忍者ブログ
鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
[1102]  [1101]  [1100]  [1099]  [1098]  [1097]  [1096]  [1095]  [1094]  [1093]  [1092
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。

 桜の回想 
              



 御堂に問いただされて、言われた通りに連想した途端に
克哉の意識はゆっくりと落ちていった。
 まるでブレーカーが落ちたかのように、唐突に身体と意識の
連結が解かれていく。
 克哉が覚えているのは、其処までだった。
 彼が目を開けると…其処には満開の桜が舞い散っていた。

「こ、こは…?」

 それは幻想の桜。
 克哉の記憶の中にある、一つの情景だった。
 だが…それを目の当たりにした瞬間…言いようのない不安が
胸の中に巣食い始めていった。

「…一体此処はどこなんだ…。御堂、さんは…?」

 さっきまで自分は、御堂のマンションで一緒に過ごしていた筈なのに
どうしてこんな処にいるのだろうか?
 そう疑問を感じて、満開の淡い花弁をつけている桜の木の大群の中を
彷徨い歩いていく。
 見る者の心を捕えるぐらいに美しい光景だった。
 なのに、妖しいぐらいに綺麗すぎて…却って克哉には怖かった。

―心配するな。此処は俺達の真相意識だ…。お前の肉体は変わらず
御堂の部屋の中にある…

「えっ…まさか、『俺』…なのか!」

 声がした方角を振り返っていくと、其処にはもう一人の自分が立っている。
 ダーク系の色合いのスーツに赤いネクタイ、自分が好んで身につける
組み合わせを身に纏いながら…桜が舞い散る中、静かに立っていた。

―この場所でこうしてお前と対話するのは、一体どれくらいぶりだろうな…。
いや、お前とこうして対峙して言葉を交わすこと自体が久しぶりか…。
相変わらずのマヌケ面だな、『オレ』…

「むっ…! 何だよ、その言い草! 久しぶりに顔を合わせたというのに
随分な言いようだな…!」

 相手はまったく変わっていない。
 その捻くれた言い回しなど、やはりこいつはこういう奴なのだと
実感していく。
  しかしこちらが不機嫌そうな表情を浮かべても相手はまったく
動揺した様子を見せない。
 むしろ愉快そうに、傲慢な顔を称えているだけだ。

―事実を口にして何が悪い。だが…わざわざこうしてお前を
呼んでやったんだ。無駄な時間を費やすつもりはない。
…お前に言いたい事はただ一つだ。二度と、澤村には関わるな。
それをお前に伝えたかった…

「澤村…? それ、一体誰だ…?」

 まったく聞き覚えのない人物の名前を出されて、困惑している。
 そう…結構長い時間、先程マンション前で待ち伏せしていた
人物と会話したけれど、その間に一回も相手の名前が出たことはなかった。
 だから克哉の中で、その苗字は何にも繋がらない。

―チッ、お前はあいつを忘れているのを前提の上に成り立っているんだったな。
仕方ない…説明してやろう。…お前がさっき、マンションの前に待ち伏せを
していたあの男だ…。あいつの苗字が澤村だ…

「…っ! お前は、あの人の名前を知っているのか…! なら、教えてくれ!
一体あの人は何なんだ…! お前と、どんな関わりがあったんだ?」

―余計な事をお前に話すつもりはない。俺が言いたいのはあの男には
二度と関わるな、その忠告だけだ。
 あの男は深入りすれば、絶対にお前に災いを齎すだけだ。
 そして俺は…澤村が視界に入るだけで不快だ。だから何を言われても
何も反応せず、相手にするな。良いな…

「ちょっと待てよ! 言いたいことを一方的に言って…こちらには何も
教えてくれないのかよ! 相変わらずお前…勝手な奴だよな!
 オレはまったくあの人のことを思い出せないんだ! お前の関係者だって
いうならせめて触りぐらいは教えておいてくれよ!」

 克哉は必死になって、目の前に立つもう一人の自分に向かって
訴えかけていく。
 だが、眼鏡はどこまでも冷たい眼差しを浮かべながら冷然と
言い放っていった。

―お前には関係ない

 まるで、克哉と自分は関わりのない存在だと断言するかのように
冷たく告げていく。
 その言葉に、紛れもなく先程の男は…もう一人の自分の方に関わりが
ある事を確信していく。
 だが、どれだけ睨んでも…相手は揺らぐ気配すら見せない。
 その瞬間、桜の花の芳香が…周囲に一層濃くなっていく。
 風に乗って辺りに舞い散る花弁の量が一気に増えて…もう一人の自分の
姿を遠いものへ変えていった。

「待てよ! 『俺』…! お願いだから、教えてくれよ! お前とあの人との
間に…一体何があったっていうんだよ!」

 もう一人の自分の輪郭が、姿が霧のようなものに紛れてゆっくりと
儚いものへと変わっていく。
 そんな相手を繫ぎとめるように必死になって手を伸ばしていったけれど
克哉の差し伸べた指先は…虚しく空を切るのみだった。
 
―さっきも言った。…お前には、関係ない 
 
 そして何もかもを切り捨てるように、眼鏡は口にしていく。
 その顔は何かを堪えているようで、苦しそうだった。

(どうして…お前はそんな顔を浮かべているんだよ…! どうして
オレに何も教えてくれないんだよ!)

 今までの克哉にとって、もう一人の自分は脅威であり…不安や
恐怖を与えるだけの存在だった。
 だが、彼の苦しそうな顔を見て…初めて、理解したいとか…少しでも
助けになりたいという気持ちが生まれ始めていく。
 
「ど、うして…何も、教えてくれないんだよ!」

 癇癪を起こした子供のように克哉は叫んで告げていくが…相手の
態度は変わらないままだった。
 縋るような目を向けて、それでも克哉が手を伸ばし続けるが…決して
相手に届くことはない。
 そうしている間に一時の夢は覚めていく。
 どれだけ相手を、この幻想を留めようと克哉が努力をしても
まるで水を掬ってもそのままならいずれ指先から零れ落ちてなくなって
しまうように…消え去っていくのみだった。

―お前は、知らなくて良い…その為に、俺は…お前を…

「えっ…」

 その時、克哉は初めて…もう一人の自分の泣きそうなぐらいに
切ない顔を目撃した。
 見た途端に胸が締め付けられて、こちらまで悲しくなって
しまいそうだった。

(一体、あの人とお前との間に…何があったっていうんだ…?)

 夢が醒める。
 けれどその中で、克哉は初めて…もう一人の自分のことを知りたいと
理解したいと思うようになった。

『克哉、しっかりしろ!』

 そしてその瞬間…ようやく、克哉に向かって声を掛け続けていた
御堂の必死な声が…彼の耳に届いたのだった―

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
この記事のURL:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[03/16 ほのぼな]
[02/25 みかん]
[11/11 らんか]
[08/09 mgn]
[08/09 mgn]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

 当ブログサイトへのリンク方法


URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/

リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
 …一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ * [PR]