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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                      10 11 12

 
克哉が決意を固めているのと丁度同じ頃、眼鏡を掛けた方の
彼にも本多の声が聞こえていた。
 
ああ、それで良い。お前が、それで幸せに過ごしてくれるなら
 
 その言葉が、リビングソファで推理小説を読んでいる間に鮮明に響いた瞬間…
彼は硬直せざる、得なかった。
 
「…どうして、あいつの声が…? まだ、眠ったままの筈じゃなかったのか…?」
 
 眼鏡の口から、酷く震えた声が漏れていく。
 …二年前のあの日から、彼は昏睡状態のまま目覚めず過ごしている筈だ。
 生きながら、死んでいるのとほぼ等しい状態に陥った、かつて…克哉の親友であり、
そして恋人に昇格した男の事を思い出していく。
 
「…こんなに早く、それとも…あいつの決断するべき日が迫ってしまったというのか…?
本当に…あいつは、思い出して平気なのか…?」
 
 恐れと危惧を抱きながら、眼鏡は呟いていく。
 そう…記憶を、ここで二人で過ごしている経緯を全て忘れている克哉と違い…
彼の方はその事情の全てを知っている。
 知った上で、彼は…大きな決意をして、ここで共に過ごしている。
 克哉が決断する時、彼もまた代償にしなければならないものがある。
 …其れが迫っている事を薄々と感じて、身体が小刻みに震えていくのを感じていった。
 
(くそ…身体が震えてしまっている…。本当に情けないな…一度は俺も了承して
納得した事の筈だろう…!)
 
 これから克哉には、二つの選択肢からどちらからの道を選ばなくては
ならなくなる。
 …そして反対側の道を克哉が選択した場合、自分は…其処まで条件を
思い出した時、情けない事に身体の震えが止まらなかった。
 克哉が彼に想いを告げようと、これまでと関係を変えようとした瞬間に、
眼鏡の方はこれから大きな変化が起こる予兆を強烈に感じ取り始めていた。
 
「…本多、お前の方の覚悟は決まっているのか…。もし、俺が残れる道を
あいつが選んだ時は…お前、が…」
 
 同じように、この世界を成り立たせる為に大きな犠牲を払う事になるもう一人の
男に向かって、知らず眼鏡は問いかけてしまっていた。
 その問いかけに相手が答える事は決してないと判っていても。
 彼の声が、想いが偶然聞こえたとしても…こちらからの言葉に、まず返答はないと
判っていても、彼は口にせずにはいられなかった。
 
(いいや、これ以上考えていても仕方がない…。すでに俺と本多は、変わらない運命を
覆す為にそれぞれ、犠牲にするものを賭けた状態な訳だ。…あのまま、
狂いそうになっている
あいつを…内側から見せつけられていくよりも、
変化を、幸運になるかも
知れない可能性を生みだす事に同意したのは…
確か、なのだから…)
 
 そうして目を伏せて、深呼吸を繰り返している内に…少しずつ落ち着きを
取り戻していく。
 そう、今更ジタバタしたって何も変わる訳ではないのだ。
 …予想よりも早く、この世界が終焉を迎える日が訪れたとしても…それは
仕方ない事なのだから。
 ぬるま湯のように、暖かく優しい世界。
 其れは長く目覚めぬ恋人を待って、疲弊して冷え切ってしまった克哉の心を
癒すために紡がれたのだから。
 
(…これだけ早く決断する日が来たという事は…既に、俺は果たすべき役割を
勤め上げたという事なのか…?)
 
 もし、そうだというのなら多少は救いはあるのかも知れない。
 そう考えて自嘲的に笑っていくと…玄関の方から音が聞こえていった。
 此処は自分達二人しか存在しない世界。
 扉が開閉する音が聞こえるだけで、相手が帰ってきたという事が
即座に判ってしまう。
 そして耳を澄ませば、相手が廊下を少し速足で歩いてこのリビングに
使っている部屋に向かっている事が伝わってくる。
 
「ただいま、ねえ…ちょっと、話をしても構わないかな…?」
 
 そして頬を赤く上気させて、何かを決意しているような眼差しを浮かべた
克哉の姿が現れていく。
 
「…あ、ああ…」
 
 その瞳を見ただけで、眼鏡は何かを予感せざる得なかった。
 いや…ずっと、その輝きがすでに相手の双眸に宿っていた事を彼は察していた。
 けれど…敢えて、其れから目を逸らして気付かないようにしていた節があった。
 曖昧にする事で、こちらから想いを伝える言葉は一切言わない事で…辛うじて
均衡を保っていたその関係が、もうじき大きく変革を迎える事を悟っていく。
 
(…もう、これ以上はごまかす事は出来そうにないみたいだな…)
 
 克哉はゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。
 静かな表情を湛えていき、穏やかな笑みを浮かべていた。
 …拳を強く握り締めている事から、克哉もまた緊張をしているのだという事が
伝わってくる。
 ドクンドクン、と自分の鼓動が早鐘を打つのが脳内に響き渡っていくようだった。
 
「…オレ、お前の事が…好きなんだ。どうしようもなく…ずっと、言えないままで
いたけれど…。だから教えて欲しい…お前は一体、オレの事をどう思っているのかを…」
 
 真剣な眼差しを浮かべていきながら、克哉は問いかけてくる。
 その声は微かに震えて…大きな不安を抱きながら、こっちに尋ねて来ている事が
すぐに判ってしまう。
 
「…そうだな、俺は…」
 
 其処まで口にして、眼鏡は言葉を詰まらせていく。
 
(…本当に、口にしてしまっても良いのか…?)
 
 きっと、ここで相手の気持ちに応えれば…もしかしたら、道は確定するかも知れない。
 だが…その場合、本多は…と考えた途端、其れ以上の言葉を安易に口にする事が
出来なくなってしまった。
 この二年間、彼ら二人を内側で見続けている内に…自分はこんなにも甘くて
情けない人間になってしまったのかと呆れたくなってしまった。
 
「俺は…お前の事を…」
 
 そして、惑いながら続きの言葉を口にしていく。
 
―その瞬間、克哉は彼の目の前で唐突に…雷に打たれたかのような反応をして、
その場に崩れ落ちていったのだった―




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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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