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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―勢いよく燃えていた写真がフローリングの床に落ちた瞬間、例の
銀縁眼鏡の力で持って閉じこめられていた方の克哉の意識は
再び主導権を取り戻した。

(早く行動しないと、火が大きくなって大変な事になってしまう…!)

 この家は今は住んでいなくても、克哉の実家である事は変わりない。
 こんな事で失ってしまうのは絶対に御免だった。
 大慌てで大ざっぱに近くにあったアルバムを火元から放り投げて
遠ざけていって、全速力で風呂場へと向かっていく。
 脱衣所にあった青いバケツの中に、全開で蛇口を捻って
水を一杯にしていく。
 そして先程まで自分がいた部屋まで運んでいくと、克哉は
盛大に水を掛けていった。
 
 バシャッ!!
 
 フローリングの床に過剰な水気は厳禁だ。
 だがこの緊急事態では仕方がなかった。
 幸い、写真は完全に燃えつき掛けていたせいで火の勢いは
あまりなかったのが幸いしていた。
 すぐ近くに可燃性の物を置いたままだったら戻ってくるまでの相手に…
もしかしたら天井にまで火が届いて個人では手に負えない状態に
なっている可能性があったがフローリングは着火するまで
若干の猶予時間がある。
 当然、悠長に構えていて引火してしまえば手遅れだが…迅速に
対応したおかげで若干、焦げ痕がついたぐらいの被害で止まってくれた。
 
「ま、間に合って本当に、良かったぁ…」
 
 克哉は安堵の息を漏らしていきながらその場に座り込んでいくと…
自分の膝が少し笑っている事に気づいていく。
 こうなるのも無理はない。
 後一歩で、大惨事を引き起こすかも知れなかったからだ。まさかもう
一人の自分が呆然と見守っているだけで何もしないだなんて思いも
よらなかった分だけ、克哉も衝撃を隠し切れなかった。
 
「何であいつ、あんな風に突っ立っているだけだったんだ…? 後もう少しで
大変な事になっていたかも知れないのに…そんなの、全然
あいつらしくないのに…」
 
 そう、いつもの彼ならばきっと迅速に動いて対応をしている筈なのに…
さっきの彼は何もせずに見ているだけだった。
 いや、もしかしたら彼は動けなかったのかも知れない。
 それならどうして動けなくなってしまっていたのか。
 回答は、直前に彼が見ていたアルバムにあるような気がした。
 克哉はゆっくりとそれに手を伸ばして、何枚かページを捲っていく。
 
「ああっ…!」
 
 そして克哉はこの帰省において、二つ目の鍵を見つけていく。
 小学校低学年の頃の写真だろう。
 あどけない幼さが残っている頃の自分の隣に、あの赤いフレームの
オシャレ眼鏡を掛けた男性と良く似た子供が一緒に写っていた。
 運動会、遠足、誕生会、プール開き…近所の公園やこの家の中で
撮影されたと思われる物が沢山、アルバムに収められている。
 
「…あの人はやっぱり、『俺』の方の関係者だったんだ…」
 
 ぼんやりとは思い出していた。
 あの男性と出会って、そしてもう一人の自分と心の中の世界で
語り合った時から、十中八九間違いないとは確信していた。
 その仮説が正しいと確認したくて、克哉は決算期を迎えた忙しい時期に
ワガママを言って一日休みを貰い…故郷の土を久しぶりに踏んだ訳だが、
通っていた小学校でMr.Rと遭遇して警告を受けた事。
 そしてこの写真を見れた事が克哉にとって何よりの収穫だった。
 その写真の量は膨大で、学校内で撮影された大抵の写真の中には
ワンセットであの男性と写っている。
 確かにこれを見る限り、相当に親しかったことが伺えた。
 確かに小学校では一クラスに平均20~30名、子供の数が多ければ
四十人近くにまで達する事がある。
 だから親しくなければ例え同じクラスであったとしても卒業して十年以上が
経てば名前を覚えていない人間が出てきてもおかしくはない。
 
(けど、ここまで親しかったのなら…普通なら絶対に忘れない範囲だ…)
 
 二人が本当に親しかった証こそ、この膨大な量の写真なのだ。
 無邪気な笑顔を浮かべながら友人に寄り添うかつての自分の姿を見て…
克哉は胸がズキンと痛むようだった。
 
「ねえ、何で…オレはまったくこの人の事を覚えていなかったんだ…? 
あいつにとってここまで大事な人間であったのなら、オレが知らないなんて、
おかしくないか…?」
 
 克哉の中で写真を追いかければ追いかけるだけ、疑念が広がっていく。
 その瞬間…天啓のように一つの単語が浮かび上がった。
 
―記憶喪失
 
 最初、その言葉が浮かんだ時…まさか、と思った。
 だがそれ以外に説明がつかない気がした。
 これだけ親しかった二人、そして眼鏡を掛けた方と今の自分の…二つの
人格、そしてMr.Rのあの警告の言葉…それぞれが頭の中で組み合わさって
真実が全体の輪郭をもって浮かび上がっていく。
 
(…けど、まだ足りない。オレが記憶喪失になった訳が…そして何で
二重人格になったのか、その原因となった出来事が…どうしても
思い出せない…)
 
 そう、恐らく記憶喪失が起こった原因。
 トリガーとなった体験だけが、埋まっていない。
 全体像はゆっくりと浮かび上がっているのに、肝心のものが…一番重要な
ものが、まだ欠けているのに克哉は気づいていった。
 食い入るように写真を眺めていきながら…克哉は、その記憶を思い出す為の
鍵を得ようと必死になっていく。
 だが、あの例の男性とかつての自分は相当に親しい間柄だった。
 その事実以上の収穫は、大量のアルバムの山の中から
得られるものはなかった。
 
「…オレがこの地で得られるものは、ここまでかな…。後は桜が咲くまで
待つしかないのかな…」
 
 後は待つしかないと察し始めて…克哉は心がモヤモヤしてくる。
 出来るだけ早く答えを得たいという欲求が湧き上がってくる。
 一体、あの二人にどんな事が起こったのか知りたいと逸る気持ちが
収まってくれない。
 今の克哉の心境は、九割ほどパズルのピースはすでに揃っているのに
完成させる糸口を掴む肝心の部分が抜けているような、そんな感じだった。
 その部分が組みあがれば、きっとこの帰省中に得られた情報を筋道立てて
理解出来るようになるだろう。
 まだ半信半疑だが、克哉はきっと桜を見れば知る事が出来るような気がした。
 
(早く桜が咲いてくれ…オレの中で何が欠落しているのかを…知りたいから…)
 
 そしてその後、うっすらと焼け焦げたフローリングを研磨材入りの洗剤で
磨いてどうにか誤魔化せる程度にまで汚れを落とし、ワックスを掛けて
換気扇も念の為、回して喚起も行っておいた。
 夕方頃に両親が戻ったばかりの頃は…内心ヒヤヒヤしながら出迎えて
いったが、実質の被害は写真一枚程度なので他の家族も気づいず終いだった。
 そして久しぶりに母親の作った夕御飯を食べて…克哉は故郷の地を後にしていった。
 
―今、貴方の元に帰ります…孝典さん…
 
 そして東京に戻る最終の新幹線に乗り込み、克哉は愛しい恋人の事を
考えながら、今の彼にとっての帰るべき家へと戻っていった。
 
―そしてその日から十日後、桜は満開の時期を迎えて…約束の通り
御堂と共に中央公園に一緒に見に行き…その時に克哉は追い求めていた
最後の記憶のピースを手に入れ、あの男性ともう一人の自分との決別の日
の記憶を手に入れていったのだった―
    
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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