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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※御克ルート前提の、鬼畜眼鏡R内で判明した澤村や 
ノーマル克哉の大学時代の過去が絡む話です。
 RのED後から一年後の春…という設定の話なので
ご了承くださいませ。
 当分、鬼畜眼鏡側はこの連載に専念しますので宜しくです。

 桜の回想  
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 ―太一と本多が喫茶店ロイドで黒服の男たちに襲撃を受けているのと
ほぼ同じ頃、御堂孝典もまた自らの執務室にいる時に突然男たちに
囲まれる処だった。
 それが未然に阻止されたのは思っても見なかった来訪者の手に
よってだ。
 御堂は今、目の前で起こっている事がとても現実の事とは思えなかった。
 あまりに非現実過ぎて、いっそ夢だと思いたかった。
 だがそんな状況の中…金髪の謎めいた雰囲気を纏った男は愉快そうに
微笑みながらこちらに声を掛けていった。
 
―大丈夫ですか、御堂孝典さん…?
 
「…………」
 
 御堂は何も言えなかった。
 不信感と警戒心を相手に対して抱いているからだ。
 誰でもこんな光景に出くわしたら幾ら相手に助けられたからと言って
素直に歓迎する訳にはいかないだろう。
 現在、御堂の眼前には巨大な植物が部屋の中心で蠢いてその触手を
男たちに絡ませて自由を奪っている。
 首筋や胴体、四肢の至る処に直径一センチぐらいの太さの蔓が絡まり…
彼らの意識も同時に奪っていた。
 その為についさっきまで突然扉を蹴破って室内に入り込んで御堂を
取り囲んでいた男たちはぐったりとしていて、完全に意識を失って
いるようだった。
 一瞬、死んでいないかどうかが心配になったが…微かに息づかいや、
胸元が上下している様子から意識を失っているだけだと判断していった。
 まさかそんな物に襲われるとは男たちも予想していなかったのだろう。
 半狂乱になりながら、彼らは悲鳴を挙げまくっていた。
 
(一体…これはどんな状況なんだ…? 私は起きたまま夢でも
見ているのか…?)
 
 紛れもなく御堂は起きている。
 だが、こんな異常な出来事を目の当たりにして…彼は思考回路が
停止しかけてしまっていた。
 日頃は頭脳明晰、明確な判断力のあるリーダーと評される男性であっても、
現実に起こる訳のない出来事を体験している最中は凍り付いてしまうものである。
 
―これは夢ではありませんよ。れっきとした現実です。これは単純に貴方に
身の危険が迫っていたから…私のペットに頑張ってもらっているだけです
からお気になさらずに…
 
「…これを、気にせずにいろというのか…?」
 
 セックスの趣味以外は基本的に常識人の御堂にとってはとても男の言葉を
鵜呑みにして、気にせずにいるなどという芸当は出来なかった。
 
―えぇ、邪魔者を排除するという目的の為に行った事ですから…。貴方に
何かあれば、克哉さんが悲しみますからね…
 
「…君は克哉とどういった知り合いなんだ? こんな異常な芸当を平然と
する輩とは決して私は関わっていてもらいたくないのだが…」
 
―随分な謂われようですね。まあ、それくらい私に向かって言える方で
なければ…今はしなやかで強くなられた克哉さんに相応しいパートナーとは
言えませんからね…
 
 そうして黒衣の男は不適に微笑んだ。
 一見すると美しいと形容しても差し支えない笑顔だったが…最早御堂には
相手がそんな顔をしようとも胡散臭くしか見えなかった。
 
「話をはぐらかすな。ちゃんと答えろ…。君は一体、克哉とどういう関係なんだ…?」
 
 目の前の男は友人や同級生、仕事上の付き合い、親戚等…どの関係に
当てはめてもしっくりいかないような気がした。
 男の纏う空気は明らかにカタギの人間のものとは大きく異なっている。
 Mr.Rもまた、御堂からのその問いかけにどう答えていいものか軽く
首を傾げているようだった。
 二人の間に沈黙が落ちていく。
 そして強い意志を込めて、御堂の紫紺の双眸が男を睨みつけていく。
 
「…貴方も、なかなかの素材ですね…御堂孝典様…」
 
「質問に答えろ、と私は言った筈だ。関係のない事を持ち出して逃げるのは
いい加減止めてもらおう…」
 
「判りました。じゃあお答えしましょう…強いていうなら、克哉さんの
古い友人と言った処ですね…」
 
「友人、だと…?」
 
 まさかそんな答えが帰ってくるとは思っていなかっただけに
御堂は言葉を軽く失い掛ける。
 逆にこちらのそんな反応を見て、男は満足そうな笑みを
浮かべて言葉を続けていった。
 
―えぇ、私と克哉さんが初めて出会ったのは15年前…あの人が
小学校を卒業した日の事です。大切な人間に裏切られて傷ついた瞳を
浮かべていた彼を…つい放っておけず、その苦しみから逃れさせる為に
手を貸してしまいました。
それが…佐伯克哉さんと私の出会った日に起こった出来事です…
 
「小学校の、卒業式…?」
 
 その単語に、御堂は何かが引っかかって違和感を覚えていく。
 二週間前から様子がおかしくなり始めて、徐々に昔の事を思い出した
克哉の口からも、何度も出ているキーワードだった。
 
「…一体、その日に何があったというんだ…? 傷ついている克哉を
放っておけなかっただと…?」
 
 今の御堂にとって、克哉は最愛の人間だ。
 何人もの相手と今まで付き合って来たが…本気で一生添い遂げたいと
願うほど夢中になり、自分から同棲しようとまで切り出した相手は
彼一人だけだった。
 だから、それが15年も昔の出来事であったとしても…彼が悲しんでいたと
いうのなら、聞き捨てならなかった。
 
―佐伯克哉さんはその日に、大切な人間から長きに渡る裏切りの事実を
告げられました。心からその相手を信じていたからこそ…少年だった頃の
彼にはその体験は耐え難く、それまでの自分の全てを否定する程の
出来事となってしまわれたのですよ…
 
「っ…!」
 
 その言葉を聞いた瞬間、御堂の中で符号が一致していく。
 二週間前、自分のマンションの入り口に立っていた克哉の親友だと名乗る男と、
相手を覚えてないと必死に言い張る克哉の姿。
 そして自分の実家に戻った時に、ある程度のことは思い出したと言っていた。
 
(まさか…記憶喪失、という奴なのか…?)
 
 御堂はその時、ごく自然にその考えに至っていった。
 もし澤村と名乗ったあの男がかつての克哉の大事な人間=親友だとしたら、
その裏切りのショックで記憶が欠落して、思い出せなくなったとしたら…。
 
(そうだと考えれば全てがしっくり来る…。だが、記憶喪失などそう
起こりうるものなのだろうか…?)
 
 ドラマや映画、物語の世界においては記憶喪失という設定は
決して珍しくない。
 物事の確信に触れる謎を持った人物を序盤の方に出しながらごく自然に
物語に出演させられる便利な設定だからだ。もはや『お約束』とすら
言って良いものだ。
 だが自分の身近な人物…恋人がそんな体験をしていたというのを
妖しい男に聞かされて少なからず御堂はショックを受けていた。
 
―ふふ、信じられないという顔をされていらっしゃいますね…ですが、
御堂孝典さん…貴方が今、推測された通りですよ…。今の佐伯克哉さんは
『記憶喪失』された事で引き起こされたペルソナ…。貴方が愛している
克哉さんは、本当の克哉さんが眠っている間…身体を守っているだけの存在。
本質の方が目覚めれば消える筈の儚い存在でした…。なのに貴方との出会いが
その本来辿るべき運命を変えてしまった…。影の方が表に立ち、光が押し込められる
形となった…。私は、その間違った道筋を正したいのですよ…
 
 その瞬間、Mr.Rが浮かべた表情にゾッとした。
 あまりに綺麗で恐ろしい冷笑だったからだ。
 それでも、男が語った内容は決して御堂には聞き捨てならなかった。
 当然だ、最愛の人間を否定されるような事を言われれば恋人としては
決して許せる訳がないからだ。
 
「…そちらは…私の克哉を、彼が生きている事を間違いだと
言うつもりなのか…?」
 
―さあ、どうでしょうね…?
 
「…しかも君の言いようでは、まるで克哉が二重人格者みたいな…」
 
 と言い掛けて、御堂は言葉を止めていった。
 「二重人格者みたいな言い方ではないか」と相手に言おうとした
瞬間…彼との出会いの場面を思い出していく。
 
(あの時、本多君と私の処に乗り込んで来た時…眼鏡を掛けた瞬間、
克哉はそういえば別人みたいになっていなかったか…?)
 
 それは今の御堂にとっては二年半近く前の出来事だ。
 紆余曲折があって結ばれて、今の克哉と接しているうちに彼が眼鏡を
掛けている間…別人のような行動と言動を取っていたその記憶も遠くなっていた。
 その事を思い出した時に、御堂の顔が心なしか蒼白になっていった。
 
―…どうなされました? 貴方は今…何を言い掛けたんでしょうか? 
言わないのでしたら、続きは私の方から言わせて頂きましょうか…?
 佐伯克哉さんがまるで二重人格者みたいな言い方ではないか、
貴方はそう言いかけたのではありませんか…?
 
「くっ…! そう、だ…」
 
 図星を突かれて、御堂が言いよどんでいく。
 対照的に男は愉快そうに微笑んでいた。
 そして大仰に拍手をしてみせる。酷く芝居掛かっている動作のようだった。
 
―やっと貴方もその回答に辿り着かれたようですね。そう
…貴方の最愛の存在である佐伯克哉さんは…二つの異なる魂を一つの身体に
宿している。光と影のように、もしくは黒と白のように…相対していながら、
正反対の性質を持った二つの心を同時に宿しています…
 
「嘘、だ…」
 
 確かに一時、自分もそう疑った時期もあった。
 けれど二重人格なんて、それこそドラマや漫画、映画の中にしか
存在しそうにないものだ。
 それが、よりにもよって一番大切な人間がそうであるという事実が
御堂を打ちのめしていった。
 
―それが事実である事は、恐らく以前から薄々と貴方は気づきつつあった。
けどそれを目を逸らしていただけに過ぎない…。違いませんか? 御堂孝典さん…?
 
 男はたおやかに微笑みながら、ジリジリと御堂を精神的に追い詰めていく。
 薄々と気づいてはいながら、目を逸らしていた事実の数々を白日の下に晒しながら…。
 男の言葉に認めたくなかった。
 だが、恋人関係になってから関係を安定させたくて追及せずにいたことを
突きつけられて…適当なことを言ってやり過ごす事は御堂には出来なかった。
 だから苦渋に満ちた表情を浮かべながら「その通りだ…」と小さく呟いた時、
黒衣の男は満足そうに微笑み…片手を挙げて、唐突に御堂を己の作った
仮初の空間にゆっくりと誘い始めていったのだった―
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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