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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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―やあ、僕のことは覚えているかい?
 
 本多との会話終了直後に掛かって来た電話を取ると、聞き覚えのある
声の主が…そう声を掛けて来た。
 
「…澤村、さん…?」
 
 故郷の地に戻り、もう一人の自分と彼の写真を見た際にぼんやりと
思い出した名字を、確かめるように呟いていく。
 前回、接触を持った際にはまったく手応えがなく、「思い出せない」を
繰り返していた克哉が…恐々とした様子でも自分の名を口にした事で…男は
電話の向こうで愉快そうに喉の奥で笑っていった。
 
―へえ、僕の事…やっと思い出してくれたんだ…嬉しいなぁ…。かつての親友に
忘れ去られてしまって、僕は本当に寂しかったからねぇ…
 
「一体、何の用ですか? どうしてここの番号を…?」
 
―君がMGNで働いている事はとっくの昔に調べはついているよ。我が

クリスタル・トラストの情報調査員は優秀だからね…。克哉君、君についての
情報はかなり詳しい処まで知っているよ…。例えば、君の直属の上司との
親密な関係とかもね…?
 
「っ…!」
 
 その一言を言われた瞬間、克哉の表情は強ばっていく。
 男が言っているのは間違いなく自分と御堂との恋人関係の事だ。
 だが、すでに本城の時に学習をしている。
 一切、動揺を見せる訳にはいかない。それは相手に付け入る隙を
与えてしまうだけだ。
 だから克哉はすぐに気持ちの体制を直して、出来るだけ平静な声で
言葉を返していった。
 
「…そちらが何を言っているのか、理解出来ないんですけど…」
 
―ふうん、とぼけるんだ。まあ良いよ…今の間が肯定してくれた
ようなものだからね
 
「どうぞご自由に解釈して下さい。根も葉もない噂に左右されるような
愚かな社員はMGNにはいませんから」
 
 御堂に決してこの件で迷惑を掛ける訳にはいかない。
 彼と交際してから二年、一緒に暮らすようになってからは
一年が経過している。
 その事で一部の社員にはすでに、自分たちの関係は薄々とは
気づかれているが…御堂と克哉のスタンスはもし発覚したとしても
胸を張っていようと決めていた。
 言いたければ言うが良い。
 男と女じゃなければ生涯のパートナーになれない訳ではない。
   男同士であったとしても心が深く繋がれば…共に生きていけるし、
寄り添っていける。
 御堂と交際した直後はそれでも自分が男である事に迷う事があった。
 だが、今はあの素晴らしい人に選んでもらえて本当に良かったと思っている。
 だから…自分たちの関係を、かつてもう一人の自分を陰で騙して貶める
ような真似をした奴に決して踏みにじられたくない。
 だから克哉は毅然とした態度で応対した。
 それが相手には面白くなかったのだろう…チッ、と舌打ちする音が
小さく聞こえていった。
 
―まあ良い。そちらはささいな事に過ぎないから。随分と脇道に
逸れてしまったからそろそろ本題に移ろうか…。ねえ、克哉君…君は
今でも前の会社の人達と親しく付き合っていて…時々飲み会をしたり
懇意にしているみたいじゃないか。特に片桐課長と…大学時代の同級生の
本多憲二…この二人は特に君にとって大切な存在みたいだね…
 
「嗚呼、そうだよ。それが何か…?」
 
―ならこの二人はいわば君にとってはアキレス腱に等しいよね。今…僕が
片桐部長を拉致しに、部下を向かわせていると聞いたら…君は一体どんな
顔をするのかな…?
 
「何だと!」
 
 その瞬間、克哉は平静を取り繕う事が出来なくなり、大声を挙げてしまった。
 今の澤村の発言と、先程の本多が電話で言っていた内容が重なっていく。
 正午過ぎから音沙汰なく、姿を消してしまった片桐。
 そして部下を使って拉致しに行ったという澤村の発言が
最悪の形でもって重なっていく。
 
「…片桐さんをどうするつもりだ!」
 
―おいおい、そんなに怒るなよ…。今の処、何もするつもりはないよ…。
だって危害を加えたり怪我をさせてしまったら僕達の方に非が出来てしまう…。
丁重に扱っているから無傷だよ。『今の処』はね…
 
 澤村は現時点では、というのを強調して伝えて来た。
 それはこちらの返答や、行動次第によってはどうなるか判らないというのを
遠回しに伝えて、こちらに脅しを掛けているのと同義語だった。
 克哉はその事実に強い憤りを覚えていった。
 
(こいつ、全然変わっていないし…反省もしていない…! こんな卑怯な真似を
平然と取るなんて許せない…。それに、迂闊な対応を取れば片桐さんが
どうなるか判らないなんて…!)
 
 本多の電話の内容を聞いた時点から、何となくイヤな予感はしていた。
 だが、こんなにも早くそれが的中していた事を思い知る羽目になる
なんて考えてもみなかった。
 克哉は無意識の内に、こう呟いてしまっていた。
 
「…卑怯者、貴方は全然…小学生の頃から、変わっていないんですね…」
 
 その一言が知らず、口から零れた瞬間…澤村が息を飲む
気配を感じていった。
 暫しの間が生じていく。そして…怒りを必死に押し殺した相手の
声が聞こえていった。
 
―黙れ、お前はこちらの事を忘れていたんじゃなかったのか…? 人の
小学校時代の事をどうこう言えた義理じゃないだろうが…
 
 その時、嫌みったらしいぐらいに余裕に満ちていた相手の様子が
大きく変わりつつあった。
 だが、そんな事に今更克哉も動揺する訳がなかった。
 
「…聞こえていなかったんですか? 優位に立つ為にこちらの事を調べて…
こちらの親しい人を拉致する。この行動のどこか卑怯じゃないんだよ…」
 
―うるさい。黙れ…君が目障りな事をしなければ良かったんだ…。
知っているかい? 今…君たちが新しく開発しようとしている新商品は、
クリスタル・トラストが現在提携している会社が新しく開発している商品と
酷く似通っている部分がある。このままそっちに先に発売されたらうちは
大打撃を喰らうんだ…。それを放置する訳にはいかないだろう…!
 
 その時、男の口から初めて聞く情報が漏れた。
 克哉の中で、再びパズルのピースが埋まっていく。
 今、語られた内容…それこそが、この男性が自分の前に突然顔を
出してきた一番の理由のような気がした。
 
(今の一言で、どうしてこの人がオレの前に現れたのか…
ようやく、繋がった…)
 
 克哉は断片的にしか、相手に関しての情報を持っていない。
 ただ、あのような酷い裏切り行為をした相手が何の理由もなしに
自分の前に現れる訳がない。
 もう一人の自分と、澤村との間に起こった事を考えれば旧交を
取り戻す為に…という理由で現れたとしたなら、相手がその事に関して悔いて、
改心している事が前提となる。
 しかし片桐が拉致された事を考えれば、その可能性は完全に
否定されたようなものだ。
 だが、会社の利益の為なら…何らかの圧力なり、裏取引を持ちかける為に
接触しようとしたなら、全ての事例が納得いく形で纏まっていく。
 だが、恐らくこの男にとっての最大の予想外の出来事は…『今の克哉』は
まったく澤村の事を知らなかった事だろう。
 だからあの日、男は動揺して取り乱したのだ。
 自分の事を覚えてもいない相手に、付け入って優位な方向に話を
持っていける訳がない。
 かつて信じきっていた頃のように、その情で…相手は再び自分の良いように
こちらを操作しようとしたのだろう。
 そう考え至った瞬間、沸々とした憤りが胸の奥から湧き上がっていく。
 
(ねえ『俺』…お前はこんな男を親友と信じて、裏切られた訳なんだね…)
 
 奇妙な感覚だった。
 それはまぎれもなく自分の体験した出来事なのに、人事のように
感じられてしまった。
 けれど紛れもなく克哉は怒っていた。
 もう一人の自分を味方面して裏切り、今も自分の利益の為にこちらを
脅そうと片桐を拉致しようとしている。
 そんな理不尽な真似をしている相手に、本気で腹が立った。
 様々な考えが巡っていく。相手もさっきの発言はまずいと思ったのだろう、
 両者の間に重い沈黙が落ちていく。
 
(どうしよう…迂闊な事を言って刺激して、片桐さんの身に何かあったら…)
 
 相手を怒鳴りつけたい衝動に駆られた瞬間、克哉のプライベートで使用
している方の携帯が上着のポケットの中で振動していった。
 
「うわっ…?」
 
 と驚きつつも、慌てて克哉は着信画面を確認していった。今朝紛失して
しまった仕事で使用してある方は、多くの取引先が登録してある。
 逆にプライベートの方はごく限られた人間にしか教えていない。
 逆を言えばこちらに掛かってくる電話や送信されたメールは克哉にとって親しい、
もしくは大事な人間からの連絡であるのと同義語である。
 時間的に御堂からだろうかと推測してメールの文面を確認していくと…
克哉はその場で固まった。
 
『オレへ 片桐さんは無事だ。その件は心配しなくて良い』
 
 たった一言、それだけしか書かれていない素っ気ない内容だった。
 そして送信アドレスは…何と、会社用に使っている携帯からだった。
 一応、念の為に会社から支給された携帯のアドレスもこれに登録して
あったが、今までに必要なメールを転送する以外でメールを送受信
した事はない筈だった。
 だが、実際に…無くなった筈の携帯から、明らかにもう一人の自分が送って
来たと思われる内容が送られて来た。
 それで、もう一つの疑問が解けていく。
 
(…俺の会社の携帯を持っていったのは…お前、だったのか…)
 
 そう、この携帯さえあれば…会社や御堂のマンションのセキュリティを
越えたり、片桐を呼び出す事は容易だろう。
 他の人間だったら携帯一つ取得しただけでは其処までするのは不可能だ。
 だが、もう一人の自分が手にしたならば…佐伯克哉として、合い鍵借りたり、
扉を開けてもらったり…ありとあらゆる事が可能となる。
 
「…ありがとう、『俺』…」
 
 昨日、彼に自分達の部屋に侵入されて荒らされたのはショックだった。
 だがその事よりも、彼が自ら動いて…片桐を助けてくれたことの
喜びが大きかった。
 これで相手が不当な要求をしてきても、心おきなく突っぱねられる。
 そして、克哉は決意を固めて…電話の相手との長い沈黙を破り、戦いの
口火を切る為に…ゆっくりと言葉を語り始めたのだったー
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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