの季節が過ぎ去っていく。

 数多の苦難を乗り越えて結ばれた二人の指には…
これからも、想いの証が輝き続けるだろう。
 こうして…二人で、一緒にいる限り…ずっと―
※この話は7月いっぱいに連載していた『在りし日の残像』の後日談に当たる話です。
  その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。
 それを了承の上でお読みください(ペコリ)



  ―克哉の中に入った時、ジワリと何かが滲んでいった。

(まだだ…)

 眼鏡の心に、何とも形容しがたい焦燥感が広がっていく。
 目の前で克哉はよがっている。
 自分を求めて、余裕なく身体全体を震わせて…求めている。
 それなのに、この飢餓感は消えてくれない。

―あれから三年も経つ。こいつは俺を選択した事も判っている。
なのに…太一への嫉妬心が未だに消えないな…

 克哉の四肢、手首や足首の周辺には…あの頃よりも随分と薄く
なったが…未だに心を闇に落とした頃の太一につけられた陵辱と
監禁の痕跡が残されている。
 どれだけ自分の所有の証を刻もうとも…過去にこいつが他の誰かの
モノになっていた事実だけは変えられない。

 愛しくなればなるだけ。
 想いが強くなればなるだけ…。
 過去にコイツの身体を散々抱いて、求めていた男が他にいたという事実に
胸が焼け焦げそうになる。

 コイツの初めてだって、自分ではない。
 その相手は太一で…数え切れないくらいに抱かれていた事を知っている。
 何故なら…眼鏡は、苛立ちながら克哉の内側でそれを全部、
見ていたのだから―

「…くっ…!」

 だからその激情を全て叩き込んでいくかのように強く激しく、克哉の内部を
擦り上げていく。
 コイツの中には、太一への想いがまだ潜んでいる。
 それは…今、プロになってメジャーデビューしたばかりの太一を…
一ファンとして見守るような行為でも…!

(お前が、他の男にほんの僅かでも…心を向ける事を許せない…)

 だが、それは眼鏡のプライドに掛けても…口に出す事はない真意。
 ギリギリの処で太一を許して、海に落ちた克哉。
 三年間、誰に身を任せることもなく…ただ自分だけを思って真摯に
待っていた克哉。
 同じ人間であるだけに、克哉の記憶や想いもまた…ある程度は眼鏡の
知る事となる。
 仲間を大切に想い、片桐や本多、そして意外にも御堂とも最近は
連絡を取るようになっている。
 今の職場のメンバーとも…克哉は、良好な関係を保って何人か
飲み友達もいるようだった。

―独り占めをしたい想いが、胸の中に湧き上がっていく。

 克哉は、自分の存在のことを誰にも話していない。
 恋人がいる…という事は匂わせているが、眼鏡の事を紹介していないし
はっきりと明言する事もない。
 だから周囲の人間の中には、男女問わず…克哉を狙っている奴がいる事も
眼鏡は知っている。

 周囲に示せない。籍も入れられない。
 身体は二つに分かれていようとも…自分達は同一人物で、戸籍も何も…
眼鏡の方には存在しない。
 その事実に…どれだけ、戻って来た眼鏡が焦れているかなど…恐らく、
克哉はまったく気づいていないだろう…!

(…お前はきっと、俺のこんな気持ちに気づく事はないだろう…)

 克哉の内部をグチョグチョに掻き回しながら、自分の中の激しい
嫉妬心と焦燥に苦笑したくなる。
 他の誰かに何て…渡したくない。
 お前のこんな媚態を知るのも…喉が嗄れるぐらいに啼く姿も…
俺以外の人間に絶対に知らせたく、ない。

 背後に覆い被さりながら…胸の突起を弄り上げて…ただ、衝動の
ままに腰を突き入れ続けていく。
 克哉の内部は激しくうねり…痛いぐらいに眼鏡の性器を締め上げて
快楽を与えてくる。

「んっ…あぁ…はっ…どう、しよ…『俺』…! 凄く、イイ…! あぁ…!」

 もう、克哉は忙しなく呼吸をしながら、喘ぐことしか出来ない。
 目の前の花火もロクすっぽ見えていないだろう。
 眼鏡の方も余りに性急に腰を使い続けたせいか…最初の限界は
すぐに訪れていった。

「くっ…! イクぞ…!」

 ドクン、と荒く内部で脈打ちながら最初の精を解放していく。
 雄々しく起立して、克哉の中で暴れていたモノが勢い良く…その際奥に
熱い滾りを解放していって、ビクビクと克哉は震えていった。

「あっ…はぁ…んんっ…」

 克哉が悩ましげな声を漏らしながら、ズルリと屋形船の窓際、その畳の
上へと崩れ落ちていく。
 克哉の纏っていた浴衣は乱れまくっていて、まだ辛うじてついている帯の
おかげで脱げ切っていない状態だった。
 
「んっ…熱い、まだ…」

 克哉の肌は先程の行為の余韻で、朱へと赤く染まり…まだ艶かしい
雰囲気を漂わせていた。
 その中で、時折…放たれる花火の閃光が船内を照らし出し、眩い
光が…克哉の身体を染め上げていく。

パァン、ドン! ドン、ドォン!

 そろそろ…花火も終盤を迎えている頃だった。
 一発一発、上げられていた花火が…次第に数を増して、音にも
迫力が出始めている。
 そんな最中、眼鏡は…そのまま内部からペニスを引き抜かないまま
再び克哉の胸の周辺を弄り上げながら、抽送を開始していく。

「えっ…! ちょっと…! 『俺』…!」

「黙っていろ…まだ、俺は満足して、いない…」

「そ、そんな…むぐっ…!」

 そのまま荒々しく唇を塞ぎながら、眼鏡は容赦なく克哉の体を
再び揺すり上げ始めていく。
 まだ快楽の余韻を色濃く残していた身体は、再び火が灯るのもあっと
いう間であった。
 さっき、眼鏡が達すると同時に放たれて硬度を失っていた克哉の性器も
再び内部を擦り上げられてば瞬く間に張り詰めていく。
 今度は背後から強引に口付けられて苦しい体制を強いられながらの
行為に…ともかく、忙しく克哉は喘ぎ始めていく。

 大声で嬌声を上げたくても、口腔内を激しく舌で犯されている
おかげでくぐもった声しか零れなかった。
 呼吸すら、ままならなくて…苦しかった。
 その癖与えられる快感は半端ではなくて…。
 克哉はただ、それに躍らされるしか術はなくなっていた。

(…他の男が入り込む隙間なんて、お前に二度と与えない…)

 克哉の手を、手首にうっすらと監禁の痕跡の残したその手を
背後から掬い取って口付けていく。
 そして上書きをするように、其処にも吸い付いて…赤い痕を
散らしていった。
 指を、そのまま深く絡め合って…手の甲にもキスを落としていく。

―その仕草に、何よりも眼鏡の真意が現れていた

 胸を焦がす嫉妬も、克哉に対する熱い想いも…全てが。

「はっ…大丈夫、だよ…」

 何かを察して、克哉は…うわ言のように呟いていく。
 背後から貫いているこの体制では、克哉には…相手の顔を伺い見る事は
出来ない。
 けれど慈しみを込められたその仕草から、眼鏡の想いみたいなものは…
確実に伝わって来て、優しい口調で…告げていった。

「…オレは、お前の…傍を、離れないから…。好き、だよ…」

 まるで、眼鏡が不安を感じている事を察しているかのように…欲しかった
言葉を克哉は紡いでいく。
 それを聞いて…最初は、瞠目し。
 その後…確かに優しく微笑んでいた。

 克哉にはその顔を見る事は叶わなかったけれど…フワリ、と…
眼鏡の纏う空気が変わった事に気づいていく。
 背後から覆い被さる肌が、お互いに磁力を帯びてぴったりとくっつき
あっているかのようだ。

 グチャグチャグチャグチュ…グプッ…!

 お互いが繋がり合う音が、部屋の中に響いて淫靡な雰囲気が漂う。
 窓の外に光る花火もクライマックスを迎えているようだ。
 
―沢山の色合いの花火が夜空に百花繚乱を作り上げている

 一瞬だけ輝く儚い花々が、人の心に美しい軌跡を築き上げていく。
 そして…最後の金色の大柳が、夜空いっぱいに広がって…柳のような
儚く、優美な痕跡を描き上げて…スウっと消えていった。

―それと同時に克哉たちは同時に上り詰めていく。

 克哉が、啼いていく。
 眼鏡もまた…強く抱き締めて、その身体を閉じ込めていった。
 お互いに苦しい息を繰り返していきながら…二度目の絶頂を迎えて…
夢心地のまま、克哉がポツリと…呟いていった。

「…凄く、綺麗だな…」

「…あぁ」

 短く相槌を打ちながら、眼鏡は答えていく。
 そして…克哉が柔らかく微笑みながら振り返っていくと…眼鏡は
どこまでも優しいキスを唇に与えてくれたのだった―


 
 ※この話は7月いっぱいに連載していた『在りし日の残像』の後日談に当たる話です。
  その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。
 それを了承の上でお読みください(ペコリ)


 ―船上であるせいか、床がフワフワと不安定に揺れているような
感覚がしていた。
 
 与えられる感覚に、ボウっとなってすぐに夢心地になっていく。
 屋形船の窓の向こうには、漆黒の水面と鮮やかな色彩で瞬く
無数の花火。
 あまりにも非日常過ぎて、これが現実なのか…実感が薄い。

―そもそも、彼が本当に帰って来てくれたこと自体が、克哉にとっては夢の
ような出来事だったのだ…

「克哉…」

 甘く掠れた声音で、眼鏡がこちらの名前を呼んでいく。
 首筋に何度も何度も、所有の痕を刻み込まれる。
 熱い吐息に、もう一人の自分が欲情して求めてくれているのを感じられて…
ジィン、と胸が甘やかに痺れていった。

「はっ…ん…『俺』…」

 背後にいる男に触れたくて、手を掲げて背後に回すような形で…クシャ、と
その髪に触れていった。
 もう一人の自分の、胸を弄り上げる手が一層、執拗に…情熱的なものとなる。

「…んんっ…あっ…」

 ただ、背後から胸を甚振られているだけだ。
 それだけなのに…すでに嬌声が口を突いて止まらなくなっている。
 浴衣越しとは言え…自分の臀部に、すでに硬く張り詰めた相手のモノを
感じ取って、それだけで期待に息を呑み、背筋にゾクゾクしたものが走り抜けていった。

「…くくっ。お前の突起は…まるで俺の指に吸い付いているみたいだな。こんなに
硬くなっているのに、歓喜に震えているみたいだ…」

「…バカ、言うなよ。それに…何で、そこばかり…」

「あぁ、せっかくお前の肌に映えている浴衣を着ているんだ…。全裸より、どうせなら
残しておいた方が赴きはあるな…」

「えっ…あっ…」

 そのまま浴衣を大きく肌蹴けさせられて…浴衣の袖から腕を引き抜かれていく。
 だが帯だけは残されていて、腰の真ん中ぐらいで辛うじて肌に引っ掛けられて
いる状態にさせられていった。
 裾だってすでにこんなに大きく捲り上げられていては…却って着衣が残って
いる方が恥ずかしいぐらいだった。
 片方の袖を抜かれただけでも…克哉の背中は大きく露出して、その白い肌を
晒していく。
 目の前の手すりに必死に縋り付いて、尻を相手に突き出す形で四つんばいに
なっている克哉の姿は、傍から見て相当に扇情的だった。

「…良い、格好だ。見ていて非常に…そそるな」

「…っ! 本当、に…お前、趣味…悪いぞ…!ひっ…」

「うるさい口だ…? こちらの口を弄って…少し黙らせた方が良いな。
…どうせなら、こういう時は文句ではなく…甘く啼く声を聞きたいからな…」

「ひゃあ…! んんっ…!

 こちらは、ほんのりとした淡い照明が灯っている中でこんな挑発的なポーズを
取らされているだけでも羞恥の余りに死にそうになっているのだ。
 だから眼鏡の意地悪な物言いに、本気で拗ねそうになった。
 だが…自分の蕾に、たっぷりとローションを塗りつけられて…其処を何度も
指を抜き差ししながら擦り上げられてまともに言葉を紡げなくなる。
 
―すでに男は、克哉の感じる部位を知り尽くしている。抗える筈がない

 ヒクヒクヒクと…早くも内部が蠕動して、浅ましく眼鏡を求めているのが
自分でも嫌でも判ってしまう。
 滑らかに眼鏡の指が出入りを繰り返し、その度に克哉の全身は大きく震えて
次第に興奮で、朱に肌を染めていった。

「あっ…やっ…! そこ、ばかり…弄る、なよ…! も、先に…オレ、が…
おかしく、なって…しまう、から…っ!」

「ダメだ…。忘れられない一夜にしてやる、と言ったのを忘れたか…?」

 意地悪に、そして甘い色を帯びながら眼鏡が耳元で熱っぽく囁く。
 耳の後ろや首筋に、沢山強く吸い付かれながら…気が狂いそうになる
くらいに蕾ばかりを攻められていく。

「やだぁ…其処、ばかり…弄る、なよぉ…!」

 早く眼鏡が欲しくなって堪らないのに、求めているものが与えられずに…
代わりに指でばかり攻められて克哉はともかく…もどかしくて啼く事しか
出来なかった。
 その間、眼鏡は…背中にも執拗に吸い付いて、ともかく無数の赤い痕を
刻み付けていく。
 もう、感じすぎて…与えられる鈍い痛みに全て気づく余裕すらない。

「くくっ…綺麗だぞ」

「なっ…何が…?」

 唐突にそう囁かれて、克哉が驚きの声を零していく。
 その様子を見て、眼鏡は可笑しそうに笑っていった。

「…お前の背中に、今…花火みたいに赤い花が咲かせたぞ。…存外、良く
似合うな…」

「オレ、の…背中に…?」

 そんなに沢山、吸い付かれたのだろうか…? 
 もう発狂するのではないかと思うくらい…前立腺ばかりを攻められて
いたので記憶すら定かではなかった。

「…あぁ、お前が俺のものである証を…な。今、たっぷりと刻み付けた…」

 ねっとりとした声音で、低く耳元でそう囁かれると…フイに、克哉の
胸に嬉しさがこみ上げていく。
 それはこの一時が夢ではない証。
 …その痕こそが、紛れもなく今ここに、もう一人の自分がいるという証でも
あったのだ。

 痛み交じりでも良い。
 一方的過ぎる快楽を与えて、どれだけ泣かされても良い。
 もう二度と…いなくならないで欲しかった!
 だから、克哉はすでに掠れ始めた声で、呟いていく。

「…嬉、しい…」

 目の前に、幾つも花火が舞い散っていく。
 こんな体制を取らされているので…克哉の方から、眼鏡の表情を
伺うことは出来ない。
 けれど…背中全体に、包み込まれるような暖かさが感じられる。
 その温もりすら、愛しくて幸せで…。
 だから余計に、相手が欲しくなってキュウ…と強くその指を
食い締めていってしまった。

「…随分と、貪婪に俺の指を締め付けてくるな…」

「…当たり、前だろ…! もう、欲しくて…気が狂いそう…なんだか、ら…!」

 耐え切れずに克哉が、相手の方に振り返っていくと…その瞳は
快楽に甘く濡れて、潤み始めている。
 アイスブルーの瞳が、まるで宝石のようにキラキラと輝いて…こちらを
心底求めている色合いを帯びているのを目の当たりにして…眼鏡の忍耐も
ついに限界に達していた。

(…こいつがこちらを強く求めて、懇願するまで追い詰めたかったが…そろそろ、
俺の方も限界だな…)

 その目を見て、男はついに観念するしかなかった。
 もっと追い詰めて…こちらが欲しいと泣いて、懇願して訴えてくるまで追い詰めて
泣かせなかった。
 だが、そんな欲望も諦めざるを得ない程…今の眼差しは破壊力があって
眼鏡の心を激しく煽っていった。

「入るぞ…お前の、中に…」

 熱っぽくそう囁きながら、相手の蕾に熱い塊を押し当てて…そのままズブズブと
蕩けきった肉路を割り開いていく。

「あっ…あぁぁ…っ!」

 ―その瞬間、克哉の全身は大きく震えて、唇から歓喜の嬌声が零れ始めていった―
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小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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