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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―もう一人の自分のかつての親友であり、苦い思い出を伴う存在の事を…
克哉は御堂と一緒に桜を見に行くことでやっと思い出す事が出来た。
 どうして帰省中に彼があそこまでこちらに知られる事を拒んだのか、
知る事が出来た今なら理解出来る気がした。
 二人で満開の桜を見に行って…克哉が眩暈を起こして倒れかけた後…
そのまま帰ることにしたのだが、その途中…運転に集中している御堂と…
助手席の克哉の間には殆ど会話がないままだった。
 自分たちのように夜桜を見に、この周辺に車で来ている
人間が多いのだろう。
 普段なら30~40分程度で自宅に辿り着く筈が、その倍以上の
時間が掛かってしまっていた。
 そのおかげで、克哉は物思いに耽り…克哉自身はまだ、相手の
名前までははっきりと思い出せないが-二週間前に澤村紀次と出会ってから、
その間に起こった出来事を回想し、そしてそれも終わろうとしていた。
 あの赤いフレームの眼鏡を掛けた男性との再会、そして帰省…振り返れば、
桜が咲くまでのこの二週間は殆ど…自分探しに費やされたような気がした。
 
(やっとオレは思い出せたんだな…何か二週間掛けて、あの人と『俺』との
事に着いてはスタート地点に立つ事が出来た来がする…)
 
 御堂との静かなドライブは、もうじき終わろうとしていた。それが少し、
寂しくもあり…もうじき自分たちの家に戻れるという安堵感もあった。
 今朝、一緒に出て来てから半日も経過していない。
 だが…今の克哉には何日ぶりかに、ようやく帰って来れたような…
そんな気がした。
 
「克哉、もうじきマンションの駐車場に着くぞ。降りる準備をしておいてくれ」
 
「はい、孝典さん」
 
「うむ…さっきまでよりは顔色が良くなったな。黙っている間に少しは
気持ちの整理がついたのか?」
 
「えっ…あ、はい…さっき中央公園にいた時よりはずっと…情報とか、
そういうのは纏められたと思います……」
 
「…そうか、なら良い。人間は時に迷って自らの行くべき道を真剣に考え、
模索する事も必要だがな。答えも何も出さずに無為に悩んでいることは
褒められた事ではない。少しでも思い出せたなら良かった…」
 
「えぇ、孝典さん…今日は、オレに付き合ってくれてありがとうございます…。
貴方が隣にいてくれただけでも…凄く心強かったですから…」
 
「改めて礼を言われる程のことはしていない。私はただ…君の隣にいただけだ…」
 
(いいえ、その隣にいてくれたという事がオレには凄く嬉しかったんです…)
 
 と、心の中で小さく思うが…敢えて口には出さなかった。この人の恋人に
なって二年近くが経過するが、きっと直接口に出して言ったら…この人は
凄く照れてしまうだろうから。
 その照れた顔を見てみたいという衝動に駆られていくが、寸での所で止めていく。
 代わりにただ黙って…愛しい人の横顔を見つめていった。
 
「……何をそんなに見ているんだ? 克哉…?」
 
「えっ…? やっぱり孝典さんは恰好良いな…と思いまして、つい
見たくなってしまいました」
 
 率直に常々思っている事を口に出していくと、御堂は珍しく軽く目を瞠っていった。
 
「…君は何を言っているんだ。さあ、先に降りると良い。私は駐車場に車を
置いたらすぐに自宅に戻る」
 
「…はい、お言葉に甘えて先に自宅に戻らせて頂きます。貴方と、オレの家に…」
 
「っ…!」
 
 御堂は言葉を詰まらせていくが、どうにか反論の言を呑み込んで先に克哉を
マンションの入り口前の所に降ろして駐車場へと向かっていった。
 セキュリティが万全なオートロック式のマンション。
 キクチ・マーケティングに勤務していた頃の克哉の月給だったら到底家賃を
払うことも、ローンを組む事も不可能な場所だった。
 其処が御堂と自分の家となり…今では完全に自宅になっている。
 長い過去への旅路が終わったせいだろうか。それが妙に克哉には
感慨深く感じられてしまった。
 
「…俺の、家か…」
 
 帰省した時に実家に立ち寄ったが、克哉の意識の中では…すでに
マイホームは、あちらの生家ではなく愛しい人と暮らすこの部屋
へとなりつつある。
 夜桜を見に行っている最中、ずっと手をつなぎぎながら傍らにいてくれた
御堂の事を思い出すだけで…胸がボウっと暖かくなる。
 あの人への想い、今…自分がいる環境。それを…マンションの入り口に
立ちながら、しっかりと噛み締めていった。
 
(オレは…今、持っているものを決して失いたくない…)
 
 御堂との生活、そしてMGNでの仕事、そして…この数年間で実感した
周囲の人間との絆…今の克哉には失いたくないものが沢山ある。
 だから…負けたくないと思った。
 
「…お前は、一番大切な人に裏切られた時…消えたいと思ったんだな。
自分の足場が不確かに感じられて、存在している事が許せなくて…。その
想いがきっと、『あの人の事を覚えていない』人格を…『オレ』を生み出す
キッカケだったという事か…」
 
 全ての情報を纏めて、導き出された結論は…克哉にとって、
ショッキングな事だった。
 あの男性と、もう一人の自分との間に起こった事を探す旅は…言わば
克哉にとっては自分の生まれた理由を、ルーツを探すことに繋がっていた。
 克哉がそう呟いた瞬間、強い風が吹き抜けて目を開いていられなくなる。
 途端に、周囲に不穏な空気が漂っていく。
 
―どうやら全てを思い出された、いや…知ってしまったようですね…
佐伯克哉さん…。そう、あの出来事こそが貴方の生まれた根元にも関わり、
そして…あの方と私が出会った全ての始まりでもあります…
 
 そしてマンションの入り口に黒衣の男が悠然と微笑みながら
いつの間にか立っていた。
 気配も足音も何も感じなかった。まさに…『突然、フっと湧いて出たような』と
形容するに相応しかった。
 神出鬼没、と言い換えればいいのだろうか。
 Mr.Rの唐突な出現に克哉は驚愕を隠しきれなかった。
 
「…いつの間に、そこに立っていたんですか…?」
 
―そんな些細な事はどうでも宜しいでしょう。しかし…これで貴方は
自らの手で禁断の扉を開いてしまわれた。その事により、どのような結果が
起こるか…私は静かに見届けさせてもらいますよ。ねえ…佐伯克哉さん…?
 
「っ…!」
 
 そう男に言われて笑まれた途端に、克哉は背筋に悪寒が
走っていくのを実感していった。
 本能的に、これからただ事では済まないのだと察していく。あの二人の間に
起こった事を自分が知るという事は、大きな波紋を呼ぶ行為であった事を…
今更ながらに克哉は察していった。
 
(だけど、知ってしまった以上…オレは簡単に引く訳にはいかないんだ…! 
今のオレ二は守りたいもの、そして失いたくないものが沢山あるから…)
 
 そう考えた時に真っ先に思い浮かんだのは恋人である御堂の顔だった。
それから、キクチ・マーケティング時代の同僚たちや、今の職場の仲間達、
そして本多や太一、片桐のように自分の事に耳を傾けてくれる友人達…
彼らの顔が次々に浮かんでいき、克哉は決意を固めていく。
 
―良い目をなさりますね…かつての貴方は虚ろで何も持っていらっしゃらない
方だったのに。あの方が眠っている間…その肉体を守る為の仮初の仮面に、
まさかここまで強固な意志が宿ってしまうなど…あの時は考えても
いなかったですね…
 
 その一言を言われた途端、克哉は胸がズキリと痛むような気がした。
 そう、自分は『後から生み出された心』である事を克哉は知ってしまった。
 澤村紀次と決別するまでの12年間…そうあの日まで現実を生きていた
最初の佐伯克哉は、眼鏡を掛けて現れる方の人格だと知ってしまった。
 だから…きっと、今の自分は…本当の自分を封じ込めて、その上で
生きているのだという事実を知ってしまった。
 
(その事だけは…どうしても罪悪感が湧いてしまう…けど、今更…オレは、
もう戻れない。今…手にしているものを手放したくない…)
 
 だが、克哉はどうしても引く訳にいかなかった。大切な存在が幾つも
あるのに、感傷に負けて手放すのは身勝手だと思った。
 
―私には君が必要だ。それだけは決して忘れないでくれ…
 
 恋人関係になってから、ふとした瞬間に御堂がそう伝えてくれた
事が何度かあった。 
 その一言が今の克哉を支える芯となってくれていた。
 この身体も、心も今は唯一人に捧げている。
 だから克哉は、それがもう一人の自分に犠牲を強いる事に繋がって
いても、間違っても彼にこの身体を返すとは言えなかった。
 
(オレがそんな事を言えば…きっとあの人は悲しむだろうから…)
 
 だから瞼の裏にくっきりと御堂の顔を描いていきながら克哉は力強く呟いていく。
 
「えぇ、オレはこの旅路で…オレが後天的に作られた人格に過ぎない事を
思い知りました。けど、オレだってこの15年間を…特にこの三年ぐらいは
精一杯生きて来ました。だからオレは今更、あいつに人生を返せない。
それが…オレの答えです…!」
 
 力強く言い放った瞬間、黒衣の男は冷笑を浮かべた。
 それが妙にこちらの心を煽っていく。
 
ーなら、貴方がこの先…どのように足掻き、悩み苦しむか見届けさせて
頂きましょう…。桜によって狂わされたのは貴方だけではない。貴方と
因縁のある人もまた、この時期は心を乱されて…半ば正気を失って
いるのかも知れませんね…
 
 それは男からの警告であり、同時に脅しでもあったのかも知れない。
 そしてどこまでもシニカルが笑みを浮かべていきながら…男の姿は
まるで幻のように一瞬で消え去っていく。
 
「なっ…!」
 
 この男性の奇行に関してはそれなりに免疫がある克哉も、
これには流石に驚いた。
 だが呆然と立ち尽くしていると…背後から声を掛けられていく。
 
「…克哉、まだこんな所にいたのか…。随分前に先に行かせた筈だから
もうすでに部屋の中に入っていると思ったんだがな…」
 
「あ、その…すみません。軽く目眩を覚えてしまって…つ
い…」
 
「……そうか、さっきも君は倒れ掛けていたものな。愚問だった…
では、そろそろ戻ろうか…?」
 
「はい…」
 
 そうして克哉は御堂にそっと支えられていきながら
マンションの中に入っていく。
 僅かに触れ合っている箇所から伝わってくる温もりを感じて…
克哉はしみじみと思った。
 
―この人とこれからもずっと生きていきたい…。命ある限り、ずっと…
 
 小さくそう祈りながら、相手の身体に自分の頭を擦りつけていく。
 そうして…記憶を取り戻した事をキッカケに、確実に嵐は徐々に
克哉のそばに確実に接近しつつあったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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