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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                      10 11 12 13   14 15

 事実が判明してから、克哉は暫く涙を流しながら嗚咽を漏らし
続けていた。
 かつて、忠告を受けた時に見せつけられた哀れな自分の姿を
思い出していく。

(…あの人が、誰かがいつか忠告された言葉の通りだったんだ…。
思い出したら、あの憔悴しきった姿と同じ事になるって…。今なら、
その言葉の意味が、嫌になるぐらい理解出来るよ…!)

 自分が記憶を思い出す事は、パンドラの箱を開ける事に等しいと…
そんな例えをあの時、出された。
 事実を思い出した克哉は、その言葉が正にその通りである事を
思い知らされていた。
 眼鏡は、何も言わないで…泣きじゃくる克哉の肩に触れてくる。
 ほんの僅かに伝わる温もりが、克哉の心を少しだけ救っていく。

「…優しくなんて、しないでくれ…」

「………」

 今、優しくされたら…自分は、きっと彼に縋りついてしまう。
 自分が、本多と恋人同士だったという事実を知ってしまった今となっては…
彼の手を受け入れる事は、罪深いことなのだから。
 今までだったら、記憶を失っていたからという免罪符が存在していた。
 けれどその事実を思い出して尚…彼を受け入れる事は、本多を裏切る
事に等しい。
 しかし今の克哉は打ちのめされていて…多分、この世界に来て最も
彼の温もりを欲しているのも確かだった。
 相反する気持ちが、葛藤を生み出し…こちらは身体を硬くすることしか
出来ないでいる。

「…お前は、俺にこれ以上触れられるのは…嫌か…?」

「嫌じゃない…けど、今は…どうして、良いのか…判らない、んだ…」

 ハラハラと涙を零しながら、克哉は横に首を振って否定する。
 元々、眼鏡は感情表現が自分より遥かに乏しい…というか、ポーカーフェイスを
保っている事が多い。
 その表情から、心情を読み取るのは困難を極める部分がある。
 けれど…今、泣きはらした目で彼の顔をチラっと見ると…悲しそうな目を
浮かべているのに気づいた。

(どうして、そんなに切なそうな顔を浮かべているんだよ…。お前のそんな
顔を見てしまったら…オレ、は…)

 暫く動けないまま、相手の指先がこちらの髪を梳いていくのを
黙認していった。
 ゆっくりと、自分の中に彼に縋りつきたいという想いが湧きあがっていく。
 いつものように激しく抱かれて、何も考えられないぐらいに熱くなれば…
ほんの一時だけでもこの痛みを忘れられるだろうから。
 同時にそれを実行に移せば、記憶を取り戻した今となっては本多に対して
強烈な罪悪感を抱く事になるだろう。
 其れは絶望に染まった心が、一時の快楽を救いを…麻薬を求める心理に
近いのかも知れなかった。
 克哉は迷い続けていた。

「…お前、そんな顔をしているのは…卑怯だよ…」

 声を大きく震わせながら、克哉は…呟いた。
 その時、こちらの本心に気づいていく。
 彼のこんなに切ない顔を見るのは相当に久しぶりだった。
 この三カ月、自分達はこの二人だけしか存在しない世界でそれなりに
上手くやってきた。
 其れは本当に真綿に包まれたような暖かく優しい時間だった。
 その時間を自分に与えてくれた男が、またこんな悲しい顔を浮かべて
いるのを見て…どうして、見過ごすことが出来るだろう。

(ゴメン、本多…オレは…)

 一言だけ心の中で今、思い出したばかりの自分の恋人に対して謝った。
 彼に義理立てをするなら、きっとこの今…胸の中に存在している感情は
否定しなければいけない。
 其れが正しい道だって判っている。
 けれど…自分の前で悲しそうにこちらを見つめてくる相手を放っておくことは
出来なかった。
 許されない、と判っていても…今の克哉は、こちらから彼を抱きしめたいと
心から思った。
 自分の心を慰めて欲しいという気持ちよりも遥かに強く…相手の、心を
守りたいと。
 この手を拒絶する事で、彼を傷つけたくないという想いの方が…
どんな感情よりも勝ってしまった。

「…オレが、傍にいるよ…」

 泣きじゃくりながら、そう伝えていく。
 その言葉に…眼鏡の方が驚いていった。
 まさか今の克哉から、全く逆の言葉が飛び出してくるなんて
予想してもいなかったから。

「…この三ヶ月間、お前はずっとオレの傍にいてくれた。暖かくて優しい時間を
たっぷりと与えてくれた…。そんなお前が、そんな悲しそうな顔をしたら…
放っておくことなんて、オレには出来ないよ…。これが正しい事なのか
判らないけど、これが…今のオレの、気持ちなんだ…」

「…お前、本当に…バカだな…」

 克哉の方からギュっと相手を抱きしめながらそう訴えていく。
 眼鏡はその言葉を苦笑しながら聞いていき…そうして、暫くしてから
彼の方から克哉の身体を抱きしめ返して、唇に羽のように軽いキスを
一つ落としていったのだった― 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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