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それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
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―望まない行為によって、激痛を感じ続けている内に克哉は
意識をいつの間にか失っていた
迸る声は喘ぎではなく、痛みの為に発せられたものだった。
悔しさと少しでも声を出したくない意地のせいで…唇にはうっすらと血が
滲んでいて、衣服は所々破れて体液で汚れていた。
体中に相手の刻んだ痕が残され、最後には両手を縛られていたせいで
手首には赤黒い傷が残されてしまっている。
夢うつつの状態で…意識が覚醒していくと、今の自分のあまりに哀れな
状態に苦笑せざる得なかった。
(身体が、もう…動かない…)
リビングも酷い有様だった。
ダイニングから必死に逃げて来たせいで克哉ともう一人の自分が
移動してきた処は酷く乱されてしまっている。
まるで強盗に物色されたか、もしくは乱闘騒ぎでも起こったかのように
部屋中がグチャグチャになってしまっている。
(御堂さんが帰って来るまでに…少しは片づけないといけないのに、
もう駄目だ…。指一本動かす事すら…今は、億劫だ…)
心の中で起き上がって早く片づけなければと思うのに…何かの糸が
先程の行為で切れてしまったのか、もう身体は自由に動かなかった。
まるで全身の神経の糸が全て切れてしまったかのようだ。
(御堂さん…『俺』…)
そして脳裏に浮かぶのは、自分が本来いた世界の二人の事だった。
御堂と結ばれた…眼鏡を掛けた方の自分は、あんな男ではなかった。
過去の罪を心から悔い、そして御堂と向き合いながら…理想に向かって
邁進している。
見るからに希望と力強さに満ち溢れた…一国一城の主へと上り詰めた
眩しく、嫉妬を覚えざるを得ない存在だった。
そしてそんな彼を支え、傍にいる御堂もまた…克哉には美しく感じられた。
(…あの二人は、本当にオレにとっては眩しく見えた…)
彼らの事を思い出す度に、胸の中にチクリとした痛みを覚えていく。
一年以上の空白の時間を経て、再会し心を通わせた彼らの絆は
強固であり…自分の付け入る隙などなかった。
御堂に愛し愛されてから…澤村という男性との一件が片付いてからは
もう一人の自分の心はぶれなくなった。
しっかりとした芯のようなものを得た彼は…現実に地に足をつけて
生きるようになり…そして、克哉が生きる隙間のようなものが徐々に
埋まっていった。
―御堂を彼が愛して、その信頼に応えようと思えば思うだけ…彼の力強さは
ましていき、肉体の主導権は完全に奪われてしまっていた
一年余り、そうして克哉は一度も表に出る事なく…傍観者として
彼ら二人の関係を眺めるだけの存在となった。
克哉の意識は確かに其処にあるのに、その存在を意識される事はなく。
二人ですでに彼らの関係は完成されてしまっていた。
自分が入る隙間などまったく存在しない、憧憬を覚えざるを得ないぐらいに
強い信頼で結ばれている姿を見て克哉は思い続けた。
―自分もたった一度で良かったからこんな風に人と愛し愛されたかったと…
Mr.Rから例の眼鏡を渡されるまで自分の方が確かに生きていたのに…
こういう状況に追い込まれてからやっと、全ての可能性を無駄にして生きていた
己の愚かさと情けなさを思い知らされた。
人を傷つけない為という名目を掲げて…誰とも深く付き合う事もなく、ただ
曖昧に笑って生きていた。
そうすれば確かに誰かを傷つける可能性は少なかっただろう。
だが、人と触れ合ったり理解する事を拒否していたのだという事を…彼らの
関係を見ている内に嫌でも気付かされたのだ。
(オレは…無駄に、ただ生きているだけだったんだ…。それを…あの二人を見て…
心から信頼し合って、お互いを必要としている…そんな姿を間近で見続けている
内にやっと気付いたんだ…。オレは、何もして来なかった…。誰とも関わって
生きていなかったんだって…!)
あんな酷い目に遭わされ、もう一人の自分の存在を意識した途端に…
この三日間の穏やかな暮らしで忘れかけていた、己の本来の動機を
思い出していく。
―オレは、愛されたかった…必要とされたかったんだ…御堂、さんに…
本来いた世界では御堂は克哉の事になど気付かない。
もう一人の自分だけを真っすぐに見つめて、彼だけを必要としている。
だが…彼らを見ている内に、どうしようもない欲が克哉の中に
生まれてしまった。
自分も彼に愛されたいと…いつしか願うようになった。
だが、知覚される事もない儚いままの自分ではそんなことは叶わなかった。
そうしている内にもう一人の自分の心に押しつぶされて、もう克哉の心は
消滅する寸前になっていた。
その時に…Rは例の賭けを、このゲームを持ちかけたのだ。
(生きている…幽霊のような、亡霊のような存在にすぎなかったオレには…
例えこのゲームの間だろうと、確かに実体を持っていられるんだ…)
負けたく、なかった。
この勝負に負けて…また、亡霊のような存在に逆戻りしたくなかった。
悔し涙が克哉の目元に浮かんで、頬を濡らしていく。
身体は動かなくても、カーペットの上で爪が食い込むぐらいに強く己の
手を握り締めていった。
「ち、くしょう…!」
そう思わずつぶやいた瞬間、玄関の方から物音が聞こえて唐突に
克哉の意識は現実に引き戻される。
「ど、うしよう…!」
御堂が帰って来た事に気づいて克哉は顔面蒼白になっていく。
だが慌てて起き上がろうとしても、腰から下に力が入らないせいで…
彼は再び、カーペットの上に突っ伏すだけの事しか出来ないでいたのだった―
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
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―それは陵辱とも強姦とも形容出来る行為だった。
人並みに性体験はあったが、男を受け入れたことなど一回も
なかった克哉にとってはそれはあまりに衝撃的な体験だった。
殆ど慣らす事すらせず、一気に最奥まで貫かれた時に
猛烈な激痛を覚えていく。
「うあああっ…!」
克哉の苦悶の声が、御堂のマンション内…リビング中に響き渡っていった。
だが、もう一人の自分はまったく意に介することなく容赦ない抽送を
繰り返していた。
「痛い…や、めろぉ…!」
「身体の力を抜けばすぐに悦くなる…。無駄な抵抗も、拒むことを止めれば
一気に地獄から天国にイク事が出来るぞ…?」
「やだ…いやだっ…!」
もう一人の自分に犯されている最中、脳内に浮かぶのは御堂の
顔ばかりだった。
(こんな処を…帰宅した御堂さんに見られたら、オレは…!)
その想いだけが強烈に広がり、それが克哉の身体の強張りを更に
激しいものにしていく。
そのせいで出血して、快感ではなく強烈な痛みが広がっていく。
「そんなに意地を張るな…。自分の身体を痛めるだけだぞ…」
「いや、だ…お前なんか、に…屈したく、んんっ…!」
ただ背後から犯しているだけでは克哉の意地を解くことは
出来ないと悟ったのだろう。
後ろから強引に顎を捉えて、荒々しく唇を奪っていく。
バックから犯されている克哉にとってはかなり苦しい体制だったが
相手の舌がこちらのそれを捕らえて…容赦なく絡ませてくる内に
気持ちとは裏腹に、身体の強張りは解けていってしまった。
「ふっ…うう、んっ…」
こんなに甘い声を漏らす自分が、信じられなかった。
どれだけ敵意を持っていても、それでもどこかでもう一人の自分のことを
憎みきれていないのだろうか。
嫌いじゃないからこそ、キスも心地よいものに変わっていく。
相手からの深い口付けは紛れもなく克哉に快感を齎していた。
その事実に驚愕していった。
(こんな、事をされて…感じる、なんて…)
悔しくて涙が滲んでいく。
だが、陵辱者はそんな克哉の思惑などお構いなしに犯し続ける。
一方的で愛情のカケラなどまったくない行為。
それが判るからこそ、克哉は拒み続けていく。
(せめて…心だけでも、屈したくない…! オレをモノのようにしか扱わない…
そういう風になってしまったお前にだけは…!)
自分を今、犯している相手には克哉は反発しか覚えない。
確かに憧れた時期もあった。
あんな風に自分も愛されたいと願ったこともあった。
だが、それは…自分と共に生きていた彼だ。
―この世界の鬼畜王として覚醒してしまったもう一人の自分には
決して憧れることなどない…!
その強烈な想いを抱きながら、一つの想いを思い出していく。
(オレは…お前と、御堂さんのように…なりたかった、のに…!)
その気持ちに気づいた瞬間、どこかで自分は…あの世界の自分にも
愛されたかった想いがあった事に気づいた。
もう一人の自分が犯した罪を許し、共に手を取り合って…理想を
追い求める二人の姿に自分は憧れた。
あんな風になりたいと、自分にもそんな存在が欲しいと心の底から
願っていきながら…日々、消え行く自分を実感していた。
(オレは…オレは…!)
御堂に、必要とされたかった。
もう一人の自分に、いらないと思われたくなかった。
けどあの世界では自分は消え行くだけと判っていたから…だから、
自分は、か細い糸のような微かな可能性に縋ったのだ。
「御堂、さん…! 御堂、さん…!」
だからせめてその想いを忘れないに相手の名前を叫んでいきながら…
克哉はこの地獄のような時間が一刻も早く終わることだけを
願い続けていたのだった―
※この記事はうちに九台目のDSが来たので
その事に対する記事と兄貴へのツッコミの二つの成分で
構成されています。
それでも良いという方だけ、どうぞ「つづきはこちら」を
クリックしてやって下さいませ~。
※この記事はあらかじめ休みの日に執筆しておいて…15日に
アップ出来るように投稿予約機能を使って
予約していましたが…微妙に設定を間違えて、非公開状態に
なっていました。まだ使い慣れていないので生温かい目で
見守ってやって下さいませ。ルルルル~。
※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
これからは御克以外のカップリング要素のある描写も入ってくる
展開が続くので苦手な方はご注意下さいませ。
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―昼間に流れたニュースを見て、残された時間はそんなに長くないと
思い知らされた克哉は、ようやく腹を括った。
(オレは心のどこかで…この平和な日常がずっと続いてくれればと
思っていた。けど…そんな受け身でいたら、オレはこの勝負に
負けるだけだ…)
そう悟った克哉は一通りの家事を終えて、夕食の準備をしてから
御堂の帰りをただ待ち続けた。
食卓の上にはそれなりにボリュームのある夕食が用意されて…
克哉は椅子に座って静かに待ち続けていた。
こうして自宅に上げて貰っていたが、御堂の携帯番号やメールアドレスの
方は教えて貰っていない。
時刻はすでに21時を超えている。
夕食もすっかりと冷めてしまっているし…こちらの空腹もそろそろ
限界に達して来ている。
だがどれだけお腹の虫が鳴っても、あくまで自分はこの家に
居候をさせて貰っている身分である。
この家の主である御堂を差し置いて、一人で先にご飯を食べてしまうのは
躊躇いがあった。
(それにあの人に…我儘を言おうとしているのに…先にご飯を食べてしまうなんて
出来ないよな…気分的に…)
けれどまた再びお腹の虫はキュウ、と泣き始めて本気で背中とお腹が
くっついてしまいそうな勢いで空腹を覚え始めていく。
目の前には冷え切ってしまっているが、自分が作った美味しそうな料理が
並んでいるのを見て…つい、誘惑に負けそうになってしまう。
「駄目だ…我慢だ、我慢…! 耐えろ…オレ…!」
しかし食欲は人間の三大欲求の一つであり…生きていく上では
決して欠かせないものでもある。
後、一時間も続いたら食欲に負けそうだ…と思い知らされた瞬間、
玄関の方から物音が聞こえて来た。
「御堂さん…っ!」
このマンションはセキュリティも万全なので、こんな風にごく当たり前の
ように部屋の中に入って来れるのはカードキーを持っている人間だけだ。
それ以外は管理人か、中に住んでいる人間の認証を得ないと外部の人間は
入れないシステムになっているので克哉はごく自然に声を上げていった。
だが、其処に立っていた人間を見て…克哉は戦慄を覚えていく。
「…まさ、か…」
その姿を見た瞬間、血の気が引いていった。
其処に立っていたいたスーツ姿の男性であったが…この家の
主である御堂ではなかった。
「何で、お前が…この、家に…」
「…別に単なる気まぐれだ。暇つぶし程度にはなると思ってな…。それと
お前と俺のゲームはすでに始まっているのだと改めて伝えに来てやった…」
「そ、んな事…お前に言われなくたってとっくに判っているよ…!」
「ほう、その割にはこの三日間平和ボケをしているようにしか見えなかったけどな…」
「…くっ…!」
図星を突かれて、克哉は顔をゆがめていく。
目の前に立っている男は…彼と瓜二つの容姿をしていた。
当然だ、自分と本来は同一人物なのだから。
この世界ではRの言うところ『覚醒』して…嗜虐的な趣味を全開にして…
人を踏みにじる行為も辞さない鬼畜王となったもう一人の自分。
そのアイスブルーの瞳からは冷酷なものを感じて、克哉はゾっとなった。
無意識の内にテーブルから立ちあがって後ずさりを始めていく。
本能的な恐怖を、自分と同じ顔の男から覚える。
「…今日は御堂は大きなトラブルがあったので…帰宅は午前様になるそうだ。
そういう訳で今夜はお前とゆっくり話す時間を取れそうでな…。だから
こうして来てやった…」
「なっ…そん、な…」
そんな話は聞いていない、と思った。
だが…自分が買い物に帰って来た直後、そういえば自宅の電話が鳴って
いたのを思い出す。
留守番に何か吹き込まれていたが…御堂の電話だという意識があった為か
メッセージは確認せずにそのまま夕食を始めたが、もしかして…あの電話が
そうだったのだろうか。
(そういえば…電話があった。御堂さん宛てのものだと思ったから電話も
取らなかったし…留守電メッセージもそのままにしていたけれど…まさか
あれが、そうだったのか…?)
心の中に、点滅していた留守番電話が過ぎっていった。
その瞬間が相手にとっては付け入る隙へと変わっていく。
「ほらほら…考え込んでいる暇などないぞ…?」
「うわっ…! 止めろ、来るな…!」
克哉が思考に耽った隙を突いて、もう一人の自分が一気に間合いを
詰めていく。
相手の行動に遅れを取り、両手を捉えられていった。
「…随分とつれない反応をするじゃないか…? せっかくお前の為に…
わざわざこうして出て来てやったというのに…」
「…そんな事、オレは望んで…んんっ!」
相手をにらみ返しながら反論をしていくと、唐突に唇をふさがれていった。
熱い舌先がこちらの口腔を犯すように…蹂躙するように容赦なく絡められて、
こっちの舌を吸い上げられていく。
「ふっ…ううっ…ん…ふっ…!」
克哉は必死に頭を振りながら…相手の濃厚な口づけから逃れようと
必死にあがき続けていく。
だが、相手はすでに三人もの人間を調教しきった存在なのに対して…
こちらは普通のセックスしか経験もなく、しかもそれらの色っぽい行為も
何年もご無沙汰になっているような人間である。
キス一つを取っても勝負になる訳がなかった。
(キスだけで…流されそうに、なる…)
相手のキスはあまりに的確で、舌先を絡め合っているだけで強烈に
こちらの官能を刺激されてまともに立っている事も叶わなくなる。
実際に腰から下が砕けそうになって、気を抜くとそのままフローリングの
床の上に跪いてしまいそうだった。
「やっ…あっ…! 止めろ、『俺』…!」
必死になってもがいて、やっと相手の口づけから逃れていく。
だが相手の腕を振り払うまでには至らない。
お互いの口元が赤く染まり、唾液で濡れている事が酷く生々しく
思えて…克哉はカっと顔を染めていく。
「…止めろ? 本番はこれからじゃないか…なあ、オレ…? とりあえず…
今夜は俺をたっぷりとお前に刻みつけてやるよ…!」
「やだ! 止めろ!…お前に、好き勝手になんてされたくない…! 離せ、
離せよ…!」
そうしてもう一人の自分に床の上に押し倒されて、うつぶせになったまま
腰を高く突き上げさせられる体制を取らされていく。
そして一気に何の躊躇いもなくズボンに手を掛けられて…下着ごと
衣類を引き下ろされていく。
「やめろ! オレにこんな真似をして…何が、楽しいんだよ…!」
「…充分に楽しんでいるがな。その怯える小動物のような目…なかなか
こちらの嗜虐心を煽っているぞ…!」
「何を、うあっ…!」
そうして強く身体を抑えつけられたまま、抵抗する事も叶わず…
克哉は相手のペニスに背後から一気に最奥まで貫かれていったのだった―
遊んだ感想みたいなものをツラツラと語っております。
目を通しても良い方だけ「つづきはこちら」をクリックして
やって下さいませ。
特に興味ない方はスルーでよろしくお願いします。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
他のカップリングの要素を孕んでいる描写も今後
出てくる可能性があります。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
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―赤い天幕で覆われた部屋に、一人の男が君臨していた
Mr.Rはその男の瞳に宿る冷酷な光りを見る度に背筋が
ゾクゾクするような感覚を覚えていく。
(すっかり覚醒されましたね…我が君…)
王座を思わせる赤いソファに腰を掛けながら…先日、連れて来たばかりの
青年を慈しむように撫ぜている。
明るいオレンジの髪をした青年は初めに連れて来た時には必死になって
抵抗していたが…今では主となる男に屈したようだ。
彼の膝に頭を乗せていきながら…蕩けきった眼差しを浮かべていた。
(支配する者とされる者…これこそ、貴方のあるべき本来の姿です…)
その様子を眺めていきながら、Rは満足そうに部屋全体を
眺めていく。
先に連れて来た二人は王座の背後に控えている。
彼らの瞳に宿るのは強烈な嫉妬だった。
主である男性に愛して、構ってほしいと願いながら…今その男性の
興味は新しく来た存在に向けられていることに気づいて焦燥を覚えている。
「…可愛い奴だ…」
「……はい…ありがとう、ございます…」
完全に心酔しきった眼差しを相手に向けていきながら…男は
新しく来た己の奴隷をやさしく撫ぜていってやる。
まるで愛玩動物のような振る舞いだが、男の関心が自分に向けられて
いるだけで…青年には嬉しいらしい。
ここに来てからほんの数日の間に、ここまで一人の人間の心を
打ち砕いて…己に心服させるその器に、Rは心から感嘆していく。
青年の体には無数の鞭で打たれた痕や、縛られた形跡が
残されている。
だが…そんな身体的な痛みよりも、男に与えられる快感に
彼はもうすっかり虜になってしまっているようだった。
グリグリと相手の膝に己の頬や額を擦り付けて強請るような
仕草を見せていく。
だが、男は…相手の欲求を熟知していながら…自ら動くような
真似はしない。
実際に男の性器を生地越しに刺激していたが…ここに君臨するように
なってから様々な行為を体験してきた今となっては、その程度のことでは
すでに興奮しなくなってきた。
「…焦れったい真似をするな…欲しいなら、もっと率直に
求めたらどうだ…?」
「はい…じゃあ、失礼します…」
数日前まで憎まれ口を叩いていた青年は、すっかりと敬語に
口調を変えながら恭しくフロント部分を引き下げて…相手のペニスを
口に含み始めていく。
その様子に背後の二人も、軽く煽られたようだった。
「…ふふ、しっかりと調教を済まされたようですね…」
「ああ、最初は少し手こずったが…こいつも今では俺の所有物だ。
しかしまだ…俺を満足させるには足らないな…」
「ええ、判っておりますよ…。貴方という人間の欲望を満たす為には
二人や三人程度取り揃えただけでは足りないでしょう…?
ですからもう三人ほど…狩を楽しんで下さい。一気に浚って
調教を済まされるのも良いですが…ハンティングというのもまた
悪くないでしょう。一人一人…ここに招いて、じっくりと貴方の所有物だと
教え込む過程を楽しまれるのもまた一興でしょう…」
「ああ、そうだな…。一人ずつ時間を掛けてというのも悪くはない…。
次は…俺が覚醒した直後に可愛がってくれた奴でも近い内に
招くとしよう…。この二人が…こいつの存在に少しは馴染み始めた
頃辺りにな…」
そう、黒衣の男と王座に座っている存在が会話している間も…
オレンジ色の髪の青年は必死になって奉仕を続けていく。
少しずつ硬さを帯びて来ている姿に、すでに性奴隷と成り果てた
彼は興奮しきっているようだった。
「僕も…構って、下さい…」
「俺も…もう、我慢出来ません…! お願いですから、どうか…!」
主が興奮し始めたのを見て…背後に控えていた二人も堪らずに
懇願の声を挙げていく。
その様子を男は満足そうに見つめて…だが、敢えてまだ支持を
出さずに彼らをじらしていく。
きっとその興奮が最骨頂になった時に…彼らを満たす為の
支持を彼は出すのだろう。
その様子を愉快そうに眺めながら…Rは心の中でそっと呟く。
―さあ、主の手はゆっくりと…御堂さんの方にも迫って来ていますよ…。
それにどのように貴方が抗うか…見物ですね…
これは、主が楽しむ為のハンティングという名のゲーム。
一人ずつターゲットを時間を掛けて攻略し、最後の一人となる
御堂に手を伸ばされるまでの間に…もう一人の克哉が御堂の心を
捕らえる事が出来れば、彼の勝利。
出来なければ主の勝利となり…そしてもう一人の彼もまた、主の
所有物となる運命が待っている。
それが男が提示したルールだった。
―この方は、覚醒していますから一筋縄では行きませんよ…
そう瞳を細めながら笑っていくと、Rは目の前で繰り広げられている
彼らのイカれたショーを愉快そうに眺めていく。
―この男性がこの地に君臨する限り、自分は暫く退屈することはないだろうと…
そのことを確信していきながら、ゆっくりと男は傍観者として鑑賞し始めて
いったのだった―
この記事は、これからやろうとしていることの
お知らせと…香坂の現状にチョロっと触れています。
作品以外興味ないよ、という方はスルーして下さい。
目を通してやっても良い方だけどうぞ~。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
GHOST 1 2 3 4 5
―佐伯
仕事中には心から愛しそうに彼はそう名を呼ぶ。
優しくも、深く信頼をしながら…。
―克哉
二人きりの時は、そう呼んでいた。
心の中に嫉妬が浮かんでしまうぐらいに蕩けそうな声で。
(貴方の中に、オレの存在なんて始めから存在しなかった…)
二人を見ながら、ずっと克哉はその想いに苛まれていた。
ガラス越しに世界を眺めていた。
現実に干渉することも出来ず、あくまで傍観者のままで。
自分という意識は存在するのに誰にも存在を認識されることもなく。
まるで光が差し込んでも透かしてしまって、受け止めることさえも
出来ない儚い存在に過ぎなかった。
―必要にされたかった
あの二人を見ていたから、芽生えた思い。
―愛されたかった
それはあまりに強い後悔の念。
その可能性が残されていた時に、何もかもを捨てる選択を
した事を彼は心から悔いていた。
―誰かオレを必要として下さい…!
それは懇願にも似た、願い。
何度も何度も、繰り返し絶望の中で叫び続けた感情。
その声に…ある日、Rは応えた。
―ゲームをしませんか?
と…愉快そうに微笑みながら。
それでも克哉は構わなかった。
今のこの状況が…彼らにとっては板状のゲーム、余興に過ぎないと
判っていても。
何の可能性も存在しないゼロの世界よりも、ほんの僅かでも
覆すことが出来るかも知れない世界の方が克哉にとっては
魅力的だったから。
―今の自分は彼らの始めたゲームの駒に過ぎない
その自覚はあっても、克哉は…それでも人に対して何かを
する事が許されていることと、何かに触って確認する事が出来る
幸せと食べて味を感じること、話すことが出来ること…。
普通の生きている人間だったら当たり前の事にすら、深く感謝して
日々を過ごしていたのだった―
*
出勤する御堂を見送った後、克哉はうたた寝をしていた。
そして目覚めた時、頬は涙で濡れていた。
早起きをして洗濯をしたり…朝食の準備をした疲れが出て
しまったのだろう。
革張りのソファの上に座って寛いでいたら…いつの間にか
眠ってしまったようだ。
窓の外は快晴で、見ていて清々しい気分になった。
陽はすでに高く登り、昼過ぎを迎えていることを告げていた。
「夢、か…」
かつての状況…記憶の断片を垣間見て、克哉は今…
こうして自分に身体がある事に深い感謝を覚えていった。
確認するように自分の手を何度も握ったり、離したりしていく。
たったそれだけの動作も『肉体』があるからこそ出来る。
どういう理屈かは判らないがこの身体には血も通っているし、
体温もキチンと存在している。
だが、それは御堂の傍にいるか…彼が生活している空間に
自分が存在している場合のみだ。
この部屋から長く離れれば、自分は消えてしまう。
幸いにも買い物に行く程度の短い時間なら、持ちこたえることが
出来るのが唯一の救いだったが。
「何か出来るって事は…凄く幸せなことだったんだな…」
ほんの数日前までの自分の状況を振り返って、彼は
しみじみと呟いていった。
「生きていることって、こんなにも…在り難かったんだ。それに気づかずに…
何て無駄なことをしていたんだろう…オレって」
それは亡霊のような生き方を強いられた今だからこそ思い知った事だった。
死んでしまえば、自由を奪われてしまえば…人は何も成すことが出来ない。
もう一人の自分の意識に押されて、肉体の主導権を奪われてしまった時に…
自分という存在はすでに消えているに等しい現実を理解した。
「生きてる…今は、少なくとも…」
そうして、また…深く呼吸を吐いていった。
心に浮かぶのは御堂と、Rにこのゲームを開始する前に言われた
言葉ばかりだった。
その事が過ぎった瞬間、克哉の耳に予想外のニュースが飛び込んでくる。
朝食時に御堂が付けていたテレビをそのままにしていた。
だが、其処に映し出された人物の顔を見て克哉はこわばっていった。
「…まさか、もう…!」
そうしてアナウンスが流れていく。
見覚えがある人物の顔と名前が表示されて…その人物が失踪して
数日が経過していること。
そして…家族が公開捜査に踏み切って、情報を求めていることが
告げられて…克哉は顔を蒼白になっていく。
「まさか…こんなにも早く…もう三人目が…。ちくしょう…こっちが
思っている以上に、残された時間が少ないって事か…」
このゲームの説明を受けた克哉だからこそ、その失踪した人物が
以前に消えた本多と片桐にも繋がっている事を把握している。
恐らく、最後に御堂が狙われることは判っている。
果たして自分に何が出来るのか。
(もう残された時間が少ないなら…形振りを構っていられない。
残り一人にも魔の手が迫ったら次は、御堂さんだ…。それにあの子にも
警告ぐらいは促しておかないと…いや、あの子はきっと受け入れてしまう…。
なら、御堂さんだけでも…どうか…)
この三日間、平和な日常を満喫していた。
今朝も幸せを噛み締めていた。
だが…このニュースによって克哉は一気に現実を突きつけられていく。
ジワジワと追い詰められていることに。
刻限が迫っていることを実感して、足場が崩れていくようだった。
(お前には…絶対に、負けない…負けたくない…この世界でも、
負け犬に終わるのは真っ平御免だ…!)
そうして手のひらに爪が食い込むぐらいに強く己の手を握り締めていく。
あまりに強く握りすぎて、うっすらと血が滲んでいく。
其処からドクドクと脈動する感覚と痛みを感じていきながら…克哉は
必死に自分が出来ることは何かを考え始めていったのだった―
※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
GHOST 1 2 3 4
―御堂の元に克哉が身を寄せて三日が早くも経過していた
朝、起きて身支度を整えていると御堂は本日も軽く苦悶していた。
窓の外の光景は爽やかで、見ているだけで清々しい気分になるぐらいに
空は晴れ渡っているのに、彼の心は曇天で覆われているようだった。
(…この状況は一体どうしたものか…)
三日前に佐伯克哉が自分の元に厄介になりたいと、怪しい男を通して
言ってきて、すったもんだの挙句に承諾して置いてしまった。
だが未だに多くの謎が存在しているので御堂の頭はまともに考えると
ショートしてしまいそうだった。
どうしてキクチに所属していた佐伯、本多、片桐の三人が失踪したのか。
何故一人だけ戻ってきた彼は別人のように様変わりしていたのか。
どういった理由で自分が拒絶した途端にその佐伯克哉の身体が
幽霊か何かのように透き通って消えそうになってしまうのか。
それらの理由がさっぱり見えて来ないせいで…本気で頭痛を
覚えてしまいそうだった。
一気に非日常の中に突き落とされた御堂の心境は極めて複雑で
一言で説明しきれない程だ。
「…佐伯に何度聞いても、まったくまともな回答が戻ってこないしな…。
自分は亡霊みたいなものだっていうのは…どういう意味なんだ…」
特に一番、心に引っかかっているのは…三日前の夜に彼が
言ったその言葉だった。
亡霊という事は、彼は死んでいるという事なのだろうか?
だが揉み合った後に強く抱きつかれたが…克哉の身体はちゃんと
質感もあったし、何より暖かかった。
生きた人間の感触と体温を確かに感じていたのだ。
だが、確かにその身体が透き通り…消えてしまいそうになったのも
はっきりとこの目で見た。
「…幾ら考えてもまったく判らないな…」
深く溜息を吐いていきながら御堂はベッドから起き上がって、身支度を
整え始めていく。
早くもワイシャツに袖を通して、背広を着始めていった。
本来なら早朝のこの時間帯は自宅ではパジャマでゆったりと過ごしているのだが
あまり親しくない人間が同居している状況なので…隙を見せたくないという思いから
この三日間は目覚めるとさっさと出勤する時の服装に着替えてしまっていた。
そうして洗面所で髪を整えてダイニングに顔を出していくと…美味しそうな
匂いが鼻を突いていった。
「あ、おはようございます…御堂さん。朝食の用意は出来ていますよ…」
「うむ…」
部屋に入るとすぐに克哉の満面の笑顔が飛び込んでくる。
その表情にうっかり眩しいものを感じてしまっている自分に非常に
突っ込みを入れたくなった。
(佐伯…どうして君はそんなに妙に可愛らしい顔を浮かべるような
人間になっているんだ…?)
散々、眼鏡を掛けてこちらを苛立たせるような発言を繰り返して人間と
同一人物とは思えないぐらいに今の克哉は爽やかだった。
ワイシャツとスーツズボン、そして御堂から借り受けた黄緑色のシンプルな
デザインのエプロンを纏っている姿はまさに主夫のようだった。
こちらに厄介になっているのだから…という理由でここ三日間は克哉が
食事を担当してくれていた。
朝と晩、そして昼用に弁当まで用意してくれている有様だ。
これでは新婚みたいではないか…と内心は思っていたが、あまりに相手が
真剣にそれくらいはやらせて下さい! と訴えかけてしまったので無下に
突っぱねる事も出来ずに気づいたらこの状況に陥ってしまっていた。
(しかも…日々、上達しているしな…。この目玉焼きの火加減は
まさに私好みの半熟だし…)
殆ど言葉を交わさぬまま、食卓の前に座って行くと…グウ、と胃が
鳴っていくのが判る。
生理的な現象だと判っているのだが…何となく釈然としないものを感じていった。
机の上にはこんがりと焼かれたトースト、イタリアンドレッシングが掛かったサラダ、
ソーセージが二本程度添えられている目玉焼き、そしてカップにはオニオンスープが
一杯と暖かいコーヒーが用意されていた。
しかもどれもこちらの食欲をそそるような良い匂いを立てていた。
「頂くとするか…」
「はいどうぞ召し上がって下さい…」
そうして御堂はトーストから手を伸ばして齧っていく。
焼き加減は上々で、コーヒーとも良くマッチしている。
「旨い…」
「本当ですか! 良かった…」
認めるのは少し悔しいが、それこそ一級のホテルに出てくる朝食に引けを
取らないぐらいの出来栄えに、つい言葉を漏らしてしまうと…それこそ眩しい
ばかりの笑顔を克哉が浮かべていく。
その様子をうっかり可愛いなどと思ってしまう自分はきっと重症なのだろう。
(一体私はどうしてしまったんだ…? あんなに生意気で癪に障る態度ばかりを
取っていた男を可愛いと思うなんて…どうかしてしまっているな…)
腹の底からそう思ったが、御堂が食べ進めていくと克哉は本当に嬉しそうに
ニコニコと笑っている。
まるでこちらに対して、こうやって食事の用意をして美味しそうに食べている事が
本当に嬉しいとでも伝えるかのように。
だから御堂は…惑いながら、克哉に出ていけとは言いづらくなってしまっている。
縋り付いて来た時の腕の強さと、必死さに…自分はほだされてしまったのだろうか?
そんな事をグルグルと感じながらも、御堂は食事を食べ続けていった。
「あ、コーヒーのおかわり…淹れますか?」
「ああ…お願いしよう」
「はい、じゃあ…すぐに淹れますね」
至れり尽くせりの気遣いに、御堂はついフッと微笑んでしまっている。
こうやって相手の善意を感じてしまうと…人間なかなか高圧的な態度を
取れないものだ。
身を寄せてからの三日間、克哉は本当にこちらに対して精いっぱいの事を
しようと努力しているのが判る。
それが伝わってくるからこそ…御堂もダンダンと強い態度に出れないで
ズルズルと来てしまっているのだ。
(まったく君は本当に性質が悪いな…肝心な事をまったく言おうと
しない癖に…)
心の中でそう毒づきながらも…御堂は容易された食事を全部
綺麗に平らげていく。
「…旨かったぞ」
「…ありがとうございます。その言葉を聞けただけで…作った
甲斐があります!」
そして、また克哉は嬉しそうな顔を浮かべる。
そんな一言でも心から感激しているのだと一目瞭然の顔で。
どうして彼が自分の前でそんな表情をしているのか疑問に思いながらも…
御堂は食器を下げて、出勤する準備を整えていく。
(…どうして私は、彼に強く問いただすのを躊躇っているんだ…?)
そう疑問に思った瞬間、ふと彼は気付いた。
きっと今、聞きたい事を聞いたら…謎が解けてしまったら彼はきっと
いなくなってしまう予感があったから。
彼は自分を亡霊と言った。
…うかつに聞けば、彼は消えてしまうような気がしていたのだ。
だから御堂は今は、口を閉ざす事にした。
きっと彼とこうやって過ごせる日々は儚く、そんなに長くないような
気がしていたから…今は目をつぶっていった
―そんな御堂の背中を、切なそうに克哉が眺めていた事を…
この時、彼は気付いていなかった…
※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
同時に他のカップリングの要素も孕む展開も出てくる可能性があります。
それらを了承の上でお読み下さいませ。
GHOST 1 2 3
―男が去った後、結局御堂は別人のように様変わりをしてしまった相手に対して
何を聞けばいいのか判らずにいた
Mr.Rが立ち去った後、二人は暫く無言で見つめ合い、立ち尽くしていたが…
そのまま御堂は口を閉ざしたまま…白い霧が立ち込める中、帰路に
ついていった。
やや速足のまま…それでもぼんやりと街の景観が浮かび上がっていく中…
自宅であるマンションを目指して彼は一直線に向かっていった。
そんな彼の後を克哉は必死に追いかけていく。
御堂の背中には、もしこの霧の中で自分を見失ってしまったのならば
決してこちらを探したりなどしない、そのまま振り返らずに進んでいくという…
そういう絶対的な意思のようなものが感じられた。
(御堂さん…怒っているよな…きっと…。どうやら、ここでの御堂さんは…
どちらの佐伯克哉ともそんなに深く関わり合わなかったみたいだし…)
克哉には、今がどういう状況なのか把握し切れていなかった。
ただ一つ言えるのは…ここはまだ、自分にとっての可能性が残されている
場所という事だけだ。
胸の中に浮かぶのはあの二人の姿。
お互いを必要としあい、信頼しあって…真っすぐに一つの目標へと
突き進んでいる姿はまぶしすぎて、同時に強い嫉妬を抱き続けていた。
(…けど、あのままではオレは何も出来ずに自然淘汰されるだけだった…)
何も出来ずに、自己主張も行動も出来ずに…ただぼんやりとガラス越しの
ように世界を眺める事しか出来ない日々。
その事を思い返せば、今はこうして自分の肉体を持って行動する
事が許されているだけ…たったそれだけでも克哉にとっては幸いだった。
―オレは亡霊みたいなものだったから…なら、こうして再び何かする事が
許されたのなら…何かを、残したい。この人の中でも…この世界にでも、
誰かに、いや…どこかで良いからオレが生きた証を…一つだけでも…
心の中で強くそう思いながら、克哉は懸命に先を歩いている御堂に
追いすがっていった。
胸に強い願いはあっても、それを叶える為に自分が何をすれば良いのか
まだ彼には見えていなかった。
だが、御堂の傍にいる限りは…少なくとも考える時間ぐらいは与えられる。
あまり悠長にしていられないと判っていても、ほんの数日程度でも多少は
時間は与えられているのだと信じたい。
(この人に手が延ばされるまでは…少しは間がある筈だ。どれくらいかは
判らないけれど…少しぐらいは抵抗したり、抗う猶予ぐらいは与えてくれていると
信じたい。そうしなきゃ…Mr.Rにとってこの『ゲーム』は何の面白みも
なくなってしまうから。ワンサイドゲームになるのはきっと…あの人の
趣味じゃない筈だから…)
実際の処、あの男性が何を考えてこんな趣向を凝らしたのか…こうして
自分にチャンスを与えるような真似をしたのか、克哉には判らなかったので
断定はできない。
だから希望的観測と判っていても、強く願い続けていく。
そうしている内に御堂のマンションの玄関に辿りついて…カードキーを
使って御堂は先に入っていく。
「わわっ…! 待って下さい御堂さん…!」
御堂が通り抜けた瞬間、自動ドアがすぐに閉まりそうになって慌てて
克哉が駆けこんでいく。
その様子を御堂は鉱石のように感情のない眼差しで眺めていた。
克哉はそれを見て…この世界の御堂の中には、こちらに対して何の
恋愛感情は存在していないという…その歴然とした事実を思い知る。
(やっぱり…この御堂さんは…どちらのオレ『俺』も…そんなに親しく
ないんだな…。凄く冷たい目をしている…)
それに人間、好意がある人間なら歩調を合わせようとするものだ。
先程の御堂の歩く速度から見ても…冷たい拒絶のようなものが
はっきりと感じられた。
人間は嫌でも態度や行動に、その思惑や感情がにじむものだ。
きっと御堂はどうして、そんなに親しくもない人間を自分の自宅に招いて
面倒を見なくてはいけないんだ…という苛立ちを感じているに違いない。
そう思ったら、克哉は申し訳なくて泣きそうになってしまう。
自動ドアをくぐった瞬間…ブワっと涙が浮かび始めていった。
「わっ…」
「…なっ?」
御堂は、突然克哉が泣きだした事に驚いていく。
二人して…エントランスの処に立ち止まって、気まずい空気が流れる中…
顔を見合わせていった。
「…どうして、泣いている…?」
「あ、その…すみません…。何でも、ないんです…」
そうしてはにかむように笑いながら克哉はさっさとその話題を切り上げようとした。
だが御堂はキっと睨みつけて阻んでいく。
「…まったく、君ははっきりしない男だな! これから私の家に厄介になろうというのに…
その動機も語らず、メソメソと泣いて…その理由を何も話さずに曖昧にして…
これから一つ屋根の下で暮らそうというのか! 人を馬鹿にするにも程がある!」
「えっ…ああっ! す、すみません! その…突然一緒に暮らしたいとか願って…
貴方の処に転がり込んだ訳ですけど…迷惑だと思われているのかと思ったら…
それと、貴方の冷たい目を見たら…その、申し訳ない気持ちになってしまって…!」
「なら、金ぐらいは工面してやる。出来たら返せば良い…! 迷惑だと思うなら…
今からでも近所のホテルでも手配するんだな! そんなに辛気臭い男と
一緒に暮らす義理は私にはないんだからな…!」
「そ、それが出来るなら…ああっ…!」
「なっ…!」
御堂が拒絶の言葉を吐いた瞬間、また例の現象が起こった。
突然克哉の身体がホログラフィが何かのように透け始めていく。
さっきもこんな奇妙な事が起こった事を思い出して御堂が硬直していくと…
克哉はまるでその身体にすがりつくように強く抱きつき始めていった。
「…御堂さん! お願いですから…拒絶する言葉は、吐かないで下さい…!
貴方に拒絶されたら、オレは…消えるしか、ないんですから…!」
「な、んだと…!」
その言葉に驚愕を覚えていきながら、つい相手の身体を突き飛ばす事も
忘れてなすがままになっていく。
そうして十秒もすれば…先程まで透明になりつつあった克哉の身体は
再び実体を持って、はっきりしたものへと戻っていく。
「佐伯君…一体、君は…何なんだ…?」
現実では到底ありえない光景を真の当たりにして…御堂が困惑した
表情を浮かべていく。
そんな彼に向かって、克哉は自嘲気味に笑いながら…こう
告げていった。
―今のオレは亡霊みたいなものですよ…貴方の傍に置いて貰わなければ…
儚く消えてしまうぐらいにね…
そうして儚く佐伯克哉は笑っていく。
かつて御堂の知っていた傲岸不遜な男とはまったく違う顔を見せていきながら。
御堂はそれを見て、更に困惑が強くなっていくのを実感していった。
だが…自分が拒絶すれば相手の存在は跡形もなく消えてしまう。
それが事実だと薄々感じた御堂は…一言だけこう告げた。
「そうか、なら…来い。このまま君に消えられたら…後味が悪そうだしな…」
「…ありがとうございます。感謝します…」
ぶっきらぼうな言い方の中に、御堂なりの情けを感じて克哉は頭を
下げていく。
それが今の二人の距離。
どこまでもよそよそしく…暖かい心の交流など何もない関係。
(けれど…この人に傍にいる事を許されただけまだマシだ…)
そう克哉は自分に言い聞かせて…御堂の背中を追いかけて、彼の
部屋へと一緒に向かっていったのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。