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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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4月24日からの新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。
 
 咎人の夢(眼鏡×御堂×克哉)                           10
                                                        11  12  13

―御堂の見ている長い夢は、まだ終わってくれなかった

 己の葬儀を連想させる白い夢から暗転して、彼は光が一片も射さない
暗黒の世界へと突き落とされていく。
 例えていうならば、黒い夢。
 自分以外の存在を全て拒みそうな、漆黒の闇。
 人が本能的に暗黒を嫌うのは、その中に身を浸すことで見たくない
本心を見つめざるを得なくなるからだという。
 その中に…ユラリ、と自分以外の人影を見て…恐怖と、安堵という相反した
感情を覚えていく。

「誰だっ!」

 相手に向かって、誰何の問いを投げかける。
 だが…影は応えない。無言のまま立ち尽くすのみだった。

「応えろ! お前は…何者だ! 名前ぐらい名乗ったらどうなんだっ!」

 もう一度…問いかけて、数歩だけ自ら歩み寄っていく。
 恐れの気持ちは当然あった。しかしこんな場所で遭遇した存在が一体誰なのか
知りたいという想いの方が遥かに勝っていたからだ。
 そして黒い影の方に近づいた瞬間…闇の中に、一人の人物の姿がゆっくりと
浮かび上がっていく。

―今度は眼鏡を掛けた方の佐伯克哉が目の前に現われていった

 お互いに着慣れたワイシャツと、スーツズボンだけを身にまとっている
ラフな格好だった。
 こちらに気づくと…どこか儚い笑顔を浮かべて…涙を静かに流していく。
 先程の、眼鏡をかけていない方の彼も似たような顔を浮かべていた。
 けれど口角が若干上がっていることで…それは辛うじて笑顔であった事に
御堂は気づいていく。
 透明な涙。けれどそれに伴う感情は…さっきとは大きく意味合いが
違っていることに御堂は察していく。

「生きて、いた…」

 彼は、そう力なく呟いていった。
 そう口にした瞬間…彼は、とても重い何かから解き放たれたような…そんな
嬉しそうな表情を浮かべていた。

「あんたが…生きて、いて…くれた…」

 そう何度も繰り返しながら、男は涙を流し続ける。
 歓喜の涙、だった。

「佐伯、君は…」

 突然、相手がこちらがこうして生きていることに心からの喜びを覚えて
いるのに気づいて…戸惑いを覚えてしまった。
 そのまま身動きが取れないでいると…ふいに、こちらの身体を抱きすくめ
られていく。
 息が詰まるような、切ない抱擁だった。
 男の体温を、何故か不快と思わなかった。
 相手の腕の中に包み込まれるような…そんな感覚を覚えて、御堂の躊躇いは
一層深くなっていく。

―どうして彼が、こんな風に泣くのかが良く判らなかった

 自分は決して、彼に対して優しい態度など取った試しなどないのに。
 深く関わったことなど…今まで…。
 其処まで考えた途端、鋭い胸の痛みを覚えていく。
 それは深く封じ込められていた重い記憶の扉に、ほんの僅かな隙間が
生じた瞬間
だった。
 一瞬…走馬灯のように、自分と佐伯克哉との間に何が起こったのかが
頭の中に駆け抜けていく。
 信じがたい、記憶だった。こんなことが本当に起こったのか…とっさに
認めたくなかった。

「嘘、だ…こんな、の…」

「御堂…」

 抱きしめられていればいるだけ、自分にとっては受け入れがたい認めたくない
屈辱の体験が蘇る。
 相手の腕を拒もうと、力を懸命に込めていく。
 必死にもがいた。けれどそれ以上に…克哉のしがみつく腕の力の方が
遥かに強かった。

「今、だけで…良い…。こうして、あんたを…感じさせてくれ…」

「何で、そんな事を言う! 離せ! 離してくれっ!」

 佐伯克哉は、泣きながら…御堂を抱きしめ続けた。
 自分に対してこんな悪辣極まりない事をした男に、これ以上くっついてなど
いたくなかった。
 胸の中に、憎悪が蘇っていく。殺意が、込み上げてくる。
 ここにナイフがあったなら、きっと躊躇することなく…相手の心臓に刃を
突きたてているだろう。それほど、強い感情が胸の中に湧き上がる。

「…あんたを目の前で失って…俺はやっと気づいたんだ…。あんたに対して、
酷いことをしてしまった自覚がある…。けれど、俺は…あんたを好きだったから
どうにかして…手に入れたかったから、愚かな真似を…してしまった…」

 けれど、相手が力なくそんな事を呟いた瞬間…御堂は、驚きのあまりに
身体の力を抜いてしまった。
 今、何を言われたのか正しく認識するのを一瞬拒んでしまっていた。
 
「佐伯…君は、一体何を…言っている…?」

 信じたくない、という気持ちが…御堂から全ての感情を奪っていく。
 呆けたように力なくそう告げていくが…彼の瞳からは、涙は伝い
続けていく。

「…すまなかった」 ―ごめんなさい…―

 二人の、異なる佐伯克哉の声が重なって頭の中で共鳴していく。
 それが、呼び水となって…御堂は思い出していく。
 夢の中だけとしても、一時の事に過ぎなくても…忘れがたい出来事を。
 思い出してしまったら、平穏に日々を過ごせなくなってしまうのは確実な
記憶なのに…それでも御堂は、呼びもどしてしまった。

「君、たちは…どこまで、私を…振り回せば、気が済むんだ…」

 気づけば、御堂も泣いていた。
 相手の腕の中に、収まり続けながら…自らも気づけば、抱き返していた。
 お互いにプライドが邪魔をして、泣き顔を見せあうことはなかった。
 けれど確かに相手の温かさを感じ取っていく。
 そうだ、何度もこの男に犯された。その間は決してこんな風に…体温を心地よいと
感じたことなど一度もなかった。
 たった一言の謝罪の言葉、そして想いを告げる言葉が…御堂の頑なな
心を少しだけ溶かしていく。
 
―君のことなど、嫌いになれれば良いのに…

 きっと心の底から憎むことが出来れば楽になる。
 この存在を殺してしまえば解放されると思った。
 だから自分は…そこまで考えた途端に、重い扉が再び立ち塞がって
それ以上を思い出すのを無意識に拒んでいった。
 けれど…己の中に在ったのは果たして、純粋な憎しみだけだったのだろうか?
 相手を憎み、忌避したり嫌悪するだけの感情だけであったのか?
 ふと御堂は疑問に感じていって…そして。

―何かを、彼の腕の中で見出した気がした…

 どのような類の想いのものなのか、まだ判らない。
 眼鏡を掛けた佐伯克哉は…酷く切ない顔を浮かべていた。
 お互いの瞳が、微かに涙で濡れている…そんな表情。
 気づけば顔がごく自然に寄せられて、口づけを交わしていた。
 そういえば今までにも、何度かこの男に口づけられたことがあった事を
思い出していく。
 それはこちらの肉欲を煽られ、こちらの全てを奪い屈伏させる為だけの
傲慢なものだった。
 けれど…この触れ合うだけのキスは、今までのものとは意味合いが
異なっているように感じられた。

(どうして…私は、彼の腕も…口づけも、拒めないんだ…?)

 御堂は立ち尽くしながら、そう自問自答していく。
 何かを与えられたような気がした。
 こちらの中に、負の感情以外のものを呼び起こす優しいキス。
 初めてこの男から、自分は何かを与えられたような…そんな気がした。
 判らない、判らない…判らない!
 頭の中がグチャグチャで、何も考えられなくなる。
 彼という存在が理解出来ない。どうして…ここまで、自分という存在の心を
ここまで掻き回すのだろうか!
 永遠にも思われる、永い口づけ。
 其れから解放されて、目の前の佐伯克哉をふと見つめていくと…彼の姿が
徐々に透明に近くなっていた。
 まるでホログラフのように、闇の中に淡く浮かび上がっているその様子に
叫び声を挙げそうになった。

「佐伯、待て…!」

 必死になって繋ぎ留めなければ…二度と会えなくなってしまうような
そんな気がした。
 あんな仕打ちをした相手の顔など、もう見たくない筈なのに…目の前で
消え行ってしまいそうになった時、御堂は必死になって相手の腕を掴んで
引き止めようとしてしまった。
 けれどそれも儚く、空を切っていく。
 そして今まで見たことがないくらいに、柔らかい笑みを浮かべていきながら…
男はこう告げていった。

―あんたがどんな形でも、この世界に生きていてくれて…本当に、良かった…

 再び、心から嬉しそうな顔で…透明な笑顔を浮かべて、佐伯克哉の
姿は幻のように掻き消えていく。
 どこまでも深い闇の中…自分一人だけが取り残されていく。
 憎い相手の筈だった。けれど…最後に、そんな言葉を残されたことで…
それ以外の感情が、御堂の中に生まれ始めていく。

「佐伯…どう、して…」

 君を素直に憎ませてくれないのだろうか。
 本当に、心からその事で恨みたいぐらいだった。
 二つの白と黒の夢が…御堂の中に、今までとは違った感情を呼び覚ましていく。
 夢とは…一時、強く思い合う人間同士の心を反映して、映し合うことが
あるという。
 お互いの中にどんな類の感情であれ、強い感情を相手に抱いていたからこそ…
このような奇妙な夢を見たのだろうか? それとも…。

「どうして、私の心を…君という存在は…ここまで、掻き乱すんだ…?」

 虚空に向かって、御堂は呟いていく。
 その瞬間…一夜の、永い夢は終わりを告げた。
 急速に覚醒へと向かい、御堂の意識は現実に引き戻される。

―瞼を開ければ、其処にはいつもと変わらない日常が横たわっているように
感じられた

 全身にうっすらと汗を掻いている。
 これで二日続けて、夢にうなされたことになった。
 一日ぐらいならどうにでもなるが、二日連続になると…身体は疲労で
どこか鉛のように重く感じられた。
 時計の針は朝五時を少し過ぎたぐらいを指している。
 いつもの自分なら、さっさと起床してやるべきことを始めている。
 けれど…今朝に限っては、そんな気になれなかった。

「…もう少しだけ、横になっているか…」

 会社を休む訳にはいかない。
 自分がこなさなくてはいけない業務は山のように存在しているのだから。
 だからもう30分か一時間だけでも、身体を横にして休めて…一日を乗り切れるような
処置をとることにした。
 恐らく深くは眠れないだろうが、人間…横になって瞼を閉じているだけで多少は
疲労は回復するものなのだ。
 そう考えて…暫く横になっていくと、ふいに枕もとでメールの着信音が聞こえた。

「こんな早朝に…メール、か…?」

 朝五時にメールを寄こすなど、よほどの緊急事態か…相手の生活リズムが
崩れているかのどちらかだろう。
 一瞬、確認するかどうか迷ったが、緊急の連絡かも知れない可能性を考慮して
一応手を伸ばして携帯を取り、文面を確認していく。
 次の瞬間…御堂は難しい顔を浮かべながら、力なく呟いた。

「…どうして、次から次へと…理解出来ないものばかりが、やって
来るのだろうか…」

 その内容を見て、御堂は更に疑問が膨らんでいくのを実感していった。
 其れは自分にとって、面識のない…アドレスを交換しあっていない
謎の人物からのものだった。
 しかし…あのような夢を見た直後の御堂からしたら、決して無視することが
出来ない内容が記されていた。

―過ぎたる好奇心は、時に身を滅ぼすキッカケにもなりうる

 そのような言葉が、脳裏に浮かんでいったが…モヤモヤと、疑問ばかりが
膨らんでいってすっきりしなかった。
 
―虎穴に入らんば、虎児を得ずとも言うな…

 暫く考えて、御堂は覚悟を決めていく。
 それはいつもの彼ならば、一笑にふして決して相手にする事はなかっただろう。
 だが連日…二日続けてみた夢の謎を解きたい、知りたいという感情の
方が勝って…彼はその誘いに乗ることを決意させてしまった。

―それによって、彼らにとって予想もしていなかった運命の歯車が
大きく動き始めてしまったことに…この時点では、御堂は気づく
事は出来ないでいたのだった―
 
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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