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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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死と許しがテーマの眼鏡×片桐の話。
  どこまでもお人好しな片桐さんを掘り下げて書きたいと
いうのが動機のお話です。
 ちょっと重いテーマかもですが、優しい話に仕上げる予定です。

  優しい人  
  

 ―それは二人が片桐の息子の墓参りに来る数日前の夜の話だった

 
 『克哉君。良かったら僕の懺悔を聞いてくれますか…?』
 
 片桐に墓参りに誘われる少し前…彼の方からそう切り出された。
 初夏の時期を迎えて日中はかなり気温が上がって来て暑いぐらいだが、
夜はまだ涼しくて過ごしやすかったのを覚えている。
 久しぶりに克哉の方から片桐の家に訪れて、縁側でゆったりと
二人で座ってお茶を飲んでいた。
 以前は片桐ののんびり過ぎるペースや雰囲気に苛立ちを覚えていた
時期もあったが、関係が安定してきてからは…むしろ克哉はこの人と
ゆったりとした時間を過ごすことに安らぎを覚えつつあった。
 克哉が出先で買ってきた美味しそうな生菓子と、片桐が淹れてくれた
お茶と一緒に楽しんでいた時の事だった。
 指輪を贈って以来、克哉と片桐の関係は以前よりもずっと落ち着いてきており…
こうやって無言になって会話が途切れても気まずさや居心地の悪さを
感じることはなくなった。
 むしろ、時々空気のように…傍にいるのが当たり前になりつつあった。
 だが、片桐からそう切り出された事で穏やかな時間は一転して不穏な
ものに変化してしまった。
 克哉が怪訝そうに片桐を見つめていくと、苦笑しているような表情を浮かべていた。 
 
「稔さん。別に話しても良いですよ…けど、貴方が懺悔したい事って何ですか…?」
 
「…えっと、そうですね。あの…僕が今から話したい事は君と僕との間の事ではありません。
…本当なら君には一切関係ない事なんですけどね。けど、君に指輪を贈ってもらって
一区切りがついたからこそ…ずっと胸につかえていた事を整理したい気分なんですよ…」
 
 そう答えた片桐の笑顔が一瞬だけ、歪なものに見えて克哉は訝しげに瞳を眇めていった。
 
「稔さんが、ずっと胸に引っかかっていた事って…一体、何ですか…?」
 
「聞いてくれるんですね…。ありがとう、克哉君。君は本当に優しいですね…」
 
「…そんな事はありません。貴方の買いかぶりですよ…。で、本題をそろそろ
言って貰えますか…?」
 
「はい、でもどこから語って良いものやら…そうですね、克哉君には僕には息子が
いたっていう話を、した事がありましたよね…?」
 
「ああ、残念ながら…三歳で亡くなってしまった息子さんですよね…」

 克哉は切なげな顔を浮かべながら以前に聞いた話を必死になって
思い出していく。
 だが、今…片桐が大切な人間になったからこそ頭の隅でチラっと考えていく。
 片桐はかつて、結婚していて妻や子供がいたことがあった。
 克哉がチョッカイを出して無理やり抱いていた事をキッカケに今の自分達の
関係へと発展していったのだが…もし子供が存命していて、片桐が妻と別れて
いなかったら…こうやって結ばれることに大きな障害があった事だろう。

(…あんたには口が裂けても言えない事だがな…。俺は、あんたの息子の死を
悼んでいるような顔を浮かべていながら…心のどこかで、この人に妻子が
いなくて良かったと思っている…)

 自分の浅ましい考えに内心、苦笑していきながら…克哉は片桐の
様子をさりげなく観察していった。
 片桐の表情は凄く複雑そうなものだった。
 そう言われて見れば片桐との関係もそれなりに長いものになって来ていたが…
冷静に考えてみると、彼の口から…妻子の話が出るのは滅多になかったように思う。
 確かに十年以上前に別れた存在など、今の自分達には関係ない。
 なのにどうして…今更、片桐が掘り下げて話そうとしているのか…克哉は
耳を済ませてキチンと聞いてから判断しようと思った。

「…えぇ、僕の息子は三歳の時に…交通事故で、突然亡くなりました。
まだあんなに小さかったのに…不憫なことです。当時はあの子の死を信じたくなくて…
心の底から生き返って欲しいと、自分が代わりになっても良いからどうか…とか
考えましたよ。…到底、叶う願いではない事は判っていましたけどね…」

「…俺は貴方の息子に会った事はないが、確かに三歳では何もしたい事も
出来なかっただろうな。本当に痛ましいことだ…」

 息子の話題を出したことで片桐の目元が早くも潤みかちになっていたので
克哉はさりげなく…片桐の肩に手を添えていった。
 手のひらの温かさに、相手の気持ちも少し解れていったらしく…儚い笑みを
浮かべて瞳を眇めていった。

「…ありがとう。けど、僕の話したいことは…懺悔したいことは、妻と
結婚する時のことです…。僕は彼女に…こう言われたことがあったんです。
『これから生まれる子はもしかしたら…貴方の子ではない可能性がある。
それでも、本当に結婚してくれますか…?』と…」

「っ…!!」

 その一言は予想もしていなかっただけに、克哉の瞳は一瞬で驚愕に
見開いていった。
 それは…まったく考えたこともない話だった。まさに青天の霹靂だ。
 三歳で亡くなった子供は、間違いなく片桐の実子であると無意識の内に
信じ込んでいただけに…珍しく克哉は動揺した。

「…稔さん、それは…どういう事ですか? あんたの妻は…他の男と浮気して
平気な顔をしてあんたと結婚したっていうのか…?」

「いいえ、違いますよ…。僕と付き合ったのが…以前に交際していた人と
別れた直後だっただけです…」

「それ、は…」

 克哉はその話を聞いた瞬間、嫌な考えが浮かんでいった。
 以前に別れた男の子供かも知れないという事は…片桐の子供かも知れない
可能性が潜んでいるという事は…もしかしたら…。

―片桐の妻はお腹の子供の父親が欲しくて彼に近づいた…交際を始めた
可能性がある事を示していた

「…もしかして稔さん。奥さんと付き合って間もない内にその話を打ち明けられて…
それで、結婚したという事ですか…?」

「…はい、そうです…」

「…っ!」

 その瞬間、克哉の胸に…かつて彼の妻だった女に対して猛烈な怒りが
湧き上がっていった。
 アイスブルーの瞳が爛々と輝き、明らかな憤りの光を宿していく。

「…ふざけるな! それじゃまるで…あんたを利用して騙して結婚した
ようなものじゃないか!」

「…違いますよ。彼女はその事実を僕に直前に打ち明けた。泣きそうな顔を
浮かべていきながら…黙らず、話した上で僕に判断を求めたのです。
…貴方の子供かも知れない可能性もある、と。けれど…私にはどちらの
子なのか生まれてみなければ判らないと…。貴方が父親になるのが嫌だと
いうのなら…この子供は堕ろします…と」

「…何故、結婚したんですか…そんな事を言われて…! あんたを馬鹿にするにも
程があるだろ!」

 克哉は本気の怒りを覚えていた。
 だが…片桐の表情は透明なままだった。
 怒りも憎しみもすでに彼の中では整理されていて遠いものになっているのだろうか?
 淡々と語る彼の口調や表情はどこまでも穏やかなままだった。

―彼女が本当に困っているようだったから。それに…どんな理由でも良いから
僕はその当時、自分が求められることが…出来ることがあるなら、それが嬉しかった
んです。…お腹の子供の父親になることで、彼女を救えるなら…僕はそうしたいと
思いましたから…。だから、結婚したんですよ…」

「…そう、ですか…」

 それはあまりに片桐らしい、言葉だった。
 そう…彼は確かに、そういう人だ。
 振り返ってみれば…克哉とて、最初の頃は褒められた形で…片桐と
関係を持った訳ではなかった。
 殆ど強姦や陵辱に近い形で、彼を辱めたし…貶めた行為を繰り返した。
 それでも片桐はこちらの行為を許して、そして…求めてきた。
 自分と別れたくないと、君の傍にいたいと…必死になって縋りついて来て、
こちらの犯した罪など何も責め立てなかった。
 無自覚に…彼は、こちらの行いを許していたからこそ…今の自分達の
関係があることを克哉は自覚していた。
 だが、それでも聞いた話は衝撃的過ぎて…彼の妻に対して、怒りが
どうしても収まらなかった。
 克哉の表情を見てその複雑な心境を察したのだろう。
 片桐は穏やかに微笑みながら…そう切り出していった。

「…ああ、長話をしている内に…お茶が冷めてしまいましたね。
暖かいものに淹れ直してきますね…」

「ええ…お願いします…」

 それが片桐なりの話の切り替えであり、会話の終わりを示していることだと
すぐに悟ったので克哉は素直に頷いていく。
 複雑な空気が二人の間に流れていた。
 だが、敢えてそれ以上はその話題に触れない事にしていた。

―そしてその翌日の朝に、克哉は一緒に墓参りをしないかと片桐に
誘われていったのだった―
 

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※今回はゲーム紹介記事と書いていますが、
前説明に当たります。
 次回からキチンとゲームの内容交えて紹介
していくので宜しく~。

 最近、ブログを書いていない日が多くなって…
ちょっと悩んでおりました。
 
 まあ、現在の自分の創作意欲というのは2~3日に一度、
書こう! と強く思うことがある程度で…以前のように毎日
欠かさず書ける程ではないっていうのは判っているんですよ。

 ただ香坂の兄がゲームの紹介ブログをやっておりまして。
(興味ある方はどうぞ~。たまに香坂も「妹」として
登場しております)

 yosiのゲーマー日和 

 兄貴はやっているんですよね。
 たまに日記みたいな記事を交えても。
 自分が騙されたり、色んな体験とかを書いたものを
語ったりしながら…。

 毎日更新

 …身近であの手、この手を変えながらやっている人を
間近で見ていると…やっぱり甘えてこのままズルズルと
更新ペースを落としてグダグダにしていきたくないな~と
思い始めまして。
 さて、何が良いだろうかと考えておりました。

 兄貴みたいに過去にあった事をサラリとした感じで
語ってみることも考えたんですが…。
 たまに私が日記みたいなのを書くとひどくくどくなるし…
サラリとあっさり目に書けないって自覚あったので…
何が良いかな~と思ったら、昔やっていたゲームとか
愛していたソフト、変わったゲームとかを沢山プレイしているんだから
そういうのを交えていこうかなって思ったんですよ。

 キッカケはPSPのゲームアーカイブスで昔、プレイしていて
結構お気に入りだった「ときめきメモリアル」と「俺の屍を越えてゆけ」の
二本をダウンロードして遊んだことから。
 兄上と共同で二人でときめも4をオールクリアしたら、旧作の
ときメモもちょっと遊びたくなってしまって。
 その際にトップ20のランキングを見たら…「俺の屍を越えてゆけ」が
上位20位以内に入っているのを見て久しぶりにやりたいな~と思って
ダウンロードしたらうっかり夢中になってしまい。

ああ、PS1が主流だった時代は夢中になってゲームを
遊んでいた時期があったなぁ…

 というのを思い出したのと、香坂の兄はブログ見れば判るけど
毎月三万五千円はゲーム関係にお金を費やして新しいゲームを
購入するという男です。
 気づくとドンドコ、ゲームが増えています。
 X BOXもPS3もWiiもPSPもニンテンドウDSも現役で新しいソフトが
発売されているハードは全部揃っているぜ! という環境なので。

…自分が買わなくても、ゲームは溢れかえっているんですよ。マジで。
 そんな兄を持っているからこそ、子供の頃からさんざんゲームに
付き合わされて私自身も色んなゲームを遊んで来た訳で。
 今、活動しているジャンルがゲームなのも、そこら辺が根っこになって
おります。

 ただ、香坂は腐女子なので…たまに同人女向けのゲームの
紹介を確実に混ぜます(ニッコリ)

 …うん、俺屍をプレイしていて思い出したけれど…確か十年ぐらい前は
PCのボーイズゲーではなく、PSでヤバイ表現や妄想を掻き立てられる
ゲームとか必死に捜し歩いた時期とかあったんですよ。
 最近遊んだときメモ4でも…同人女的にドッキドキなイベントが幾つか
ありましたしねぇ。
(男友達に夢オチだけど告白されるイベントとかあった。マジで)

 兄貴は健全にゲームを語っておりますが、香坂は結構毒とか
腐っている部分を交えながら紹介していきます。
 創作を目当てに通っている方は読む、読まないは自由です。
 そちらの判断にお任せします。
 という訳で次回からボチボチ、語っていきます。

 ちなみに1月30日分の連載は夜に書きますので宜しくです。
 ではでは~!
 2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
              7      10

 ―今思えば、去年の冬に再会して以来…ずっと克哉の胸の中には
重い罪悪感が宿り続けていた

 一度は成就を諦めた気持ちだった。
 本来なら叶うことなどありえない筈の恋だった。
 想いを自覚したことをキッカケに御堂から離れて、あの人を
解放することを選択した。
 滑稽な話だった。
 何が何でも御堂を手に入れようとしていたその執念の源となる気持ちを
克哉自身が自覚していなかったのだから。
 御堂を自分の処まで引き摺り下ろす為に、拉致監禁陵辱、脅迫まがいな
事をしでかしたのだと己自身も思い込んでいた。
 どうして、気持ちに気づかなかったのか。
 それは…自分にはそんな甘ったるい、生ぬるい感情など似合わないと
本心から目を逸らし続けていた。
 その行為が、御堂にあの屈辱の日々を送らせることとなった
最大の要因にもなった。
 だが、奇跡的に想いは叶い…御堂が自分の傍にいてくれるように
なってから克哉はずっと慢性的にこの疑問を抱き続けていたのだ。

―あんたは本当に、俺の事を愛してくれているのか? 腹の底から
許してくれているのか…?

 恐らく同じ事を自分が誰かにされたら、克哉は許すことなど出来ない。
 そう考えたからこそ、愚かしいことと判っていても克哉はその気持ちに
囚われ続けていた。
 本当に憎いと思っているのなら、そもそも一緒に働いたりセックスを
する道理がない。
 愛しい人を抱く度に、そう己に言い聞かせ続けていた。

 ―だが、克哉のその想いに反して…罪悪感や後悔の念は決して
胸の中から消えることなく…彼の心を苦しめ続けていた。

 まるで自分の中で澱になっていた気持ちを浮かび上がらせる為に…
もう一人の克哉はこちらを責めて来た。
 その時に、御堂が力強く言ってくれたからこそ…再会してから
初めて、克哉は…気持ちが軽くなったように思った。
 御堂がかつて住んでいた部屋とまったく同じ内装をした…薄暗い
部屋の中で、二人は対峙していく。

―あれは俺の罪を照らす鏡のようなものですよ

 もう一人の克哉に対して、そう返答して以来…重い沈黙が
訪れていた。
 息が詰まるぐらいに双方見つめあい、瞳で語り合っていく。
 その時間をどれくらい過ごしていただろうか。
 ついに克哉の方が焦れてしまい…深い溜息を突いていきながら
先に口を開いていった。

「…孝典。あんたは本当に…俺をもう憎んでいないのか…?」

 その言葉は、ずっと彼の中に潜んでいた疑問だった。
 御堂が全力でこちらの信頼に応えてくれていたからこそ、
尋ねたら失礼だと思って言えずにいた問いかけだった。

「当然だ。今でも憎んでいたり恨んでいる男の元に…新しい会社で
得た役職を捨ててまで来ると思うのか? 君が疑問に思うのも無理も
ない事だが…私が君の申し出を承諾した。その事に全ての答えが
存在していると思わないのか…?」

「……ああ、そうだな。本当に…あんたの言う通りだ」

 そうだ、思い出した。
 御堂は無理やり屈服させようとして…どうにかなるような生易しい
人では決してなかった。
 むしろ月単位にまで及ぶ監禁の日々でさえも、心が壊れる寸前まで
こちらに抗う意思を見せ続けた男だった。

「…私は無理やりいう事を聞かそうとしても、どうにかなる人間じゃないと
いう事は君自身が一番良く判っているだろう? どうして今更…そんな
疑問を抱くんだ?」

「…それは、あんたを愛しいと思えば思うだけ…かつて自分がやった
馬鹿げた行動に呆れたからですよ。正しい手段をあんたの気持ちを
手に入れたからこそ…あんな愚かなことをやった自分を許せないでいた。
それこそ、そんな単純な答えしか出てこないさ…」

 自嘲気味に克哉が答えると、御堂はグっとこちらの方に距離を
詰めていった。
 自分と同じぐらいの立派な体格をした…端正な男の顔が目の前に
存在して反射的にこちらから抱きしめていく。
 息が詰まるぐらいに強く抱きしめる。
 それを許すように御堂からも強い力を込めて抱きついてきた。

「…君にもまともな神経が宿っていたんだな。あれだけ可愛くなくて不遜な
態度を取っている男が人並みに罪悪感を覚えていたなんて…まったく
予想もしていなかった…」

「…おいおい、随分な謂われようだな…」

「うむ、キツイ事を言っている自覚があるが…再会してから会社を立ち上げる
までの君の電光石火のような行動の奥に、そんな殊勝な感情が存在していた
とは私も読み取れていなかった。…だから、君も言えないままになっていた
のかもな…」

「ああ、そうかもな…」

 そういって御堂はあやすように克哉の背中を撫ぜて、唇にキスを落としてきた。
 その柔らかい温もりを与えられて、克哉の中の罪悪感や後悔の念が…
氷解していくのを感じ取っていく。
 思いがけず目の前の御堂の双眸が優しい色合いを帯びていく。
 その紫紺の瞳に目を奪われていきながら…克哉は相手が紡ぐ心地の良い
言葉にそっと耳を傾けていった。

『だが、私は君の傍にいる。そしてこうして…触れ合いながら共に同じ
目標を持って日々を送っている。行動の中に私の本心があるだろう。
…憎んでいるなら、その気持ちの方が強いようなら…そもそも君に告白
めいたことも、あの日…待ち伏せをしたりもしなかっただろうに…」

「ああ、そうだな。確かに…あの日、再会したことが…あんたが気持ちを
伝えたことが…何よりの、証だったな…」

 忙しい日々を送っていたから…忘れかけていた。
 今の自分達の関係が新たに始まったあの冬の日の出来事を。
 そう、御堂が待っていてくれたから。
 こちらに気持ちをぶつけてくれたからこそ…克哉は一度は諦めた
恋心を得ることが出来たのだ。
 克哉からはどうしてこの人に告白することが出来ただろう。
 御堂からのリアクションがあったからこそ…克哉はこの人の手を
取ることが出来たのだ。
 そう、答えは…あの日に全て存在していたのだ。

―御堂が告白して想いを告げてくれた。それこそが…全ての答えで
あった事をようやく克哉は気づいていった

「そうだ、君は…本当に手のかかる男だな。こんな男の傍をうっかり
離れようものならどうなるか判らないからな。簡単には離れないぞ…」

「おいおい、それじゃあ俺が本当に手の掛かるどうしようもない
人間みたいなじゃないか…」

「そうじゃなかったのか? 私はそういう風に君を見ていたがな…」

「…あんたも、相当に人が悪い。そんな口を俺に叩いたらどうなるか…
実際に思い知らせてあげましょうか…?」

 そういって軽口を叩きあいながら、二人は静かに唇を寄せて…
口付けあっていく。
 その感触に克哉はうっとりとなりかけていった。
 こうして抱き合い、キスをしているだけで…どこまでこの人はこちらに
幸福感を与えてくれているのだろう。
 そう実感した瞬間、克哉は違和感を覚えていった。

(…どうして、ポケットが熱いんだ…?)

 唐突に上着のポケット部分がまるでホッカイロでも入れているかのように
暖かくなり始めているのに気づいて、そっとキスを解いて手で探って
鍵を取り出していく。

「…っ! これは…」

 克哉が驚いた顔をして取り出した鍵を確認していくと…魔法の鍵は
淡く輝きながら、脈動しているかのように…一定の間隔を持ちながら
光を点滅させて熱を持っていたのだった―


 …とりあえず保健所と、動物の亡骸とかを片付ける
処に問い合わせたら、消えてしまった子に該当する猫は
いなかったと返事もらえたので、生きている可能性が高く
なった事だけ報告しておきます。

 …で、消えた理由はどうも発情期が原因っぽいです。
 生後半年ぐらいの子なんだけど…初めての発情期を迎えて
それで姿を消した可能性が極めて高いそうです。

 保健所の人いわく、「発情期が落ち着いて戻ってくる可能性は
半々といった処ですね」だそうで…。
 ここ数日、ネットで色々と消えた猫の探し方とか…猫の
発情期や妊娠、育児とかを調べていたら…一つ、引っかかる
箇所がありまして。

 猫は昔から家につく、というように…長く住んでいる家の場合
遠くに捨てられたり、縄張りからかなり離れてしまっても帰巣本能と
いうのがあって猫は自力で帰ってこられるんだそうです。
 …けど、それには最低半年以上はその家に住んでいないと
いけないらしく…消えた子は丁度半年経つか経たないか
微妙な範囲でした。
 一応、近隣に声掛けしながら探したりとかチョコチョコやっておりますが
帰って来る可能性は五分五分といった処です。

 オカンいわく、「八月にうちが拾っていなかったらあの子は確実に
死んでいたんだし…半年間可愛がって、しっかりと大きくなるまで
育てたんだから、どっか他の家で拾われていたり…野良猫になって
いたとしても生きているんだったら良いわよ」みたいな感じの意見
言っているので、私もそういう心境になってきました。
 一先ず、生きている可能性が高くなっただけでも嬉しいですしね。
 帰って来なくなるのは寂しいけれど、とりあえず消えた子が元気で
やっていることを今は信じることにします。

 出来れば帰って来て欲しいけどね。
 今は待ちますです。
 けど、赤ちゃん猫をゾロゾロ引き連れて帰って来た場合は
どうしようか…。
 うん、責任取らなきゃなのかな。

 皆様、くれぐれも猫の不妊手術は怠らないで下さい。
 半年であの赤ちゃん猫がそんな大人になるなんて思っても
みなかったです。がお…。
 一応今年三月ぐらいには手術を考えていたんですが…
それよりも残念ながら早かったみたいです。がお…。

 とりあえず生きていてくれているだけでも嬉しいですが。
 どこでどうしていることやら…ふう(ため息)
2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
              7    

 かつて自分が罪を犯した場所とまったく同じ内装の部屋を改めて
見ることで忘れかけていた罪悪感が胸の中に湧き上がった。
 人は罪を犯して、初めて罪の重さを知る部分がある。
 それを体験するまで、軽い気持ちだったり欲望の赴くままに
過ちを犯してしまう。
 克哉も、そうだった。
 あの時の自分は、御堂の心を屈服させる為ならば手段を
選ばなかった。
 犯罪といえるような真似すら、何のためらいもなく行った。
 自分の欲しいものを得る為ならば、そして警察などに捕まったり
しなければ何をやっても関係ないとすら思っていた。

―だからこそ、御堂を心から愛しく思えた…欲しいものを得ることが
出来たからこそ、あの頃の自分の愚かさを心の底では吐き気が
覚えるほど嫌悪していた

 もう一人の自分に罪を突きつけられて、本当に足元が崩れてしまうような
そんな想いを感じていた。
 だが、そんな自分に…御堂はそれでも支えてくれていた。

「克哉…惑わされるな。私は君の罪を許した上で…今、君の傍にいる。
外野が何を言おうとも…揺らぐな。私はそんな弱い男の右腕になった
記憶は無い…!」

「あ、あぁ…そうだな…」

 その一言が、今の克哉にとってはどれだけ救いだっただろうか。
 自分の肩に置かれている御堂の指が痛いぐらいに食い込んでくる。
 そっと後ろを振り返って、愛しい人の顔を見つめていく。

(嗚呼、何て綺麗なんだろう…)

 御堂の美は、硬質のものだ。
 儚さや脆さを感じさせず…鉱石や金属のような美しさだ。
 芯がしっかりとして周りの人間の目を惹き付けながら…決して容易に
折れたり壊れたりしない。
 その姿が余りに凛々しくて、眩しくて…だからかつての自分はどんな
手を使ってでもこの人を陥落させようとした。
 改めてその事実を思い知らされて…克哉は唇を噛み締めた。

―あんたにこれ以上、みっともない姿を見せたくない…。俺は、あんたの
隣にいるに相応しい男で…在りたい…!

 御堂がこちらを肯定する言葉を、許すという一言があったからこそ…
克哉はギリギリの処で踏み止まっていく。
 愛しい人がこういってくれているのに、これ以上過去の罪に怯えて…
恐れて一体何になるんだと。

「…克哉、私は君の傍にいる。…何を言われても…揺らぐな!
その事実こそが、私の想いの全てだ…!」

 そして叫ぶように、御堂は訴えかけていく。
 そう、事実は何よりも雄弁に本心を語っている。
 御堂が本当にこちらを憎んでいるならば…今でもその気持ちを
燻らせているのならば、そもそもアクワイヤ・アソシエーション自体が
存在していないだろう。
 再会した日に、御堂がこちらと同じ想いを抱いていてくれて…
そして心を通わしたからこそ、克哉は心の底で抱いていて叶うことが
諦めていた…御堂と一緒に会社を興して、発展させるという夢を
実現させる為にこの九ヶ月余り…努力をし続けたのだから。
 その事をようやく思い至った時、克哉は涙が出そうだった。
 そして、己の過去の過ちを断罪しようとする…酷く凶悪な顔を
浮かべているもう一人の自分を睨み付けた。

―過去に負ける訳にはいかない

 どれだけ消え去りたくても、なかった事にしたくても…かつて
自分がやってしまったことからは人は逃げられない。
 なら、それを踏まえた上で…その教訓を胸に刻んで次に生かす
形で前を進んでいくしかないのだ…!

「…おい、『オレ』…! お前が何を言おうとも…俺は決して惑わされない。
確かに俺は愚かでどうしようもない間違いを犯した。かつて俺が御堂に
した事を忘れることは許されないだろう…!
 だが、その罪の意識に囚われてグダグダとくだらなく過ごしていく
つもりはまったくない…! だから、無駄だ! お前が何を言おうとも…
御堂が傍にいる限り、お前の糾弾で…俺は打ちのめされる訳には
いかない…!」

 今までになく強い口調で、もう一人の自分に訴えかけていく。
 視線がぶつかった瞬間、本当に火花でも散っていそうなぐらいに
強い眼差しで見つめあっていく。
 だが、克哉も一歩も引く訳にはいかなかった。
 自分の背後に、御堂の気配を感じていく。
 そう、その温もりが…何よりも克哉に勇気を与えてくれた。
 どれくらいの時間、そうして…己の鏡でもあるもう一人の自分と
睨み合っていただろうか。
 凍りついたようなその時間が、唐突に終わりを迎えていった。

―そう、それで良いんだよ…『俺』…

 そして打って変わって、とても優しく…慈愛に満ちた声で
一言だけもう一人の克哉はそう呟いた。

「えっ…」

 先程までの冷たく鋭い瞳は、まるで氷が解けて消えてしまったかの
ように…いつの間にか相手の双眸からは消えうせていた。
 背後にいた御堂も、それでアッケに取られて言葉を失いかけていた。

―お前が犯した罪は忘れてはいけないけれど…それを承知の上で
日々を送っているならば…これ以上、何も言わない。けど…どうか
忘れないで欲しい…。本当に、その人と…御堂さんと幸せになりたいならば…

「………」

 克哉は、言葉を失っていく。
 これではまるで…御堂のさっきの一言を引き出す為に…自分から
悪役を買って出たような感じではないか。

(いや、実際にそうだ…。あいつの言葉に揺らいでいたからこそ…御堂は
肯定する言葉を吐いて…俺を支えてくれようとした…)

 その労わりの言葉から、克哉はようやく…相手の隠された意図のような
ものを感じ取っていく。
 何と返して良いのか…言葉に詰まった。
 だが、ゆっくりと相手の姿が透明になっていくのを見て…克哉は
簡潔に、そして力強く言い放った。

「…嗚呼、忘れはしないさ。そしてこれからも…俺は御堂の手を取って
歩んでいく…ずっとな…」

 その短い言葉こそが克哉の本心。
 そして偽りのない想いだった。
 奇跡のような確率で、御堂の気持ちを得られた。
 その僥倖を…どうして手放すことなど出来ようか。
 もう一人の自分と、もう一度視線が重なっていった。
 泣きそうな顔で、彼は笑い…そして…幻のように儚く消えていった。
 そして克哉と御堂の二人だけが、かつての罪を示す部屋の中で
立ち尽くす格好となった。

「今のは…一体何だ…? どうして、君が二人同時に…」

 その時点になってようやく、御堂がずっと疑問に思っていたことを
呟いていった。
 それを聞いて克哉は自嘲的に笑っていく。

「…あれは俺の罪を照らしてくれた…鏡のようなものですよ…」

 そして力なく笑いながら、克哉は改めて…罪を自覚した上で
御堂と向き合い、しっかりとその顔を見据えていったのだった―
 とりあえず先日亡くなった祖母の件は、今回は大往生に
近い感じだったので気持ちの整理はもうついたんですが。
 次はうちで飼っていた猫の一匹が姿消しました。
 現在の時点では三日ほど帰って来ておりません。

 昨日は流石に心配になって色々と手がつかなくなっていたけど
いい加減気持ちを切り替えてボチボチ連載書きますわ。
 とりあえず生死の確認だけでもしようと思って保健所に問い合わせ
メールをして、とりあえず夕飯の時間帯や夜に周辺に呼びかけ
して探すを暫く続けることにしましたわ。

 二年前の祖父が亡くなった時も、うちで長年飼っているミーという猫の
彼氏猫が亡くなった日から姿を消したって事があったからもしかしたら…
今回もそれに近いかも知れないけれど。
 八月に来た黒猫は、私自身が結構可愛がって…懐いてくれていたので
とりあえずやれる事はやろうと思っています。

 生きているなら無事に帰ってくることを祈って。
 まずはやれる事をやろう。
 心配になったのでネットで「迷い猫 探し方」と検索してみたら…
保健所とか、動物保護センターに保護された場合…3~7日で処分
されてしまうので、探さないという事は見殺しにする事と同じ事であると
一文を読んだので…ちょっとこれから数日探します。

 もしかしたら帰って来ないかも知れないけれど…何もしないで
受け入れるのと、やる事をやった上では…気持ちの上では違いが
出ると思うので。
 可愛がっていた猫だからこそ、多少は努力したいと思います。
 例え亡骸と対面することになっても、それならキチンと
弔ってやりたいから。
 
 ただ、猫の場合…負傷していたり、他の猫の争いに巻き込まれたりして
自分のテリトリーから出てしまった場合、人懐こい猫なら3~5日、
臆病な猫なら7~10日ぐらい怖がって身を隠すという事があるそうなので…
そちらである事を祈っております。
 クロ、帰って来~い! と叫びながらそろそろ気持ち切り替えて…
連載の続き書きますわ。
 ではでは~!

死と許しがテーマの眼鏡×片桐の話。
  どこまでもお人好しな片桐さんを掘り下げて書きたいと
いうのが動機のお話です。
 ちょっと重いテーマかもですが、優しい話に仕上げる予定です。

  優しい人  


  片桐家代々の墓と書かれた墓は綺麗に整えられていた。
  その墓を見たのが克哉にとっては初めてだった為に…少しだけ
殊勝な気持ちになった。
 片桐自身は本当は山口県の出身だったが、両親が両方とも亡くなった時に
出身地にあった代々の墓には入れず、すでに作ってあった息子の墓に
収めることにしたようだ。
 片桐なりに、両親と孫が一緒に過ごせるように配慮したつもりだったが
昨日ボソっと告げられた衝撃の事実に、克哉は複雑な想いを抱いた。
 
(…あの話が本当だとしたら、本当にあんたはお人好し過ぎるけどな…)

 片桐自身は、僕の推測に過ぎなくて違うかも知れない…と否定していたが
そうなると、息子が亡くなった時に彼の妻が間もなくして出ていったという話に
別の意味が含まれてくる。
 …もし事実だったら非常に腹立たしいが、同時に彼の妻がすでに離婚して
いなかったからこそ…自分達の今が存在している訳だから、克哉としては
素直に怒れない部分があった。
 瞳を眇めていきながら…その墓石を凝視していく。

(もし…あんたの息子が生きていて、妻も現在だったら…少し
ややこしいことになっていたんだろうな…)

 克哉はふと、出会ったばかりの頃の自分を振り返って苦笑
したくなった。
 きっとあの時期の自分は…片桐に妻子があろうとも、気に入ったなら…
抱きたいと思ったなら同じ事をしていただろう。
 己が欲しいと思った獲物に恋人がいようが、誰がいようが…配慮して
欲望を抑えるような真似をかつての自分はする訳がないだろうし…
その場合は、今のように一緒に暮らしたり…指輪を贈るような関係に至る
までには色々と煩雑なことがもっとあっただろう。
 一つ屋根の下でこの人と暮らしている今だからこそ…彼の妻が犯して
いたかも知れない罪に憤りつつ、それがあったからこそ…深い憂いもなく
今の自分達の関係が存在しているだと思うと…複雑だった。
 綺麗な花が添えられて、掃除が行き届いている墓石を眺めている間に
片桐は水と線香を用意していた。
 すぐ傍らにバケツと柄杓、そして水を汲む為の水道が設置されて
いる処だったから…準備はすぐに終わったようだ。

「…お久しぶりですね。珍しく花が添えてあるけど…もしかしたら、
あの人が来てくれたのかな…。お寺さんがお盆やお彼岸以外にお花を
置いて下さることはあまりないから…」

「…あの人とは、もしかして…?」

「えぇ、僕の奥さんだった人です…。彼女はあまり来ている形跡がないから…
珍しいんですけどね。今日は一応…あの子の月命日でもあるから、来ても
おかしくないんですけどね…」

「そうですか…」

 そういって語る片桐の様子は、どこか懐かしそうだった。
 怒りも憎しみも悲しみも、すでにその相手に対して存在していないのが
明白の…微笑だった。
 どうして、こんな顔が出来るのだろうかと…克哉は疑問に思った。

(あんたはどうして…怒らないんだ…?)

 線香に火を灯している片桐を見ながら…克哉はつくづくそう思った。

「克哉…君。はい、どうぞ…線香です。面倒を掛けてすみませんが…もし
良かったら君もお線香を添えてあげて下さい…」

「はい…」

 そうして、克哉は素直に線香の束を受け取って…線香を入れる処に
捧げていって手を合わせていった。
 そうしている間に、仏のような表情を浮かべていきながら…片桐は墓石に
線香の火を消さないように気をつけていきながら水をそっと掛けていった。

「…この人が今の僕の大切な人の克哉君です…。もしかしたら、同性である事に
えっ? と思うかもですけど…僕の大好きな人でもありますから…お父さん、お母さん
そして…君に出来れば理解して貰いたいです。…僕の今の幸せは彼が…
与えてくれましたから…」

 そうして照れた様子を見せながら、墓の中に眠っている両親と息子に
克哉を紹介していく。
 こんな時でも赤面して、少ししどろもどろになりながら…説明している
片桐の姿に愛おしさを覚えていく。
 だからこそ、胸の中に…彼の妻に対しての言いようのない不快感と怒りが
ジワリと湧き上がっていった。

(…あんたの妻は、こんなにお人好しなあんたを…騙したのか…)

 確証のない話。
 けれど、片桐と妻との間に…愛情があったのならば、息子が亡くなったと
しても間もなく出て行くような行動にはならないだろう。
 子供を亡くしたことでぎししゃくして…それで夫婦仲が破綻したという話は
結構聞くが、もし…事実だった場合は別の意味が含まれてくる。

―なあ、墓の中に眠っているあんたの息子は…本当にあんたと血が
繋がった息子なのか…?

 昨日、片桐が漏らした…寂しげなその裏側の事情を思い出して…
克哉は言いようのない想いを抱いていきながら…片桐と共に、彼の家族に
黙祷を捧げていったのだった―
 ※この話はこのサイトでは初めての「眼鏡×片桐」です。
 元ネタは私のオリジナルですが、その話の主人公に当たる人が
片桐さんに良く似ているな…と以前から思っていたのですよ。

 それである日、フっと気づいたら…一部、そのオリジナルで
言いたかったことのテーマを片桐さんをモチーフにして
使えるな…と気づいたので書いてみることにしました。
 この話は、ラブラブ要素よりも…片桐さんの亡くなった息子さんとか
人の死とか、人の過ちを許す心とかそういうものがテーマに
なっている話です。

 片桐さんのお人好しさと優しさを一度じっくりと書いてみたい。
 それに最近、自分の傍にいてくれる人が…何かそんな感じで
こっちの過ちとか弱さを承知の上で受け入れてもらっているから…
そのありがたみを噛み締める意味もあります。
 そういう動機で始めるお話です。

 身内が最近、なくなったからこそ…ちょっと今までとは違う
アプローチで書いてみたいので良ければお付き合いして
やって下さいませ。

 優しい人(眼鏡×片桐)

 ―ねえ、佐伯君…僕は君と出会えて本当に良かったと思っています。
君と出会えたから、僕はここにいて良いのだと心の底から思える場所が出来たから。
 だからこのまま、ずっと君の傍にいる事をどうか許して下さい。
 君にとって、僕の存在が迷惑になるまでの間で構わないから…

 佐伯克哉から春に指輪を贈られてから数ヶ月が経過して、すでに
季節は初夏の頃を迎えていた。
 本日は天候は良くて、きれいな青空が広がっていたが少し風は強かった。
 長い階段を昇ると、三方を山に囲まれて遠方に海が見える見事な
景観が広がっていた。
 暖かい日差しが降り注いでいるおかげで、見ているだけで心が爽やかになりそうだった。
 石段にテンポ良く、二人分の靴音が響き渡っていた。
 今までは墓参りは片桐が一人で来ていたのだが、克哉がふと…あんたの息子さんに
会いに行っても良いかと言ってくれたので…今日は初めて、二人でこの地を
訪れたのだった。

(…久しぶりだね。今日は君の月命日ですね…君は、天国に行っても元気ですか…?
 そして僕の父さんと母さんもお元気ですか…?)

 そして片桐は、この地に眠っている自分の息子と両親にそっと
心の中で語りかけていった。
 その表情はどこか穏やかで優しいものだった。

「稔さん、疲れていませんか…?」

「えっ、はい…大丈夫ですよ。その…克哉君…」

 少し前を進んでいた克哉がこちらを振り返って、気遣う言葉を掛けてくれた。
 その瞬間、相手の掛けている眼鏡が光を反射して眩いばかりに輝いていく。
 無意識の内に目元を手で覆って、嬉しくて更に口元を綻ばしていった。
 指輪を贈られた辺りから、二人きりでいる時だけは彼の事を下の名前で
「克哉君」と呼ぶようになった。
 そう呼ぶ度に恥ずかしそうに頬を染める片桐の様子が可愛らしくて…眼鏡は
フっと穏やかに微笑んでいく。
 この人には、本当に敵わないな…という感じの笑い方だった。

「まだ、その呼び方に慣れてくれないみたいですね…。まあ、それが貴方らしさだと
受け取っておきますよ…。さあ、行きましょうか…?」

「はい、そうですね…。頂上まで後…少しですからね…」

 そうして片桐が息を乱していきながら、ニコっといつものように
微笑んでいく。
 墓参りをするには少々、きつい場所だ。
 だが墓に入れられた人間にとっては…最高の景色が望める場所だった。
 この墓地を選んだのが片桐自身だったならこの人の事だから…墓参りを
する自分の事よりも亡くなった身内の事を考えて…というのはありえそうな話だ。

―そういう処がこの人らしいがな…

 と、ふとその事実に気づいて…克哉は苦笑していった。
 そうしてもう三分ぐらい階段を登り続けるとようやく最上部に辿り着いていった。
 天気も快晴のせいで、山並みを見ていると…気分も清々しくなるようだった。

「ふう…やっと着きましたね。意外に…大変な処に墓を作ったものですね…」

「えぇ、来る度にちょっと息切れしますけど…けど、どうせなら景色の良い
場所の方が…両親や、僕の息子が喜ぶと思いまして…」

 そして片桐が予想通りの返答をしていくと、ククッとついに眼鏡は吹き出した。
 本当に予想通りの答えだったからだ。

「えっ…? えっ…? 克哉、君…どうしましたか…?」

「いえ、亡くなった人間の方を優先するなんて…本当に稔さんらしいなって
思ったもので。ああ…悪い意味じゃないですよ。微笑ましいという意味で笑った
だけですから…」

「は、はあ…そういう意味なら…ん~良いですけど…」

 そして相変わらず、頬を真っ赤にしたままで足を進めていく。
 すでに付き合ってそれなりに長い年月が過ぎているにも関わらず初々しい
反応をするこの人を可愛いと思った。
 沢山の墓石が並ぶ境内を…隙間を縫うように奥の方に進んでいくと、
其処に「片桐家代々の墓」と書かれた墓石にようやく辿りついたのだった―


 ※ この話は香坂のオリジナルの人魚姫の
お話です。
 鬼畜眼鏡とはまったく関係ありません。

 子供の頃から人魚姫の話が好きで頭の中であれこれと
弄っている内に十年ぐらい前から出来上がっていた話です。
 興味ある方だけ目を通してやって下さい。

 『過去ログ』

 マーメイド・ティア      

 掲載が随分と間が空きました。
 こちらもボチボチ終わらせていくので良ければお付き合い
下さいませ~。

 2009年度 御堂誕生日祝い小説
(Mr.Rから渡された謎の鍵を使う空間に眼鏡と御堂の二人が
迷い込む話です。ちょっとファンタジーっぽい描写が出て来ます)

  魔法の鍵  
              7  

  御堂が立ち止まり、奇妙な反応をしていた部屋の扉を
開いていくと…其処にh見覚えがある光景が広がっていた。
 それを目の当たりにして克哉は言葉を失い、呼吸すらも
困難になりそうだった。

「ここ、は…」

 確信を深めていくと同時に、強烈な眩暈すら覚えていった。
 間違いない、此処は…この光景は決して忘れることなど出来ない。
 薄暗くて視界は効かなかったが…此処は以前の御堂の部屋だった。
 今、ビジネスのパートナーとして傍らにいる御堂はあの時とは
別の部屋に住んでいる。
 一度、克哉と決別をした際に…それ以前に住んでいたマンションは
引き払っている。
 コレは、以前に彼が住んでいた部屋の方だった。
 今では決して失うことが出来ない最愛の人間に…拭い去ることの
出来ない行為を繰り返した…。

「あ、あああ…!」

 知らない間に唇から声が零れていた。
 其れは嘆き、後悔の念が現れた叫びだった。

「俺は…俺は…あんた、に…!」

 しかも部屋の中は「あの当時」を再現したものだった。
 御堂の自由を奪っていた拘束具が壁に取り付けられて…彼を
快楽で苛んでいた無数の性具が散らばっていた。
 独特のすえた臭気が部屋の中に漂っている。
 其れは克哉にとって決して忘れることが出来ない罪を示した部屋。
 幸せで満たされた日々を送っていたからこそ…半ば
忘れていたかつての鬼畜めいた己の行動。
 其れを再び思い出して、さっきまで腕の中にあった幸福が…
一片に克哉の心の中で消え去ってしまいそうだった。

「み、どう…」

 すまない、とは素直にいえなかった。
 ごめんさないだの、すまなかったなど…そんな言葉一つで流せる程…
かつて自分が犯してしまった罪は軽くなどないのだから。
 思い出せば思い出すだけ、御堂という存在への愛情があの頃とは
比べ物にならないぐらいに強くなったからこそ…その罪が一層
彼の心に重く圧し掛かる。

―そうだ、俺は一生掛けて償えないぐらいの行為をあんたにしたんだ…

 その部屋を見た時、克哉は己の罪を鮮明に思い出していく。
 幸せだった日々に忘れかけてしまっていたかつての所業を。
 決して消え去ることが出来ない過去の証が、其処に存在していた。

「俺は…本当に、何て事をしたんだろうな…」

 自嘲的な笑みが口元に知らず浮かんでいた。
 ただ一人の人間を欲しくて、その為に陥れようとした。
 自分よりも遥かに上に…高みに存在していたその人を
己の位置まで落とそうと相手を監禁して、貶め続けた。
 その行動によって御堂は十年掛けて築き上げた大企業MGNでの
部長職を失う結果になった。
 しかもあろう事か…自分がその後釜に収まり、相手の怒りを
煽るような言動を繰り返していた。
 最初は憤りに燃えていた御堂が…年月を重ねるごとに
空ろな表情を瞳を浮かべるようになり…何の反応も返さない
人形に等しくなったのはいつぐらいの事だったろうか。

「思い、出した…俺、は…あんたに…」

 再会してから十ヶ月近くが経過している。
 そして…決別してから、再び出会うまでは一年以上の時間が
過ぎている。
 合計すれば二年近くの時間が流れていたから…すでに
遠いものになっていて、忘れかけていた。
 その忌まわしい記憶も罪も、上書きして幸せなものに
する為にアクワイヤ・アソシエーションを建設してから
一緒に頑張り続けた。

(それで俺は…自分の罪を償った気になっていた。けれど…
果たして本当にそうだったのか…? 御堂は本当に俺の事を
心から許しているのか…? こんな愚かで、卑劣極まりない行為を
した俺の事を…!)

 さっきまで腕の中に抱いて、愛情を確かめ合った筈だった。
 心から愛おしいと、この人が大切だと思い知った直後に…かつての
己の罪を思い知らされたことで克哉は自分という存在が全否定を
されたような気持ちになった。
 身体が大きく震えて、情けない事にその場に膝をつきそうになった。
 それぐらいの衝撃を、すでに失われたはずの光景を目の当たりにする事で
彼は覚えてしまったのだ。
 息をする事すら忘れて、克哉は食い入るようにその薄暗い部屋の中を
見つめていく。
 その瞬間…克哉は信じられないものを見た。

―其処に立っていたのは…もう一人の自分。眼鏡を掛けていない方の
自分が…いつの間にか部屋の中心に立っていたのだ…

「お前、は…!」

―やっと思い出したんだね…かつての自分の罪を…。そうだよ、お前は
これだけ酷い事をあの人にしたんだよ…?

 いつも気弱でおどおどした表情を浮かべていたもう一人の自分が…
信じられないぐらいに凶悪な目を浮かべていきながら…こちらの
罪を言及していく。
 其れは黒衣の男が仕掛けた、罠でもあり…問いかけでもあった。

「うるさい…黙れ!」

―へえ? オレにそんな事をいう権利がお前にあるんだ…?
此処はお前の罪の証が眠る場所。…すでに現実では御堂さんが手放して
存在しなくなったとしても…お前がした事の全てが消える訳じゃない。
…お前は、容易に許されない…それだけの事を御堂さんにした。
その事は…決して忘れちゃダメなんだよ…?

 クスクスと、尋常じゃない笑みを浮かべていきながら…もう一人の
自分が断罪するように…言葉を連ねていった。
 狂気すら感じられる澄んだ蒼い双眸が…こちらを真っ直ぐに
見据えてくる。
 たったそれだけの事に、こちらは呼吸すら困難になりそうだった。

「判っている…俺は、忘れない! 忘れる訳がないだろう…!
あいつに、してしまったことを…!」

 引き絞るように声を張り上げていく。
 それは…克哉の心の中に、奥底ではずっと眠っていた…後悔の念であり
本心でもあった。
 決して得られる筈がなかった筈の愛を得られたことで…幸福を
感じながら、素直に享受することが出来ないでいた。
 何故なら…克哉の中にはずっと、かつて犯した罪の…その罪悪感が、
後悔する気持ちが潜んでいたからだ。

『にはこの幸せを受け取る権利などない…!』

 心のどこかで、自分を責め続けていた。
 其れは癒えることのない傷のように…ずっと心の奥底で血を
流し続けて存在し続けてきた思いであり、傷でもあった。
 かつての罪を喚起されて、思い知った。
 自分は…あの人と幸せになる権利など、存在しない事を。
 本当の意味で許されることなど有り得ないのだと…その重さを思い知らされる
事で確信を深めていった。

―そうだよ。やっと判ったんだ…。だってそうだろ…? お前が同じことを
されたら、相手を許せるかな…? 無理だよね? だってオレだって許すことなど
出来ないもの…。そんな事も判らなかったなんて、お前は本当におめでたいよね…?

 そして凶悪に、ゾっとするぐらいに綺麗に微笑んでいきながら…もう一人の
自分はゆっくりと克哉の方に歩み寄っていく。
 その眼差しが、澄み切っているそのアイスブルーの双眸が、今の克哉の
恐怖心を煽っていく。
 まるで己の罪の全てをその目に映して見せ付けられてしまいそうで…
本当に怖くて仕方なかった。
 だが、それでも目を逸らすことが出来ず…硬直していると…。

「惑わされるな、克哉…。其れは全部、戯言に過ぎない…!」

 不意に肩に暖かい手の感触を覚えた。

「孝典…!」

 もう一人の自分が断罪する為にゆっくりと歩み寄っている最中、
克哉の背後には…気づけば、本物の御堂が傍らに存在し、励ますように…
言葉を放っていったのだった―
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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