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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は記憶を一部欠落した状態で生活している設定の
ノマと、真実を隠している眼鏡と閉ざされた空間で生きると
いう内容のものです。
 一部ダークな展開や描写を含むのでご了承下さいませ。

忘却の彼方に                      10 11 12 13

 松浦宏明は今日も、かつて自分が殺めそうになってしまった
大学時代の友人の元に、仕事帰りに立ち寄っていた。
 大きな過ちを犯してしまった日から二年以上がすでに経過している。
 あの日、感情のままに刺してしまった友人は辛うじて一命を取り留めたが…
それ以後、一度も目覚める事のない植物人間状態に陥ってしまった。

(…本当は俺に、顔を出す資格など…ないんだがな…)

 それでも、ある程度の年月が過ぎて…罪悪感で胸が潰れそうになった時、
本多の親族にも、佐伯克哉にも遭遇しないように配慮しながら眠ったままの
男の元に顔を出したのがキッカケだった。
 松浦の面会は、何も差し入れたりしない。
 自分の痕跡をこの部屋に極力残さないようにしたいからだ。
 ただ顔を出し、本多の部屋で十数分を共に過ごすだけの…そっけない面会を
すでに一年半、都合がつく日はほぼ毎日のように繰り返していた。
 どうして、彼の元に顔を出してしまったのだと思う。
 松浦の罪は、裁かれる事はなかった。
 被害者である本多はあの日から意識不明で沈黙を守り…そして、自分と同じように
毎日のように此処に通っていた男は、こちらを告訴しない事が本多の意思だからと
一度だけ顔を合わせてしまった時に吐き捨てるように言った。
 かつての友人に、面会を始めた頃…ばったりこの病院の入り口で顔を合わせて
しまった時、非常に険悪な雰囲気になってしまった。
 自分が二年前に犯してしまった過ちを思えば、そして佐伯克哉と、本多の関係を
考えれば憎悪されるのは仕方ないと思う。
 
(…だが、もう俺は二度と…佐伯と顔を合わせたくない…)

 それ以後、二度とこの病院で彼と顔を合わせる事がないように…多少、
聞き込みや病室前に張り込みをして調べて…佐伯克哉が顔を出すのは
18時から18時半に掛けての時間帯が殆どで、17時台の内に顔を出して
消えれば…ほぼ遭遇する事がないと判った。
 幸い、勤務しているデパートからこの病院は近いので…足繁くに
通うようになっていた。
 現在は三カ月以上、患者が一つの病院に留まる事は法の規制で滅多に
なくなったが…本多のように意識を失ったままであり、病院施設等に収容されて
いなければ…家族だけでは生命を維持する為の介護が困難な場合、
もしくはもうじき命が尽きようとしている患者は、その三カ月よりも延長が
認められる場合もある。
 本多が二年間、この病院から動く事なく…通える範囲内にいてくれることが、
今の松浦にとってはある種の救いのようにすら感じられた。

「…本多、お前はいつになったら目覚めるんだ…?」

 傍らにパイプ椅子を置いて、其処に腰を掛けながら…今日もかつて友人であり、
最も信頼をしていた男に声を掛けていく。
 その顔には、知らず笑みが浮かぶようになっていた。
 …二年前、彼を刺した時には胸の中にドス暗い憎しみが渦巻いていた。
 顔を見るだけでも憎くて、疎ましくて仕方なく…むしろ、松浦は彼を避けていたし、
言葉も聞きたくないという態度を貫いていたと思う。
 だが、彼をこの手で刺して殺し掛けてしまった日から…あれだけ胸の中を
焦がしていた憎しみの感情は、日々薄れ始めていった。
 人間の感情は、表に出さず溜め続けることで淀み…強さを増していく。
 衝動のままに彼を刺す事を実行に移した事が、長年積もっていた憎しみを
発散する事に繋がったのだろう。
 其れは決して、許されるものではない。
 本来なら、法の裁きを受ける事は免れない程の大罪だ。

―けれど、本多はこちらが裁かれる事を望まず…結果、松浦はどういう理由かは
判らないが、そのまま変わらず日常の中で生活をする事が可能だった

 だからこそ、罪悪感が…本多に対して、ただ憎いだけではない感情が
ゆっくりと蘇り、突き動かされるように彼の元にこうして毎日、顔を出すように
なったのだろう。

「…俺も佐伯も、後…どれくらい、お前の目覚めを待てば良いんだ…?
お前が起きてくれなきゃ、謝ることすら出来ない…。どれだけ謝罪した処で
許して貰える訳がないと思うが…それでも、俺は…お前に言いたい事が…
山ほど、あるんだ…」

 そして、静かな声でポツリポツリと語りかけていく。
 その頬や髪にそっと触れ、少しでもこちらの声が眠っている本多に届くように
祈りながら告げていく。
 だがその時、松浦は気づいていなかった。

―本多にそうやって語りかける自分の顔が…どこか優しさを感じさせるもので
ある事を…

 本多に対して胸に抱いていた感情。
 其れは憎しみだけでなかったのだと、その顔は如実に伝えている。
 自覚した処で、自分が犯した罪を考えれば決して報われる日は来ないだろうと
半ば諦めている感情。
 けれど…彼が目覚めてくれない限り、ぶつけられないし…きっと、彼が
全てを忘れてでもくれない限り、佐伯克哉の存在がいなくならない限りは…
成就する日など来ないだろう。
 そう判っていても、松浦の胸には一つの想いが存在し…せめて、伝える日だけでも
来ることを祈りながら…今日も本多を見舞っていく。

「…しかし最近、佐伯が来ていないみたいだが…どうしたんだろうな?」

 先程、看護婦たちが噂話をしていたのがたまたま耳に入ったのだが…ここ数日、
佐伯克哉は顔を出さなくなっているらしい。
 その事を彼女たちは不審がっていたのが何となく気になりながら…今日も、
松浦は本多の傍でささやかな時間を過ごしていったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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