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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―眼鏡を掛けた佐伯克哉はそのまま実家まで直行していくと
鍵を使って中に入っていった。
 夕方に一度寄るともう一人の自分は予め連絡していたようだが…
まだ正午を迎えたばかりの時間帯では、誰もいなかった。
 佐伯家は両親と、子供一人のみの家庭だ。
 父は今でも夕方まで勤めに出ているだろうし…母も日中は買い物や
自分の所用をこなしたりでそんなに暇ではないのだろう。
 今の彼にとってはそれがむしろ好都合だった訳だが。
 
(誰もいないというのならば…幸いだ。早くアルバムを
見つけだして焼いてしまおう…)
 
 そうして克哉は一戸建ての家の中の…倉庫代わりに使われている
空き室へと向かっていった。
 克哉の母は整理整頓はしっかりとやってくれるタイプであったおかげで
15分も探索すればあっという間に目的の物は発見出来た。
 アルバムらしき物を見つけては、パラパラと捲って中を確認していく。
 
(本当なら全てのアルバムなど焼き捨ててしまいたいがな…流石に両親の
思い出まで焼き払う訳にはいかない。消去するのは俺の小学校時代に
まつわるもの限定で良い…。不本意だが、その為には中を見て
識別しておかないとな…)
 
 見つけたら速攻で焼き捨てるつもりだったアルバムも、ここに
訪れるまでの間に若干、冷静さが戻って来てしまっていた。
 だから自分の忌まわしい過去に繋がるものに関しては焼却するという
意志は変わっていないが、親たちの思い出まで焼く訳にはいかないという
判断ぐらいは戻っていた。
 そうして十数冊に及ぶアルバムの一枚、一枚を眺めていく。
 何冊か見ている内に年季の入ったものは大抵…自分の親のものか
、克哉が赤ん坊から幼稚園に通っていた頃のものだと判って
来て省くようになっていった。
 だが、特に自分の幼少期の頃の写真が圧倒的多数を占めている
事実に気づいて、眼鏡は舌打ちしたくなった。
 
(まさかこんなにも…俺の子供の頃の写真が数多く残っているとはな…)
 
 佐伯の両親にとって、克哉は最初で最後の子供だ。
 本当はもう一人欲しいと散々母がぼやいていた時期があったが
子供とは一種の天からの授かり物である。
 どれだけ欲しいと願っても一人も出来ない可能性だってあるし、
逆に望んでいなくても妊娠して、中絶をせざる得ない事だってある。
 佐伯の両親は一人息子である克哉が生まれたばかりの頃…本当に
愛してくれていたのだろう。
 両親に囲まれて、もしくは父親か母親が抱きかかえたりして撮影された
写真が多かった。
 過去など全て消してしまおう、とさっき強く決意したばかりなのに…
不覚にも早くも揺らぎ始める。
 
「くそっ…何を、感傷に引きずられているんだ…俺は…」
 
 澤村紀次、自分の幼なじみ。
 小学校に入るか入らないかの頃から彼とは多くの時間を共有してきた。
 たった一人の親友だと信じて疑わなかった。
 だからこそ少年時代の克哉にとって彼の裏切りというその傷は拭いがたく…
彼と一緒に過ごした頃など二度と思い出したくなかった。
 だが、写真という形で…親に紛れもなく愛情を注がれた証が残っている。
 沢山のアルバムがその事実を物語っている。
 
―それに、中学以降の『オレ』が写っている写真も…それ以前の
ものとは随分と違っている…
 
 そしてその中には、もう一人の自分になってからの…中学や
高校時代の頃の写真も二冊だけ残されていた。
 中学時代の三年間と、高校時代の三年間に区切られたそれでも
ページが満たされ切っていないアルバム。
 幼少期に比べれば、殆ど残されていないに等しかった。
 そして中学を境に…佐伯克哉の、いや…もう一人の自分の瞳はまるで
死んだ魚の目というか、ガラス玉か何かのように生気がなかった。
 直前の小学校時代の写真と見比べても、明らかに表情や
目の力に差があった。
 両親はこの違いにきっと気づいていたのだろう。
 親が撮影したと思われるものは殆どなくて…アルバムに
掲載されているのは大半が、課外授業や修学旅行など学校の行事で
撮影されて…自分で選んだものだけ購入する形式で撮られたものばかりだった。
 それでさえも、風景だけのものが数多くあって…学生時代の克哉が
一緒に写っているものは少ない。
 両親もそうなった息子を無理に撮影しようとしなかったのだろう。
 その事実がアルバムの数となって…明らかに目に見える形で現れていた。
 振り返り、客観的になる事でようやくその事実に気づいていく。
 
「これ、は…」
 
 ずっと気づかなかった。
 自分はあの日から逃げ続けていたから。
 この身体の奥底に潜んで、眠る道を選択していたから気づきたくもない
事実を、突きつけられるような想いがした。
 今、あれだけ御堂の側で輝き…生き生きとしているもう一人の自分が、
こんな顔をしてずっと過ごしていたとは信じられなかった。
 いや、自分は知っていた。だが殆ど眠っていたから知覚していなかった。
 
「…何を、しているんだ…俺は。過去に囚われてるなんて無駄なのに。
あいつにこれを見られる前に、早くこんな物は、処分しないといけないのに…」
 
 一枚、一枚見ている内に…耐えがたい程の痛みが湧き上がってくる。
 澤村と一緒に、笑いながら写っているものが数え切れないぐらいあった。
 こんな物、いらない筈なのに…どうして躊躇う気持ちがあるのだろう。
 
(破り捨てろ。もしくは纏めて火に掛けろ。こんな風に胸が痛くなるだけの
思い出も、過去も…何もいらない…)
 
 そうして全てを振り切るように、眼鏡は腰を上げて…澤村と自分との
写真が多く収められているアルバムを、庭にでも持っていくか…焼却炉の
ある場所まで持っていって焼いてしまおうと考えていく。
 
―本当にそれで良いの? どんな過去でも…それはお前が
生きてきた軌跡なんだよ…?
 
「っ…!」
 
 その瞬間、不意にもう一人の自分の声が聞こえた。
 
ーどれだけ忌まわしいものでも、消し去りたい思い出でも…それが
今のお前を、いや…『オレ達』を構成するのに欠かせないものなんじゃ、
ないのか…? それを本当に消し去って後悔しないのかよ…?
 
「うるさい、黙れ…!」
 
 頭の中に響いていくもう一人の克哉の声に、低く唸るような声で答えていく。
 だが、その声は決して消えてくれない。
 むしろ大きくなって眼鏡の頭の中に響いていった。
 
ー良いや、黙らないし譲るつもりはない! いい加減に認めろよ!
 失敗したらそれに関係する事柄を全部消し去ってなかった事にするなんて、
立派な事でもなんでもない!はっきり言ってやる。そんなのは子供のする真似だ…!
 
「お前に、何が判る! 何も知らない癖に…! あの痛みを苦しみも…!」
 
―なら、オレに教えろよ! 何も知らない癖にとオレを詰るというなら…オレに
その記憶を、体験を教えてくれよ!知らなきゃ、理解しようがない!
 
「黙れ、お前の理解などオレは欲していない! 戯れ言を言うなっ!」
 
 頭の中に響くもう一人の自分の声に対して、大声で口に出して答えている様は、
端から見たら異様だし、狂人じみた光景だろう。
 だが、お互いに引く様子はない。
 頭の中でそれぞれの意識が対立しあう。
 まさに火花を散らしているという表現が相応しい状態だった。
 克哉は本気の怒りを込めていきながら、少し溜めの時間を使って
きっぱりと告げていく。
 
―オレは誰よりも真剣だよ、『俺』…! ねえ、聞こえているのかよ!
 
「…っ! うるさい、もう何もしゃべるな! 俺に語りかけるなぁ!」
 
 その声が聞こえた瞬間、眼鏡は耐えきれず…手に持っていたアルバムを
地面に派手に叩きつけて、ライターを片手に持って写真を焼却しようとした。
 そして小学校低学年の頃に、運動会で澤村と一緒に笑いあっている所を
撮った一枚に火をつけていく。
 端の方にオレンジ色の炎が近づけて少し経つと…ゆっくりと火が
燃え移って大きくなっていく。
 あっと言う間に炎が大きく広がり、すぐに持っていられなくなる。
 
「あっ…」
 
 フローリングの床の上に、燃え上がっている写真が落ちていく。
 だが、眼鏡は呆然とその様を見つめる事しか出来なかった。近くには
多数のアルバムが点在して、燃え広がるかも知れない。
 だがたった一枚の写真を燃やしただけなのに、心の中に鈍い痛みが走っていく。
 
「何で、俺は…こんな、に…」
 
 忌まわしい過去を示すものを一枚、消しただけだ。
 笑顔を浮かべあっていた自分達の過去の一幕を撮影したものが
跡形もなく炎に飲み込まれていく。
 
―早く消すんだ! アルバムだけじゃなく…この家自体が
このままじゃ焼けてしまうぞ!
 
 もう一人の自分の悲鳴が頭の中に響いていく。
 だが、身体は動かない!
 
―自分の家まで、他のアルバムまで無くすつもりかよ! 自分を
構成している全ての過去を消し去る気なのか!
 
 本気の怒りを込めた、克哉の絶叫が頭の中で反響していく。
そんな事は言われなくたって判っている。
早く動かなければと警鐘が鳴り続けているのに、彼のそんな意思に
反して満足に身体は動いてくれない。
まるで金縛りに遭ってしまったかのように、満足に身体は動かない。
 
「判って…い、る…」
 
  憤りながら、脂汗を浮かべながら眼鏡は呟く。
  その顔は酷く苦しげだった。急速に胸の鼓動が忙しくなり、まるで
不整脈の発作を起こしてしまったかのように不規則で忙しない。
写真の中の澤村の笑顔が燃えて消えようとした瞬間、思い出したくない
光景がフラッシュバックをして脳裏に再生されていく。
 
―其れは泣いて顔をクシャクシャにしている、あの日の澤村の顔だった
脳裏に焼きついて、消えることがなかった記憶。

   自分はまったく知らないまま…相手にあれだけの苦痛を無自覚に
与えていた記憶が、こちらに向けられていた笑顔がいつしか演技に
過ぎなくなっていたことを突きつけられた日の事が…在りし日の無邪気で
心からの笑顔を浮かべている彼の写真が、消失するのをキッカケに思い出してしまう。
   相手を信頼して、ずっと一緒に歩んでいくのだと信じ切っていた頃の
自分の姿が…今見れば痛々しいぐらいだった。
  その痛みが彼の心を蝕んでいく。
  ジワジワジワと広がり、侵食されていくようだった。
  長年、胸に秘め続けていたことでそれは猛毒へと変わり…今の彼の
行動を自由を奪ってしまっていた。
 
―もう良い! オレが出る! このままじゃ全てが消えてしまう!
 
  頭の中にもう一人の魂の叫びが聞こえていく。
  その瞬間に、スっと何かが遠くなるような…そんな気分になった。
   同時に…ブレーカーが落ちたみたいに、眼鏡の意識は唐突に
途切れていったのだった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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