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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
          

―人はどうして、誰かを憎むのか
  嫉妬して蹴落とそうとするのか
  貶めて、相手を傷つけようとするのか
  それらの感情には、相手に対して何らかの強い思いを
 抱いていなければ成立しない
 関心でも羨望でも好意でも愛情でも、それらの感情が
 何らかの要因で変貌を遂げ、それが相手を傷つけたり
 痛めつけたり孤立をさせたいという暗い欲望へと変質する

 だが、憎しみや嫉妬を抱く場合…その前に抱いているのは相手への
関心や好意である場合が多い。
 離れていく相手に、自分を刻み付ける為に犯した罪。
 しかしそれを行った上でその対象が自分のことを忘れていたら、
その心から自分の存在を消し去ってしまっていたら…
加害者は果たして、何を想うのだろうか…?

『ごめんなさい、ごめんなさい…』

 男が…澤村紀次が衝撃を受けて呆然としている間も、
佐伯克哉は相手を思い出せないことを謝罪し続けていく。
 しかし、彼が悲痛な顔を浮かべながらこちらに謝っていく度に
溢れるのは苦々しい思いだけだった。

(中学に入る以前の記憶がない…? それは、僕と過ごしてきた
時間の全てが存在しないって事じゃないか…)

 記憶喪失、という単語は物語やドラマの世界では良く存在する。
 だが現実にあるものとは、澤村は認識していなかった。
 しかも憎らしくて仕方ない存在が、そんな殊勝なものを患って…
こちらのした事を全て忘れているなど想定外以外の何物でもなかった。

―ざまあみろ、僕は君に勝ったんだ…!

 卒業式の日、彼の前から立ち去った時…澤村は彼の泣き顔を見て
心が痛むと同時に、スっとするような開放感を味わった。
 どれだけ焦がれても、彼の心を…自分が求める意味では得られない。
 強く願ったとしても、彼を勉強でも運動でも勝ることは出来ない。
 その嫉妬心と失望から、最高学年に上がったときから澤村は周囲の
人間を操って、佐伯克哉がクラス内から孤立するように策を巡らせていった。
 猛烈なカタルシスと罪悪感、相反する感情を同時に抱いたおかげで…
十年以上顔を合わせた事もないのに、澤村にとって…佐伯克哉は
特別な存在で在り続けた。

―僕が君を忘れないように、君も絶対に僕を忘れることはないんだ…

 当然のようにそう想っていた。
 なのに現実はまったく逆だった。
 あの決別の日から十数年。
 自分の中にずっと色濃く存在していた相手は、自分の事など一切
思い出すことなく日々を過ごしていたのだと…その事実を突きつけられて
愕然とするしかなかった。
 ショックのあまり、その場に膝を突いてしまいそうだった。

「う、そだ…」

 澤村はあまりに残酷な現実を認めたくなくて、知らず呟いていく。
 お前が、こっちを忘れる筈なんて有得ないんだ。
 
―自分はどんな形でも相手に忘れて欲しくないから罪を犯したのに…

 なのに、その相手の心の中から…自分の存在が完全に抹消を
されてしまっていたのならば、自分の価値は何だというのだろうか?

「いつまで、そんな演技を続けているんだよぉ! 佐伯克哉!
君は決して、僕を忘れる筈がないんだ! ずっと僕は小さな頃から君の
傍らにいた! 親友として…一番の理解者として! そんな人間を
忘れるぐらい、君は薄情な人間だったのかよ!」

 思わず、力いっぱい叫んでしまっていた。
 言っていて自分で空々しく思えてしまう。
 その『親友』と信じて疑わなかった相手を、裏で裏切っていたのは
紛れもなく自分だった。
 冷静に考えれば、あんな行動をした自分が…彼の親友と胸を張って
言える訳がない。
 無意識の領域ではその事実に気づいていたが、認めたくない気持ちの方が
勝って感情の制御が利かなくなった。
 だが、その時…澤村は見た。
 
―僅かな時間だけ、こちらを射殺す勢いで睨み付けるその眼光に…

「っ!」

 懇願していた筈の男が、一瞬だけあまりに怜悧で鋭い視線をこちらに
浴びせていった。
 冷たく凍てつくような眼差し。
 其れが澤村の心を抉っていった。

「…君、は…?」

 訳が判らなくなった。
 混乱して、彼の言葉や態度の何が嘘で、何が本当なのか判別がつかなくなる。
 困惑した顔を浮かべて暫く立ち尽くしていると…傍観を決め込んでいた
御堂がやっと動き出して、強引に克哉の腕を掴んでいった。

「…もう夜も遅い。君の戯言にこれ以上…私も佐伯君も付き合わされるのは
遠慮したい。今日はそろそろ引き下がってもらえないだろうか…?」

「はっ…?」

 そう声を掛けられて、ようやく…澤村は其処にもう一人、男がいた事実を
思い出していく。
 だがその反応がイマイチ鈍かったせいで、御堂は躊躇いなく克哉の腕を
掴んでマンションの方に向かっていった。

「待って! まだ僕と克哉君の話は全然終わって…」

「黙れ…。いきなり人の家の前に待ち伏せして、不可解な言動を繰り返している
相手にこれ以上付き合う気はない。お引取り願おうか…」

「くっ…!」

 その時の御堂の目はどこまでも鋭くて、視線だけでこちらを痛めつけて
傷つけてしまえそうなくらいだった。
 澤村はその眼差しに言葉を奪われ、立ち尽くしていく。

「行くぞ、克哉…」

 そう告げて、御堂は問答無用で…克哉の腕を引いて自室へと
戻っていった。
 だが、その時…克哉はまるで壊れた人形のように、空ろな眼差しを称えて
涙を流し…今、このときを…現実を見ていないような、実に危うい眼差しを
浮かべていた―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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