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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―あの日からずっと、胸の中から消えない罪の意識がある。
  
   桜の時期になると、その古傷が疼いて…半分、正気を
失いかける。
 それでも表面上は何でもない顔をして日常を送っている。
 だが、淡い色の花びらが舞う姿を見る度に心がざわめいて
落ち着かなくなる。
 
(…この時期はいつもそうだ。あれから15年も経っているのに…どうして
僕は桜が咲くと、こんな不快な思いをし続けるのだろう…)
 
 
 澤村紀次は現在、クリスタル・トラスト本社の彼に宛がわれている
執務室の中で一人で待機していた。
 部屋と言ってもあまり広いものではない。
  役職の人間に宛がわれるのに比べれば随分と慎ましいものだ。
 だが、若くして個室を与えられるぐらい澤村なりに入社してからここ数年努
力し続けてきたのだ。この部屋こそ…彼がこの会社内でそれなりの功績を
挙げてきたという証でもあった。
 だが、今の彼は…この部屋をもしかしたら失うかも知れない、というぐらいに
社内でも評価が下がりつつある。
 それに焦りを覚えているせいもあるのだろう。
 何もせずに待つ、という状態だからこそ余計な感傷が入り込んでしまって
いるのかもしれなかった。
 
(君の事を考えると、どうして…真っ先にあの日のことばかり思い出して
しまうんだろう…。僕らは小さい頃からずっといたのに。その他の記憶は
遠く霞んだようになって…いつだって思い出すのは、あの決別の日のことばかりだ…)
 
 その事に軽く苛立ちながら、澤村は腕を組んで…指先をトントンと
叩く仕草をしていった。苛立っている人間特有の癖だ。
 部下たちに指示を出して片桐、本多、太一、御堂の元にそれぞれ
向かわせていた。
 そして佐伯克哉にとって大事な人間を人質に取って、商談を有利に
進めるつもりだった。
 澤村としては全員が捕獲出来なくて、たった一人で良い。
 今の佐伯克哉にとってアキレス腱となりうる親しくて身近な人物を確保
出来れば、こちらの勝利は揺るぎないものになる筈だ。
 
(君自身は知らないだろうけどね…君がMGNに関わってから僕が
手掛けた仕事は全て失敗か、パっとしない結果に終わっているんだ…。
君が関わっている限り…常にMGNと対抗商品ばかり作っている会社は
さんざんな結果に終わるだろう…。ここで巻き返しをしなければ…
会社での僕の立場も危うくなってしまう…)
 
 澤村は自分に与えられたディスクの椅子に腰をかけながら
部下たちからの連絡を待った。
 ソワソワして落ち着かない気持ちをどうにか沈めようと目を閉じて
深呼吸をしていく。
 なのに、心は落ち着く所か…一層ざわめいていくばかりだった。
 
 
「君さえいなければ…何もかもが上手くいくんだ。昔っから
本当に目障りなんだよ…!」
 
 そう吐き捨てながら、澤村は深く椅子に腰を掛けながら
溜息を吐いていった。
 今、澤村が担当している主な仕事は…MGNの機密情報を調べだして、
MGNと対立している会社にその情報を流すことと…対立している会社に
手を貸して、MGNの現在の地位から引きずり下ろすことだった。
 去年MGNが発売したビオレード…それを調べさせて、クリスタル・トラストに
息が掛かった会社に非常に似た商品を先に発売させてMGNの方に
痛手を与える筈だった。 だが澤村が直前に得た情報は、佐伯克哉のせいで
全て無駄になってしまったのだ。
 本来の予定ではガラス製の美しいデザインの容器で発売する筈だった
商品が…佐伯克哉が考案したペットボトルでの容器で発売することと
なってしまったのだ。
 その一件のおかげで、似たデザインの商品をぶつけてこちらが先行発売して、
MGNの新商品を潰すというプランが根本から崩されてしまったのだ。
 結果、澤村のクライアントからの評価は散々なものとなり…この一年間は
特に社内でも扱いが非常に軽くなってしまった事を実感していた。
 
(僕が再び返り咲く為には…君をあの時のように潰さなければならない…!
 君がいる限り、絶対に僕は上手くいかない…。去年、僕が味わった
苦渋を今度は君が味わう番だよ…!)
 
 澤村自身、その感情が逆恨みである事は薄々と判っていた。
 佐伯克哉は去年のビオレードの一件で、こちらにそれだけの損害を
与えたその事実を知らないだろう。
 しかし彼はいつだってそういう存在だった。
悪意でこちらを傷つけた事など一度もない。
無自覚に劣等感を与えるという形で…彼は澤村を脅かし続けていた。
 だが、それでも恨まなければ…彼にも煮え湯を飲ませなければ
気持ちが収まりそうになかった。
 共に多くの時間を過ごしていた幼い頃、いつだって佐伯克哉は
自分の前を歩いていた。
 そんな彼に憧れて目標にした事もある。
 たった一つでも彼に勝るものを作りたくてがむしゃらに
努力した時期もあった。
 けれど勉強、スポーツ、習い事、そしてゲーム…全ての事において
彼は常に自分よりも好成績を叩き出していた。
 小学校低学年の頃はそれでも、ただ憧れるだけだった。
 しかしそれが何年にも及ぶようになった時…次第と心の中に
黒い染みが広がっていった。
 小さな頃は優秀で何でも出来る彼の一番の親友であった事が何よりも
誇らしかっのに、ある時期からは…彼の存在が自分の劣等感を酷く
刺激している事に気づいた。
 それでも彼が自分を信用してくれていたから、必要としていたから
ずっと抑え続けていた。
 
―本当に心底嫌いな人間だったらあれだけ長い間、嘘をついて
傍にいることなど出来ないから…
 
 だが、小学校の高学年に差し掛かる時期にはそれも限界を迎えて…
結局、無自覚でこちらの心を痛めつけてくれた相手に対しての静かな
報復を開始していったのだ。
 心の奥底では、全て…嫉妬からその恨みが発生している事は判っている。
 だが、彼はあまりに弱く…その本心に直視する勇気をずっと持てないでいた。
 自分よりも遙かに実力が勝る者を前にして…自分が努力して相手を
追い抜くか、もしくは相手を貶めて失墜させるか。
 澤村は常に後者を選んでばかりいた。
 佐伯克哉だけではなく、目障りな人間はいつだってそうやって排除し続けた。
 役に立つ、有益な人間だけしか近づけないようにした。
 無能でこちらの足を引っ張るような人間とは線を引いて絶対に
深く付き合わないようにしてきた。
 だが、彼は気づいていない。正しい手段で相手に勝つように努力
しなければ自分の実力はいつまで経っても伸びてくれず…貶めて人に
勝っていても、必ず限界が来ることを。
 努力する人間は、常に前を見据えることの出来る人間は強い。
 小学校時代の頃から、佐伯克哉は何の努力もなしに『何でも出来る』
のではなく…観察して、影で反復練習を繰り返し続けて…『すぐに出来るように
する努力』を欠かさなかった事に彼は気づいていなかったし、
見えてもいなかったのだ。
 心のどこかではその事に気づいている。
 だが、あの小学校の卒業式の日から15年間…彼は絶対に真実を
直視しようとしなかった。
 目を逸らして…人のせいにして、自分の罪を意識しないように生きていた。
 
―それでも桜の時期だけはその出来事を鮮明に思い出し、心はいつも
苦しみを訴えていた
 
 あの日の、親友だった少年が本当に悲しそうな顔をする…その場面が
幾度も幾度も、澤村の心を抉り続ける。
 愉快だった筈なのに、目障りな奴に自分が勝った瞬間である筈だったのに…
どうしてあの日の自分は泣いてしまっていたのか、どうしても自分で
理解出来なかった。
 
「…くそ! 早く連絡の一つも寄越せば良いのに…。まったく、無能な
部下を持つと苦労する…!」
 
 澤村は言わば、現時点では司令塔のようなものだ。
 全体に指示を出して、結果が出るまでは自分では迂闊に
この場からは動けない。
 だからこそ…こんなにも、忌々しい桜の幻影が襲い掛かってくる。
早く佐伯克哉を打ち負かして、こんなものから解放されたかった。
 だがイライラしながら暫く待機した後、彼の元に次々と寄せられた報告は…
青ざめるようなものばかりで、特に最後の電話を取った時、彼は怒りのあまりに
蒼白になり…全身を大きく震わせていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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